●リプレイ本文
●産声
音の無い無音の宇宙でも、耳を澄ませば子供たちがあげる産声が聞こえる。
自然と鼻歌を歌う自分に気付き、目を閉じて苦笑を浮かべた。
Joyful joyful――歓びの歌。
元々神父だったヨリシロが記憶していた歌だ。
私もこの歌を気に入っている。人間の作曲家が書き、映画の中で編曲されたものだ。
色々な人間が関わったこの詩曲。バグアである私の琴線に触れることもあるのだろう。
子供達の誕生を祝うにはちょうどいい。
そんな事を思い目を開けると、視界の端から炎の華が咲く。
「ようやく来たか、人間――」
――子供達の誕生を祝いに。
私はそう言って誕生を祝う華火に口元に笑みを浮かべた。
●
愛輝(
ga3159)は迫り来るキメラの大群を見据えながら思う。
すでに本星は落ち、この戦いに意味はない。いや、そう思うのは第三者の感想でしかなく、これを引き起こしたティターンにとってはそうではないのかも知れない。
最後まで戦いに身を窶すその姿は、かつての愛輝自身を思い起こさせる。家族を失い、故に戦いに生きる道を見出した自分に。
愛輝の放ったミサイルはキメラを捉えるが、彼の意識はその先のティターンへと向けられていた。
「戦う事でしか生きられないのなら、相手をするだけだ」
どこか、ティターンを駆るバグアへの共感と、決定的に違うと決別するための覚悟を胸に愛輝はそう呟いた。
「ミサイルカーニバルや! もってけ!」
田村庇昌志(
gc7411)のラスヴィエートからミサイルが放たれ、キメラの群れ。というには聊か度を越したキメラの壁に着弾すると、命を散らせる炎の華を咲かせて行く。
それでも全く減ったように見えないキメラを見て、庇昌志は嘆息した。
「ホンマにキメラがたくさんやわ‥‥ひー、ふー、みー‥‥って数えられんわ、多すぎて」
そう言いながらも、庇昌志は動きを止めずに次のターゲットにミサイルを撃ち込む。
「命の灯が散っていく。ラストターンのつもりか」
その炎の照り返しを操縦席で受けながら周太郎(
gb5584)はそう呟き、爆炎の中を潜り抜けて来たキメラの塊にDR−2へと向けた。
「無闇に命を殺さなくてもいい世界の為‥‥今俺達が殺すのは、悪意と、明日への恐怖だ!」
そう叫び、引鉄を引く。
荷電粒子砲が吠え猛り、爆炎から漏れ出た悪意を焼き尽くしていく。
その光を追いかけるようにヨハン・クルーゲ(
gc3635)のドレイクが追走をかける。
操縦席のモニタがターゲットを捉えた事をヨハンへと報告していた。
「マルチロック完了。ラヴィーネ、ファイエル!」
ドレイクから4基のコンテナミサイルが放たれ、巨大な花の蕾がまるで彼岸に咲く花のように、赤い尾を引いて破壊の花弁を撒き散らしていく。
降りしきるミサイルの雨の中を超えてくるキメラを、祭城 勇弥(
gc8704)のロケットランチャーが的確に撃ち落とし、宇宙の藻屑と変えた。
「初任務の時とは違う! これだけいればどこに撃ったって当たるさ!」
そう叫びながら勇弥は次のターゲットへと視線を向け、再び8連装ランチャーの引き金を引く。
そんな勇弥機の脇をする抜けて行く一機のニェーバが駆け抜ける。その機体には曳航式ミサイルが搭載されていた。
「バグア共め、これがリア充の愛のパワーだぜ!」
ビリティス・カニンガム(
gc6900)が操縦席で叫ぶ。曳航していたミサイルを分離させると、おめでたい婚礼を祝う楽曲が通信に割り込んでくる。
『曳航式ミサイル「リア充」』
それはリア充を派手に祝う花火(必ずしも素直に祝っているわけではない)として、よく使われるとか使われないとか。ただ、式を挙げている教会などへの誤爆も多いと聞くが、メーカーは一切の不具合を認めていない。
しかし、その破壊力は折り紙付きで、キメラを確実に葬っていく。これの誤射が多いというのはとても問題があると思う。と言うのは筆者の感想。
「往生際の悪いバグアは美しくないですよ。お仕置きです!」
「‥‥ん。突撃。粉砕して。蹴散らす。大暴れしよう」
水無瀬みなせ(
ga9882)の通信に、最上 憐 (
gb0002)が応える。
(・ε・)チーム(あ、イプシロンチームね)の二人の狙いは、キメラよりも岩礁狙い。
岩礁を爆破することで、その破片などでの二次災害を狙う。一際大きな岩塊めがけてロケット弾とミサイルを撃ち込む。
着弾、爆発と同時に岩塊の破片はその勢いのまま、キメラへと突き刺さりその命を奪っていく。
「ったく‥‥なんて数連れてきてんだ」
