●リプレイ本文
「中佐のおじさん、おかえりなさいっ!」
ガリーニンで、荷物の搬入指揮を執っていた『中佐のおじさん』ことツォイコフ中佐に、少女‥‥すなわち水理 和奏(
ga1500)はぴょこんっと思いっきり抱き付いていた。
「こらっ! 作戦室で待ってろと言って置いただろうが!」
べり、と引き剥がすようにして、床に降ろす中佐。連絡は受けているのだろう。引きつった顔を浮かべている彼に、水理は「だってー!」と半べそをかいている。
「いいから下で待っていろ。まったく‥‥」
「ごめんなさーい」
それこそ、父親が娘に言うように告げられて、彼女はぺろりと舌を出す。そして、心なしか嬉しそうな表情で、タラップの踊り場から、その機体を振り返った。
「久しぶり、ガリーニン。頑張ってるみたいだね」
まるで、旧知の友に語りかけるようなその口調は、彼女が無機質なメカも友として扱う心意気の表れだった。
「いくよ、はっちー。バグアを蹴散らせ! ガリーニン護衛と拠点確保!」
愛紗・ブランネル(
ga1001)の乗るワイバーンの目が、まるで命を宿したかのように輝く。火を入れられたその機体は、轟音と共に、少女を乗せて、ナポリ上空へと飛び立っていった。
「こちらの準備は整った。安全空域で待機していてくれ」
『了解した。回収は頼んだぞ』
漸 王零(
ga2930)がそう言うと、通信機から回収機を作動させているゲック・W・カーン(
ga0078)の声が返ってきた。既に、サンドリヨン担当は、その機体を待ちわびている頃だろう。そんな中、左と後ろ側を警戒しながら、アイシャがこう呟く。
「機体の後ろにも目があったらいいのにー。ねぇはっちー?」
『その代わりに、我らが警戒しておきますよ』
無線機の向こうから、レーダーの様子を見ながら周辺警戒を行っていたファーザー・ロンベルト(
ga9140)がそう答えてくれた。彼に「お願いねー」と、反対側の警戒を任せた直後、当の本人から警戒無線が入ってくる。
『5時の方向より、高速で接近する物体があります。レーダー不能域まであと1分、数6!」
「CWだな。おいでなすったぜ」
大きさと進行ルートから考えると、警戒のキューブワームだろう。そのうち、通常ヘルメットも駆けつけてくるに違いない。CWを倒す事が先決と判断した王零は、奇しくも僚機となったゼシュト・ユラファス(
ga8555)にも、そう促す。
「わかっている。では、ばら撒くとしようか
主兵装のソードウイングは、接近戦でないと使えない。さらに、長丁場なので、無駄弾も撃てない。そう判断した王零は、接近してくるCWをレーザー砲で一掃しようとする。
「出来るだけ長引かせろよ。後半きついからな」
一方、同じディアブロながら、彼が副兵装に仕込んだレーザーをメインウェポンに仕込んでいるゼシュトは、むしろそちらを牽制援護に使っていた。距離が離れた相手には、強化したスナイパーライフルをお見舞いしている。
「派手にやってるな。準備は良いか?」
そうして、戦っている彼らを、ガリーニン内部で見守っていた霧島 亜夜(
ga3511)は、備品が壊れないようしっかりと固定しながら、ゲックにそう尋ねた。直後、眼下に目標となる工場が垣間見える。
「よし、パイルバンカー投下!」
ゲックがパイルバンカーの鎖を下ろした。外壁に固定されたそれは、しずしずと下りて行き、サンドリヨンの収められたコンテナを、がっちりとキャッチする。
「本当はこれが使えれば良いんだがな‥‥」
「錬力を温存しといた方が無難だろう」
回収した飛行ユニットを固定しながら、そう呟く霧島。だが、ゲックは首を横に振る。後で補給が行われるかもしれないが、それでも錬力は温存しておきたいとの事で、今はチェーンフックがかかっていた。
ところが、である。
「そう簡単に釣らせちゃくれないようだな」
本体の入ったコンテナを吊り上げようとした所で、気付いたのか、飛行型ワームが襲撃してくる。しかし。まだキューブは倒されていない。
「おいでなすったな。飛行型からやるとしようか」
そう言って、ブーストを吹かし、スピードを上げるゼシュト。相手より早く近づいた彼は、その翼をもぎ取るように、AFを食らわせている。
「陣形を忘れるなよ」
「はーい。いっきまぁーーす」
一方、王零は後ろにいたアイシャにそう指示をした。回り込もうとしたヘルメットワームに向けて、ワイバーンの高分子レーザー砲が煌く。
「今だ!」
