●リプレイ本文
気がついたら、ラスホプとは全然違う場所に居た。
「ふむ。ここは‥‥」
周囲を見回すドクター・ウェスト(
ga0241)。カチカチと眼鏡の座標を確認しても、不明と出るばかりだ。しかも、自分の他に何人か転移させられている。鈴葉・シロウ(
ga4772)とグリフィス(
gc5609)、アルテミス(
gc6467)にミリハナク(
gc4008)。4人とも、偶然転移に巻き込まれちゃったらしい。
「ふふ。実験は成功した。ヤツか! ヤツのいる次元だね〜!」
座標を確かめていたドクターが、嬉々としてそんな事を言っている。そこには今までと違って、巫女っぽい服のミクと、カンパネラの『老師』ことカイレン先生とそっくりな服を着たジジィと、そして、どういうわけか、少しアレンジされたカンパネラの学生なレンまでいる。その様子に、ドクターはなるほどと頷いていた。
「そっちの事情は知らないけど、協力して欲しいぉ」
ついたのは、城を見上げる場所にある平原だった。結界でも張られているのか、周囲は魔の森然とした暗さなのに、そこだけは平穏な大地を取り戻している。そんな場所で、ミクが変わりに手っ取り早く事情を説明してくれた。
「いいだろう〜。ヤツと戦えるなら、我輩は力を貸す事を惜しまないね〜」
ドクターは既に別の目的があるようだ。暫し考えたシロウは、ちょこんと正座した女性陣に微笑みかけつつ、こう答えている。
「やりますよ。なんだか知らんですが、女の子に助けを求められては、応えんといかんよね」
「ごめんね。僕はもう心を決めてるから、君の愛にはこたえられないんだ」
が、アルテミスはゴスロリをふりふりさせながら、首を横に振る。口調も声も少年なのだが、見かけはどう見たって少女なので、いわゆる男の娘と言う奴だろう。そのアルテミスが抱き寄せたのは、半ズボンのレンだ。おめめをぱちくりする彼。
「そう。君。これ、きみのだろ?」
彼がレンの腰に手を伸ばして抜き取ったのは、カードの束だ。
「僕だけじゃなくて、この世界の人はたいてい持ってるよ」
返せよっとひったくろうとするが、アルテミスはひょいとそれを手の届かない場所へととりあげてしまう。
「何するんだよ。お前だって自分のあるだろー」
「えへへ、こっこまで伸ばしてごらーん」
身長166cmのアルテミスが手を伸ばすと、成長期前の少年では届かず、逆に足払いをかけられて、膝の上にこけてしまう。それをニヤニヤしながら受け止めるアルテミス。
「ふむ、持った者の思考を読み取り、その者の関わりある品をこのカードへと封じ込める。カードを引くと同時にエネルギーを与えカードから再出現させる、といったところかね〜」
色々説はあるが、大体ドクターが言う通りのイメージだ。ところが。
「でも僕、デッキじゃなくて、そこのレン君に教えて欲しいな☆」
膝にレンをだっこする形になったアルテミスが、そう耳元で囁いてくる。ぴたっと体を密着させて、わざと腰の辺りを軽く撫でてきた。
「とりあえず、カーテン閉めときましょうか?」
その様子に、シロウがそそくさと御休憩所の扉を閉めていた。
2時間後。
「しくしく。もう僕、兄様のところにお婿にいけない‥‥」
「僕が貰って上げるよー☆」
小屋から、きまづそーにしているレンと、何故かすっきりした顔のアルテミスが出てくる。当然必要以上に前を止め、なおかつ監視のミクがほっぺを紅潮させながら、「ごちそうさまだぉ」とほざいているが、大人の事情でツッコミ禁止だ。
「‥‥不純な」
ただ、グリフィスがぼそりと呟いたのは、恐らく良識ある全ての視聴者の代弁に違いない。
「っと。オタノシミは終わってるか? おいでなすったぜ」
ジジィが結界の外を示した。見れば、黒い鎧を身につけたティグレスら複数が、こちらへ向かってくるところだ。
「ふむ。セイナ様がおっしゃられていたねずみは、貴様らか」
が、現れた黒い鎧の騎士っぽい格好をしたティグレスは、馬上から彼らを睥睨し、そう告げる。
「黒騎士ティグレスだぉ」
