タイトル:【レンズ】海洋投棄マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/25 21:40

●オープニング本文


 ファームライドの移送は、順次ガリーニンやら護衛機やらを募り、ラスホプへと運ぶ手はずになっている。そんなわけで、ミクの周囲も次第にあわただしくなってきた。そこへ、インディアナポリスとスペインで確保したレンズのデータを、カラスが持ってくる。
「こいつの分析結果が出たよ」
 どさり、と。写真つきの報告書をおく彼。ミクは、それには殆ど目を通さず、データベースの数値だけを流し読みしている。腕に音叉のマークが出ている所を見ると、覚醒状態ではその程度で充分なのだろう。
「どうだった?」
「未知の水晶体」
 あっさりと答えるカラス。そんな事は見ればわかる‥‥と、説明になっていないせりふに、ミクはすっぱりと切り捨てて、続きを求めた。
「冗談。まぁ地球の鉱物でない事は確かだね。恐ろしく透明度は高いし、インディアナにあった設計図とつき合わせたら、こっちの本体が砕けたし」
 つまり、人の手には余る代物のようだ。普通、レーザーにレンズは使わないが、持ち帰った設計図を参考に組み込んでみたら、熱暴走かなんかを起こして本体が溶解し、共鳴実験やったら、スピーカーの方が砕けて、けが人が出てしまったそうである。
「詳しい事は難しくなるから、説明は省くけど、こいつをバグアの手に帰したら、向こうのものがパワーアップするのは、間違いないね」
「じゃあ、どっかに片付けておかないといけないぉ」
 頑丈な箱かなんかに入れて、どこかに鍵をかけて。ところが、そう主張するミクに、カラスはちょっと困ったような顔をしてこう言った。
「本当はラスホプの方がいいんだけど、変な電磁波出してて、無理なんだ。ファームライド持ち込むってことで、何でもかんでもってわけにもいかないし」
 何でも、その電波がどう言う訳か透過してしまい、ラスホプの機械にどんな影響を及ぼすかもわからないそうだ。そこで、その電磁波を利用し、腐食を防ぐ加工を施したコンテナに入れ、影響の少ない海域へ沈める事にしたそうだ。候補地は、冬になればそう簡単に攻め入れないだろうベーリング海峡である。
「じゃあ、そのように手配するぉ」
 ミクが、カタカタとキーボードを操作するのを見て、カラスは「頼むよ」と、護衛機の申請を済ませに行くのだった。

 ところが、である。
「こ、この甚大な被害はいったい‥‥」
 前線基地へと向かったカラス、あわただしい様子にUPCの面々を説いただす。と、若い兵士はしどろもどろになりながら、こう答えた。
「そ、それが‥‥。FR輸送の件でそっちに行ってまして‥‥。他のがおろそかに‥‥。それでなくても、恐ろしく動きの早いゴーレム型がいやがって‥‥」
 なんでも、FRをラスホプへ収める為、護衛機を100機ほど飛ばしたら、離脱した瞬間に、後ろから教われたそうだ。幸い、ガリーニンそのものには、傭兵達がついていたので、何とかなっているようなのだが、果たして。
「さすがにそんな所をのこのこ行ったら、奪還しろと言っている様なものだね。なんか考えるか‥‥」
 手元の計画書では、レンズの投棄を含めて、他にも使用申請が来ている。さすがに毎回100機近い戦闘機をくれてやるわけにも行かず、頭を抱えるカラスだった。

 その上。
「巨大なトカゲ? どこかの映画のみすぎじゃないのかい?」
 カラスの元に、ミクからそう報告が届いた。なんでも、海中を爬虫類のような物体が目撃されているらしい。海域的にバグアの支配下ではあるのではあるが、カラスは容赦なく疑問符を投げつけた。
『間違いないぉ。記録にも残っているぉ』
「ワームかなぁ。キメラじゃなさそうだけど‥‥」
 キメラであれば、超大型の部類に入るだろう。ぼやけた映像からは、はっきりしない。
『どうしよう?』
「投下した瞬間に、ぱくっ! じゃ問題だしね。仕方ない。船出してもらおうか」
 冬になれば流氷が接岸し、夏でも落ちれば風邪ではすまない海域だ。かといって、空中からでは問題だし、傭兵達が必ずテンタクルスを持っているとは限らない。ので、UPCに出撃要請をするカラスだった。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM

