●リプレイ本文
赤崎羽矢子(
gb2140)曰く。
「主が居なくなっても、蟻塚は残る‥‥か」
ここに居た主‥‥すなわちレンは居ない。それでも、バグアは残る。
「日本‥‥東京‥‥八王子か。私には、あまり縁のない場所だけど‥‥傭兵の中には、奪還を期する人、多いみたい‥‥ね」
ならば、少しでもその除去する手伝いになれば‥‥と、シンディ・ユーキリス(
gc0229)は移動の中で考える。カラス達は、公園の一角で合流する手はずだった。
だが、なんとか合流したものの、その先には多数の蟻達が姿を見せている‥‥。
「おいでなすったわね。ハミル、フローラ。位置は大丈夫?」
蟻達は、こちらの姿を見かけると、キメラとしての食欲に従おうとしてくる。その様子を確かめた赤崎は、ハミル・ジャウザール(
gb4773)とフローラ・シュトリエ(
gb6204)から、30m程の距離を保ちつつ、その蟻達へと向かっていた。
「こっちも視認してます。なんと言うか、本当に映画に出てきたCGっぽいですね」
姿を見かけるなり、わらわらと一塊になる蟻。昔の映画で、似たようなシーンを見たらしいハミルが、スナイパーライフルを向ける。フローラもまた、EBシステムを起動させ、ばしばしと撃ち込んでいた。やる事を頭の中で箇条書きにして見たが、蟻キメラはその予想を上回った動きをしてくる。HBフォルムを使い、複数のキメラから回避しようとするが、数が多く、中には昇ってくる物もいる。ばしばしと射撃の腕前をご披露し、その一角を崩す事は出来たが、蟻達はそれを知ると、別の方向へ向かってしまう。
「むしろ、1つの生き物として認識した方が良いかなぁ」
そう判断したフローラは、攻撃よりもその群れの足止めをするようにした。撃ち込んで、群れを一塊づつ公園の方へ向かうよう仕向ければ、その先にいるのは赤崎だ。
「巣元はどこだと思う?」
動きは、軍隊蟻に似ている‥‥と、彼女は思った。カラスに尋ねると、巣ごと移動しているように見える。かつて、どこかで流れていたドキュメンタリーと重なるそれに、赤崎は図鑑知識を言い出した。
「蟻や蜂って、フェロモンで仲間に敵が来た事を伝達するらしいけど、それって除去されてないんじゃないかしら」
もしそうなら、あえて削りはしていないんじゃないかと言うのが、赤崎の予想だ。
「ちょっと実験してみましょうか。フォローは頼むわ。いくわよっ」
赤崎は後ろのハミルとフローラに援護を頼み、蟻の一体に向けてプラズマリボルバーを乱射する。と、きしゃああっと威嚇の声を上げて、蟻達が群がってきた。全ては攻撃色と言わんばかりの赤になっており、盛大に蟻酸を振り掛けてこようとする。
「やはり、フェロモンを散布させてるんですかね」
ハミルがそう言った。確かに、結構な数なので、ここまで増殖していると、いちいち命令伝達系統を整備しているような面倒な事はしないんじゃないだろうか‥‥と。
「なるほどね。じゃあ、こいつらを誘導しちゃえばいいのか」
フローラが撃つ矛先を変えた。結構な量がいるが、ピンポイントで死体を作れば、ずいぶんと誘導がやりやすくなる。
「確か、KVのおいてある所に、囮の別班がいるはずよ」
「了解。そちらまで引き寄せれば良いですね」
ハミルもそう言って、まずスナイパーライフルで先頭の蟻をつつく。距離を詰め、バルカンで弾をばら撒けば、蟻の土手が出来上がる。
「お願い。さぁて、新型の性能を試させて貰いましょうか」
そこへ、赤崎が幻霧発生装置のスイッチを入れた。本来なら、視界の混乱を招くそれは、准将の手によって効果範囲も強度も上がっている筈である。消費錬力は、今後の改良を待たねばならないだろうが、それでも彼女は夢守 ルキア(
