タイトル:【東京】聖 地 奪 還マスター:姫野里美

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 30 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/27 22:25

●オープニング本文


●始まりは会議室で
 東京湾。
 かつては江戸と呼ばれ、物流の拠点であり、日本の玄関口であった場所。
 様々なタンカーやコンテナ船が行き交い、数千人単位の人々が息づいていた巨大な湾である。
 だが、バグアの襲来により、その力は失われていた。それは、UPCでも認識されており、横浜解放戦の報を受け、連日の会議が行われていた‥‥。
「酷いな」
「ああ。これは酷い」
 横浜作戦の折、若干ながら手に入れた画像データに、会議室がざわついている。モニターに移るそれは、完膚なきまでに破壊されつくした港や橋が並び、要所に繋がるであろう場所には、どうみても人類の手による造形ではないモノが立ち並んでいる。人々の息遣いは全く見えず、逃げ出した動物達の姿さえ見つける事は出来ない。変わりに、キメラが徘徊し、強化人間と思しきバグアの姿だけは、各所に見えていた。
「キャスターを呼べ。奴ならこの状況に詳しい筈だ」
 照明の落とされた会議室で、ジジィの名が挙がったのは、誰のせいだろうか。

●東京湾ヲ封鎖セヨ
「ったく。なんで技術屋の俺が呼び出されるんだよ」
「今度行われる作戦の場所は、准将が一番お詳しいんです。我慢してくださいね」
「まぁ、嬢ちゃんがそういうなら、仕方がないか‥‥」
 聖那に連れられた准将がぶちぶちとこぼす中、二人は指定された会議室の扉をくぐる。
「遅いぞキャスター」
「うるせぇ。こちとら開発で徹夜明けだ」
 すでに40年のキャリアを持つ整備の老師に、遠慮とおかまいは不要なのだろう。UPCのマークが入ったトレードマークの赤いツナギのまま、どかりと会議室の高級イスにふんぞり返る。
「では、はじめます。今回の作戦ですが、横須賀基地を出発し、金谷漁港へ回り込んで、房総半島沿いを侵攻する作戦となります。千葉よりを進み、海上橋の千葉側を越え、沿岸各拠点施設を解放、国際展示場を目指す」
 ポインタが赤で表示された。
「展示場? なんでそんなところに‥‥」
「タロスが集まっているそうだ。これが画像」
 見れば、かつての展示場だったところに、佐渡の似顔絵を塗装したタロスが集っている。それを見た准将が、ひそかに頭を抱えていた。
「確かにここはそもそも砲台の設置場所として作られた土地だ。知ったバグアがプロトン砲台設置していても、おかしくはあるまい。八王子で迎撃してきたUG部隊とやらが、湾岸沿いを守っているかもしれんしな」
 その情報の根拠は、そのかつての湾岸道路に、やたらと早いゴーレム、そして派手な女性のペインティングを施したタロスが数匹目撃されているからとの事だ。なにしろ、東京中心部にも近い湾である。警備が強化される可能性は高い。
「ふむ。では准将、KVの方は任せます。陸上非KV戦は龍堂院に。人数はかなり少ない状態になってしまうが、最終目的地さえ押さえておけば、他の施設は後でも何とかなる。上手くやってくれ」
「「了解」」
 こうして、封鎖された湾岸を解放するミッションが、決行されるのだった。

●奴等ヲ開放セヨ
 数時間後。UPC本部。集められた傭兵達に、ミクが作戦の概要を説明していた。
「みーんなー、おー待たせっ!」
 傭兵達が日々訪れるそこで、ミクが画面からはみ出さんばかりに、にっこり笑顔でネギのようなマイクで、依頼告知を行っている。
「今回目指す作戦目標はこれだぉっ!」
 ばんっとでてきたのは、湾岸部に立つ巨大な逆さピラミッドだ。「は!?」と目が点になる傭兵達。もちろん、返答は録画なのであるわけがない。だが、カメラはゆっくりと引いていき、イメージ図と前置きされた上で、破壊されつくした広場に、妙にそれだけがきれいに整っている赤い柄の、ノコギリのようなオブジェがつきささっており、その横でドヤ顔している京太郎か蓮斗の似顔絵が書かれたタロスが数機。しかもあろうことか、うろうろしている強化人間の皆様まで、佐渡みたいな格好をしている。おまけに、蓮斗の衣装を来て、妙に仲良さそうに寄り添っている姿まである。
「金谷漁港からスタートして、湾岸沿いの我らが聖地を取り戻すぉ! 内部の施設がどう動いているかは未知数だぉ。けど、レジスタンスがいることは確実だし、勝手知ったる聖地の庭先だから、なんとかなると思うぉ」
 何しろ傭兵達の中には、正規軍より軍の台所に精通している者もいる。
「というわけで、バグアに奪われたミク達の聖地をとりもどすぉっ!」
 歓声が上がったかは、定かではない。

「集合朝5時。激しい戦になる事が予想される為、事前の体調は万全にしておくこと。公共交通機関は寸断されているが、深夜から明け方の決行なので、騒音には注意されたし」

 お台場奪還戦は、こうして幕を上げるのだった。

●参加者一覧

/ 里見・さやか(ga0153) / ドクター・ウェスト(ga0241) / 須佐 武流(ga1461) / 伊藤 毅(ga2610) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / UNKNOWN(ga4276) / アルヴァイム(ga5051) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / 砕牙 九郎(ga7366) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 上杉・浩一(ga8766) / 狭間 久志(ga9021) / 宮明 梨彩(gb0377) / タルト・ローズレッド(gb1537) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / アンジェラ・D.S.(gb3967) / 相澤 真夜(gb8203) / 柳凪 蓮夢(gb8883) / 綾河 零音(gb9784) / アクセル・ランパード(gc0052) / 佐賀繁紀(gc0126) / ジャック・ジェリア(gc0672) / アンナ・キンダーハイム(gc1170) / カグヤ(gc4333) / リック・オルコット(gc4548) / タイサ=ルイエー(gc5074) / 片山 琢磨(gc5322) / キロ(gc5348) / アルテミス(gc6467) / BEATRICE(gc6758

