●リプレイ本文
世の中、それほど難しくないにも関わらず、難しく考える者は多い。
「ホスピス建設‥‥ですか」
奏歌 アルブレヒト(
gb9003)が言葉を区切るように口にする。ミク・プロイセン(gz0005)は、この沖縄の太陽と同じ明るい表情で、作業状況を告げてくれる。
「今頃、カラスさんとか寺田先生がいっしょーけんめー作ってくれてるぉ」
「そうですか。グリーンランドの一件に関わった者としては‥‥是非‥‥完成させて欲しいですね」
ミクの脳内では、多分寺田とカラスが肉体労働に励んでいる図が浮かんでいるのだろうが、奏歌は全く気にせず、工事の完了を願う。
「せやけど、強化人間を捕らえる事に、ほんまに意味があるんかなぁ」
「でも、このままだとあのマンゴー畑がダメになっちゃうぉ」
怪訝そうに周囲を見回す月見里 由香里(
gc6651)ことゆかりんに、ミクはそう言った。確かに、手入れをされない畑は何れ荒れ、貴重な食料を失う羽目になる。
「そやなー。うちにはよう分からへんけど、実際に迷惑しとる御仁らが居る以上、退治はせんといけませんわな。うちも微力を尽くさせて頂きます」
「よろしくだぉ」
結果はともかく、被害は確かなので、ゆかりんはそう言ってくれた。
「そろそろでござるよ」
何故かサムライ口調になった鈴葉・シロウ(
ga4772)が、覚醒後の白熊姿で、目的地を指し示す。目をぱちくりさせるミク。
「シコン買っちゃったシロウさんが、サムライになっちゃったぉ」
「ミク殿、そこはシコンではなく、士魂と書いてほしいでござる」
一応ドイツ系なので、日本語には不自由な部分もあるのだろう。めもめもと『SHIKON=士魂』と書いているミクちー。
「うーん。やっぱり実戦になると違うのかなぁ」
KVで実戦に出るのが始めてと言うトゥリムが、首をかしげている。ヒューイ・焔(
ga8434)は「あれは特別だ」と、例外である事を教えてくれた。
「そっか。なら、こんなもんで良いかな」
KVは、小さいトゥリム(
gc6022)の体に合わせる為に、コックピット内を大幅に改造してある。それは良いのだが、今まで模擬戦以外ではなかなか使う気にはなれなかった。
しかし。
「いつまでも、苦手意識じゃダメ‥‥だもんね」
先の大規模作戦でブライトンが宇宙に去った以上、KVを使いこなせなければ後々困ることになると考えた彼女。この依頼なら、比較的簡単に実戦訓練が出来る‥‥筈。
「しかし、趣味の悪いワームやね。作った御仁の顔が見てみたいものや」
ゆかりんが呆れているのも通りで、さっきから周囲にはマンゴーの甘ったるい匂いが漂いまくっていて、少し気持ちが悪い。
「あそこに見えてるぉ」
ミクが指し示した場所、そこには。
「立て、立つんだJOE−! いや、なんでもない」
海岸で、何故かそんな事を言いながらくわえ煙草を燻らすUNKNOWN(
ga4276)がいた。
「間違えないで下さい。あれは、不明さん」
奏歌が参加者リストを確認しつつ、それとは反対側を指し示す。
「ひゃっはー!」
マンゴー、指差した先で絶賛大暴れ中。
「‥‥納得しましたわ」
「ええ。‥‥あれは‥‥洗脳の影響なのか‥‥元からなのか‥‥判断に迷う所ですね」
ぷしゅぷしゅとオレンジ色の粉のようなものが噴霧されている所を見ると、明らかに人類じゃない技術が入っているが、ゆかりんも奏歌も、戸惑っているようだ。
「あれを無力化しなきゃいけないんだ‥‥。中の人は殺しちゃいけないし‥‥」
「新型の慣熟してたら、敵型に完熟が出てきたで御座る」
戸惑っているのは、トゥリムとシロウも同じだ。そんな傭兵達に、ミクはにっこり笑顔で「あまり深く考えると、お腹壊すぉ」とアドバイスするのだった。
相談の結果、作戦は、男女に分かれて行う事になった。
「スコープは正常に作動中‥‥」
少し離れた場所で、その男性陣からの合図を待ちつつ、スコープシステムの具合を確かめるトゥリム。モニターには、くっきりはっきりマンゴー頭とマンゴーワーム、それに焔とシロウのKVが映し出されている。
「しかし、畑に人が寝落ちしているとはおもわなんだ」
さすがにラスホプではないので、青いシールは貼り付けられていないが、都合10人ほどの人々が、畑でお昼寝状態になっている。苦しんでいる様子はないので、命が危険でピンチなわけではなさそうだが。
「よし、では思い切り挑発的なのでいこうか」
それ以外に、人がいないと言うのを確かめたシロウが、女性陣の位置を確かめて、おもむろに胸のボタンを外す。
「こらこらこらこら、どんな挑発だー!」
思わずツッコミを入れる焔。と、彼は怪訝そうな顔をして、当然と言った一言を告げる。
「いや、だから挑発だろう?」
説明しようっ!