gb9436)とフローラに調整してもらった装置のスイッチを入れた。
「ルキアちゃん、そっちに回りこんで?」
「了解です」
ルキアも同じく囮だが、護衛の秋月 愁矢(
gc1971)とロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)が公園にいる都合上、反対側にいる。合図を送れば、しゅうっと白く濁った煙が、森林の公園を朝霧の色に染め上げ、程なくして、周囲の視界を覆うそれに、蟻達もまた右往左往し始めていた。
「蟻に幻霧って効くかどうかかわからないけど、新型は効果あるみたいねぇ。視覚に頼らない相手にも効く所が進化、って所かしら」
赤崎の知識では、蟻は匂いや振動で周りを探知している筈だった。それがバグアなら、さしずめ重力波と言った所だが、カラスに確かめた所、今回はそこまで盛大なスペックではないとの事、本来の蟻と同じように、匂いで感知しているようだ。
「まぁ、KVにアロマ仕込めるし、その応用じゃない?」
「他のキメラにも聞くと良いけど」
フローラのコクピットが、良い香りに満たされているのを聞いていた赤崎、それと同じ現象が起きているんだろうと判断し、そのまま幻霧を発生させ続ける。
「効果範囲は限定されているんでしょうか。射撃は若干落ちるみたいですけど」
ばしばしと幻霧の向こう側から、ハミルが撃っているが、その霧の壁は、実際の壁と同じように効果を薄れされるものらしい。もっとも、ひょっとすると非物理は鈍くなるのかもしれないが。
「こっちが最短ルートだから、他の所に寄らせないようにしましょ」
「そうですね。横から修正をかけておきます」
その間に、フローラが修正をかけている。幻霧の効果を、お座りしたネコ型ダイカットの可愛らしいメモ帳に書き込んだハミルは、その中で射撃を再開していた。
「OK。この先にはコーラがいますから、そちらまで誘導してください」
怪訝そうにカメラを回してみれば。公園の入り口表記があり、そこには守剣 京助(
gc0920)が自分の称号と同じ色のKVレッドマントをばたばたとなびかせてお待ちかねだ。
「なるほど。彼なら大丈夫そうですし、ね」
目立つよう白い文字で『I feel Coke』と、称号の書かれたそれに、蟻達は気を惹かれたらしく、次々と群がって行く。いいんかなー? とは思ったが、そこへトゥインクルブレードを煌かせ、バックスで殴り、怯んだ所へファランクスの弾をお見舞いしていた。
「はーーーはっはっはっは。骸を晒せ、雑魚どもがぁぁぁ!」
どこか楽しそうにパニッシュメント・フォースを作動させる彼。攻撃は最大の防御とばかりに、そのまま突っ込んで行く。移動と防御は最小限だ。
「じゃあ、アレごと引っ張ればいいわね。さーて、突いてきて貰うわよ」
既に事前に打ち合わせをしている為、守剣も自身が公園待機班に属している事は熟知している。ので、フローラの誘導に従い、内側の方へ徐々に移動し始めていた。
「これからそっちいきます。ご準備ください!」
ハミルが、中の公園待機班に合図を送る。その指示に従い、公園に展開した待機班の顎の中へ、蟻達は一塊になって突入してくるのだった。
その頃、公園で待機する班は。
「准将、聞きたいんだけど、周辺の被害は、どれくらいまでなら今日は可能なの?」
ルキアと一緒に調整しながら、そう尋ねてくるシンディ。と、スパナでぎゃりがりと作業していた准将が、周囲を見回して、範囲を教えてくれる。
「そうだな。森は再生に時間がかかるから面倒だ。建物とか遊具は、まだ何とかなるだろう」
つまり、公園の中のみで戦わなきゃいけないらしい。広さを目視していたシンディだが、必殺技には使用制限がかかりそうだ。
