●リプレイ本文
準備を整えた傭兵達は、それぞれの愛機に乗り込み、空路でバルセロナから海岸沿いに、ミラノへ向かう事になった。ただし、麓みゆり(
ga2049)はジャンヌになっている都合上、水理 和奏(
ga1500)の後ろ側だ。
「交戦中のジェノバ上空は避けた方がいいかね。念の為」
『ルートは護衛班の皆さんで設定して構いませんよ』
ジェノバ近郊は、現在激戦区らしいので、避けた方が無難だろうと判断する吾妻 大和(
ga0175)に、みゆりはお任せ、と自分の意思を告げる。
「あーぁ、これなら充分衆目を惑わせるのにな〜、私24ですからー、残念!」
それを見ていた藤田あやこ(
ga0204)、小隊制服姿で、その豊かな胸を揺らし、ショーツの裾を直している。
「ジャンヌ搭乗機を守る護衛のKV‥‥と言う設定なら、KVで移動してもそんなに怪しくは無い‥‥筈」
その護衛班の煉条トヲイ(
ga0236)、速度を最低ライン維持しつつ、海沿いのルートを設定している。その後に従っているのは、機首をやや南東よりにした棗・健太郎(
ga1086)だ。
「大丈夫かなぁ‥‥」
『心配するな。健太郎。向こうも経験者だ。手は打ってあるんだろう?』
通信機越しに言われて、頷く彼。阿野次 のもじ(
ga5480)の可愛さ爆発電話魔アイドル攻撃だけでは、今ひとつ足らないので、使い捨てのフリーメアドでもって、偽情報を流してみたが、果たして引っかかるかどうか不安だった。
「こっちも偽装工作してきた。明朝出発でGOだ!」
一方ののもじっち、電話だけではなく、告知も行ってきたようだ。昼出発と告知しておきながら、実際は直前に朝出発に変更すると言う、細かいギミックも入れたようである。
「まぁ、慎ましく行きますよ」
テンションの高い彼女には、お目付け役めいたポジションで、比良坂 和泉(
ga6549)がやや後方に付き従っていた。こうして、海沿いをマルセイユ目指して進み、補給した後、ミラノへ進むと言う航路を、傭兵達は選択したわけだが。
「こちらアメノムラクモ。ジャンヌ搭乗機、異常ありませんかってな」
大和がわざとジャンヌの名前を出しながら呼びかける。敵に傍受されやすいよう、通常回線で、だ。
「こちらジャンヌ機。まだ大丈夫だよー」
そう答えるパイロットの水理。トヲイの弁から、一般人が乗っても大丈夫だろうと判断し、その補助席に、みゆりを乗せていた。おかげで、関係ないパイロットやKVを巻き込まずに済んだようだ。
「乗れてよかったわね」
「スピードは出せないけどね」
みゆりがそう言うと、水理は対ショック装置を施した席に向かって答える。衝撃吸収用のクッションで、若干狭いが、まぁゆっくり飛ぶし、どうにかなるだろうと、2人は考えていた。
そうして、とろとろと出来るだけ低速で飛んでいた彼ら、バルセロナを出て一時間、マルセイユに差し掛かった頃だった。
「おいでなさったぜ。健太郎、準備はいいか?」
マルセイユにまで出没していたらしいキューブワームが姿を見せる。相変わらずレーダーは沈黙したままの状態に、トヲイは横の健太郎に合図を送ろうとした。
「目視で敵機確認! 戦闘態勢のための煙幕をはる!」
が、既に健太郎はそう言うや否や、煙幕銃をぶっ放している。視界が遮られる中、トヲイは機体を45度にずらす。
「元気だなー。それじゃ、キューブワームは任せたぜ」
彼の目当ては、キューブの向こう側にいるヘルメットワームだ。
「え、ちょ‥‥。わぁっ!」
攻撃を任された健太郎、慌てて装備したガトリング砲を放つ。命中を確認するや否や、移動して距離を稼ぐ。武装にやや不安の残る彼、そうやって援護していた。
「さて、ヘルメット。お前さんは俺が相手だっ!」
その間に、トヲイはヘルメットワームに向けて、リニア砲を放つ。攻撃力偏重と揶揄される砲弾だが、威力は絶大だ。バイパーの攻撃力とあいまって、ヘルメットワームを一撃で粉砕していた。
「それチャージが!」
「リロード中は、レーザー砲を使うんだよっ。お前さんは逃げ回って、ひきつけるんだ!」
装弾数1発しかないリニア砲は、再び使えるまでタイミングを計る必要がある。その間、トヲイは3.2cmレーザー砲で、他のワームの相手をしていた。同じ様に、レーザーに切り替える健太郎。
「この戦いは、絶対に負けられないんだ! これでもくらえ!」
今の状況だと、回避に専念すると言うわけには行かないようだ。がちゃがちゃとやたら撃ちまくる健太郎に、トヲイは練力の残量を気にしながら、こう呟く。