●リプレイ本文

 ジェームス・ハーグマン(gb2077)曰く。
「隊長、お願いですから、大規模空戦の数合わせにばかり呼ばないでくださいよ」
 どこの世界も急な仕事と休日出勤はイライラする原因のようで、上司のお呼び出しに、頭を抱えてしまっている。
「仕方ないじゃないですか。アルヴァイムさんが『戦力が足りない』って言ったら、本当なんでしょ? こう言う所で、借りは返しておかないとね」
 狭間 久志(ga9021)も同じく呼び出され組のようだ。似たような状況に、ジェームズが『晴海とか有明なんて知りませんよう』と泣き声を上げている。
「2人とも悪いな。だが、あの状況はちょっとじゃないくらいにまずいだろう?」
 そんな隊員に、いつもの黒子姿から、パイロットスーツに着替えたらしいアルヴァイム(ga5051)が、ねぎらいのセリフを口にする。確かに、ミーティングで示されたのは、2人が参戦するに足る状況だったから。
「こーみれざこみれざ♪  やおい本コーナーはどこかな!? BL本をたくさん買いたいな♪」
 もっとも、その割にはアルテミス(gc6467)のようなお祭気分の傭兵もいたりするのだが。

 ぴんぽーんぱんぽーん。

「時間だ」
 黒子が時計を手にして、そのチャイムの意味を知らせる。
「ただいまより、第1回聖地奪還作戦キャノンボールを開催いたします」
「「了解!」」
 ハンナ・ルーベンス(ga5138)の名付けた作戦名は、そのまま奪還作戦の名前となり、宮明 梨彩(gb0377)の台本で、ミクが開幕を宣言する。
 それぞれのKVが飛び立つ轟音が、拍手のようなうねりとなって、空母から東京の空へと広がって行く。だが、並んでいるのは、何もKVばかりではなかった。完全武装のHWが、徹夜並びよろしくぞろぞろと出てきたのだ。
「こんな場所で、大規模な作戦とか言われたら、出て行かざるを得ないだろう?」
 さもありなんと言う黒子。ハンナの流した欺瞞情報は、反対側から侵攻するルートの作戦と合わせて、かなりの信憑性をバグア側に植えつけていたようだ。
「よぉーし、いくよ。仲良し三銃士!」
 それを見て、何機かのKVが、先を争うように向かって行く。先鋒や切り込み隊長を狙いたい面々は少なくなく、アルテミスもまたその1人だ。
「一本の矢は弱くても以下略で狙い撃つのさっ」
 ばしゅうっとレーザーガンが宙を割く。その様子に、黒子が状況の確認をハンナに求めた。
「良い調子だ。さて、どれくらいの出現率だ?」
「こちらRTB。予想通り、戦力は3割程度です」
 彼女の提示した作戦によれば、木更津から習志野の上空で、大規模な攻撃計画があると欺瞞情報を流し、敵戦力を足止めして。その間に上陸してもらうと言うものだ。それでも、『ソード』『ジュノー』『ゴールド』『オハマ』『ユタ』の6つに分割されたエリアには、相当数のHWが出撃してきており、孤立を避けるのは難しそうだ。いや、部隊ごと取り囲まれると言った方が正しいかもしれない。
「各部隊お願いします。作戦領域は以下の通り。どうか主よ。我等に加護と祝福を‥‥」
 提案者であるハンナの祈りに答え、高度を上げる久志。同じように伊藤 毅(ga2610)も高度を上げ、高高度エリアからのブーストアタックを開始する。
「ドラゴン1、了解。援護に向かう」
「目標到着時間は3時間後だ。それまでに引っ張り出せ」
 黒子の予想では、朝8時には上陸部隊が幕張の辺りまでたどり着く。目指すお台場はバイクでも30分。脚の早いKVなら目と鼻の先だ。
「雑魚掃討と言うわけですか」
 久志がそう言った。そこまでうまく行くかはわからないが、それでもひきつけた先で、ブーストと、ソードウィングを起動させる。空中に色とりどりの塗装と銀色の軌跡が飛び交うのだった。

