タイトル:【S&J】お嬢様頑張るマスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/12 02:03

●オープニング本文


 最近、セブン・アンド・ジーズ社の女王様‥‥もとい、女社長であるオレアルティア・グレイの様子がおかしい事に、社員達は気付いていた。
 微笑んでいるのに、瞳には暗い色が常に存在しているのだ。
 社員が気付く位なのだから、当然一人娘であるオレガノ・グレイが気付かない訳がない。
 大好きなママの為、お嬢様は考えた。
 その小さな脳をフル回転させて、一生懸命考えた。

「そうだ! いいことおもいついたの〜♪」

 ポッテポッテとスキップしながら向かった先は、会社では大ママのいつも側にいる、お爺ちゃんの所だ。

「シュレおじいちゃん!」

 呼ばれて、ズボンの一部を握り締められた初老の男性はシュレティンガー。社長秘書兼補佐である。

「如何なさいましたか、オレガノお嬢様?」

 小さなお姫様と視線を合わせる為に屈み込んだ彼に、にっこりと笑ってみせる。

「あのね、あたし、ママにないしょでおでかけしたいの」

「では、誰か社員を呼びましょう‥‥」

「だめなのっ!」

 いつになく真剣な表情のお姫様に、目を丸くするシュレティンガー。

「しゃいんさんはおしごとなの! だから、あたしだけでいってくるの!」

「ですが‥‥」

 うるり、と涙目になりそうなお姫様は、それでも意思は曲げてくれそうにない。

「‥‥分かりました。では、能力者の方にお願いしてみましょう。それでお願いを聞いて下さる方々がいらっしゃって、その方々とご一緒でなら許可致しましょう」

「ありがと、シュレおじいちゃん!」

 抱き着いてきたオレガノへと、笑みを返しながらシュレティンガーは尋ねる。

「それでオレガノお嬢様。一体どちらへ行かれるのですか?」
「んと、ちかくにあるはらっぱ! たくさんおはながさいてるのよ。それをつみにいくの〜♪」

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
桂木菜摘(gb5985
10歳・♀・FC

●リプレイ本文

●お嬢様到着前のお話
「この度は、こちらの我侭に付き合って下さって、誠に有難う御座います」
 礼儀正しく頭を下げた初老の男性は、人好きのする笑みを浮かべていた。
「私は、オレアルティア様の秘書を任されております、シュレティンガーと申します。お嬢様は、ただいま準備中ですので、こちらのお部屋でもう少々お待ち頂けますか?」
 通された部屋は、落ち着いた雰囲気の応接室。
 そこで、暫くの待機を言い渡された今回の依頼参加者6人は、それぞれ荷物をテーブルの上に置き、挨拶でもしながら時間を潰そう、という事になった。

「はじめまして! 今日はよろしくお願いします」
 ぺこり、と礼儀正しく頭を下げたのは、今回の依頼参加者の中で最年少の桂木菜摘(gb5985)だ。
「ん。冥華は、舞 冥華。おれがのはともだち。今日は、あるてぃの為に、がんばる」
「はじめまして。私は鬼道麗那。まぁ、オレガノちゃんの姉みたいなものです」
 次に挨拶をしたのは舞 冥華(gb4521)と、鬼道・麗那(gb1939)の【闇生】メンバー。
 彼女達はオレガノとも、その母親であるオレアルティアとも知り合いである。
「じゃあ、次は俺かな。ユーリ・クルックです。よろしくお願いします」
 ユーリ・クルック(gb0255)はそう言って、少しはにかみながら会釈した。
 彼も、オレガノとオレアルティア両方と知人だ。
「初め、まして。ルノア・アラバスター、です。宜しく、お願い、します」
 たどたどしくも、きちんと頭を下げたのはルノア・アラバスター(gb5133)。
 自分よりも年下のメンバーを見ながら、最後は自分かと目を細めながら声をあげたのはホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)だ。
「ホアキン・デ・ラ・ロサだ。よろしくお願いするよ」
 一通り、挨拶が済んだところで。
「おまたせしました、なの〜!」
 飛び込んできたのは、柔らかい金髪の弾丸。
 今回の依頼主(と言えるかどうかは微妙だ。依頼書を作成したのはシュレティンガーなのだから)オレガノ・グレイだった。
「きょうは、あたしのおねがいをきいてくれて、ありがとうございます。オレガノ・グレイです。よろしくおねがいします、なの!」
 にっこり笑顔のお嬢様が、勢いよく頭を下げた。
 恐らく、オレガノが常に携帯しているマナーブックに、はじめましてのご挨拶として書かれている内容なのだろう。
 それでも頑張って、丁寧な口調で挨拶を終えたオレガノは、顔をあげて揃った6人を見て益々笑顔になる。
「オレガノお嬢様。そろそろお出かけになりませんと、オレアルティア様がお戻りになられますよ」
 後ろに控えていたシュレティンガーの言葉に、目を大きく開いたお嬢様は慌てた様子で皆を急かしたのだった。

