タイトル:紅狼たちの鳴く村マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/29 02:58

●オープニング本文


 オーストリア、ヴィルトシュピッツェ山の麓にあった、小さな村。
 その小さな村には、もう誰もいない。
 全てのものは焼き払われ、62名の住人達は、1人を残して息絶えた。
 残されたのは、瓦礫と腐臭。

 ――何故、こんな事に!
 ――神よ。どうか我等をお助け下さい!

 哀れ祈りの言葉は届かなかった。
 もう村には、人などいない。

 いるのは、血に飢えた、紅の狼4匹。
 ただそれだけしかいないのだ。

 時は遡る。
 それは、村が壊滅した前日の事だ。
 特に何の名産や観光場所もないその小さな村に、1人の青年がやって来た。
「なんとまあ珍しい。あんた、旅人かい?」
 薄茶の短髪が、襟足のひと房だけが長く伸ばされ風に揺れている。
 新緑の瞳は無機質に光り、同じく表情は乏しい。
 薄汚れた外套を巻いたその中に纏っている服は、村人からは見えない。
 だが、彼から漂う雰囲気は『荒くれ者』というよりは『良家の者』のそれに近かった。
「‥‥あぁ、そんな所だ」
 低い声で言葉を返した旅人へと、物珍しそうな様子で駆け寄って来たのは村の子供達だ。
「おじさん、どこからきたの?」
「きょうはこのむらにとまる?」
 何もない村へと滞在する者は少ない。
 だからこそ、足を止めた旅人へと好奇心の塊である子供達は話しかける。
「この村には宿がなくてねぇ。なんせ、見ての通り何もない村だからさ」
 子供達の次に話しかけたのは、家畜の世話をしていた初老の女だ。
「そうだ。あんたさえよければ、うちに泊まってくかい? たいしたもんは出せないけどね」
 明るく声をかけたその女を見て、旅人は首を横に振ってみせる。
「しかし、宿のある町まで行くってなると、明日になっちまうよ」
「そうだよ。きょうはとまっていきなよ」
 そう言い聞かせても、旅人は首を横に振るだけだ。

「今日はこの村で休む。だが、泊まる気はない」
 ふいに口を開いた旅人が、外套の中から右手を引き抜いた。
 その手に握られていたのは、小さな笛。
「あんた、何言ってんだい‥‥」
 呆れた様にそう言った初老の女の言葉を遮る様に、小さな笛を口に銜えると。
 旅人は、それに息を吹き込んだ。

 その音は、人間には聞き取る事の難しい音域だった。
 村人達にも、青年が一体何をしたのか分からなかった。

 だが確かにその音は、特定のものには聞こえていたのだ。

「うわぁあぁぁ!!」
 村の入り口付近から響いた絶叫に、村人達が旅人から声のする方へと視線を移す。
「あ、あ‥‥!?」
 何かが切り裂かれる音。噛み砕かれる音。
 そして、叫び声。

「キメラだーーー!!」

 村人達の悲鳴が、小さな村の至る所から響き始める。
 狼によく似た姿形をしてはいるが、その毛並みは紅を含んだ黒。
 噛み砕くだけでなく、その口からは炎を吐き出し、家や家畜、木々すらも燃やしていく。
 1体だけでも一般の人々には脅威となるのに、現れたのは4体。
 逃げ惑う村人へと、次々に牙を剥き、爪を振るう紅狼達。

 旅人はただ黙って、それを見ているだけだった。

 村の終わりは突然に、そしてあっという間に訪れた。
 4体の紅狼が村へとやって来た次の日には、もう村には生きた人間はいなかった。
 旅人が村を訪れたのは日の暮れ始めた時刻だったというのに、次の日の明け方には、動くものは紅狼達だけになってしまった。
 動くもののなくなった村を、無表情で一瞥した旅人は。
「‥‥ひとり逃げた。おまえ達は此処に残れ。じきに、能力者が呼ばれる」
 狼達にそれだけを告げて、何もなかったかの様に、廃墟の村を後にしたのだった。

●参加者一覧

ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
クロスフィールド(ga7029
31歳・♂・SN
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP
テルウィ・アルヴァード(ga9122
19歳・♂・SN
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
鮫島 流(gb1867
21歳・♂・HA
姫咲 翼(gb2014
19歳・♂・DG
田中 直人(gb2062
20歳・♂・HD
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