みなせと憐の二人とは少し違う目的で岩礁を破壊していた龍鱗(
gb5585)は、操縦席の中でそうぼやきながらRCMを射出する。接近戦になった時にキメラ――もしくは例のティターンの潜伏を警戒し、デブリを掃除したわけである。
「何か‥‥わかってたけどやっぱり動きが重い‥‥」
龍鱗はつぶやくと、KVの装甲をパージ。人型へと変形させ機剣「バルムンク」を抜く。
「さて、と。道を開けて貰おうか!」
勝利を齎すその剣を持ち、龍鱗は更なる戦場へと飛び立つのだった。
初戦の戦闘を眺めながら、もう一人のセラ(
gc2672)であるアイリスは「ふむ」と鼻を鳴らす。
「数は多いが‥‥自壊を始めているキメラもいるようだね」
それならば数が多くとも対応はいくらでもできる。あとは噂のティターンの出方次第か。とアイリスは分析する。
とは言え、ティターンの出方を待っていてもキメラの数が減るわけではない。なら、今、やる事は一つだ。
――殲滅といこうか。淑女的にね。
金髪の少女はそう言ってシニカルに笑った。
●
「皆、聞こえる?」
聖・真琴(
ga1622)の通信にチーム(・ε・)のメンバーが各々応える。
「憐ちゃん、みなせちゃん、瑞姫さんも‥‥それにココには居ないチームの皆‥‥今まで一緒に戦ってくれてありがとう。とても心強かったし‥‥楽しかったよ☆」
真琴がそう言うと通信越しでも、メンバーたちが薄く笑っているのがなんとなくだがわかった。
それに真琴も微笑みを浮かべ続ける。うん。と操縦席で頷き続ける。
「G−00【Nemesis】よりGargoyle各機へ最後のコール! 全力を尽くし、全員無事に帰るぞ! そして「まだ見ぬ生命」への祝福を!」
これから生まれてくる生命を守るための戦い。
そして生まれ出でた者たちが安心して生きられる世界を作るための戦い。
「当然。私には待っている家族がいるからね、絶対に生きて帰るよ」
どこか得意げに言うのは瑞姫・イェーガー(
ga9347)。
新しい命を生んだばかりの彼女は、母としての覚悟を胸にこの戦場へと趣いた。
そして瑞姫はこの作戦に参加した傭兵たち全機に通信を開く。
「瑞姫・イェーガー支援を開始します」
データリンクを開始すると、瑞姫のKVのモニターに全機のコンディションが映し出される。
「電子支援は任せてください。また、なにか気づいたことがあれば連絡をお願いします」
作戦参加者たちが口々に了解・了承の旨を返してきた。それに瑞姫はうん。と頷き――
――判るよみんなの意識が、KV達の鼓動が‥‥だから引かないっ!
そう言って戦場へと意識を向けた――
――‥‥To be or not to be、世界の審判に問いましょう。
結城 桜乃(
gc4675)はそう呟いて、ミサイルを撃ち放つ。
同時に桜乃機の周囲に爆炎の華が咲き、その照り返しを受けながら桜乃は考える。
ティターンの操縦者は何を思っているんだろう? と。
ただ強者と戦いたいだけなのか、それとも‥‥。
「いや、余計な詮索は止そう。知ったところで僕には何か出来るわけではないんだ」
思考を巡らせた後に、自分の中でそう考え直し、近づいてきたキメラへとガトリング砲を掃射する。
「今はただ、僕は戦えばいいんだっ!」
弾丸に撃ち抜かれ蜂の巣になったキメラを確認し、次のターゲットへと砲口を向け桜乃は迷いを振り切った口調ではっきりとそう言うのだった。
「ったく、大元を黙らせてもなかなかスッキリとは行かないみたいだね」
「あぁ、趨勢は決したというのに、まだこんな真似を仕出かすとは‥‥」
大神 哉目(
gc7784)の言葉に、黒羽 拓海(
gc7335)がそう応えてくる。
「戦争が終結してもその後始末が残っているということだろう。問題は色々と山積みのようだ」
月野 現(
gc7488)が、まだ火種の残るバグアとの戦争にやれやれと言った風にぼやきながら、襲い来るキメラを盾でいなし躱すとそのキメラを拓海の機刀が切り伏せ、現が引き寄せたキメラの塊を哉目のレーザーガトリングが纏めて肉塊へと変える。
「まぁ、楽そうな相手だしさっさと片付けるとしよう」
「そうだな。その鼻っ面をへし折らせて貰おうか」
「このふざけた行いの代償は、きっちり払わせてやるとしよう」
そう言い合って、それぞの動きに合わせながらキメラを撃墜していく。
――それじゃ、行こうかジェヴォーダン。お前の仕事も終わりが近そうだよ。
哉目は相棒にそう言って、コツンとコンソールを叩いた。
●
――刮目せよ、宇宙の侵略者よ!
