タイトル:極東列車防衛戦マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/31 23:49

●オープニング本文


「うわぁぁぁ!!」
 凄まじいブレーキ音と、人々の叫び声が響く。
 窓ガラスの割れる音と、物凄い力で壊されていく鉄の音。

 ロシアにある、バグア侵攻の前まで東西を横断していた『シベリア鉄道』。
 今はその機能も半分以下と低下して、途中から完全に断たれているが、それでもまだ動く部分のみ走行を続けていた。
 ただし、その鉄道を使用するのは軍関係者か武器商人のみで、普通の人間達は、その存在を忘れようとしている。
 そして今回、鉄道を使用しているのもやはり、軍関係者であった。
 貨物車両には本隊へ補給するミサイルが積み込まれている。
 そんな鉄道を襲った、突発的で、それでも今の世界情勢ではよくあると言える状況がそこにはあった。

「攻撃!? ‥‥キメラかっ!!」
「何っ!! 我々は科学者。戦闘には不利だ!」
 着実に、自分達に向かってくるキメラを見据えながら、彼らは懸命に通信を続ける。
「能力者へ! 能力者へ! ハバロフスクより西に15キロの地点でキメラによる攻撃を受けています! こちらには戦闘要員がいません! どうか応援を! どうか応援を!!」
 全ての通信回線を介して、数多の能力者に応援を頼む。
 だが、あまりにも時間が無さ過ぎた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
 科学者達の大きな叫び。
 貨物されていたミサイルの爆発も混ざって、大規模な破壊音が響いた後。
 そこには4体のキメラ以外、何も残ってはいなかった。

「このままでは、補給が完全に途切れてしまう」
 補給の受けられない軍の上層は頭を抱えた。
「しかし、鉄道はまだ我等にとって重要な交通手段だ」
「だからと言って、我が軍の兵士や科学者をこれ以上無駄には出来ん!!」
「それならば‥‥依頼しよう。次の車両を護衛してくれる能力者に」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
紫東 織(gb1607
20歳・♂・GP

●リプレイ本文

●シマノフスカヤ駅 1両目
「ロシアも変わらんな。バグアが出る様になった事以外は」
 紫煙を燻らせ、UNKNOWN(ga4276)は呟いた。
「目的地はウラジオストク駅」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が、路線図を指しながら説明を開始する。
「この車両は、ウラジオストクまでノンストップで走行する」
「ノンストップ‥‥まいったね」
 次いで紫東 織(gb1607)が淡々とした口調でつげると、その横に立っていた周防 誠(ga7131)が頭に手をやってポツリと呟いた。
「車両ん中は異常なし」
「まぁ、最初から中にいるはずはないけどね〜」
 須佐 武流(ga1461)とドクター・ウェスト(ga0241)が、其々口を開きながら姿を現す。
「そろそろ発車だ。各々、最初の持ち場に移動するとしよう」
 紫煙を引き連れながら、UNKNOWNは自身が担当する最後尾。ミサイルが積み込まれている10両目へと向かっていく。
「無線は常にON。無線がないUNKNOWNには、須佐から連絡を頼む」
「んじゃ、俺も行きますか」
 ホアキンの言葉に頷いて、須佐が向かうのは9両目だ。
「我輩も移動するよ〜」
「俺も行こう」
 白衣を翻したドクターは7両目。スーツを身に纏った紫東は2両目へと向かう。
 最後に残った周防は、小さく肩を竦めて、もう一度ポツリと呟いた。
「‥‥まいったね」
 彼の担当は1両目。つまり、現在いるこの場所だ。
 数分後。列車はシマノフスカヤ駅を発車した。

●2両目 紫東
 敵がどこから現れるか分からない為、紫東と須佐は交互に屋根の上に上がり、警戒を行なう事になっていた。
 双眼鏡で周囲を警戒しながら、紫東は走行中の列車の上だという事を感じさせない足取りで3両目へと足を運ぶ。
「前回はハバロフスクより西で攻撃にあった。だが、油断は出来ない」
 呟くと紫東は無線に向かって声を上げた。
「こちら紫東。3両目へ移動中。敵の姿はありません」

●4両目 ホアキン
「‥‥仕事でさえなければ、このシベリア原野を、車窓からのんびり眺めたかった‥‥」
 窓を微かに開けている為、煙草の煙が流れていく。
 索敵に使用していた双眼鏡から目を離し、流れゆく景色を見やって、少し残念そうに呟いた。
 無線機から周防が「仕事以外では乗れませんよ」と小さくツッコミを入れるが、聞かなかった事にする。
「こちらホアキン。敵はまだの様だ」