 その京葉工業地帯に、懐かしさを覚えているUNKNOWN(ga4276)は、K−111改『UNKNOWN』各所にカメラを展開し、京葉地区の古い地図をモニターに映し出していた。
 ずいぶんと形を変え、かつての面影はかけらもない地域の空で、ふらりと木の葉のように揺れる不明の機体。それは風に乗った気球のようだ。
「さて、こちらの相手は‥‥あれかね」
 そのカメラには、敵を示す光点がいくつも浮かんでいる。
「あまり、前に出過ぎない様に」
 周波数や行き交う通信に耳を傾け、航空図と現地をAIにスキャンさせる不明。その判断をするのは機械ではなく自分だが、違う場所くらいはピックアップできる。
「で、私はうっとおしいと。では、お相手するとしようか」
 そこへ、空では目立つ黒の機体に、次々と強化型HWが群がってくる。それをのらくらと避けつつ、ソードウィングを食らわせれば、3匹ほどが纏めて地面へと落ちて行く。
「キメラはこちらで引き受ける」
 アンナ・キンダーハイム(gc1170)が短くそう言って、レーザーバルカンを掃射していた。群れをフォトニッククラスターで焼き払っていると、少し大型のキメラがボスであるかのように姿を見せる。
「あくまでも本命は海‥‥。しかし、使える者は使う‥‥」
 ブラックハーツはエース用に温存しておきたかった。が、硬そうな外骨格と、どこからともなく響く頭痛は、ココが正念場である事を物語る。そう判断したアンナは、躊躇わず使っていた。
 しかし、多勢に無勢。援護していた8.8cm高分子レーザー砲も錬力切れで悲鳴を上げていた。
「厳しいかっ」
 既に撤退しろとKVは言っている。と、そこへアルヴァイムが割って入った。
「無理はするな。ここは私が抑える」
 エラー音を立てているのは同じ。それでも、彼は部下を退避させようとしていた。
「しかし、隊長もボロボロですよ」
 久志が撤退を呼びかける中、アルヴァイム機はその速度のまま回頭する。そのまま、突っ込んで行く彼。
「しょうがない。お供しますよ、隊長」
 その様子に久志、そしてジェームスもまた追随して行った。
「よし、久々の出番だよ、シュガー! がんばろーね!」
 余り使っていないように見える、相澤 真夜(gb8203)の新しい機体は、その名が示すように純白の粉砂糖の色をしていた。雲をカモフラージュにしながら、なんとか食いかけヘルメットワームに螺旋弾頭ミサイルを食らわせる。しかし、そこそこの攻撃力を持ってはいるが、強化したHWには中々ダメージを与えられない。
「こちらDame Angel。出鼻を挫くっ」
 その間に、アンジェラ・D.S.(gb3967)が追いかけてきた。残りの錬力に注意しつつ、その正面へと回り込む。ライフルの射程は充分だ。
「すみません、お願いしますっ」
 シュガーの射程にはまだ遠い。アンジェラはヘルメットワームの動作と兵装を看破しようとするのだが、不規則なHWの動きには、中々追いつけられなかった。
「行動がどうしても被るな。なんとか射程がいから攻撃できれば良いんだが‥‥見るだけではわからないかっ」
 慣性起動方向のパターンなんぞ、見るだけではわからない。見極め易い方向に誘導する世どころではない間に、真夜の射程へとはいってしまう。
「わわわっ。ちょっとストーーーップ」
「癖なんぞないと言うわけか。ならば、こうだ」
 彼女が援護射撃とばかりに撃ちこむ間。GPShで弾幕を形成し、そのダメージを加算させる。それだけでは避けてしまうので、彼女は迷わず注意を自分の方向へと向けていた。
「うわわわわわ、落ちる落ちる落ちるっ。頑張ってよシュガー!」
 慌てて、真夜が高度をあげた。太陽を背にしてHWの上空に向かい、なんとかターンする。錬力は残り3割。ここが打ち止めと言ったところだろう。だが、幸か不幸か、HWに命中し、黒煙を上げながら海の藻屑になって行った。
「流石に多勢に無勢か‥‥」
 しかし、アンジェラの消耗も激しい。仕方なく撤収するアンジェラ。変わりに真夜はまだ撤退するほどダメージは受けていないので、自分の変わりに撃墜してくれるだろう。走思うと無駄ではなかった気がする。
「慌てなくても大丈夫だ。動きは見えているのだろう?」
「は、はい。私より遅いのもいる」
 不明に頷く真夜。と、彼は見本とばかりに一機のHWに狙いを定めていた。
「なら、球技と同じだ。見ていたまえ」
 そう言うと、不明はエニセイを撃つ。その射撃を見て、BEATRICE(gc6758)は感心したようにため息をついた。
「わぁお。こんなときになんですけど‥‥芸術的ですよね」
 群がっている用に見えるが、きっちり対応しているので。誘導ミサイルを使う必要はなさそうだ。
「そうかな? 私はいつも通りだよ」
「さて、こちらもキャリアとして‥‥ミサイルは全て使います」
 飄々と、そしてのらりと逃げ回る不明をよそに、持ってきたミサイルを盛大に広げるビートライス。誘導弾は何も支援ばかりに使う物ではない。こちらに注意が向いていない今がチャンスだ。
「着陸区域はあのあたりが良さそうかな」
「橋と線路が続いて居ますからね。お願いします」
 その間に、不明と須佐が着陸支援に高度を下げる。空にいる大半はまだ闘っていたが、時間はそろそろ会場が開く頃。その証拠に、高度を下げたあたりで、次々と形と毛色の違うHWが浮かんでくる。中には、飛行型のゴーレムも混ざっていた。盛大なお出迎えだ。
「ひーふーみーと。これで半分なんでしょうか‥‥」
「ああ。それにどうやら、戦力は全てではないらしい」
 戦場は、第二フェイズに移行しつつあるようだった。

