●リプレイ本文
●小さな開発責任者
指定された集合地点へとやって来た能力者達の前に現れたのは、ダボダボの白衣が特徴のサイエンティスト、ヴォルフガンクだ。
「僕はヴォルフガンク。グロリア改のデータを採らせてもらうから。よろしく」
小柄な彼を見て、真っ先に声を上げたのはクロスエリア(
gb0356)だった。
「‥‥か、可愛い〜! こんな可愛い子がガンスミスなの? ‥‥お持ち帰りしたい」
そう言いながら、ぎゅっと小柄なサイエンティストを抱きしめる。
「エリアさん‥‥ずるいですよ」
そんなクロスエリアとヴォルフガンクを羨ましそうに見つめているのはフィルト=リンク(
gb5706)。
彼女の視線は、小さな科学者から動かない。
「いや、和んでる場合じゃないと思うんですけど」
「ミッション完了後が怖い気がするなぁ‥‥」
若干引き気味なキムム君(
gb0512)と周太郎(
gb5584)が、冷や汗を流しながら2人を眺めている。
「任務に支障がなければ気にしなくても‥‥いい、のだろうか‥‥」
「何か、妙な連帯感を持ちそうだぜ」
哀れみの目でヴォルフガンクを見て溜息を吐いたのは、天龍寺・修羅(
ga8894)と嵐 一人(
gb1968)だ。
「エリア氏もフィルト氏もそこまで。あとはミッションを完了させてからにしてくれるか」
「銃の説明も受けなきゃならないしね」
こほん、と咳払いをして2人を止めたヴィンセント・ライザス(
gb2625)の側で、呆れた様に肩を竦める黒崎 夜宵(
gb2736)。
「仲良しになる事はいい事ですけどねー」
おっとりと笑みを浮かべながらそう言ったのは澄野・絣(
gb3855)である。
残念そうにヴォルフガンクを離したクロスエリアを確認して、声をかけたのはベーオウルフ(
ga3640)だ。
「前回、試射したのは半年前だからな。感覚を思い出せればいいんだが‥‥」
彼は以前、グロリアの試射を受けたことがある唯一の人間だ。
ずれた白衣と眼鏡を面倒臭そうに直して、ヴォルフガンクはくるりと反転する。
「目的地付近までは車で行くから。銃の受け渡しも、車内でするよ」
スタスタ歩いていくその先には、黒光りする1台の車。
マイペースな科学者の後を全員で追いかける所から、この依頼は開始されたと言ってもいいだろう。
●到着
ミルフォード・ヘイヴンにあるS&J社の倉庫。その前で車は停まった。
全員が外に出た所で、ヴォルフガンクが大きすぎる白衣をはためかせながら口を開く。
「僕は別の場所でデータ収集するから。渡したのが、今回きみ達に使ってもらう『グロリア改』だよ。キメラの出現時間まで、大体あと5分あるから、その間に慣れておいて」
淡々と告げて、メンバーとは違う方向へと向かっていくヴォルフガンクを見送り、各々が手にした銀色の銃を眺める。
「綺麗な銀色ね‥‥。さすが、銀の扱いはお手の物かしら?」
夜宵の感想通り、手渡されたグロリア改は美しい銀色だった。
「相変わらずの大きさだが、後は実践で試してみるしかないだろうな」
夜宵とベーオウルフの言葉に、全員が頷く。
「出現ポイントは分かってますから、作戦通り3班に分かれて待機しましょう」
時計に目をやりながらフィルトはそう言って、呼び笛を一度鳴らした。
「合図はこの笛で行います。各班の持ち時間は30秒。無線機を持っている人は周波数を合わせて、常に連絡を取る様にして下さい」
無線の周波数を合わせ終わり、其々の班が行動を開始する。
「俺達はこの倉庫の屋上だな」
「オッケー。それじゃ行こうか」
「はい。精一杯頑張ります」
屋上班。偵察と牽制担当のヴィンセントと絣、クロスエリアが倉庫の中へと入っていく。