そこには、胸元を肌蹴させた白熊が「ちょっとだけよ」的アッハンなポーズを取っていた。
「それは相手が俺達を視認してからだ。もう少し近付いてから、クライマックスで釣り上げる」
「心得た」
そんな美味いモンを、ここで不発にさせるのは勿体無いのか、焔は経験に基づいた的確なアドバイスをくれる。
「あと、後ろに女性陣がいるので、カメラにモザイクはかけておくといい。解除コードをミクちゃんに渡しておいたから、好きな奴は参照コピってくだろうし」
つまり、回りの被害を最小限に止める工夫をしてから脱げと言う事だ。
「それもそうだな。距離、相当縮まってきたぞ」
「海岸まで引っ張る。行くぞ」
畑から頭1個つきだす2機のKV。その、沖縄マンゴー畑に不相応な姿に、マンゴー頭が不適に言い放つ。
「ふはははは。現れたな傭兵ども! って、なんで二人しかおらんねん!」
「マンゴーごとき、この士魂で充分でござる!」
ふんぞり返るシロウ。風防からわずかに見える覚醒後の姿に、マンゴー頭が茹でられる。
「えぇい、パンダが何を言うか!」
「シロクマでござる! シ ロ ク マ !」
大事な事なので、2回。
「久しぶりだな、マンゴーのおっさん!」
そのシロクマ‥‥もといシロウを相手にしている間に、すぐ手の届く場所に、焔が現れる。
「貴様は、この間も俺の邪魔しくさった炎の変態仮面!」
「変態は余計だ! こんな下らない事してないで、こっち側に来ないか?」
ぐいっとヘッド部分を突きつけて、説得と言う名のお誘いをかける焔。マンゴー頭、徐々に頭が熟してくる。
「くだらないだと! きさま、このぱーふぇくつな作戦をなんだと心得る!」
「穴だらけなんだよ。こっち側に来てくれるんなら、今なら悪い様にはされないと思うぜ」
1拍置いて。
「例えば?」
まさか奏返されると思ってなかった焔、言葉に詰まる。
「え、えーと‥‥。さんしょく昼寝つき」
「お姉ちゃんと美少年と、あと1つは‥‥なんだ?」
そのさんしょくじゃねぇーよと言うツッコミを心の中に浮かべつつ、「男の娘じゃね」と、和やかに答えてしまう焔。
「いやそれおねーちゃん枠だろう。つか、何でそっちに走るんだ」
「翻訳機がおかしいのはお前の機体だー!」
元々アフリカの方にいたマンゴー頭と、ラスホプの面々が話通じるのは、機体に取り付けられた翻訳機のおかげなんだが、どうもそれが悪さしているようで。
「え? ア、アレ〜 挑発?」
翻訳機は正常なシロウが、そのズレに首を傾げつつ、例のポーズを取りつつ、海岸の方向を指し示す。
「やるなら場所を移そう、マンゴー畑が瓦礫の山で埋もれるのはあんたもいやだろ?」
「マンゴーはどうでもいいが、貴様の話には興味がある。追いかけさせて貰うぞっ」
足元の人々に気をつけつつ、2機のKVとタロスは、青い海をめがけて並行ダッシュを開始する。時折マンゴー頭の上を、適当な挑発がぶっ飛んで行くが、お互い致命的な事にはなっていない。
「‥‥陽動の成功を確認。‥‥行動を開始します」
その狼煙じみた攻撃に、作戦領域高空にいた奏歌が、降下を開始するのだった。
で。
沖縄の海岸。
青い空!