ミクがそう紹介してくれた。細かい説明はないが、考えている通りの立ち位置で間違いない。
「相手にするには不足はなさそうだな」
グリフィスがそう言って与えられた腰のデッキケースに触れた。黒騎士だか暗黒騎士だか知らないが、見かけは前線に出る際のティグレスそのものだ。
「あー、兄様なら一撃粉砕なのにー」
「この期に及んで、まだお兄ちゃんばなれ出来ないの? レンきゅん」
京太郎の登場を期待するレンはアルテミスに任せ、シロウは蚊帳の外状態の女性陣‥‥ミリハナクとミクに尋ねていた。
「まぁ自分では役不足かもしれませんが、突破しないと城にはいけないんでしょ? なら、攻略しない手はありません。クイーンの顔をみないとフラグが建築できませんしね」
いや、それを言うなら構築だ。
「ほほう。中々面白いものを呼び出したな。なら、こちらも相応にさせてもらおうか」
もっとも、ティグレスはそんなセリフは気にせず、傭兵達のほうを眺め、すぐ後ろに居たカラスを呼び出していた。
「確かに先輩1人だと面倒だねぇ。じゃ、半分は受け持って上げるよ」
本人は納得して、デッキをセットする。その様子に、ミリハナクが前へと進み出た。
「ふふん。私の相手には約不足だわ。あなた方2人では、カオス度数が足りないのよ」
そう言った彼女の視線は、はるか先にいる女王の城へ向けられている。立ちはだかる者は、例えそれがカラスであろうとも排除する。そんな意思を、ミリハナクは備えていた。
「よくわかんないけど、レンくんが応援してくれるんなら、がんばるよ」
「アル兄様‥‥」
いつの間にか、いわゆる血の繋がってない兄弟になっちゃったアルテミス。フラグが立ったのを見て、耳元でこう囁く。
「その代わり。勝ったら何でも言う事を聞くんだよ」
何でもと協調されて、レンの顔がぼんっと赤くなったのは言うまでもない。
まずはシロウからだ。
「セットアップ! デュエル!」
それぞれの生命力がクリスタルのように胸の辺りへと幻出する。その全てのクリスタルが砕けたら負けらしい。
「僕が先攻だね。じゃ、いきなりだけど呼び出させて貰うよ。さぁおいで。僕の可愛い下僕達!」
カラスがカードを引き抜き放り投げるようにセットすると、何匹かの妖精達が姿を現す。その妖精達から避けて‥‥と言うような事を繰り返すうち、あっという間に戦闘の場は妖精型キメラで埋まってしまった。
「くっ。こんな所でもたもたしているわけにはいかない。何故なら、城には可愛いお嬢さんが待っているのだから!」
既にライフは残り2割を切っている。その状態に、カラスは勝利を確信する。
「ふん。この僕を差し置いてセイナ様にアプローチしようなんて、身の程知らずだねぇ」
ふわさっとさらさらの金髪を書き上げる仕草が、何故かとても嫌味たらしく映った。が、シロウはスーツ姿のまま、眼鏡をきらんと輝かせる。
「はたしてそうかな。こちらとて、あなたに負けぬくらいの子を持っているのでね」
彼が呼び出したのは、いわゆるKV少女。銃装甲のアーマーを身につけた可憐な戦う乙女だ。
「ならば、僕しか見えないようにしてあげるよ!」
城から黒へのグラデーション。その翼が現れた刹那、カードの効果が現れる。
「トラップカード『男装歌劇』発動。効果『フィールド上の女役と名の付かないユニットは全て男性として扱う。ふふ、これで君のご自慢のKV少女達は無力な存在さ」
その効果により、前面に出ていたKV少女の胸がしぼんで行く。
「くっ。僕の可愛いKV少女達がっ。仕方がない。ライフで受ける!」
だが、そうなっても、KV少女達を守ろうと、変わりにライフを削るシロウ。
「サポートに過ぎないKV少女を守るなんて、やはり異世界の戦士とはいえ、素人だね。さぁ、追い詰めたよ。これでファイナルターンだ」
ばさり、と翼が開く。しかし、本気を出した暁のそれを見ても、シロウは動じなかった。
「それはどうでしょうかね」
「ここまで来て、諦めない理由でもあるのかい?」
残りが1割になった。それでも、シロウは余裕の笑みを崩さない。
「趣味が合わないからです。そう、毛色が合わないんですよ」
