●リプレイ本文
旭(
ga6764)を慕い、美具・ザム・ツバイ(
gc0857)となった美具曰く。
「敵は敵らしくあれ。それが美具の心情じゃ。じゃが、あくまで美具個人の話なので例外はあるのじゃろうな」
剣持たぬ民草のために戦うのがシスターズたる美具の生きざま。と、彼女は言う。その中に、敵側の人間を含める事については、納得が行かないようで。
「じゃが、心情は心情、任務は任務。上層部が勝手してそのために、邪魔を排除しろというならためらうことはない。立ちふさがるすべての敵は薙ぎ払うのみじゃ」
そう言って、地図上にポイントを示す美具。以下に雪と氷の世界とはいえ、元の状態にしておきたい。
「ひとふたまるまる、これより進軍を開始する。視界が悪い、各員は周辺状況に注意されたしなのじゃよ」
「了解した。クレバスと言えばだね」
答えたUNKNOWN(
ga4276)が、なにやら怪しげな話題に切り替えそうになったので、寺田が「‥‥その先は禁則事項です」と鋭い視線でツッコミを入れていた。
「それにしても、吹雪いて来たな‥‥。少し伏せた方が良さそうか?」
イレイズ・バークライド(
gc4038)が視界の悪さを指摘する。HWくらいは偵察してそうなエリアの上、隠れる場所はあまりない。もしかすると、村か町に、バグア側の人間が居るのかもしれない。不審な人影がないかどうか、確かめる。警戒とも言うが。
「そのようですね。寺田先生、真ん中に居てください。僕らで、側面をカバーしますから」
「‥‥そんなに心配しなくても、大丈夫なんですが」
ハミル・ジャウザール(
gb4773)が横に滑り込んだのを見て、コクピットの寺田は、歩を進めた。
「護衛に老若男女は関係ありませんよ。要は安全を保つ任務、なんですから」
「安全に敵幹部と会う‥‥と言うのも何だか違う気はしますがね」
歩調をあわせてきたハミルに、そう答える寺田。その視界を覆う吹雪は、確かに危険をはらんだものだ。
「ジャミングが酷くなってきたのう・・・・」
「出来れば、見つからずに目的地近くまですすみたいのですが、無理そうですかねぇ」
美具も承知の上で、待ち伏せを警戒している。旭のセンサーには、ジャミングで真っ白になっている部分もある。トラップを警戒してか、その歩みは遅々として進まなかった。
「トラップとかありそうですし。ちょっと見てみますか」
「頭痛してきたのじゃー」
旭が目視で確かめようとした刹那である。僅かに選考していた美具が、警戒の声を上げていた。
「雪崩じゃー。気をつけるのじゃー!」
「機体を固定しろ。流されると面倒だ」
どどどど‥‥地鳴りのような音に、不明が盾を斜めに固定していた。出力ブースターで調整し、何とか雪を流す。
「‥‥生徒を、先に」
「大丈夫ですってば!」
ハミルを突き飛ばそうとする寺田。だが、彼はその手を掴んで離さない。そこへ、不明がモールス信号のような撃ち方でもって、後続へと合図していた。と、その合図を受けた番場論子(
gb4628)は、周囲の状況を確かめると、こう呟く。
「この状況、ひょっとすると人為的なものかも‥‥」
確かに、このあたりは雪原ばかりで、集落はなかったと記録されている。もし人為的な罠であれば、バグアの存在を疑うのが正常だろう。
「この猛吹雪はどうやったって妨害にしか思えませんよ」
「ならば、少し試して見ればよかろう。なに、人が居ないのなら、遠慮をすることはない」
旭がそう言った。と、美具はスナイパーレーザーとフォトニッククラスターを、周囲に撒き散らす。
「孤立化はしない用にお願いしますね」
「わかっておる。さがっておれ!」
論子が忠告するなか、美具は範囲攻撃とばかりに、吹雪へ潜むバグアへと攻撃を開始する。衝撃の多い攻撃に、不明がこうアドバイス。
「雪で見えない割れ目もあるだろうから、荷重には注意した方が良いと思うがね」
不明の機体が、谷底に落ちたくらいでどうにかなるとも思えないが、論子としては消耗を抑えたいようだ。
「先生、場所はまだ遠いんですか?」
「ぎりぎりまでかかるでしょうね。さほど遠くまで出張してくるとは思いませんし」
自分が会いに行ったと知っているのか、確かめてはいないと寺田は言う。一方的に送りつけただけの通信。果たして、拾って‥‥出てこれるのかどうか。
「了解です。とすると、面会を得るまでは通常運用のみですね‥‥」
「だが、どうやら届いているようじゃのう。貴殿のらぶれたーは」
見上げた空の上に、ちらりとHWの姿が見えた。それは吹雪の中、次第に大きくなってくる。周囲は平らな平原で、もし生身ならば、いくらでも身を隠せるだろうが、さすがにKVを潜ませるだけの余裕はないようだった。
「優先はHWとタロスです。決して『先生』は殺傷しないように」
「わかっておる。まずは、会談を邪魔する敵護衛と言った所かのう」
