タイトル:時計塔下で愛を叫ぶ?マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/19 00:05

●オープニング本文


 英国のとあるお屋敷で、ちょっとしたハプニングが起きた。
 それは、イギリスにしては珍しい、暖かい気温のある日のこと。

「何事ですか」
 ドタバタと屋敷を駆け回るハウスメイドを叱咤したのは、お屋敷の従業員達を纏める初老のハウス・スチュワード。
「あぁ、大変なんです! ご主人様がいらっしゃらないんです!」
「‥‥また、あの方は‥‥逃げられましたね」
 主人を『あの方』と呼ぶハウス・スチュワードは、主人がまだ子供だった頃からこのお屋敷に仕えている最年長者だ。

 このお屋敷の女主人は、普段は立派な『女社長』として仕事に、そして屋敷では『女主』として過ごしているのだが。
 あるものを切欠に『逃走』してしまうのだ。

「バトラーもフットマンもシェフも、ポーターもガーデナーも、ヤード・ボーイも全員で探しているのですが、見つからなくて」
「それはそうでしょう。あの方はもうお屋敷にはいらっしゃらないのですから」
 呆れた様に呟いて、ハウス・スチュワードは米神に手を当てた。
「全く。相変わらずあの手の招待状はお嫌いの様子ですね」
 そう言いながら、乾いた笑みで姿を現したまだ年若い青年は、このお屋敷のバトラー。
「手紙が届いたのは10日前ですから、その時から逃げ出す方法を虎視眈々と狙っていらっしゃったのでしょう」
 もう溜息しか出ない、とばかりに目を閉じ、米神に当てた手で、そこを揉み解す。
 その姿を見て、ハウスメイドはカタカタと体を震わせた。
 ハウス・スチュワードがこの仕草を見せるのは、相当怒っている時のみ。

 ――つまり、今眼前にいる初老の上司は、とてつもなくお怒りなのだ。

「昨日の夜まではお屋敷にいらっしゃいましたから、そう遠くには逃げていらっしゃらないでしょう」
 バトラーの言葉に、ハウス・スチュワードはふ、と顔を上げた。
 昨日の夜までいたなら、英国からは出ていないだろう。
 考え込むハウス・スチュワードとハウスメイド、バトラーの3人。
 数十分の時間が経過した、その時。
「お嬢様を連れて参りました」
 ナニーが、にっこり笑顔のお嬢様と手を繋いで現れた。
 どうやら今回の逃走劇に、女主人は一人娘を連れては行かなかったらしい。
「オレガノお嬢様。お母様がどちらに行かれたか、お聞きになっていらっしゃいませんか?」
 片手に大好きな兎のゲージを持ったお嬢様は、にっこり笑顔で元気良く頷いた。
「きいてるの。きょうママは、ロンドンにいくっていってたの。ないしょでいくのよ、って」
 何故引き止めて下さらなかったのか。と思ってももう遅い。
「今日はロンドンで何かありましたか?」
「確か‥‥あぁ、ビックベンで『告白大会』とかいうものがありましたね」
 ハウスメイドとバトラーの会話に、ナニーは首を傾げ、ハウス・スチュワードは顔色を変えた。
 まるでリトマス紙の様に青褪めたハウス・スチュワードは、腰を屈めてお嬢様と顔をつき合わせた。
「お嬢様? それで、オレアルティア様は他に何かおっしゃっていませんでしたか?」
 可哀想なほどに顔を青くした初老のハウス・スチュワードに、お嬢様はとどめと言える一言を投下したのだった。
「うん、いってたよ。えっとね‥‥」

『連れ戻したければ、私が連れ戻されてもいいと思う様な告白をして下さいね。
 私は告白大会のあるビックベンのお祭り会場におります。
 ただし、簡単には捕まらない様、私も変装しておりますからそのつもりで。
 貴方方では手が余るでしょうから、譲歩しましょう。
 私に告白する方は、誰でも、何人でも結構ですわ。
 それでは、皆様のお気持ちと、私を見つけて下さる方をお待ちしております。  オレアルティア』

