●リプレイ本文
「さー、存分に空の青を堪能‥‥って訳にゃ行かないわな、こりゃ」
漂う物々しい雰囲気に、そう頭をポリる吾妻 大和(
ga0175)。
「ふん。作戦はいい加減。編成は大雑把。搭乗者は素人ばかり。‥‥せめて指揮官か、ベテランの一人はよこして欲しかったが、これが現状か」
面白くなさそうにそう言って、KVへと飛び乗る佐嶋 真樹(
ga0351)。他の面々もそれに倣い、今回の愛機へと身を預ける。
「こちら、星の欠片、これより発進位置に着きます‥‥」
流 星之丞(
ga1928)が、そう言いながら岩龍を滑走路へと移動させていく。
「了解。ベテルギウス4・ムラクモ、行って来ますよっと」
愛機の名を、そのままTACネームにした大和もまた、覚醒し、KVのエンジンを点火する。
「准将、僕達は必ず全員無事に戻ります‥‥。だから、ラブソングでもカバーして、待っていてください‥‥‥‥」
安心させるようにそう答える流。と、ミクも「うん。待ってる☆」と、頷いてくれた。
「じゃ‥‥岩龍発進!」
次々と、エンジンが点火される。やがて機体は、白煙をあげながら、スカイブルーの空へと舞い上がるのだった。
長い長いミーティングの末、ルートは日本海上空と決まっていた。指定された岩龍5機の他、ナイトフォーゲルはS型3機、R型2機で、出撃する適性者達。岩龍1機につき、KV1機と言う編成で組まれた小隊は、ベテルギウスと名をつけられ、蒼天の空を舞うように駆け抜けていた。
「ルート上は、このまま沿岸付近を航行した方が安全だな。味方の弾幕が援護になる」
飛行エリアを確認していたヴィス・Y・エーン(
ga0087)は、S−01のコクピットでそう言った。彼女の前には、各基地の配備状況等が記されている。その結果、基地に比較的近い沿岸部を飛行中。
「敵さんの状況はどう?」
下を飛ばしていた平坂 桃香(
ga1831)がそう聞いてきた。今回、移動時は空からの襲撃に備え、岩龍班に被さる感じで編隊を組む。この状態ならば、岩龍への直接攻撃は防げるとの判断だ。
と、そこへアラームが盛大に鳴り響いた。沿岸部に敵はそう多くないが、いないわけではない。ましてや、元々ここは激戦区の端っこだ。
『大陸方面から、ワーム来てます。気ぃつけて!』
ナビゲーターのミクがそう言った。現れたワームは、バグア軍の主力、ヘルメットワーム。
「無理に撃墜は出来ないね。逃げるよっ」
可能な限り戦闘を避けたいヴィスが、そう言ってスピードを上げる。だが、ワーム達はやすやすとその速度に追いついていた。
「えぇい、邪魔だってば!」
牽制でバルカンを発射する桃。盛大な音を立ててばら撒かれる弾は、当たらないものも多く、また、当たったとしてもその分厚い装甲に阻まれていた。
「うわぁっ!」
お返しとばかりに、ワームが両の腕から、ビームらしき物を発射してきた。なんとか避けようとする桃機だったが、ジャミング程度では役に立たず、コクピットに強い衝撃が走る。
「ちょっ、桃! 大丈夫?」
慌てて、狙ってきたワームに、ホーミングミサイルをお見舞いするヴィス。バルカンで、多少なりともダメージを負っていたワームは、その倍の攻撃力を誇るミサイルに、大きく吹っ飛ばされる。
「な、なんとか‥‥。でも、後2〜3回食らったらヤバいかも」
「そうならないうちに逃げるわよ!」
声を固まらせながら、そう報告してくる桃に、ヴィスはぴしゃりと言った。吹っ飛ばしたワームが、再攻撃を仕掛けてくる前に逃げようと言うわけである。頷く代わりに、陸側へ進路を向ける桃を、後ろからエスコートする形で、2機は戦闘空域から離脱して行くのだった。
一方、幸臼・小鳥(
ga0067)とロッテ・ヴァステル(
ga0066)は。
「ジャミングしてもこの速度って‥‥。聞いてないわよ〜!」
「こ、これじゃあ、深追いどころか、逃げるので精一杯ですよぉぉぉ」
お互い離れないように、スピードをあわせるロッテと小鳥。しかし、ワームは容赦なくその行く手を阻もうとする。だが、ヘルメットワームは、その動きでほんの少しだけ動きが鈍ったように見えても、そう、ジャミングをかけても、岩龍やKVより早かったのだ。
「落ち着いて。回避に専念するだけじゃなくて、相手の動きを読むのよ!」
「そ、そんな事言ったって! きゃあっ」
ロッテの搭乗した岩龍の動きにあわせ、こちらを迎撃しようとするワームに、バルカンを打ち込む小鳥。しかし、威力の低いバルカンでは、やはりワームの装甲を貫けない。