●花いっぱいの原っぱへ
 オレガノの片手には、ルノアから日よけにとプレゼントされたゴシックパラソル。
 楽しくお喋りをしながら、そして時々疲れたちびっ子達は年上のお兄さんお姉さんに抱っこやおんぶをしてもらいながら。
 お嬢様と6人は、目的地である広い草原に到着した。
 早速花を摘もうとし始めたオレガノに、苦笑しながら提案したのはホアキンだ。
「少し遊んでからでも構わないと思うよ? 今摘むと、帰るまでに萎れてしまうからね」
「少し、休憩するのも、いいかもしれませんよ」
 同意したルノアが、持参していたシートを広げ始める。
「それじゃあ、休憩がてらに、前約束してた新しい手品を披露しようか」
 言いながら、ユーリはポケットからコインを取り出した。
「パーティのときの、やくそくねっ」
 にっこり笑顔のお嬢様と、興味深げに近寄ってくる他のメンバー。
 若干緊張気味に、それでも笑みを絶やさずにユーリは手にしたコインをよーく見せる。
 種も仕掛けもない事を確認してもらい、コインをきゅっと握り締め。
「1枚のコインが、こう手を閉じただけで‥‥2枚にっ!」
「凄いねっ♪」
「いっしゅんのはやわざ」
「うわぁーっ!」
 見せられた時は1枚だったコインが、あっという間に2枚に増えた事に驚く菜摘、冥華、オレガノのちびっ子3人組に。
「手先が器用なんですね」
「お上手、です」
「上手いもんだ」
 感心した様に声を漏らすのは麗那、ルノア、ホアキンの3人だ。
「喜んでもらえたらなら、嬉しいです」
 賞賛の声に、ユーリは照れくさそうに会釈で応える。
「ん。おれがの、次は、冥華とうたう」
 提案したのは以前、パーティでオレガノと即興デュオを披露して拍手を貰った冥華。
 花をマイク代わりに、お嬢様は冥華と顔を突き合わせ、さぁ何を歌おうかと相談中だ。
 そんな2人を微笑ましく眺めながら、残りのメンバーは持参した飲み物や食べ物を、ルノアが持ってきたシートの上に並べ始める。
 ホアキンの用意した4種類のサンドウィッチと、オレガノに馴染み深いだろう英国式で焼き上げたアップルパイ、ブルーベリーパイ、オレンジパイ。
 菜摘は『ととさん特製キャロットケーキ』を上手に切り分け。
 ユーリは早起きして作ったお手製のお弁当を取り出した後に、りんごと皮剥き用のナイフを確認する。
「おうた、きまったのよ〜」
 冷たく冷やしたぶどうジュースにサンドウィッチ、食後のデザートにトリュフとチョコブラウニーを並べるルノア。
 休憩タイムの準備を終えたメンバーに、オレガノが満面の笑みで声をかけた。
「それじゃあ、冥華さんとオレガノちゃんのお歌、聞かせてもらっていいかしら?」
 妹が得意げに胸を張っているのだから、お姉さんポジションの麗那も思わず微笑んでしまった様子。
「ん。おれがの、せーの、ね」
 花のマイクを片手に、2人は同じタイミングで吸って、吐いて。
 そして、幼子特有の高い声が、原っぱに響き始めた。

