●リプレイ本文
沖縄の海岸に、今日も笑い声が響く。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)の白衣が海風ではためく中、続々と参加の傭兵達が現れていた。と、優雅にお茶を飲んでいたミリハナク(
gc4008)さん、隅っこの影に徹しているアルヴァイム(
ga5051)に、静かにこう言った。
「細かい事は黒子さんよろしく」
協力はしますけれど。と前置きする彼女。お嬢さまは細かいことにはこだわらないおおらかな方のようだ。
「何故俺に振る‥‥」
「丸投げ」
きりっと宣言されて、頭を抱える黒子さん。極力縁の下に潜みたいらしい彼は、それでもなお事前情報とやらをモニターに広げた。
「だからこっちみんな。活動範囲はこんな感じだと思うが」
海側から徐々に浜へと上げていく作戦だった。追い込み漁にも似たその戦法は、今まで何度も行っているもの。手薄な所には対応にあたる旨を聞かされて、ドクターが納得したように告げる。
「ふむ。妥当な判断だね〜」
「広域捜索だからな。連絡は怠らないように」
友軍との情報交換は定期的に行うよう徹底させる彼。
「可能ならやっておくよ〜」
「それと、致命的な状況にならない限りは、環境にも配慮をお願いしますよ」
特にドクターは研究の為に無茶をする傾向がある。バグアとの決戦も近い今、後々の事も視野に入れなければなるまい。
「敵も探しに来るくらいだから重要な物なのだろうけど、砕けてしまった上、現地の生物に拾われてしまうとは。
生き物を傷付けるのは気が進まないし、穏便にすませたいけれど‥‥」
常 雲雁(
gb3000)もそう言った。モニターの中では、イルカがきらきらしたパーツを咥えて水中へと潜る所だ。確かに、砕けている。
「あー‥‥持って行っちゃった‥‥? 仕方ないなぁ、バグアに怪我させられる前に回収しなきゃだね」
はぁっとユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)がため息をつく。そんな光景を見た終夜・無月(
ga3084)が言い出したのは。
「地球の意思かな‥‥」
「ないない」
アンジェラ・D.S.(
gb3967)のツッコミに全員の首がシンクロする。
「ふむ。生物学者として言わせて貰えば、ナマコはかなり強い生命力を持っていて、強い刺激を受けるとキュビエ器官や内臓を放って、ソノ隙に逃げるのだが、失った内臓も2、3ヶ月で再生してしまうのだよ〜」
そんな中、ドクターが動物的な特徴を示してくれた。
「カジキマグロは強靭な筋肉で生み出す推進力と、ソシテ鋭い吻(ふん)だね〜。メトロニウムはどうか分からないが、小型船程度ならたやすく貫いてしまうぞ〜」
なんだか動物番組みたいな講義になりつつある。黒子がそれを情報として各位の端末にまとめていた。白衣なのをいい事に、指示棒を手に、ホワイトボードをてしぺしする。
「イルカは頭がいいとされるが、ソレを言うなら牛や豚にだって脳はあるのだから何か考えているはずだがね〜」
「でも、可愛いよな」
ユーリがにこりと微笑む。クールな口調だが、優しげな表情の彼はイルカさんスキーのようだ。
「カメ‥‥、ガメ○‥‥、あ、いや、水中では結構素早く泳ぐから気をつけたまえ〜」
一方のドクターはと言えば、空飛ぶ方の亀さんを思い浮かべているらしい。そんな物はタートルワームで充分だ。
「やっぱり地球の意思‥‥」
ぼそっと行った一言に反応する無月。全員からやっぱり「だから違うって!」とツッコミが入るのだった。
まず、水底から攻める事になった。
「この辺かなぁ。マグロだから、結構深い所にいると思うんだけど‥‥」
