●リプレイ本文
●集合後・移動開始
「本日は誠に有難う御座います。ナビゲーターを務めさせて頂きますオレアルティア・グレイです」
人が9人乗っているにも関わらず、広々とした車内でセブン&ジーズ社社長、オレアルティア・グレイが微笑みながら一礼する。
「到着まで時間が御座いますから、お飲物で気を鎮めてからお話しましょう」
「ご丁寧に有難う御座います」
同じく頭を下げた鬼道・麗那(
gb1939)を見て、同じ様に頭を下げたのは『闇生』の霧島 和哉(
gb1893)とGIN(
gb1904)、嵐 一人(
gb1968)に沙姫・リュドヴィック(
gb2003)、そして文月(
gb2039)だ。
「ふぅん。見事な銀食器じゃあないか。これも社長さんの所の?」
エクセレント秋那(
ga0027)の言葉に、微笑みを絶やさず頷くオレアルティアを見て、優(
ga8480)がほぅ、と息を吐いた。
「優美なラインですね‥‥デザインはやはり専属の方ですか?」
「いいえ? 当社の製品全て、デザインは私が担当しております」
「へぇ‥‥社長さん‥‥そんな事も、するんだ‥‥」
霧島が銀のカップを持ちながら呟いて、ちらりと嵐の方を見やった。
意味深な視線に、嵐が一瞬びくりと体を硬直させる。
「な、何だよ霧島」
「ううん‥‥別に‥‥山葵味とか‥‥そんな事はない、から‥‥多分‥‥」
「多分!?」
「一人おっもしろーい! 百面相〜!」
ぎょっとした様にカップから口を離した嵐を見て、沙姫が声を上げて笑う。
「‥‥会長、止めなくていいんですか?」
文月の言葉を受けた鬼道が、優雅にカップを傾けながら微笑を浮かべた。
「今はまだ。社長さんが切り出すまで待ちましょう」
「悠長ですね‥‥」
GINが肩を落としながら呟く。
道程はまだ長く。車内は和やかな空気を保っていた。
●最新情報
「それじゃ、一番新しい情報から聞かせてもらおうか」
秋那の言葉に、全員の纏う空気が一気に変わる。
――即ち、臨戦態勢へと。
「畏まりました。この情報は、弊社の有能な調査員によるものですので、間違いはないと申し上げておきますわね」
カップを簡易テーブルへと置き、傍らのアタッシュケースから数枚の書類を取り出したオレアルティアが、全員に1枚ずつ配っていく。
「周辺地図、ですか?」
問い掛けたGINへと、女社長は微笑みながら頷く。
「えぇ。最新の出現予測ポイントの印された現地地図で御座います。赤で塗り潰された部分が、今回の悪戯坊や達――即ち、2体のキメラとの戦闘予測ポイントとなります」
「結構範囲が広いんだ」
赤で塗り潰された部分の広さに、沙姫が眉を寄せながら呟く。
「鳥だから‥‥かな? ‥‥まぁ、とにかく‥‥焼鳥にすれば‥‥」
霧島が物騒な事を口にする。
耐性のある闇生はいいのだが、秋那と優は目を見開いて絶句してしまう。
「ま、まぁ、気にしないでくれ」
フォローを口にした嵐へと視線を向けて、2人は困惑した表情のまま取り敢えずはと頷いた。
「通行量はどの程度あるのでしょうか」
鬼道の質問に、オレアルティアは微笑みを浮かべたまま。
「ご安心下さい。戦闘が終了するまでの間、閉鎖しておりますから、人や車等の通行は一切御座いません」
こちらも爆弾発言である。
仮にも公道であろう道を、閉鎖。
「一体どんな手を‥‥」
小さく呟いた文月に、にこりと笑みを向けた女社長は、更なる爆弾を投下する。
「私は盤を見回すだけの女王が大嫌いですの。やはり、部下を動かすにはまず自身から動いてみせなければ、ね‥‥?」
その笑みを受けながら、今回の依頼を受けた能力者達の殆どが。
(「この人、実はすっごい黒い‥‥?」)
と、全く同じ事を心の中に浮かべたのだった。