 数の面で負けているのは否めない。それは、この戦場も同じだった。
「ほんじゃ、ハラスメント攻撃でもお見舞いしますかね。電子さん達は下がっていてくださいよ」
 ジェームスがそう言いながら、敵周辺へとミサイルを飛ばして行く。AAMとAAEMを使い分けては見たものの、どちらもどっちと言った所だ。
「効果は五分五分、ってところですね。撃って来ましたっ」
 逆に攻撃の手を返されてしまう。長期戦となった今、ダメージを受けるわけにはいかない。なんとか避けるものの。これでは気力疲れしてしまいそうだ。
「足止めします。でなければ、欺瞞情報を流した意味がありませんから」
 目的は、上陸班に攻撃の手が及ばないようにする事。その為、ビートライスは周囲に広がるキメラを中心にミサイルポッドの雨を降らして行く。ばしゅばしゅと四方八方に散って行くミサイル達。それでも、やはり数は残る。そこへ、余っていたK−02を叩き込む彼女。空を巨大な火球が照らした。
「結構厳しいんですけどねぇ。こんなに数が多くちゃっ」
「半分こっちに回してください。ハンナさんを落とされたら困りますからね」
 久志がそう言った。後ろに控えるハンナは、この作戦ではブレインに当たるだろう。参謀の黒子と言った趣もあるが、おとされて困る存在である事は変わりない。
「わかりました。こっちは回避を優先するんでお任せします。燃料は節約してくださいよ」
「わかってます。鬼さんこちら、手の鳴る方へってね!」
 念押しするジェームス。しゅぱしゅぱと拍手がわりのスラスターライフルが踊る。
「くうっ、この状態は、長引きそうですね‥‥」
「無理はしないでください。後方に、空母と西王母がいるはずです」
 座標の位置では、アルテミスが後ろからファルコンスナイプ改を使いつつ、レーザーガンをお見舞いしている姿が見えた。そのアルテミスが守るのは、補給機として機能しているカグヤ(gc4333)の西王母。そのすぐ側では、キロ(gc5348)がミサイル各種で向かってくるヘルメットワームを迎撃していた。どこを向いても敵だらけのそこは、眼を瞑っても当たるが、大してダメージは行っていない。それでも、数の多いHWを荷電粒子砲でふっ飛ばしたおかげでか、錬力はごりごりと減っていき、あっという間にエネルギーの補給を要求してくる。その様子に、ジェームスは首を横に振った。
「彼女の力は、前線で使ってください。こっちは、空母を使いますので」
「了解しました。御武運を」
 他にも、補給を必要とするものはいるだろう。西王母は、その為にわざわざ引っ張り出してきたのだから。
「こっちも落とされるわけにはいかないんですよ。聖女様の盾としてはね」
「神よ。ご加護を‥‥!」
 里見・さやか(ga0153)が、前に出る。刹那、後ろにいたハンナが、コクピットで己の信じる存在に祈ると、それと同時にジャミング中和装置が作動する。さながら天使の翼がごとく、両翼に広がる支援を受けつつ、久志は自機を旋回させた。
「天使の力で戦うって言うのも、悪くはないですかね。このっ」
 だが、久志のソードウィングをそのHWは軽々と避けていた。よく見れば、動きが他よりも早い気がする。
「まさか、新型か!?」
 だがそれを確かめるよりも早く、敵も高度を上げてきた。目標は恐らくハンナの機体。
「させるかっ。聖女はおとさせません!」
「何をするつもりです?」
 ブースターの推力の焔が温度を上げる。ハンナが問うと、彼はにやりと笑って、その手の内をちらりと見せる。
「大技です。盛大に使いますが、その分減らせますから」
「わかりました。カグラにはこちらから連絡しておきます」
 恐らく悪くすると撤退、西王母の補給も余儀なくされてしまうだろう。予約を入れておくハンナさん。
「お願いします。じゃ、神サマお願いしますよ!」
 それほど信仰心があるわけじゃないが、苦しい時は神頼みが日本人らしさと言うものだ。そう割り切って、久志は目の前の強化型へ、G放電装置を食らわせる。バリバリとおなじみのスパークが飛び散る中、翼に超伝導の力が宿る。その力のまま、久志はブーストを作動させ、ソードウィングを目の前の新型へと食らわせる。
「あ、危ないっ」
 機体に盛大な煙が上がり、エラーがあちこちに表示された。その状態では、いくら落下加速で急降下しても、HWは次々と追いかけてくる。
「くっ。流石に多勢に無勢、振り切れないか‥‥っ。慣性制御もパワーアップしてるなっ」
 こちらが新型を出してくるのと同時に、向こうも新しい勢力を用意していると言うことだろうk。残りのエネルギーが1割をきったところで、さやかがこう言った。
「脱出してください! ここは私がひきつけます!」
「すみません、さやかさん!」
 ここは、撤退するのが吉と言う奴だろう。
「私たちの首都だったところですもの。予備機の子達を使い潰してでも、東京は奪い返します!」
 さやかにとって、シラヌイは東京戦線開始から3機目の機体。それだけ、この作戦にかける意気込みの強い彼女は、ハンナの機体へとデータをリンクさせ、索敵情報を流して貰う。しかし、半径300m以内でも、レーダーには多数のHWがひっかかっていた。
「さすがに予備機ではHWにも劣ると言うのでですか‥‥。ハンナさん、残りはどこです?」
 おいつけない機体。それでも、残りの敵を迎撃するべく、ハンナから敵の座標を貰っておく。それは、300いないにと留まるのは難しい事を意味していた。
「距離が離れすぎています。私とて、自衛は出来ますから」
「わかりました。フォローに動きます」
 ハンナとて、無防備ではない。自分の身は守れる。それでも、直衛機が離れるわけには行かず。回避を行いながら、反転する。攻撃に逃げるHWに、十式バルカンをお見舞いし、動きを止めようとするさやか。
「よし、チャンス!」」
 回りこんだその距離、200。距離メーターがクリアになった刹那、さやかのシラヌイから8式螺旋弾頭が、その軌跡を描く。
「ああもう。数が多すぎるっ。練力が持たない!」
 落としきれないHWに、バルカンで追撃してみるが、それでもエネルギーの消費は抑えられない。
「く‥‥ここまでですか。やはり、准将の情報は嘘ではなかったみたいですね‥‥」
 そういえば、作戦前に言っていた。空は厚いと。そう判断したさやかは、ハンナへ後方への退避を進言してくる。断られる事を心配したが、彼女は聖職者らしく穏やかに答えた。
「私達の役目は充分です。後は、アルヴァイムさん達に託しましょう」
 大丈夫。支援と言う名の作戦は、今の所順調なのだから。