●滅び堕ちた村
「ち‥‥嫌な事件だぜ」
 吐き捨てる様に呟いたゼラス(ga2924)の言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
「村人達の無念、俺の刀で必ず晴らすっ!」
「必ず仇は取る‥‥それが、死んでいった人達に出来る唯一の弔いだから」
「誰がばら撒いたか知らねぇが、何匹だろうと全力で斬らせてもらうぜ」
 ディッツァー・ライ(gb2224)とアセット・アナスタシア(gb0694)、姫咲 翼(gb2014)が、拳を握り締め決意を口にする。
「ワイヤーはなんとか用意できたけど‥‥」
 翡焔・東雲(gb2615)は、手にしたワイヤーを、使用する夜坂桜(ga7674)と柊 沙雪(gb4452)、リア・フローレンス(gb4312)と田中 直人(gb2062)へと渡していく。
「やけに主人に忠実な犬‥‥もといキメラだな。僅かでもその主人の手掛かりが掴めたら万々歳って所か」
 クロスフィールド(ga7029)の呟きに、テルウィ・アルヴァード(ga9122)が顔を上げた。
「主人の手掛かりも一緒に探した方がいいかもしれませんね」
 その傍らで屈み込んで、閃光対策の最終確認をしていた鮫島 流(gb1867)が、ふと首を傾げる。
「何か最近動物に似せたキメラってのが多くないですか?」
「まぁ、何型だろうが、キメラはキメラだろ。俺達の仕事はそれを狩る事だ」
 ゼラスの言葉に、他のメンバー全員が頷きを返す。
「じゃ、作戦通りに。入って直ぐの広場から1班は東側、2班は北側、3班は西側、4班は南側に散開だ」
 最終確認を終えて、メンバーは覚醒し遂に廃墟と化した村へと入ったのだった。

