タイトル:【DoL】狙われた搭乗員マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/04 01:36

●オープニング本文


 西暦2008年を迎えた一月某日、名古屋にあるUPC日本本部を統括する東アジア軍本部の会議室では、ミハイル・ツォイコフ中佐がいつにも増して怒号を上げていた。
「お前達が私を評価してくれたことには嬉しく思う。だがそれでは余計な注目を浴びてしまうだけというのが分からんのか!」
 問題になっている議題はツォイコフ中佐の帰郷である。本来極東ロシア軍所属の中佐がいつまでも日本に滞在する必要は無く、防衛戦の事後処理も済んだ今では中佐はロシアに帰るのが筋だった。しかし日本本部の司令官本郷源一郎大佐は、中佐の帰郷さえも一つのプロパガンダに利用できないものかと考えていた。
「だがガリーニンはもう存在しない、中佐はどうするというのだ?」
「俺を呼び出したのはお前達で、ガリーニンの突撃もお前達の指示だ! 全権を握ったのは確かに俺だが、その青写真を描いたのもお前達ではないか!!」
 吼える中佐、しかし彼に提示された案は一つしかないことも中佐は理解していた。
「お前達は何故そこまで俺をユニヴァースナイトに乗せようとするのだ!!!」
 会議室のプロジェクターは、UPC東アジア軍が提示したガリーニンに代わる中佐の乗艦「ユニヴァースナイト」を映し出していた。手元に配られた資料には「KV搭載可能、自己発電機能有、航続可能時間1000時間超」といった十分すぎる性能が書かれている。しかし最大の問題点が書かれていなかった。
「名古屋防衛戦も敵の本来の目的はこのユニヴァースナイトの破壊が目的だったのではないか?」
 ユニヴァースナイトの最大の問題点、それはガリーニンを超えギガ・ワームにさえ引けをとらない巨大な体躯だった。また空母である以上ユニヴァースナイト自体には十分な火力が搭載されているわけではない、いかに各メガコーポレーション合同開発の最新鋭空中空母とはいえ、KVが無い状態で集中砲火を浴びれば撃墜は免れない。
「そのユニヴァースナイトの進水式を大々的に行うと言うのはどういう了見なのだ! 再び名古屋をバグアの戦火に晒したいのか!!」
 当初中佐はユニヴァースナイトに乗ること自体に懐疑的だった。
 乗ってしまえば常に最前線を転戦し、部下を危険に晒してしまう。
 乗艦条件として提示したのが部下以外の各種専門家の搭乗と進水式の見直しだった。
「しかし名古屋以外にもバグアからの解放を期待する声は高い。彼ら彼女らに希望を持たせるのも私達UPC軍人の仕事だ」
 冷静に諭す司令官。そこまで言われた以上、流石の中佐も反論ができなかった。
「ならばガリーニンの時と同様KVでの護衛を依頼する。並びに、民間人は全員シェルター退避だ。貴様らの言う希望はブラウン管を通してでも伝わるだろう。これが俺の譲歩できる最低ラインだ」
 こうして中佐のユニヴァースナイト搭乗が決定した。