●9両目と10両目
「さぁて、どこにいらっしゃいますかね?」
 窓の外を双眼鏡で眺めながら、須佐は10両目へと足を運ぶ。
 列車の連結部分を飛び越える様にして、最後尾へと移る。そこに居るのは、10両目担当のUNKNOWNだ。
「須佐。こちらは異常なしだ」
「こっちも今ん所異常なし。しっかし寒ぃぜ‥‥」
 ボヤく須佐に、UNKNOWNが小さく笑ってカップを差し出す。
「珈琲だ‥‥身体よりも、魂を暖めなくては、な」
 UNKNOWNの手元にも、珈琲の入ったカップがあった。
「サンキュ!」
 嬉しそうに珈琲を口にして、須佐がUNKNOWNへ問い掛ける。
「そういや、あんた前にもロシアに来た事があんのか?」
「あぁ‥‥懐かしいな‥‥奴はまだいるのだろうか、な」
「知り合いか?」
「想像に任せよう」
 それ以上は何も聞かず、須佐は持っていた無線機に向かって声を上げた。
「9、10両目。異常なし!」

●7両目
「今回はサンプルを採取出来ないだろうね〜」
 双眼鏡で索敵しながら、ドクターは残念そうに呟く。
 やおら席を立つと、カツカツとブーツの音を響かせながら、自身の担当から1両前、6両目へと足を運ぶ。
「こちらドクターだ。まだ索敵には引っかからないね〜。一先ず、6両目に移るよ〜」

●アムール川鉄橋前 無線会話
「こちら紫東。現在屋根の上から4両目へ移動中。敵の姿はまだありません」
「こちら1両目、周防です。2両目へ移動します」
「りょーかい。こちら須佐。10両目に異常はなかったから、8両目に移動するぜ」
「こちらドクターだ。6両目も異常なし。索敵を続けながら、5両目まで移動するよ〜」
「ホアキン了解。こちらも異常なし。ドクターが5両目に移動するなら、俺は7両目に移動する」

●アムール川鉄橋通過 発見
 ドクターがそれを発見したのは、5両目の後部での事だった。
「ドクターだ。4両目左方向にキメラ1体。こちらに接近中の様だね〜」
 無線を介しての言葉に、一同に緊張が走る。
「こちら紫東。4両目屋根上。こちらもターゲット確認しました。臨戦体制に入って下さい」
「周防、目標視認しました。援護します」
「こちらホアキン。8両目右側から1体接近中だ」
「こちら須佐。俺も確認したぜ」
 其々が無線にて自身の行動を報告する。
「我輩と周防君の射程範囲に入るまであと少しだね〜」
「俺達の射程に入るのもあと少しだ。須佐、後方の彼に連絡を」
「りょーかい。UNKNOWN! 敵さんのお出ましだぜー!」
「見えている。近づく様なら威嚇射撃に入ろう」
 無線機を通して大音量で響く須佐の声と、小さくそれに答えるUNKNOWNの声。
「須佐さん、声でかい‥‥」
 キメラは2体。それぞれ高速で4両目と8両目へと突っ込んでくる勢いでやって来ている。射程距離まであと僅か。
 其々が覚醒し、自身の武器を構えたところで、いざ、戦闘開始!

