●リプレイ本文
バイクと言うのは、走る・曲がる・止まるの他に、コケると言う要素がある。それが傭兵達の身にしみているかどうかは分からないが、高速艇の中で白鴉(
ga1240)は、一冊の本から目を離さずに、こう呟いていた。
「今日のために、今日のために俺はこの本を‥‥」
見れば、そこには『サルでも運転できるバイク講座』とある。ちょっと色あせている所を見ると、ラスホプの倉庫から引っ張り出してきたのだろう。
「戦争済んだら限定解除とるんや‥‥」
祈るようにお手手を組み、何処か遠い目を見ながら呟く三島玲奈(
ga3848)。そう言うわけで、彼らはバイクの元へと向かったのだが。
「こ、これが俺の乗るバイク‥‥かっこいい‥‥」
用意された中型バイクを見るなり、目を輝かせる白鴉。よくある中型。彼は1人乗りを希望していたが、基本的に小型以上のバイクは、定員2名と決められている。なので、用意されているのはちょっぴりシートが狭いタイプだった。
「ヘッドセットは、用意できた?」
「ああ‥‥と言いたいところだが、スピードを上げると、通じなくなるようだなー」
オフロードの400ccを希望していたアルヴァイム(
ga5051)の問いに、トランクのヘッドセットを見せるUNKNOWN(
ga4276)。無線機に取り付けるタイプだが、表面の黄ばんだシールに『50km以下でご使用ください』としっかり明記されている。
「厳しいですね」
「厳しいのはこっちもやー。なんで女物のズボンを販売しないねん」
ぼやきつつ、ブルマーを履いた膝にバレーボール選手みたく包帯を巻く玲奈。750ccのオフロードモデルを御希望の玲奈、不満そうにそう言う。エンジンの形式から、排気量、馬力にブレーキタイプまで拘ったお品だが、彼女の格好では、危険すぎる。
「バイク乗った事無いから楽しみ〜」
一方、見た目重視組、用意されたバイクに嬉々として自分のエンブレムを書き込んでいた葵 コハル(
ga3897)はカッティングシートを使い、赤メインで銀色のアクセント。
「いつか、ライドアーマーに変形出来た時には、僕の名前を書き込んで‥‥っと」
勇姫 凛(
ga5063)もまた、赤い中型バイクだ。こちらはいかにもKVだのライドアーマーだのパワードスーツだのに変形しそうなカウル付きのレーサーレプリカ。その車体に『凛』の文字が書き込まれている。それだけでは飽き足らず、フルフェイスのヘルメットにまで、紅葉と狼を組み合わせたエンブレムが記されていた。
「まるで試乗会だ」
「いえ、ちゃんと依頼の事も考えてますよ。ほら」
若干呆れ顔のUNKNOWN。どう言うわけか日本産が多いのは、仕様と言う奴だろう。と、南部 祐希(
ga4390)がそう言って、消音機と貫通弾を見せる。
「なるほど。俺もそれなりに準備するか‥‥」
その様子に、彼は人が扱うには若干大きすぎる銃を、要求した1300ccのアメリカンに、よっこいせと乗せる。リッターバイクとも言われる大型は、それなりの大きさを誇るが、それでもKV用バルカンを積むと、他の武器を積み込むのは難しそうだ。そう、重量ではない。横幅等のバランスが問題なのである。
「仕方ない。他の武器は抱えていこう」
うっかりコケると、作戦失敗と成る恐れがあるので、UNKNOWNはすっぱりと手持ち武器は諦める。
「準備はいいか? 我ら鉄の騎兵隊、これより悪漢どもの砦に向かう!」
玲奈は早速バイクへ跨ると、びしぃっと指を指し示しながら、まるで馬に跨るかのように、そう宣言するのだった。
航空写真と地図は、大戦前の古いものばかりで、役に立たなかった。仕方なく、大きな道路だけでどうにかしようと言う話になる。地元住民は、普段からバグアを恐れて出ては来ない。
「巡回キメラがたくさん‥‥。しかもサーベルタイガー型って事は、結構早いんだろうな」
人気の無い街角で、ため息をつきながら、そう呟くヒメ。データがないので、なんとも判断しがたいが、普通の警察犬よりは圧倒的に早いだろう。
「望む所や。老練老練老練♪ いくでシルバー!」
鼻歌交じりに、その大通りへと走り出す玲奈さん。
「じゃ、俺達はその進路をふさがないようにするか」
双眼鏡でそれを確かめていたUNKNOWNが、速度を落とさせぬよう、わき道へ逸れる。玲奈が考えたのはこうだ。