ダイヤモンドの両側で、激しい火花ががあがる中、ゲックの吊り上げたコンテナがガリーニンの格納庫部分へと収納される。それを確かめた王零は、まるで自身が弾丸になったかのように、ブースターのスイッチを入れた。
「いっけぇ!」
機体が回転し、螺旋の軌跡を描きながら突撃する王零。ソードウィングがヘルメットワームの本体を捕らえる。直後、爆発音。
こうして、一行は、何とかサンドリヨンを回収し、ワームの追撃を振り切って、移動先であるスペイン・マドリードへと向かうのだった。
「『閃光』の名に恥じぬ動きをしないとな!」
補給が済み、マドリードまであと僅かとなったそこへ、再び登場するキューブワーム。頭痛を引き起こすその怪電波に耐えつつ、霧島は仕込んだラージフレアを、確実に炸裂するべく、ミラーシェイドで姿を隠す。
「おじさんとガリーニンは僕が守るんだ!」
その間に、機体の上へよじ登った水理が、攻撃網をすり抜けてこようとするワームに向けて、レーザーを発射する。
「援護するよ! 何たって和奏姉ちゃんのファンだからね!」
彼女が撃ち漏らした敵を、棗・健太郎(
ga1086)がちょこちょこと当てようとしている。少年少女が頑張っている姿を見て、ゲック、ぼそりと一言。
「若い奴は早いなー」
「それほど年寄りでもないだろ。装甲20%きったら、すぐ戻れよ!」
霧島が、相手の攻撃を回避しながらそう言った。さすがに早いだけあって、中々致命傷には至らないが、元々装甲の低い機体。油断は出来ない。ゲックもそう思ったのか、少年少女が戦っている間に、手近な建物に身を潜める。
「健太郎くん! ボクがひきつけるから、その間に撃って!」
一方の少年少女のうち片方‥‥水理はそう言うとレーザーを乱射する。飛行には至っていないが、それなりに経験を積んだ彼女の射撃能力は、ワーム達にとってもうっとおしいものになったらしく、続々と集まってきた。
「うん! あたれぇ!」
寄って来たそのワームに向けて、ミストジェットを放つ健太郎。ガリーニンの姿が、水蒸気の内側へと消える。その濃い煙を隠れ蓑に、アイシャがワイバーンを獣型へと変形させた。
「ワイバーン、へーんしんっ!」
わぉーーんっとばかりに4足歩行形態となったワイバーンに、特殊能力であるマイクロブーストが上乗せされる。食らい付く狼となった機体。しかし、狭い足元では、中々踏ん張りが利かないのも当然なわけで。
「危ないッ」
健太郎が、とっさにパイルバンカーを発射してその首元にロープを引っ掛ける。びぃんと張ったワイヤーを切ろうと、ワームが鎌をかかげた。だが直後、そのワームは横合いからロケットランチャーに吹っ飛ばされていた。
「中々ガッツがあるな、少年。だが、時には引く事も重要だと覚えておけ。でないと、ああ言う奴が出てくるからな」
撃ったのはゼシュトらしい。彼の指し示した方向を見た時、一瞬赤い影が見えた。
「CWの出現パターンに気をつけておいて正解だったな」
「ファームライド‥‥」
おそらく、レッドデビルの名を持つ機体。
「ふむ。では我は神の名の下に汝に裁きを与えようか」
相手が悪魔なら、遠慮をする事はない。そう言いたげに、ファーザーは、覚醒の副作用となった口調で、神罰を与える事を告げるのだった。
数分後。
「どこにいるんだよ!?」
「この辺なのは間違いないだろうな」
健太郎が、周囲を見回す中、霧島はそう警告を発した。レンズを集めているそうだから、何かきらりと光るものもある筈。
「空間の歪みを狙えばなんとかならないものか‥‥」
滑空砲を油断なく構えながら、周囲に気を配るファーザー。ロケットランチャーでは被害が大きそうだ。
「だいじょーぶ。さいころさん撃ちぬけば、何とかなるなる!」
アイシャが明るくそう言って、策敵の障害となるキューブワームへ、ワイバーンの牙となるべくメトロニウムレイピアを振り回している。
「そうだ! ペイント弾!」
はっと顔を上げる水理。そして、ガトリングの弾に、ペイント弾を入れなおす。既にゼシュトはそれを済ませた後だ。
「なるほど、ガトリングの弾を変えればいい話ですな」
「博打だがな」
ファーザーにそう言うが早いか、ファームライドが次に現れそうな物陰を狙う彼。もとより当たるなどとは思っていないが、何かの目印になれば充分だった。
「意表をつければ良いけどな」
市街地では、おおっぴらにソードウィングを使うのも躊躇われる。それは、ラージフレアを持つ霧島も同じだった。
「俺が囮になる。その間に狙ってくれ」