●紫東・ドクター・周防戦
「牽制させて貰いますよっ」
 4両目を襲おうとするキメラへと狙いを定める周防。構えたスナイパーライフルの射程内に敵が入った事を確認すると、引鉄を引いた!
 羽根を撃たれた事により、キメラの速度は最初より遅くなっている。
「こちら紫東。上へおびき寄せて下さい」
「ドクターだ。体力は削っておくよ〜」
「周防、了解しました」
 ドクターは自身の射程内まで接近してきたキメラに、エネルギーガンで攻撃を開始した!
 柔らかい腹部を狙った攻撃のお陰で、キメラの向かう方向が上へと反れる。
「さてと‥‥この一撃で消えてくれませんかね!」
 周防は貫通弾を装填し、強弾撃・急所突き・影撃ちを使用した上で、キメラの関節へと攻撃を仕掛ける!
 狙い通りに着弾した攻撃に、キメラは更に上――紫東が待ち構える屋根上へと方向を変えた。
 キメラと紫東、共にまだ自分達の攻撃範囲には入っていない。
 と、ドクターが身を乗り出し屋根上の紫東へと視線を向ける。
「我輩から紫東君へプレゼント〜」
 ドクターの言葉の直後、紫東の武器ゼロが淡く光る。それは、ドクターが練成強化を使用した証拠だ。
 その数秒後、キメラが4両目の屋根上へと到達する。
「ターゲット排除する」
 瞬天速で素早く間合いを詰めた紫東が、キメラへと攻撃を開始する!
 不気味な声を響かせながら、キメラが高速移動で紫東へと体当たりを繰り出した!
「‥‥っ」
 回避の間に合わなかった紫東がダメージを喰らってしまう。
「紫東さん!」
 装備をアラスカ454へと変更した周防が、紫東からキメラを遠ざけ様と援護射撃を行なう!
 その間に、連結部分へと移動したドクターが、屋根上の紫東を視認する。
「今、体力の回復と敵の弱体化を行なうよ〜」
 ドクターの練成治療によって、紫東のダメージは回復し、練成弱体によってキメラの防御力は低下した。
「終わらせる」
 疾風脚を使用した紫東が、素早く間合いを詰め、構えたゼロで斬り裂く!
 体力の尽きたキメラが屋根上から転がり落ちる。場所は丁度、ホール川渡河の真上。冷たい川の中へ、キメラは姿を消したのだった。

●須佐・ホアキン戦
「羽根を傷つければ早くは動けないだろう」
 無線越しのホアキンの言葉に、須佐が声を上げる。
「確かに。10両目にも1人配置してるが‥‥俺がここで抑えちまう方が安全だろうな」
 ホアキンはエネルギーガンの照準を接近してくるキメラへと合わせる。そうして、射程距離にキメラが入った事を確認して。
「攻撃を開始する」
 言うが早いか、キメラの羽根へと攻撃を開始した!
 キメラの片羽に、確実に命中した攻撃は、敵の移動速度を遅くする事に成功する。それを確認して更に攻撃を続ける。
 打ち込まれた攻撃にキメラが声を上げ、須佐目掛けて体当たりを仕掛けた!
「おっと!」
 攻撃を回避した須左は、不敵に笑う。
「おまえ、腹部と関節が弱いんだろ? 悪いが、そこ狙って一気に叩き潰すぜ!」
 須佐は急所突きを使用して、足に取り付けられた刹那の爪で、キメラへと回し蹴りを繰り出す!
 腹部へと叩き込まれた攻撃に、キメラが再度声を上げる。
「まだまだ!」
 続けて連続で蹴りを叩き込み、キメラの体を微かに宙へと浮かせる。
 その時。
「遅くなった」
 屋根の上へと姿を現したのは、左手に長剣ソードを携えたホアキンだ。
「風景を楽しみたい。消えてくれ」
 構えたソードを振りかぶる。ソニックブームを使用した衝撃波が、キメラに襲い掛かる!
 攻撃を受けたキメラは、雪原へと落ちて動かなくなった。

●2体撃退後 無線会話
「こちら紫東。4両目のキメラ1体、殲滅しました」
「周防です。援護終了。1両目へ戻ります」
「ドクターだ。敵は高速移動と体当たりのみの単純なキメラの様だね。羽根と腹部、関節を攻撃をするといいよ〜」
「ホアキン、8両目のキメラ殲滅完了。持ち場の4両目へ戻る」
「こちら須佐。紫東、交代の時間だぜ」
「その前に、10両目のUNKNOWNさんに連絡を」
「おーい、UNKNOWN! 4両目と8両目、1体ずつ撃退したぜー!」
「だから声‥‥」
「我輩は7両目へ戻ろう〜」
「こちら紫東。須佐さんと交代後、2両目に戻ります」

●暫しの休息 7両目
「ティータイムは重要だね〜」
 紅茶を口に運びながら、7両目の席に腰を下ろしたドクターが呟く。
「ずるい‥‥」
 恨めしそうな周防の声が、無線機から響いた。

●暫しの休息 10両目
 紫煙を燻らせながら、UNKNOWNは双眼鏡で周囲を警戒していた。銜え煙草の状態で、器用にブルースを口ずさむ。
「‥‥足りんな。他のはどこだ?」
 まだ、彼自身の射程範囲に敵の姿はない。けれどもUNKNOWNは、双眼鏡から目を離す事はなかった。