その叫びとともに一体のKVがキメラの大群に立ち塞がった。
紅の体に蒼の鎧を身に纏ったそのKV(?)の名は――
――超魔導合神ッ!! ブレイブウゥゥゥッ! ダイッ!! バアアァァァドッ!!!
「天下無敵のスーパーロボット、ここに見参!!」
村雨 紫狼(
gc7632)が、そう言うと太陽の光を反射してダイバードの装甲がキラリと光る。
かつての勇者シリーズを彷彿とさせるその姿。子供ならば純粋に憧れ、大人ならばその頃の郷愁を思い出させる。
両手に持った「陰」を振りかざし、振れば玉散る氷の刃。迫るキメラをバッタバッタとなぎ倒す。
その実、この依頼の出発前に整備員に無理言って、カスタムニェーバの装甲をくっつけて貰ったという涙ぐましい努力がそこにはあった。
「ガッハッハ! 歌舞いておるのう! あのKVはっ!」
「師匠、余所見してないで、次来ますよっ!」
豪快に笑う孫六 兼元(
gb5331)の背後に周り、向かってくるキメラをレーザーガンで撃ち落とす奏歌 アルブレヒト(
gb9003)。
「眼前に広がるは敵の群! まだこれ程の戦力が有ったか!」
「‥‥ブリュンヒルデと共に‥‥初めて宇宙に上がった時も…このような光景でしたね‥‥師匠」
「応っ! 確かにそうだったかもしれん。それにしても、これ程の戦力なら楽しめそうだ!」
兼元はモニタ越しにキメラの大群を睥睨し、にやりと口元を歪めた。
そんな兼元機の死角を縫って数匹のキメラが襲いかかる。
しかし、迂闊に接近してきたキメラの頭部を09式自動歩槍が正確に撃ち抜いた。
「プロミネンスの炎は逃がしませんですの!」
ノーマ・ビブリオ(
gb4948)がそう言って、奏歌機と兼元機に愛機のヴァダーナフ――無限紅炎を寄せる。
「油断しないで頂きたいですの」
「油断なんぞしておらんわ」
窘めるノーマ機に向かってにやりと笑う兼元。
もちろん操縦席の中までは見えないが、兼元の愛機神度剣の手にはいつ抜いたのか機刀「一文字」が抜かれていた。
そして兼元が視線を再びキメラの群れへと向け「一文字」を突きつけ、傭兵のKV全機に向け通信を開く。
――地球の全将兵へ! 未だ戦火は消えず戦いは続くが、必ず勝って生きて帰ろう!
「‥‥師匠」
「当然ですの」
傍らの二人と同じくして、口々に通信が返ってくるのを兼元は満足そうに頷く。
――さぁ派手に行くか!
そう口にして、奏歌とノーマの二機を引き連れてキメラの大群へと突撃するのだった。
●
キメラの海を泳ぐ2つの流星があった。
その流星が暗い宇宙に線を引くたび、それを追いかけるように火球が灯る。
αチームの西島 百白(
ga2123)と不破 霞(
gb8820)だ。
「‥‥行くぞ‥‥シルト‥‥狩りの時間だ」
百白は操縦席で愛機の名を呟き、キメラの塊へと突っ込むと飛行形態から人型へと変形し、その中心でライフルとミサイルを撃ち込む。
そして、キメラに着弾する前に再び飛行形態へと変形しその場を離脱。数拍の間を置いて百白が飛び込んだキメラの塊が爆発を伴って燃え堕ちていく。
「さて‥‥どれだけ‥‥喰えるか?」
まるで自分の限界を試すかのようにそれを繰り返す。
一方、霞は、ただ一つの目的の為に、眼前に立ち塞がるキメラを両手の刃で切り伏せる。
その動きはまさに流星。触れるものを全て吸い込み、そして破砕する狂戦士。
霞の駆るヴァダーナフ――黒椿・零式の装甲は、キメラの返り血で染まっていた。
まだやる気なら‥‥徹底的に叩き潰さないと。
本星を失ったバグア。まだ抵抗するのなら全てを狩る。
「ただ、それだけ」
ポツリと霞はそう呟く。しかし、目的のティターンが見つからず少なからず苛立ちが先に立つ。
そんな霞に、通信が届く。
――先に行け!