「厄介な所は、鳥故に翼を持つ事と、攻撃して来るタイミングがバラバラだ、という所でしょうか」
「なら、翼を落とす事が第1段階ですね」
優の言葉に、頷く女社長。
「何よりも優先されるのは飛行能力を潰す事。その次がなるべく早め。つまり、敵が単体のうちに撃破する事、になりそうですね」
鬼道がふむ、と何かを考える仕草を見せた後。
「社長さん、一度車を停めて頂いてもいいでしょうか?」
その言葉に、頷いて運転手へと停止の合図を送るオレアルティア。
「キメラの出現時刻は分かっておりますので、数人で先に現場のチェックをさせて頂きます。無線を御持ちの方はチャンネルを合わせて下さいね」
その言葉に、無線機を持っているメンバーがセッティングを開始する。
「先行すんのは俺と会長、沙姫の3人だな」
「そうだね。万が一の移動を考えて、残りのドラグーンには残って貰った方がいいだろうし」
同意して、沙姫は外から開かれたドアから降りる。次いで嵐、そして鬼道も車から降りた。
「あんまり好きじゃないんだよね。子供に戦いをさせるのはさ」
そう呟いた秋那に、大丈夫といわんばかりに手を振る沙姫。
「それじゃあ、何かあれば連絡しますので」
「では、私達は先行する方々を追い越す事のない速度でポイント1km前まで参ります」
オレアルティアと鬼道のやりとりの後。
先発隊の3人はバイク形体のAU‐KVに乗り、出発したのだった。
●先発隊・ポイント地点小道到着
「ここが唯一の隠れ蓑、といった所でしょうか」
難なくここまでやって来る事が出来た鬼道達が、静かにバイクから降りて小道へと入る。
「で、ここでどうすんだ会長」
嵐の言葉に、鬼道はにっこりと微笑みながら周囲を確認して。
「あの木の根元。あそこに簡単なカモフラージュを施して、キメラが確認出来るまで隠れていましょう」
「待ち伏せだねお姉さま。じゃあ、準備は‥‥」
そこまで言って、沙姫は全開の笑みを嵐に向けた。
「頑張ってね? 嵐」
「俺かよ!」
高速のツッコミが入った。
●無線会話
『こちら先発隊、沙姫。キメラはまだ見えないけど、そっちはどう?』
「‥‥こちら、霧島だよ‥‥順調に‥‥ポイントに‥‥向かってる‥‥」
「まだあと少し、到着にはかかりますわね」
『ちょっと待って下さいね。お姉さま、まだかかるみたいー』
『鬼道です。少し急いで頂いた方がいいかもしれません』
『空気が変わった‥‥』
「文月です。それでは、少し予定が狂いましたけど、ここからタンデムでそちらへ向かいます」
「優さん、は‥‥僕の後ろ‥‥飛ばすから‥‥気をつけてね」
「GINさんは社長さんをお願いします。エクセレントさんは私の後ろに」
『‥‥なるべく急いでくれ。勘だが、もう直ぐそこに来てる気がする』
「了解です」
●捕捉
無線会話の後、双眼鏡を覗いていた嵐が小さく呟いた。
「ビンゴ。‥‥おいでなすった」
「どこ? ‥‥ほんとだ、いた!」
嵐から双眼鏡を借りて、示された方を確認した沙姫が小声ながらも僅かに高揚した声を上げる。
「各自、武器のチェックを。万が一こちらを捕捉された場合は、止むを得ません。3人で戦闘を開始します」
鬼道の言葉に頷いて、嵐と沙姫が自身の装備を再確認する。
「願わくば、どうか残りのメンバーが到着するまでこちらに気付きませんよう‥‥」
呟きながらも、鬼道は柳眉を寄せて空を見上げる。
捕捉した、飛行するキメラは、1体。
●到着・戦闘開始
無線を介して声が聞こえてくる。
『あと5分もあれば到着します』
「5分‥‥分かりました。到着1分前に再度連絡をお願いしますね」
『1分‥‥大丈夫ですか?』
「お気遣いどうも。ま、それ位は大丈夫だろ」
数度のやりとりの後、無線の音量を絞った。
