●リプレイ本文
「うーん、他のメンバーが襲われた時の服装は、どうだったんです?」
風戸 悠(
ga2922)がそう尋ねると、ミハイル・ツォイコフ中佐はUPCの端末を指し示す。依頼に関する項目を見てみると、非番と書いてあった。
「あ、ホントだ。お休み中だから、私服って書いてある‥‥」
そう呟く麓みゆり(
ga2049)。休みの日に、制服で出歩く事は、普通ありえない。交代制で制限があるにしても、だ。だとしたら、私服の搭乗員が、何故判別できたのかと。だが、そこには中佐がそんなものも分からないのかと言った調子で、こう告げる。
「何しろ、ユニヴァースナイトの出発は、盛大なイベントだ。俺のチームである事も、公開情報ではある。ちょっと頭の回る奴なら、制服を着ていなくても、顔を特定するのは造作もない」
巨大なプロパガンダとして利用する都合上、ちょっと調べれば搭乗員の顔くらい公開されている。実際顔を知らなくても、名前くらいはすぐに知られてしまうだろう。名前と住所さえ分かれば、顔を割り出すのは、わけはない。ましてやここは名古屋。大戦で外人が増えたといえど、街中でロシア人が遊んでいれば、とても目立つ。
「そのちょっと頭の回る奴が、今回の敵だと言う事か‥‥。労務管理の人物を急遽交代させるとか、偽情報を置く‥‥とかしないといかんな」
麓が頭を抱えている。何とか情報漏洩を防ぎたい故の案だったが、中佐は首を横に振った。
「どうしよう。僕、制服の方が良いの?」
「水理ちゃんの着たい服で良いと思うよ」
困った顔で、着て行く服を選ぶ水理 和奏(
ga1500)に、麓がそう言った。ちょっと考えた彼女、私服姿のまま、きらきらと目を輝かせる。
「わぁい、じゃあ私服で良いよね。役割は親子かな♪」
「こら、遊びに行くんじゃないんだぞ」
怒られる水理。と、話は終わりとばかりに、席を立つ中佐に、オルランド・イブラヒム(
ga2438)が声をかけた。
「中佐、どちらへ」
「打ち合わせはもう終わっただろう?」
おそらく見回りだろう。その証拠に、彼は私服らしきコートを羽織っている。
「あまり出歩いてもらっては困るんです」
オルランドの忠告に、中佐は答えなかった。聞こえてはいるだろう。彼はさらに続ける。
「望む望まないは別にして、中佐は既に人々の希望の星です。部下を思うのならば、どうか冷酷になってください」
1人でも多くの命を救うために。
「なってもいいがな。奴らは、宇宙人なんだ」
ぎゅっと握り締められた中佐の拳。その一言が、人を相手に戦争しているのとは、都合も訳も違う‥‥と、思い知らされる。
言い返すことが出来ないオルランドだった。
結局、オルランドは東野 灯吾(
ga4411)と共に、先行偵察へ赴く事となった。現場百遍。そんな項目を思い出しつつ、搭乗員が襲われたと言う繁華街へ向う。
「オルランドさん‥‥どの辺がやばそうっすか?」
「これは‥‥」
屋上へやってきたオルランドは、その一つが、思いのほか見渡しやすい事に気付く。しばらくして、東野も、狙撃しやすい場所だと気付いたようだ。だが、オルランドはさらに首をひねった。
「ちょっと待て。何か引っかかる‥‥」
「キメラでも見えましたか?」
双眼鏡を覗き込む東野。だが、周囲には怪しげな動物は居ない。中佐の部下達も、今頃は外出を禁じられ、兵舎に居るはずだ。それでも、取りこぼしがいないかと、目を光らせる東野に、オルランドはぶつぶつと呟いている。
「いや‥‥。そう言うわけじゃないんだが‥‥。そうか、そう言う事か!」
納得したように頷くオルランド。東野が困惑した表情で尋ねると、彼は急いだ様子で踵を返す。
「んなモノは後だ。中佐が危ない。急ぐぞ」
すたすたと降りて行くオルランド。後姿から、表情を見る事は出来ないが、かなり焦っているようだ。
「あーあ、行っちゃったよ。まぁ、良いか」
そんな彼のサポートが、今回の役目。そう思いなおした東野、そう言って、オルランドを追いかけるのだった。
で、その頃の中佐は。
「お父さん、離れたらダメだからね☆」
嬉しそうに腕を絡めてくる水理。まるで本当の娘のように、お手手をつないでくる。こうして、彼らは中佐と一緒に、シェルターを回ることにした。もちろん、キメラが出てきたら排除出来るよう、武器を携えて‥‥である。
「あれ? 今の‥‥」
