タイトル:それは社命を賭けた決闘マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/10 11:56

●オープニング本文


●その会社の実情
「以上です。いかがされますか社長」
「ふむ‥‥」
 秘書の女性の報告に男は机に肘を突き、手を組んだまま鼻を鳴らす。
 男の名前は森尾 敬三。株式会社森尾の社長である。
 森尾の額には苦悩の為か、縦じわが入る。
「つまり、あのバトルシュミレーターだけでは、採算が全く取れないと言う事かね?」
「その通りです。このままでは我が社は倒産してしまいます」
「そうか」
 呟き、男は立ちあがって背後にある窓から外を見る。
 向かいには、居酒屋チェーン店『氷魚民(ひおたみ)』の少し薄汚れた看板が目に入った。
 株式会社森尾の入居している築30年の雑居ビルは、黄色に日焼けした壁がその年季を表している。
「まだ、間に合います。直ぐにこの計画から手をひい‥‥」
 秘書の言葉を手で制し、男は鋭い視線を秘書に向ける。
 その視線に秘書は息を呑んだ。こんな時の森尾は決して引く事は無い。
 森尾は部屋の隅にある古びたロッカーの前まで進み、その扉を開く。
 中にはこの部屋に、いや倒産前の会社にはふさわしくない仕立ての良いスーツ。滑らかな手触りのシルクのマント。そして――仮面。
 マントと仮面を身に付けた森尾は、ゆっくりと秘書を振り返りにやりと笑った。
「計画は次のフェイズに進める。これは決定だ」
 仮面の奥の視線が秘書を貫く。その鋭い視線に息をのむ。
「ふぇ、フェイズ3‥‥ですか」
 紙媒体でのカードゲーム展開であるフェイズ1。ジョイランドでの体験型シュミレーター設置がフェイズ2。そして、フェイズ3とは予算の問題で展開が遅れているシュミレーターの全国展開を指している。
 これは、株式会社森尾の総資産を賭けた計画となるだろう。
 フェイズ3が失敗すれば、株式会社森尾の倒産は間違いないだろう。
「よ、よろしいのですね。本当に」
「私を誰だと思っている――」

 ――私は森皇 凱。決闘者(デュエリスト)だ。

●秘書からの依頼
 オペレーターはその依頼をみて、気だるそうな溜息を吐いた。
「なんで‥‥傭兵に頼む必要があるの?」
「我が社のカードバトルシュミレーターは、リアルさを追求した為。戦場を肌で知る傭兵にテストプレイを頼みたい。と言うのが社長の希望です」
 『月下の符術召喚士』。それは株式会社森尾の社運どころか、社命を賭けた一大プロジェクトだった。
 森尾社長の独断と偏見で立案され、周りの社員が東奔西走、各種調整を行い今の形まで昇華されたと言う。
 そして、ジョイランドにシュミレーターの設置までこぎつけた。
 社員たちは必死だったのだ。自分たちの生活を守る為に。
 しかし――
「この依頼料で傭兵達が受けてくれるかしらね‥‥」
 片手で髪を掻きあげつつ、作成した依頼書をデータベースに流すオペレーター。
「受けて頂けなければ、我が社は倒産するだけです」
 どこか諦めたように笑う秘書。
 それにオペレーターは「そう」とだけ言った。
 秘書はそっけないオペレーターに背を向けると、カウンターから離れる。

「これが私の最後の戦い‥‥」

 呟く秘書の顔は、決闘者の顔をしていた。
 カウンターから離れていく秘書の背中を見送りながら、オペレーターは依頼書をほんの少し、ほんの少しだけ目立つ場所に移動させた。

●参加者一覧

篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
九条・葎(gb9396
10歳・♀・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
過月 夕菜(gc1671
16歳・♀・SN
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