「と言うか邪魔する奴をぶっ壊すっ!」
そんなセリフと共に、霞の目の前にいたキメラが殴り飛ばされる。
緑川 安則(
ga0157)の駆るタマモが、キメラを追撃しその拳で破砕する。
「雑魚はボク達に任せて、とっととティターンをやっちゃってよ」
安則の機体の背後からアサルトライフルを構えたヴァダーナフ。ツバサ・ハフリベ(
gc4461)の乗るティンダロスだ。
クトゥルフ神話に登場する、かの猟犬から取ったのだろうか。とは霞が思ったかどうかは定かではない。
「やれやれ、君ら邪魔だよ?」
まとわりつくキメラをツバサ機が大型のクローで引き裂きため息混じりに呟く。
「ド派手な祭りをしてやるからよ‥‥巻き込まれないようにとっとと行きな」
安則の言葉に霞と百白は更に先へと進むのを見送って、周囲のキメラへと安則とツバサは視線を巡らせる。
「いいね‥‥、数は多いし、最悪の戦場って感じだ。これぞ戦争だな」
「あっさり死んだりしないでよ?」
「馬鹿言え、まだ始まったばかりだろ」
軽口を言い合う二人。それとほぼ同時に二人の駆るKVの砲門が全部開く。
そして二人は周りを取り囲むキメラを睨みつけ――
――死にたいヤツから前に出ろ。
二人はそう口にして、引き金を引いた――
●
にじゅう‥‥さんっ!
23体目のキメラを切り裂き、仮染 勇輝(
gb1239)は宇宙を舞う。
勇輝は主戦場から少し離れた場所からの狙撃、そして近づいて来たキメラを迎撃する事に注力することで、エネルギーの消費を抑えていた。
しかし、そんな自分にもどかしさも感じている。
「ここが地上ならば俺も戦えたのに!」
宇宙用の機体ではなく、しかも燃料をバカ食いするフェニックス(A3型)での宇宙戦の為、必要以上にエネルギー残量を気にかけていた。
しかし、何が起こるか分からない宇宙では慎重になってなりすぎるという事は無い。
だが、今回の場合はその慎重さが仇となったと言えるかもしれない。
――君は、こんな所から私の子供たちの命を奪うのかね。
ゾクリと。冷たい手で背筋を撫でられたような感触に、勇輝は高速機動ブースターを使い右へと緊急回避をする。
すると先程まで自分がいた場所を、青白く光るブレードが通り過ぎた。
勇輝はそのまま最大戦速で味方機の居る方向へと飛翔し、そして(・ε・)チームの瑞姫へと通信を開く。
ティターンが動いた事を伝えるために――。
――仮染機がティターンと交戦中! 向かえる人は対応に回って!
獅子王でキメラを切り裂きながら、瑞姫がティターンの出現ポイントを全機へと情報を共有させる。
「来たかっ!」
瑞姫の報告に、真琴が勢いよく応えるとその僅かな隙にキメラが体ごと突撃してきた。
その衝撃に凰呀が大きく揺れるが、真琴は巧みに体勢を立て直しキメラの尻尾を捕まえる。
「っ‥‥てぇなぁ。倍返しだ☆」
そしてそのまま放り投げ、別のキメラにぶつかったところを纏めてシェルシェードで引き裂いた。
受けたダメージが練力へと変換された事を確認して、真琴はチームメイトへと指示を飛ばす。
「ティターンまでの道を開くよ! G20、G21ついてこれる?」
「もちろんです!」
真琴の視界の端でバルムンクを振り回し、キメラを嵐のように吹き飛ばすみなせの姿。
通信に応えながらも、岩礁を足場にして次から次へとキメラを撃墜していく。
「高威力の剣技こそ、ダークファイターの本領発揮よね」
どこか生き生きとしたそのセリフに真琴は頼もしいものを感じながら憐機に問う。
「G21。ティターンまでの道を開けられる?」
「‥‥ん。周りは。全て。敵。狙う必要はない。群がる敵を。叩き潰すだけ」
憐はそう言うとキメラ群の中央を高速で突き抜け、追いすがり1点に集まったキメラをそのハンマーで纏めて圧殺する。
そのハンマーから運良く逃れたキメラは悉くみなせのバルムンクの餌食となった。
「β! 今の内にぬけて!」
キメラの壁に空いた穴を確認し、瑞姫がβチームへと通信を投げかけると真琴がそれに続ける。
「こっちももう少しキメラを片付けたら追いかけるからさ☆」
と――。
――わりぃな! 一気に突破させてもらうぜっ!
