●リプレイ本文
プログラム打ち込みそのものは、お手伝いさんの助力もあって、あっという間に終わった。次は、その打ち込んだプログラムの稼動実験である。
「ねぇねぇ、これ‥‥何度パス入れても解けないよー」
テストプレイヤーになったミクが、画面中に広がる『パスワードを入力してね☆』のポップメニューに、眉をへの字に曲げている。覚醒していないとは言え、それなりにハッキング能力を持つ彼女からでも、文句の出るその様子に、水鏡・珪(
ga2025)はふふんと自慢げに説明した。
「そりゃそうです。何故なら、正解が無いのですからね。答えの無い物に答えを求めてはいけないのです」
その埋め尽くす数は、バグア連中は言うに及ばず、ユダや一般の傭兵達でも、かなりいらいらするだろう。
「どうせなら、表示された画面『相手パソコン上の保存データへ勝手に上書きされる』罠でも作って置きましょうか」
そこへ、北柴 航三郎(
ga4410)がとあるデータを差し出した。ぶっちゃけ立派なウィルスなわけだが、北柴はそう言う依頼だと思ったらしく、手際よくトラップを追加して行く。
「そうね。更に、何十回かに一回は、「成功か?」と思わせておきながら、変な画像が表示されたりする仕様にしましょうか」
「何度も同じだと飽きちゃいますし。で、そのへんな画像は、僕達の女装写真っと」
その北柴の提案に、お手伝いの崔 南斗(ga4407)が盛大に茶を吹いている。そんなわけで、色々準備をした結果。出来上がったそれを早速稼動させて見る事になった。
「お、アクセスがありましたわ」
画面を見ていた珪がそう報告してくる。
「よし。トラップシステム起動!」
ずびしぃっとモニターの前で、指先を掲げながら、力強く宣言するドクター・ウェスト(
ga0241)。ところが、その直後。
「にゃぁぁぁぁっ。Gにゃっ」
悲鳴を上げて逃げ惑う実験台のミク。と、その様子を見て、してやったりと言った表情で、珪が解説を始める。
「私のペットのゴキちゃんです☆」
早斬りお料理講座と題して、次々と美味しそうなきゅうり料理が並べられていく中、パスワードのポップメニューが現れる。それらは、パスワードに正解しない限り、次々と増えて行く。しかし、そもそも正解が存在しないので、ゴッキーの超至近距離映像は、どんどん画面内に溢れて行く。その顔アップは、お食事中の皆さんには申し訳ないくらいの鮮明さだ。
「これって止められないの?」
「はい。とりあえずゴキちゃんの家族生活を、心行くまでウォッチングしていただきますわ」
ミクが眉をしかめて確かめると、珪ちゃんは心なしか嬉しそうにそう答える。ちなみに画面の中は、まるでドキュメンタリー映画のように、ゴキちゃんさんのジュニアが次々と生まれてくる所だ。
「あ、また変わりましたね」
その画面が、3回くらい埋まった頃、モニターはまるでスクリーンセーバーのように、違う画面に切り替わる。そこには、綺麗に着飾ったスケバン風ドクターと、メイド服姿の北柴がいた。
「模型大好き〜」
どっからどうみても女性にしか見えないドクター、そう言って、S01型の模型を組み立てて行く。音声はもちろん別録だ。一通り、組み立てていくものの、問題は分解する時である。
「ひゃひゃひゃ、やはり血と言うのは、このくらい生生しくないと、美しくないとは思わないかね〜」
自慢げにそう言うドクター。この辺りは、専門分野を生かしたと言っていいだろう。ざくざくとバラされていく模型達は、何故か『ぎゃーー』だの『ふふふ』だの、不気味な声が大音量で流されると共に、どくどくと大量の血が机の上に流れ落ちて行く。どうみても解剖とかバラバラ死体とか、そんな精神衛生上にも、人道的にもよろしくない画像になって行くそれには、プラスチックの筈のパーツを切り離す度に、まるでガラスを釘でひっかくような音や、黒板を爪で引っかいた時のような音が、これまた大音響で流される。
「これじゃ、KVがかわいそうだよぅ‥‥」
翼を折られ、盛大に赤い液体を噴出する模型に、機械もお友達な水理 和奏(
ga1500)が、耐え切れなくなったようにそう呟いた。
「あーあ、泣いちゃったじゃない」
「いや、これはただのCG合成でだな‥‥。ああっ、誰か泣き止ませてくれ」