常が周囲を見回しながら探索を続けている。事前に黒子から回してもらった周辺地形では、今いるあたりが一番水深がある。しかし、障害物となるような岩場も多かった。魚達の寝床にはなっているらしく、漁礁と化したそこには、小魚達が群れている。
「餌を鼻でつついて遊ぶって、ドクターの話だったよね」
その小魚達は、普段ならば大型肉食魚であるカジキマグロにしてみれば、ランチやディナーである。と、護衛としてついてきたアンジェラがこう言った。
「障害物とかに居るわけじゃないから、むしろ平たい所なのかなぁ」
「そう言うのなさそうだけど‥‥。っと、おいでなすったかな」
その彼女が見つけたのは、捜索を続けているらしいHW達。その特徴的な姿は、やはり同じドライブレコーダーを探しているに違いない。見れば、その先に銀色に光る魚体。
「あ、マグロ見付け」
幸いな事に、HW達はまだ気付いていない。くるりとアンジェラが姿勢を変えた。
「よし、私が囮になるわ。コールサイン『DameAngel』‥‥これよりドライブレコーダー捜索のフォローに勤しむわね」
「お願い、します。さて、こっちは‥‥と」
ぐるりと方向を帰るアンジェラを見送りつつ、常はカジキを追った。ソナーブイもKVセンサーも、ジャミングはされながらも、カジキの魚影を捉えていた。
「みーつけたっと」
その魚影を注視していると、魚を追いかけてどんどん深みへと潜って行った。ただし、自分の身に何があるのかは、まだ気付いていないようだ。
「どう? 持ってる?」
「ばっちり鼻先に引っかかってるな。そっちは?」
通信でぶっ飛んできたアンジェラに、そう答える常。
『まだ見つかっては居ないけれど‥‥。時間の問題かな。気にせず追いかけちゃって!』
「了解。さぁ、おいかけっこの開始だ。ゲームをはじめようか」
向こうは向こうで忙しいらしい。その間に、常は相手の自慢のスピードを塞ぐように、前へと回りこむ。イカに魚類最高級のスピードを誇ると行っても、KVのそれに勝るほどではない。
「いい子だ。そのまま大人しくしていろよ‥‥」
ゆっくりと近付いていく。気配を殺すなんて、KVで出来るか分からないけど。それでも常は相手の動きを封じるように、海底の岩場へと追い込もうと下のだが。
そこにいたのは‥‥しばしばカジキを取り合うライバルの魚類。ぎらりと並んだ幾つもの刃。キメラの材料にもされることの多い不遇な存在‥‥巨大鮫だ。
「‥‥しまった!」
お腹をすかせていたのだろう。カジキを昼ご飯にしようとする鮫さん。カジキは慌ててくるりと身体を開店させ、必死で逃走開始
「ああっ。そっちはだめだ!」
追いかける鮫と、さらにそれを追いかける常。方や全力疾走するカジキ。お互い命がけなんだから、ある意味仕方がない。
「‥‥気は進まないけど、やるしかないか‥‥」
本当は、驚かすだけが目的だったガトリングガンを取り出す常。ぴたりと狙いを定めたのは、鮫の鼻先だ。
「魚類って言ったって、鮫は食べられないからなぁ。成仏してくれよ」
申し訳ないように、その引き金を絞る常。ばしゅばしゅばしゅっと空気の尾をひくその命中精度は高くない。逃げ惑う鮫達の中を進み、常は同じ様に逃げているカジキマグロの鼻先をはっしと掴む。
「刺さないで、くれよっ」
そう願い、引っかかったドライブレコーダーをひっぺがして。
「やれやれ。何とか殺さずに済んだか‥‥」
手に残った機械の欠片を見て、ほっと胸を撫で下ろす常。カジキと鮫は、人の子の攻勢に、点でバラバラの方向へと逃げるのだった。
鮫が、意外とデリケートな生き物と知ったのは、それからだいぶたってからである。