名古屋市内の繁華街、そしてあちこちに新型のゴーレム兵器が出てきたと言う情報は、UPC名古屋支部に逗留中のミハイル・ツォオイコフ中佐の下にももたらされていた。
「だから言ったのだ‥‥。これでは、ユニヴァースナイトを狙ってくれと言っているようなものだと!」
 相変わらずの怒号。それには理由がある。搭乗が決定した後、中佐は部下達に休暇を与えていた。英気を養って欲しいと。もちろん、外出先は市内に限られているのだが、それでも部下達は骨休めへと向かったそうだ。
 中佐の元に、一通の脅迫状が届いたのは、彼らが出払って、しばらくたった頃の事である。
『進水式を中止せよ。出なければ、お前の部下達が酷い目に遭う事になるだろう』
 よくある脅迫状文章である。違うのは、そこになんたら解放軍だのと言ったそう言う団体名ではなく、バグアの名前が書かれていた事。
 最初はイタズラだと思っていた。だが、その直後、部下達から次々に市内で命を狙われたと言う報告が入ってきたのだ。そして、その狙撃に呼応するように、あちこちのシェルターで、ゴーレム型に襲われたと言う情報も入ってきた。
「どうします? 中佐」
「表に出るなと言いたいところだが、シェルターにゴーレム型が出没しているのが、気にかかるな‥‥」
 既に、部下の中には怪我した者もいる。仕事に差し障りはないとの事だが、これ以上歩けば、支障が出るかもしれない。
「かと言って、傭兵達にシェルターの調査を押し付けるわけにもいかんか‥‥」
 丸ごと仕事を押し付けて、自分達は避難していれば安全かもしれない。だが、中佐の性格上、そんな事は出来なかった。たとえ、傭兵達が自ら望んだとしても。
「仕方ない‥‥。またこいつの力を借りなければならんな‥‥」
 ポツリと呟く。その視線の先には、SESをつけられた左腕。
「他の面々に伝えろ。進水式までは、極力外出するなと。市内のゴーレムに関しては、見つけ次第傭兵達に何とかしてもらうとな」
「了解です。中佐、お気をつけて」
 中佐の指示に、そう答える部下1号くん。直後、本部の依頼にこんなものが乗った。

『名古屋市内で、ユニヴァースナイトの搭乗員が、ゴーレム型に狙われているらしい。進水式を中止するわけにいかないので、そのゴーレム型を探して、破壊して欲しい。なお、場所は繁華街のシェルター付近だ』

 もちろん、差出人はミハイル・ツォイコフ中佐である。

 そして。
「思惑通り出てきましたね。さて、傭兵達はどう動くかな」
 私服姿で、シェルターの入り口をチェックしている中佐を見て、そう呟いた黒髪の青年がいたとかいないとか。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
風戸 悠(ga2922
18歳・♂・SN
東野 灯吾(ga4411
25歳・♂・PN
結城 紗那(ga4873
20歳・♀・BM
オールド・J・ヨーク(ga6287
53歳・♂・EL

●リプレイ本文

「うーん、他のメンバーが襲われた時の服装は、どうだったんです?」
 風戸 悠(ga2922)がそう尋ねると、ミハイル・ツォイコフ中佐はUPCの端末を指し示す。依頼に関する項目を見てみると、非番と書いてあった。
「あ、ホントだ。お休み中だから、私服って書いてある‥‥」
 そう呟く麓みゆり(ga2049)。休みの日に、制服で出歩く事は、普通ありえない。交代制で制限があるにしても、だ。だとしたら、私服の搭乗員が、何故判別できたのかと。だが、そこには中佐がそんなものも分からないのかと言った調子で、こう告げる。
「何しろ、ユニヴァースナイトの出発は、盛大なイベントだ。俺のチームである事も、公開情報ではある。ちょっと頭の回る奴なら、制服を着ていなくても、顔を特定するのは造作もない」
 巨大なプロパガンダとして利用する都合上、ちょっと調べれば搭乗員の顔くらい公開されている。実際顔を知らなくても、名前くらいはすぐに知られてしまうだろう。名前と住所さえ分かれば、顔を割り出すのは、わけはない。ましてやここは名古屋。大戦で外人が増えたといえど、街中でロシア人が遊んでいれば、とても目立つ。
「そのちょっと頭の回る奴が、今回の敵だと言う事か‥‥。労務管理の人物を急遽交代させるとか、偽情報を置く‥‥とかしないといかんな」
 麓が頭を抱えている。何とか情報漏洩を防ぎたい故の案だったが、中佐は首を横に振った。
「どうしよう。僕、制服の方が良いの?」
「水理ちゃんの着たい服で良いと思うよ」
 困った顔で、着て行く服を選ぶ水理 和奏(ga1500)に、麓がそう言った。ちょっと考えた彼女、私服姿のまま、きらきらと目を輝かせる。
「わぁい、じゃあ私服で良いよね。役割は親子かな♪」
「こら、遊びに行くんじゃないんだぞ」
 怒られる水理。と、話は終わりとばかりに、席を立つ中佐に、オルランド・イブラヒム(ga2438)が声をかけた。
「中佐、どちらへ」
「打ち合わせはもう終わっただろう?」
 おそらく見回りだろう。その証拠に、彼は私服らしきコートを羽織っている。
「あまり出歩いてもらっては困るんです」
 オルランドの忠告に、中佐は答えなかった。聞こえてはいるだろう。彼はさらに続ける。
「望む望まないは別にして、中佐は既に人々の希望の星です。部下を思うのならば、どうか冷酷になってください」
 1人でも多くの命を救うために。
「なってもいいがな。奴らは、宇宙人なんだ」
 ぎゅっと握り締められた中佐の拳。その一言が、人を相手に戦争しているのとは、都合も訳も違う‥‥と、思い知らされる。
 言い返すことが出来ないオルランドだった。