「く‥‥。ああ動かれたら、避けれない!?」
逃げ回るロッテ機を、2体で追い回すワーム。全力回避の分、若干当たりにくくはなっているが、それでも徐々に傷は増えて行く。
「ロッテさんは‥‥やらせはしませんよぉっ!」
そう言って、迎撃する小鳥だったが、ワームはKVさえも性能面で上回る機体だ。カットに入った分だけ、小鳥の機体にも、傷が増えて行く。
「この空域さえぬければ‥‥とりあえずは一息つけるはず‥‥なのに」
もはや、悠長に深追いをしないとか言っている場合ではなかった。生き残る為、何とかして相手の武装を狙うが、フォースフィールドは全体に張り巡らされているらしく、こっちの攻撃は貫通しない、向こうの攻撃は避けられないと、次第に追い詰められていく。
「ベテルギウス1より、ベテルギウス2へ。損傷率が規定を超えたわ。これ以上戦うのは無理ね」
数分間迎撃戦をやった頃、ロッテは押し殺した声でそう言った。「はーい」 しぶしぶ‥‥と言った声で、それに従う小鳥。決して、自分の能力を過信しすぎない事。まだ戦えると、撃墜されてしまった例は、後を絶たないから。
ただ、せっかく対キメラ用の策を考えてきたのだが、無駄になってしまうようだった。
ロッテと小鳥が緊急着陸を余儀なくされた旨は、ミクを通じて、ベテルギウス小隊各機へと報告された。
「何!? リーダーが落とされただと?」
「ええ。正確に言うと、ブースターをやられたので、大事を取って近くの基地に緊急着陸したそうです」
それみたことか‥‥と言いたげな佐嶋に、そう答える天上院・ロンド(
ga0185)。ちょうど佐嶋機の後ろへと、位置を取る。直後、ワームが飛んできた。
「ノーベンバーから支援機各機へ。戦闘は任せます。頼りにしていますよ。オーバー」
しかし、ワームの動きは素早い。全速力でも、追いつかれてしまうほどだ。程なくして、ワームは二機の後ろへと陣取ってしまう。
「‥‥‥‥‥‥」
その状況に、佐嶋は何も言わなかった。ただ、いきなり人型へとチェンジする。放物線を描きながら落ちて行くKV。
「佐嶋さん!?」
「‥‥これなら、どうだっ!」
速度を殺し、相手を抜かせ、後ろからディフェンダーで叩き切るつもりだったのだが、慣性制御を持つワームは、空中でぴたりと静止し、たいした距離を置かず、その攻撃を受け止めてしまう。
「く‥‥。持ってくれよ!」
既に、損傷率は規定を越え、警告音がけたたましく鳴り響いている。ミクが『これ以上は危険だよ〜』とがなりたてる中、彼女は構わずレーザー砲のトリガーに指をかけた。
「今だ。収束レーザー砲、シュート!」
青白い閃光が、ワームの体を貫く。それでも、ワームの装甲を半分削るのがやっとだったらしく、ミクは『敵損傷率50%』と報告してくる。
「このままでは‥‥。仕方が無い!」
そう言うと、彼女はレバーを操作して、機体を上空へと持ち上げる。盾になるつもりだ‥‥そう判断したロンドは、彼女を止める為、同じように機体を立てる。
「そう言うわけにも行かないんですよ!」
ワームからレーザーが放たれた。機動力において劣る岩龍。損傷覚悟でわざと的になりに行くKV。結果は、火を見るより明らかだ。
「ち‥‥」
先に撃墜され、ベイルアウト‥‥緊急脱出を試みるロンド機を見て、佐嶋は忌々しげに後を追う。自分だけならともかく、護衛対象までそうなっては、多少無茶でも回収するしかないのだった。
ロッテと小鳥に続き、佐嶋とロンドも落とされたと言う事は、ベテルギウス小隊にとって、大きな痛手だった。
「仕方が無い。いなさそうな地域を選ぶしかないよね。高度ぎりぎりまで落として下さい」
明星 那由他(
ga4081)がそう指示をする。地上から見たら、頭上すれすれを飛ぶような限界高度500に、機体を落とす中、警戒アラームが鳴り響く。
「追いつかれてきました!」
見れば、後ろからワームが3匹。戦闘空域は、沖のほうだったはずだが、やはりそこから『掃除』に出てくる機体もいるようだ。
「こいつにかけるしかないわ! いくわよ!」
そう言って、後ろのワームを確かめるやいなや、機体を上へとふかすレティ・ヴェルフィリオ(
ga0566)。白煙が螺旋を描きながら、彼女の視界を真逆にしていく。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