●北班の戦闘
 北側。囮担当の翼は、自身の武器である機装刀『絶影』に手を掛けつつ、周囲を警戒していた。
「こいつの初舞台だ。いい練習台になってくれよ。狼サンよ」
 翼の視線の先、前方からゆらりと現れた紅い影がひとつ。牙を剥き、低く唸り声をあげながら姿を現したのは、1匹のキメラだった。
 体を低くし、攻撃態勢を整えようとするキメラへと、翼は距離を詰める。
「まだだ」
 ディッツァーが、僅かに鯉口を切り、沙雪はワイヤーをきつく握り締めた。
 そして、次の瞬間。低い声で鳴いたキメラが、口を開き翼へと牙を剥いた。
 翼は竜の爪を使用し、手にした絶影を自身の前にかざす。大きく口を開いたキメラが、かざされた絶影に思い切り噛み付いた。
 ゼロ距離。キメラを眼前にしながらも、翼は不敵に笑い、声高に叫ぶ。
「トリガーオフ ――インパクト!!」
 引き金を引き、そのまま一気に斬撃を放った。突然の攻撃に驚いたキメラが、距離を取ろうと飛び退る。が、その背後。
 そこにいたのは、ワイヤーと照明銃を持った沙雪だ。
 合図を受けて、翼とディッツァーがきつく目を閉じた。
 瞬間、目を焼く様な光がキメラの勢いを削ぐ。後退しようとしたキメラへと、瞬天速で肉薄した沙雪が、ワイヤーを使って行動を抑制しようとする。
 ワイヤーは、リードの様にキメラの首にかけられた。
「犬には首輪が必要でしょう」
 直ぐ側の木に括り付けたワイヤー。しかし力強く解こうとするキメラを見て、沙雪は声を上げた。
「あまり持ちそうにありませんね」
 その言葉を受けて、真っ先に飛び出したのはディッツァーだ。
「先手必勝、飛び込み面ッ!」
 ワイヤーが絡まっても尚、動きの素早いキメラへと確実にダメージを加える為、先手必勝と更に流し斬りを併用し、剣を一閃する。
「くそっ! 素早い!」
 行動を制限している筈なのに、キメラは器用に身を捻り直撃を避けた。
 ギリギリと、ワイヤーが鳴る。
「ワイヤーが持たない‥‥!」
 沙雪が呟いた次の瞬間、キメラが大きく口を開いた。沙雪と、その後方に位置していた翼に向かって、火炎が吐き出される。
「チ‥‥こういう範囲攻撃は対処しづらいですね‥‥!」
 瞬天速を使って回避するも、火炎は確実に沙雪にダメージを与えた。
 その横をすり抜ける様に、翼は竜の鱗と竜の翼を併用し、炎の中を突っ切っていく。
「舐めるな、犬ッコロが!」
 勢いよく絶影を額へと突き立て様と振りかぶるが、キメラも俊敏に動きダメージを軽減する。
「お前の相手は俺だ!」
 ディッツァーが叫んでキメラへと詰め寄る。
 先手必勝で肉薄し、一閃。
 その瞬間、鈍い音が2つ響いた。1つはワイヤーが切れた音。もう1つはディッツァーの牙嵐と、キメラの鋭い爪が噛み合った音だ。
「この牙で、この爪で。村人を襲ったのか‥‥。ツケを払わせてやるぞ」
 低い声で唸る様に言って、ディッツァーは均衡した状態だった牙嵐に力を込める。
「‥‥っらぁ!」
 そのまま振り切れば、キメラの前脚が深く切り裂かれた。
 キメラが鳴き声を響かせ、一気に距離を取ろうと飛び退る。が。
「強みは速度‥‥ならば、それを奪うまでっ」
 沙雪が武器の二刀小太刀『疾風迅雷』を構え、そのまま二連撃と急所突きで左右の両足へと同時攻撃を仕掛ける。
 回避の間に合わなかったキメラの後ろ両足が、深く切り裂かれた。
 キメラが、焼き払われた村で鳴く。
 そのまま口を開き、火炎を吐き出すキメラの攻撃を、ディッツァーはあえて味方の盾となるべく避けずに受けた。
「‥‥ぐっ! この程度の炎、心頭滅却すれば、という奴だ」
 消耗の見え始めたキメラへと、ディッツァーはそのまま先手必勝で牙嵐を振り上げる。同時に、紅蓮衝撃を使用して一気にキメラの腹部を斬り上げた。
 畳み掛ける様に翼が竜の爪を使用し、絶影を振り切る。衝撃は、キメラの頭部を直撃した。
「獣が悔いるとも思いませんから。貴方はただ逝くだけでいい‥‥」
 二刀を構え、二連撃と急所突きを併用した沙雪がキメラの喉元を左右同時に引き裂いた。
 絶叫を上げる暇すら与えられず、彼らの対していたキメラは息絶えた。