●珊瑚礁は全てを見ていた。

 ――珊瑚礁の海。

 そこは色鮮やかな珊瑚礁が広がる水中ステージだった。
 辺りにはイルカや鮮やかな色をした熱帯魚達が泳ぎ回り、時折通り過ぎる大きな鮫に小さな魚が散り散りになっていく。
「へぇ、最近は凝ったもんが作られてるもんだな」
 布野 橘(gb8011) は周辺の光景を見回しながら、感嘆のため息を吐く。自分が今シュミレーターの中に居るとは思えない映像だった。
 布野の正面にWAITINGと言う文字が映しだされている。対戦相手のセッティングを待っている待機状態の様だ。
 ‥‥しばらくして、布野の目の前に一人の女性――篠崎 美影(ga2512)が現れた。
「こんにちわ」
「あ、あぁ。こんちわ」
「ゲームとは思えないほどリアルな空間ですね」
「そうだな、びっくりだ」
 美影は見るものを魅了する様な笑みを布野に向け続ける。
「ハンドルネーム考えてきました?」
 悪戯っぽくそう言うと、布野は頷いて映像の左上隅へと視線を向ける。
 プレイヤー名:布。そしてその名前の横には自分のライフゲージであろう緑色のバーが見えた。
 そして美影のプレイヤー名には『癒しの聖女』と言う名前が刻まれている。
「それでは、よろしくお願いしますね」
 それこそ聖女を思わせる仕草で頭を下げる美影に、布野も居住まいを正し返礼する。
「じゃあ、始めましょうか」
 そう言って美影がすっと手を前に突きだすと、アーカイブ(書庫)と呼称されるカードデッキが映像化された。
 アーカイブは自分の好みの形にカスタマイズ出来、美影が選んだ形状は聖書だった。仕様書の中でも読み飛ばしがちな仕様をしっかり読んでいた様だ。
「まず、私のターンから‥‥みたいですね」
 CPUが決定した先攻判定を確認し、美影はアーカイブからカードを7枚引き抜き手札にする。
 そしてゆったりとした動きで手札から一枚選ぶと口を開く。

 ――来たれ、我を護りし大地の武者達。

 美影の呼び声に応え、海底の砂が、土が無数の鎧武者の如き姿を象った。
 それを見て布野は口笛を吹く。
「ちょっとしたホラーだね」
 まるで操られている様な虚ろな表情で迫りくる鎧武者に顔を引きつらせながら、自らの手札からカードを一枚適当に選ぶ。
(本気でやるのも、大人気ねぇ、よな)
 胸中でそう呟く布野の手札は、全て火属性のカードだ。単一の属性を選ぶ事で、相手に花を持たせようとしているらしい。
 布野が手札から一枚選ぶと火のトカゲへと変わった。
 トカゲは鎧武者へ炎を吐きつけるが、数の暴力というか‥‥布野もろともトカゲは呑みこまれて行った。
「もう終わりですか?」
 そう口にした美影を鎧武者の陰から炎の矢が襲う。
 咄嗟にそれを回避するが、かすめた矢が美影のライフを削った。
 それに応じる様に美影も手札から一枚カードを手に取り唱える。
「天界の光よ、我が要請に応えて――」
 ――しかし、一瞬だけ布野の符術の方が展開が早い。
 炎の刃が海中を切り裂き、美影のライフを大幅に削る。
 最初の炎の矢は美影の判断を遅らせる為のフェイントだったらしい。
「やりますね‥‥」
 美影は素直に称賛の言葉を贈った後、少し意地悪そうな笑みを浮かべ唱える。
「我が傷を汝の血で購え」
 手にしたカードは『血の対価』。自らが受けたダメージの半分を直接相手に叩きこむ闇属性のカードだ。
 発動と共に布野の足元の影が針の様に伸び布野の体を貫く。
「くっ」
「ふふ。‥‥まだまだこれからよ」
 アーカイブからドローしたカードを見て、美影はにこりと笑みを浮かべた。
 『神罰の鉄槌』。
 美影のアーカイブの中でも、最も威力のあるカードである。
「そろそろ決着か。‥‥次の手、行くぜ」
 そう呟く布野の言葉に、どこか余裕を感じるのは今の手札にこの形勢を覆せる切り札があるのかもしれない。
 ならば‥‥と、美影は考える。
「『神罰の鉄槌』。――潰されて光になりなさい!」
 美影の後ろに見上げるほどの光の巨人が現れ、その手に握る鉄槌を振り下す。
 しかしその動きは戦闘と言うには緩やかで、相手にその鉄槌を下すまで僅かながら時間があった。
「符術発動! アトミックバァァアアン!!」
 その隙を見て布野が叫ぶと、全てを焼き尽くす灼熱の炎が光の巨人を襲う。
 対象の符獣一体を墓地へと送り、さらに相手プレイヤーにダメージを与える、火属性の符術だ。
 しかし、美影は口元に笑みを浮かべたまま宣言する。
「トラップカード発動! 『法の守護者』――」

