タイトル:傭兵少女マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/27 21:29

●オープニング本文


「ママママママママママママママっ!!!」
 どたばたばたーん。
 そんな音を立ててリビングの扉が開かれた。
「なによ、やかましいわね」
「あたし、傭兵になる!」
 そう言って得意げに右腕を掲げる娘――瑠璃の右手の甲にはエミタが埋め込まれていた。

 がつん。

 殴った。

「ママっ!? 痛いっ!!」
「なに親に何も言わないで、んなもんつけてんのよ」
「だって、傭兵になりたかったんだもん」
 わが娘ながらに馬鹿だった。
「なんで、急にそんな事を思いついたのよ。んで、アンタにエミタを埋めたのは誰?」
「えーとね‥‥」
「ちょっと殺してくるから」
「‥‥だ、だれだったかな〜‥‥わ、忘れちゃった!」
 馬鹿な娘も、流石に親を殺人犯にはしたくないらしい。
「まぁ、いいわ。で、なんでそんな馬鹿なことしたの?」
 娘はまだ10だ。傭兵になるなんて馬鹿なこと、そうそう軽々しく思うわけが‥‥無くはないか。
 この馬鹿娘なら。
「ママを守りたかったの」
 まっすぐな瞳で私を見る瑠璃。その純粋な瞳に少し息が詰まる。
 親が見て居ないところでも、子は育って行くものなのだろう。
 そう思うと、少し感慨深い。しかし。
「アンタに守ってもらうほど、ママは弱くないわよ」
 腰に手を当て、苦笑しながら娘の髪の毛をくしゃくしゃっと撫でる。
 気持ちは嬉しかったのだ。母として。
 それは――当然の事だろう。
「まぁ、でも。アンタの決めたことだし、もう手遅れみたいだしね」
「許してくれるの?」
「許さないわよ」
「えー」
「えーじゃないの」
 そう言いながら私はソファから立ち上がり、部屋の隅に有る端末の前に座る。
 瑠璃は私を追ってきて、立ち上げた端末のモニタを覗き込んだ。
 私はそれを見やった後、ふむ。と鼻を鳴らしULTの依頼情報の検索をかける。
 そして、すこし悩んだ後「これ」と一つの依頼を指差した。
「これ?」
「そう、これ」
 興味深そうに私の言葉を鸚鵡返しに言う瑠璃。
 私が何を言っているのか理解できて居ない時の顔だ。
「ULTに行ってこの依頼を受けてきなさい」

 ‥‥‥‥‥?

 妙に長い間をおいて、瑠璃は首をかしげた。
「この依頼を無事クリアできたら、傭兵に成る事を許す。いい?」
「うんうん」
「ちゃんと、他の傭兵たちと仲良くやんのよ?」
「うん。ママ、任せて!」
 瑠璃はそう言うと、どたどたどたばたーん。と入ってきた時と同じようにリビングから出て行った。
 ULTの場所はわかっているのだろうか。少しどころかかなり不安だ。
「でも、ま‥‥」

 血は争えないのかも知れないわね。

 そう呟いて、私は自分の胸に埋め込まれたエミタを撫でて苦笑した。

●参加者一覧

番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
キロ(gc5348
10歳・♀・GD
ジグ・ゼリア(gc6512
17歳・♂・SF
ララ・スティレット(gc6703
16歳・♀・HA

●リプレイ本文


「うぉぉぉおっぉおお」
 吠えた。とりあえず感動のあまり瑠璃は吠えていた。
 両手を握り、年齢の割には身長のある体をぴょんぴょん跳ねさせながら、傭兵達の前ではしゃいでいた。
「すっごい! すっごいよぉっ! 傭兵さん達かっこいい〜!」
 自分も傭兵である事を半ば忘れ、彼らの装備を固めた姿に大喜びだった。
「うむうむ、誰だってでびゅー依頼はあるものじゃ。先輩お姉さんとして手伝うじゃー」
「一緒にキメラ退治でがんばろー!」
「えいえいおーっ!」
 得意満面でうんうんと頷きながらキロ(gc5348)が言うのに、セラ(gc2672)が腕を上げ皆を鼓舞すると、瑠璃が鬨の声を上げる。
「お初だ。俺番朝だ。今日は宜しくな」
 それに近づいてにぱっと笑いそう声をかけたのは番 朝(ga7743)。声をかけた後、その顔に少し苦笑が浮かぶ。
「にしても、そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫! 問題ない!」
 朝の言葉に親指を立てて、自信たっぷりに満面の笑顔で応える瑠璃。
 その手には金属バット、フードの付いたパーカーにジーンズと言う出で立ち。
 後は完全な手ぶら。携帯品すらお持ちでは無いですよ? この小娘。
 実に。問題しかない。
「あはは‥‥んで、そのバットSESついてる?」

 ‥‥SES?

