タイトル:【Woi】幽霊街の傘マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/02 02:39

●オープニング本文


 北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるということは、他方で戦力が引き抜かれる場所もあるということでもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊からの戦力が引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。

 L・A近郊のとある港町‥‥。
 空中でドンパチやっている中、その下は既に避難が行われ、ゴーストタウンさながらになっている筈だった。
「やれやれ。何でこんな暇な部署に回されるかなぁ」
 ロス近郊の、とある港町。あまり、豊かの方ではないらしく、家々にはつぎはぎが目立つ。大戦を始める前からそうだったであろう場所に、見知った顔があった。周囲には、派手な装飾を施されたゴーレム達。そして、さながらペットのように、キメラが付き従う少年。ファンタジーに出てくるような衣装を着ているのは、そう‥‥みずがめ座の称号を持つ甲斐蓮斗だった。
『そう言うな。ここなら、思いっきり実験も嫌がらせも出来るだろう?』
 聞こえてきたのは、京太郎の声。どこか離れた場所から通信機越しにしゃべっているらしい。
「そうだね。まぁいいや、面白そうなオモチャもあるし」
 そう言って彼が見上げた先。そこには、大きなと言っても過言ではない砂防ダムが、見えていた。すうっと、レンの瞳が細くなる。
「あ、名前付けようっと。そうだね‥‥‥ミズーリ。うん、いいかも」
 それだけなら、ただの段差のある川である。しかし、そう言った彼が見つめるダムには、どういうわけか、巨大な竜のようなものが見え隠れしていたのだった。

 その頃、その下流にある街では。
「何で船がもうねぇんだよ!」
 で、閑散とした光景に、怒号が響いていた。
「仕方ないだろ。全部出払ってんだからさ!」
 本来ならば、様々な船が泊まっているであろう港には、UPC接収済のステッカーが貼られ、一隻も船はなかった。
「俺らには死ねって言うのかよ‥‥」
 そんな事を言いながら、周囲を見回す人々。古いバーにしつらえられたTVには、避難が終わり、閑散とした街が広がっている画像が、途切れ途切れに映っていた。映像には映っていないが、銃弾と血の跡を見る限り、そこに犠牲者がいた事は明らかだ。
「いいじゃないか。住み慣れた街にいる。それだけで充分さ」
 そのバーにいた老人が一言ぼそりと言った。避難した先で苦労するよりはマシだと。それを証明するように、壁には疎開先として、太平洋のとある島が表示されている。
「この状況じゃ、そうかもしれねぇなぁ。住まないと家、痛むっていうしなぁ‥‥」
 反対側には、風雪に耐えかねて、壁に穴の開いた家々が立っていた。補修する者もいない中、街は寂れて行く。それを見捨てて移動する事はしたくない‥‥と。
「このままじゃ、結局あいつらの餌だよな‥‥」
 寂れた街のあちこちには、我が物顔で、キメラが闊歩している。中型、と言っていいだろう。だが、いずれも大型爬虫類の姿を模していた。
「これがハリウッドなら、どっかの考古学者が助けに来てくれるんだけどな」
「手一杯だろ。向こうも映画の真似事してるほど暇こいてねぇよ」
 そうぼやく住民達。その彼らに取って代わったキメラ達は、こう言い換えても差し支えない姿形をしていた。
 ディノニクス。よくある恐竜ものの映画では、ティラノサウルスと並び、主人公達を追い掛け回す代表格な肉食恐竜だ。
「誰か、何とかしてくれねぇかなぁ‥‥」
 怯えて暮らすのも嫌だ。そう思った彼らは、忙しそうなUPC軍ではなく、あくまでも企業であるULTへ手紙を書いた。

『この街を、上や街中で戦闘が起きても、また元の生活が出来るよう、守って下さい』

 傭兵がこれに迅速に対応できなれば、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へとつながりかねないものである。
 かと言って、彼らを見殺しにする事も出来ない。
 なお、残っているのは一般市民だけなので、恐竜が何匹いるかとか、ワームの配備具合がどうだとか、そう言う軍事的な部分に関しては、触った事がないそうである。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
水無月 湧輝(gb4056
23歳・♂・HA
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG

●リプレイ本文

「私の故郷には茶畑があって、美味しいお茶が飲めますよ」
 人の集まるバーで、残った住人の一握りであろう住民に、そう語っている浅川 聖次(gb4658) 。マスターがいるカウンターだけが、妙に磨かれている中、偵察の途中で乱入した水無月 湧輝(gb4056)が、こう切り出す。
「よう、バーボンはあるかい?」
 一緒にいる水理 和奏(ga1500)は未成年なので、ミルクを。注文を受けたマスターは、一通りの物は出してくれるものの、あまり歓迎していない様子で、にこりともせずこう言う。
「あんたら、よそ者だね。いったい、どこからきなすった?」
「ああ、私は通りすがりの大工だ。気にするな‥‥」
 答えたのは三島玲奈(ga3848)だ。ドッグ・ラブラード(gb2486)も「ULTから来ました」と、身分証を見せる。
「どっかの島にある何でも屋だっけか‥‥。東洋の大工ってのは、ホットパンツでやるのか‥‥」
 アメリカの人には、ブルマは丈の短いパンツに見えたらしい。しかし、そんな彼らのいぶかしげな顔などどこ吹く風で、ミルクを飲んでる玲奈。中々に難しそうな状況に、おなかを押さえるドッグ。それでも、残った村人を集めてもらい、熱弁を振るう。
「‥‥‥‥ですから、皆様方には、指定された地域へ退避をお願いします」
「バグアは近い将来、必ず我々が北米から叩き出しますので、少々辛抱していただけませんでしょうか?」
 ミンティア・タブレット(ga6672)もそう続けた。きっと、自分達の戦いを見せれば、人の心は動くと信じて。
「‥‥‥‥必ず、必ず! 守りますから! 貴方達も! 町も! お願いします!」
 頭を下げるドッグ。と、それまで黙っていた玲奈が、ふうと物憂げに語りだした。
「まぁ落ち着け。んな風に言っても届かないさ。そうだなぁ」
 言葉を選んでいるのだろうか。周囲を見回し、彼女はこう続けた。
「まず、まず命あっての物種。住民が全滅したら、誰が街を復興するのか? 伝統を知らないヨソの土地業者に、知ったような陳腐な分譲広告を出されたいか?」
 地元住民も、そんな事は欠片も望んでいないようだ。だから、玲奈はこう言う。
「私も戦争で両親を失い、学校にも行けず、大工で生活してる。が、未来永劫続く戦争は無いのだ。だからまず街を空けて頂きたい。キメラ討伐の巻添えで怪我人も出る。私がULTに街修理の依頼を出すよう交渉するから、疎開先の不自由はさせない。その為の傭兵だ」
 だが、それは他のUPCも同じ事を言っていた。それに、どう見ても未成年の少女に、口の悪い誰かが、こんな事を言い出す。
「ULTも土地業者も変わらないんじゃないのか? 同じ業者だろ」
 ここの辺りでは、ULTは良く分からない業者として認識されているようだ。胃の痛いドッグ。これは、長期化しそうだ。言いたい事は玲奈が言ってくれたので、あとは相手の気持ちを汲み取りながら、通うしかない。彼がそう思ったときだった。そんな彼らをなだめるように、ナレイン・フェルド(ga0506)がこう言い出す。
「町から離れたく無いかも知れないけど、生きていれば可能性があるでしょ?」
 無理強いはしたくないが、目の前で傷つく人は見たくない。と、話を聞いていた水無月は、バーボンをちびりとあおりながら、ぼそりと言葉をつむぐ。
「アメリカ人ってのは常に新天地を求めてると思ったんだがね。特に、西海岸に住んでいるものは。地の果てまでたどり着いた開拓者の子孫が、新しい土地に行くことに不安を覚えるとは、皮肉なものだな」
 そのセリフに、そうだ。とドッグは思いついた。そして再び人々に近づき、両腕を広げて熱弁を振るう。
「そうですよ。我々アメリカ人の祖先は、体一つで海を渡り、安住の地を得ました。その子孫である我等には切り開く力があるはずです!」
「なに、すぐに戻ってこれるさ。ちょっとしたバカンス‥‥そう考えればいい」
 いつの間にか、カウンターを境にして、住民達と向き合う格好になっていた。その一番後ろ‥‥座っていた住人達の向こう側で、グラスを磨いていたマスターがこう答えた。
「‥‥わかった。そんなに言うなら、まず船を直してくれ。どっちにしろ、あれがないと、皆海には出られないし、避難も難しい」
 こうして、町の了承を得た彼らは、脱出の為の船を修理し始めるのだった。