「あと4分。あの馬鹿みたいに大きいキメラが私達を見つけなきゃいいけど」
上空で旋回する、キメラが1体。
そして、きっかり4分後。
「んじゃ、先にいっとくぜ!」
瞬時に覚醒し、小道からポイントへと飛び出した嵐が、竜の角を使用して手にしたM‐121の照準を上空のキメラに合わせた。
「こいつは嵐を呼ぶぜ? ‥‥弾丸の嵐だがな!」
小さく息を吸い込み、一気に40発の弾丸をキメラへと放つ。
甲高くキメラが鳴く。だが、致命的な怪我には到っていなかった。
「先走っちゃダメだよ一人」
言いながら、自身も覚醒した沙姫がアサルトライフルを手に小道から駆け出す。
竜の瞳を発動させ、照準をキメラの翼へと合わせて、引鉄を引いた。
能力を使用して発砲された弾丸は、確実に翼へと着弾したが。
「えーっ! どんだけ防御力高いのよー!」
打ち抜けなかった事に腹を立てる沙姫の後方から、覚醒した鬼道が眉を顰めながら呟く。
「リンドに飛翔能力がないのが忌々しいわね‥‥」
言って、手にしたスパークマシンをキメラへと向ける。
竜の爪を使用し、威力の上がった電磁波がキメラを襲う。
3人の攻撃を受けて、確実に彼等の位置を把握したキメラが、もう一度甲高く鳴く。
「ちっ!」
発見された事に舌打ちをして、嵐をはじめ3人が身構える。
キメラの口が開き、そこに大きな炎の塊が生まれ、圧縮されていく。
回避行動へと移ろうとした、次の瞬間。
空を裂く、発砲音が後方から響いた。
「到着‥‥だよ」
発砲音の元は到着し、覚醒したばかりの霧島のものだった。
竜の爪を使用して、アンチシベイターライフルから放たれた弾丸は、キメラの動きを瞬間止める事に成功した。
「皆様、そろそろ始業のチャイムですわ」
それを確認した鬼道が、声をあげ。
先行していた3人が回避行動を取る。
「Tes. ‥‥1分切りましたか? 間に合ったならいいんですが」
同じく覚醒したGINがアサルトライフルを上空のキメラへと向ける。
竜の瞳を使用して、弾丸を放つ。狙いは飛行に絶対必要な翼。
今までの翼へのダメージに加えて、GINの放った弾丸が功を奏し、片翼が鈍ったキメラの高度が下がった。
「そのまま落ちてくれると嬉しいんですが」
覚醒し、文月が真デヴァステイターの引鉄を引く。
落下の最中に喰らった攻撃のおかげか、キメラは相当高度を下げていた。
「戦いでもプロレスでも空中戦は苦手でね! 地べたに這い蹲ってもらうよ!」
ニヤリと笑い、覚醒した秋那がキメラの懐へと潜り込み、ロエティシアを閃かせる。
近距離の攻撃に、反撃を返そうとしたキメラを確認すると、瞬天速で一気に距離を取って攻撃を避ける。
「刀の間合いのうちに削らせてもらいます」
月詠を構えた優が、瞬時に覚醒し、キメラへと接近する。
流し斬りを使用した一閃がキメラを襲う。
何度目かの甲高い鳴き声。キメラは完全に地に落ちていた。
だが、キメラも負けてはいない。
口を開き、勢い良く炎の塊を吐き出した。
塊の行く先は、キメラに迫っていた近距離戦担当の秋那と優。
咄嗟の回避が間に合わなかった優が、武器で攻撃を受け流そうと行動を変更しようとした次の瞬間。
優に一番近かった嵐が、彼女の前へと飛び出した。
「AU‐KVの装甲はこういう時のためにあるんだからな!」
嵐と優、そして秋那へと炎が襲い掛かる。
「優さん! 秋那さん! 嵐さん!」
文月の声が響く。
「大丈夫だっ!」
傷を負いながらも大声をあげる嵐と、彼に庇われた事でダメージを軽減出来た優、回避して直撃を免れた秋那を見て、残りのメンバーがほんの少し安心した様に息を吐いた。
が、次の瞬間。
どこか剣呑な雰囲気の笑みを浮かべ、周囲の警戒を行なっていたオレアルティアが、鋭く一声叫んだ。