「俺達は先にポイントに行ってるから、天龍寺さん達は少し後方で待機をお願いします」
周太郎の言葉に、修羅とベーオウルフ、一人が頷いた。
1班。先発戦闘組のキムム、夜宵、周太郎、フィルトは指定されたポイントへと一足先に向かい。
2班。後発戦闘組のベーオウルフ、修羅、一人が1班を追う様にその後方で待機する。
グロリア改を装備した10人は、覚醒しキメラとの遭遇に息を潜めて待つ事となった。
●リトル・ドラゴン
ヴォルフガンクの言葉通り、おおよそ5分後。
「‥‥来た!」
前方から近付いてくる影に、双眼鏡で警戒していたクロスエリアが声を上げた。
同じ方角をじっと見つめたヴィンセントと絣の肉眼にも、やがてその姿がはっきりと見える様になる。
「あれは‥‥小さいけどドラゴンよね?」
絣の言葉に、ヴィンセントが無線を取り出して通話オンのスイッチを押した。
「こちら屋上班。南方向にキメラを確認した。そっちもそろそろ確認出来るだろう」
僅かなノイズの後、聞こえてきたのは1班の周太郎と2班の修羅の声。
「1班了解。今、視認した。30秒後にグロリア改を使用した戦闘に入る」
「2班了解。後方で待機中」
そして、周太郎の声がしてぴったり30秒後。キメラの体が、グロリア改の射程に入ったその瞬間。
実践という名の、最終テストが始まった。
●Gloria
「運に頼るのはあまり好きじゃないけど、おまじないみたいなものね」
GooDLuckを使用した夜宵が、手にしたグロリア改の照準をキメラの翼へと合わせる。キメラまで距離は30mほど。
Sアクションでまずは1発。跳ね飛ぶ空薬莢。
突然の攻撃に鳴き声をあげるキメラを見て、もう1発同じ箇所を狙い撃つ。
「うん。命中率はいいわ」
夜宵が動作を終えたのを確認して、次にグロリア改を構えたのは周太郎だ。
「いきなり本番か‥‥行くぞ、グロリア」
呟くと、Dアクションを使用し、キメラの関節部をわざと大雑把に狙って、僅かに重いトリガーを2度引く。キメラまでの距離は20mほど。
1発目は見事に関節部へと着弾したが、2発目は僅かに外れて着弾したのを確認して息を吐く。
「成程。確かに他の銃器に比べて『トリガーが重い』な」
事前にヴォルフガンクから告げられていた改良点に小さく頷く。
「では、はじめましょう」
言って、グロリア改を手に、キメラから30m離れた場所から翼へと狙いを定めたのはフィルトだ。
「命中精度を生かす為にはSアクションが一番、という事ですね」
ハンマーを引き起こし、Sアクションで1発。キメラの鳴き声をBGMに、再度Sアクションで1発。
30m離れた場所から狙撃したというのに、確実に狙い通りの場所へと着弾している。
「ただし、攻撃力はいまひとつ」
そこで初めて、キメラが高度を下げ、鋭い爪を使った攻撃を仕掛けようとするが。
攻撃対象となったキムムは、僅かに口角を上げて見せたまままだ動かない。
「夢見幻想と拳銃。調和か、不協和音か。さぁ、如何‥‥」
呟いて、キメラの爪があと少しで触れる、という瞬間に身を翻す。
「惑え、夢幻踏」
キメラの予想とは全く違った方へ、フェイントを交えたステップを使用して回避すると、手にしたグロリア改の引き金を、Dアクション使用状態で引いた。
近距離からの射撃に驚き、痛みに鳴き声をあげながら一気に上昇するキメラ。
「思う様な高度は与えない」
周太郎が続いてSアクションで1発、更に1発。関節へと確実に着弾させる。
「逃がすか」
その間にハンマーを引き起こし、Sアクションでスタンバイさせていたキムムが同じく1発ずつを左右の翼へと撃ち込む。
その後方でグロリア改を構えた夜宵が、ぽつりと呟く。
「今度は、手加減なしでいくわよ」
強弾撃を使用し、攻撃力を上乗せした状態でDアクション。
