●リプレイ本文
●勢ぞろい
指定箇所に集った総勢14人のトナカイとサンタクロース達。
面接に無事受かって、其々が受け持つメンバーと打ち合わせをしている最中にそのハプニングは起きた。
「それでは各自地図とプレゼントは持ちましたね‥‥。‥‥? あの、何か?」
説明を行っていたアールグレイを見つめていたのはUNKNOWN(
ga4276)だ。
優雅な所作で立ち上がった彼の正体は協会に属さないモグリサンタ。
そのままカツカツと靴音を立ててアールグレイの元へと歩み寄ったUNKNOWNは、するりと彼女の頬へと手を伸ばす。
頬をひと撫でした後、顎へと手を移動させ、くいっと彼女の視線を更に上向かせた。
「今回の仕事が無事成功し正式なサンタになれば、伝説のトナカイのお前を頂こう」
「うわぁあ!? あ、アールグレイさんになんて事を!?」
顔を真っ赤に染め、絶叫と共にガタンと音を立てて立ち上がったユーリ・クルック(
gb0255)が、硬直したアールグレイを勢い良く(けれど何処か丁寧に)引っ張る。
「若いな‥‥」
ぽつりと呟いたオルランド・イブラヒム(
ga2438)の言葉に、笑いながら月森 花(
ga0053)は身に纏っていた白いウサギの着ぐるみの耳をつるりと撫でた。
「いいんじゃないかな? 楽しそうだしね」
「伝説のサンタに、俺はなるんだ‥‥」
配達前だというのに既にボロボロな終夜・無月(
ga3084)の体を支えるのは、
「ムツーキ‥‥無茶しやがって‥‥!」
無月の相棒としてトナカイ役を買って出た鈴葉・シロウ(
ga4772)。
「何で出発前からボロボロなの‥‥」
溜息を1つ吐いたアマデウスが、そんな2人を眺めていた。
「それにしても、このタイミングでスト‥‥? いい度胸してるな‥‥」
じとりとした視線をストの首謀者であるオレンジへと投げつけるユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だったが、一方のオレンジはというとにっこにこ笑いながらそんなヴェルトライゼンを抱き上げようとしていた。
何故なら、ヴェルトライゼンがいくらガンつけようとも、今の彼はとてもとても小さな雪狼姿だからだ。
「いやぁ可愛いなぁ。うん、フワフワしてそうだよね、可愛いねぇ」
「‥‥危機感持ってくれないかな。俺、怒ってるんだけど?」
「かーわいいの〜ワンちゃん♪」
「狼だから」
頭を撫で回すマジョラムの手を振り払う事も出来ず、ヴェルトライゼンは大きく溜息を吐いた。
「メンマとサルミアッキはいかが〜?」
「うわっ!?」
突然隣から上がった声に、驚きの声を上げるウラキ(
gb4922)が、隣の鳥人間‥‥元い、火絵 楓(
gb0095)を見て更に目を見開いた。
「いや、僕達も相当偏ったサンタとトナカイだとは思うけど、ちま狼に人間寸鳥?」
「いいんじゃないのかねぃ。年に一度のお祭りだ。楽しんだモン勝ちだろぃ」
ゼンラー(
gb8572)もどこか苦笑気味だ。
勢ぞろいのトナカイとサンタクロース達。
さぁ、今年の働き者達は一体どんな幸せを運ぶのでしょう?
