●リプレイ本文
「たはー、やっぱり、レーダーきかんわ」
吾妻 大和(
ga0175)が、ジャミングだらけで消えかかっているレーダーを見てそうぼやいた。
「岩龍でも駄目かしら?」
「ちょっとはクリアになってるんだろうケド、こう妨害電波が濃いと、焼け石に水だねー」
空間 明衣(
ga0220)に言われ、首を横に振る。仲間を支援するべく、400m以内と言う近距離で飛行していたが、どうやら相手のジャミングの方が強力らしく、殆ど役には立っていないらしい。
「新型機はどこかしら‥‥」
仕方なく、目視での索敵にシフトするメイ。しかし、その周囲には、キューブばかりで、新型機の煙すら見えない。
「もうちょい派手に動けば、出てくると思うぜ」
大和がそう言って、少し高度を上げる。彼もまた、目視で周囲を警戒し始めた。と、その時である。
「妨害電波、濃くなりました。あ、キューブがこっちきます!」
緑川 めぐみ(
ga8223)が、悲鳴を上げるようにそう告げる。見れば、低空で飛ぶ彼らの元に、9体ほどのワームが、通常ワームと共にすっ飛んでくる真っ最中だ。
「見付かったわね」
「おっしゃ、相手になりましょうか」
結構な速さで周囲を取り囲んでくる彼ら。行く手をふさぎ、スピードを落とさせている。このままでは、地上へ降り立たざるを得ない。
「わたし、何とか時間を稼いで見ます!」
そうはさせないと、めぐみが前に出る。彼女の周囲には映っていないが、今頃サンドリヨンは、バルセロナの市内に入っている筈だと、そう信じて、牽制のガトリング砲を撃った。しかし、いくらディアブロとは言え、まだ殆ど無改造の機体。通常ワームにも避けられてしまう。
「たっはー、やっぱ速い奴は赤かったりすんのかねー」
それでも、強化した自分のR−01と遜色ない動きに、大和はそう呟く。と、攻撃を受けたワームに、キューブが何かを感知したかのか、一瞬動きを止める。
「うわぁぁぁっ」
直後、その場に居た3人の脳みそを、不可解な電波が襲い掛かった。目には見えない。だが、鎧であるはずのKVを飛び越えて、直接自身の体に影響を及ぼしていた。まるで、ひどい頭痛を起こしたかのように、がんがんと脳みその中で鐘が鳴り響く。それは、KVの動きを次々と鈍らせていた。
「まずい、このままだと新型が出てくる前に落とされるわ‥‥」
そこへ、通常ワームが襲い掛かる。避けきれず、装甲を削られると共に、コクピット内にエラー音が鳴り響いた。岩龍に乗ったメイの額に戦慄が走る。一撃で、装甲半分が削られていたから。
「高度上げれば、何とか欺けるはずっ」
大和がそう言って操縦桿を引いた。機首を挙げ、ブーストを吹かす。行かせまいと、追いついてくるワーム。相変わらず重力を無視した動きに、メイがガトリング砲で応戦する。が、岩龍では中々当たらない。
「そこのキューブ、どきなさいっ」
邪魔! と言わんばかりに、めぐみがホーミングミサイルをお見舞いした。さすがにディアブロの一撃に、キューブの一部が四散する。どうやら、防御力的にはそれほど固くは無いらしい。おまけに、破壊された後、頭痛と吐き気が少し軽くなる。しかし、偵察のキューブがやられたと判断されたのか、次々と集まってきた。
長くは、持たないようだった。
空中が思わぬ激戦を繰り広げている頃、地上のサンドリヨンは、ジャンヌを探して、バルセロナ付近へと走らせていた。
「ミクさんから聞いた話だと、ジャンヌさんは、教会に奉仕活動をしに行ったようです」
流 星之丞(
ga1928)が事前情報を告げる中、15分ほど走ると、どこかの公園らしき場所へ出た。避難場所になっているらしく、堅牢そうな教会に、次々と人が入っている。
「早く! こっちへ! 落ち着いて、場所はまだまだありますわ!」
市民誘導を手伝っていたのだろう。銃を持ったUPCの兵達が護衛を受け持つ中、そう叫んでいる少女が居た。だがそこへ、集まっている市民を、キメラの材料にでもするつもりなのか、数機のワームが、キューブと共に表れる。いかに新型のサンドリヨンとて、状況は同じ。その登場と共に、盛大にレーダーへ警告表示が沸き起こる。
「まずはあのサイコロ型をどうにかしないと‥‥、ジョーさん、手伝って!」
陽動班のタイプAを操る水理 和奏(
ga1500)が、スピードを上げた。UPCの兵士が、自身の任務を全うしようと、人々を背に、銃をワームへ向けている。それを敵対行動と受け取ったワームのレーザーが、青白く煌く。貫かれれば、守ろうとした兵士ごと焼かれてしまう。