 今も昔も、燃料補給は大事。取っても大事なその任務を、カグヤの西王母が行っていた。
「ぐやーん。東京奪還手伝いたいけど、なんだか場違いな気がするの。……でもがんばる」
 眼下に見える痛いタロス。ココからでは、何のペイントか把握は出来ないが、人の姿が書いてあるのは確かなようだ。
 そのいくつかが、モニターの中で姿を大きくしてくる。どうやら、騒ぎを聞きつけて、飛行ユニットがお出ましになってしまったようだ。
「東京には縁も所縁もないけど、友達の為なら、この命くらいいくらでも天秤に乗せてやんよ。超全力で超全額ベットってのも悪くないじゃん?」
 綾河 零音(gb9784)が、愛機オリオンに搭乗し、補給を終えて空中へと出撃していく。距離は視認出来る程度には近づいていた。
「さて、無茶は上等。あとはどこまで無理を押し通せるかだな」
 その『友達』であるジャック・ジェリア(gc0672)もまた、ひと通りそろえて空戦へと出撃していく。それを確かめたレオンは、太陽の中を通るように近付くと、大きく迂回して敵の側面へと回りこむ。
「さあオリオン、一狩りしようぜ!」
 そう言うと、彼女は高度を急降下させた。そして、G放電のスイッチを入れると、まるで自身に言い聞かせるようにこう叫ぶ。
「響くは月女神の角笛! 舞い踊るは金剛の星屑! 紫眼の狩人アメティストス・オリオン、超突撃するぜぃ!」
 狩人の守護女神が何恥じない放電が、そこら銃に降り注ぎ、HWの弾幕が薄くなる。そこへ、その守護を受けた狩人オリオンが、バスケのディフェンスを交わすがごとく、ジグザグのドリブルを駆けて行く。
「気合いが入ってるなー。私は特に思い入れなどないが‥‥。多くの物の士気に関わるようだし、重要な施設なのかもしれないな」
 その姿を見て、複雑な思いをするタルト・ローズレッド(gb1537)。それでも、後方から援護射撃をし、敵の数をできるだけ減らそうとする。同期が薄いのは、リック・オルコット(gc4548)も同じだ。
「ま、金の為さね。報酬は上乗せしてくれよ?」
「それは准将の心次第だな。高度を上げるぞ」
 同僚の伊藤は、相変わらず空戦には強いらしい。誘導するように高度を上げたHWとその下を進むリック。
「ラジャー。こちらはこのままの状態を維持させて貰う。伊藤、援護は任せたぜ」
「了解。ドラゴン1、エネミータリホー」
 専門用語が飛び交ったが、意味を確かめるまでもなく、伊藤の正面には飛行ユニットを装着したゴーレムの姿がある。
「おいでなすったな。ドラゴン1、FOX2」
 ばしゅばしゅばしゅっとミサイルが飛んで行った。しかし、相手もそこらの雑魚HWとは違うらしく半数程が避けてしまう。
「取りこぼしたか? 迎撃に向かう」
「こっちに来させるか。お前の相手は俺だっつーの」
 そこへ、ローズとジャックが、弾幕を作り、その戦力をこちらへとひきつける。あちこちで盛大に火花が飛び散る中、間を縫う事だけに引っかかっているレオンに、ジャックが声をかけた。
「おー、盛大だなー。レオン、大丈夫か?」
「へいジャック! 生きてるかーい?」
 どうやら、大丈夫なようだ。軽口を吐ける間は問題ないだろうと、ジャックは前へと進む。
「それだけ叩けりゃ上等だ。そろそろ着陸のお時間だ。大半はこっちで引き受ける」
 火力を押し出すように数多くの弾薬をその前面に発射する。バックアップがもらえる位置には陣取っていたジャックに、レオンがこう言った。
「球は渡さないよ?」
「ああ。ゴールは俺たちで決める!」
 サッカーに例えたその動きは、回避すらも前進に変えている。
「元気だねぇ。よし、今のうちに行くぞ」
 その間に、須佐 武流(ga1461)は着実に高度を落として行く。ジャックが着陸地点に面が出来る様、HWの相当に取り掛かるが、さすがに大型のHWは200mmを持ち出さないと倒れないようだ。
「手の開いている者は降下を急げ。俺達が道を開く!」
「了解。貰った分の働きはしないとな」
 ジャックの檄に答えたリックもまた、着陸を支援するようだ。なにしろ、スポンサーは会場に向かっているのだから。
「そんなの痛くもないねっ。骨は南米に埋めるって決めてるんだからぁ!」
「レオンに手は出させないぜ!」
 そのフォローをするように、駆け抜けるレオン。さすがに、血の気の多い面々が揃っているらしく、不明と黒子は揃って苦笑する。
「これだけの敵がいると、そうなるだろう。後は頼みました」
 敵は、その殆どの戦力を自分達につぎ込んでいる。眼下の作戦を成功させる為には、それを逃がさないようにすることが肝要。そう判断した黒子が、タイムカウントを確かめつつ、部隊からちょうど90度の位置へと舞い上がる。しかし、その周囲にはまだHWが数多い。
「さすが隊長、突っ込みますね」
「これだけ数がいると、二人以上でいけるだろう。包囲するぞ」
 久志がそこから45度ほどずれた位置へと機体を飛ばす。そう上手く行くと良いがと祈る中。対空砲とチェーンガンが、十字の形を作り出す。
「悪いな。だが、まだやれる。行くぞ‥‥ファイエル!」
 ちゅどぉぉんっと、まるで発破作業のような音が響く。しかし、相手は宇宙人。その程度で、引き下がるものでもなく。
「くっ。流石に数が多いか」
 タロスへの対応は考えていたが、そこまで手数が回らない。足止めをしている間に次々と襲い掛かるHW達。そのうち、黒子の機体が装甲値をオーバーする。
「隊長ーーーーー!」
 黒煙を上げる機体に叫んだのは、隊の誰だっただろうか。
「まだだ。フレア展開! この間に撤収だ」
 そこへ、ローズがフレア弾を発射させた。大量に一気に広がる焔に、一瞬モニターが焼かれるが、それすらも撤退には撹乱になるだろう。
「こちらも支援に向かう」
「こんな所で死ぬつもりもないしな」
 伊藤とリックの2人がそれを援護し、重傷を負った面々も、なんとか離脱に成功するのだった。

