タイトル:空中迷路に潜入せよ!マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/30 12:16

●オープニング本文


 海上でマグロワームが暴れている頃、トンネルの上空である青森県と北海道を繋げる空域では、突如現れたワーム達に、次々とUPCの戦闘機が落とされていた。
「く、何とか基地まで戻れ‥‥! あそこにはKVがある!」
「だ、駄目です! 1番から10番まで通信断絶!」
 通信機で怒号と悲鳴が響き渡る中、一瞬にしてその一部が煙を上げた。何とか中身を脱出させる事には成功したようだが、機体は遥か彼方で爆炎を上げる。それが、見渡す限りのあちこちで繰り広げられていた。
「11番から15番まで、反応ありません!」
『相手は例の賞金首だ! 無理に相手をするもんじゃない。全力で離脱して、僕達に任せればいい!』
 報告を受け、一機前に飛び出しているのは、エンブレムと認識番号からするとおそらくカラスだろう。偵察任務を受け、様子見に訪れた所、借り出されたらしい。それでも、彼は負けずにジグザグ運転を再開する。理由は‥‥この惨劇を引き起こした存在が、すぐ近くにいたから。
「みぃーーつっけた☆」
「やはり‥‥キミか。なんでこんな所で、大虐殺起こすんだ」
 聞き覚えのある声と共に、姿を現したのは、どういうわけかゴーレム型。CWを足場にした彼に、カラスは思い当たる。甲斐蓮斗‥‥と。
「さぁねぇ。理由なんてどれでもいいじゃん」
 あまりやる気のない返答と共に、その腕から袈裟懸けに振られる。刹那、超圧縮の空気が、カラスの機体に襲い掛かった。
「く‥‥。人類兵器の不具合‥‥かっ」
 バグア達とは違い、KVとは言え、飛行機型は空気の影響をもろに受ける。賞金のかかった蓮のものなら、例え機体がゴーレムだったとしても、カラスの機体はあおられ、ひっくり返される。
「く‥‥。仕方がないなっ」
 このままでは、海上に叩きつけられる。そう判断したカラスは、人型への変形スイッチを入れた。それはまさに、海上すれすれで完了し、何とか海上にあった船の上へと着地する。
「部隊を引き返させて。このままじゃ、全滅しちゃうから」
「そ、そりゃあわかってるが‥‥」
 KVに乗ったまま、UPC側の隊長に指示をするカラス。戸惑う彼のすぐ脇で、1人の若い隊員が、通信を入れていた。
『カラスさん、後はたのんます!』
「って、キミいったい何を!?」
 行き先は、暴れ放題に暴れているレンだ。
「自分が一番身軽です。俺が相手をしますから!」
 今のうちに撤収を。そう言ったあと通信を切る彼。ゴーレムの中のレンは、そこでにやりと笑う。
「やだなぁ。死亡フラグじゃん。けど‥‥そう言うの無視!」
 その手が突っ込んできた戦闘機の翼を捕らえる。
「く‥‥この‥‥!」
「まずいっ!」
 言わんこっちゃないっ。と言いたげに、無理やり離陸するカラス。錬力の使いすぎで、頭がふらふらするが、ごちゃごちゃ言ってはいられなかった。
「言っただろ。そんなお約束なんて無視してあげるって」
 レンがコクピットの中でうすら笑いを浮かべているのが、透けて見えた気がする。直後、カラスの機体は、生贄になりかけた若い隊員の代わりに、爆炎を上げていた。
「あー、すっきりした。じゃ、帰ろっと」
 こうして、100機以上の戦闘機を叩き落したレンは、やっと気が収まったらしく、ワーム達の後ろへと後退してくれる。
「ようやく開放してくれたかな‥‥」
「そうも行かないみたいッスよ‥‥」
 代わりに集まったのは、幾匹ものワーム。いや、無数ともいえるだろう。彼らは次々に集まっていくと、空中に壁のようなものを形成していく。
「これで懲りたら帰ってね。それ、ある程度の速度でぶつかると、ぶしゅう! だから」
 けけけっとまるでいたずらっ子のように言い残し、函館方面へと飛び去るレン。
「どう言う事ですか?」
『さぁ‥‥。調べて見るから、ヘリ回してくれる?』
 通信機越しにそう言ったカラスを、軍用ヘリが回収していく。縄梯子にぶら下がった状態のカラスは、身振り手振りで近づきながら、慎重にその謎の改造ワームへ近づいていった。
「これは‥‥」
 その小さなワームは、壁を形成していた。持っていたスピアの柄で少しつつくと、まるで目玉のような青い球が浮き上がる。それは、周囲の雲を集めるかのような色をしていて、なおかつぴりぴりとスパークを発生している。
「突破できるかな?」
 そこへ、さらに衝撃を加えると、鈍い感触がして、腕がしびれた。そして直後、壁はいきなり煙を吐き出す。吹き飛ばされるヘリ。入り口へと戻されてしまう。
「大丈夫っすか?」
「駄目っぽいなー。越えたらアレで狙われる」
 気付けば、空は函館方面までそのキメラだかワームだかで埋められていた。まるで、一昔前に流行した巨大迷路を空中にそのまま作り上げた格好だった。
「攻略しないと、函館までルートを通させてくれないんでしょうな」
 隊長さんがそう言ってため息をつく。
「そう言う事になる‥‥かな。ま、クリアしたとしても、補給路が伸びそうだけどね」
 それでも、やるしかない‥‥と思うカラス。迷宮の向こうで、見えない明日を送る人々がいるのだから。