「いけない!」
水理、短くそう言うと、ツイストドリルを発動させ、スコープで補正し狙いを定める。
「君の背中は僕が守る、安心して飛び込むんだっ!」
「うんっ。突撃ぃ!」
進行ライン上にいたキューブごと貫くべく、スロットルをフルにひねる。がくんっと小さな体に重力がのしかかる中、彼女は援護のジョーを信じて、光学迷彩で姿を隠しつつ、死角になった建物の影から盛大にぶち当たる。
「きゃあっ」
ワームの怪光線が、あさっての方向へ逸れた。人々から離れたものの、教会の壁に炸裂する。その下に居たのは‥‥ジャンヌ。悲鳴を上げる彼女を、瓦礫が振ってくる前に、掻っ攫ったのは‥‥須佐 武流(
ga1461)だ。
「聖女様、無茶しすぎだぜ?早く後ろに乗りな! アンタはきちんと俺が守ってやらぁ!」
「え? あ、ありがとうございます」
それほど男性に免疫があるタイプではないのだろう。ちょっとワイルドな王子様に、ぽっと頬を染めている。
「超高速サンドリヨンバイク便の到着だ。お乗りの野郎はお早めに!」
素早く後ろへと乗せる須佐。と、ジャンヌはその背中で、須佐にこう囁く。
「あの、私まだ能力者チェック受けてないので、お手柔らかにお願いします‥‥」
「何ぃ! それじゃ、戦闘出来ないじゃないか。しっかり掴まってろよ!」
ジャンヌが非能力者であれば、スピードと機動力を生かした戦い方なんぞ出来ない。それでも須佐は、一刻も早く戦場を抜けようと、そう告げた。返事が無い代わりに、ぎゅっと掴んだ拳に力がこもる。何とか、その体に負担をかけないように、あちこちの建物や車などの影へ隠れながら、距離を稼ぐ須佐。いわゆるヒット&アウェイと言う奴だが、カウンターが食らわせられない分、その距離は徐々に縮まってくる。
「どきやがれっ」
立ちはだかったキューブに、ガトリング砲を浴びせかける須佐。背中のジャンヌに負担がかかるが、死ぬよりマシだ。防御力が殆ど無い為、ガトリング砲でも簡単に落ちて行くキューブを、UPCの兵士達に任せ、彼は戦場と化したバルセロナを疾走して行った。
「ジャンヌ嬢は須佐に任せた方がいいな‥‥。奴から引き剥がすか」
その光景を見て、光学迷彩を使って、見付からないように入り込んだ沢辺 朋宏(
ga4488)がそう言った。小型燃料タンクを追加した為、燃料計はまだ半分を残している。だが、油断は出来ない。
「レナ、行くぞ」
「OK。ちゃらっと行くで」
タイプBに乗っている妹‥‥沢辺 麗奈(
ga4489)に、そう声をかける。レナも結局、軽量化を図ってステルスフレームだけにしていたのだが、どうやら無駄足に終わってしまったようだ。だが、その分起動力は高い。間を縫うようにして、先行するレナ。
「まずはあの邪魔なキューブからだ!」
朋宏が、サンドリヨンをロボットモードへと変じさせる。Highナックル・フットコートを起動させ、装甲の弱いキューブへと、その拳を振り下ろした。壊されたそれを確認するなり、同じキューブが集まってくる。その隙に、彼は再びバイクモードへと戻った。彼は自分達の周囲にも、上空と同じ面々が表れるだろうと推測する。
「キューブの動きが止ま‥‥うわぁっ!」
と、その刹那‥‥である。キューブの妨害電波が一層強くなった。こちらもまた、上空と同じ様に傭兵達を盛大な頭痛が襲う。
「もう少しだってのに‥‥。これじゃ、避けるので精一杯だぜ‥‥」
須佐も頭痛に耐えながら、何とかサンドリヨンを平行に保っていた。背中では、ジャンヌが祈りを捧げてくれている。倒れるわけには行かなかった。
「ま、負けない‥‥っ」
気丈にスロットルを握り締める水理。と、そのバックミラーに、一瞬、真紅の影が映った。
「奇襲‥‥!」
これだけバトっているのだ。騒動を聞きつけないわけは無い。機影を新型機と判断した彼女、慌てて、ハンドルを右に切った。曲がりきれず、すっ転ぶ水理。その直後、まるですり抜けるかのように、赤い機体が走りぬけ、ついさっきまで彼女がいた場所に生えていた電柱がすっぱり切り落とされていた。が、その姿は見えない。
「あれが新型の‥‥! くっ。消えるワームといっても‥‥完全に周りの景色と一体になることなど不可能なはずだ。動きを見せる一瞬に像が歪むか、ずれるかするはず‥‥」
消えたあたりへ、じっと目を凝らす須佐。しかし、キューブワームの妨害が激しく、見極める事が出来ない。