刹那、その背中に純白の翼が生えた。荘厳と言うよりは、氷の羽根と言った冷気に、カラスは納得したように自分の力を出現させる。
「これは‥‥。肯定の白翼!」
はっとするカラス。中央に配置され、幾つものバーニアを装着した雷電が、白き雪原の王者となって行く。
「さぁイメージしろ。この瞬間、飛熊の特殊能力が発動する。相手のアタックステップ時、自分のフィールドにKV少女がいた場合、こいつは何度でもスタンドする事が出来る!!」
眠りのポーズになっていたはずのシロクマが、ゆっくりと起き上がる。二足歩行のスタイルとなった彼が、そのパワーを口元へと凝縮させていく。
「攻撃力3000プラスだって!? 何故、男性になったはずのKV少女に!」
「例え見かけが代わろうとも、少女は少女。男装の少女もまたよし。真の性別なんて、些細な事なのですよ」
そう。例え胸がしぼんでいても、性別を男性に変えられたとしても、見た目も名前もまだ『KV少女』なのだ。故に、その力は衰えない。
「見かけが女の子なら良いと言う事か!」
「そう言う事さ、さぁ、女の子を護るのは男子の本懐だ。その咆哮を食らわすが良い! 飛熊!」
絶対零度の咆哮がカラスごとその場を包む。だが、氷柱の中で凍りついたカラスは、何故か満足そうだった事を追記しておく。
一方、グリフィスもまた、ティグレスと対峙していた。
「ではこちらもはじめるとするか。行くぞ」
よくわからないが、普段の戦闘を思い浮かべればいいらしい。カードを引き抜くと、脳内にはコクピットの光景が、そして周囲にはカードの効果が浮かび上がる。
「いつでも構わん。何なら後攻でも良い」
「ほう。後悔はしそうにないな。よかろう」
グリフィスがコクピットの機動スイッチを入れる感覚で、自分の機体を呼び出す。シュテルン・Gの姿をしたそれを見て、ティグレスはやはりな、と呟く。
「近距離型か。異世界人は、直接攻撃を好むな。野蛮な事だ」
「拠点攻撃用の機体だからな‥‥。貴様のようなゲートキーパーには相性が良い」
普段彼が使っている機体よりも、若干ごつい。しかし、使い勝手は悪くない。これなら、目の前の黒騎士ティグレスにも対抗できそうだ。そう思い、手元に来た20mmガトリング砲とシールドガンを並べていく。
「さて、それはどうかな。元々こちらも、女王の側にいるだけの器ではないのでな」
ティグレスの装備も順調に調って行く。お互い、近接と火力でぶん殴るタイプのようだ。それを見抜き、グリフィスは遠慮というものはいらないと確信する。
「お互い攻撃的と言うわけか。ならば、懐に飛び込むまで」
「やれるものならやって見るが良い。だが、俺の槍は貴様を寄せ付けるほど、甘くはないぞ」
ティグレスの槍が、距離を詰めたグリフィスの機体へとダメージを与えて行く。
「当たるかよ! そんな槍!」
「足元がお留守だぞ」
避けたつもりでも、避けきれない。しかし、逆にグリフィスも防いだシールドガンでティグレスにダメージを与えていた。
「おっと残念だったな‥‥ついでにお返しだ!」
「なるほど。貴様相手では、近付かせない方が得策か」
ティグレスの足がじりっと動く。
「逃げる気か?」
「いや‥‥ならば、こうした方が面白そうだ」
彼は、後退すると思いきや距離を詰めた。そして、短く取った槍の穂先で、グリフィスの残り少ないライフを削り取って行く。
「棒状武器を使いこなすのは、貴様ばかりではないと言うことだな」
「だが、分の悪い賭けは嫌いじゃない‥‥!」
げふっとその効果で吐血するグリフィス。しかし、銃剣トリストラムでその身を支え、やっと来た機杭「白龍」に手をかける。
「来たれ白龍。どんな装甲だろうと、この白き角で撃ち貫くのみ!!」
肉薄するグリフィスの機体。接触状態となったそこから、体を入れ替えるように、ティグレスが背後へと回り込む。
「させるか! 貴様の後ろを取るのは俺のほうだ」
「良いだろう。受け止めてやるっ」
グリフィスが正面を向いた。受け止める格好となったそれに、ティグレスは満足げに問いかける。