●パンキングワゴン
白いワゴンにいっぱいのプレゼントを詰め込んで。
「‥‥うん。一回じゃ絶対無理だな」
「‥‥です、ね」
訂正。
白いワゴンの後部には山の様に詰め込まれたプレゼント。
更に入りきらなかったプレゼントが、地面に転がり落ちている。
執事サンタ・クルックとちま雪狼サンタ・ヴェルトライゼン。
2人のユーリをサンタにした街中配送『Wユーリ班』は、鳥人トナカイ・楓とスーツトナカイ・アールグレイが同行者だ。
「しょうがないって。行って帰って、何回かに分けよ!」
楓がパタパタと着ぐるみの羽根を振る。
苦笑しながら運転席に乗り込んだアールグレイが、全員乗り込んだのを確認してサイドブレーキを下ろす。
「少し時間が押していますから、急ぎましょうか」
「あ、ちょっと待って下さいアールグレイさん。まだシートベルト、がっ!」
勢い良く踏み込まれたアクセル。正しくアクセル全開。
「待った! アールグレイ、スピード出し過ぎだぞ絶対ー!!」
「交代〜! 運転手交代〜!!」
クルックとヴェルトライゼン、楓の声が、ドップラー効果で消えていく。
意外なスピード狂トナカイが、ここにいた。
●伝説のサンタ
伝説のサンタをご存知だろうか。
彼はどんなに過酷な状況であっても、プレゼントを心待ちにしている子供達の元へと幸せを運ぶ、優秀なサンタクロースだと言われている。
「そう‥‥たとえ、体調が優れなくとも、怪我をしていようとも、それが重傷だとしても。子供の笑顔と夢を守る為、俺はこのプレゼントを確実に届けてみせる‥‥!」
ぐっと握りこんだ拳の先に、ずらりと並ぶカラフルなラッピングの箱や袋。
無月は何故か既にボロボロになった自身に鞭を打って、誓いの言葉を口にする。
「‥‥げほっ」
しかし、サンタクロース協会から配給された服の下には、物凄い量の包帯が巻かれていた。
「ムツーキ。何だかサンタクロースっていうよりはミイラって感じだぞ‥‥?」
「気にしないでくれ。子供が待ってるんだ‥‥!」
「うん分かるけど。でも絶対子供が寝てる間にプレゼント置いてくれな? 逆に怖い」
シロウはそう言っているけれど、やはり相棒が心配なのだろう、肩を貸している。
「行き先は孤児院にジャングルの奥地の村、異常にセキュリティが高い白い家。と」
言いながらシロウはそれに、と心の中で思う。
(「持たないだろう。サンタの体が。絶対」)
「それじゃ、俺達も行こうかシロウ。時間もそんなに長くはない」
「りょーかい。んじゃ、露払いはトナカイの俺にお任せを、っと」
もう一度しっかりミイラサンタ・無月の体を支えなおして、インテリ系トナカイ・シロウは慎重に飛び上がるのだった。
この世界のサンタとトナカイの移動方法は様々である。
猛スピードで飛び出していったWユーリ班の白ワゴンは、アクセルを踏めば空を舞うし、まだ背後で打ち合わせをしている黒尽くめのサンタとマグロトナカイが所属する班の黒いランドクラウン型ソリは、言わずもがなマグロが牽く。
トナカイが人を抱えて飛ぶ事だって、当然出来るのだ。
●サンタ黒ース班
サンタクロースの家屋進入方法は、昔であれば煙突からだった。
しかし今のこの世界、煙突がある家は数少ない。
したがって、サンタクロースが家に進入する為の手段の一つが、ピッキングだ。
少々犯罪チックだが、そこは聖なる夜の使者達の可愛らしい悪戯だと、大目に見て頂きたい。
「ゼンラー、去年は『輪が違う物を並べていた』と捕まったので心配していた、よ」
「いやいやあの時は参ったねぃ。ちょっとソリから離れてたら、こうガチャン、っと」
「‥‥いや、そりゃ捕まるよ。俺なら通報するね。今すぐにでも」
ウラキの呟きは、幸いゼンラーには届かなかったらしい。
まぁそもそも、この班のサンタもトナカイもちょっと変わった種族ばかりなのだから仕方がない。
「すまないが背中のチャックを確認してもらえないか。自分じゃあ見えないんだ」
オルランドの声に溜息を1つ吐いて振り返ったウラキは。
「この班何なんだ‥‥」
もう1つ深い深い溜息を吐いた。
「大丈夫だねぃ。しっかり閉まっているよ」
「どこからどう見てもオルランド・イブラヒムには見えないから、安心するといい」
ゼンラーが豪快に笑い、UNKNOWNがぽん、と手袋越しにその着ぐるみを軽く叩く。
「‥‥カツオ?」
「マグロだ」
全身マグロの着ぐるみなトナカイなど、どの世界にも普通は、いない。
●可愛いサンタの大行進