 結局、オルランドは東野 灯吾(ga4411)と共に、先行偵察へ赴く事となった。現場百遍。そんな項目を思い出しつつ、搭乗員が襲われたと言う繁華街へ向う。
「オルランドさん‥‥どの辺がやばそうっすか?」
「これは‥‥」
 屋上へやってきたオルランドは、その一つが、思いのほか見渡しやすい事に気付く。しばらくして、東野も、狙撃しやすい場所だと気付いたようだ。だが、オルランドはさらに首をひねった。
「ちょっと待て。何か引っかかる‥‥」
「キメラでも見えましたか?」
 双眼鏡を覗き込む東野。だが、周囲には怪しげな動物は居ない。中佐の部下達も、今頃は外出を禁じられ、兵舎に居るはずだ。それでも、取りこぼしがいないかと、目を光らせる東野に、オルランドはぶつぶつと呟いている。
「いや‥‥。そう言うわけじゃないんだが‥‥。そうか、そう言う事か!」
 納得したように頷くオルランド。東野が困惑した表情で尋ねると、彼は急いだ様子で踵を返す。
「んなモノは後だ。中佐が危ない。急ぐぞ」
 すたすたと降りて行くオルランド。後姿から、表情を見る事は出来ないが、かなり焦っているようだ。
「あーあ、行っちゃったよ。まぁ、良いか」
 そんな彼のサポートが、今回の役目。そう思いなおした東野、そう言って、オルランドを追いかけるのだった。

 で、その頃の中佐は。
「お父さん、離れたらダメだからね☆」
 嬉しそうに腕を絡めてくる水理。まるで本当の娘のように、お手手をつないでくる。こうして、彼らは中佐と一緒に、シェルターを回ることにした。もちろん、キメラが出てきたら排除出来るよう、武器を携えて‥‥である。
「あれ? 今の‥‥」
 4つ目のシェルターを訪れた時、入れ違うように通り過ぎて行くトラック。それは、UPCのマークも、他の一般的な運送トラックでもなかった。麓が、中佐に指示を仰ごうと、振り返った時、既にその姿はなかった。しかも、腕に絡み付いていた水理ごと、である。
「奴なら、引っつかんだまま、追いかけていったデース」
 オールド・J・ヨーク(ga6287)の話では、どけと怒鳴る間もなく、彼女ごとトラックを追いかけて行ったそうだ。麓も、それを聞くや否や、走り出してしまう。
「やれやれ。年よりは高みの見物しておきたかったんデースが、そうもいかないようデースね」
 元の職業柄、あまり佐官が好きになれなかったオールドは、そう言ってため息を吐くと、若者の後を追いかけるのだった。