「ほほう。耐えるつもりか」
「こっちは装甲過多が自慢でね。零距離‥‥取ったぞ!!」
がっちりと、ティグレスの機体へと食い込む白龍。しかし、ティグレスの槍もまた、グリフィスの機体を捕らえていた。ライフがじりじりと削られていくが、その鎧は伊達や酔狂ではないのか、ティグレスの方がわずかに上回っている。それでも、グリフィスは攻撃の手を緩めない。
「その為の特注品だ。一撃必殺! パイルバンカー!!」
刹那、その背中にPRMシステムが立ち上がった。それは、根元の黒い外へ向かって深紅となる翼となり、彼の持つ白龍に強弾撃をブーストさせる。
結果、オーバーキルとなったその一戦に、シロウから問われたミクは、何故か顔を赤らめていたと言う。
そうして、黒の騎士団を退けた直後。
「ふがいない。何が黒騎士よ。こうなったら、私が自ら手を下すしかありませんわね」
頭上からセイナの声がした。見上げてみれば、城から舞い降りるセイナの姿。その背には、青い翼が生えている。くすくすと微笑み、彼女が地面へ着く前に、カードを抜く音。
「魔獣召喚!! あなたの相手は私ですわ」
臨戦態勢を整えたミリハナクにも、セイナは動じない。のほほんとこう言う。
「あらあら。まるで鏡を見ているようですわね」
「それが気に入らないのよ。金髪・黒いドレス・高笑いとかキャラがかぶるのよ! どちらがホンモノか勝負をつけますわよ」
セットアップ! デュエル! と、カードを投げるミリハナク。刹那、周囲の光景が変化する。
「フィールド魔法、ジャングル・ザ・フロントミッション発動!」
ミリハナクが使った魔法。それは、発動している限り、全てのドラゴン族は、召喚しやすくなり、パワーアップすると言うもの。だが、周囲を深い森に囲まれ、セイナは不満げに告げる。
「美しくありませんわね。すべてを凍てつかせる白い世界こそ至上と言うのに」
「生命の躍動を否定するのは、女王に相応しくありませんわ」
呼び出したアンジェリカが、忠誠を誓うようにその身を捧げる。
「ライド。アンジェリカを生贄に、呼び出すは竜牙。その雄雄しき姿にひれ伏せ、いでよ! 破壊の九頭龍・竜牙!」
現れたのは、どこか気品を漂わせる巨大な竜牙。しかしセイナは動じもせず、その巨大な姿を見上げている。
「力押しでは私には勝てませんわよ」
「細かい事は気にしないのよ。いくら策があろうとも、土地ごと砕いてしまえば私の勝ちですもの」
ばごっと大地すら削り取る一撃が、威嚇をするようにセイナへと降り注ぐ。しかし、彼女はその翼と跳躍力によって、城のバルコニーへと移動していた。
「あらあら。血気盛んね」
「なんとでもいいなさいな。チャージ完了。JTFMのマナよ、わたしのぎゃおちゃんに力を!」
みゅいんみゅいみゅいんとパワーが充電される。九頭竜の名を冠されたそれで、城毎吹き飛ばすべく、竜牙は空へと舞い上がる。
しかし。
「大地の力は、ドラゴンに力を与えるもの。しかしそれは同時に、凶気へのフラグ」
「何を言っているのかしら。さぁ、ファイナルターンよ」
合図でもあるかのように、セイナがそう言った。構わずミリハナクはその実へと、荷電粒子の機動をはじめる。
「オフェンスアクセラレーター機動。我が魂の叫びを聞け。咆哮に砕け散れ、荷電粒子砲フルバースト!!」
強烈な光の奔流が、城を砕きにかかる。白一色に染まる視界。だが、その中響いたのは。
「‥‥トラップカード発動。豊かなる魔の川」
静かなるセイナの声。その激しい一撃は、彼女の前に展開した水色のプロテクション魔法によって、後方に受け流されてしまった。城の各所は崩壊している部分もあるが、彼女には傷1つついていない。
「忘れてはいないかしら? ジャングルは森の属性を持つ共に、雨と水の属性を持つ。あなたの炎を防ぐぐらい、たやすい量のね」
そう言えば、ジャングルには豊かな川が流れ、1日に幾度も雨がふり、時に広大な沼を作り出すそれは、破壊の炎とは対極をなすもの。青翼のセイナは、それをたやすく扱う事が出来るらしい。