「それに、森の木々に遮られて、威力ががた減りするし。広い場所へ出た方が良いかな?」
「そうですね。湖の上あたりに向けてがちょうど良いと思います」
同型機を持つ大神 直人(
gb1865)も、フォトニックを撃ちたい様子。が、下手なところでは森の木々を盾にされてお終いのような気がしたので、2人は相談の結果、それぞれで撃つ場所を変える事にした。
「了解しました。それなら、思った通りの動きが出来そうだ」
頷く大神。
「っと、来た様だ。計測器が反応している」
公園の端々に敷設した地殻変化計測器が、警告音を上げる。合図のそれに、
設置したカズキ・S・玖珂(
gc5095)が機槍を片手に遠距離モードを発動すれば、入り口に居た守剣の元に、囮に誘導された蟻キメラが群がるところだ。
「できるだけひきつけて。ぶっ放すのは最後だから」
「了解した。なぁに、こちらは仕事をこなすだけだ」
ルキアに言われ、淡々とそう答えるカズキ。そうしている間に、蟻達は次第に距離を詰めてくる。盾の内側に位置し、なるべく広い場所へと陣取って、その攻撃を待ち受ける彼。そこに、蟻達が襲い掛かってきた。被害を考えれば、銃機は使えない。それでも、機槍は的確に3匹の蟻達を串刺しにしてくれる。
「皆さん、油断しないように」
「わかってる。はっはー、とうとうKVでも大剣振り回せるぜ!」
ロゼアが冷静に注意を促すが、守剣はそう言って、KVの剣を蟻達にたたき付けている。ぶしゅっといろんな色がないまぜになるまま、赤いマントが豪快にたなびく姿はとても派手だ。
「だが、良い囮ではあるね。3人は合流してきた?」
「もうちょいかかる。まだまだご帰宅の時間じゃねぇぜ! もうちょい付き合ってもらおうか!」
大神の問いに、一番前の守剣は首を横に振る。交互にはさみ撃ちをするように移動してくる蟻達。それと入れ替わる用にして、囮の3人組が姿を見せる。
「視界内にもうすぐ入るね。このままだと、射程は短くなるけど‥‥構わないかい?」
「ええ、いちいちかまってられないわ‥‥。こちらも、なんとか時間をずらして見る‥‥」
待ち受ける大神とシンディのKVに火が入る。と、その目の前に居た蟻達が、動きを変えた。待ち受ける傭兵達に気付いたのか、元来た道を回れ右し始めた。その行き先は公園を外れた山のほうだ。
「八王子に戻る気だな‥‥」
レーダーを注視していたルキアがそう言った。イクシオンにセッティングした幻霧は、既に調整を終えている。練力を余分に使うが、正常に稼動していた。
「そうはさせないわ。さてこっちにきてもらいましょうか‥‥」
アルゴスシステムを起動させ、周囲の仲間と敵を識別完了するルキア。目的は、方角を変えた蟻達を再び元に戻す事。
「新しい兵器はロマンだけどね。さぁ、食いついてもらおうかな」
動きは遅めにしていた。発生装置のスイッチに手をかけ、蟻達の先頭にその銃口を向ける。存在を認識したのだろう。蟻達の速度が上がる。しかし、群がろうとするそこへ、秋月とロゼアが駆けつけてきていた。敵の位置が八王子に戻りかけている事を把握したロゼアが、マイクロブースターを起動させる。
「油断は出来ないわね」
蟻が地中から現れないとも限らない。ロゼアが蟻にフィロソフィーの叡智なる閃光をお見舞いし、それでも昇ろうとする蟻達をアサシネイトクローで切り裂いている。ところが、その中には空中へと上がるモノも現れ始めた。
「ルキアは結構脆いからな。悪いがここは通さないぜ!」
その目的がルキアに向いていた。きちきちと牙を鳴らす蟻達を、秋月が強引に薙ぎ払う。銃弾の弾幕だか、蟻達の破片だかわからないものが降り注ぐ中、その破片からルキアをかばう秋月。そこへ、幻霧装置が作動する。