●リプレイ本文

 ラスホプから直接ベーリング海峡に向かう事は出来ない。船の都合もあって、傭兵達はロシア側のとある港から、向かう事になった。
「ベーリング海峡に轟く戦慄。秘宝の封印に忍び寄る巨大な影! 生と死の運命が混ざり合う、凍える水圧をブチ破れ錨のテンタクルス!! でも寒いのは勘弁な?」
 記録用のカメラが回される中、何やらマイクっぽいものを手にしている猫瞳(ga8888)。そんな彼らが乗り込んだ船は、UPCの管轄らしく、結構な設備も揃っていた。もっとも、あくまでも輸送艦レベルなので、敵とガチでやりあえる戦闘力はないのだが。
「‥‥未知の敵とは、厄介だな」
 そう呟きながら、UPCのデータベースにアクセスしているホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)。モニターに浮かび上がったそれを、プリントアウトする彼。ベーリング海峡は、その特性ゆえか、海底の調査データが残っていなかった。主なものは、その海流に関する専門の報告書だ。それでも、海域までの地図は手に入っていた。
「じゃ、これ皆に配ってください。なくさないようにお願いします」
 アルヴァイム(ga5051)がそれに航路とメンバー表を添えて、皆に配っている。見れば、艦長に確かめたらしい航路が記されていた。
「えぇと、これのどこに投棄する予定ですか?」
「このあたりが妥当ですね。起伏に富んでるから、偽装しやすいだろうし」
 アグレアーブル(ga0095)の問いに、そう答えるアルヴァイム。彼が示した航路の先には、明らかに亀裂が入っているとわかる地形がある。近くの大陸から流れるように伸びたその谷は、おそらく地球の割れ目といった雰囲気だろう。かなり大きな縮尺にも写っている所を見ると、相当深そうだ。
「こっちも、それなりに偽装できないかな。投棄した後もレンズを敵に奪還されぬよう、コンテナの防御を固めておきたいし」
「そう思って、コンテナはこうしておいたよ☆」
 ホアキンが地図を片手に申し出ると、カラスがコンテナの向こうの画像を送ってくれた。それには、レンズを覆うように巨大な貝が移りこんでいる。アップにしてみると、硬い樹脂で覆われていることがわかる。「これなら、海の中にあっても、違和感ないだろ」と、そう言い張るカラスだったが、その割には形状がシャコ貝。少し詳しい者なら、北の海には似つかわしくない貝だとばれてしまうだろう。
「んー。まぁ後は沈んでるミサイルを使えば、何とかなるか」
 が、ホアキンはそれを、沈んでいるミサイル等で、偽装することにしたようだ。
「それじゃ、全速ぜんしーん」
 運転しているのは、UPCの乗組員なのだが、水理 和奏(ga1500)はまったく気にせず、びしぃっと指先を外に突きつけるのだった。

