●リプレイ本文
●
もしゅもしゅもしゅ。
四条 ルリ(gz0445)は、家から持ち出してきたバウムクーヘンを口に詰め込みながら通りを歩いていた。
もう、口の中がもさもさして大変だった。牛乳が欲しいものですね。
牛乳を売っているところが無いかと辺りを見回すと。
「ルリちゃん?」
美崎 瑠璃(
gb0339)を見つけた。笑顔でルリに近づいてきた瑠璃は「なにしてるの?」と聞いてくる。
「ふぁふぁにふぁいふぉふぉふぃふぇふぃふぁふぁふぃっふぇふぃふぁふぁふぇふぁふぉ」
「ふむ、ママがお買い物してきなさいって言われたのね」
なぜ分かった。
「ふぁふぉふょうふょう」
「なるほど、称号もつけて欲しいのか。じゃあまずはロッタちゃんのお店にレッツゴーだね! ‥‥と、その前に――」
――なんか飲み物買ってあげるね?
そう、苦笑しながら瑠璃は言った。
●
「特売もやしは逃がさないとして‥‥タイムセールの豚こまをゲット出来るかにお夕飯のグレードが‥‥って?」
やや足早に歩いていたララ・スティレット(
gc6703)は、ルリを見かけて足を止めた。
「ルリさんっ。お久しぶりです! どうしたんですかっ?」
「おおー! ララねぇちゃん!」
瑠璃に買ってもらった牛乳で、口の中でもっさもさになったバウムクーヘンを流し込みながらララに応えるルリ。
口の周りが白いひげのような感じになっているのはいつも通りだ。
二人の顔を交互にみてにへへと笑い、そしてララの顔をまじまじと見る。
「?」と言う風に頭をかしげるララは、ルリの行動に思い至ったように手を打ち、付けていたメガネの位置を直す。
「あ、あぁ、コレですか? 実は近眼なのですよぅ。普段はコンタクトですが、何もなければ大体メガネなんです」
どこか照れくさそうにララは言った。
「それで‥‥お買い物ですか?」
ララの言葉に説明の上手くないルリに変わって瑠璃が説明すると。
「そういう事でしたらっ! 不肖、ララも協力致しますよっ!」
そう言うララに「おー」と拳を天に突き上げるルリ・瑠璃。そしてルリは何かに気付き、たたたたたたっ! と走り出した。
「セラちゃーんっ!」
ルリの駆け出した先にはセラ(
gc2672)が立っていた。
騒音にも近い声を上げるルリに気付いたセラが向日葵のような笑顔を浮かべる。
「ルリってば、お買い物?」
「うん! ママに言われたの!」
「それならセラも付き合うよー!」
「うん! 皆で一緒にお買い物しようっ!」
そう言って腕を突き上げるルリに、「おー」と猛々しく三人が続いた――。
キミ達、買い物に行くんだよね?
そんな筆者の気持ちもそこそこに、ルリが遠くに向かって「ヨハンせんせーっ!」と手を振った。
そんな呼びかけに振り返り、紙袋をその腕に抱いたまま近づいてきたのはヨハン・クルーゲ(
gc3635)だった。
「ヨハンせんせいもお買い物なのっ!?」
「はい、日用品を買い足していたのですよ。皆さんお揃いでどこかにお出かけですか?」
「私もお買い物っ!」
セラとルリが交互に説明すると、実に要領を得なかった。
あはは。と苦笑しながら瑠璃が説明すると、「なるほど」と穏やかな笑みを少女二人に投げかける。
「せんせーも一緒にいこう!」
なんかもう一緒に遊びたいだけのような気がしないでもない。
しかし、ヨハンはルリの誘いを快く承諾してくれた。
●
UPC傭兵軍曹階級章が宙を舞う。
龍深城・我斬(
ga8283)がそれをキャッチし、軍から傭兵に与えられたそれの意図を図りかねて苦笑を漏らす。
「さーて、支給品貰ってから掘り出し物でも探すかねっ‥‥と?」
不意に見知った顔――村雨 紫狼(
gc7632)を見つけて片手を挙げて挨拶をする。
「おお。買い物かい?」
「あぁ、これから広場でも回ろうかってな。あんたは?」
「散歩って所かな? って‥‥」
ふと、我斬と紫狼の視界に見慣れた‥‥実に見慣れた面子が見えた。眉を顰めた我斬達に一行は接近してくる。
「なんだ? 今日なんかあったっけか?」