「そういう事だから。お嬢が君のサンタ。よろしく」
アマデウスの言葉に、赤花のトナカイ・花とちびっ子サンタ・マジョラムはウキウキしながら手を繋ぎあった。
「あたしたちはちっちゃいから、おっきいのはもてないの」
「という事で、君達は近場の配達に行ってもらうよ」
持たされる荷物は、小さいけれど可愛らしいラッピングの施されたものばかり。
「小さいけど、幸せはいっぱい詰まってるんだよね」
「がんばるのっ!」
果たして地図は読めるのか、とかそんな事を言ってはいけない。
小さくとも、彼女達はサンタとトナカイなのだから。
「花ねえさま、レッツゴーなのー!」
「頑張ろうねっ!」
●パンキングワゴンが世界を回る
白いワゴンが空を飛ぶ。
「わわっ! ちょと待ってブレーキブレーキ!」
「あぁっ! プレゼントの山が崩れて外に‥‥!」
楓とクルックの叫び声に、スピード狂がやっとブレーキを踏んだ。
地面にすとりと着地した白いワゴンから、青い顔をしたヴェルトライゼン達がゆらりと降り立つ。
「うぅ‥‥酔った」
「アールグレイさん、意外とアグレッシブなんですね‥‥」
乗り物酔いしたWユーリサンタ達を見て、流石のトナカイも自分の運転がまずかったのかと、ほんのちょっとだけアクセルを踏む感覚をゆっくりにしようと心に決める。
「えーっと、時間には間に合ったんだけど‥‥サンタさん達、ダイジョーブ?」
乗り物酔いとはまるで関係のないメンマやサルミアッキを取り出す楓に、丁寧にお断りを入れて。
まずは最初の家に、とスケジュールに書かれた宅配先へと向かう事にした執事サンタ・ユーリとちま雪狼サンタ・ユーリを眺めながら、鳥人トナカイ楓とスピード狂トナカイアールグレイは車で待機する事となった。
「誰かは必ず車にいなければ。レッカーで持っていかれてしまっては元も子もないですからね」
「‥‥あるんだ、レッカー」
この世界もなかなか世知辛いものである。
●ジャングルの中心で助けを叫ぶ
「絶対にこのプレゼントは、配ってみせる‥‥!」
暗闇のジャングル。
もちろん街灯なんて洒落たものはない。
そんな真っ暗な道なき道を先導するインテリ系トナカイ・シロウに半ば背負われた形で歩くミイラサンタ・無月。
「見えてきた‥‥。渡された地図に間違いがなければ、あそこがこのプレゼントの配送先だ‥‥!」
「こ、子供に笑顔と夢を‥‥。‥‥げほっ!」
「ムツーキ‥‥! 無茶しやがって‥‥!!」
格好も不思議だが、言ってる事とやってる事はまるで熱血ものだ。
何とか目的の家へと到着したミイラサンタ・無月は、インテリ系トナカイ・シロウと共に子供の枕元へと歩み寄る。
事前に希望されていたプレゼントをそっと枕元に置いたその時に、無月は一枚のカードを見つけた。
「えぇと、何々‥‥『ゆきがみたいです』か」
「このジャングルじゃ、雪なんて降らないんだろうなぁ」
シロウの呟きを耳にしながら、無月はそっとそれを書いたであろう子供の頭を撫でる。
「うん。いいよ。俺は伝説のサンタになる男だからね。雪くらい降らせてみせる‥‥」
体は痛いけれど、子供の夢を叶えるのがサンタとトナカイの仕事。
ない体力を更に振り絞って、無月が使った魔法。
それはほんのちょっとだけ、空にお願いをする魔法。
「これ、で‥‥ほんの少し、だけ、だけど‥‥げほっ」
「ムツーキ‥‥!!」
サンタの体はボロボロだけど。
きっと明日には、ほんのちょっとだけ魔法が見られる。
暑くて湿気の強いジャングルに、一片の雪花が。
●軍人達へのクリスマス
マグロがソリ牽く『ランオーバー号』は、静かに着実に目的地へと向かっていた。
ちなみに。牽いているのはマグロトナカイ・オルランドだが、運転手は全身タイツサンタ・ゼンラーだ。
「次の角を右に。その辺りで車を降りないと、センサーに引っかかる」
「了解ウラキム。さぁて、あんのん。そろそろ仕事だねぃ」
地図以外に視線をやらない様に必死な苦労性トナカイ・ウラキの言葉に、空飛ぶ『ランオーバー号』は華麗に着陸した。
「ふむ‥‥。昔は煙突があったが」
音もなく手近な窓へと歩み寄ったモグリサンタ・UNKNOWNは、手際よく窓へとテープを貼り付けていく。
ピッキングに向かない窓の為、仕方がないので割って入らせて頂く事にする。
「ゼンラーさん、車は頼‥‥服は着ろ‥‥!」
つい熱くなってしまった全身タイツサンタ・ゼンラーにびしりと指と突っ込みを差して、苦労性トナカイ・ウラキは手にしたプレゼントを思わず取り落としてしまいそうになった。