「まず、いきなり市役所を叩く。ピンチになったボスは路地裏に潜む部下を呼ぶやろ。そこを一網打尽や!」
「って、‥‥建物に二輪で侵入ですか! 正気とは思えませんが!」
あんぐりと口を開ける祐希だが、彼女はがんとして譲らない。
「この人数で解放戦やろうっていうんや。無理無茶無謀、通れば上策!」
そう言って、ハンドガンをぶっ放す玲奈。
「了解。銃弾を浴びせてやりますよ!」
祐希も人数が少ない分、奇襲をかけ一気に市役所へ向かおうと言う考えはわかったので、小銃を手にその後へと従う。西部劇と言うよりは、アクション映画の様に、2人は盛大に弾をバラまいていた。
「バリケードが!」
ヒメがそう叫ぶ。敵とて黙って撃たれているわけではない。ガードを固め、応戦してくる。
「突破するで!」
しゅいんと覚醒し、感覚を上げた玲奈が、鋭角狙撃でバリケードに銃弾を放った。注意がそちらに向いた刹那、ヒメはメットの中でこう呟く。
「駆け抜けるよ紅葉。凛に力を‥‥」
銘はクレハ。持つはスピア。研究所でどきどきしながら強化した品を、ランスのように持ち替えた彼は、その内に潜む獣の力を解放する。
「勇姫凛、参る!」
槍を風車のように回転させた彼の勢いに押され、道を開けるキメラ達。だが、命中しているわけではない為、後ろから回りこまれてしまう。
「このままだと囲まれる。散れ」
同じように覚醒した祐希が、機械的にそう言った。だが、その無機質な発言に、キメラ達は完全にこっちが上位と認識してしまったのか、後を追いかけてくる。そこへちょうど、建物を回りこむような形で、滑り込むUNKNOWNのバイク。
「キメラは通行止めだ」
車体で路地をふさぐように立ちはだかり、ショットガンを一発打ち込むと、にやりと笑う。
「‥‥Lets BEBOP、だ」
くるりと急旋回し、付いてこいとばかりに速度を上げる彼。その後ろから、挟み込むようにアルヴァイムが現れる。双方から撃ち込んだ直後、市役所の方で銃声が上がった。それを聞いた彼らは、慌てて市役所の方へと向かって行く。後を追いかける2人。
「観客の方は、舞台にっ、上がらない様、くっ、お願い致します‥‥よっと!」
その頃、コハルがバイクを降り、逃げ回って注意を引きながら、そう言っている。だが、相手はまったく聞く耳を持たない。
「銃を向けるのは‥‥な‥‥」
そんな彼らでも、市民は市民。銃を向けるのをためらう祐希。と、玲奈はにやりと笑って、あるものを取り出す。
「そないなもん向けるかい。大阪芸人は、こいつで勝負や!」
でっかいハリセンだった。傭兵向けの、職人が手がけた特注品。覚醒し、全身博ウケ主義の塊になった玲奈は、まるでそれを日本刀のように振り下ろす。ばしんっと盛大な音がした。
「安心しろ、みね打ちや」
何故か銃の煙を吹き消す真似をする彼女。その間に、祐希とコハルが、職員をふんじばっている。ハンカチ猿轡付きで。と、そこへ別の銃声が響いた。撃ったのはショットガン片手のUNKNOWNだ。
「これだけ盛大に撃っておけば、一般市民は出てこないだろ」
「だと良いんですけどね。そうも行かないみたいですよ」
付き合いのアルヴァイムがそう言った。見ると、子供を追いかけて外へ出てくる若い母親。どうやら、家から出られない子供が、駄々を捏ねたらしい。
「仕方ない。憎まれるのは慣れてるさ!」
そう言って、進行方向にある扉を撃ち、行く手をふさぐUNKNOWN。そこへバイクで走りこみ、すれ違いざま抱え上げる。
「坊主、今は表に出るな。いいな?」
びしっとそう言って、脇に抱え上げた少年を、近くの家に放り込む。
「これで良い。さて、行くか‥‥」
後ろでびーびー泣いている気がしたが、今は構っていられない。そう呟いて、彼らは市役所へと向かうのだった。
その頃、白鴉はあらかじめ決めておいたルートを辿り、建物の裏側へとたどり着いていた。
「やっぱり立ちふさがったか‥‥」
単独行動と言うのは身軽なもので、バイクの機動性もあって、上手くキメラを避ける事が出来た彼、いち早く市役所内のワームを見上げる位置を陣取ったのだが、バイクを隠した後は、持ち場を動かないキメラ達にさえぎられ、近づく事さえ出来ない状態だ。と、そこへバイク音が励ますように近づいてくる。
(そうか。皆頑張っているんだもんな)
そう思いなおす白鴉。ぎゅっとヴィアを握り締める。細身の長剣でありながら、ずっしりと重いそれは、確かな手ごたえを彼に与えてくれる。