β班で先陣を切ったのは紫狼だった。同時に蒼色のガンドラゴンパーツをパージし、飛行形態ダイバードへと変形。そして深紅の星となって(・ε・)チームが開けてくれた穴へと飛翔する。
それに追いすがろうとするキメラは、突如爆炎に飲み込まれていった。
そしてその爆炎の奥から、巨大な影――
――ふはははは! 余、テラドゥカスの力思い知るがよいわ!
ビリティスの操る鏖殺大公テラドゥカス。登場と同時にバリトンの効いたイケメンボイスがオープン回線で響いた。
雄々しく腕を組み、その面には立派なカイゼル髭。火球の光が宇宙の闇の中でその陰影を深く映し出す。
キメラ達は紫狼機にたどり着く前にその飽和攻撃に命を散らした。
その光景はヒーローと一時的に手を組んだ悪の総統と言う、マニア垂涎の設定。
テラドゥカスの勇姿を後ろに見ながら、紫狼は親指を立てぐっじょぶ! と愛する少女へと心中で呟いた。
「行ってください黒羽先輩!」
「邪魔するキメラは俺と哉目が露払いする。行ってくれ!」
哉目と現が、拓海機に向かって叫ぶ。それは二人が拓海を信頼しているからこそなのだろう。
ならば、それに応えなくてはいけないだろう。
拓海はそう思い「あぁ、任せた」と告げて紫狼機の後を追った。
それを見送った哉目と現は、お互いの背中を守るようにして機体を並べる。
「現。どう?」
「どうって何が?」
「結構多めに見積もってたつもりなんだけど、その想像より多いんだよね、こいつら」
「弱音か?」
からかうように言う現に、哉目は冷静かつ冷たく言い返す。
「馬鹿言うな、いつもよりちょっとメンドくさいだけだ」
「敵戦力は膨大。だが、何度も厳しい戦いは乗り越えて来た。だろ?」
「そうだね。もっと辛いと思う事もたくさんあった」
「そろそろ終わりにしなくちゃな」
「あの子の願った世界を作るために――」
――行くぞ! しっかり噛み付けジェヴォーダンッ!!
その宣言と同時にタマモとコロナ。二機のKVは同時に攻撃を再開するのだった。
●
ティターンが後方のチームを襲ったという報を受け霞は舌打ちを打つ。
高みの見物でもしていたか。舐めた真似を。
胸中で歯噛みをするがキメラの大群のかなり奥まで入り込んでしまった為、戻るにはかなり手間取りそうだった。
「クルーゲっ! なんとかならないか!」
「戻るにしても、これ程の数となると突破口を開くには時間がかかります」
霞の言葉に種子島でキメラを撃ち落としつつ、そう答える。
ただでさえ敵予想戦力を上回り、圧巻するほどの数のキメラ群。それを殲滅するだけでも頭が痛くなる。
味方への損害を減らす為に、キメラの動きを注視しているだけでも神経をすり減らしているくらいだ。
そんな神経戦は確実に傭兵たちを消耗させ、その数の暴力はKVの装甲をこそぎとっていく。
「う、ぐぅっ!」
勇弥機がキメラに吹き飛ばされ、その衝撃で操縦席内がアラートで赤く染まる。
そんな勇弥機を容赦なくキメラが襲い、損傷部を表すコンディションランプがKVの各部が悲鳴をあげていることを伝えてきた。
「まだだっ! まだ終わらんよっ!」
勇弥は操縦席でそう吠え、コンソールを強く叩くとピタリとアラートが止まった。
プチロフの誇る機体のタフさは伊達じゃない。一度悲鳴をあげたラスヴィエートだが、それでも戦場に留まる事を望んだようだ。
「ほんと、プチロフの機体ってタフだねぇ」
勇弥機の復帰を目にしながら、ツバサは呆れたようにそう呟く。
ツバサ機の蹴り飛ばしたデブリが、数匹のキメラを巻き込みすり潰しながら飛んでいく。