 お屋敷に、使用人達の叫び声が響き渡った。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
藤枝 真一(ga0779
21歳・♂・ER
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
青海 流真(gb3715
20歳・♂・DG

●リプレイ本文

●大会前日・ユーリの場合
 それは、大会前夜の事。
「オレアルティアさんの会社が出してる広報誌とか、依頼の報告書、社員の評価も確認したけど‥‥凄くいい社長さんみたいだ」
 事前に逃走中のオレアルティアについて調べていたユーリ・クルック(gb0255)は、感嘆の息を吐いた。
 会社のパンフレットに載っている写真を見る限り、今回のターゲット(?)である彼女は20歳前後にしか見えない。
「実際、28歳で、娘さんが7歳っていうんだから、驚くなぁ。でも、別に気にする事じゃないか」
 じーっと、穴が開くほど写真を見つめる。
 この依頼を受けるとき、ユーリは何か気になったのだ。
「ひょっとして‥‥これが恋‥‥か‥‥?」
 初めて見たオレアルティアの写真。そして周囲の賛辞の声。
 ユーリにとって、まだ会った事のない女性。
 それなのに、何故か気になってしまう。
 写真の向こう側で微笑む彼女を見て、ユーリは大きく溜息を吐いた。
「あー‥‥。明日に備えてしっかり休もうと思ってるのに、眠れない!」

●大会前夜・流真の場合
「へー。すっごい綺麗なデザインだなぁ」
 手にした銀食器のパンフレットに目を通しながら、青海 流真(gb3715)は宿泊先のベッドに寝そべっていた。
「こんな素敵な商品ばかりなんだもん。社長さんもきっと素晴らしい人なんだろうな」
 パンフレットに載っているオレアルティアの写真を見て、流真はふむり、と腕を組む。
「実際に会った事ないからなぁ‥‥。 『告白』なんて出来ないよ。うそになっちゃうからね。ボク、うそは嫌いだもん」
 ベッドの上で、大きく伸びをひとつ。
「告白するわけでもないし、ようは社長さんが『帰る気になる』のが重要なわけだから‥‥明日の格好はいつも通りでいいよね」
 ひとまず、ブレザーに皺がよらない様にハンガーへとかけて。
「うん。明日はボクの正直な気持ちを叫べばいいんだ」

●大会前夜・真一の場合
「うん。丁度いいタイミングで素晴らしい依頼が出たな」
 フライトジャケットを脱ぎ捨てながら、藤枝 真一(ga0779)は勢いよくベッドへとダイブする。
「また可愛いアイツを照れ隠しにからかってしまった‥‥。悪い癖だな」
 宿の一室でポツリと呟きながら、手にしたミネラルウォーターを口に運んだ。
「本当は撫で回してイチャイチャしたいが、どうにもこの性格が邪魔をしてしまう‥‥」
 はぁ、と深い溜息をひとつ。
 脳裏に浮かぶのは、彼の大好きな彼女が、からかわれた事に顔を赤くして膨れている姿。
「今回の依頼は愛の告白を叫ぶ事だからな。ここで一気にストレスを解消させてもらおう」
 ‥‥この時から既に。
 彼の脳裏に浮かぶ告白相手が別人になってしまっていたのは、ある意味お約束である。

●大会前夜・希明の場合
「ここが、アイツの故郷‥‥」
 宿の一室からロンドンの町並みを眺めていた伊佐美 希明(ga0214)は、何処となく嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ここなら、酒が合法的に飲め‥‥」
 言いかけて、脳裏の誰かが『お酒は20歳になってから!!』と叫んだのを受けて頭を振った。
「いやいやいや、違うぞ。目的を見失うな希明。今回のヤマは件の女社長を連れ帰ることだぞ」
 作戦目的を復唱して、ハンガーにかけた明日の勝負服、執事服へと視線を向ける。
 彼女の脳裏に過ぎったのは、愛しの相手。
 そう。彼女は今回の依頼参加者で唯一の女性なのだ。
 明日はさらしを巻いた上に、執事服を着込む予定にしている。
「勝負は明日。今日は早めに眠って、作戦実行に備えなきゃな」