 カラフルに咲く花。
 ぽかぽかの陽気。
 どこまでも続きそうな、真っ青な空の下。
「その歌、私も知ってるよ!」
 知ってる曲があれば、一緒に歌って楽しそうにアンサンブルする菜摘。
「皆さん、はい、ポーズ」
 ちびっ子3人組が、手にした花を振り振り、元気にはしゃぐのをビデオで撮っているのは、実際3人とは然程年の離れていない筈のルノア。
「即興だから、ひょっとしたら音が外れるかもしれない。その辺りは大目に見てくれ」
 時折、ハミングの代わりにと愛用のケーナで伴奏するのはホアキン。
「うん。この写真を見たら、オレアルティアさんもきっと喜んでくれますよ」
 そんなメンバーを写真に収めていくユーリ。
「ブラボー! アイドル顔負けの歌唱力でしたよ」
 一通り歌い終えたのか、拍手を受けながらはにかんでいる冥華とお嬢様に、それならと声を上げたのは麗那だ。
「今度は私が楽しいダンスをするから、皆も一緒にやってくれますかぁ?」
 パタパタと服に付いた小さな草を払いながらそう言った彼女に、全員が興味深げに視線を向ける。
「ダンス!」
「冥華、闇生にそういうのがあるの、しらなかった」
「よしっ! 頑張るぞぉ!」
 ぐっと拳を突き上げるオレガノ、冥華、菜摘の3人と、楽しそうだと近寄ってきたのはホアキン。
 ルノアとユーリは其々ビデオとカメラの担当を買って出ている為、残念ながら今回はダンス見送りとなったが。
「それじゃあ、私に続いて下さいねー?」
 そうして、麗那を先生とした『闇生体操』なるダンスが始まったのだった。
「苦しい昨日に バイバイバイ♪ 悲しい思い出 バイバイバイ♪」
 歌いながら、のびのびと体を動かす麗那を見習って、冥華や菜摘、そして他のメンバーより一回りも大きいホアキンも見様見真似で同じ動作を繰り返す。
 傍から見ると、幼稚園か何かのお遊戯会練習の様だ。
 因みに、ホアキンが保父さん。麗那は研修生。そしてちびっこ3人組が園児といった配役である。
「はい、こっち、向いて、下さい」
「皆さん、笑顔お願いしますね」
 という事は、ビデオ担当のルノアとカメラ担当のユーリは保護者、だろうか。
「明日の希望に コンニチハ♪ 笑顔は皆の宝物 手と手を繋げば伝わるよ♪」
「よーっ♪」
 あっちにピョン。こっちにピョン。
 飛び跳ね、歌いながら体を動かす麗那を先頭に、続く冥華と菜摘、ホアキンとお嬢様。
「さあ元気に踊ろう♪ 1、2、3、ジャンプっ♪」
「ジャンプっ♪」
 ルノアの手にしたビデオと、ユーリの手にしたカメラの両方に。
 4人の能力者と、小さなお嬢様が飛び跳ねた瞬間がはっきりと写される。
 明るく楽しげで、憂鬱な気分を吹き飛ばす、とても元気なシーンがそこにあった。

●『おじょうさま の ほんね』
 前半遊びに遊んだお嬢様と6人の能力者。
 太陽が真上に昇った頃には、ちょっぴりお疲れモードに突入した。
 途中、ユーリが持参したりんごの皮をかわいらしくウサギ型にカットしたところ、ウサギ大好きなオレガノは食べるのに非常に困り果てたり、というワンシーンもあったりしながら。
 皆で持ち寄ったものを食べて、飲んで。そうしてちょっとだけ休憩という名のお昼寝をして。
 ほんの少しだけ、太陽が首を傾げたところで、漸く本題の『ママに贈る花束作り』が開始される。
「ん。冥華、花束いがいもかんがえてきた。花冠ぷれぜんとしたら、あるてぃもきっと、よろこぶ」
「私、いっぱいレースのリボン持って来たよ!」
「花を使った、しおりとかも、いいかもしれませんよ」
 茎の部分が長く、小さな花を沢山見つけた冥華と菜摘が、笑顔で手を振った。
 呼ばれるままにトコトコとお嬢様が歩み寄れば、別の花を手にしたルノアが声をかける。
「オレガノさんにも、おそろいで、プレゼントしますね」
 自分が思っていたより、もっと凄いプレゼントが出来そうだと、お嬢様は大喜びだ。
 のんびりと、花を眺めていたホアキンが、目的のものを見つけて自分の荷物が置いてある場所まで戻ってくる。
「緑の木霊に風の囁き、花の言葉‥‥」
 ポツリと呟いてスケッチブックと水彩絵の具を広げ始めた彼を見て、ユーリが声を上げた。
「ホアキンさんは絵を?」
「なかなかの難題だが‥‥俺の技量が追いつくかな?」
 軽く肩を竦めながら、白いキャンパスへと淡い色をつけていく。
 青い空と白い雲。そして緑の中に様々な色の花と、金・銀・白・黒の小さな『太陽』たち。
「オレガノちゃん、あとちょっとね」
 麗那が小さな『太陽』の中心に座り込んで、もくもくと手元を動かし続ける金色の頭を優しく撫でる。
「あ! オレガノおねーちゃん、そこでこのリボンを使ったら綺麗だよ!」
 その隣で同じ様に花冠を作っていた菜摘が、持ってきていたリボンから1本するりと抜き出して、オレガノへと差し出した。
 その色は、今日の空と同じ『青色』で。
 何故か目を丸くして、その色をじっと見つめ固まったお嬢様が、ポツリと呟いた言葉に全員が一瞬動きを止めてしまったのだった。