 作業は、港の片隅で行われた。大きな船を動かすのは手間だし、開けたここなら、周囲を良く見渡せるから。
「資材、持ってきましたー」
 そう言って、その周囲に打ち捨てられていた資材置き場から、材料を持ってくるドッグ。
「こいつが一番無事そうだね」
 玲奈が、大道具の延長線ではあるが、中身があるかないかくらいは分かる。その培った知識により、使えるものと使えないものをより分けて行く彼女。
「ありがとう。あと、壊れた奴でも何でもいいから、放置されているのを、どんどん持ってきて」
 より分けた部品を使って、船の修理を行うのはミンティアの役目だ。
「分かりました! あ、そうだ。船の部品もあったほうがいいですよね!」
 船の部品から、使えそうなものをかき集めているドッグ。
「この辺りはまだ使えそうだ。補強をすれば大丈夫だろう。しっかり取れないように頼む」
 技術的な面は安心だが、強度の面でのフォローをする玲奈。その材料は浅川がたたっ切っている。
 その材料を組み合わせ、何とか20人が乗れそうな中型船を拵えていく。
「AUKVと上手く繋げば動く‥‥のかな?」
「ガッコの報告書では、やはり専用キットをつけないと、泳ぐのは無理っぽいです」
 ミンティアが何とかAUKVを動力として押し出そうとするが、どうしても双方を浮かせる浮力が見えてこない。
「これは無理してでも船の貸し出しを申請すべきだったかしら。今はとにかくやらないとねぇ」
 重たい資材は、浅川がやってくれているものの、中々はかどらない。と、そんな騒ぎを聞きつけて、周囲からきしゃあとわめき声が立ち上る。
「わわわっ。かぎつけられちゃったかな。ちょっと行って来ます!」
 おそらく、町を困らせているディノニクス型だろう。ドッグもまた、その鳴き声が上がった方へと走り出していた。
「サイエンティストが船ぐらい。あと少しのはず」
「駄目なら筏でもかまわん。何とか避難させよう」
 残されたミンティアと玲奈は、せめて町から離れられるようにと、作業を続けるのだった。