2発の弾丸は僅かな時間差を生みながら、キメラの武器である鋭い爪の生えた足を撃ち抜いた。
甲高い悲鳴が、空薬莢の飛ぶ音を掻き消す。
「あと10秒で交代です」
ちらりと時計に目をやって、フィルトは再びグロリア改のトリガーを引く。
Sアクションで1発。もう片方の足へと着弾するも、その足の爪はまだ攻撃力を残したままだ。
「さあ。残弾全て叩き込むわよ」
夜宵がDアクションで残弾2発を翼目掛けて放つ。着弾。しかしダメージは低い。
「けど、確実にダメージには繋がってますよね」
フィルトも同じく残弾2発をSアクションで足を狙い撃つ。着弾。言葉の通り、ダメージは低くとも確実に与えられている。
「さて、そろそろか」
呟いて、キムムもグロリア改に残された残弾2発を、Dアクションで夜宵が狙った方の翼へと撃ち込む。
「交代する。援護を」
無線機を通して屋上班へと連絡を入れた周太郎も、残弾全てを撃ち込んだ。
その直後。甲高い ――フィルトの呼び笛が、港に響き渡った。
「さ、援護に移るよっ!」
40m程離れた屋上。クロスエリアが、手にしたグロリア改の照準をキメラの翼へと合わせる。
発砲。Sアクション。1発。
狙い通り、翼へと着弾したのを確認して、少し驚いた様な表情で手にした銃を見て呟いた。
「凄い。この距離からこれだけの命中率?」
「1班と2班が合流します」
下をちらりと確認した絣が、Dアクションでキメラへと威嚇射撃を行う。
「高度を取られると厄介だな。牽制させてもらおう」
ヴィンセントも同じくDアクションで、これ以上の高度を取らせない様に翼を狙う。
空薬莢がコンクリートに落ちる音と、キメラの忌々しげな鳴き声が響いた。
40m以上離れていれば、キメラの攻撃はこちらまで届かない。
「1班と2班、合流したね。2班が移動中だよ」
直接攻撃班の様子を的確に把握しながら、絣はSアクションで両翼へと1発ずつを射撃する。
「こっちの残弾は4‥‥これで2、だね」
Sアクションで確実に両翼を撃ち抜きながら、絣が呟いた。
「抑制にならDアクションで充分でしょ」
地上メンバーの射程から出さない様に、クロスエリアが放った銃弾は翼上部を掠める。
僅かに高度を落としたキメラを確認して、満足そうに笑う。
「精密射撃でなければ心配はいらないね」
「的が大きければ、もっと命中率が上がるかもしれないよね」
クロスエリアと絣の会話に被さる様に、無線から声が上げる。
「2班、ポイントに到着。準備完了した」
「了解。あと2発で援護射撃を一度中止する」
修羅の言葉に、ヴィンセントが応えてDアクションで2発、キメラへと撃ち込む。
一瞬止む、空薬莢の跳ねる音。
それを確認した修羅が、無線に向かって声を上げた。
「2班、狙撃開始する」
「これまでの攻撃で、敵は爪以外に目立った攻撃手段を持ってない事が分かったな」
小さく呟いて、ベーオウルフがグロリア改を構える。
ハンマーを起こし、Sアクションで1発。再度ハンマーを起こし、Sアクションで同じ場所を的確に撃ち抜いた。
鳴き声と共に、更に高度を落とすキメラだが、まだ他のメンバーの剣射程には入らない。
「確実に体力は減っている。地に落ちるのも時間の問題だろう」
無線からグロリア改へと意識を集中させた修羅が、Dアクションでベーオウルフが狙った方の翼へと攻撃を仕掛ける。
攻撃を受けたキメラが、甲高い鳴き声と共に急速に高度を下げ、残った爪を一人へと向けるが。
「甘いぜ」
瞬時に身を翻して回避した一人が、両手で構えたグロリア改の照準を上昇行動へと移ったキメラに合わせる。
Dアクションで発砲されたそれは、今まで他のメンバーが行ったDアクションと僅かに違い、命中箇所が近付いていた。