 そんな上空の支援を受けつつ、眼下では着々と作戦の本隊が進んでいた。
「さて、今回は湾岸奪回と言う事ですが‥‥」
 アクセル・ランパード(gc0052)はそう言うと、モニターに映るパイロット達に、不思議そうな表情を浮かべている。とある御仁のおかげで、薄い本の茨道に進んだものの、こう言った場所や文化の知識はまるでない。
「東京の聖地ってどんな所だろうな」
 まだアクセルはサブカルチャーにも、ある程度はご存知だったが、タイサ=ルイエー(gc5074)はそれすらもご存じない『一般人』である。興味深そうにそう言ってくる彼女に、苦笑するアクセル。
「壮大なところだそーですけどね」
 水深200mラインを進む一行。東京湾の沿岸部は、それほど水深が深くはない場所を、2機づつの並びで進んで行く。その光景は、一種圧巻ですらある。
『お祭の時はもっと凄い行列が出来るんだぉ。あ、最後尾札はこれだぉ』
 ミクが通信機越しにそう言ってくる。見れば、最後尾を勤める機体に『巨大鋸こちら』と書かれた樹脂製のボードが取り付けられている。
「密度が高いってい有名なんだっけ」
『晴海の方がもっと凄かったけどな』
 宗太郎=シルエイト(ga4261)に、そう通信機越しに答える伊藤。水中組が「え」となる中、ぼそりと『何でもない』とその通信を切る伊藤さん。
「俺も聞きました。なんでも聖地らしいですね。あんまり実感がわきませんが‥‥」
「目標はアレだね」
 水中にいる上陸組にとっては、その聖地に実感がわくのは、まだ少し先だろう。アクセルはモニターに『参考資料』として転送されてきたのは、どうみてもKVサイズの赤い鋸である。上陸地点に程近いそれは、シンボルとしてタロスの警備が付いているそうだ。
「ノコギリのオブジェですか‥‥」
「っと。その前に徹夜組と赤線ラインの面々を排除しなければならないようだね」
 ドクター・ウェスト(ga0241)もまた、けひゃけひゃと独特の笑い声を上げながら、謎のセリフを口にする。しかし、やる事は同じなので、一行は水中から上陸する地点へと4列に並びなおす。と、その直後。水中対応の警備HWが何匹も見えてきた。
「了解です。では、行きますよ?」
 アクセルが、そのHWを中心部に捕らえると、遠距離から魚雷ポッドを開幕宣言のようにお見舞いする。ぶしゅうっとエア・カーテンが広がる中、砕牙 九郎(ga7366)がそのカーテンを厚くする。
「援護するぜ。水中は苦手なんだけどな」
 彼の乗る機体では、水中の敵にも問題なく対応している。機体の損傷率は、まだ何れもそれほど高くないが、海上陸橋からの距離を考えると、それほどのんびりしても入られない。
「そうも言ってられまい。一気に抜けるぞ!」
「了解。海神LIyrの名は伊達じゃありませんよ!」
 ばしゅばしゅと水深200mを魚雷が乱舞する。その幾つかがHWに命中した刹那、宗太郎がランスチャージのブーストを入れる。
「同じのを狙うのが良さそうだなっ」
「もう1匹おいでなすったぜ。このまま素直に上陸させてはくれなさそうだ。どうする? ドクター」
 体勢を崩す間に、九朗が中央にいるドクターにそう尋ねた。KVの中で状況を分析したウェストは、僚機の種類と数を素早く計算すると、GOサインを出した。
「戦力的には充分だからね〜。一直線に向かえばなんとか突き抜けられると思うよー」
「ふむ。全速前進と言うわけか」」
 上杉・浩一(ga8766)が答え、アクアジャイロを作動させる。他の傭兵達が言う聖地だの性剣エクスカリバーだのは、わからないが、モニターの資料映像を見る限り、入り口にある巨大剣のことらしいと判断し、強襲の後に続く。そこへ、今度は少し大型のHWが、速度を上げてきた。
「第二波、来るで!」
「止めは刺すなよ。あくまでも目的は上陸だ」
 佐賀繁紀(gc0126)が魚雷を発射して、その進路を撹乱する。タイサが念押する中、彼は試作型水中粒子砲をセットしていた。
「わかっとる。野暮な真似はせぇへんで。これで混乱してくれたら、良いんやけどなー」
 みょんみょんと独特の音を立てて、粒子砲がばしゅうっと海中を横切った。巻き込まれて、何匹かが落ちて行く中、佐賀はガトリング砲「嵐」で、さらにそれを蹴散らして行った。
「そこまで追撃なんぞさせないよ!」
 タイサのエキドナが、第二派24発を発射して、さらに混乱を呼び起こす。「見えた! あれが聖地だ!」
「こちらドクター、上陸するね」
 ダメージを与えている中、ドクター以下上陸班が、陸地目指して駆け抜けて行く。小型魚雷ポッドや対潜ミサイルでお応えしつつ、エンヴィー・クロックで、出来るだけ損傷は抑えながら。
『こちらも視認した。上空より支援を開始する』
 通信機ごしに須佐の声が聞こえた。見れば、伊藤ら空中班の支援を受けて、須佐の機体が陸上へと降下してくるところだ。
「ここは後ろに控えているのが得策かな」
「そうも行かないみたいですよ」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は上陸の為に、力を温存しているようだ。しかし、そうこうする間にも、HWがユーリの元に迫る。
「危ないっ」
 彼の実力からすれば、たいした事はなかっただろう。しかし、柳凪 蓮夢(gb8883)がとっさに人型へと変形し、獅子王でその攻撃を受け止める。
「このぉぉぉっ!」
 返す刀のように放たれるガウスガン。HWが水中で四散する。こうして、佐賀とタイサ、宗太郎とアクセルが魚雷の嵐を吹かせる中、陸上の方から通信が入る。
「こちら片山。アクアラインを通過した。急ぎ現地へ向かう」
「先頭はわたさないわよ。新刊ゲットは私の役目なんだからぁ!」
 片山 琢磨(gc5322)と梨彩のようだ。通信がジャミングかかっている所を見ると、すぐ近くまで来ているようだ。
「よし、下道を抜けた方が早かったな。合流成功。目的地、国際展示場エクスカリバー!」
 通信機を片手に、そう宣言する片山。それもそのはず、空中に結構な戦力を取られている為、陸上には、数機のKVを無理やり止めるような動きは見られなかった。その為。機体の特殊能力を撹乱するのに、さほど障害はない。
「ほらほら遅いよ! いっけぇぇぇ!!!」
 その撹乱に乗じて、高速二輪モードで梨彩が突っ込んで行く。ちらりと見える風防から、魔女をイメージしたようなゴスロリ服と、マール放浪紀の主人公、剣士マールの衣装が見えた。よく見れば、KVには、玩具の車を持った赤い髪の少年が描かれている。
「このまま新木場からりんかい線に乗ればって、もういる!?」
 かつて利用されていたルートそのままに向かう彼女。時刻は8時。まだまだ会場時間には程遠い頃、会場内は走るなとばかりに、駅前のルートへ現れたのは。
「これは、予想外の強敵かもしれないねぇ」
 駐車場側に上陸したドクターもそう呟く。こちらに軽く銃を向ける彼らは、まるでボーナスを突っ込んだかのように、気合いの入った京太郎とレンのペイントが塗られていたのだった。