そのまま、ポロポロと涙をこぼし始めた水理を見て、珪が突き刺さるよーな視線をドクターに向ける。お仕事分かっているのか、声を殺して嗚咽する水理に、ドクターはおろおろと周囲にヘルプを求めていた。見れば、やっぱり口から魂が抜けている。
だが、それには納得行かない御仁が、約1名。
「えぇい、温い! 温いぞお前ら! 画像つきノベルと言うのは、こーゆーのを言うのだっ!」
「流されたっ」
あっさり騒動無視して、強引に画面を切り替える阿野次 のもじ(
ga5480)。その格好は、どてらにビン底メガネ、片手に栄養ドリンク完備に、泊り込み装備だ。
「ではどう言うのが良いと思うのかね〜」
「ふふふ。やはりこれを擬人化するのが筋だと思うのだ」
だんっとKVの模型を、机の上に置くのもじ。そして、手近な紙でもって、その各種機体を、次々に擬人化して行く。
「でけたぞ。これで、バグアの腐女子もメロメロだ!」
手先の器用な彼女、あっという間にキャラが出来上がる。こうして、のもじ監修の元、それまでとは全く別の話が出来上がるのだった。
用意するよう指示されたのは、よりリアリティの増加する背景だった。
「えぇと、デジカメとスキャナーと‥‥。他は、ジオラマの材料っと」
北柴が、ジオラマ製作の為のキットとツールを並べて行っている。こう言った作業は、割と好きらしく、のもじも加わって、次々とリアルなジオラマが組みあがって行く。
「なんでこんなものまで作らなければならんのかね」
「いやぁ、総監督の言う事ですから。それに、作ってる方は楽しそうだったし」
ちなみに、敵となるナマモノに関しては、ドクター作成だそうである。まぁ実際はただの実験用動物なのだが。
「シチュエーションはこんなもんでいいかな」
北柴が、出来上がったそれを紹介する。まるで、怪獣映画のように、市街地や森林が構築されている。相当気合が入っているのは、男の子根性で、細かく作ってしまったようだ。
「あれ? 女の子は?」
「戦闘少女で胸にみさいる辺りをつけておけば、きっと大喜びですわ。それでは、本番いきまぁーす」
あっさりと流す竜王 まり絵(
ga5231)。一応、男性向けにいわゆる『戦闘機少女』を持ってきたわけだが、胸とか股間とか倫理的都合により、さっくり流されている。
「って、おーい。シェイドが兄貴じゃなくなってるんだが」
「だって、KN01たんは美少年扱いですもの。それにこれだと、後半某少年誌になってしまいますわ」
をほほほ。と、台本とキャラ設定を片手に、言い切るまり絵。のもじの指定では、疾風寺シェイドくんは、兄貴とゆーよーなタイプらしいのだが、やっぱりBLだとそう言うわけにいかないようである。
「よし、出来たっ。じゃ、皆でやってみましょ」
北柴がツールを作ってくれたおかげで、女性陣はさして労する事もなく、イラストと台詞を放り込めば出来上がりのようだ。
「お前は俺のバディだ‥‥。誰にも、渡しはしない‥‥」
「や‥‥っ。何考えてるんだよ‥‥っ」
主人公はステアーらしい。柳腰の小鳥のような美少年なわけがだ、耳元であらぬ台詞を囁いちゃったりする為、相棒のタートルワームは、テストプレイ早々、お布団に引きずり込まれていた。
「いきなり一線越えるンかい」
「時間の都合上だ。面倒だし」
まり絵ちゃんが画面を見ながらツッコむと、のもじはプロットを片手に、きっぱりと言い切る。背も高く肩幅も良いタートルさん、その分スタミナもばっちりなわけで、プロトン砲は煩悩の数だ。
「俺もお前に良く似ていたよ‥‥」
「兄者‥‥」
で、そのステアーに、相棒ほったらかしで憧憬の思いを寄せられているのが、問題になったシェイド。そりゃあ本来兄弟機みたいなもんだから、憧れられても仕方が無いのだが、その辺りでタートルがやきもきする。
「えー。シェイドは受けじゃないのー? せっかくやおい穴捏造したのにーー」
「あのスピードのどこが受けだっ」
不満そうに頬を膨らませるまり絵に、改定理由を告げるのもじ。
「お前はいい騎士になれる。安心しろ、死なせはしない」
「兄者ぁぁぁぁっ!」
どうやら、この辺は傭兵が書いた都合上、ステアーの身代わりとなって玉砕するらしい。
「僕のせいで‥‥。僕がもっとしっかりしないから‥‥」
で、そのせいで悩んじゃう主人公。もう自分を追い込んで、ギガワームに囲われちゃうくらいに。