●参加者一覧

ルシフェル・ヴァティス(ga5140
23歳・♂・EL
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
ヴァン・ソード(gb2542
22歳・♂・DF
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
屋井 慎吾(gb3460
22歳・♂・GP

●リプレイ本文

【エアメイズ】
 天空を覆う迷路。それを構成するキメラだかワームだかは、無機質と絡んだ有機質と言う恐怖を、鉛色の空に惜しげもなくばら撒いていた。
「何だかな、この迷路は‥‥。嫌みなものを作りやがる‥‥」
「また悪趣味な迷路を作ったものね‥‥」
 翡焔・東雲(gb2615)とアズメリア・カンス(ga8233)が、表面に浮かぶ目玉の画像に、眉根を寄せている。出来の悪いホラー映画のパーツと言ったそれに、気味の悪さを隠せない。そんな彼らが向かった先では、既に担当であるカラス・バラウ(gz0028)が待機していた。
「うーん、レンくんの趣味はちょっとぶっ飛んでるようだねー」
「しかし、迷路を攻略しないと、どうにも身動きが取れない‥‥仕方ありませんね」
 困ったように複雑な笑みを浮かべるカラスに、そう言ってため息をつくリュドレイク(ga8720)。見せてもらった画像には、偵察をかねてちょっかいを出した自動操縦のカメラが、痛い目を見ているのが写っていたから。
「函館まで抜ければいいんだっけ?」
「ルートが確定出来れば、対処も出来ると思ったからね」
 ヴァン・ソード(gb2542)がそう言って尋ねると、カラスはテーブルの上に地図を広げて見せた。方眼で仕切られたそのマップは、エリアを抜けられれば、函館の‥‥ちょうど乙女砲の残骸があるあたりに出る事を示している。
「あーあ、何で俺この依頼受けたんだろ。でも、仕事選んでられねーよなぁ」
 屋井 慎吾(gb3460)が大きくため息をつく。だが、これもサイキョーへの道! と、思いなおす彼。
(‥‥凄く大きな迷路‥‥。迷子になりそうだよね)
「そうね。‥‥まあ、まずは抜ける事だけ考えましょう?」
 彼が瞳に焔を宿らせているおかげで、白雪(gb2228)は心の中に住む双子の姉‥‥真白との会話を気付かれずに済んだ様だ。
「んでカラスさん、頼んでたものはどうした?」
「ああ、そうだった。はい、こんなものでいいかな?」
 アズメリアの問いにカラスは厚めの紙を広げた。それには方眼がプリントアウトしてある。
「ありがとう。おー、書きやすい」
 多少揺れても大丈夫なように、大き目のマスが切ってある。筆記用具は一通りのペンしかなかったが、それでも満足のいく品のようだ。おそらく、手元にあるカプロイア製高級万年筆を使えば、書き心地は折り紙付になるだろう。
「GPS携帯はだめだったか‥‥」
「この界隈じゃ、そんな高級品は手に入らないよ。無線機で我慢してくれ」
 ヴァンが申請したGPS機能付の携帯電話は、青森市内のショップでは取り寄せになるらしい。仕方なく、持ち込んだトランシーバーで何とかすることにした。
「下から迷路は見えないかしら‥‥」
「無理そうだなぁ。さすがに目隠しぐらいしてあるよ」