「そして、水は私に敵対しない」
その奔流を、彼女は竜牙の足元へと流しこんだ。スコール後に見られる大河の奔流が、竜牙を掬い、後方へと押し流してしまう。悲鳴を上げるミリハナク。
「攻撃を受け流し押し流すのは、その水を使いこなせばなればこそ。おいでなさい。我が下僕‥‥リヴァイアサン」
独特のフォルムを持つ古い機体。驚くミリハナクに対して、セイナはこの程度で充分と言った笑みを浮かべている。
「舐められた者ね。竜牙! ディノスケイル!」
「装甲は、貫くばかりが能じゃないのよ。さぁ、はるか水面の果てへと押し流して差し上げますわ」
ディノスケイルで防ぐものの、押し流す効果までは防げない。ダメージはあまり受けなかったが、攻撃を受けやすい体勢になってしまい、そこへセイナの極限まで流れる速度を上げた水の円盤が襲いかかる。
「危ないっ!」
ミリハナクを助けたのは、後方から飛んできた一発の弾丸だった。元々水でしかない円盤は四散し、スコール状に降り注ぐ無害なシャワーとなる。
「敵は1人じゃないって事さ。イメージしろ! これがボクの狙撃デッキだよ」
ガンスリンガーに8.8cm高分子レーザーライフルを搭載したアルテミスの機体は、物理的な装甲をも貫いていた。
「セイナのウォータープロテクションは、水を高速で動かして作り上げるもの。だから、その動きを止めれば、四散するんだよ」
その膝に上には、何故かレンきゅんが納まっている。
「ふふーんだ。レンきゅんの応援を受けた僕は無敵!」
しかし、ぎゅーっと抱き枕状態のレンきゅんをだっこしたアルテミスは、全く動じず、バレットファストで避けると、次の一発をお見舞いする。楽しそうに言う彼に、寺田は眼鏡の位置を直しつつ、不在の理由を告げていた。
「残念ながら、京太郎さんは来ませんよ」
固まるレン。そんなレンをぎゅっと抱き締めるアルテミス。
「やっぱりな。さっきウェストのヤツが、血相変えて飛び出して行ったからな」
ジジィの弁に気がつけば、ドクターの姿がない。どうやら、奴の眼鏡には、京太郎の姿が映し出されているらしいが、その座標は城の奥深くだ。ジジィによれば、以前から研究に興味があった彼が、セイナ側につくのは、充分に考えられる。
「大丈夫。レンくんは僕のものだから。可愛がって上げるよ」
落ち込むレンをなでなでするアルテミス。奪われる心配の無くなった彼は、やけに強気な姿勢でもって、ファランクス・アテナイを展開させた。
「さて、どうしようか? この高分子レーザーライフルは、押し流す前に貫くよ?」
「ならば、場所ごと転移させれば良い話です。その為に、こちらへ引き込んだのですから」
答えたのは、セイナではなく寺田。
「この場合、必要なのは新しき器。古き器は必要なくなります」
いつの間に、そこにいたのだろうか。壊れた塔の影から現れたプロフェッサーが、胸元から1枚のカードを取り出し、彼女の足元へと放り投げる。
「え、きゃあああっ」
籠状となったレーザーが、セイナを包みこんだ。隙間がクリスタル状の物質で覆われ、城の奥へと引きずり込んで行く。
「アルお姉ちゃん、させないでっ」
「わかったよ。いっけぇ、レーザー!」
レンの頼みを受けてアルテミスがレーザーライフルをぶっ放すが、クリスタルの障壁は貫けない。
「彼女を生贄に、次なる扉を開く‥‥。その際に、異なる次元からの客人は、全て消滅する‥‥。ごきげんよう、みなさん」
そのまま、姿を消す寺田。とたん、城そのものが鳴動を始め、真なる姿を現す。それは、巨大な転移装置。タラップと思しき場所を、京太郎と寺田が歩いて行くのがかすかに見えた。どうすれば良いのだろうと、顔を見合わせる一同に、助力を申し出たのは意外な人物だった。
「‥‥案内しよう」
倒されたと思ったティグレスである。同じく生贄になったカラスに肩を貸しつつ、城の方を見上げている。
「いいのですか?」
「勘違いするな。女王を取り戻す為だ」
シロウの問いに、ぷいっと横を向いたまま答える彼。人、それをフラグと言う。