「なるほど。見事な手際だ」
「格好つけてるけど、オルランドさん。あんた今マグロだから」
どうやら、このサンタ黒ース班の突っ込み担当は苦労性トナカイ・ウラキで決定した様子。
建物内に進入したUNKNOWNとウラキは、順調に目的の部屋へと向かっていく。
「流石に、電子化が進んだ、な」
次々にセンサー類を無力化していくサンタの後ろを、プレゼントを持ったトナカイが苦笑しながら続き。
そうして無事に、彼らは任務を達成しようとしていた、のだが。
「誰だ!?」
「しまった‥‥! 見張りの時間が予定と違ってたのか‥‥!?」
苦労性トナカイ・ウラキとモグリサンタ・UNKNOWNを照らす懐中電灯の光。
それを確認した後のUNKNOWNの動きは、素早かった。
音もなく見張りの背後に立った彼は、そのまま流れる様な動きで懐から黒い鉄の塊を取り出した。
小さく響く、撃鉄を上げる音。
「手を頭に腹ばいに、だ。目を開けるな」
「ひぃっ!?」
米神に押し当てられた『何か』に怯えた見張りが、言われた通りの体勢を取った。
「誰も今夜は来なかった。そうだな?」
「ほら。空気読んでくれなきゃ困るんだよ。今日は何の日?」
UNKNOWNとウラキの言葉に、見張りは無言のまま一生懸命視線で頷く。
「そうそう。今日は『クリスマスイブ』だからね。サンタとトナカイが、プレゼント持って来ても何も可笑しくなんかない。‥‥ね?」
子供に夢を与えるはずの職業だが、今、見張りの前に立っているモグリサンタと苦労性トナカイは、見張りに一体どんな夢を与えていくのだろうか。
●サンタ交代
何ヶ所か目的の家へと巡った白いワゴンのWユーリ班。
「そろそろお疲れでしょう、トナカイ役を交代しますよ。温かいココアもありますので少し休んで下さい」
執事サンタ・クルックの言葉に、アールグレイは目を丸くした。
「え、あの。私はトナカイですので、サンタ役の経験は御座いませんから‥‥」
当然である。
今年特別に雇われた彼らとは違い、彼女は『全世界トナカイ協会』に所属している正式なトナカイだ。
サンタクロースは別の職業で、彼女の職業ではない。
「サンタの仕事を体験してみるのもいいと思いますよ? 新しい発見が出来るかもしれませんし、ストライキを起こされない為の方策が見つかるかもしれませんし」
にっこり微笑みながらクルックが差し出すのは、サンタクロースの定番衣装だ。
「‥‥あれは、自分が見たいだけ、とか言わないか‥‥?」
「うも‥‥ボクも疲れたのだ‥‥交代なのだぁ〜」
結局押し切られて衣装を受け取ったアールグレイと、綺麗な笑みを浮かべるクルック、きっちりサンタの衣装まで持ってきている楓を順に見やって、ちま雪狼サンタ・ヴェルトライゼンは小さく肩を竦めるのだった。
ちなみに。
寒空の下、屋外で着替えさせる様な事をサンタ達が許すはずもなく。
新しいプレゼントを積み込みに戻ったその時に、Wユーリ班は全員が逆転の衣装を身に纏う事となった。
●つっかえる着ぐるみ
サンタ黒ース班の次なる配送先は、国土の広いとある国。
そこにある立派な建物には、強面のオニイチャン達が集まっているらしい。
‥‥いわゆる、マフィア。
「さて‥‥クールに‥‥潜入だよ」
抜き足差し足。そして忍び足。
ぐるぐると回ってくる見張りの目を掻い潜りながら、ウラキとUNKNOWN、オルランドにゼンラー。
「このルートも塞がれているか‥‥。なら、ルートEを使おう。通気口の中まで警備員が来るなんて事はないだろうからな」
マグロの着ぐるみのまま、器用に通気口のネジを空けていくオルランドを見て、しかし、と口を開いたのはUNKNOWNだった。
「しかし、マグランド。君は、通気口の中を匍匐前進出来る、かな」
「‥‥‥‥」
最もである。
●サンタとトナカイをお届けします
赤花のトナカイ・花とちびっ子サンタ・マジョラムは、人気の少ない道を駆け回る。
吐き出す息は真っ白で、二人の鼻は真っ赤になってしまっているけれど。
「メリークリスマス!」
子供の枕元にはプレゼントを。
そして迎え入れてくれた大人達には花から飴玉を。
「次は、サプライズがほしいっていうお家だね」
「んー。どうしよう‥‥」
二人で考え込んで思いついたのは。
「なら、大きな袋に入って、ボクたちがプレゼントっていうのは?」
「たのしそうなの〜!」
さてさてお二人さん?