 さて、その頃の中佐はと言うと、水理と共に、ゴーレムらしきものを積んだトラックに追いついていた。
「すぐに、他の奴らが追いついてくるはずだ。それまでに奴らを引き剥がす。手伝え」
「うんっ」
 嬉しそうに答える水理。即座に覚醒し、瞬即撃を発動させる。スピードからして、不意打ちとなったその一撃は、黒い人型にかぶせられたカバーを、その下の装甲ごと切り裂いていた。
「うっわぁ、固そう‥‥」
 さすがに、生身でゴーレム型を倒せるとは思って居ないが、その強力な防御力に、げんなりする水理。
「ようやく来たか。引っかかるの、遅いよ」
 ゴーレム型の後ろから、声が聞こえた。顔に、見覚えがある。確か、ミクの依頼で出ていた行方不明のはずの1人。すっと、その姿が、ゴーレムへと消える。直後、動き出すゴーレム型。
「さすがに2人では厳しいか‥‥」
「大丈夫っ。絶対、守るって決めたんだもんっ」
 覚醒した影響で、感情的になっているらしい。そう言って、もう一度月詠を、ゴーレム型へと向ける水理。
「まともに食らったら‥‥、痛いじゃすまない‥‥」
 プロテクトシールドごと、潰されてしまうかもしれない。ごくりと恐怖を飲み込みつつ、何とかして、受け止めようとしていた直後だった。
「水理ちゃん! 中佐! 無事!?」
 身を乗り出すようにして、麓がかけつける。ぴしゃりと言って、狙いをぴたりと定める麓。ちょうど、挟み撃ちになる格好となった。どうやら、中佐はそれを狙っていたらしい。その間に、ちょっとはなれた場所に居た悠が手招きする。
「水理さん! 応急処置をするのでこっちに‥‥」
 見れば、その手元には救急セットがあった。サイエンティスト達のように全快とは言わないが、流れる血を止める事は出来る。
「その間の相手は私が!」
 それと入れ替わるようにして、サーベルに持ち替えた麓が、切りかかる。直後、スコーピオンの弾丸が、2人の間に割り込むようにして着弾する。
「僕が隙を作ります!」
 水理が回りこむまで、間がある。本来はスナイパーの悠、彼女の後ろから、援護射撃だ。
「「盛大に、食らいなさい!」」
 急所と思しきジョイント部分に、己の錬力をプラスして、強弾撃と共に。防御力を減らし、攻撃力を上げれば、相対的に威力は上がる。さすがに、倒し切れはしない。が、KVで相手をした時と同じ様な傷口を作る事は出来た。
「評判の中佐殿と若いのにに任せて、俺は年だから、せこく生きなきゃナ」
 2人が注意を引いている間に、ヨーク、高見の見物と言わんばかりの位置。もっとも、それは中佐のすぐ傍とも言い換えられるのだが。
「では、いつまでも留まっているわけにはいかないな」
 と、そう言ってゴーレムの機体が、トラックに飛び乗った。即座に発進する車。その行き先は、シェルターがある方向だ。
「まずいっ! あいつ、何か仕掛ける気だわ!」
「誘導班がいた筈だろう!」
 中佐に怒鳴りつけられ、麓が念の為と用意してきた呼笛を、力いっぱい吹いた。甲高い音が、周囲に響き渡る。以前、時代劇で見た事のある風景。300m先まで聞こえるそれが、合図。
「追わなくて良いんですか!?」
「追わなきゃならんだろうな。ヨーク、工作はしていたんだろ」
 悠が尋ねると、中佐はそう言ってヨークの方を見た。見れば、彼の銃から、ペイント弾の空薬莢がこぼれ出る。地面にも飛び散るほどの塗料。
 それを追いかければ、すぐに追いつけるはず。そう思った麓、さらに呼笛を吹き鳴らしながら、走り出すのだった。