 タロス達はまだこちらには気付いていない。いずれはわかる事だが、今は周囲の状況を確かめる方が先だった。
「ここが聖地ですか?」
 タイサには、奇異なモノに映っていた。逆さピラミッドを背景に、行列を組むHW達。時折ゴーレムが混じり、タロスが列整理をする。
「それにしても、えらく士気の削げるタロス達だな‥‥」
 上杉が、コクピットの中で複雑な表情を見せる。
「気力を削ぐようなペイントをしおってからに。人をおちょくってんのかと思いたくなる」
 水中の経験を増やす為に参加したものの、乱打する魚雷のおかげで、余り消耗はしていない。だが、目の前のペイントタロスは、その消耗していない気力を、ごりごりと削っていた。
「んー。まぁレントくんは死んでるから良いんじゃないかね〜」
 ドクターは余り気にしていない。そもそも、十字架を外した彼には、その程度の痛さ加減は、あまり影響しないのだろう。ペイントしているだけで、相手はタロスなのだから。
「そう言えば、お子様どうしてるかな‥‥」
 ユーリの脳裏に浮かぶは、そのもう1人のペイント。ミクの話では、そろそろお呼びがかかるそうだが。
「ミク、アルテミスさんから新刊頼まれちゃったんだけど‥‥」
「そう言うのはあとから探したまえ」
 そのミクは、ミスターSの総受け本あったらよろしくと、上空にいるアルテミスから頼まれていたらしい。だが、周囲を見る限り、そんな余裕はなさそうだ。「そうするぉ」と、大人しく通信係に引き下がる。
「探すにも、邪魔なタロスをどけないとっ」
 梨彩も、内部制圧には動きたいが、さすがに待機列にタロスがいる為、おおっぴらに入場出来ない。
「よし、海上から援護するぜ。こっちなら、遮蔽の影になるしな」
「俺もだ。通信中継はこちらで繋ぐ」
 九朗と片山がそう言って、東館の影から通信系統を展開させる。その刹那、上陸地点めがけて、九朗が長距離バルカンを連射する。反応のあった敵の情報を、片山が各機に転送していた。
「可能な限り削ってやる」
 しかし、そんな九朗達を見て、HW達がココまで向かってくる。それほど強くはなさそうだが、その中にいるゴーレムとタロスは、的確に攻撃を仕掛けてきた。
「くっ、弾幕がっ」
「増援を! 相手はタロスだ。4人以上で当たれっ」
「わかってますっ」
 その彼を守ろうと、宗太郎の要望にアクセルがこたえ。ハードディフェンダーで切り込んで行く。硬いそれは、HWの攻撃からは盾としても機能するものの、練力の消費が著しい。
「やべぇな。後方の援護射撃に徹しさせて貰う」
「安心しろ。例え散っても通信機だけは守るさ」
「そう言うわけにもいかねぇんだよっ」
 宗太郎がそう言って割り込んでいる。60を切るまであとわずか。無理には攻めたくないが、かと言って絞る事も出来ない。
「ここは私が。落ちず、落とさせずです」
 そんな宗太郎と変わったのは、柳凪だった。獅子王でかばいつつ、相手の隙をうかがうが、そう簡単には体制を崩さない。
「痛くてもタロスってか‥‥。流石に密度が濃いな‥‥」
 アクセルがそう言って、クロスマシンガンを乱射する。しかし、その身を包むFFは強力で、それほどダメージは与えられないようだ。
「甘いよ。その隙は逃さない!」
「蓮夢さん?」
 刹那、獅子王で切り込んで行く柳凪。
「盾になるのが役目ですからね。皆で祝杯を上げるのが目的です」
「貴方もそこに含まれるんですよっ。しょうがねぇなっ」
 今なら、アクセルを含めて3人だ。ドクターもいるので、もし怪我をしたとしても、治療はできるだろう。その証拠に、けひゃひゃひゃひゃと笑いながら、「なら、任せたまえ〜」と、おててをわきわきさせている。
「隙間は俺がこじ開ける! 踏み台になるのはお前等だ!」
 そこへ、上空から降りてきたのは、須佐だ、。高出力ブースターが青き炎を上げる中、ディノスライサーで、相手を踏みつけるように着地する。払い落とし、距離を取ったタロスは、弾幕の変わりなのか、無数のキメラを送り込んできた。