「確かに、両手で支えれば銃の反動も少なくて済む」
ベーオウルフが呟きながら、Sアクションで的確に弱った翼へと更にダメージを与え。
「落ちるか‥‥こちら2班。そろそろ敵が地に落ちるぞ」
翼に与えられたダメージが蓄積してきたのだろう、高度を下げ続けるキメラを見据えて、修羅が無線へと声を投げる。
Dアクションで2発、キメラの翼を撃ち抜いた。
遂に片翼が使えなくなったのだろう、高度を一気に下げたキメラへと、竜の翼を使用して肉薄したのは一人だ。
「攻撃力が低くても、零距離で撃ち込まれればどうなるだろうな!」
そのまま竜の爪で攻撃力を上乗せし、Dアクションで2発放つ。
甲高い鳴き声と、空薬莢の落ちる音。
遂にキメラが、剣の射程にまで身を落とした。
「2班、キメラを地に落とした。止めにかかる」
「1班了解。キメラをグロリア改の射程に入れた」
答えはキメラから50m離れた場所にいる周太郎から入った。
無事な片翼をばたつかせるキメラを屋上から確認して、絣が声を上げる。
「逃がさないわよっ! 地面で大人しくしてなさい!」
リロードの完了したグロリア改と愛銃のラグエルを其々手にし、強弾撃で威力を上げ更に二連射で畳み掛けた。
同じくクロスエリアとヴィンセントも、高所から銃撃を浴びせる。
他のメンバーも間を置かずに銃弾を放ち、前衛メンバーの援護を続け。
「刀の間合いなら俺達の有利だ」
武器を屠竜刀イルディザへと持ち替えたベーオウルフが、瞬天速でキメラへと接近し、急所突きを使用して一気に腹部を裂く。
その直後。武器をロングソード『パラノイア』へと変更した周太郎が一気に駆け込んだ。
「これで‥‥どうだッ!」
スマッシュで剣戟を上げ、円閃を使用し、体を翻す。
加速とスキルの上乗せで勢いの上がった周太郎の剣は、見事にキメラを貫いたのだった。
●まさかの
「ありがと。きみ達のおかげでグロリア改の実践データも採れたよ」
戦闘終了後、姿を現したヴォルフガンクが、クリップボードにデータを書き込みながら呟いた。
「俺の夢見幻想との相性も悪くなかったな」
「しかし、覚醒状態で使用する確立が高い故、練力消費が大きいのは致命的であるな」
「分かった。参考にさせてもらうよ。そのグロリア改も、使い込めばそれなりになる」
キムムとヴィンセントの言葉に、頷いて返答するヴォルフガンク。
「その銃はきみ達にあげるから、好きにして‥‥」
言葉の途中、じっと自分を見つめてくる視線に彼は首を傾げた。
「何?」
視線を送っていたのは、クロスエリアとフィルト。
そう。出発前に、彼の事をとても気に入っていた2人だ。
「ねぇねぇ。銃もいいけど、ヴォルフガンクくんも可愛いよね〜! あ、ヴォルフくんって呼んでもいい?」
「エリアさんずるいです。私だってヴォルフガンクさんをテイクアウトしたいですよ」
身長の高い2人に挟まれ、撫で回され始めるヴォルフガンク。
「やっぱりこうなったか‥‥」
溜息を吐いて、そう言った一人に同意する他メンバー達。
しかし、果敢に反抗する者がいた。
「おいィ? 子供を拉致しようとするやつがいますがそれは犯罪なんですが?」
「フィルト待てストップ! 何しようとしてる!」
キムムと周太郎だ。
冷や汗をかきながらも、必死に小さな科学者を救い出そうとするが。
「‥‥何。邪魔する気?」
瞬時に覚醒したクロスエリアが、片手に構えたのは「あげる」と言われた銀色の銃だ。
「ヴォルフガンクさん、もう少しテストしましょうか」
何故か、フィルトの手にも握られたそれに、割って入った2人がどうなったのか。
「僕は20歳。子供じゃないよ」
それは、新たに生まれた空薬莢と、其の場にいた人間のみぞ知る。である。
END