「我斬にぃ! ママに言われてお買い物っ!」
「なるほど、ママさんが装備を整えて来いと」
今までのルリの装備を思い出す。パーカーに釘バットを振り回す様は実にルリらしいと思うが、防具らしい防具もつけず、戦場に繰り出すのは流石にもう危険なのかもしれない。
「まあ、いつまでも釘バットのままってのもなあ‥‥」
「‥‥って釘バット? 釘バットかよおいいいいいいっ!!! 他が普通なのに何故武器がバイオレンスなんだYO☆」
「いや、俺に言われてもなぁ」
そういえば紫狼はルリの戦闘スタイルを見た事なかったかもしれない。と我斬は苦笑する。そして、ルリに向き直り口を開く。
「‥‥戦闘用の装備って事でいいんだな?」
「うん! ママがこれで好きに買っておいでって!」
ルリが母親に預けられたカードを天に掲げると、ふぅむ。と我斬は鼻を鳴らす。
「予算は――」
「しらないっ!」
「――だよなぁ」
分かりきっていた事だった。と、我斬は笑う。とそこで立ち止まる少女が一人。
「あれ? ルリちゃんどうしたの?」
春夏秋冬 立花(
gc3009)はそう言って、周りを見回すと良く見知った傭兵の顔。
ルリが身振り手振りで説明するのを、ふむふむ。と頷きながら、立花は少し考える。
「よぉし! なら、かっこいい装備にしてあげよう」
ひい、ふう、みい‥‥。
気付けばもう8人パーティーだ。とりあえずは基本的な装備をそろえる為に青い悪魔(ルビ:ロッタ)に行く事になった。
「ヘヴィラー・ヘルムが一押しですよっ! スキルの回数を伸ばせるのです!」
「ヘヴィラー・ヘルムは鉄板なのですっ!」
「上着は軽くて動きやすいものがいいかな? あ、足元は大切だから作りのしっかりしたものを選ぼうね?」
「遠距離武器なども考えないといけませんね。スコーピオン辺りでしょうか?」
「あるかどうかわかんねぇけど、機械巻物「雷遁」とかも探してみるか」
「個人的には銃は早いと思う!」
「いや、スク水ニーソ、ランドセルっ! メイド服に巫女服の一択だろっ!」
「なんでだよっ! それ既に一択じゃないしっ!」
喧々囂々。
店に向かう道すがら既にルリの改造プランを話し合う一行。
それを「何を言っているか分かりませんけれど何か?」と言うような顔をして、皆の顔を右に左に見回すルリの姿がそこにはあった。
いや、君の為に皆考えてくれているんだからね?
●青い悪魔の店
――キロちゃあぁぁっぁっぁん!
立ち寄ったロッタの店で名を呼ばれ、キロ(
gc5348)は「この声はルリじゃな?」とか思いながら後ろを振り返――
「うおおおっ!? なんじゃぁっ!?」
ったら馬面の怪人物が全速力で突撃して来ていた。それはもう短距離走の選手のような素晴らしいフォームで、キロに向かって走ってくる。
冷静に対処すれば別になんて事もなく対処できたのだろうが、余りにも突然な予想外の出来事に、キロも慌ててその場から走り出した。
しばし店内でぎゃあぎゃあと騒ぎまわった後。
ごちん。
キロが馬面を殴った。
「痛いぃ‥‥」
「いい加減にするのじゃっ!」
馬マスクを脱いだら、当然の事ながら見慣れたルリの顔が出てきて「ごめんなさい」と謝ってしゅん。とする。
「こら! 店の中で暴れないのっ!」
重ねて瑠璃がルリを叱ると、さらにルリはしょぼんとした。
「みな雁首そろえてどうしたんじゃ?」
「ルリ様の装備を整える為ですよ」
「まぁ、皆偶然集まったんだけどな」
首を傾げて問うキロに応えるヨハンと我斬。二人は苦笑しながら女性陣+1に囲まれたルリを見る。
「ルリちゃーん。お菓子あげるからちょっとこっちにおいで〜」
「ルリ! ルリ! これすごい可愛いよ! つけてみようよ!」
「この帽子とかも似合うかも!」
「るぅぅぅりくぅぅん! ちょっとこれを着てみようかぁ」
そんな感じで可愛らしいドレスを着せられたり、髪飾りを付けてみたり、セラと二人で並んだところを、紫狼が一生懸命持ち込んだデジカメで写真に収めたり‥‥あれ? 偶然集まったんじゃなかったっけ?