●西側の戦闘
 西側の囮役である東雲も、眼前にキメラを発見していた。
 ミラーで敵を煽りながら、少しずつ捕獲場所へと移動していく。
「ほら、来なよ‥‥もうちょっとで届きそうだろ?」
 流し斬りを使用して煽り、自身も細かい傷を負いながらも後退する。そのまま、目的地点へと退き、東雲は声を上げた。
「クロスフィールド!」
「目を閉じてろよ!」
 茂みから躍り出たクロスフィールドは、先手必勝を使用して手にした照明銃の引き金を引く。
 眼前での強烈な閃光に怯んだキメラを、彼等は見逃さない。
「捕まえましたよっ!」
 ワイヤーでキメラを絡め取ったのは、反対側の茂みから現れたリアだ。しかし、キメラは強烈な力を持ってワイヤーを断ち切ろうとする。
 近場の柱へとワイヤーをくくりつけ、3人はキメラと相対した。
「まずは脚から狙わせてもらうよ」
 キメラへと接近して、東雲は二刀小太刀『疾風迅雷』を構え、流し斬りを使用し脚部を薙ぎ払う。
 しかし、キメラはワイヤーがかかっているにも関わらず直撃を逸らすべく身を翻した。
「犬っころが! 大人しくしてろ!!」
 翻したその場所を予測して、愛銃の『Play The Fox』を両手で構えたクロスフィールドが、強弾撃で脚部を狙う。左前脚に直撃した銃弾に、鳴き声を上げるキメラ。
 そこにクルシフィクスを手にしたリアが駆け込んだ。
「隙あり、です」
 円閃で肉薄し、遠心力を利用して先ずは斬撃。そのまま二連撃を使用して刃を翻し斬り付ける。
 左前脚に負傷しているにも関わらず、キメラは素早い。リアの攻撃は一撃目こそ直撃し腹部を斬り裂いたが、二撃目は躱わされてしまった。
 鈍い音と共に、ワイヤーを断ち切ったキメラが、そのまま大きく口を開き、火炎を吐き出す。
 防御する東雲とリアだったが、あまりの至近距離からの攻撃にダメージを負ってしまう。
「しつこい奴は嫌われるよっ」
 怯む事無く二刀を振りかざした東雲が、急所突きでクロスさせる様に小太刀を薙ぐ。
 喉元を浅く切り裂かれ、キメラが鳴いた。
 畳み掛ける様に、リアがもう一度剣を振り上げる。円閃で初撃。二連撃を使用して刃を翻し二撃。今度はキメラの右後脚へと直撃した。
 脚を負傷しつつも、キメラが駆ける。その先にはクロスフィールドがいた。
「このヤロウ!」
 咄嗟に後ろへと身を退き銃身で自身を庇うも、鋭い爪が彼を浅く裂く。そのまま距離を取って、彼は愛銃を構え、強弾撃を使用し無事な方の脚を撃ち抜いた。
 体勢を崩したキメラへと、リアが駆け込む。先程と同じ様に、円閃と二連撃で剣を閃かせる。
 その後ろから姿を現した東雲も、二刀で喉元へと再度攻撃を加える。
 喉元への攻撃が直撃したキメラの、か細い鳴き声が響いた。
 ダメージが大き過ぎると判断したのか、身を翻し逃走しようとしたキメラへと、小さく口角を上げて照準を合わせたのはクロスフィールド。
 先手必勝で逃走の先回りをした彼は、そのまま強弾撃を使用して残された脚部を撃ち抜く。
「おすわり! ‥‥よしよし、いい子だ」
 脚を負傷したキメラが腰を落としたのを確認して、苦笑する。
「これで、終わりです!」
 円閃とスマッシュを併用したリアの剣が、キメラを見事切り裂いて。
 彼らの対峙していたキメラは、地に伏したのだった。

●東側の戦闘
 東側の囮役であるゼラスもまた、敵であるキメラを発見していた。
 ミラーで自身へと注意を向け、そのまま目的地点までゆっくりと退いていく。
 キメラが駆け込んで来たのを確認して、彼は手にした大鎌『ノトス』を握り締めながら速度を上げてポイントへと向かう。
「鬼さん‥‥じゃねぇなっ! 狼さんこちらぁってね!」
 追いつかれ、爪で細かい傷をつけられながらも彼は駆ける足を止めない。そして、ポイント到着前に照明銃を取り出して、引き金を引く。放たれた光が、周囲に広がった。
「折角会ったんです。お近づきになりましょう」
 茂みから姿を現した桜が手にしていたのは、先端を輪にした状態のワイヤーだ。そのまま瞬天速を使用し、ワイヤーをキメラの首へと引っ掛け、もう片方を素早く柱に固定する。
 しかし、他班と同じくワイヤーは然程持ちそうにもない。
「反撃だ! 遠慮はいらねぇ、貰っときな!」
 叫んだゼラスが、全てのスキルを一気に使用して大鎌の先端をキメラの腹部へと突き刺す。
 深く突き刺さったそれに、キメラが咆哮を上げ、そのまま火炎を吐き出した。全員が回避を行うも、やはりダメージはゼロに出来ない。
「その脚を狙わせてもらいます」
 エクリュの爪を振りかざした桜が、急所突きを使用して前脚を薙ぎ払った。ワイヤーで拘束されているにも関わらず、キメラは素早く、浅い傷しか与えられない。
「風通しをよくしましょう」
 後方から、拳銃の照準をキメラに合わせたテルウィの声が上がる。そのまま発砲。弾丸は脚を掠めるも、致命傷にはならなかった。
「すばしっこいな」
 そう言いながらもゼラスは大鎌を振りかざす。豪破斬撃と流し斬りを併用し、同じく前脚を切り裂いた。今度は直撃だ。
 しかし次の瞬間、鈍い音と共にワイヤーは断ち切られてしまった。
「それでも、機動力は削がれたはず」
 呟いて、桜は爪を振り上げ、もう片方の前脚へと攻撃を加える。しかし浅く切り裂くのみだ。
 合間を置かず、後方からテルウィが拳銃で援護射撃を行う。
 火炎を吐き出そうとしたキメラを見て、ゼラスはノトスを振りかざす。豪破斬撃と流し斬りを併用し、今度はキメラの腹部を切り裂いた。
 鳴き声を上げたキメラがテルウィへと向かうのを見た桜は、小さく声を上げる。
「させません」
 瞬天速で敵の後ろへつくと、コートでキメラの視界を塞ぐ。副兵装の機械剣のレーザーを一旦収め、瞬即撃を使用して口元へと射出する。怯んで動きが鈍ったところに、今度は爪で喉元を引き裂き、素早く距離を取った。
 弱ったキメラへとノトスを振り上げたゼラスが口角を上げる。
「鬼ごっこは終わりだ!」
 豪破斬撃と流し斬りを併用した大鎌は、見事にキメラを切り裂き。
 彼らの対峙していたキメラは、地に伏したのだった。