4つ目のシェルターを訪れた時、入れ違うように通り過ぎて行くトラック。それは、UPCのマークも、他の一般的な運送トラックでもなかった。麓が、中佐に指示を仰ごうと、振り返った時、既にその姿はなかった。しかも、腕に絡み付いていた水理ごと、である。
「奴なら、引っつかんだまま、追いかけていったデース」
オールド・J・ヨーク(
ga6287)の話では、どけと怒鳴る間もなく、彼女ごとトラックを追いかけて行ったそうだ。麓も、それを聞くや否や、走り出してしまう。
「やれやれ。年よりは高みの見物しておきたかったんデースが、そうもいかないようデースね」
元の職業柄、あまり佐官が好きになれなかったオールドは、そう言ってため息を吐くと、若者の後を追いかけるのだった。
さて、その頃の中佐はと言うと、水理と共に、ゴーレムらしきものを積んだトラックに追いついていた。
「すぐに、他の奴らが追いついてくるはずだ。それまでに奴らを引き剥がす。手伝え」
「うんっ」
嬉しそうに答える水理。即座に覚醒し、瞬即撃を発動させる。スピードからして、不意打ちとなったその一撃は、黒い人型にかぶせられたカバーを、その下の装甲ごと切り裂いていた。
「うっわぁ、固そう‥‥」
さすがに、生身でゴーレム型を倒せるとは思って居ないが、その強力な防御力に、げんなりする水理。
「ようやく来たか。引っかかるの、遅いよ」
ゴーレム型の後ろから、声が聞こえた。顔に、見覚えがある。確か、ミクの依頼で出ていた行方不明のはずの1人。すっと、その姿が、ゴーレムへと消える。直後、動き出すゴーレム型。
「さすがに2人では厳しいか‥‥」
「大丈夫っ。絶対、守るって決めたんだもんっ」
覚醒した影響で、感情的になっているらしい。そう言って、もう一度月詠を、ゴーレム型へと向ける水理。
「まともに食らったら‥‥、痛いじゃすまない‥‥」
プロテクトシールドごと、潰されてしまうかもしれない。ごくりと恐怖を飲み込みつつ、何とかして、受け止めようとしていた直後だった。
「水理ちゃん! 中佐! 無事!?」
身を乗り出すようにして、麓がかけつける。ぴしゃりと言って、狙いをぴたりと定める麓。ちょうど、挟み撃ちになる格好となった。どうやら、中佐はそれを狙っていたらしい。その間に、ちょっとはなれた場所に居た悠が手招きする。
「水理さん! 応急処置をするのでこっちに‥‥」
見れば、その手元には救急セットがあった。サイエンティスト達のように全快とは言わないが、流れる血を止める事は出来る。
「その間の相手は私が!」
それと入れ替わるようにして、サーベルに持ち替えた麓が、切りかかる。直後、スコーピオンの弾丸が、2人の間に割り込むようにして着弾する。
「僕が隙を作ります!」
水理が回りこむまで、間がある。本来はスナイパーの悠、彼女の後ろから、援護射撃だ。
「「盛大に、食らいなさい!」」
急所と思しきジョイント部分に、己の錬力をプラスして、強弾撃と共に。防御力を減らし、攻撃力を上げれば、相対的に威力は上がる。さすがに、倒し切れはしない。が、KVで相手をした時と同じ様な傷口を作る事は出来た。
「評判の中佐殿と若いのにに任せて、俺は年だから、せこく生きなきゃナ」
2人が注意を引いている間に、ヨーク、高見の見物と言わんばかりの位置。もっとも、それは中佐のすぐ傍とも言い換えられるのだが。
「では、いつまでも留まっているわけにはいかないな」
と、そう言ってゴーレムの機体が、トラックに飛び乗った。即座に発進する車。その行き先は、シェルターがある方向だ。
「まずいっ! あいつ、何か仕掛ける気だわ!」
「誘導班がいた筈だろう!」
中佐に怒鳴りつけられ、麓が念の為と用意してきた呼笛を、力いっぱい吹いた。甲高い音が、周囲に響き渡る。以前、時代劇で見た事のある風景。300m先まで聞こえるそれが、合図。
「追わなくて良いんですか!?」
「追わなきゃならんだろうな。ヨーク、工作はしていたんだろ」
悠が尋ねると、中佐はそう言ってヨークの方を見た。見れば、彼の銃から、ペイント弾の空薬莢がこぼれ出る。地面にも飛び散るほどの塗料。
それを追いかければ、すぐに追いつけるはず。そう思った麓、さらに呼笛を吹き鳴らしながら、走り出すのだった。
さて、その頃。クレイフェル(
ga0435)と結城 紗那(
ga4873)は、恋人のふりをしながら、シェルターの方で調査していた。
「誰か、目撃者は居ないでしょうか‥‥」