「視界を遮るだけなら、いらないんだけどね。重力波‥‥いや、ジャミングかな」
煙幕弾とかあるけど、煙幕の向こう側から撃てば良い。自分のイクシオンに比べ、どれだけ撹乱出来るか試して見たいルキアさん、徐々に出力を上げて行けば、霧もだんだんと濃くなっていく。
「どうです? 調子は」
「わりと食いつくわね。挟み撃ちして見た方が良いかも」
蟻達の姿は完全に見えなくなっていた。お互いの姿も見えないが、そこはアルゴシステムに頼るしかない。自分の護衛についている2人にも、その位置を教えようとした直後だった。
「っと、ちょい待ち。これ‥‥キメラの反応じゃないぞ?」
明らかに、蟻が鳴らす音ではないそれは、新手なのだろう。あるいは、蟻達の動きを疑って出てきたのかもしれない。発信源は、湖の方だった。
「あれは‥‥」
湖沿いの道路に、蟻とは違う影が浮かび上がる。ハミルがデータを称号してきたところ、アルケニーと書いてあった。
「あれが新型ワームって奴か。どの程度やるのか、試してみようかね!」
守剣がそれを見て、パニッシュメント・フォースを起動させた。ハミルもまた、霧の中へと突入していく。性能がわからなければ、対処にも手間取ると言うもの。2人とも、ずずいっと体が重くなったような気がしたが、構わず攻撃を加えていた。
ガツンと思い手ごたえ。キメラの幾つかがバラされ、敵からマフラーを吹かす様な音が聞こえた直後、2人の機体を紫色の交戦が焼く。装甲と回避のおかげで、なんとか無事だったものの、これではうっかり近づけない。
「やっぱり、長く残すとやっかいそうね」
フローラも射撃に転じているが、結構素早く小回りが聞くため、当たっているとはいいがたいようだ。
「データはそっちに転送するわね」
赤崎から交戦データを転送されるルキア。だが、アルケニーは本格的な攻勢に出ていない。さすがに、名前も顔もわからない相手に突入するほど馬鹿じゃないと言ったところか。しかし、傭兵達の方は別である。
「錬力が残り少ないが‥‥狙うしかないか‥‥」
大神が、錬剣の使用を解禁している。赤崎の見ている限り、相手は余りこちらと戦う気はないようで、蟻達の収集にその行動を割いていた。プラズマリボルバーから避けるように左右に進路を変えて行く。それを見て、大神は必殺技の使用を決める。
「被害がどうのこうの言ってる場合じゃないしな‥‥」
准将が渋い顔をしていたが、カズキは気にせずLRM−1に持ち替え、逆の手にはルプス・アークトゥスを握り締めていた。
「わかったわ。なら、ここはこれを使うしかないでしょ‥‥。今は、壊れてどうと言う場合じゃなさそうだし」
シンディが周囲を見回しながらそう提案してくる。手元には、ガトリングの弾幕が構築されてはいるものの、それでは追いつかないかもしれない。幸い、ここは公園の中で、霧に包まれた場所。
「了解しました。どうすればいいです?」
「私が撃ってから、もう一度」
大神に、手順を告げるシンディ。霧の中、重ねた機体の銃口が、蟻達へと向けられる。仲間を巻き込まぬよう、立ち位置に注意しながら、シンディと大神はそのスイッチを入れた。
「マイクロブースター‥‥起動!!」
「パラジウムバッテリー起動‥‥フォトニック・クラスター、レディ‥‥」
錬力と言う名のエネルギーが、2人の機体から、重なるように充填されていく。壁となる蟻達は、視界を遮られ、砲塔が自分達に向けられている事に気付かない。
「「GO!!」」
ハモった声と共に、次々と発射された青白い軌跡は、公園に大きく溝を穿ちながらも、蟻の巣を焼き切ってくれるのだった。