 見上げるアズメリア。その構造がわからないかと思ったが、さすがにそこはレンも煙幕を張って誤魔化しているようだ。
「でも、うまくするとはげそうですわね。あー、脱出用の器具は‥‥」
「ここに人数分。でも念のため、パラシュートは背負って行った方が良いかもしれない」
 納得した彼女、ヘリの備品を確かめる。ガスの中がどうなっているかは、ここからはわからないが、念のための準備は怠らない方が良さそうだ。
「そろそろだなー」
 こうして、様々な物資を積み込んだヘリは、能力者達を乗せ、迷路へと近づいていた。さほど距離が離れていないことを告げるアラームが鳴り、慎吾は腕にはめたSASウォッチを確かめる。
「うし、時間合わせるぞ。3.2.1‥‥セット。どれくらいかかるかな」
 たとえ些細な情報でも、記録にはとどめておきたい。それがどう転ぶかわからないのだから。そう思った慎吾が、予想時間を尋ねると、目標時間はだいたい2時間前後とカラスが予想していた。
「なるほど。カラーボールよし。さて、届くかな‥‥」
 その10分の1も使わない間に、迷路へとたどり着く。水鉄砲にカラーインクを仕込んだそれを、風に負けないように壁へと発射してみるヴァン。
 が。
「引っ掛けられた‥‥」
 攻撃力なんぞ皆無な筈のそれは、一瞬置いた後、目玉の部分から多少落ちた初速でもってヴァンへと噴出される。避けようとすれば避けられる速度だが、それは逆にヴァンを舐めきった所業に見えた。
「やれやれ。マーキングにも機嫌取りが必要なんて、ほんとに趣味が悪いな」
 どうやら届いてはいるようだ。風に負けるかどうかは、条件にもよるらしい。そのあたりは、いかに中身が色水とは言え、普通の銃と変わらない。
「入り口はどこだろう」
 その間に、カラーインクと防犯用ペイントボールを手にしたリュドレイクが、槍の柄で軽くつついていた。何度かつつくと、うにょんとまるでスライムが割れるような動きで、入り口が姿を見せる。
「あそこが入り口ですね」
 確信したリュドレイク、あらかじめ持っていたペイント弾をその入り口に向けて発射する。
 が。
「うわっ」
 やはりそれも一瞬の後に跳ね返された。今度は避けるわけにいかず。リュドレイクは頭からインクを被ってしまう。
「これは、やんわりインクで印を付けておいた方が無難ですね‥‥」
 ペイント弾とは言え、ダメージは多少受けている。兵舎でしばらく寝てれば治りそうなかすり傷ではあったが。
 そうして、中に入ると、程なくして道が分かれた。
「うし、二手に分かれようぜ。俺、右ね」
 そう言う慎吾。ここから先は二手に分かれた方が良いらしい。そう判断した傭兵達は、もう一台のヘリを用意し、分乗することを決める。ヴァン、アズメリア、慎吾が右手班、残りが左手班だ。
「こんな壁、ぶっ壊せれば楽なんだけどなァ」
「ぼやかない。その壁に沿って進まないとねぇ」
 慎吾にそう答えるアズメリア。右と左に分かれたのは理由がある。
「右手の法則だっけ?」
「詳しい事は知らないけどよ。うっし、行くかっ!」
 ヴァンの一言がその回答だ。右手を壁に着け、たどっていけば出口に付けると言う法則を元に、慎吾はそう言うと、気合を入れて迷路を攻略しに向かうのだった。