その様を見ないまま背後に回ったキメラに対してライフルの引き金を引いた。
一体どれほどの数を撃ち落としただろうか。
最初は面白がって数えていたが、途中から数えるのを諦めた。
今となっては少しうんざりし始めたくらいである。ダメージもかなり蓄積してきていた。他の機体も余裕は無くなって来ているはずだ。
「数が多すぎる‥‥か! 兵法曰く必勝には戦力6倍集めろか。だが、あがいてみせるさ。せっかくの高級機だしな!」
安則は操縦席の中でそんな事を呟く。
味方の剣となり、盾となった安則の機体は他の機体よりも損傷度が激しかった。
コンディションは各部イエローからレッド。突破口を開くために弾薬もほぼ使い切っている。
残っているのは機拳「シルバーブレット」と、ライフルの弾倉に数発の弾丸。今までの戦場の中でも指折りの最悪さ加減かもしれない。
しかし、安則は笑う。不敵に、爽快に。
「よし‥‥機体はほぼ大破か‥‥」
ぽつりと呟き、周囲の味方機に回線を開く。
「俺がティターンまでの道を開けてやる。キメラの壁に風穴が空いたらそこから一気に抜けろ」
「どうするつもりですか? そう簡単には‥‥」
ヨハンの言葉を微笑を浮かべ「こうするのさ」と安則は自爆装置を起動させる。
操縦席を警告灯が赤く染め上げ、カウントダウンが始まった。
「悪いな、任せたぞタマモ」
安則はそう言ってこつんとコンソールを叩き、続いてコックピットブロックを離脱させた。
コックピットブロックが分離したのが分かったかのように、タマモはキメラの壁へと飛翔する。そして――
――目を灼くような閃光。
光が収まった後、そこには大きな穴がこじ開けられていた。
しかし分離し、小さな宇宙機となったコックピットブロックをキメラが目ざとく見つけ迫ってくる。
舌打ちをしながら、回避を試みるが間に合わな――
――‥‥シルトの‥‥装甲‥‥貴様らに‥‥食い千切れるか?
そんな通信と共にキメラの爪をその身で受けたのは、百白の駆るシルトだった。
同時にドラゴンファングでキメラを引き裂き安則へと通信を開く。
「一度‥‥拠点まで戻る」
「‥‥すまない、手間を掛ける」
「‥‥気に‥‥するな。俺も‥‥補給に戻るつもりだった」
不器用な百白の言葉に「そうかい」と安則は口にし、自らがこじ開けた穴から味方がティターンの元へと向かう背中を見つめた。
――あとは頼むぞ‥‥戦友たち。
そう、想いを託して――。
●
「ちぃぃっ!」
キメラの邪魔も入り、ティターンから逃げきれないと判断した勇輝はKVを反転させた。
コンソールを操作し、全ブースターを解放させる。
「全ブースター起動。オーバードライブ!」
Chronusのシステムが搭載されているエンジン『SES−200』のポテンシャルを100%引き出す。
――インヴィジブル・カラドボルグっ!
右手に持ったKV刀を振り下ろす。フルブーストしたその剣閃は、残像の尾を引いてティターンを襲う。
しかしその切っ先はティターンの装甲を掠め、火花を散らすだけだった。
だが、それで終わりではない。そのまま間を詰め、いつの間にか左手に装備した練剣を突き出す。
圧縮されたレーザーブレードがティターンへと伸び、余裕を見せていたティターンの右肩装甲を削った。
「まだだっ!」
半身を逸らして交わしたティターンを、横薙ぎに練剣が追う――が。
練剣を握った左腕が逆に切り飛ばされていた。
『仕掛けて、反撃されないと思っていたわけではないだろう?』
律儀にもティターンからの通信。そして左腕を切り落としたブレードが再び閃――
――人機一体! アイリスキーック!