 今回、水中用機体を持っている傭兵が半数を占めた。その為、哨戒機と護衛機に分かれて、該当海域まで向かう事になった。行動力と移動力の高い水中用KVを持っている面々が海中組、それ以外が船で警護に当たる面々である。
「諸々の海棲キメラを相手にしてきたが、トカゲタイプはおそらく初見。5メートル程度のサイズじゃ海では小さい方だが‥‥」
 水生生物では、10mクラスもざらだ。そう思う鯨井昼寝(ga0488)。サイズと戦闘力が比例しないのが、バグアの常。それを承知の上で、昼寝は視界内に目を凝らした。その口元に、どこか楽しみにするような‥‥含み笑いが浮かんでいるのは、気のせいではないだろう。覚醒する間は、破壊衝動の高まる彼女、期待に胸を膨らませているに違いない。
「水がにごってる‥‥。この状況じゃ、5mサイズのトカゲでも、相当近づかないと、視認出来ないぞ」
 水中用キットを装備させた、新品の雷電に乗ったホアキンが、付属させたカメラを向ける。だが、プランクトンが活発化しているせいで、海底まで届かない。近づけば、ミサイルの場所はわかりそうだが、限界水域ぎりぎりな上、どこからトカゲが出てくるかわからないので、判断しかねていた。
「さすがに、北の漁場だけあって、お魚はたくさんいますねぇ。美味しそうです」
 一方、アグレはファルロス(ga3559)の支援範囲内で、それぞれの機体の位置を把握することに努めている。豊富なプランクトンを狙って、北の方に生息するお魚がうろうろしている。戦乱のあおりで、漁船がここまで出てこれない為、その量は豊富だ。
「この魚群にまぎれられたら、結構厄介ですね。お宝の隠し場所はどの辺ですか?」
 まるで天然のブラインドである。アグレが戦場の動向を確かめると、作業を進めているホアキンがこう答えた。
「もう少し進んだ所にある。足元がごつごつしてくるし、海底流が変わるから、すぐわかるそうだ」
 潮流の影響で、沈んだミサイルの吹き溜まりになっている場所があるらしい。そこなら、ミサイル等が多く沈んでいるので、ホアキンのリクエスト通り見つけにくくなるだろうと、カラスは判断していた。
「キメラかワームか‥‥」
 猫瞳が、フィッシュブラインドの向こう側へと目を凝らすが、まだ現れていないのか、巧妙に隠されているのか、魚に動きはなかった。
「正体より、数がわからないのがやっかいだな。複数の目撃例があるということは、複数個体が存在すると考えた方がしっくりくるし。そっちはどうだ?」
 ともかく、先に見つけないと‥‥と、そう考えて、速度を上げる昼寝。不意の襲撃にもそう簡単に当てられないようにする為だ。もっとも、囲まれても、逃げ切れる速度になった代わりに、昼寝のこめかみを視神経性の頭痛が襲ったのだが。
「僕のテンタクルスも、泳げて嬉しそう〜。何ヶ月も前にカジノで交換したっきりだったもん」
 その反面、のんびりした速度で、優雅に泳いでいるのは和奏の機体である。艦から離れすぎないよう、その周囲をぐるぐるしている彼女、なんだか護衛と言うより、海水浴をしているようだった。
「投棄作業は、今接続中ってところだな。船は揺れるし、しっかりつけて、なおかつ外しやすいようにしたいんだと」
 船の上では、その間に、貝に偽装したレンズへ、ロープの取り付け作業が進められていた。ファルロスが頭上と海中を警戒する中、人型になったホアキンの雷電に、そのロープを固定する。
「ウィンチ接続完了! Quena、投棄作業開始するぜー」
 そこへウィンチを接続し、巨大な偽貝が、ゆっくりと持ち上げられた。だが、その直後である。
「待て! 急速に接近する物体がある! 哨戒班、そっちにも何か来てないか?」
 頭上を警戒していたファルロスがそう叫んだ。見れば、ばちばちとスパークを散らしながら飛来してくる四角い物体が確認できた。
「ミサイルじゅないんですか? あれ」
「明らかに漂流物じゃないです。もし放棄されたミサイルなら、データがそっち行ってる筈ですし」
 戦闘体制へと入ったアルヴァイムが確かめるようにそう言うと、少し離れた場所にいた熊谷真帆(ga3826)が、チェックシートを片手に、その画像をアップにする。確かにキューブと、ヘルメットワームだ。50m下の海面に目を凝らしてみれば、まっすぐ現場海域に向かう細長い機影が見えた。それに、友軍識別信号も出していない。
「私、ちょっと見てきます!」
 ジャミングで、信号が途絶えている可能性はあるが、どっちみち数の把握が優先だ。そう判断したアグレが、近づいてくる海中の機影へと方向を変える。
「外見から判断できるとは限りませんから、投下は一時停止です。ウィンチ、巻き上げてください」
 そんな彼女を援護するべく、人型へと変形して、船の上へ降り立つファルロス。
「早くしろよ。人型だと、モーターに負担がかかるからな」
 ワイヤーロープのきしむ音がして、ウィンチが火花を散らす。雷電はびくともしないが、結構な重量物なので、各パーツが悲鳴を上げているような気が、ホアキンにはした。
「撃ってきましたぁ!」
 頭上のワームが、その腕から謎の怪光線を降り注がせる。だが、狭い海域ゆえ、中々当てられない。
「こっちは私がやりますっ」