それを一生懸命軌道修正しようとするララの肩に、我斬が優しく手を置くとその後ろで「なるほどの」と、したり顔でキロが頷いた。
「ならば、我がルール無用の残虐ファイトなお買い物をお手伝いするのじゃ!」
「ルール無用の残虐ファイト!?」
立花の突っ込みにうむ。と頷くキロの取った行動とは――
――マチェット。そしてマチェット‥‥。
マチェットとは、農業、もしくは林業でよく用いられる刃物の総称である。
鉈のような形状の鍔の無いそれは、外見の無骨さに似合わず手入れを怠ると錆びの出やすい繊細な作りをしている。その刃物が山となりルリ達の足元に積まれていた。
キロが何をしたか、というのはまぁ、皆さん察していただきたい。
「‥‥ま、まぁ、特別な装備の入手は難しいのじゃ。う、うん」
うなだれるルリの背中に慰めとも取れない言葉をキロはかける。
しかし、どこか呆けたように膝を突き、瞳の焦点が合っていないルリはその言葉には反応しなかった。
「な、なんでどこかデンジャラスな匂いのする武器ばかり集まってくるんだYO!」
「ル、ルリよ。ほら、無料でもらえる支給品と言うのもあるのじゃ、うん」
まるで抜け殻の様になったルリを引き摺るようにして、青い悪魔が渡す支給品を開けさせた。
すると中から――。
「うおおおっ!?」
キロと‥‥紫狼の口から驚愕の声が漏れた。
滑らかで肌触りの良い生地。胸元にはまだ誰の名も刻まれていない純白の名札。
――新型スクール水着。
うん。なんというか。その。おめでとう?
●ハンドガン‥‥? そう、『ハンド』ガンだよ!
「やっぱり遠距離武器は要ると思うんだよ」
「ルリ様の俊敏さを生かすなら、やはりハンドガンでしょうか」
広場の露店を眺めながら、我斬とヨハンはそう言いながら露店に出ている拳銃類を見比べていた。
「銃! 銃だと! 何を射止める気だ!」
「ママのハート!」
立花の突っ込みにルリが拳を振り上げて応えると、「それじゃ、ママ死んじゃいますよっ!?」とララが慌てて突っ込んだ。
「しかし、遠距離攻撃は必要だと思うのです!」
「思うのです!」
立花の背後でそう言うセラにルリが乗っかる。まぁ、ルリは何も考えていないだろう。
しかし、露店に並んでいる物の中で一際ルリの目を引くものがあった――
「むぅ‥‥、仕方ない。私に構わず撃て!」
そう言って両手を広げてルリ達に振り返る立花。
どんっ!