コロナが飛んできた。あ、いや。ざっくりと説明しすぎた。
ブレードを横薙ぎに振るおうとしたティターンに、アイリスの駆るコロナがフルブーストでキックを決めたのだ。
その蹴りにティターンは大きく弾き飛ばされる。そしてアイリスは機拳を構え、ティターンに向かい挑戦的に手招きする。
「社交辞令では無粋だな。拳で語り合おうじゃないか」
そう言ったアイリス機に接敵し、ブレードを振るうティターン。それをアイリスは機拳で上手くいなす。
しかし、そのブレードは確実にアイリス機の装甲を火花を散らしながらこそぎとっていく。
「はははっ 折角だ、派手に楽しく行こうじゃないか」
『‥‥面白い。その通りだ。派手に祝ってくれたまえ』
その拳を避けながら、アイリス機を蹴りつけ距離を取ると同時にミサイルをばらまくティターン。
ミサイルを躱しきれずアイリスは操縦席で呻く。
その隙をつき、ブレードを構えたティターンがアイリス機に向かって飛んだ。
「俺の事、忘れないでもらいたいねッ!」
『もちろん、忘れてなどいないよ』
残った右腕のKV刀で仕掛けた勇輝に向けて、ティターンは左腕に搭載したレーザーガンを放つ。
それを掠めるように勇輝は躱し、アイリスと連携をとった。それでもまだティターンの動きは戸惑いすら見せない。
度々混ざるキメラの攻撃が二人の連携を崩していた。
――キメラはこっちに任せな。
そんな通信が入ったかと思うと周囲にいたキメラに対して火線が飛ぶ。
龍鱗機のレーザーガトリングがキメラを撃ち抜き、それが口火となった様に庇昌志が続く。
「ほんま、何匹倒したかわからんようになったわ!」
機刀『無銘』を振るい、次々にキメラを切り裂く庇昌志。それを援護するように桜乃がシェルクーンチクを従えて攻撃を行い、周太郎がそれに続く。
先行してティターンに向かったアイリスを追ってδチームがティターンの居る戦域にたどり着いた。
それにより主戦場はティターンの元へと移動していく。
●
「最期の足掻きというより、死に花を咲かす為の戦いと見た! その為にワシ等を誘いこんだのだろう!?」」
『死に花か。そうかもしれんな』
キメラを抑えつつ、ティターンにも攻撃を仕掛けた兼元はティターンに向け問うとティターンはそう答える。
「ならば望み通り、武士として散って見せろ!」
『しかし、私は子供たちに死に花を咲かせさせてやりたいのだよ』
神度剣の機刀にブレードを強打し、無理やり兼元との距離を取るティターン。その兼元機にキメラが群がるが、それを兼元は空間手裏剣『八葉』で蹴散らす。
「キメラにティターンに忙しいですの」
目まぐるしく入れ替わる攻守、相手にノーマがぼやきながらティターンに切り込む。
あくまで援護の為、ティターンに対して深追いは掛けず一撃離脱に徹していた。
「‥‥もう戦いは終わったのです‥‥と言っても‥‥納得しないでしょうね」
奏歌の呼びかけにティターンは傭兵たちの攻撃を凌ぎながら、興味深そうに応えた。
『君にとって戦いとはなんだね?』
予想外の問いかけに奏歌は「‥‥え?」と言葉を漏らす。
『私は『生きる』と言うこと自体が戦いだと考えている。つまり生命体が生きるという事は戦うという事と同意義ではないのかね』
このバグアは種族間の戦いの事を言っていなかった。
ごく個人的な戦い。ただ『生きる』のではなく。自分として『生きる』と言う『戦い』をしているのだと言う主張。
故に、自分の生み出したキメラにも同様に『生きると言う戦い』をさせているのだろう。
「戦う事でしか生きられないのなら、相手をするだけだ!」
そのやりとりを聞いていた愛輝が、味方が離れたところにG放電装置をティターンに放つ。
広範囲に広がった紫電がティターンの脚部装甲を僅かに舐め取った。
『戦いはいつまでも終わらんよ。高度な思考を持つ存在がいる限り、お互いの我のぶつかり合いが発生する。バグアの中でも、君たちの中でも、な』
「それがお前の目的か」
太陽の光を照り返した青い地球を背にして、二刀を構えた拓海のHuckebeinがティターンの言葉に応えた。
『目的は子供たちの生誕祭だ。命は等しく尊いものだ。君たち人間はそう教わるものなのだろう? 私はこの子供達が最後まで生を全うできるようにしたまでだよ』
「ご高説とは余裕だな。だが安心しろ、貴様もキメラも全てあの世に送ってやる」
「いい加減終わりにしようぜ、それこそ無駄に命を散らすこともねぇだろ?」
拓海機の背後にシャムシエルを抜いた霞機と紫狼機が並ぶ。太陽の光を照り返す地球を背にしている為、こちらからはシルエットしか見えない。
ただ、三機のメインカメラがそれぞれ光を放つのみだ。
『あぁ、これで私の戦いは終わりだ。私が勝つとしても、負けるとしても、な』
「出し惜しみななしだ。全力で行くぞ」
三機のKVが奔る。剣を一合、二合してその連携を嫌ったのかティターンが距離を取る。
そこに瑞姫のフォビドゥンガンナーが粒子砲を合わされ、ティターンの左足をもぎ取った。
スラスターのバランスを失い体勢を崩したティターンに迫るのは、バルムンクを両手で構えたみなせ機。
「貫けぇぇぇっ!」
気合とともに突き出したその刃はティターンの頭部を奪い去ったが、突撃にブレードを合わされ左腕部を斬り取られる。
操縦席の中で呻きながら、追撃を受けないように距離を取るみなせ。
それと入れ違いに赤い機体がティターンへと飛び込む。
「私たちは皆無事に帰るんだ! お前なんかにやられはしないっ!」
『私も、そう易々とやられる訳にはいかんのだよ』
赤い機体の主、真琴の言葉にそう応じ敢えて前に出るティターン。真琴機の突き出した拳を肩で受け、直撃を逸らし大きく薙ぎ払う。敢えて前に出たのは恐らく頭部を失いメインカメラがなくなった状態で、少しでも距離感を補うためだったのだろう。
その刃は真琴機を射程に掴んでいた――。
――しかし、その刃は横からの衝撃によって大きく逸れる。
「飛翔け! アングウィレル!! 奴の動き‥‥お前の翼で封じてみせろ!!」
デアボライズ・フォース! アセンションッ!!