 長距離対応のアグレが、海の上で戦闘機体型になるが、考えてみれば海上から空に飛び立つことを考えていなかった。その間に、トカゲが深く静かに近づいてくる。
「トカゲ‥‥何匹いるんですか?」
「レーダーには10匹くらいだな‥‥。1匹、倍ぐらいのサイズがいる。あれがボスだろう」
 まるで、餌に群がるクロコダイルのように。昼寝のカメラには、魚達をかきわけ、次々と集まってくるトカゲ型の姿が映っていた。遠めで見る限りはトカゲだが、昼寝のカメラアイに移っていたのは、その喉仏にある射出口だ。
「ワームか‥‥。なるほど、水陸両用型と言ったところだな」
 有人か無人は判断できないが、明らかに生物ではない。彼らは、そのボスたる一匹に合図を送られると、船を囲い込む形で、左右に展開する。
「コンテナに近づけるなよ。アル、アグレ。付き合え」
 集中攻撃でも食らわせるつもりか‥‥そう判断した昼寝、他の哨戒班‥‥アグレとアルヴァイムを引き連れ、囲みの一部を突破しようとする。
「目撃者は消さないといけませんしね」
 明らかにコンテナを見られている。データを解析されるよりはと、その一匹へと回り込むアグレ。
「強行突破ってわけでもなさそうですがっ」
 向こうから仕掛けては来ない。防御に徹してみようと、ワームと船の間に入り込むアルヴァイム機だが、相手もぐるぐると狙いを定めるように動くだけで、積極的には仕掛けてこない。おかげで、ディフェンダーの出番がまるでなかった。それは、真帆も同じである。
「うわぁん、わかな魚雷持ってくれば良かったー!」
 距離を離して、スナイパーライフルをうちこむ和奏。しかし、その距離で威力が落ちているのか、今度は間にヘルメットワームを割り込まされてしまった。
「えぇい、投棄は中断だ。弾幕張るから、その間に何とかしろ!」
 にらみ合っている間に、コンテナ‥‥いや、偽貝を巻き上げたホアキン、ガウスガンで弾幕を張り、何とかトカゲに近づかせまいとする。
「レーザークローの射程が‥‥バルカン使うか」
 ファルロスも距離を離しながら、そう言った。レーザークローに装備しなおす余裕などない。対抗するように振ってくるワームのレーザー攻撃。けん制のトカゲ達。それに対抗するには、中距離のバルカンしか持っていなかった。
「空からじゃ当たらないですね‥‥。仕方ない、近づくしかないわ」
 真帆が残念そうにそう言う。いくら高度を下げても、空戦スタビライザーから、海中へ直接ダメージを与えるのはやりづらい。何とか、射程距離の半分まで持ち込もうとする彼女だったが、そこはキューブ達がさせなかった。
「何でもいいから、艦に接近させるな!」
 アルヴァイムがガウスガンを船の周囲へ配置する。磁力のカーテンが、船を取り囲み、計器が効かないと、真っ青な顔をしている艦長に、彼はこういった。
「大丈夫。絶対に守りきるから」
 そして、ブースターを吹かし、海面近くまで浮上する。そして、ガトリングを使って、カーテンの上に蓋がかぶさるよう、銃弾の雨を乱射する。
「こうベテラン傭兵に囲まれちゃ、あっちは無理だな‥‥」
 その様子を見ていた猫瞳、そう呟くと、海中の位置を下げた。深く静かにもぐりこむ彼に、ホアキンが「猫、どこいく?」とたずねると、彼はこう答えて、さらに深度を下げる。
「海峡の平均は水深50m‥‥水中キットじゃ限界ぎりぎりだろ!」
 彼の乗るテンタクルスは、それよりも深い場所へともぐりこむことが出来る。トカゲより深い位置を戦場に選べば‥‥と、その海底へと降り立つ猫瞳。
「よし、船をあいつの向こう側へ移動だ。一網打尽にしてやる」
 投棄の予定位置だった場所だ。それを確かめたホアキンは、周囲の面々に離脱を提案する。攻撃する場所さえわかればこっちのもの。傭兵達は調達したそれぞれの武器で、集中攻撃を仕掛けた。そこへ、船が最大船速でもって突破を図る。
「食らえ! グラビティィィエェェェェェンドッッ!!」
 その機体が、トカゲを回避し、囲みを抜けた瞬間、足元の猫瞳が吼えた。外に伝わっているかは定かじゃないが、気合一閃。絶叫したグラビトンアンカーが、トカゲの胴体へとめり込んでいた。
「トカゲ型の撃墜を確認。他の機体は離脱するみたいだな」
 そのまま、ダッシュでロシア側へと進む船。真帆が空中で旋回し、KVでサポートした結果、本来の船速よりかなり早いスピードで離脱することが出来た。
「追撃はしないでおきましょう。方向、アメリカの方ですから」
 一方のトカゲは、引き離されると共に、反対側へと進んでいく。アルヴァイムが首を横に振り、一向は予定したものとは別の場所へと、貝を投棄する事になった。
「残念ですね‥‥いつかレンズが人類の未来像を結ぶ事を願いましょう」
 上空から降り立った真帆が、そう言って祈りを捧げるような仕草を見せる。かなり、ロシアに近い場所だが、この際仕方がない。それに、当初より北側のそこは、氷に閉ざされる時間も早いだろう。
「僕の無責任なカンだけど、いつか必要になる時が来る気がするんだ」
 和奏も、猫瞳と同じく、すぐに使うと思っているようだ。浅いこの辺りならば、サルベージ作業も容易だろう。
「レンズさん、それまで‥‥またね☆」
 再会を祈って。まるで、しばらく会えない友に別れを告げるように、和奏は貝の沈む海に向かって、手を振るのだった。