その大きな袋は誰が持って行くんですか?
●世界中を掻き回せ
途中、サンタやトナカイ達を襲った悲劇などを皆さんにお教えしよう。
まずはサンタ黒ース班。
武装集団へのプレゼント配送時には、遂に何かのラインを超えてしまったゼンラーが
「クールだ! 拙僧達は今最高にクールだ!!」
と叫びながら『ランオーバー号』を乗り回してしまった。
それに対し、静かに激怒したのはトナカイ・ウラキ。
大きな国のマフィアへとプレゼントを配送した時に、彼はほんの少しだけお返しをした。
「もしもし、警察ですか‥‥不審者が‥‥」
とか何とか電話をかけて、半裸状態だったゼンラーは去年と同じく逮捕寸前まで陥ってしまったり。
「互いの利益の為、話をしよう‥‥僕達は通りすがりのサン‥‥うわっ!?」
マグロの着ぐるみ尻尾部分がセンサーに引っかかってしまったオルランドを引っつかみ、物凄い勢いで追いかけてくる怖い人達から、必死に逃げ回ったり。
とは言っても、逃走劇に加担したのはオルランドとゼンラー、ウラキの3人。
何故かモグリサンタ・UNKNOWNは淡々とその場を切り抜けてしまっていたのだけれど。
そして白いワゴンのWユーリ班。
サンタとトナカイを入れ替えるちょっと前、楓は犬と対峙していた。
「よしココは任せるのだ!!」
人間寸鳥な楓バーサス犬。
サンタ達が戻って来た頃には、何故か一人と一匹の間には不思議な友情が芽生えてしまっていたり。
サンタとトナカイを入れ替えた後、疲れ果てていたはずの楓はノリノリで
「馬車馬のように走るのだ!!」
と、運転席でアクセルを踏んでいるクルックを急かしたり。
「良い子は夜、ちゃんと寝るんだぞー。寝てない子には、プレゼントあげられないなぁ?」
ピッキングは無事に成功したにも関わらず、目覚めてしまった子供にちま雪狼サンタ・ヴェルトライゼンがポフポフと肉球で頭を撫でて子供を寝かしつけたり。
初めてのサンタ経験に戸惑うアールグレイを、見事にエスコートするクルックは、どう考えても最初から彼女にサンタをさせたかったに違いないが。
そして目標:伝説のサンタ班は。
途中で何度も力尽きそうになるミイラサンタ・無月を抱えて、シロウが街中で、
「誰か、コイツを助けてやってくれよ‥‥!!」
と悲痛な声をあげてみたり。
ない体力を振り絞って、伝説のサンタを目指し続けてはひっくり返る無月を介抱する割合の方が、ひょっとしたら高かったかもしれない。
ちびっ子班は、というと。
いつの間にかホームパーティに参加させてもらったりしていた。
「うわぁ! これ、貰っていいの?」
優しいお母さんが、サンタとトナカイさんの為にと編んでくれたマフラーをプレゼントしてもらった時には、もうどちらがどちらなのかよく分からない状態になってしまったが。
それでも楽しんでもらえていたので、いいのだろう。
●サイレンナイト・ホーリーナイト
今年の仕事も、多少誤算はあったにせよ無事終了。
ストの計画者であるオレンジにはしっかりとお灸が据えられた。
自慢の腕で珈琲を振舞うウラキと、礼儀正しくココアを淹れるクルック。
「ほら、アマデウス。特濃珈琲『ブラック』で。僕達は『サンタ黒ース』だから、ね?」
「皆さん、お疲れ様でした。俺もとても貴重な経験が出来ました」
寒空の下を駆け回った全員が、とてもとても疲れていたのだけれど。
――ジリリリン‥‥
部屋の中に響いた電話の音に、全員がぴくりとそちらを見やった。
そっと受話器を上げたのは、とりあえずこの中の代表である正トナカイの女性。
「はい、こちら『全世界トナカイ協会』‥‥」
交わされる会話と、いつの間にか置かれていたホワイトボードにキュイっと書き込まれた一言に、全員が腰を上げながら、苦笑するのだった。
『追加配送お願いします。サンタさん、トナカイさん』
彼らの夜は、まだ終わらない。
END