その頃、捕獲用ヘルメットワームを追いかけ、牽制していたアンジェラはと言うと。
「見つかった?」
「慌てないで。まだ交戦していない。対応、出来るから」
戦域内で合流した無月と共に、岩場の影に潜んでいた。少し足元を蹴れば浮上できる距離。人のサイズに直せば、だいたい水深3mと言った所か。KVに載っている今は、その数倍は深いのだが。
「‥‥回りこむ。左の、お願い」
「浅瀬から回ります。追い込んでください」
数匹いるワーム達。どれも、捜索地域を浅瀬に絞ってきたらしい。そりゃあ、鮫とどんぱちしてたのだから、気付いて当たり前と言う奴だろう。
「簡単に言ってくれるわね。こっちは半分だってのに」
「水の抵抗がありますから‥‥」
アンジェラに柔らかくそう答える無月。そう言う彼は、水中装備ナシと言う危険がピンチな状態だが、そもそも元々の機体能力が他と文字通りひとけた違うので、特に問題はないようだ。
『出来るだろう?』
「ええ、大丈夫です」
周辺の哨戒網の概念図を上げてきた黒子に、そう答える無月。
「他の面々も被害を出さなければいいのだがな‥‥」
その黒子は、あちこちで起こりはじめたおいかけっこを危惧していた。足元には、豊かな自然が氷魚がっている。戦にその気遣いは無用なのかもしれないが、それでも壊されたものは、そう簡単に戻らない。ゆえに、黒子は慎重に事をあたらせるようにしていた。
「そっちは?」
「魚雷禁止って聞いてないですわっ。せっかく大型のを持って来たのにぃ!」
ミリハナクがぶつぶつと文句を垂れ流している。大型魚雷を持ち込んだものの、周囲に影響が出すぎるので、今だに使うタイミングを見切れないでいた。
「ああん。私だってたまには海戦を楽しみたいんですの!」
適当な所にKVソナーブイを設置して、周囲を警戒しているミリハナク。敵戦力の把握は済んでいるが、対応する武器が使用禁止ときたもんだ。
『おちつけ。俺は周囲に被害をだすなと言っているだけだ』
「それもそうですわね。ならば、こっちへ!」
ぐいんとヘルメットワームの前へと飛び出すミリハナク。ワーム達は驚いたようだが、すぐに敵襲と悟り、後を追いかける。硬いだけのそれはそれほど早くない。おかげで、周囲の浅瀬に潜んでいたアンジェラと無月が回りこむ事が出来た。
「行かせませんよ‥‥」
前から回りこむミリハナクの援護をするように、ばしゅばしゅと水しぶきが踊る。邪魔をされ、動きが止まる中リロードし。更なる傘ねがけ。そんな、浅瀬で始まった撃ち合いは、海岸からも良く見えていた。
「派手にやっているようだね〜」
時折、水柱が上がっているのを遠目にみつつ、リヴァイアサンに乗ったドクターは、よっこいせとメトロニウムシャベルを浜へと突き刺した。
『そっちはどうです?』
「順調だよ。我輩の心配より、自分の作業を進めたまえ〜」
よいせっと掘り返すそのシャベルには、いくつものナマコがぷるぷるしている。小刻みに振動させて砂を落として見ると、生体の都合かすぐに化けの皮がはがれている。だが、今回は外れのようだ。
「まぁ、順調とは言え、能力者に手伝えとも言いたくないしね〜。おや?」
その作業を繰り返すドクター。浜は延々と続いており、いかにKVで、電波増強をしているといえど作業は果てしない。と、一際大きな水柱が洋上へと上がっていた。
「信用はしていないが、手伝う事はできるからねぇ。持ってきて正解かな」
じゃきりとスラスターライフルの銃口を向けるドクター。ここでは、この程度で充分だと言わんばかりに、その水柱の向こう側へと乱射する。と、刹那、ミリハナクの機体が水中へと潜っていた。
「ふむ‥‥どうやら、向こうでも追いついたようだねぇ。これは必要なさそうだ」