 ――攻撃符術は『法の守護者』の効果によって打ち消される。

 美影はびしぃっ! と布野を指さす。
 同時に全てを灰にする炎は、雲散霧消する。
「わたしの‥‥勝ちです」
 その言葉と共に、美影は布野へと神の鉄槌を下した。

●熱く燃え上がる魂。
 戦火の残る市街地。
 未だ消えない炎がその戦場の激しさを想起させる。
 その焦土と化した戦場ステージでは、二つの影が熱い戦いを繰り広げていた。
「私のターンドロー! 『恒星獣バーニングイーグル』召喚! アタックだっ!」
「符術『巻き戻された時計』発動。対象の符獣一体をプレイヤーの手札に戻す」
「対抗符術『改変される符術』、使用された符術の対象を変更出来る。対象は『聖なる亀』を指定! さぁ、手札にもどして!」
「対抗符術『よそ見する猫』発動。対象の符術はこのカードの効果によって、この場に存在しないものとなりゲームから取り除かれる。対象は『改変される符術』。つまり――」

 ――『巻き戻された時計』は通常通り効果を発揮する。

 漆黒のタキシードを身にまとったプレイヤー名:奇跡起こす勝負師――ソウマ(gc0505) は、人差し指を立てながら不敵に笑みを浮かべて言った。
 ヴィジョン化された恒星獣は、プレイヤー名:セブンスター――九条・葎(gb9396)の手札へと戻る。
「くっ、やる‥‥なら、私はこのカードを伏せてターンエンド」
「なら、僕のターンだね。『ツキを呼ぶ兎』召喚。アタックだ!」
「惑星獣プラネットベアーで防御!」
「『ツキを呼ぶ兎』の特殊能力発動! 与えるダメージをランダムで増加させる」
 勝負師の宣言と共に兎が跳躍した。そして小さな兎が巨大な熊を打ち倒し墓地へと葬る。
 一度経験済みのゲームと言う事もあり、ソウマに一日の長があると言えるだろうか。
 葎の場には一体の符獣もおらず、プレイヤーを守る盾になるべき壁がない事だ。悉くソウマの符術や符獣の特殊能力で墓地へと送られている。

 ――絶対に負けられない勝負では、絶対に負けないんですよ。僕は。

 不敵にそう言って笑いターン終了を宣言した。
「私のターンドロー! ‥‥符術『メテオストライク』。プレイヤーに直接ダメージを与え、バーニングイーグルを防御状態にしてエンド」
 直接プレイヤーにダメージを与える事で、初めてソウマのライフが削られる。
 しかし――