立てた機体が、空中で人型へと変形する。空気抵抗で、急ブレーキをかけ、減速する彼女。その軌跡は、まるでオーケストラのタクトが、ワルツを描くようだった。ジェットコースターめいた動きに、頭痛を起こしながら、彼女はワームの後ろ側へと回りこみ、再び戦闘機へと変形する。
「背後、とったぁぁぁ!」
ありったけのガトリング砲を叩き込むレティ。だが、彼らの装甲は中々減らない。
「か、固いですね‥‥」
「ああもうっ。UFOの馬鹿ぁっ! 部分変形が使えれば、側面攻撃できるのにぃ! きゃあっ!」
文句垂れるレティ。ミクから、それは不可能だと言われている事に愚痴たれながら、回避行動に移る。しかしワームから放たれたビームに、強い衝撃が走る。しかも彼らは、彼女が必死に操った軌跡を無視し、まるで玩具が子供の手で向きを変える様に、方向転換して見せた。なっちゃんも、推進装置と記録装置を守る為、わざとバルカンを犠牲にしたりと、ダメージコントロールしているが、追いついていないのが現状だ。
「こっちもヤバそうだし、さっさと逃げるしかないわね。出来るだけ援護するわ!」
損傷率7割を超えたら、離脱しろ‥‥と、リーダーからは厳命されている。そう判断したレティは、ボロボロの翼を抱えたまま、近くの基地へと緊急着陸を余儀なくされるのだった。
「なんかボロボロだな。皆」
ベテルギウス7、10共に戦線離脱‥‥。その報告を聞いて、面白くなさそうに、大和が呟く。
「こちらベテルギウス9、ヘルメットワームにジャミングをかけつつ、一気に抜けます。ムラクモ、支援よろしくたのむ」
そのワーム、彼らの元にも姿を現していた。数は2機。目視で確認した流は、ジャミング装置のスイッチを入れる。「了解! 下のほうの警戒は任せたぜ!」
ぶしゅうっと白煙が吹き上がる。その白煙と共に、スピードの上がる岩龍。
「ガトリングで落ちないなんて、どう言う構造してんだよ。うわっ」
前方以外の敵は、無視しようと思っていた大和だったが、相手はそうは行かないらしい。進路方向上の敵を追い散らすべく、バルカンだけではなく、ガトリング砲も一斉に発射するが、中々その装甲は削れない。被弾したのか、衝撃が走った。
「大丈夫、足りない性能は勇気で補う。そして、エミタは勇気を力に変えてくれるんだ!」
そう言うと、流は全力疾走のまま、可変機能のスイッチを入れようとした。だが、エラー音が鳴るばかりで、一向に変形を開始しない。
「やっぱ無理そうだな。なら、全力で駆け抜けるぜ!」
そう言うと、彼は岩龍より前に出て、機体を左右へと振った。それに追随する形の流。こうして、全力回避に傾けた結果、彼らは関東平野へと侵入を開始するのだった。
「って、何この弾幕ッ!」
桃が悲鳴を上げる。砲台キメラの一斉放射は、文字通り雨と言った様相を呈していた。おまけに、ちょっとかすっただけで盛大に装甲を持っていかれるほどのシロモノだ。射程が短いのが救いだが、それはうっかり近づけない事を意味している。
「当たらない所から撃ち込むよ!」
「OK。最大射程でぶち込むぜ!」
R型騎乗の大和とヴィス、そう言って専用装備である収束レーザー砲のチャージへと入る。
「ジャミングの重複はなしか‥‥」
その彼らをフォローするように、それぞれのジャミング機能の範囲に入って、互いの回避性能をカバーしようとした流だったが、岩龍の機能は、妨害電波の重ねがけに対応していない。
「下からの砲撃に注意して! あの水弾、この機体じゃ、避けにくいよ!」
「了解、回避に専念します! いくら情報を手に入れても、落ちたら持って帰れませんからね」
一方の桃は、その流の警告に、回避を優先させている。こうして、撮影を開始した工場内では。
「これは‥‥!」
流が、表情をこわばらせる。
「すごい大きい‥‥。こんなモンに攻撃されたら、ひとたまりもないわよ!?」
同じく撮影していた桃が、そう言うのも道理で、カメラに映った八王子工場の中身は、彼らが苦戦していた小型ワームの何十倍、直径数kmにも及ぶ超大型ワームだった‥‥。傍に張り付いている作業用と思しき小型ワームと比べると、その大きさが良く分かる。
「写真は取りました。撤収です!」
桃が、元気良く答えた。生き残る事が最優先。大型の護衛が出てくる前にと、彼らは急いで引き上げるのだった。
なお岩龍は、本来の任務とは別に、提出された戦闘記録と搭乗者の意見により、大幅な改良が加えられたと言う。