●大会当日のひとコマ
 女は、金の髪を緩やかになびかせ微笑んでいた。
 手にした日傘は上品なホワイトベージュ。
 身に纏っている服は、こちらも上質なパステルブルーのゴシック調ワンピース。
 靴はレースアップのホワイトヒール。
 ノンフレームの眼鏡をかけたその女は、祭りでなければ確実に浮いていただろう。
 しかし、今日はお祭りだ。
 周囲の人々の服装も賑やかだった為、女の服装は見事に溶け込んでいた。
「さぁ、一体どなたが私を探しにいらっしゃるのかしら?」
 くすくすと笑う彼女は‥‥

●開始直前
「告白大会にエントリーされる方は、こちらに並んでくださーい!」
 笑いながら言う男を見ながら、流真は着込んだブレザーの襟をもう一度確認する。
 賑やかなお祭りの一角に設けられた告白大会出場者用のスペースには、老若男女国籍も様々な人間が集合し始めていた。
「んー‥‥ボクは12番目か。今回の依頼を受けたボク以外の人って何番目くらいにいるのかな」
 恐らく、自分だけではない。
 戦闘系のミッションでもなかった為、参加者はそれぞれ単独で行動をしている。
 その為、自分以外の参加者が何人で、何番目にいるのかは分からない。
「とにかく、頑張らないとね」

 同時刻、そこから更に7番後方でユーリは着込んだ執事服の最終チェックを行っていた。
「こういうのは初めてだけど、変な所ないよな‥‥?」
 確かに、滅多な事では大衆の前で愛を叫ぶなんて事はない。
「あー、緊張する」
 少しでも緊張をほぐそうと、首を回したり深呼吸をしたりとあらゆる手段を試してはみるが、そう簡単にはいかない。
「‥‥でも、やれるだけやってみなくちゃな」

 同時刻、ユーリから更に後方10番目でうずうずしていたのは真一だ。
「告白とストレス解消の両方が出来るなんて、ラッキーだ」
 言いながらも頭に浮かぶのは、好きで好きでたまらない愛しの彼女。
 クールな自分を維持する為に、今日の告白大会での絶叫は必要不可欠なのだ。
「待ってろ桃華。俺の想いを世界中に響かせてやるからな」

 同時刻、真一から5番目後方へとたどり着いた希明は手を振って一人の老人と別れていた。
「本当にありがとう御座いました。おかげで妻とも合流できます」
「いや、いいって事よ」
 にっと笑う彼女に向かって同じく手を振りながら去っていく老人。
 どうやら迷ってしまった老人の手助けをしていた様だ。
「結構な人数がいるもんだ。‥‥ほんの少しだけ、私に勇気をくれ」

「お待たせしました! これから、祭りの一大イベント『告白大会』を開始しまーす!」
 遂に時間が来た。
 片手に畳んだベージュの日傘を持ち、パステルブルーのワンピースを身に纏った進行役の女が、笑顔で解説を始めた。
「ルールは簡単。愛の勇者にはこのステージ上から、思いの丈を精一杯叫んでもらいます。そして、全員が愛を叫んだ後、お相手がステージ上へと上がってくれればカップル成立でーす!」
 レースアップのホワイトヒールをカツンと鳴らして、眼鏡をかけた金髪の進行役は舞台袖に向かって手を広げた。
「それでは! エントリーナンバー1番!」

●告白! 流真の場合
 大会は笑いあり、励ましあり、祝福ありと賑やかだ。
「ありがとう御座いましたー。では続いて、エントリーナンバー12番! 青海流真さん、20歳です! どうぞ!!」
 呼ばれて流真はステージの中央へと向かう。
「青海さんはどなたに愛を叫ばれますか?」
 マイクを向けてきた進行役の女から尋ねられて、流真は観衆を見ながら答えた。
「このお祭りに来てる社長さん。オレアルティア・グレイさんにです」
 観衆から声援が飛ぶ。
 進行役の女は、一瞬目を丸くした後、にこりと笑った。
「思いが届くといいですね! それでは、どうぞ!」
 舞台の端へと移動した進行役の女を確認して、流真は大きく息を吸った。