 朝の質問に「なにそれおいしいの?」とでも言いたげに小首を傾げる瑠璃に、あちゃーと言った感じにコメカミの辺りを抑える朝。
「なんでそれにしたんだ?」
「玄関にあったから! あと、ママが刃物はあたしには早いって!」
 いちいち声がでかい。
 そんなやりとりをしている二人の間に「それならば」とセラが激熱を差し出した。
「はじめからいい物を使うと根が腐るからね、程よい物を用意してみた」
 炎の模様が刻まれたナックル。『漢の勲章』とも呼ばれるそれは、瑠璃の拳にしっくりと来た。太陽に手を翳し「おー」とか、「うぉぉ」とか吼えてる。なんと言うか語彙が少ない。
 喜んでいるらしい瑠璃を見て、セラは薄く笑みを浮かべる。先程まで瑠璃と一緒にはしゃいで居たのが嘘のように、まるで妹を見る様な目をしていた。
「そういえば、母守りたいって傭兵になったってな?」
「うん!」
 朝の言葉に元気よくそう答える瑠璃に、ララ・スティレット(gc6703)が口を開いた。
「へーっ。ママの為に。瑠璃さんは偉いですねっ。私もお父さんの為に頑張ってるんですよっ。お揃いですねっ」
「ママはあたしが居ないと駄目だからなー、頑張らないとっ!」
 腕まくりをして、ちょっと得意気に言う瑠璃にララは苦笑する。
 むしろ瑠璃の母親は心配で仕方ないだろうなー。なんて、その場に居た皆が思った事だろう。
「うむうむ。良い心がけじゃー。かるーく、初依頼をこなして母に認めさせると良いぞ」
 そう言って胸を張り、「任せとけ」とでもいう様にキロは胸を叩いた――。



 ――にしても‥‥なんで俺以外皆女性なんだ‥‥。

 光が届かない暗い地下で、ジグ・ゼリア(gc6512)そんな事を胸中で呟いた。
 先頭には小さくて可愛らしいが、大きな鎌を担いだ最上 憐(gb0002)がランタンを掲げながら歩き、ジグの後ろにはサンディ(gb4343)と遠倉 雨音(gb0338)が、久しぶりの再会を喜び会話を交わしている。しかしそんな会話をしながらでも、辺りへの警戒を疎かにしていないのが見てとれる。
(ベテラン揃いとはいえ女性に守られるってのもカッコ悪いしなぁ‥‥)
 せめて自分の身くらい守れるようにと、ジグは周囲を警戒する。
「ねぇ、アマネ。まるであの子みたいだったよね」
 年齢の割に身長のあった瑠璃を思いだして、サンディが雨音に言うと、雨音は溜息と共に応えた。
「‥‥向こうの瑠璃も、きっと今より小さい時は、あの瑠璃さんと同じような状態だったのでしょうね。まぁ、向こうの方は今もあまり変わっていませんが」
 嫌そうな口ぶりではあるが、口元に笑みが浮かんでいるところを見ると、向こうの瑠璃と言う人物に対して悪い印象を持っている訳ではなさそうだ。
「‥‥ん。奇襲に。用心しながら。確実に。着実に。行こう」
「耳は良い方だし、今は運も良いんで」
 憐がそう口にして注意を促す憐に、笑いながらジグは応える。そう言う憐の前にはモニタールームと書かれたプレートが貼られて居た。
「なんか‥‥いるね」
 聞き耳を立てたジグがそう呟くと、他の三人もこくりと頷く。
「サンディさんと共に轡を並べて戦うのも1年ぶりになりますね」
「私の剣にあなたの銃が加われば、それは正に百人力だよ。頼りにしているからね」
 古い友人でもあるサンディと雨音はそう言いあい、お互いの得物を構えて戦闘に備える。
「ん‥‥、じゃあ行こうか」