広域避難場所指定のあるそこでは、同じ様に様々な一般人が、UPCの係りに監視‥‥いや、見守られながら、不安な一時を過ごしている。その光景に、クレイフェルは、結城を引っ張るようにして、その1人に声をかけた。
「最近こっちに来たんやけど‥‥‥‥なんかあったん?」
「聞いてないの? シェルターに毒ガス発生装置みたいなのが、つけられてたんだって。今検査中なんだよ」
それでか‥‥と納得するクレイフェル。普通なら、シェルターに入っているであろう市民が、外に出されているのは、その為らしい。
「これは‥‥。まずいですね、中に犯罪者がいますよ」
その間に、しばらく前科者のデータベースとにらめっこしていた結城、そう言って、眉根を寄せた。どうやら、引っかかった奴が居たらしい。
「あの黒い帽子の人です」
結城が指し示した先には、この時期だとよくある黒一色の服装をした御仁が見えた。確定した瞬間、飛び掛るクレイフェル。見れば、既に覚醒している。
「‥‥今、何しようとしていたんですか?」
不意打ち気味に首根っこを捕まえる彼。低い声音で囁くように、半ば脅すように問いただす。
「作戦コードA完了‥‥。これでお宝は俺のものだ‥‥」
くくくっと笑う彼。と、同時にシェルターの方で、煙が上がり、周囲の人々から悲鳴が上がった。
「いけない! 皆避難を!」
さっきの男が、何か仕掛けたのだろう。そう言って、クレイフェルは瞬天速を使い、入り口の付近へと駆けつける。
「こんのぉー!」
煙の出ていた機械を、蹴り飛ばすクレイフェル。なおも煙を上げる機械から、パニくっている一般人達を誘導しようとする。結城も同じだ。こうして、市民達の避難誘導をしておけば、その分戦場が空く。そうすれば、もしゴーレムやら大型キメラやらが出て来ても、中佐達は戦いやすいはず。
「大丈夫、落ち着いてこっちに避難して!」
声をかけ、おばーちゃんを背負い、子供の手を引き、誘導するクレイフェル。と、その直後、冬の空気を切り裂くように鳴り響く、笛の音。
何か、危険な事が起きた証だった。
駆けつけると、ちょうど東野とオルランドも、追いついていた。
「いたか! あれだ!」
即座に覚醒し、練力を込める東野。細身の長剣であるヴィアが、一瞬淡い赤色に輝く。その輝きを叩きつけながら、東野が叫ぶ。
「大事な役目を引き受けてくれてんだ! 手前らなんかに触らせねぇぜ!」
ざしゅううっとゴーレムへ切りつける彼。しかし、それだけの練力を注ぎ込んでも、ゴーレムには余り傷が付いていなかった。
「油断も隙もありませんね。私達が動くのも想定の範囲、ですか?」
そこへ、今度はクレイフェルが覚醒したまま駆けつける。標準語で、そう問いかける彼女に、ゴーレムは、返答の代わりに、中佐へと切っ先を向ける。
「やはり、狙いは中佐か‥‥」
そう、呟くオルランド。中佐が、部下を見殺しにできない性格なのは、UPCでは良く知られた話だ。見殺しても、犠牲が出るように仕組めば、嫌でも出て行かざるを得ない。シェルターに装置を仕掛けたのは、その為。傭兵達が出てくる事をも見越して。
「うわっ」
その切っ先が、振り下ろされる。剣圧で、吹き飛ばされる傭兵達。だが、それでも皆、逃げ出したりはしない。その間に、ゴーレムの背中にあるブースターが、光を増す。直後、KVがそうするようにスピードが増し、彼らの囲みを突破してしまう。
「逃げられたか‥‥」
「気にするな。おそらくまた出てくるしな」
悔しそうなクレイフェルに、中佐はそう言ってくれるのだった。
おまけ。
「中佐! これ、プレゼント!」
中佐の顔が思いっきり引きつっている。見れば、水理が差し出しているのは、赤いハート型の箱に、ピンクの可愛らしいリボン。どこをどう見てもバレンタインのチョコレートである。
「だって、次いつ会えるか分からないし‥‥」
「あ、皆さんにはこれをどうぞ。搭乗員の皆さんにも渡しておきましたから」
もじもじと恥ずかしそうに頬を染める水理の横で、手伝っていたと言う麓が、他の面々にもチョコを配る。こっちにはホワイトチョコで「Good Luck!」の文字が書かれていた。
「大規模作戦では最後まで役に立てなくてごめんなさい‥‥。僕、もっと強くなるよ‥‥。僕、厳しいけれど優しい中佐が、大好き!」
「‥‥‥ま、まぁ一応貰っておく‥‥」
さすがに、怒鳴るわけに行かないと思ったのか、あさっての方向を見ながら、中佐はチョコを受け取ってくれるのだった。