「お会いしたことないけど、社長さんってきっと素敵な女性なんだろうなぁ! あぁ、お会いしたいけどボクみたいな立場じゃ無理なんだろうなぁ! 商品見てるだけでセンスの良さ分かるもん!!」

 言い終わって、ぺこりと頭を下げた流真に、観衆から
「頑張れよ坊主ー!!」
「あれ? でもこれって愛の告白か?」
 等と沢山の声が上がった。
「はい、ありがとう御座いましたー。結果は最後になりますので、舞台端でお待ち下さい!」
 進行役の女の言葉に頷いて、流真は反対側の舞台端へと向かう。
 それを見て、ほんの一瞬だけ進行役の女は柔らかな笑みを浮かべたのだった。

●告白! ユーリの場合
「では続いて、エントリーナンバー19番! ユーリ・クルックさん、18歳です! どうぞー!」
 若干緊張した様子で舞台の中央へとやって来たユーリに、進行役の女がマイクを向ける。
「ユーリさんはどなたに愛を叫ばれますか?」
「オレアルティア・グレイさんです」
 その名前に、再び進行役の女が目を丸くする。が、それもほんの一瞬だけだったが。
 この告白大会、オレアルティアという人間以外にも、色々な人間が複数の人から告白されているので、別段珍しい事でもないのだ。
「思いが届くといいですね! それでは、どうぞ!」
 にっこり笑って舞台端へと移動した進行役の女。
 大きく息を吸って、舞台上から観客達を見る。
 思わずたじろぎそうになるが、ぐっとこらえて、こぶしを握る。

「えと、俺はまだオレアルティアさんにお会いしたことがないです。そんな状態で告白するなんて変だと思われるかもしれません。確かに、始めは頼まれて、軽い気持ちでいましたが、あなたのことを見聞きするうちに、心が惹かれていくのを自覚するようになりました」

 しんと静まり返った観衆を、じっと見つめたままユーリは言葉を続ける。

「恋というものを経験したことがないので、この気持ちが本当に恋なのかわかりませんが、あなたと少しでも一緒にいたいというのが俺の正直な気持ちです。一緒に、戻って頂けませんか?」

 そう言って、頭を深く下げた。
 次の瞬間、観衆から口笛や拍手、歓声が上がる。
「いいぞ坊主ー!」
「よっ! 初恋の味ってかー?」
 そんな声をバックミュージックに、進行役の女がユーリの側へと歩み寄った。
「はい、ありがとう御座いましたー! 結果は最後に発表しますので、舞台端でお待ち下さい!」
 微笑みながら告げる女に向かって、もう一度頭を下げてから、ユーリは舞台端へと足を進めたのだった。

●告白! 真一の場合
 大会は順調に進んでいた。
「では続いて、エントリーナンバー29番! 藤枝真一さん、18歳です! どうぞー!」
 進行役の女に促され、真一は舞台の中心に立つ。
「真一さんはどなたに愛を叫ばれますか?」
「俺の好きな人に」
 敢えて名前を言わない真一だったが、進行役の女は笑いながら頷いた。
「思いが届くといいですね! それでは、どうぞ!」
 一体誰に向かって愛を叫ぶのだろうと、観衆たちがうずうずしている。
 それを見て、真一は一瞬、ふ、と笑うと、大きく息を吸い込んで。
 そして、叫んだ。

「俺は桃華が好きだーーーッ! 最初に会ったその日から、お前の事が気になってしょうがねぇッ! そのクルクル巻いた髪も、つぶらな瞳も、唇も、小さな胸も! 小さな手も、ピチッとしたスパッツも! 触れたくて触れたくて気持ちがッ抑えきれない!!」