「レーダーが効かねぇなら‥‥五感のすべてで感じ取るしかない!」
そう言って意識を集中させる彼。ガトリングの引き金に手をかける。
「見えなくても、風の流れの変化を感じるんだ‥‥」
一方、その消えたパターンが、サンドリヨンのミラーシェイドと一致していると、ジョーのデータが教えてくれている。アドバイスを受けた水理、肌の感覚を際立たせる。
「わかった。お願いサンドリヨン、僕に力を貸して!」
普通のKVと違い、体の露出しているサンドリヨン。上空のKVよりも、動きは察知しやすいはずだと。
「シグナルに反応。来ます!」
ふいに、風が動いた。並みのKVならば感じなかったに違いない。ジョーの感覚的な警報が鳴り響く。直後、ジョーと水理の間を、駆け抜ける赤い悪魔。
「おっしゃ! ほんならぁっ、一丁双子の共同作業‥」
反対側に回ったレナが、サンドリヨンを急回転させる。やれやれと思いながら、彼はスピードを合わせた。
「タイミングは合わせてやるから、好きにやれ」
なんぞと言いながら、スロットルをフルに上げる。先行して反対側へ‥‥ちょうど水理と直角になるような位置取りへと動いた。
「ほいほ〜〜い♪ っとぉ」
合わせるんやなかったんかいと思いつつ、レナは背後からG放電装置を発動させる。盛大なスパークが飛び散り、赤い悪魔を包み込んだ‥‥かに見えた。
「何っ!」
懐に入り込もうと人型に変形した朋宏が、一瞬見えた赤い悪魔に、逆に蹴り飛ばされてしまう。大きく後退し、地面に激突した彼に駆け寄るレナ。
「ちょっ、大丈夫?」
「‥‥この程度のダメージ、タイプBなら平気だ」
朋宏はそう答えたが、その割にはサンドリヨンのあちこちから、スパークが飛び散り、警告音が鳴り響いている。どうやら、ナメてかかれる相手ではなさそうだ。しかしその直後、再び赤い新型機が消える。
「どこっ!?」
きょろきょろと周囲を見回す水理。ただ一つ違うのは、その示威行為に、実力が伴っている事。風を揺らすように姿が消え、変わってワームが群がってくる。
「上か‥‥!」
須佐が天を仰ぐ。気がつけば、赤い悪魔はすぐ上空を飛んでいた。そう、まるで新たな獲物を見つけたかのように。
「あれが新型。やっぱり赤い‥‥って、何!」
上空で、背後を取られないよう、なるべく距離をとりながら、その機影を確かめようとした大和のアメノムラクモ。そこへ、瞬く間に肉薄する機体。
コクピットの向こう側に居たのは、水理と同い年くらいの少年。いや、自分とも大して変わらないだろう。その口元がにやりと笑い、直後、強い衝撃が走る。
「大和さん!」
「見物はご遠慮くださいってかい‥‥」
心配しためぐみが、通信機の向こうで叫んでいる。損傷率7割の警告灯が鳴りっぱなしだ。あと一撃でも食らえば、撃墜されてしまうだろう。
「今から撮影行動に入る。スピードを落とすから、護衛に負担を掛ける。よろしくお願いする」
余り時間は無い。そう判断したメイ、レクチャーを受けた特殊カメラのスイッチを入れた。八王子の時と同じ様に‥‥きっと、若干性能は上がっているだろう。信じた彼女が、赤き残影を捕らえようとする。
「私が時間を稼ぎます。アグレッシブフォース発動!」
その後ろから、盾になるかのように、めぐみがスピードを上げた。命中できるかどうかはわからないが、使うチャンスは今しかない。練力を注ぎ込んだディアブロの燃料計が、一気に下がる。ブーストが白煙を上げ、中のめぐみに負荷をかけたが、彼女はかまわず高分子レーザー砲のトリガーを引き絞った。
だが、少年機の方が早かった。青白く走ったレーザーが貫いたのは、何も無い空。直後、ディアブロに強い衝撃が走った。ブースターをやられたらしい。高度計が急激に下がって行く。
「撮れたかどうか分からないけど、シャッターは切ったわ。煙に巻くよ!」
そんな彼女に、幾度か戦場を駆け抜けたメイが、帰還を告げた。煙幕弾を発射し周囲を黒く染める。
「秘儀・スカンクの舞、なんちて‥‥って、何ぃ!」
大和が、搭載したラージフレアを放つが、やはり回避しきれずに、規定のダメージをオーバーしてしまった。どうやら、これ以上長居は無用のようだった。
結果、撮影した画像は予想通りピンボケの上、ジャンヌは無茶な運転で肋骨を折る重傷。
だが、それを見たカプロイアの偉い人こと伯爵は、こう言いきる。
間違いなくファームライドだ‥‥と。