「無茶はするなよ。くそ、キューブワームはヘルメットワームまで強化するのか‥‥全く、鬱陶しい事この上無いな‥‥!」
距離をとれば、頭痛は治まるが、それでは弾が当たらない。ブーストのタイミングを計りながら、彼は再びリニア砲をワームへと食らわせるのだった。
その頃、真ん中を飛んでいた水理機は。
「前の方で交戦開始‥‥。大丈夫かなぁ‥‥」
心配そうにKVを操る水理。先行しているトヲイと健太郎機から、盛大な爆音が聞こえてくる。と、その直後、シスター服の内側で、こっそり覚醒していたみゆりが、側面から来た一団に気付く。
「わかなちゃん、こっちにも来たわ」
「わかなロケットは、まだ余裕あるけど、無茶な戦闘は出来ない‥‥」
普段なら、バイパーの防御力でもって、壁になるところだが、それではジャンヌがニセモノだとバレてしまう。
「大丈夫、何とかするから」
「分かったよ。射程も長いし、弾数も余裕あるから、頑張るねっ」
中佐に憧れてか、分厚くした装甲は、彼女への攻撃をやわらげてくれる。と、その装甲に物を言わせている水理に、みゆりはこうアドバイス。
「出来るだけゆっくりと‥‥。一般人にはわかなロケット発射の衝撃もきついはずだから、ね」
頷く彼女。トリガーに手をかけ発射速度をぎりぎりまで落とす。通常兵器と同じ速度まで落とされたそれは、超遠距離から、撹乱するようにキューブの群れへと突っ込んで行く。爆発の衝撃に、みゆりを巻き込まないよう、操縦レバーをゆっくりと倒す。
(やっぱり、間に合わない‥‥!)
だが、一般人に耐えられる速度では、如何に動きの遅いキューブワームとて、追いつかれてしまう。備え付けられたレーザー砲が、彼女の機体を狙った時だった。
「おぉっと、だがしかし、露払いは我々にまーかせてもらおうっ!」
後ろの方から、盛大なランチャーミサイルの砲弾が降り注ぎ、キューブワームを粉砕してしまう。
「のもじお姉ちゃん?」
「はーっはっは。来たわね! 世界一周サイコロワーム! 大穴空けてゾロゾロにしてあげるわよ」
後方にいたのもじの機体から、AAMのミサイルが降り注ぐ。どうやら、彼女達が相手をするようだ。
「相変わらずテンション高いわね。右前方、気をつけて!」
みゆりが、専用通信機で、キューブに隠れたワームの存在を指摘する。
「私にお任せ! あいあいさ!」
「のもじがゾロ目振ってる間に前に進んで下さいねっ」
ちょうど死角になっていた部分に、後方のもう一機がスピードを上げた。のもじがバディを組んでいる和泉の機体だ。
「気をつけろ。来るぞ!」
既に覚醒していた和泉が、まるで合体するようにくっついて行くキューブに、そう警告を発した。ディスタンのアクセサリーユニットに取り付けたスラスターが軽くスパークし、その怪電波を機動力で回避しようとしたのだが。
「‥‥く、これが噂に聞いた精神攻撃‥‥ですか!?」
キューブの怪電波は、広範囲に及んでいた。新鋭機ディスタンといえど、容赦ないらしく、その風防ごしに、頭痛が襲い掛かる。
「痛ぁ。覚醒してても、きつい‥‥っ」
それは、後ろで守られていたみゆりにも襲い掛かっていた。念の為、覚醒していた彼女だったが、それでも頭はがんがんと割れ鐘を鳴り響かせる。
「大‥‥丈夫‥‥っ? みゆりおねえさん‥‥ッ」
「心配、しないで‥‥っ。なんとか、たえられる‥‥」
同じ様に頭痛を抱えているだろうに、自身を気遣う水理。その心配を払拭しようと、首を盾に振るみゆり。そんな彼女達を見て、和泉が後方の藤田、大和の両機へと連絡を取った。
「厄介な敵には‥‥早めに退場してもらうに限る。2人とも、頼むぞ」
「OK。それじゃ、狙い撃ちましょうか」
あやこがそう言って、ライフルをじゃきりと敵に向けた。
「なるだけ戦闘は避けたいけど、そうも言ってらんないかね」
「そう言う事。最大射程からいくわよ!」
大和の台詞にそう答え、600m先の目標へと発射するあやこ。さすがにバイパーの命中率と行った所か、何とかキューブには当てる事が出来たが、ワームには避けられてしまった。
「じゃじゃ馬娘からお姫様へ、悪い虫からしっかり護ってね!」
「へいへい」
取りこぼした相手は、大和の機体が捕捉する。顎でこき使うような形になったが、彼女は気にせず距離を詰めた。
「時にはビンタの一つくらい食らわせないと。前衛さんのフォローに回るわよ。ただでさえ不利なんだから!」