機体の限界を超えた力がティターンの動きを押さえ込む。同時に操縦席はアラートで真っ赤に染まり、各部のパーツが崩壊していくのを伝えてくる。
既に大破していると言えるティターンは、それでもその力に対抗してきた。
だが、間違いなくティターンの動きは――止まった。
そこに霞機が滑り込み、手にしたシャムシエルをティターンへと突き立てる。
――結局、最後まで潰し合うしかないんだっ! 私たちはっ!
霞はそう叫び、突き立てたシャムシエルをそのまま振り下ろした。
金属を焼き、引き裂く感触が操縦桿越しにもわかる。
『あぁ、その通りだ。私たちも、お前たち人間も、自分の意に沿わぬ存在と潰し合いを続けるのだろうさ』
ティターンに乗っていたバグアは、そう言って笑った気がした――。
●
周囲にはキメラの死骸と、残骸。それがこの戦いが壮絶だった事を物語っていた。
「さぁ‥‥帰ろ☆」
「何だか、疲れたな。エミタやロータスのおかげで子育てに比べれば楽だけど」
「ふぅっ‥‥上手くやれたかな?」
「戦果は。上々。ここまで粉砕してしまうと。キメラも。食べられない。残念。」
真琴の言葉に(・ε・)チームの面々が苦笑混じりに応えてくる。
KVの損傷状態を見る限り皆無事とは言えなさそうだが、それでも誰ひとり欠けること無く帰路に付けることに旨を撫で下ろす。
「ガッハッハ! 暴れた暴れた!」
「‥‥師匠」
爽快爽快。とでも言うように言う兼元に奏歌が声をかける。
「んん?」
「‥‥地球に残ったバグアは‥‥良くも悪くも‥‥人間の影響を受けすぎた個体なのかも‥‥しれませんね」
そんな奏歌に、兼元はふむ。と鼻を鳴らし口を開く。
「影響を受けるのは、バグアだけではなかろう。ワシら同じ人類ですらお互いに影響を与え合うんだからな! そうおかしな事でもあるまい」
師匠の言葉に、操縦席内で顔を伏せていた奏歌は顔を上げ「そう、ですね。そうなのかもしれません」と呟く。兼元のありのままを受け止める感性にはいつも感心させられる。
だからこそ私はこの人を師匠と仰いでいるのかもしれない。等と奏歌は思っただろうか。
――何が停戦だ。
暗い操縦席の中で霞は歯噛みをしながらポツリと呟く。
――何を今更。‥‥私は納得できない。
名も知らぬバグアが残した最期の言葉。
それは自分の思いとは決定的に違うはずなのに、どこか胸の奥に引っかかった。
霞は拳を握りコンソールを叩きつけ、何もない虚空を見つめて口を開き――
――あぁ、その通りだ。私たちは結局最後まで潰し合うしかないんだ‥‥!
まるで自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた。
●
――こんなに、青かったんだ‥‥。
「青いというのは知っていても、聞くのと実際に見るのとは随分と違いますよね」
操縦席から見える地球を見て感嘆のため息を吐く勇弥に、桜乃が微笑混じりに同意の言葉を返した。
「こんな綺麗な星なんだから、これからも自分たちで守っていかなきゃ‥‥」
「そうですね。僕も、そう思います」
勇弥の言葉に強く頷き、桜乃も再び青く光る地球へと視線を向ける。
この戦いで僕が掴んだのは、この星の――
あのティターンが言っていた言葉を引用すれば、失わないための戦い。
確かに僕たちは、これからもずっと戦い続けるのかもしれない。
桜乃は青い地球を見つめながら、そんな事を思うのだった。