白い砂!
マリンブルー!
お約束の三点セットの中心にいたのは、つや消しブラックな不明の機体だった。
「って、どう言うことだ貴様ァァァ!」
「引っかかったな。場所を移そうとは言ったが、内容は言ってないっ」
ふんぞり返る焔。海の上であかんベーをするようにざぶざぶと入って行く。で、追いかけるマンゴー頭に対し、すばやく立ちふさがる不明機。
「‥‥‥‥パワーストーン。拳で語り合おうじゃないか」
幸いと言うか、焔の誘導により、周囲に人気は欠片もない。時間の都合上、夕陽はまだ来ないが、へいかまーんと指先ちょいちょい挑発する不明さん。
「おまいと拳で語る気なんぞないっ」
「えぇい。涙橋を忘れたか」
反論するマンゴーに、どこのマンガ喫茶で全巻読破してきたんだが、某ボクサーマンガごっこをはじめる不明さん。
「何の話だっ!! 俺ここ初めてだしっ」
「じゃあやさしくしてね」
「断 る !」
当然の事ながら、交渉は決裂していた。
「ならば仕方がない。フフーフ。さぁスピリット・オブ・サムライよ。お前の力を私に教えてくれ。今こそあのマンゴーを慣熱にしてくれるわぁっ」
完熟から焼きマンゴーにするべく、足元を踏み入れるシロウ。足運びも、接地具合も、感覚としては剣の実習を受けている時と大差ない。腕の速さは、流石に新鋭機だけあって動き易いが、その分デリケートなのか、ダイレクトに衝撃が伝わってくる。
「ああ忙しい忙しい」
シロクマなのに白兎のセリフをはきつつ、あちこちのレバーを操作するシロウ。九尾のスタビライザーが輝く。
「シロクマの‥‥一撃!」
ぐぃんと水面で戦う武者のように、スタビライザーががしゃりと動いた。それでも、相手はタロスなせいで、1人ではスキルを全て使えるほどではない。
「これで決着だ‥‥おっさん!!」
そう言うと、ブーストを吹かして、焔がマンゴー頭の懐へと突撃していく。乱戦に持ち込み、フレーム「ネーベル」の効果で、相手のレーダーを撹乱させようとするが、そこは問屋が大根おろし。
「えぇい、卑怯な。マンゴーの眠り粉を食らえッ」
ぶしゅっとオレンジ色の粉が舞う。
「させるかよっ」
気合いで耐える焔。ちょっと寝起きの気分で、コクピット以外を狙う。
「そんなものか、お前の力は」
で、そこへ3人目。不明がボクシングスタイルで持って、腕や頭を拳でドツいていた。
「横槍を入れるなー!」
「槍じゃなくて拳だが‥‥いいパンチだ」
一応コクピットがあるらしい場所は避けられているが、それにしても拳がでかすぎる。遠近感とかガン無視だ。
「これ‥‥、攻撃いると思いますか‥‥?」
その、KIAI遠近法でたこ殴りの状態を、上からぐりぐりと観察していた奏歌、援護を嘆いているようだ。
「一応、援護した方がええんちゃう? 自信ないけど」
マンゴー頭は目の前の連中に気を取られて、多分気付いていない。そう判断し、特殊電子波長β+の起動を開始する。
「了解。追い立てます」
そう言うと、奏歌は陸地側から海側へと攻撃していた。どしゅどしゅと地面にミサイルポッドが突き刺さる中、マンゴー頭が後方に怒鳴りつけていた。
「こらぁぁぁっ! 空から何をする! えぇい、HWどもめ。仕事しろ!」
