●リプレイ本文
ともかく、状況がわかりにくい‥‥と大曽根櫻(
ga0005)が言うので、まず手分けして情報収集を行う事になった。そうすれば、予測も立てやすいだろうと言う魂胆である。
話は地上A班‥‥フォル=アヴィン(
ga6258)、ナレイン・フェルド(
ga0506)、リーゼロッテ・御剣(
ga5669)のチームから始まる。フォルがミク・プロイセン(gz0005)にケーキ奢るからと言ってまで、通信機を所望したのだが、やはり余り性能の良いものは回ってこない。オマケに、渡された見取り図は手書き。バイクはほぼ希望どおりのものを調達できたのだが、肝心の佐渡京太郎なる人物のデータが、殆ど手に入らなかった。どうやら、何者かの手によって、データが改ざんされていたらしい。
「よし、これでOKね。あとはブランケットかぶって、大人しくしてて頂戴ね」
トラックの荷台に、人型にしたまま座らせるナレイン。中身と同じ様に、いかにも女性らしく正座を崩したKVを見て、そう微笑みかける。
「ニルヴァーナ、私が帰ってくるまでいい子にしててね♪」
一方、リーゼもまた、自分の愛機をひと撫ですると、トラックへと戻ってきた。持って行くKVは1機だけだが、他のKVも出来るだけ近くに置いておきたい‥‥と主張すると、名古屋郊外にあるUPC基地の倉庫に置かせてくれた。
「すぐには駆けつけられませんけど、ね」
残念そうにそう言うリーゼ。飛び立ってからの距離は近いが、そこまでたどり着くまで、若干時間がかかりそうだ。
「まぁ良いじゃない。ないよりマシよ。それで、どこ行くの?」
無線機から、バイクのナレインがそう言ってきた。物資の都合で、ナビなんぞ付いていない。なので、地道に聞き込みをするしかない。
「一番近くの公園から行きましょう。この先の小学校です」
指示を受け、先ほど見た地図を思い出す彼。確か、広い通りの三つ目の角だ。大戦に備えて、道は加工されているものもあるが、避難場所とスクールゾーンくらい、そのままだろうと。
「いたいた。さて、じゃあお姉さんの腕の見せ所ね」
彼を追い、トラックを止めたリーゼが、シェルターの入り口で作業をしていたらしいUPCの係員に声をかける。
「そこのお兄さん達〜ちょっと聞きたいことあるんだけどな〜♪」
そう言ってウィンクしつつ、胸が大きく見えるように腕を組み、話を聞こうとするリーゼ。
「怪しいトラックねぇ‥‥」
一応、一般市民はシェルターに避難している筈なので、残っているのは傭兵かUPCの中の人か、バグアの手先と言う事になる。
「どうだった?」
「トラックとか、例のお兄さん達については、よくわからなかったわ」
ナレインに首を横に振るリーゼ。いかに隠密潜行は、気配を隠すシロモノであって、何か見つけ出すものではないと言ったところか。
「ミクと一緒に、佐渡の目撃場所に行った方が良いか‥‥。何か発見出来るかもしれないしな‥‥」
フォルはそう言うと、画像に移っていた場所へと向かった。そして、その画像に映りこんでいた地面へ目を凝らす。
「あったあった。残ってると良いが」
落ちていた紙を拾い上げる北柴。しかし、その表面の文字は既にかすれていて、殆ど読めない。
「んー? これは暗号? いや、化学式かな?」
何やら文字らしきものが書かれているのはわかった。とりあえず、解析する為、トラックへと戻る。
「あ、おかえり。あのね、シェルターついてた不振物は、吸気口に取り付けられてたんで、まとめて倉庫の方に送られたみたい」
そう答えるリーゼ。ちょうど良いって言うんで、Aチームは、倉庫へと戻ってくる。搬入口で検査を受けたらしいそれが運ばれた先にあったのは。
「こ〜言うのって素人が勝手に触らない方がいいのよね? プロの方にお任せしちゃいましょ♪」
「そうだな。頼めるか?」
ナレインとフォルの申し出に、こくんと頷く彼女。そこらへんに転がっていた工具で、てきぱきと解体にかかる。
「これは‥‥」
中に入っていたもの。それは、使用が禁止されている、ある液体だった。
その話は、すぐさま地上班B‥‥櫻、沢辺 朋宏(
ga4488)、北柴 航三郎(
ga4410)に伝えられた。
「何? 吸気口に仕掛けられてたのは、怪しい液体入りの物体?」
「うん、そーなんだー。今、詳しい組成とか調べてるけど、シェルター閉鎖空間だから、もしこれがそーゆーものだと、中の人危ないって」