 ――僕のターン。『不死なる白蛇』召喚。

 その呼び声に応え、透き通るような鱗を持った美しい大きな白蛇が召喚される。
「『不死なる白蛇』の特殊能力発動!」
 宣言されたと同時にソウマの受けたダメージがMAXまで回復した。
「やはり幸運の星は僕の頭上に輝くみたいですね。低確率でライフが回復すると言う特殊能力だったんですが‥‥」
 御覧の通り。と言う風に自分のライフを示す。そして葎の符獣へ攻撃をしてターンエンド。
 そして葎は自らのドローフェイズで、思わず歓喜の声を漏らした。
「来た! 悪いけど、セブンスターを名乗る私に幸運の星は輝いたみたいよ?」
 不敵に笑い、葎は今引いたばかりのカードを頭上に掲げた。
「集いし星の煌きが天命砕く覇をなさん! 現れよっ! 流星獣! シュゥゥティングゥ、スタァァレオンッ!!」
 それは巨大な獣。全ての星を支配し、全ての星を喰らうもの。
「こいつの特殊能力は、墓地に送られた星獣と名のつくカードをゲームから取り除く事によって追加行動を得るの。星喰らいの巨獣。勝負師さんの幸運の星ごと食いつくしてあげるっ!」
 墓地に送った星獣は何枚だっただろうか。ソウマは歯噛みしながら思い返す。
「撃ち砕け! シューティングスターストラグル!!」
 星喰らいの獣が咆哮と共にソウマを襲う。
 ソウマが従えていた符獣も悉く流星獣に食いつくされ、ソウマもろとも流星獣が呑みこんでゆく。
 巨獣の蹂躙が終わった後、呆然と葎は呟いた。
「嘘‥‥でしょ?」
 葎の視線の先には――僅かにライフを残したソウマが立っている。
「‥‥一回だけ反射したんですよ」
 『聖なる亀』の特殊能力である、低確率で攻撃を反射する能力が流星獣の一番最初の攻撃を跳ね返した。そのたった一回分のダメージがソウマがまだ立っている理由だった。
 よく見れば葎のライフもかなり削られている。
「貴女は強いよ。だから、だからこそっ! 僕は今、誰よりも強くッ! 貴女に勝ちたいと想っているッ!!」
 その叫びと共に一体の符獣を召喚した。
 『禍福招く猫』。
「このカードの特殊能力はコイントスをして、表か裏かで相手か自分に直接ダメージを与えます。そのダメージは今の貴女のライフを削るには十分だと思います」
「それで勝負を決めるって事?」
 ソウマの言葉に葎が不敵に笑って言うと、「ええ」とソウマも笑顔で返した。
「面白いじゃないっ! どっちに幸運の星が輝くか勝負ね」
 勝負を受けた葎にソウマは礼を良い、その運命のコインを弾いた――。

●当然の様に有り得る事。
「何かね?」
 森尾――いや、森皇 凱は、マントの裾を掴む秘書に向かって訝しげにそう言った。
「何をなさるつもりなんですか?」
「デュエルに決まっているだろう?」
「いえ、テストは傭兵達に」
「いや、しかし‥‥」
「しかしじゃありません」
「で」
「でもじゃありません」
「あ」
「諦めてください」
 一つ残ったデュエルポッド(商標登録中)に入り込もうとしていた凱を、秘書は沈黙のまなざしで睨みつけていた。
「だって、みんな楽しそうなのに‥‥寂しいじゃないか」
 子供か。とりあえず鈍器で殴って黙らせておいた。

●野良猫と魔術師。
 上も下も分からなくなる様な浮遊感が二人を包んでいた。
「にゃーん! プラネタリウムみたい」
 戦場の野良猫こと過月 夕菜(gc1671)は辺りを興味深そうに見回しながら言った。
 闇が支配する宇宙ステージだ。感じている浮遊感は視覚効果によるものだろうか。
「凄く良くできてますねー」
 色の魔術師――和泉譜琶(gc1967)も同じような感想を漏らす。

 ――WARNING

 二人の決闘者の目の前にそんな赤い文字が浮かぶ。
「うにゃにゃっ!? これなんだろふわちゃ‥‥今はなんて名前なんだっけ?」
「色の魔術師ですよ〜。なんでしょうね、これ」
 赤い文字を見つめる夕菜が、譜琶に聞くが首を傾げる。

 ――BATTLE ROYAL MODE OPEN

「ばとる‥‥ろいやる?」
 夕菜がオウム返しに口にしたその時、高々と笑い声が響いた。
 その声に振り向くとそこには黒衣にマント、そして仮面を付けた――
「変態だっ!」
 まさに夕菜の言う通りである。
「これはテストだからな。色々な機能の確認をせねばならないのだよ」
「バトルロイヤルモードというのは?」
 譜琶の問いに嬉しそうに頷く黒衣の男――森皇 凱。
「バトルロイヤルモードは複数人での同時の戦いになる。三つ巴の戦いをしても良いし、協力して一人を倒す事も可能だ。そして最後の一人になるまで戦うのだ!」
 腕組みをしながら説明する凱を傍目に、夕菜と譜琶は目を合わせてから頷き合う。