そんな爆発音と共に立花の頭の横をかすめ、すごい勢いで何かが通り過ぎる。
‥‥‥‥。
そして通り過ぎた何かは、ひゅーん。とルリの方に戻ってきた。
ロケットパンチβ。
そんな無骨で鋼鉄の拳が自らの顔を直撃していたらと思うと、先程までふざけていた立花のこめかみに、一筋の汗が流れ落ちる。
「ル、ルリちゃん‥‥」
「り、りっかねぇ‥‥わ、わざとじゃないの! ちがうの!」
「う、うん‥‥あ、危ないからそれ仕舞おうね?」
「う、うんっ!」
心なしかルリの顔も引きつっていた――。
――しかし、広場を出る時ルリの手にロケットパンチが抱かれているのを見た立花が、恐怖を覚えたのは言うまでも無い。
「だって銃じゃないし!」
だ、そうである。
●そして、その称号は――
買い物が終わり小腹も空いていたので皆で休憩も兼ね、ファーストフード店に入っていた。
「んじゃ、後は称号か」
アイスコーヒーを口にしながら、我斬が難しそうな顔をして呟く。
「そうですね、ルリ様はいつも元気で華々しい様から『Star Mine』というのを思いついたのですが‥‥」
「花火か! ルリたんにはあってるかもな!」
「おお〜、花火! さすがヨハンせんせーっ!」
「でも、俺の一押しは『ろり☆爆弾』だぜ!」
「なんでだよっ! 私は『ホワイトノート』を押すのです!」
突っ込みを忘れない立花が続けていった称号に「ホワイトノート?」と、ルリは首をかしげる。
それに人差し指を立てて立夏は応えた。
「これから色々書ける真っ白のノートの事。自由なる未来って意味を込めて」
「かっこいい!」
そう言ってバンバンとテーブルを叩くルリ。迷惑だからやめなさい。
その傍らで頬張った料理を飲み込みキロが口を開く。
「『アホ毛バッター!』というのはどうじゃ、実にルリを表しておるじゃろ? うん」
そう言ってカカカと笑うキロ。胸を張るその様を見つめる皆の顔は「いや、それはない」と、どこか残念な顔をしていた。
「我斬にぃちゃんは?」
どこか期待を込めた瞳で見つめてくるルリに、う。と言葉に詰る我斬。
「あ〜‥‥ルリ‥瑠璃色‥‥青‥‥青空――『蒼穹を貫く元気っ娘』。ちと長いか?」
それを聞いてえへへぇ、と、どこか嬉しそうにルリは笑い「私はいつも元気だよ!」と声を上げた。
「はい! セラは『Sun Shiny Smile』がいいと思います!」
ルリはセラの口にした称号に首をかしげた。
‥‥あぁ、さっきから反応が悪かったのは、どうやら英語が分からなかったからの様だ。
そこに、今度は瑠璃が手を上げる。
「私は『瑠璃色のサルビア』とかいいと思うな。サルビアの花言葉って『家族愛』『燃える心』なんだよ。ルリちゃんにぴったりだと思う」
「家族愛! 私、ママの事好きだよっ!」
そう言うルリにうんうん。と頷く瑠璃。
しかし、どこか申し訳なさそうにセラが口を開いた。
「でも、瑠璃色‥‥青のサルビアだと花言葉が『永遠にあなたのもの』になっちゃうのです」
花言葉はその花の色によっても変わる事を失念していた瑠璃は、「あー‥‥」と天を仰ぐ。
「あ、あのっ‥‥」
どこか遠慮がちに手を上げたのはララだった。
「『ウルトラマリン』‥‥なんてどうでしょうか!」
「うるとらまりん?」
「ウルトラマリンはルリの鉱石を砕いた顔料の事を指すのです」
「ルリを砕くっ!?」
ひぃっ!? と言う感じでがたがた震えだすルリに「ち、ちがっ、顔料の名前です!」と慌てて言うララ。
そして、こほんと咳払いをしたあとに、小さく息を吸い込んで口を開く。
「しかして意味は『海を越える』! 大海原をゆくが如く。つまりこの称号は、ルリさんの向上心の表れなのですよ!」
その説明にその場に居た一同が「おおー」と感嘆の息を吐いた。
そして、ルリの称号は――
――ヒーロー参上! ウルトラマリーンっ!!
買ったばかりのヒーローマントをはためかせ、ポーズを決めたルリの姿がそこにはあった。
●
「今日はありがとうございましたっ!」
ルリは皆に深々と頭を下げる。皆、簡単な言葉を交わし散り散りに去っていく。
「私も楽しかったです。また遊びましょうねっ!」
一番最後まで残ったララは、その楽しい気分と共に帰路につく。
と、そこでふと何かに気付いた。
――あれ、何か忘れてる気が‥‥。
そう首をかしげるララの今日のお夕飯のグレードは、残念な事になりそうである。