 さて、バーを後にした偵察組。
「なんだその荷物は」
 水無月が指摘した先には、迷彩服を着た和奏。方位磁石と連絡用無線機、首から双眼鏡。それに救急セットとランタン持参で、まるでどこぞの探検隊である。
「だって僕、隠密潜行持ってないもん」
 自信たっぷりにそう言う和奏。だから、遠くからでもよくわかるグッズと、何があっても大丈夫なグッズを持ってきたらしい。
「ランタンは消しとけ。光で気付かれる可能性がある。あと、無線機はジャミングで使えない可能性があるから、持ってくのはこれとこれとこれな」
 いらないものを除去ると、だいぶ身軽になった和奏。2人は、町外れにあるダムへ向かっていた。流れる川は、思ったよりも細い。その下には、漁港があり、作業をしている姿が良く見える
「バグア、いっぱいいるね。レンくん‥‥。いるかな‥‥」
 レンの姿は無い。だが、作業員と思しき面々が、なにやら小箱のようなものを、あちこちにセットしている。その周囲を、キメラ達が警戒し、それはダム全域に及んでいた。
「わからんが、このダムに何か仕掛けている事は確かそうだな」
 ダムに目を向けると、その水面で何かが動いた。その姿は、今周囲にいるディノニクスより大きい。
「アレは‥‥。恐竜?」
 その動向を注意深く監察する水無月。刹那。水中で赤く光る。そう‥‥目の形に。と、その直後だった。ダムの水が盛り上がるようにして、中にいた正体不明の恐竜を浮かび上がらせる。噴水のように波打つ湖にいたのは‥‥大型KVよりも1周り大きな姿をしていた。
「起動させたか‥‥。あいつ、ワームじゃねぇか」
「僕、知らせてくるっ」
 どう見てもキメラじゃない。そう判断する水無月を見て、和奏が回れ右をする。途中においてきた無線機を引っつかみ、そのまま川沿いの港へダッシュだ。
「あの大きいのがいる限り、そう簡単にはいかないな。まずは避難を優先させるか‥‥。あ、あまり時間はないがな」
 あの巨体では、白雪(gb2228)の銃も効力があるかどうかわからない。動き出した敵から目を離さないように、水無月は注意深く港へと戻るのだった。