そう言って、水中用アサルトライフルを片付けるドクター。再びメトロニウムシャベルで掘り返す。
ひじょーにぢみな絵であった。
その頃、イルカを追いかけるユーリはと言うと。
「ほら、こっちだよ〜」
イェルムンガルに乗り、ゆっくりと水上を併走するユーリ。船を追いかける事もあるイルカだ。これくらいの大きさと形なら好奇心を抱いてくれるかもしれないと、水面に顔を出していたのだが。
「ああ、待って〜。こっちは水面から下には入れないんだからさ〜」
イルカはだんだんと深い所に進んでいこうとする。機体ハッチの都合上、水面上に出ないとコクピットが水没するユーリは、仰向けでたゆたいながら、グッドラックを使っていた。
「そっちは戦闘してるんだからだめだよぉ〜」
この海域のイルカは人と泳いでくれる逸話がたくさんある。のんびりと声をかけると、イルカさんは少し動きを止めてくるりと回れ右。
「待って〜」
まだ欠片は咥えたままだ。戦闘は他に任せて、ゆっくりと追いかける。巻き込まれるのをさけるように、戦域外へ。その位置は、逐一黒子宛に報告していた。
「そこから30度ずれてくれ」
「わかりました」
黒子の指示に、モニターを向ければ、その先にカメを追いかけるアンジェラの姿がある。
「待ちなさいよ〜」
行き先を海岸方面に誘導するつもりなのか、深みの方から追い上げていくアンジェラ。後ろから追随するものの、軽くパニックを起こしているらしいカメさんは、あらぬ方向へと逃げていこうとする。進行方向にいたユーリが、機体を浮かべながら、進路を指定してきた。
「回収済んだら連絡するから、その間できるだけこっちに近寄らせないで」
「わかってますけど、意外と早いんですもの!」
何しろ、そこにはミリハナクがヘルメットワームとバトル中である。大型魚雷はまだ使用許可がでない。アンジェラもそれは同じだ。
「こっちだってカメも逃げ足早いですし! 海岸まで誘導したいのに、浅瀬で戦ってて近づけないですわっ」
こっちが狙われたら庇うつもりではいたものの、うっかり武器を使うと巻き込んでしまいそうだ。射線を気にして、中々前には進めない。ワームそのものは、無月が相手をしているので、被害は増えていないのだが。
「皆、海岸に向かってますからねぇ。違うのは、マグロ組くらいですか〜」
「入り江が狭いなんて聞いてないわよぉ!」
黒子から渡された深度は、本部の報告書にはなかったものだ。現地にいかなければわからない情報である。
「1匹、そっち行った。迎撃を頼む」
その黒子が警告を告げてくる。見れば、手数の足りないワームがカニを撒き散らしつつ、カメを狙っているところだ。
「って、カニキメラが溢れてるってのにぃ。ああもう、邪魔!」
ミリハナクが痺れを切らして70式多連装大型魚雷をばしゅばしゅばしゅっとたたき込む。
「巻き込んじゃらめぇ! 射線考えてよぉ!」
「分かってますけどぉっ。ああもう、じゃあこれでいんでしょ! 近接で解体処理しますわよっ。たまには海鮮を楽しみたいんですの♪」
ふっきれたらしい。魚雷をばらまくミリハナクに、ワームの攻撃がそちらにそれた。カメはと言うと、その好きに反対側へと逃げていく。
「だーっ!! カメ待ってェェェェ!!」
「おっきいカニさんは私のものですわぁぁぁ!!」
今日も水中に盛大な魚雷の花が咲く。水上に、盛大な水柱が上がった。
「ううむ。中々本物に出会わないねぇ」
陸上のドクターと言えば、その水柱をBGMに、ナマコを掘り返しまくっている。見つけ易いように強化してはいるが、掘り返すナマコはどれも外ればかり。
結局、全てのパーツが揃ったのは、日もだいぶ暮れてからの事であった。