それを見計らったように、タロスに率いられたHWが現れる。おそらく、それを越えなければ、オルデンは出てこないだろう。
「居たようですね。皆さん、よろしくお願いします」
論子がそう言って、HWを倒すよう促すのだった。
吹雪の中を、白い煙を上げるようにして、KV達がHWへと挑みかかる。遠目から見れば、雪煙にかききえ、殆どその姿を目視する事は出来ない。音は降り積もったそれに吸収され、人数の割にはとても静かな戦いになっていた。
「俺の攻撃は避けられませんよ‥‥」
タロスに食い下がろうとする終夜・無月(
ga3084)。カンパネラの入学手続きをしてきたと言っていた彼の戦いぶりを、生徒と言うのなら‥‥と、観察していた寺田が、短くツッコミをいれる。
「それだと、貴方1人だけ出てしまいますが、良いんですか?」
「何とかフォローしてください。防御のなくなった瞬間を狙うので」
仲間の攻撃をも利用しようと言うらしい。だが、寺田は「そうさせてくれれば良いんですがね」と、ただやるだけでは上手く行かない事を指摘していた。いかに、敵の行動を把握しようとしても、仕切れない部分はいつでもある。人は、完全ではないのだから。
「来ました。下がってください!」
論子が、戦闘状態になったのを見て、ツングースカで弾幕を作る。それを利用して、無月が雪村を使っていた。
「やれやれ。ではこうするとしようかね」
「相変わらず無茶をする御仁だ。他の生徒が真似をするでしょうが」
その余波で攻撃されたHWの破片を、おててで掴んで分投げる不明。頭を抱える寺田に「ダメか?」と問えば、きっぱりはっきりと「ダメです」と首を横に振られる。
「学生にも同僚にも厳しいものなんですね」
「あれがいつもの先生ですよ。っと、無駄口叩いている暇はなさそうですか」
無月が少し意外そうに言うと、ハミルはライフルで狙撃を開始。バルカンを併用しながら、寺田機の側を動かない。
「ゴールが近いと言うことでしょうね。先生の機体を囲むようにして、対応してください」
「わかりました。援護します」
論子が、盾になる用にその前へと出てきた。タロスがHWが彼女達を包囲しようとするが、ハミルはすかさず荷電粒子砲を放つ。ばしゅっと光が吹雪の中を切り裂いていた。それを見て、反対側に回り込むよう指示する論子。難敵と見たそれを迎撃する為、複数で回り込むようにする。相手は数体と言って良い数だ。相手は平均的な装備を持っているようだが、手数から考えると、隠し玉を盛っている可能性が高い。その為、ハミルの反対側に立つようにして、動かない論子。それを、旭と美具がフォローする。白い機体からブーストが吹き上がり、回避力を挙げた期待で、ピアシングキャノンが勢いよく食らわされていた。
「空からの対応が出来ていたわけではないしな‥‥。出来るだけ何とかするぞ」
直営についていた秋月 愁矢(
gc1971)もまた、盾で防御体制を取りつつも、反撃に出ていた。スモークディスチャージャーを使いながら、弾を途切れさせない彼。陸上に特化したスカイセイバーは、盾と言う直営部隊をいかんなく発揮してくれている。
だが、こうしてHWが大方片付き、残るは数機だけになった頃合だった。不意に、寺田が待ての指示を送る。
「‥‥そこまでです」
「先生?」
怪訝そうに振り返る無月。
「‥‥ここから先は、私1人で充分かと」
「合図がなければ手出しをしません。ダメですか?」
どうやら、オルデンの姿が見えたようだ。しかし、それでも食い下がる論子。と、イレイズもそんな彼女を援護するように、申し出る。
「俺は生徒じゃないが、奴には聞きたい事もある。同行したい」
「‥‥‥‥」
考えているようだった。報告書には、深く関わっていた記載がある。と、彼はこう続ける。
「だいたい、生徒残して死のうとする教師がどこにいる? 必ず生きて帰れ。違うか?」
ふむ、と考えていた仕草を解いて。
「‥‥わかりました。ただし、KVは混乱を招くかもしれないので、必要最低限を」
「わかっている。ならば、同乗させてもらおう」
秋月がKVから降りてきたのは、言うまでもない。
色々あって、KVに乗ったままついてきた組と、降りてきた寺田に同行する組、その2つに分かれた。だが、それでも一塊になるのは代わらず、しばらく雪原を進むと、廃墟のような建物が見えてくる。少し、湯気が出ているのは、拠点にでもなっていたのだろうか。
「あれが、そうでしょうか‥‥」
「おそらく、ですが」
足を進める傭兵達。警戒は怠らないまま、ゆっくりと。
「よっ、元気だったか、ね?」
「先生‥‥」
不明と寺田が同時に呟いたそこには、廃墟には似つかわしくない挑発の美形。そこへ、風防をあけた不明が、酒を投げつける。ぱしっと受け取ったが、決して開けようとはしないオルデンに、不明はぬけぬけと言い放った。
「たまには遊びにくればいいのに」
「そう言うわけにも、いかないのでね」