 憐はそう言ってモニタールームの扉を開けた――。

 モニタールームの中にランタンの光が差し込むと、きぃきぃと耳障りな鳴き声を上げながら、蝙蝠型のキメラが飛び出して来た。
 同時に足元を駆け抜ける鼠型キメラ。小さな牙を剥いて傭兵達に飛びかかって来る。
 雨音がそれを制圧射撃で牽制し、二の足を踏んだ鼠に対して剣を振るう。
 一年程度のブランクが空いていた物の、二人の連携は全くと言っていい程錆ついていない。
 相手の動きを見ていなくても、お互いの動きが分かる。安心して背中を任せられる事が心地よく、サンディは目の前のキメラへと意識を集中させ斬り伏せて行く。
「‥‥ん。ちょっと。数が。多いね。敵陣に。突撃して。数を。減らしてみるので。援護。お願い」
 使われなくなって久しいモニタールームは存外広かった。モニターの数から考えて一般の設備では無かったのかもしれない。
 憐はそんな事を思いながら、キメラの大群の中に飛び込んで行った。
 それに合わせて援護射撃を合わせる雨音。
 キメラの中に飛び込んだ憐は残像斬で、後の先をとり正確にキメラたちを斬り払う。
 しかし、モニタールームを埋め尽くす様なキメラ達は、僅かながら憐の剣風をすり抜ける。

 ――させないよ。

 ジグのそんな言葉は知能の低いこのキメラには理解できなかっただろう。彼の片手の超機械から放たれた電磁波が、憐の鎌をすり抜けた蝙蝠型を撃ち落とす。
 振り返る憐が手だけで感謝の意をジグに示すと、ジグは親指を立ててそれに応える。
 息の合った連携でモニタールームは、あっという間にキメラの死骸で埋め尽くされたのだった。

 動かなくなっていたコンソールに、憐がナナメ45度からチョップを入れていたのは、今となっては良い思い出である。


「暗くて危ないですね‥‥、瑠璃さん? 手をつないで行きますか?」
「うん!」
 ララの言葉に大きな声でそう頷く瑠璃。少し小さいくらいの身長の為、傍目には同い年の友人同士にも見える。
「にしても暗いのう」
 地下二階の広大な駐車場は、掲げたランタンの光では全体を照らす事が出来なかった。少し潮の香りが鼻に付くのは、情報通り海水が浸水しているからだろう。
(ふむ‥‥屋内ではVセンサーは結構役に立つみたいだね)
 セラ――覚醒したアイリスは、目を閉じてVセンサーを発動させていた。使いなれない能力だったが、駐車場内に居る動体の位置を概ね把握できた。
「ララさんはどうだい?」
「あ、えぇっと‥‥多分、ここと‥‥ここ辺りに、怪しい感じが」
 ランタンの明かりでマップを照らし、怪しい雰囲気が合った場所を示すララ。
「どっちも近いな‥‥」
 マップを覗き込んで言うのは朝だ。覗き込みながらも辺りの気配には気を配っている。ララが指示した場所は、今自分たちが居る場所に程近い。
「ちなみに右後方より敵接近中だ、気をつけたまえ」
「ああ、分かってる」
 そう言って巨大な大剣を手に振りかえる朝の目の前には、ランタンの光に照らされた鰐。
「残念ながら白いのじゃないか」
「此方の音に気付いて近づいてきているようだ。直ぐに此方にやってくるよ」
 朝の呟きに、セラが不敵に応える。
「鰐っ! 鰐だよ! 初めて見たっ!!」
 鰐型のキメラをみてはしゃぐ瑠璃を見て、キメラはそちらへと視線を投げかけた。
 爬虫類の無感動な瞳が瑠璃を捉え、存外俊敏な動きで少女へ迫る。

 ――ぎゃおぉぉおぉぉおん。

 不意に耳を劈く咆哮が地下に響いた。
 その咆哮に鰐型キメラはそちらを振り向く。その先には暗視スコープを装着し、腰に手を当て胸を張るキロの姿。
「ほらほら、敵はこっちじゃぞー」
 ひらひらと手を振るキロに挑発されたのか、鰐はキロへと駆け出した。
 それはつまり――