「上!」
はっ、と上空を見上げた全員に。
上空から、再び炎が襲い掛かった。
●乱戦
「2体目‥‥!」
GINの声に、攻撃を加えられた全員が其々唸る。
鬼道は瞬時に全員の立ち位置と1体目のキメラ、2体目のキメラの高度を計算し、頭の中で弾き出された最善策を声を張り上げ口にする。
「秋那さん、嵐さん、沙姫さんは1体目にトドメを! 後の皆さんは2体目へ!!」
言いながら自身の武器を2体目へと向ける。
「しつこい奴は嫌われるよ!」
先手必勝を使用し、1体目の懐へと滑り込んだ秋那が、ロエティシアを閃かせて瞬天速で間合いを再度取る。
次に走り込んだ嵐が、竜の角を使用しながらガトリングの引鉄を引いた。
斬撃と近距離からの40発の弾丸によって、残った片翼と共に体力も落としたキメラは、炎を吐く力もない。
弱ったキメラへとトドメを刺したのは沙姫だ。
「終わらせて次に行くよっ!」
武器を携帯していたツヴァイハンダーへと変更し、竜の爪を使用して一気に上から下へと打ち下ろす。
絶叫、と形容するに相応しい鳴き声を響かせ、1体目の動きが完全に止まった。
「さぁ、残るは1体ですね」
GINが竜の爪を使用して、2体目のキメラの翼へと攻撃を加える。
畳み掛ける様に、文月も竜の爪を使用して同じ翼へ攻撃する。
「皆さん、平衡感覚を失わせるんです!」
声を上げて頭部へと照準を合わせた鬼道が、竜の爪を使用して強化された電磁波をキメラへと放つ。
体勢が崩れ、高度を下げたキメラを確認して、優が武器を振りかぶった。
「間合いの外からでも、攻撃は出来るんですよ」
ソニックブームを使用した衝撃波が、キメラの飛行能力を奪う事に成功すれば。
落ち始めたその地点に走りこんでいたのは、装備をイアリスへ変更した霧島だ。
「手羽先‥‥頂く、よ」
竜の爪を使用し閃く銀の軌跡が、キメラの片翼を削ぎ落とした。
甲高い鳴き声が響く。
「皆様に怪我を負わせたその罪、償いなさい悪戯坊や。私も能力者ですのよ?」
不敵な笑みで愛銃の照準をキメラに合わせたのは、この戦闘で初めて攻撃行動を起こしたオレアルティアだ。
鋭覚狙撃を使用した弾丸が、キメラの腹部へと吸い込まれる様に放たれる。
「社長さん、なるべくそこから動くなよっ!」
嵐が声をかければ、微笑みを浮かべたまま頷く女社長。
ダメージで行動が遅くなったキメラが、炎を吐こうと口を開くが。
「遅い!」
瞬天速を使用した秋那が、キメラへ肉薄して両手の武器を閃かせる。
攻撃する暇も防御する暇も、キメラには与えられなかった。
GINが後方から狙撃で、優がソニックブームの衝撃波でキメラの足を止め。
「闇黒衝竜波ぁぁ!」
叫びながら鬼道が、竜の角を使用した攻撃を畳み掛ける。
そして、武器を携帯していた機械剣へと持ち替えた嵐が、竜の翼を使用して一気に接近し。
「これで終わりだ‥‥!!」
まさに一刀両断。
絶叫を上げる事すら出来ず、2体目のキメラも地に伏し動かなくなったのだった。
●戦闘終了のその後は
「おやつは‥‥やっぱり、焼鳥‥‥」
「霧島さん、もう山葵には何も言いませんが、その鶏肉は何処から?」
「キメラの肉なんて食えたもんじゃないと思うけどね」
「社長さん、疑問なんですが。オレガノ嬢のスタイルは彼女の趣味なんでしょうか、それとも実は社長の?」
「にしても、この間といい災難だよな。バグアも銀が好きだったり、逆に嫌いだったりすんのかね?」
「ハロウィンが近いですから、銀の需要も上がるでしょうね」
戦闘が終われば、空気は和やかなものになり。
「‥‥楽しそうですわね」
その様子を眺めながら、女社長はいつも通りににっこりと微笑んだのだった。
END