 前半は良かったのだ。前半は。
 しかし、ヒートアップした真一の口から続けられた言葉に、観衆はしん、と退いてしまう事になる。

「信じた道を愚直に進んで、でもドジでお馬鹿なところとか、スゲェ萌える! そうだ、そんなお馬鹿なお前だから、もう何度でも言ってやるぞ!!」

 もう一度大きく息を吸い込んで。絶叫。

「好きだ! 愛してる! 天道桃華ー! お前を全力で抱きしめたい! 隅々までキスしたい! 俺のキスで溺れさせてやる! 息も忘れるほどに奪いつくしてやる! ロリコンでも何でも好きに呼べ! ああ好きなんだからしょうがねぇだろ!」

 退いた観衆お構いなしに、最後の一言を叫ぶ。

「世界で一番、お前が大好きだーーーッ!!!!」

 言い切って、息を吐いて笑う。
「ふぅ。スッキリした」
 そう言って観衆へと視線を向けるが。
 今までの出場者に対しての視線と、どこか違う種類のものを投げられてしまっている。
「前半は良かったんだよ。うん」
「大丈夫なのか? 色々と」
 そんな声が上がる中、進行役の女も少し引き攣った笑みを浮かべながら真一へと歩み寄った。
「えぇと、ありがとう御座いました。結果‥‥が出るまで舞台端でお待ち下さい」
 スッキリした表情の真一は、舞台端へと移動したのだった。

●告白本番! 希明の場合
「では続いて、エントリーナンバー34番! 伊佐美希明さん、18歳です! どうぞー!」
 進行役の女に呼ばれて、希明は舞台の中央に立った。
「希明さんは、どなたに愛を叫ばれますか?」
「愛するヤツに」
 清々しいほどはっきりと言ってのけた希明に、進行役の女はにっこり笑う。
「思いが届くといいですね! それでは、どうぞ!」
 女が舞台の端に引いた事を確認して、大きく息を吸い込む。

「酒が好きだーッ!」

 愛の告白一言目が『酒』である事に、観衆と進行役の女の目が丸くなる。

「‥‥親父が好きだったんだ、晩酌。東京‥‥故郷が襲われた時に、死しんじまったんだけどさ。酒を呑むと、死んだ親父が一緒に居る気がして‥‥」

 僅かに目を伏せながら話す希明を、観衆が見つめている。

「でも、愛しい人を失い、愛することに臆病になっていた私を、叱咤して、励ましてくれた‥‥。悪酔いしかできなかった酒の味を、お前は喜びの味に変えてくれた」

 もう一度息を吸って、最後の言葉を叫ぶ。

「私にとって一番の酒は、お前だ! お前の愛で、私を酔わせてくれーッ!」

 叫び終わった彼女に向かって、様々な声が上がった。
「姐さん!」
「格好いいぞ!」
 笑って手で歓声に答える希明へと、進行役の女が歩み寄る。
「ありがとう御座いました。結果は最後に発表しますので、舞台端でお待ち下さい!」

●まさかの登場
 告白大会の結果発表の時、そのサプライズは起こった。
 カップルが成立したりしなかったり、まぁ色々とあったものの、一番のサプライズは。
「オレアルティア・グレイは私です」
 進行役の女が、微笑みながらそう言った事だろう。
 大会終了後、ステージから離れた場所に集まった今回の依頼参加者達に、オレアルティアは謝罪の言葉と一礼をおくった。
「アンタの人生はアンタのモンだ。だが、人の上に立つ人間が、下の人間を困らせちゃいけねぇ。他人には他人の。手前には手前の立場がある。面子もあらぁな。どんなに嫌なことでもよ、筋だけは通しておくべきだと思うぜ?」
 小粋に笑う希明に、微笑みながら頷く女社長。
「えぇ。今回は私に非がありますから、屋敷に戻りますわ」
「あの、それで告白の答えって‥‥」
 おずおずと言葉を発したユーリに、微笑を向ける女社長。
「直にイエス、とは言えませんけれど、よろしければお友達からお願い致します」
「結局、何で屋敷から逃げたんです?」
 流真の質問に、彼女は悪戯っぽく笑って、答えを返す。
「パーティの招待状が届きまして、行きたくなかったので」
 意外と子供っぽかった女社長。
 予想範囲から大きく外れた答えに、一同は絶句するしかなかったのだった。

 END