その頃、1人眼鏡を片手に、京太郎を追っていたドクターはと言うと。
「キョータロー君、ソコにいるのは分かっている〜、君の波動はコノ眼鏡に記録されているからね〜」
眼鏡に座標と地図が浮かび上がる。それに従って進んだ先には、転移装置を操作する京太郎の姿があった。
「‥‥邪魔が入ったか。ふむ。ノイズの到着まで30ターンと言ったところだな」
カウントの表記は凡そ5分である。
「それだけあれば充分だね〜。君を倒すなら」
すでに、デッキの解析は済んでいる。その上、特殊召喚により、常に最初から装備された眼鏡は、どうすれば理想的な展開になるのかを、ドクターに教えてくれていた。
「所詮は人の子。だが、やってみるが良いとは言うまいよ。私に取っては、君よりこの実験の方が優先事項だ」
しかし、京太郎はティグレスやカラスとは違う。コアに収められたセイナを中心に、ドクターを無視して再び作業へと取り掛かる。
「無理やりでもこちらをむいてもらうよ。何しろ、我輩は君と戦うため全てを捨てたのだからね〜!」
その刹那、憎悪の意識が赤い孔雀の翼となって出現していた。その姿に、ようやくこちらを認める気になったのか、振り返る京太郎。
「ほう。翼持ちか。だがその程度、この次元にはいくらでもいる。せめて、この程度は出して欲しいものだ」
暗黒の光とでも言うように、闇色に光り輝く羽根は6枚。古の魔王と同じもの。
「羽根の数が強さとは思わない事だね〜。我輩の思考は、既にこのフィールドに展開されているのだから」
ドクターの周囲にもまた、放電管を模したようなエネルギーが広がって行く。計測気のメーターが次々と振り切れ、幾台もの超機械が、ドクターのコントロール下へと置かれていった。
「増幅した電波か‥‥。許容内だな」
「小手調べなのはわかっているよ。本命は、ここからだね〜」
その手に握られたのは、因縁のエネルギーガン。しかし、ドクターの手で強化されたそれは、並みのエネルギーガンよりはるかに強大だ。
「‥‥二度目は、ないぞ」
京太郎が、白衣を閃かせた刹那、入り口のドアが開き、案内された他の面々がなだれ込んで来ていた。
「ドクターさん!」
「‥‥手を出すな」
が、そんな彼らを制するジジィ。状況を一目見て、何をしようとしていたか、察したらしい。
「キャスター君。なかなか分かっているじゃないか〜」
「そうですよね。ヒールトリガーくらいありますよね」
ミリハナクが、自身に言い聞かせる様にそう言った。ジジィは何も答えない。変わりに、ドクターが自身のライフを犠牲にして、その取っておきをご披露する。
「コレが我輩の最後の手!『最凶の伊達眼鏡』と『天空の守護者「天」』をサクリファイス!いでよ、『空飛ぶ要塞「ライディーンXX」』!!」
バニシングナックル装備の雷電改が2体、召喚されていた。その拳が向けられたのは、京太郎自身とその後ろにある転移装置。
「狙いは、これか」
「そう! 巻き込むならば、君も道連れだよ!」
彼を倒す為なら、例え自身の存在すら犠牲にしようとするのだろう。レンが、それを止めようとするが、アルテミスは後ろから彼をがっちりと抱きしめて離さない。
「さぁ、ファイナルターンだ」
満足げに、ドクターが言った。それを合図に、コアとなったセイナが『ゲート』を開く。揺らぎ始めた空間は、ミクたちの所までも及んでいたが、ドクターの眼鏡は戦いの余波で割れており、エラーの赤ランプが点灯中。
「どうやら今回は引き分けと言った所かな」
味方をも巻き込む姿に、京太郎が何かのスイッチを入れた。その瞬間、揺らいだ空間に漆黒の転移穴が開く。
「せ、せめてセイナさんだけでも!」
シロウがその中心部にいたセイナの檻へと手を伸ばした。触れた瞬間、その手が檻のクリスタルを突き抜ける。が、音は聞こえない。何故なら、周囲がてんでばらばらに、元の次元へ戻って行ったから。
「レン君と一緒ならどこだって!」
「ごめん。僕は行けないんだ‥‥」
アルテミスの手を離すレン。次元の融合が進む中、ドクターの笑い声が響いていたのだった‥‥。