「お前はそれで良いんだ。俺様のビームに酔いしれていればそれで良い‥‥」
このギガワーム、常に取りまきを十数人連れた俺様系超絶美形。どっかでみたような長髪なのは、のもじが参考資料にしたのが、某有名少年誌だからに違いない。
「あ‥‥」
しょんぼり気分の主人公、誘い受けスキルが封印されちゃってるので、言われるままに押し倒される。
「イイモン持ってんじゃねぇか。俺に渡しやがれ」
「や‥‥」
もうこれ以上ないって言うくらいにくるくるされちゃってる主人公を、サンドリヨン名前のギガワームライバルキャラが、横合いから奪いに来る。
「ふふん。いっちょ前に貞操でも守ろうってかい。良い度胸じゃねぇか」
問題はこのサンドリヨン、元が元だけにでっかいタイヤの乗り物に騎乗中なわけだが、もはや世紀末モンの様相を呈している為、無垢な主人公がげしげしと痛めつけられそうになる。
「待ってよ!」
で、そこに割り込む水理。これ以上、自分の『お友達』である機体を苛められたクナイと言ったところだろう。
「あ、あれ、途中で変わったのか?」
「水理ちゃんパートと混ざったかしら‥‥。まぁ、これはこれで良いんじゃない?」
のもじの計画では、バグア達の出会いと別れと愛憎劇な予定だったのだが、いつのまにか五大湖戦に沿ってと言う話に落ち着いたらしい。
「なんか、ただのビジュアルノベルになって来たな」
じと目になるのもじ。ヒーロー役は、その受け側である水理ちゃんのたっての希望で、ツォィコフ中佐。他に、オペレーターのミク、ステアー側の管理人にリリアンと、登場人物に女の子が増殖中。
「お願い、これ以上ひどいことしないで‥‥」
その中佐、ギガワームにいたぶられてボロボロになっている状態の水理‥‥当然、どう言うわけか体操服がボロボロで、お腹や鎖骨が見えている。
「残念ながらそのお願いは聞けないね」
がしっと盛大な効果音が入り、なにやら長いものがぶっ飛んできたエフェクト代わりに、水理の体操服に切れ目が一つ増えた。そして直後、水理ちゃんは床に倒れそうになる。
「大丈夫か?」
が、カットインでもって、中佐が抱え込む絵が挿入された。
「中佐‥‥。どうしてここに‥‥」
「助けに来た。それだけだ」
ぶっきらぼうにそう言う台詞は、きっとミクあたりからの入れ知恵だろう。
「やれやれ。僕の財産を奪い取ろうなんて、良い度胸じゃないか。んん?」
その後ろから出てきたのは、ひそかに見守っていたらしい虹色のバラの人こと、カラスである。どこかで聞いたような台詞に、のもじ、まり絵にこう尋ねた。
「このボイス、もしかして、カジノから奪ってきた?」
「いえーす」
メダル片手に通い詰めたわよーんと、隠し撮りをデジタルリマスターした音声を重ねたらしい。
「では、デュエルと行こうか」
「スタミナは50づつ‥‥。条件は互角か‥‥」
いつの間にか、勝負は脱衣ゲー風になっていた。負けると衝撃かなんかで、服が一枚づつはがれるって奴だ。
「く‥‥。残りは後1枚‥‥」
もっとも、負けるのは何故かカラスなわけだが。
「もうちょっとーーー!」
「いや、お前が本気になってどうする」
まり絵、自分が作っておきながら、すっかり最後の一枚を引っぺがすのに夢中になっている。
「気がついたか」
「うん‥‥」
一方の中佐はと言うと、ベッドで目が覚めた水理に、何故かお見舞い品と証してチョコのお返しを渡しているようだ。
「おじさん、あんなにリリアンちゃんにアタックされても、僕の事‥‥」
嬉しそうな水理だが、実際には中佐がいないので、抱きつくのは出来ない。
「大人気の光チョコは、ドローム社の提供でお送りいたします〜」
代わりに、何故かドローム社だかカプロイア社だかの、チョコレートCMが入っていた。
「ふふふ。よくぞここまでたどり着いた。この奥は研究室。選ばれたものしか入る事を許されない聖域だ」
CM開け。最後のボスとして現れたのは、どこで写真を手に入れたのか、ブレスト博士である。
「大失敗の場合はお前自体壊れちまうからな。注意しろよ」
「べ、別に僕は‥‥あ‥‥っ。そんな所弄ったら‥‥」
台詞は怪しいが、実際は『研究中』と書かれていたり。こうして、とってもカオスな捏造作品が出来上がり、UPCの一部研究室に、ウィルスとして仕込まれるのだった。