これでも、忙しい身分なんですよ? と、彼は言う。
「何か、質問は?」
「はい」
不明が他の面々に言うと、旭が手を上げた。「どうぞ、旭君」と、指名すると、彼は寺田に気になっていた事を問う。
「先生って……寺田先生の師匠か何かですか?」
「まぁ、似たようなものでしょうね」
何の師匠だったのだろう。目的を何とか探れないかと、彼は続ける。
「オルデンブルグがまだあちらに行っていないときにも教師をやっていて、そのときに仲がよかったとか?」
「教育実習と、新任だった頃の主任だったんですがね」
ああ、と納得する彼。自身も、教員免許を取った際に、実習をやった覚えがある。と、オルデンはくすっと笑って「あの頃は、可愛かったですよ」と、懐かしむように告げた。
「何を‥‥そう言う話をしに来たのではないのですよ」
寺田の表情は硬い。
「ハーモニウム‥彼等彼女等は俺達と敵対する事を本当に望んでいるのでしょうか?‥」
無月が、その硬さを強引に戻した。引き継いだのは、イレイズだ。
「そのハーモニウム、シアとヘラの結末、どうなったか聞いておくか?」
「おや、まだ生きてたんですか。出来そこないが」
吐き捨てるように言ったセリフは聞かなかった事にして、彼は続ける。
「結果として、二人はお前が仕掛けたであろうウィルスで瀕死の状態に、が、治療の甲斐あって回復、以上」
「面白い方向に進んだようですね。あまり、役には立っていないようですが」
ほっとした様子には見えなかった。その態度に、旭は今までの事を思い出して、こぶしを振るわせる。色々と許せない行為をしてきたように思うが、それでも何か目的があるように見えた。それ以前に、先生と呼ばれて、生徒をどうみているのだろうと。
「さて、これがお前が望んだ結末か?」
「そうですねぇ。放っておいても、あの二人は死にます。だから、結果はどうでも良いんですよ。可愛いとは思うが所詮駒ですからねぇ」
イレイズにそう答えるオルデン。どうやら、エミタによる治療効果があるかもしれない‥‥と言うのは、知らないようだ。
「貴様‥‥。チャンスを、与えたと言うのか?」
「私はもともと優しいですよ。私に会いたい動きが出ているとの報告を受けましたが、どうやら誤解のようですね‥‥」
イレイズがぎりっと唇をかみ締める。ともすれば、攻撃しそうになる彼を制しつつ、寺田が身代わりの用に前へと進み出る。
「先生、あなたは‥‥変わってしまったのですか‥‥?」
以前は、そんな生徒を切り捨てるようなタイプでは
「ふふふ、噂は聞いていますよ。ですが、君はあの頃の初々しさをなくしてしまったようだ。それでは意味がない。外見は、あまり変わってないようですが」
オルデンが手を伸ばす。その腕には、外の空気を宿して凍りつく刃が。
「触るな‥‥!」
傍らに立っていた秋月が、その刃をはねつける。返す刀でもう一度切ろうとしたそれは、構えたイレイズが鳴神で受け止めていた。
「護衛つき、とはね。可愛い後輩を味見もさせてはもらえないわけだ。浚えば、あの2人の変わりになるかもしれなかったのに」
不穏当な事を言い出すオルゲンに、イレイズが鳴神を下段へと降ろす。
「くっ。無理やりにでもというわけか。させない」
狙うのは、以前失った右足だ。だが、その動きをオルデンは人の子ではありえない速度で避けてしまう。自分の弱点となるような場所は、把握しているようだ。
「寺田、今のうちに逃げろ!」
秋月が自身の体に不壊の盾を発動し、寺田を後ろへ誘導しようとする。そのまま仁王咆哮と、渾身防御を使い、囮と仕様とする彼の姿に、オルデンは分かったような事を言う。
「出来ないですよねぇ? そんなことは」
「私は‥‥貴方がそんな事をするとは‥‥」
自分を守ろうとする者達。オルデンの真意を確かめたかった思いが交錯する。その思いを受けてか、それとも自身の思いと一致したせいか、イレイズが叫ぶように問うた。
「‥‥目的は、なんだ。あいつらを、悲劇の肴にでもしたいと言うのか!」
「‥‥逆境の中で発揮される人間の力が見たかっただけですよ。残念ながら、結果は遺憾ですが。これで、満足ですか?」
彼は確信する。こいつは、寺田や自分、それに旭が思っていたような存在ではない。無論、シア達ハーモニウムの尊敬に足る人物でもない、と。
「ああ。少なくとも、そんなに優しい奴じゃないことはわかったんでな! これでも、食らえッ! 」
バルカンをばりばりと乱射するイレイズ。足元の氷が床ごと舞い、視界をふさぐ。その間に、秋月が閃光手榴弾を投げつけた。真っ白に染まった世界の中で、秋月は迷わず寺だの体を引き寄せる。そのまま、外に待機させておいたKVに乗り込む彼。
「寺田、あんたは何を思う?」
「‥‥‥‥人は、変わってしまう。そう実感しただけですよ‥‥」
こちらを見ようともしない彼の身が震えているのは、寒さのせいばかりではないのだろう。