 さて、その頃。クレイフェル(ga0435)と結城 紗那(ga4873)は、恋人のふりをしながら、シェルターの方で調査していた。
「誰か、目撃者は居ないでしょうか‥‥」
 広域避難場所指定のあるそこでは、同じ様に様々な一般人が、UPCの係りに監視‥‥いや、見守られながら、不安な一時を過ごしている。その光景に、クレイフェルは、結城を引っ張るようにして、その1人に声をかけた。
「最近こっちに来たんやけど‥‥‥‥なんかあったん?」
「聞いてないの? シェルターに毒ガス発生装置みたいなのが、つけられてたんだって。今検査中なんだよ」
 それでか‥‥と納得するクレイフェル。普通なら、シェルターに入っているであろう市民が、外に出されているのは、その為らしい。
「これは‥‥。まずいですね、中に犯罪者がいますよ」
 その間に、しばらく前科者のデータベースとにらめっこしていた結城、そう言って、眉根を寄せた。どうやら、引っかかった奴が居たらしい。
「あの黒い帽子の人です」
 結城が指し示した先には、この時期だとよくある黒一色の服装をした御仁が見えた。確定した瞬間、飛び掛るクレイフェル。見れば、既に覚醒している。
「‥‥今、何しようとしていたんですか?」
 不意打ち気味に首根っこを捕まえる彼。低い声音で囁くように、半ば脅すように問いただす。
「作戦コードA完了‥‥。これでお宝は俺のものだ‥‥」
 くくくっと笑う彼。と、同時にシェルターの方で、煙が上がり、周囲の人々から悲鳴が上がった。
「いけない! 皆避難を!」
 さっきの男が、何か仕掛けたのだろう。そう言って、クレイフェルは瞬天速を使い、入り口の付近へと駆けつける。
「こんのぉー!」
 煙の出ていた機械を、蹴り飛ばすクレイフェル。なおも煙を上げる機械から、パニくっている一般人達を誘導しようとする。結城も同じだ。こうして、市民達の避難誘導をしておけば、その分戦場が空く。そうすれば、もしゴーレムやら大型キメラやらが出て来ても、中佐達は戦いやすいはず。
「大丈夫、落ち着いてこっちに避難して!」
 声をかけ、おばーちゃんを背負い、子供の手を引き、誘導するクレイフェル。と、その直後、冬の空気を切り裂くように鳴り響く、笛の音。
 何か、危険な事が起きた証だった。

 駆けつけると、ちょうど東野とオルランドも、追いついていた。
「いたか! あれだ!」
 即座に覚醒し、練力を込める東野。細身の長剣であるヴィアが、一瞬淡い赤色に輝く。その輝きを叩きつけながら、東野が叫ぶ。
「大事な役目を引き受けてくれてんだ! 手前らなんかに触らせねぇぜ!」
 ざしゅううっとゴーレムへ切りつける彼。しかし、それだけの練力を注ぎ込んでも、ゴーレムには余り傷が付いていなかった。
「油断も隙もありませんね。私達が動くのも想定の範囲、ですか?」
 そこへ、今度はクレイフェルが覚醒したまま駆けつける。標準語で、そう問いかける彼女に、ゴーレムは、返答の代わりに、中佐へと切っ先を向ける。
「やはり、狙いは中佐か‥‥」
 そう、呟くオルランド。中佐が、部下を見殺しにできない性格なのは、UPCでは良く知られた話だ。見殺しても、犠牲が出るように仕組めば、嫌でも出て行かざるを得ない。シェルターに装置を仕掛けたのは、その為。傭兵達が出てくる事をも見越して。
「うわっ」
 その切っ先が、振り下ろされる。剣圧で、吹き飛ばされる傭兵達。だが、それでも皆、逃げ出したりはしない。その間に、ゴーレムの背中にあるブースターが、光を増す。直後、KVがそうするようにスピードが増し、彼らの囲みを突破してしまう。
「逃げられたか‥‥」
「気にするな。おそらくまた出てくるしな」
 悔しそうなクレイフェルに、中佐はそう言ってくれるのだった。

 おまけ。
「中佐! これ、プレゼント!」
 中佐の顔が思いっきり引きつっている。見れば、水理が差し出しているのは、赤いハート型の箱に、ピンクの可愛らしいリボン。どこをどう見てもバレンタインのチョコレートである。
「だって、次いつ会えるか分からないし‥‥」
「あ、皆さんにはこれをどうぞ。搭乗員の皆さんにも渡しておきましたから」
 もじもじと恥ずかしそうに頬を染める水理の横で、手伝っていたと言う麓が、他の面々にもチョコを配る。こっちにはホワイトチョコで「Good Luck!」の文字が書かれていた。
「大規模作戦では最後まで役に立てなくてごめんなさい‥‥。僕、もっと強くなるよ‥‥。僕、厳しいけれど優しい中佐が、大好き!」
「‥‥‥ま、まぁ一応貰っておく‥‥」
 さすがに、怒鳴るわけに行かないと思ったのか、あさっての方向を見ながら、中佐はチョコを受け取ってくれるのだった。