●南側の戦闘
 南側の囮役、アセットもキメラの姿を捕捉していた。
「素早い分脆いと良いけど‥‥」
 コンユンクシオを握り締め、牽制を込めてソニックブームを使用して衝撃波を放つ。キメラは牽制に引っかかり、彼女へと向かってきた。
 間合いを取りながら、確実に敵を誘導する。それを確認して茂みから飛び出したのは流だ。
「ファイア!」
 合図と共に、照明銃から放たれた弾丸が光を撒き散らす。そして次の瞬間反対側の茂みから飛び出してきた直人が、手にしたワイヤーをキメラへと巻きつけ、反対側を側にあったブロック塀へと括り付けた。
 こちらもやはり持ちそうにない。
「少しずつ弱らせてなんて認めない‥‥一気に決めるよ」
 アセットは再び剣を振りかぶり、ソニックブームで衝撃波を放つ。その隙に直人は竜の翼を使用してキメラから距離を取った。
「ワイヤーが切れる前に、脚を貰うで」
 グラファイトソードを手にした流は、竜の咆哮で敵を吹き飛ばし、勢いを生かして竜の翼でキメラへと肉薄し脚を薙いだ。しかし、キメラは間一髪直撃を避け、傷を浅く済ませてしまう。
「直人!」
「火を噴かれるのは厄介だな」
 後方で超機械『ST―505』へと装備を変更していた直人が、2人のフォローを行うべくキメラの鼻先に衝撃を与える。
 目の前で炸裂した衝撃に、キメラが唸り声を上げ口を開く。ワイヤーの切れる鈍い音が響く。その勢いのまま、キメラは火炎を吐き出した。
 全員が回避を行うも、ダメージを完全に無くす事は出来ない。
 それでも、彼等は怯まなかった。
 アセットはもう一度ソニックブームで攻撃した。今度はキメラの前脚へと直撃。
 間を置かず、流が大剣を閃かせる。しかし、キメラはそれを躱わし、一直線に直人へと駆け込んだ。
「仕方ない!」
 機械剣に持ち替えた直人が、キメラの喉元へと切りつけ、竜の翼で再び距離を取る。
「いくよコンユンクシオ!」
 ソニックブームで衝撃波を放ちながら、アセットがキメラへと詰め寄る。それを援護する様に流が大剣を翻し、今度こそ腹部を斬り裂いた。
 後方では装備を超機械へと持ち替えた直人が、持参したアリオンのスイッチを入れ、援護を行う。
「破ぁぁ! チェストぉぉ!」
 火炎を吐こうと口を開いたキメラへと肉薄したアセットは、両断剣とスマッシュを併用して剣を閃かせた。見事にキメラの喉元を切り裂き。
 彼らの対峙していたキメラも、地に伏して動かなくなったのだった。

●残されたもの
 戦闘後。能力者達は、それぞれ哀悼の言葉を小さく呟いていた。
 そんな時、クロスフィールドがあるものを拾ったのだ。
 ――鈍く光る、小さなロケットペンダント。
 全てが焼き払われている村で、それだけは美しい光を放っていたのだ。
 どう見ても、それは炎が収まってから落とされた物。

 これが、キメラを呼んだ者の手掛かりになるのだろうか。
 報告書と共に提出される事となったそのペンダントの持ち主は‥‥。

END