「ヴィア、頼むぜ」
そう呟いて、彼は呼吸を整える。その呼吸と同調するように、浮かび上がる蛇。それは黒い模様となって、彼の腕へと刻み込まれていく。
「いっくぞぉぉ!」
表情が険しくなり、踊りでる白鴉。気付いたキメラが、狩の時間だとばかりに、こちらへと向かってくる。その牙は鋭く、副兵装として持っているアーミーナイフと同じ位だ。
「く‥‥。やっぱりバイクは追いてこない方が良かったかな‥‥」
追いつかれ、囲まれる。やはり、生身ですり抜けようと言うのは無謀だったようだ。だが、役所内を走行するのは、もっと無謀だし、何よりそんな運転技術はない。と、直後、キメラ達が何かに警戒するように方向を変えた。直後、ガラスを破る音がして、大型バイクが乗り付けてくる。
「大丈夫ですか?」
「う、うんっ」
手を貸され、こくんと頷く白鴉。満足げに声をかけるアルヴァイム。
「なら結構。UNKNOWNさん。行きますよ」
「おう。ここから先は、立ち入り禁止だ」
後ろから、走りこんできたUNKNOWNのバイクが、建物内でアクセルを吹かす。摩擦で白煙を上げたバイクは、きゅきゅっと音を立てながら方向を変え、床に黒い線を描いた。その煙と機体を盾に、銃を放つ彼ら。激しい射線にさえぎられ、キメラは近づくのをためらっている。その間に、UNKNOWNはお決まりの台詞をはいた。
「‥‥先に行け。今はワームの事だけを考えろ」
「そろそろ増援が来る頃です。そちらと合流してください」
そのまま、防衛線を構築する2人。彼らが言うように、表の入り口から、他の面々の声が聞こえてくる。
「先手必勝、短期決戦っ! 突撃でゴー!!」
コハルが、まるで騎馬兵のようにスピアを抱え、キメラの向こう側にある階段を、バイクで駆け上げって行く。
「わかったよ。絶対戻ってくるからね!」
その効果で開いた『道』を、同じように駆け上がる白鴉。
「正義の保安官参上〜! 悪い宇宙人はどこや?」
乱入する玲奈。
「あれだ!」
待ち構えていたのは、近くで見るとKVと同じ位大きなワーム。乗っているバイクの3倍はあるだろうか。
「洗脳されてる人達は?」
「全員下だ。安心していい!」
コハルの問いに、そう答えながら、散開する祐希。相手にこちらの位置を気取られないようにする為の処置だったが、その間に、ワームが腕の部分を振り下ろしている。
「これじゃあ武器変更する暇がないよー」
「我慢しろ!」
スコーピオンはシートの下だ。その降り注ぐビームから逃げ回っている状態では、持ち替える暇など無い。仕方なく、手にしたスピアのまま、彼女はその身に紅蓮衝撃と豪破斬撃を発動させ、スロットルを開ける。
「乾坤を賭す一擲! 紅牙肆式 轢突!!」
狭い部屋で、どこまでスピードを上げられるか分からなかったが、それでも生身で突進するよりは、ダメージが倍加されているはずである。その証拠に、よろめくワーム。
「今だスキルを使え! 目だ!」
その瞬間、美術刀で足元に急所突きを食らわせる玲奈。速度を上げたヒメが追随する。本当はここでジャンプと獣突を使用したかったのだが、ちょっと無理があった。
「現場で出来るのはこれくらいか‥‥」
援護するように祐希が強弾撃を撃ち、バランスを崩したワームは、屋外へと転がり落ちた。と、そこへUNKNOWNがエンジンをかけたままのバイクを立てた。怪訝そうにするアルヴァイムの前で、彼はかまわずスロットルを開ける。
「燃料タンクはガソリンの固まりだ。こう言う使い方もあるっ」
走行出来るだけの速度になった瞬間、飛び降りる彼。体に強い衝撃と痛みが走ったが、後で誰かに回復してもらえば良い。
「ああもうっ。怒られても知りませんよ!」
そのまま滑るように走行するバイクに、アルヴァイムは強撃弾を使い、タンクへと点火する。火の弾と化したそれは、そのままワームに吸い込まれて行った。
そして。
「やはり、逃がしましたか‥‥」
残念そうにそう言う祐希。ワームは、ある程度ダメージを食らったものの、完全に倒しきる事は出来ず、そのまま逃亡。おそらく、そのうち戻ってきてしまうだろう。
「長期戦になると不利ですから、長居は無用ですね。撤収しましょ☆」
コハルの提案に従い、傭兵達はさっさと町を後にする。
なお、今回の改良点は、白鴉によって、准将の研究所あてに送付された事を追記しておこう。