そこへ、わらわらと現れるマンゴーワーム。海辺から畑へ向かうような動きをしてきたそれに、奏歌は、構わずマンゴー頭ごとミサイルポッドを攻撃していた。本当は、手足と背部スラスターを狙いたかったが、HWを優先していると、そこまで狙いが定まらない。
「当たれば、平気っ」
機盾「ウル」でもって、その粉を防ぎつつ、ピアッシングキャノンを撃つトゥリム。ちょっとばかり慎重すぎる気もするが、そこは初心者なので仕方がないと行ったところだろう。
「じゃ、こっちも仕事するで。空戦はおまかせや」
そんな彼女をフォローする為、誘導弾で攻撃を掛けるゆかりん、3方に囲まれたマンゴーワームが身動き取れない間に、距離を詰め、弾幕のように一撃を食らわせると、そのまま後方へと退く。
「弾切れ? いや、なら、こっち!」
ピアッシングキャノンを撃ち終わったトゥリムは。そのままリロードをせず、腕のキャノンを収納して、ライトディフェンダーへと持ち替えた。が、ワームはその隙を見逃さず、攻撃してくる。
「だぁぁっ。うっとぉしいいい!!」
粉が、舞った。上空の奏歌は、範囲外へと距離を取る。その間に、ゆかりんが流れ弾がトゥリムにいかないよう注意しつつも、援護射撃を放っていた。
「降りて来い、チキンドモメー!」
「うちの『貪狼』は生き残ってさえいれば、仲間の援護になるんやし、身の程をわきまえた戦い方に徹しさせて頂きますわ」
マンゴーがドツかれながらぶんぶんと腕を振り回しているが、ゆかりんは知ったこっちゃない。
「ならばこうだっ!」
マンゴー頭の命令で、マンゴーワームの足元がふわりと浮き上がる。相変わらず重力を無視した動きだったが、危険と判断したのは当の本人達ばかりではなかった。
「あぶないでござるー!」
シロウがそう言って、装備された種子島をぶっ放す。がくんっと地面に落ちたそれに、ツインブレイドがお見舞いされた。
「って、そこからだと卑怯だぞー!」
「ふふ、この外見で翼なのは九尾のうち八、フフ、さぁどうなるのよ」
で、今度は士魂が空に上がろうとするが、いかんせん滑走路が短くて不発。だって海岸だもの。
「ああー。浪漫の確認が!」
その間に、マンゴー頭がドツキ倒されたのは言うまでもない。
捕縛用の輸送ヘリが現れたのは、ぶっ壊されたタロスから、マンゴー頭が引きずり出された直後の事だ。
「‥‥投降して下さい。‥‥投降しなくても‥‥捕縛しますが」
「くうっ」
奏歌に、ズタボロの状態で乙女桜をつきつけられて返す言葉のないマンゴー頭。
「おっさんに会いたいと言っている人がいる、一緒に来てもらうぜ」
「また野郎だろ」
訳知り顔で、そう誘う焔に、マンゴー頭はじと目で言い返す。どうやらバレているようだ!
「友よ、いい勝負だった」
「マンゴー‥‥マンゴー‥‥」
もっとも、不明がコクピットから冷たい目でぎろりと無言の圧力をかけ、台無しになっちゃったマンゴーの恨みとばかりに。トゥリムが詰め寄っている。
「くそう。このままではっ。いずれ内部から破壊しつくしてくれる!」
「少年院で、明日の為に、片目のおっさんに習うんだな。白いマットのジャングルで、また会える、と思っておこう」
連行されて行く彼に、不明がそう言った。「混ざってるぞー!」と遠くから聞こえてきたのは、気のせいじゃないに違いない。