 ――隙だらけだよ。

 天井の高い駐車場の空間ギリギリを使って朝が、大剣を振りかぶり鰐の首へと振り下ろす。その刃は淡い赤色の光を放ち、キメラのフォースフィールドを容易く切り裂き、その首を断ち切った。
 鮮やかな一撃を放った朝に、瑠璃は「おおおおおっ!」と感嘆の声を上げる。しかし次の瞬間。なんかおかしな悲鳴へと変わった。
「ぅうにゃぁぁぁあああ」
 どこか猫の様な瑠璃の声が駐車場内に反響する。
 キロと朝が振り返ると、駐車場の天井に届きそうな程の巨大な白い鰐に咥えられた瑠璃がいた。
 もがきながらも瑠璃は拳を打ち込むが、釣り上げられた不安定な状態では、白鰐の厚い皮に阻まれて効果がない。
 そんな瑠璃を咥えた白鰐の目の前に飛翔する一つの影があった。
「悪いが、その子はこれからなんでね。君の餌にはできないのだよ」
 そんな事を呟いて手にした盾を大きく引いて、鰐の眉間に打ち出したのはセラだった。その衝撃で白鰐は咥えていた瑠璃を取り落とす。
「大丈夫かい?」
「ありがとうセラさん!」
「今の私はアイリスだよ」
「そうなんだ! ありがとうアイリスさん!」
 ‥‥まったく疑問を持たない瑠璃である。
 そんな瑠璃に苦笑を洩らしながら、セラは白鰐を見上げて口を開く。
「見たまえ。あれが君がこれから目指す傭兵の姿だよ」
 その視線の先には、暗い闇を照らすランタンの明かりに照らされて輝く金色の髪。
「さあ、鰐さん。一緒に踊りましょう」
 穏やかな笑みを浮かべながら剣を振るうサンディ。その足さばきはまるで踊る様で、鰐の爪を華麗にかわす。
 鰐が巨大な尻尾を振ると、宙を舞いまるで羽があるかのように距離をとる。
 それを待っていたかのように一発の銃声が響く。その無骨な音も、サンディが立つ舞台を彩る楽器の音の様にも感じられた。
 振り返ると雨音が銃を構え、サンディと共に戦える事を楽しんでいるかのような笑みを浮かべていた。
「俺にも仕事をさせてもらうよっと」
 雨音と並んでいたジグが、痛みに悶える白鰐に練成弱体をしかけ、そこに憐が走り込んで鎌を振るう。巨大な鎌は鰐の鼻先を掠め、その痛みに白鰐は怯んだ。
 そのタイミングを狙って、朝が白鰐の懐に滑り込み咆哮を上げる。
 自らの身長の倍近い大剣を無造作に振るい、強固な皮を切り裂いていく。
 暗闇でも輝く金色の瞳――そして長く伸びた緑色の髪は闇に溶け、まるで暗闇から生まれた獣の様にも見えた。
「うおおおおおおおっっ!!」
 朝が気合と共に大剣を振り抜くと、その嵐の様なそれが鰐型のキメラの命の灯を吹き消す一撃となった――。



「‥‥ん。丸焼き。丸焼き。ワニキメラは。初なので。楽しみ」

 ぱちぱち‥‥いや、メラメラ‥‥いや、轟々とその炎は巨大な鰐型キメラを包みこんでいた。
 はたから見ると大火事にしか見えない。
 下も大火事、上も大火事それな〜んだ。答えは憐ちゃんの料理。と言ったところだろうか。なんて漢料理だそれは。
 瑠璃とキロは憐と並んで、巨大な鰐が丸焼きにされるのを見上げながらきゃっきゃとはしゃいでいる。
 少し離れたところで、朝は自分の傷の手当てをしながらそれを見つめる。
 皆、怪我らしい怪我もなく無事に戻れた事に満足しているのか、口元には穏やかな笑みを浮かべていた。
「お疲れ様、良かったらどうぞ」
 炎の周りではしゃぐ瑠璃とキロにジグがフルーツ牛乳を差し出すと、腰に手を宛て嬉しそうに飲み干す二人。
「瑠璃さんお疲れ様でしたっ! 傭兵の依頼って大変だけど、皆で協力すれば、きっと何とかなります! また、どこかで会えたらよろしくお願いしますねっ」
「うん。あたしはママの為に! ララさんはパパの為にがんばろー!」
 フルーツ牛乳を口の周りに付けたまま言う瑠璃に、ジグは苦笑しながら「そーかー‥‥ま、応援するよ。頑張ってね」と頭をぽんぽんと撫でると、瑠璃は気持ちよさそうに目を閉じる。
「きっとお母さんを想うだけ強くなれるのです♪」
 可愛らしい仕草で、そう言うセラは先程キメラに対峙していた様な雰囲気は無い。年相応の笑顔が実に眩しい。
 暗い地下から出てきたから余計にそう思うのだろうか。
「頑張るのは良いけれど、無理をしないようにね。お母さんを悲しませるような事があってはいけないよ?」
 笑みを浮かべながら言うサンディに瑠璃はこくりと頷くと、
「サンディさんと雨音さんみたいに、信頼できるお友達を作ればいいんだね!」
 そんな事を言った。
 不意打ちの様な瑠璃の言葉に、二人は顔を見合わせた後笑う。
「お母さんを守れるような強い傭兵になれるといいですね」
 雨音はそう言って、雨音の言葉にうんうんと頷く瑠璃の頭を撫でようとして手を止める。

(騒がしくて危なっかしくて――でも、他人を思いやる気持ちが強いところまで、あの子にそっくり)

 そんな事を思って、腐れ縁の友人の顔を思い浮かべ苦笑した――。