「キメラの数が多くて大変だよ。だが、近寄らせるわけにはいかないね」
「ならば。こっちでなんとかするで」
 ドクターの要請に、佐賀がキメラを蹴り上げ、ゼロ距離からうむを胃負わさぬ止めを刺して行く。集団のように群がったキメラには、タイサがハードディフェンダーを構え。高速移動走行で切り込んで行く。トドメよりもダメージで動けなくするよう、駆け抜けて行くタイサの後には、無数のぴくぴくしたキメラが残った。
「なんにしても、あのペイントした連中にだけはやれたくないしな」
 ユーリがそう言うと、今まで控えめだった分、その力をゴーレムへとたたきつけていた。足の速さを生かして、佐賀やタイサ、そして他の傭兵達の射線をふさがないよう、ベヒモスと新月を片手に、接近戦を挑む。
「全部ひき肉にしてやる!」
 あたりに血臭が漂いはじめる中、タロスは何やら相談していたかと思うと、赤い特徴的なオブジェへと移動していく。それを見て、アクセルのモニターが反応していた。
「ん? これは‥‥。エクスカリバーが反応している?」
 高エネルギー反応が、鋸オブジェから出ている。その事は、ドクターも感知していたらしく、こう言って来た。
「アレを抜いたものは、願いが適うといわれているねぇ。まぁ、ただの都市伝説だと思うがね」
 だが、バグアと言うものは、人々の恐怖に根ざしたキメラを作ることで知られている。それを考えれば、都市伝説もまた利用されるターゲットだ。
「まさか、あいつら、改造してるんじゃ‥‥?」
 アクセルがそう気付く。片山の通信機から流れてくる敵情報からは、エネルギーの増大が伝えられていた。が、ドクターはそれすらも利用する大将のようで。
「ふふん。その憎き顔に叩き込んであげよう」
 そう言うと、京太郎の似顔絵部分に狙いを定める。反撃の体に出たタロスを、柳凪とアクセルがかばう中、システムを起動させるドクター。
「バーシニングナッコォォォ!」
 ばしゅうううっと激突するそれは、鋸の手前で弾かれてしまった。どうやら、その鋸が鍵を握っているようだ。
「ふむ‥‥抜いてみようか」
「出来るの?」
 ドクターの提案に、以外そうな顔をする梨彩。
「我輩を信じたまえ。そうだな‥‥願いを込めてみようか」
「エネルギーライン、集中して居ます!」
 アクセルが警告を発する。それは、逆さピラミッドの中から、巨大鋸にかけて、エネルギーの転送が行われている証だ。それを見たドクターは、がつっと弾かれつつも、鋸の柄へ取り付く。
「我輩の望みはタダ1つ。バグアの殲滅、そしてバグアに与するものの排除だー!」
 1つじゃないじゃないかと言うツッコミはさておき、抵抗するように強力なスパークがあちこちに走った。身動き出来ないドクターに、他のタロスが距離を詰めてくる。しかし、そのエネルギー源が、攻撃によって浮かび上がった。
「よし、あそこを壊せば!」
 アクセルが指定したのは、以前は会議室だった場所に設置された砲台だ。どうやら、鋸と連動しているらしく、タロスはその鋸を奪い返そうと、手を伸ばす。
「わかったよ! っけぇぇぇぇぇ!!」
 そこへ、と止めとばかりに梨彩がキャバリーチャージでつっこみ、タロスは性剣エクスカリバーを叩き折られ、海中へと沈むのだった。

 終わってみれば、かなりの数の重傷者が出るはめになっていた。
「まぁ、あれだけ目立ったんだから、当然だな」
 アルヴァイムが医務室に叩き込まれながら苦笑する。トレードマークとなっている黒一食の衣装から、所々に肌が露出していた。レオンとジャックも、仲良く、同室に叩き込まれている。合計9名の重傷者を出す結果となっていた。のんびり新刊チェックする暇のなかった梨彩とアルテミスが、ミクに聖地のコーヒーを差し出され、慰められている。
「では、これにて第一回聖地奪還作戦を終了いたします。お疲れ様でした」
 その梨彩の用意したアナウンスを読み上げるミク、どうやら、本格的な調査は、2日目3日目に回すのが正解なようだった。