 中はこれまた気味の悪い事になっていた。ヘリをゆっくりと進めながら右手班は足場のない迷路を進んでいた。
「右手右手と‥‥。あ、また分岐ですね。無線機はどうです?」
「途切れ途切れだなぁ。壁の向こうぐらいだと通じるけど、ちょっとでも離れると、ノイズが酷くってさ」
 ヴァンの問いに、首を横に振る慎吾。さすがにジャミングが効いているらしく、壁の裏程度ならば話が通じるのだが、安全距離を保つと、通じにくくなる。
「では、後は色々あわせるしかなさそうですね」
「オレ、自慢じゃねーけど頭悪ィし。絵も下手だから地図とか描けねぇ。頼むわ」
 マッピング担当のアズメリアが、方眼用紙を見下ろしながらそう言うが、慎吾はそう言った頭を使う行為は苦手なのか、すっかり丸投げてしまっている。
「いきどまりはこっちと‥‥。あまり壁とか触らないでね」
 ヘリから身を乗り出しながら、細かくマッピングをしていくアズメリア。と、その瞬間、3本程先の通路で、間欠泉のような音が響いた。
「向こう、派手にやっているみたいだな」
「気にしないで下さい。私達は私達で進めていきましょう」
 本当は気にしなければならないのだが、壁の刺激を避けるため、後回しにしたようだ。こうして、何度か通路を曲がっていたところ、慎吾が耳から煙を吹き始めた‥‥様に見えた。
「さっきは左、いや、右だったか? だーっ! 頭こんがらがっちまう!」
 道順や何回曲がったかをメモっていた彼だったが、どうやら途中でわからなくなってしまったらしい。と、横のアズメリアが方眼用紙を見せて正解を見せる。
「あせらないで。じっくり確実に進んでいくのが一番でしょうからね」
 しょんぼりする慎吾に、マイペースを薦めるアズメリア。ヘリの速度を一定に保ったまま、次の角を再び右へ曲がる。
「あーあ、どっかに美味いモンでもねーかな‥‥」
 双眼鏡を覗き込む慎吾。空の上に食べ物は転がっていないと、アズメリアは思ったが、そこにヴァンがこんな事を言い出した。
「美味しいのは食べ物ばかりとも限らないぞー。レンとか」
 いわゆる、油断は禁物と言う奴である。アズメリアも、敵の襲撃を警戒するように、「それもそうね」と外を見る。
 と。その顔色が曇った。
「どうした?」
「何か、聞こえない?」
 ヘリのローター音にかき消されがちだが、かすかに何かうなるような動くような引っかくような物音。確かに、慎吾にも聞こえた。
「やばそうだな。どうする?」
 触らぬ神にたたりなし。そう判断した慎吾が、ヴァンに指示を仰ぐと、彼は首を横に振りながらこう答える。
「今のところ、仕掛けてくる気はないみたいだから、注意だけしておくか」
「了解。得体の知れないモンには手を出さない事にしておくぜ」、
 頷くと彼は、音の聞こえた場所と方角を付箋メモに取り、方眼用紙にぺたしと貼り付けるのだった。