北柴に、ミクがそう説明してくれる。機械の見付かった場所を、地図に書き加えて行く彼。
「見つかった場所に案内していただけますか?」
「いいお。でも、多分もう何も残ってないと思うよ」
一応上官なので、沢辺がそう言う。が、ミクは快くそう言って、バイクの後ろに勝手に跨ってしまった。
「先行します。後で付いて着てくださいね」
中型モトクロスタイプ。住民の避難した町では、さえぎるものは少ない。
「KV、使う事になるでしょうか‥‥」
「わかりませんね。この状況だと、街中では使わないかもしれません」
櫻が、荷台に積んだ自分のKVを心配している。一応、上空から発見したら連絡を受ける事にはなっていたが。
「使うのであれば、今の内に整備しておいた方がよろしいでしょうか‥‥」
「倉庫を出るときに、一通り見てはもらっています。大丈夫でしょう」
心配そうに荷台を見る櫻に、北柴は首を横に振る。トラックで輸送した程度で傷つくような精密機械なら、端からバグアとやりあったり出来ないと。
「あー、そうそう。その先、前パトカーが居ましたよ」
「へっ。あ、じゃあ道変えますね」
地元民らしき櫻の指示で、慌ててハンドルをきる北柴。途中、曲がりきれずに荷台のあたりをがりがりとこすってしまったが、余り気にしていないようだ。
「大丈夫か? 何なら変わるが」
「いやー、ロボットよりは簡単だと思いますよ。はい」
バイクから、そう声をかけてくる沢辺。だが、彼は首を横に振った。若干冷や汗が浮かんでいるのにはわけがある。
北柴、大型は無免だ。
「大型持って無いけど良いかな‥‥」
「咎める人、いないですけどね‥‥」
皆、避難誘導やらパトロールやらで忙しい。それに、明らかにKVを搭載しているトラックを、UPCが止めるわけがない。
「さて、怪しそうな場所は‥‥。やはりシェルターの近くか」
沢辺が地図を片手に、そう呟く。
「避難所の前は広い道路になっていますけど、逆側はスクールゾーンですから、トラックは入れません」
櫻がそう案内する。そこで、トラックを大通り側に止め、その間に沢辺が逆側に回りこんだ。
「あ、いた!」
「しっ。静かに」
ちょうど、数人の男達が、シェルターを離れる所だった。声を上げかけたミクを、そう言って黙らせ、沢辺はバイクを止めると、瞬天足を発動させる。ロエティシアを抜く暇はなかったが、生身相手なら充分だ。
「悪く思わないで下さいね!」
逃げようとしたその襟首を掴み、強引に引き寄せる。相手が捕まるものかと抵抗した所で、一発ぶん殴る沢辺。ずさりと地面をこする音がして、相手が吹き飛ぶ。
「待て!」
体制を立て直そうとした所に、関節を極めようと移動したのがまずかった。そのわずかな差の間に、相手は生垣の向こう側へと逃げてしまう。
「行かせませんっ」
大通り側から回りこんだ櫻が、手にした蛍火を片手に、突きの形で立ちはだかる。無理やり通り抜けようとした相手に、軽くステップを踏むようにして切り込む彼女。良く見れば、髪が金髪になっている。
「避難してる人達は只でさえ怖い思いしてるんです。これ以上の迷惑はかけさせません」
さらに、その後ろに控えたトラックからは、北柴が超機械を使って、練成弱体をかけていた。おかげで、追いついた沢辺が、研究所で強化した革靴でもって蹴り飛ばす。
「さて、事情を話してもらいましょうか」
そう言って、ロエティシアをうりうりと突きつける彼。衣服がばたついている所を見ると、覚醒しているのだろう。
「残念だったな。俺はダミーだ‥‥」
黒服のかぶっていた帽子を引っぺがすと、そこにたのは、佐渡ではなかった。見覚えのない男。
「ダミーでも何でも良いです。何を仕掛けていたんですか」
「さぁね。人間、空気がなくなると死ぬんだよ。誰でもな!」
くくくっと意味ありげに笑ったその男は、言いたいだけ言い終わると、がっくりと力を抜いた。見れば、口元から一筋の血が垂れている。
「早く終わらせて、名古屋名物を食べたいですね‥‥」
静まり返った中、櫻が寂しげにポツリと呟くのだった。
その頃、KVチームであるレールズ(
ga5293)とマコト(
ga6361)は、上空から怪しいトラックの策敵を行っていた。
「俺たちの初陣か。よろしく頼むぜ、相棒」
操縦桿を握り締めながら、そう呟くマコト。一方、レールズもまた、眼下に目をこらしていた。
「KVで実戦は初めてですが、大規模作戦前のいい慣らしになりそうです」
上空を旋回するように、KVを操縦するレールズ。