 が、戻った港の周囲では、既に戦闘状態になっていた。
「人の故郷を踏み躙る方には、ご退場願いましょう!」
 浅川が開口一番、竜の咆哮をお見舞いする。吹き飛ばされそうになっているが、思いの他重量があるらしく、踏みとどまっている。そして、返す刀でと言わんばかりに噛み付いてきた。
「触れさせはしない」
 がつっと盾で受け止めるドッグ。その間に、真白となった白雪が、にやりと笑って、住民達に告げた。
「戦禍に巻き込まれるのも馬鹿みたいだし、ちょっとだけ待ってて。お宅の奥さんのショッピングの時よりは待たせないわよ」
「その間に、皆さんはこちらへどうぞ」
 ナレインが間に住民達をはさみながら、安全な場所へ誘導して行く。と、その時だった。
「トカゲが来た!」
 怯える避難民達の目の前に、弓が放たれる。一瞬ひるんだところを、浅川の咆哮が吹き飛ばし、そこへ切りかかる真白。
「八葉流四の型‥‥乱夏草」
 使う技は流し切りだ。首を狙い、焔の欠片が舞う中を、桜色の刀を振り回す。まるで、古のたきぎ能がごとく。
「あなたの命も尊いものだけど‥‥戦う術の無い人達を危険に晒す事は出来ないの‥‥ごめんなさい」
 対照的に、銃を使うナレイン。そこから動くわけに行かない彼は、足元へ向けて銃を乱射する。
「出来るだけ高い場所の方がいいと思う。ダムを壊される可能性があるからな」
 行き先を指示する玲奈。その手には、アンチマテリアルライフルが握られている。進路上に待ち伏せし、中距離から狙えば、背の高い恐竜は転ばせられる。そう思い、彼女は住民たちが斜線上にいなくなったことを確認すると、トリガーを絞った。
「って、全然転ばないじゃないかぁ!」
 前のほうにいた和奏が悲鳴を上げる。足元に何かの強化がされているのか、それともキメラ改造の賜物か、命中したようにみえても、ディノの動きは鈍らなかった。
「背の高い敵は、足元の視界が疎かに成りがちなんだがな‥‥」
 玲奈、そう言うと隠密潜行を使い、船から降りてくる。至近距離で撃てば、何とかダメージを与えられるはずだと。既に奇襲というレベルではなかったが、それでも諦めるわけには行かなかった。
「レンくんが仕切ってるんだ。ここでふんばらなきゃっ」
 水理、その常識の通らないキメラ改造っぷりに、みずがめ座の少年の影を見る。
「‥‥あと何匹? 少しは楽しませてね、蜥蜴君」
 そんな中、それでも不適に微笑む真白。その姿、クール・ホワイト。だが、それ以上にクールな一言が降り注いだ。
「みぃーっつけた」
 すぐ近く。船の真正面。家の屋根。その影から、ぬうっと現れる巨体。ぎゅっと拳を握り締めた和奏は、恐る恐ると言った調子で尋ねた。
「レン君‥‥。まさか、あの恐竜って、僕の苗字から? 僕、それは女の子っぽくないけど‥‥こんな怪獣じゃないもんっ! それに僕スイリだからねっ!」
 よく苗字を読み間違えられるので、恐竜ワームは自分をモデルにしたものと思ったらしい。今にも言い争いをはじめそうな彼女の肩をぽんっと叩き、真白がこうささやく。
「刺激しないで。悪いけど‥‥化け物相手にまともに戦う気は無いのよ」
 そう言うと、死角を探して目が動いた。が、その刹那、レンはぱちりと指を鳴らす。
「あははは! じゃあお望みどおりにしてあげるよ!」
 鳴動。地鳴り。それに気付いた水無月が、警戒して叫んだ。
「まずい。くるぞっ!」
 どぉんっと、重く響く鈍い音。直後、何か重量物がはぜる音が迫ってくる。
「うわぁぁぁっ」
 住民達が悲鳴を上げた。その刹那、見えたのは巨大な岩と泥の塊だ。それは、川をまっすぐ下り、港を襲う。その轟音に、レンの高笑いが混ざっていた。
「もしかして、これが目的‥‥?」
 和奏には、レンが楽しそうにそれを操っている様に見えた。そう、まるでゲームのコマになることを、楽しんでいるかのように。
「ほうっておくとまずそうよ!」
 ミンティアに言われ、慌てて用意していた水中用の槍を持ち出してくる。その間に彼女は、虚実空間を何とかして構築しようとしていた。そして、そんな彼らの囮になろうと、ナレインがすっと前にでた。
「誰も傷ついて欲しくないから‥‥」
「‥‥1人じゃ駄目だよ」
 同じ様に、和奏も。敵は見るからに力を持っている。と、そこに玲奈がアドバイスを口にする。
「踏み潰そうと蹴りを繰出した時がチャンスだ。ライフルで急所や関節を掃射しバランスを崩せ」
「銃使うのって真デヴァステイター以来かしら」
 闇雲に撃っても効果は薄いだろう。無表情に銃口を向ける真白の周囲に、ディノニクスが次々と集まってきた。が、レンのキメラは、通常は虫類の弱点といわれている箇所を、しっかりと補強されているらしく、勢いは衰えてくれなかった。
「何とか、目と足を狙いたいもんだが‥‥やっかいだな」
 この調子では、例え目を潰したとしても、触角か何かで攻撃を繰り返すに違いない。臍をかむ思いの水無月。それでも、足関節を狙い、速射を使う。周囲に囲まれるような形となった時、合流したドッグが覚醒し、グッドラックを使う。
「‥‥恨みはありません。でも、貴方がこの町を滅ぼすつもりなら!」
 錬力がからになっても構わない。こんな奴に蹂躙されるよりはマシだった。その思いを乗せ、口内を狙う彼。その捨て身の猛攻に、さすがのディノニクスやミズーリも、勢いをそがれてしまう。
「今だ! 食らえマシンガン急所突きぃ!」
 その隙を、玲奈は見逃さなかった。距離を詰め、アンチマテリアルライフルを撃つ。そう‥‥近距離射撃と言う奴だ。
「まぁいいや。今日は顔見せだったし。じゃあねー」
 ぶしゅうっと貫いた光弾が、ワームに一通りの傷をつけている。それを見てレンはそう告げると、満足げに引き上げて行くのだった。
 後に残されたのは、土石流で半壊した町。
「申し訳ない。せっかく船を修理したのに」
 頭を下げる玲奈。しかし、バーのマスターはこう言ってくれる。
「仕方がないさ。船が直っただけでも儲けモノだ」
 確かに、町並みの一部は壊れていた。全壊した建物もある。しかし、彼らの努力で船は何とか修復され、人々も無事だったのだから。