が、彼はそう言うと、何とかキューブワームへフレア弾を発射する。盛大に炎が上がるが、数は一向に減らない。それを見て、アイシャはガリーニンに連絡を取った。
「CWの数が増えてる‥‥。暗視スコープのおじさん、どうなってる?」
ざぁぁぁっとノイズが走っているのを見ると、おそらくあちらも砂の嵐だろう。
「ミストジェットはあと1回しか使えないのに‥‥」
残りの燃料は僅か。ジグザグに走りながら、健太郎はファームライドを探す。こうして、弾をばらまいていた所。
『何か色々持ってきたみたいだねー。じゃ、こっちも1人じゃ分が悪いかな』
そんな声が、建物の間から聞こえた。
「あの時の少年機だよね‥‥」
既に、交戦した事のある水理がそう呟く。
「誰なんだろ。噂では子供が多いって聞いたけど」
アイシャも、その中身が気になるようだ。他の傭兵達の話では、大人がいるのも聞こえているが、半数は子供らしい。
『手っ取り早くやんないと、京兄様に言われるし。ちょっと本気出そうかな』
「‥‥京兄様? 京の字のことかな?」
相手の台詞に、アイシャはシェイドに乗った日本人パイロットの事を思い出す。と、その時だった。ノイズだらけの通信機に割り込むように、ブライトン博士の声が聞こえてきた。
『なんだよ。じいちゃん、そんな大々的な紹介いらないって言っただろ』
そう、それはファームライドの乗り手を紹介するものだった。忌々しげにそう答えた少年の声と友に、赤い悪魔が姿を見せる。
『じゃあしょうがないな。初めまして。ボク、甲斐蓮斗。ゾディアック12星座の1人、アクエリアス。よろしくね!』
ファームライドの風防に、うっすらと見えた少年は、派手な装飾のついた洋服を着ていた。にっと笑って指先で銃を撃つ真似をすると、即座にその姿がかき消える。
「見えないのは‥‥きみだけじゃないんだよ!」
対抗するように、水理がミラーシェイドをかけつつ、ガリーニンの上で助走する。そして直後、サンドリヨンの推進部に仕込んだ飛行ユニットが、轟音を立てた。
「邪魔はするが邪魔はさせん!! 『漆黒の悪魔』の異名は伊達じゃない事を見せてやる!! 」
その行き先を決めるのは王零。ブースターを吹かし、強化した機体でもって、ファームライドのいるであろう方向へとダッシュをかける。
『その名前は、京兄様にこそふさわしいものなんだけどねっ!』
蓮斗、そう言い返すと、身を隠したまま、レーザーに良く似た青白い光を放射状に食らわせる。
「ほう‥‥赤い悪魔は伊達じゃないという事か。だが、墜ちる訳にはいかんのだよ! 私は!」
不敵に言って避けようとするゼシュト。しかし、速度は相手の方が上だったらしく、被弾してしまう。
「本命はこっちだよ!」
その間に、水理、まるで騎兵隊か何かのように、ツイストドリルを加速させる。その間に、王零が援護するように、ソードウィングを振り下ろす。
「姉ちゃんは僕が!」
そこへ、健太郎がミストジェットを使った。それはちょうど、スクリーンの役割を果たし、赤き姿を浮かび上がらせる。見れば、少し被弾しているようで、バチバチと音を立てていた。
『やっぱり、面白い武器使ってるね。仕方ない、ここはあげるよ。その代わり、それ‥‥そのうち貰うから』
ごとり、と音がして、クリスタルが転がり落ちる。直後、まるで群がるようにワームの群れが酔ってきて、ファームライドは撤収していくのだった。
そして。
「貴方達は私たちが守ります。よろしければこれをどうぞ」
移動中不安にならないように、祈りを捧げる神父となったファーザー、りんごジュースを配って回っている。土地柄、キリスト教の神父と言うのは、かなり尊敬を集める存在らしく、子供ばかりではなく、大人達にも慕われていた。そんな中、中佐をじーっと見上げた水理は、決意の表情でその腕にからみつく。
「おじさん、僕決めたよ!」
「和奏お姉ちゃん?」
泡食ってる健太郎。
「もっと手柄を立ててお勉強も頑張って、正規軍に採用してもらうんだ! だからおじさん‥‥将来、僕を貰ってね! 約束だよ!」
一応中佐の名誉のために併記しておくが、水理は部下にしてくれと言っているだけである。
「良かったな。嫁が出来て」
「‥‥‥‥‥誤解だッ」
が、王零ににやりと笑顔で肩を叩かれて、中佐はやっぱり頭を抱えて怒鳴り散らす羽目になるのだった。
なお、ガリーニンにはスペースに若干の余裕があったらしく、傷ついた傭兵達は、体を休める事も出来たと言う。