「4トン越えのトラックだから、目立つと思うんだがな‥‥」
そう言って、マコトも同じ様に捜索しているが、トラックはカモフラージュされているのか、かなり低空で飛行しないと、見分けが付かない。
「あれ? 何か止まってる?」
KVを乗せたと思しき、地上班Bのトラックが、不自然に停車しているのを見て、マコトは首をかしげた。
「どうしたんです?」
「いや、おかしいなと思ってさ。要請はないけど、ちょっと見てくる」
レールズに説明し、マコトは高度を下げると、人型へと変形し、着地する。レールズも、同じ様に続いていた。
「これは‥‥」
駆けつけると、ちょうど手先の男が絶命した後だった。
「何故、人類を裏切って‥‥」
「わかりません。それを語る前に死んじゃいましたから‥‥」
そう言うレールズに、残念そうな北柴。出来るなら、彼ごと安全地帯まで連行したかったのだが。
「それより、どうも相手は、シェルターの空気口に、何か細工をしたみたいなんです!」
その北柴、気を取り直したように、解体した装置を見せる。別の班からでは、回収した装置の中に、毒物と思われる液体が入っていた。そして、死に際に残した言葉から推察するに、シェルターにトラップが仕掛けられているのは、明らかだと。
「だったら、別の場所に避難させないと‥‥」
困惑したように、マコトの方を向くレールズ。相手がワームや大型キメラなら、何とか対処法もあるのだが、見えない敵が相手では、時間の稼ぎ方がわからないようだ。
「増援を呼ぼう。これで分かるはずだ」
そう言うと、マコトは煙幕を空に向けて放った。狭い空域だ。地上班Aにもすぐに分かるはずである。
「いったい、何が目的で‥‥」
「いずれにしても、俺達に仇為す存在なのは確かさ」
首をかしげるレールズに、マコトはそう言って、別のシェルターへと向かう。1機2機では、対処がしにくいと言うのが、その目的だった。
「他の方も、順次KVをお願いします」
目撃された新型もある。戦力はあった方が良い。そうレールズが提言し、傭兵達はそれぞれの愛機を取りに向かうのだった。
「いったいどこから現れるんだ‥‥」
人型に変形し、シェルターの近辺でパトロールしているマコト。時間は既に日暮れ。そろそろ、闇が侵食してきそうな頃合である。
そんな宵闇が、影を落とした刹那、建物の影から、殺気がこぼれてで来る。慌てて、回避運動をする彼だが、避けきれずに当たってしまう。
「今のは‥‥!」
1割近い損傷を受け、慌てて来た方向へと銃を乱射する。と、そこへ出てきたのは、KVを一回り太くしたような外見の、ロボットだった。
「まさか、シェイド? いや、ゴーレムか!」
それが、新型と判断するや否や、マコトは即座に錬力をKVへ注ぎ込んだ。先手必勝、アグレッシブ・ファングを使う為である。
「食らえ!」
腕のツインドリルが唸りを上げて回転する。当たれば、いくら新型とは言え、ただではすまない筈。だがそれを、ぎりぎりの所で避ける新型。しゅうんと急速にエネルギー残量の下がる愛機を、横目で見つつ、思いのほか素早いゴーレムに、ごくりとつばを飲み込むマコト。
「大丈夫ですか?」
駆けつけてきたレールズが、彼を庇うように、前へと立ちふさがった。
「ここは俺が食い止めます。その間に皆さんを!」
S型を所持する彼ならば、多少は当てやすくなるだろう。そう判断したマコトは、煙幕弾を上げ、他のKVを呼び寄せる。
「えぇん、本当はこんな事に使うはずじゃなかったのに〜」
呼び出されたリーゼ、場所に急行しながら、不満そうにこぼしていた。
「こっちだって、せっかく考えた尋問方法がパーよ」
「流し切り、習ってたのに」
同じチームのナレインとフォルも、KVで駆けつけながら、ぐちぐちとこぼしている。
「くそ、逃げられたか‥‥」
「すみません。殲滅したかったんですが‥‥」
だが、地上班Aが駆けつけた頃、すでにゴーレムは姿を消していた。残念そうなレールズだったが、無理はしない方が賢明だ。
「気に入らないな。ここまでとはね‥‥」
悔しそうに拳を握り締めるフォル。抵抗は受けていないが、苦戦といえば苦戦だったから。
「この空がずっと平和な青空だといいのに♪」
一方、嫌いな戦に使わなくてすんだリーゼは、心なしか嬉しそうだ。
「疲労には糖分が良いらしいからな。甘い物でも食いにいくか‥‥」
一番げんなりしていたマコト、誰ともなしにそう呟くのだった。