 どーん。

 そんな爆発音と共に森皇 凱はお星様になった。
「こんなエフェクトまであるんですねー」
 宇宙を飛翔していく凱を見送りながら譜琶が感心したように漏らす。
 そして夕菜の方に向き直り口を開いた。
「それじゃ始めましょうか野良猫さん」
「うにゃん! やるからには勝つよ! 魔術師さん」
 お互いのHNを呼びあってから、二人は笑みを交わした――。


 ――ドロー! 符術『ブラックホール』を発動〜!

 譜琶の呼び声に応え、星が散らばる宇宙に漆黒の穴が開く。
 対象の光属性の符獣を無条件で墓地へと送る闇属性の符術である。
 暗黒の穴の中に、夕菜が召喚した符獣『威圧する白猫』が呑みこまれて行く。
「クロ、黒、ブラック、どんどん広がれ〜! 暗いのが怖いなんて言いませんよね?」
「むむぅ‥‥まだまだこれからですよ! 『幻惑する蒼猫』召喚!」
 謡う様に語る譜琶に、悔しそうに夕菜は次の符獣を召喚し攻撃を仕掛けた。
 それに対抗し譜琶も符術「人魚姉妹」を発動させる。妹人魚が竪琴をつま弾くと、聞き惚れる様な美しい音色が辺りを包んだ。
「にゃにゃー! 『幻惑する蒼猫』には精神攻撃はきかないよっ!」
 夕菜の言葉通り、蒼毛の猫は音色に魅了される事なくプレイヤー本体へと飛びかかる。
 その爪が譜琶に届く直前、その前に一人の老騎士が現れその爪を受けた。
「『明星騎士』召喚ですー! 騎士さん、私を護ってくださいねー?」
 召喚された時点では、どこかドン・キホーテを彷彿とさせた老騎士は、蒼猫の爪を受けた瞬間、立派な鎧を着込んだ若い騎士へと変貌する。
 護ってくれた騎士に礼を言うと同時に、譜琶は次のカードを手にしている。
 手にした札は一枚の大きな羽へと変わり、譜琶の手の中に収まった。
「んん〜♪ 行きますよー避けられますかね?」
 そう言って羽を一振りすると、風切る音を伴って無数の羽が夕菜を襲った。
「残念ながら予測済みだよ〜♪ 対抗符術『誘惑する黒猫』発動。その符術は黒猫を対象にしなきゃいけない」
 直接プレイヤーにダメージを与える符術を『誘惑する黒猫』が肩代わりしたのだ。
「なら、これならどうですか?」

 ――符術「真朱の菊華」発動。

 その言葉と共に暗い宇宙空間に小さい火花が華開く。
 それはまるで菊の華のようで。
「縁起が悪いとか言われますけれど…花言葉、素敵なんですよ?」
「にゃにゃっ!?」
 驚きの声を上げる夕菜を、炎の菊華の様な小さな火花は一つ、また一つと増殖して飾り立てて行く。
 そして、その花が全て咲き誇った時、夕菜のライフは0になっていた。

 ――真朱の菊華の花言葉は‥‥愛情なのかな? 色的に。

 真朱に染まった宇宙を見ながら、譜琶はそんな事を呟いた。
 
●いや、これはそういうプレイじゃないですよ?
「皆さんのお陰でかなりまとまったデータが取れました」
 秘書はポッドから出てきた傭兵達にそう礼を言った。
 しかし、傭兵達はそんな礼もそこそこに、あそこであれが間に合えば、とか、あのカードもう少し使い勝手が良ければ‥‥など口々に意見を言っている。
 まだまだ今後の開発に役に立つ意見が聞けそうである。

 ――なんとか出来るかもしれませんね。社長。

 秘書は先程殴り付け、手錠をかけてポッドの中に閉じ込めておいた社長に心の中で語りかける。

 もちろん。このカードゲームはそう言う遊びじゃないですよ?