「‥‥ママ‥‥」

 オレガノの泣きそうな呼び声を聞いたユーリが、作り上げた『あるもの』を手にお嬢様へと歩み寄る。
「はい、オレガノちゃん。俺からのささやかなプレゼント。とっても似合ってるよ」
 笑いかけながら、オレガノの腕にそっと小さな花冠。正確には、花で作った腕輪を飾る。
「オレガノちゃんが悲しそうな顔をしてると、オレアルティアさんも悲しいと思うよ?」
 じーっと見つめられて、オレガノは目をぱちぱちさせた。
「おれがのが、かなしかったら、あるてぃもかなしい」
 次いで冥華が、編んでいた花冠を閉じて、ポツリと呟く。
「ママさんも、オレガノおねーちゃんが笑ってる方が嬉しいよ。絶対」
 逆隣の菜摘も、にっこり笑いながら自分のお母さんとお父さん用の花冠を無事仕上げて言った。
「オレガノちゃんも、お母さんが悲しい顔をしてたら悲しくなるでしょう?」
 頭を撫で続けてお姉さんらしく麗那が笑いかければ、こくりと首を縦に振るお嬢様。
「オレガノさん、オレアルティアさんの事、好きですか?」
 そっと問いかけるルノアを見返すオレガノの緑色の目には、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。
「‥‥だったら笑っていないとね」
 どうやら絵を描き終わったのだろう、ホアキンがそっとスケッチブックを差し出しながら笑いかける。
 緑と青、そして色とりどりの太陽たち。柔らかな彩の施されたそのページにそっと挟まれていたのは、ガーベラと四葉のクローバーだ。
 淡い色で描かれた絵と、自分の腕に通された花の腕輪。
 約束してもらったお揃いのしおりと、優しく撫でられる頭。
 そして、教えてもらいながら一生懸命作り上げた、レースリボン入りの花冠。
 お兄さんにお姉さん、お友達。
 心のこもったプレゼントと優しい笑顔に囲まれたお嬢様は、ごしごしと服の袖で自分の瞳を擦ってから。
「麗那ねえさま。冥華ちゃん。菜摘ちゃん。ホアキンにいさま。ユーリにいさま。ルノアねえさま」
 一人ひとりをしっかりと見つめ返して。
「ありがとうございます、なのっ!」
 オレガノは、にっこり笑って礼儀正しく、頭を下げたのだった。

●両手いっぱいの贈り物
「お帰りなさいませ、皆様」
 内緒のお出かけだったはずなのに、どういう事だろう。
 固まってしまったメンバーを迎えたのは、最初に会話をした初老の男性ではなく。
「ママっ!」
 お嬢様の飛び込んだその先にいたのは、まさにオレガノのママ。
 オレアルティア、その人だった。
「オレアルティアさん、どうして俺達がここに来るって‥‥?」
 驚きの中、やっとの事でそう口に出来たのはユーリだ。
 全員の視線を受けながら、お嬢様のママはにっこり微笑みながら、そっと人差し指を立てて「内緒です」と呟き返す。
 通されたのは、最初と同じ応接室で、どうやらママはある程度の事を知っていたのだと、全員は顔を見合わせて思わず苦笑してしまう。
 出された紅茶に口をつけながら、6人の視線はそっとお嬢様とママへと注がれた。
「んっと。えっと‥‥」
 恥ずかしそうにモジモジしながら、今日の特製プレゼントを後ろ手にママの元へと歩み寄っていく。
 一生懸命隠しているはずなのに、小さいその背中から沢山のプレゼントがちょっとずつ見えてしまっているのはご愛嬌だ。
「ママっ! あたしと、ねえさまと、にいさまからの、プレゼントなのっ!」
 ちょっと歪だけど、丁寧に編みこまれた花冠と、摘まれたての花。
 淡い色で描かれた絵に、そっと挟まれた四葉のクローバーとガーベラ。
 そしてユーリの持って来たオドントグロッサムの花束。
 何より、贈り主全員の笑み。
 そして後日、現像された写真や焼き増しされたビデオテープにラミネートされた花しおり。
 受け取ったママが、どんな表情をしたのか。
 それは『Under the Rose』 ――内緒の話。

●プレゼントのお返しに
 それは、今回の件の数日後のお話。
 6人の能力者の下に、綺麗な箱を抱きしめた小さなクマのぬいぐるみがやって来た。
『笑顔の主様へ』
 添えられたカードには、その一言だけが書かれていたという。

END