リロードの間に向かってくるワームへ、300mまで縮め、副兵装に仕込んだガトリング砲が放たれる。。
「相変わらず、ごっついの持ってるなー」
ホーミングミサイルまで持ってきたあやこに、感心したようにそう言う大和。
「白馬の騎士も女性進出の時代よ♪」
楽しそうにそう言って、彼女はDO2を連射する。
「どっちかって言うと、白馬の蛇ってとこだけどなー」
バイパーの鎌首に見据えられた蛇を連想してしまう大和。
「なんか言ったかしら?」
「何でもないッス! あ、追っかけてきました!」
ぶんぶんと首を横に振り、矛先をワームへと向ける彼。と、あやこはスナイパーライフルのリロードが済むまでは、ガトリングで時間と場所を確保するつもりらしく、げしげしと盛大に打ち込んでいた。
「サイコロさんサイコロさん、良い目を出して頂戴なってな!」
そう言うと、小型ミサイルを撃ちこむ大和。しかし、相手も数が多く、2〜3体砕け散っても、また元の木阿弥。
「囲まれた?」
「サイコロもバカじゃないってか」
そうこうしているうちに、両側にまるで壁のようなキューブが出来上がる。がんがんと鳴り響く頭痛。しかし、あやこはそのキューブ達に、レーザーを向けた。
「突破するわ! 敵をバラけさせて!」
「簡単に言ってくれるぜ‥‥」
文句を言いながらも、機体を上昇させる大和。注意が逸れた瞬間に、今度はあやこが、ホーミングミサイルを発射する。
「これがカジノだったら破産してた所だわ」
開いた隙間を駆け抜け、同じように上昇するあやこ。ほっと安堵のため息をつく。
「先は長そうだけどな。悪い虫の親玉が来たみたいだし」
「しつこい男の子から逃げるのは得意なんだけどねぇ」
だが、のんびりしてはいられない。大和の忠告に、彼女は再び戦列へと戻る。そう‥‥急速に接近するKVに良く似た機体がいたから。
「何でこいつがここに‥‥!」
健太郎の背筋に冷たいものが走る。良く見れば、それは鳥に良く似たワームだった。
「現在地は?」
「ジェノバ到着ちょい前ってところだ」
のもじが冷静に尋ねると、トヲイがそう地図を見て答えていた。良く見れば、遥か彼方に、陸地が見える。どうやら、様子を見に来たようだ。
「何とか切り抜けないと!」
「ブースター使わないと、ここは無理だぜ。相手してる状況じゃないし」
健太郎が、半ばパニックを起こしたように、声を荒げる。と、大和が離脱を勧める。これが『普通のワーム』だったら、トヲイの言うように、合流して総攻撃‥‥なのだが。
「煙幕張りますから、今の内に逃げてください」
それを受けて、和泉が煙幕弾を発射する。だが、相手の鳥ワームは、それをやすやすと避けてしまった。
『その動き、やっぱり囮か‥‥。通りで情報揃いすぎてると思った』
オマケに、敵の機影から、そんな少年の声がする。
「ばれてる?」
「‥‥念を入れすぎたってところかな」
健太郎の声に、そう応える和泉。バレないよう、派手さを控えての行動だったが、どうやら、お膳立てをしすぎて、相手にバレてしまったようだ。
『まぁいいや。見た覚えのある子がいるし、ここで戦力を落としておくのも、悪くないからね』
しかも、相手にとっては片手間。そう言った瞬間、敵の機影が、姿を消す。直後、現れたのはみゆりと水理の乗った機体の真上。
「みゆりねえちゃん! 和奏姉ちゃん! あぶない!」
ブーストを吹かした健太郎の機体が、その間に割り込む。
「ありがとう‥‥」
何とか一撃を回避出来たものの、2機ともボロボロになってしまった。
「負けたくない‥‥」
そのまま、目を引くように囮になろうとする健太郎。
「大丈夫。絶対可憐だから負けない。そろそろどーんでんがえしー、開始しない?」
のもじが、現在位置を見ながらそう言う。既に、陸地までもうちょっと。上陸してしまえば、ミラノまでは僅かだ。
「赤い悪魔じゃなさそうだしな。何とか振り切れるかもしれん」
「わかった。僕頑張るよ!」
トヲイの判断に、水理はそう言って、ブースターを吹かす。
その結果、相手が片手間様子見機体のせいもあって、何とか振り切る事は出来た。しかしそれは、自分達が能力者だとバラす事になっていた。
「本物のジャンヌを護衛しているチームから連絡が入る迄は、『ジャンヌ御一行様』のままで居た方が良いだろうな」
上陸したトヲイ、和泉の振舞った冷たいジュースをごきゅごぎゅと飲み干しながら、そう呟く。みゆりの格好は、このことあるを予想して、完璧なまでにジャンヌだったから‥‥である。