 一方、左手班は。
「壁に印をつければいいんだよね?」
(そう。来た道とこれから通る道がしっかりと分かるようにね)
 真白に確かめながら、メイクセットを取り出す白雪。中には色のつきそうなものが一通り入っている。
「ええ。でもちょっと待って下さい。こっちの方が確かだと思うので」
 だが、それをリュドレイクが止めた。化粧品で壁に印をつけるためには、それなりに近づく必要がある。それはそれで危険な為、彼はカラーボールを取り出した。
「うわっ」
 カラーボール、ローターの風に吹き飛ばされかけながらも、何とか壁面を染め上げていた。ただ、何割かは跳ね返されて、ヘリのボディにオレンジ色の蛍光塗料がペイントされる。
「念のため、こうしておきましょう」
 そこへ、白雪がメイクセットのマニキュアで印を付けている。それなら、何とか反撃は来ない。
「一番反撃率が少なかったのは、メイクとカラーボールですか。SESに拒否反応あるのかもしれないですね」
 結果を省みて、そう判断するリュドレイク。ヘリに戻り、覚醒を解いている。そして、マッピングされた地図を出し、積んでいた水筒を取り出した。どうやら、練力消費を抑える為、休憩しながら迷路を攻略するつもりのようだ。
「一番影響が小さなものにしましょう。ちょっと気色悪いですけど」
 何しろ、印を付けるたびに、目玉が蛍光オレンジに充血するのである。それに紫のマニキュアで塗るのだから、正直言って趣味のよろしくないカラーリングだ。それでも白雪は「我慢して」と、そう言っていた。
「ぜったい出口をみつけてやる」
 翡焔がそう言いながら周囲の壁に注意を凝らしつつ、左へと進む彼ら。マニキュアで印を付ける時は白雪で、地図をメモる時には真白だそうなのだが、傍目から見るとよくわからない。
「今通った道は先程の道に繋がると思うんだけど‥‥。白雪はどう思う?」
(お姉ちゃんの思ってる通りだと思うよ。間違いないんじゃないかな?)
 方位磁石は使えるようだ。方角を確かめながら万年筆で書き込んでいると、その間に翡焔が奇妙なことに気付いた。
「あれ、さっきと道の形が違うみたいだが‥‥。壁の位置を変えて道をを作り替えてるのか!?」
 行き止まりになったら後退する‥‥と言った事を繰り返していたのだが、目印が重複しているような気がしたのだ。
「可能性はありますね。試してみましょう」
 リュドレイクが曲がり角を3回曲がった先でそう言った。マッピングの清書をしてみるが、そこまでの動きはなさそうだ。少なくとも今のところは。
「やはり進化型なのかしら」
「向こうにも聞いてみよう。そっちはどうだ? 何か動きあったか!?」
 白雪が首をかしげるので、翡焔は右手班に呼びかける。それによると、途切れ途切れながら、なにやら異音が聞こえたことを報告してくれた。
「後で照らし合わせるのが必要ですね」
 出口までは、まだ遠い。ため息をつくリュドレイク。

 結局、抜けるまでに2時間くらいかかった。
「あれ? もう出口か?」
「そうかもしれないが‥‥。合図しておくか」
 途中から練力を押さえて行動したため、さほど影響はないが、リュドレイクは向こう側に入り口と違う光景が見えたので、照明弾で合図する。
 ところが。
「こちら真白です。予定通り今迷路を抜けました。順路は赤いマニキュアで印をつけた通りです」
 白雪が合図すると、程なくして右手班も合流してくる。ぶつからないように気をつけながら、書いた地図を交換すると、奇妙なことに気付いた。
「おかしいな。合わない」
 右手と左手。同じ場所を行ったり来たりしたはずなのに、形が違う。出口の位置が45度ほど違っていたのだ。
「わかれたのは、この辺りか‥‥ん?」
 その位置を確かめていた翡焔が、顔を上げる。と、赤く染まった目玉の下に、にぃっと口が出現する。
「動いた! 出たぞ! 気を抜くなよ!」
「あー、そう言うことか」
 翡焔が警告を発しながら銃を取り出す。その中で、ヴァンははたと気付いた。わかってない慎吾に「よくわかんないんだが、説明してくれー!」とわめかれ、「つまり、殆どはワームで、要所要所にキメラがいたってことだよ」と平たく答えている。
「んもう。ただでさえ迷路が難しくて気が立ってるって言うのに!」
 後退しつつ、キメラに向かって真デヴァステーターを打ち込む白雪。口調が真白に変わっていた。
 その一撃がキメラの目玉を1つ潰した直後だった。
「んー。以外とあっさり抜けられちゃったなぁ。こりゃ、もう少し改良が必要だねー」
 聞き覚えのある声がした。UPCの賞金首リストにあった少年の声。
「あんたは確か‥‥ゾディアックの‥‥!」
 ヴァンがそう言った。そう、みずがめ座。レンである。彼はいつものようにドラゴンフライの上で、「次は、もう少し楽しくなるようにしてみるよ。で、やる?」と不敵な笑みを浮かべている。
「今回はお断りしておきます。今は到達する事が目的。この場で引き換えさせていただきますわ」
 そう答える白雪。よく見れば、わずかに震えている。緊張しているようだが、何とか全力で逃げる手段を考えているようだ。
「賢明な判断って奴だね。じゃ、あっちへどうぞ」
「では、ごきげんよう」
 レンに、まるでアトラクションの出口を示されるように指差され、彼女はヘリの中で優雅に一礼する。
「あ〜、怖かった〜」
 もっとも、基地に戻った刹那、へたり込んでいたところを見ると、その感情は嘘ではないのだろう。