●暫しの休息 1両目
「眠い‥‥」
「周防、寝るなよ」
 ‥‥暇さのあまりにうとうとする周防に、無線で釘を刺すホアキン。
 旅はまだまだ。

●ウスリースク駅通過直前 発見
 UNKNOWNがそれを発見したのは、目的地まであと数駅という場所だった。
「――来たか」
 愛銃ナインティーンを構え、9両目の左側から接近してくる敵へ銃口を向ける。
「UNKNOWN、あんたも見つけたか?」
 9両目の屋根上から声をかけてきたのは須佐だ。
「あぁ。連絡を頼む」
「りょーかい。こちら須佐! 9両目左方向にキメラ1体確認!」
「こちらドクターだ。8両目に移動しているよ〜。援護を行なうとしようか〜」
 無線機を通じての須佐の言葉に、最初に返答を返したのはドクターだった。
 そして、次に聞こえてきたのは1両目の周防の声。
「こちら周防です。1両目右側からキメラ1体接近中。攻撃体制に入ります」
「こちら紫東。1両目屋上へ上がります」
「ホアキン了解。2両目に移動して援護を行なう」
 其々敵を確認すると、持ち場へと移動する。いざ、二戦目開始!

●UNKNOWN・須佐・ドクター戦
 自身の射程距離に入った瞬間、UNKNOWNは強弾撃を使用して攻撃を開始する!
 キメラは羽根を傷つけられ、飛行角度を列車の屋根上へと変更した。
「相手が、悪かったかもしれんな」
 呟きながらも、屋根上に誘導するように攻撃を続ける。
 キメラが完全に9両目の屋根上へと上がる直前、ドクターが窓から顔を出して須佐を見やった。
「須佐君に我輩からプレゼントだ〜」
 ドクターの練成強化によって、須左の武器が淡く光る。直後、キメラが9両目の屋根上へと上がって来た。
 須佐は瞬天速を使用して間合いを詰めると、キメラの腹部へと連続で蹴りを加える!
 須佐の攻撃の後、キメラが体当たりを繰り出すが。
「当たんねーよ!」
 須佐は素早く回避し、攻撃をかわした。
 10両目から、漆黒のコートを靡かせながらUNKNOWNが姿を現す。照準を標的へと定めると。
「‥‥冷たき大地に眠りたまえ」
 鋭覚狙撃を使用した弾は、確実に関節を打ち抜いた!
「そろそろ終わらせてしまいたいね〜」
 ドクターはそう言いながらキメラへと視線を向ける。
 練成弱体を使用して、ドクターはキメラの防御力を低下させると、自身はエネルギーガンで攻撃を続ける!
「須佐‥‥今だ」
 弱り始めたキメラを見てUNKNOWNが告げる。その言葉の直後、須佐がキメラへと間合いを詰めた。
「一撃で叩き潰す!」
 言って急所突きを使用し、腹部へと目掛けて攻撃を繰り出した!
 落ちていくキメラへ、UNKNOWNが止めとばかりに狙撃眼と鋭覚狙撃を使用して射撃する!
 声も出せず、キメラは9両目の屋根上から雪原へと転がり落ち、動きを止めたのだった。

●周防・紫東・ホアキン戦
「直ぐ行くから持ちこたえろよっ」
 無線から響くのは先程まで9両目で戦っていた須佐だ。
「周防です。射程に入りました。攻撃を開始します」
「屋根上にて排除行為を行なう」
「こちらホアキン。援護射撃開始する」
 まず攻撃を開始したのは周防だ。
 急所突きを使用したSMGから繰り出された攻撃は、キメラの腹部へと叩き込まれた!
「こちらも射程に入った」
 同じくホアキンもエネルギーガンで攻撃を加える!
 飛行角度を変えられて、キメラが1両目の屋根上へと現れた。
「排除開始する」
 間合いを詰め、紫東は急所突きを使用してゼロで攻撃を開始する!
 キメラが体当たりを仕掛けてくるが、紫東は素早く回避した。
 それを見た周防が4発攻撃を加える!
 続いてホアキンが援護射撃を行なう!
「しぶといっ」
 紫東が連撃を加えるが、なかなかキメラは倒れない。
 と、次の瞬間。
「待たせたなっ!」
 瞬天速を使用したのだろう、須佐が屋根上へ姿を現した。直後回し蹴りの要領でキメラへと攻撃を与える!
「弱体化させるよ〜」
 効果範囲に姿を現したドクターが、キメラへと練成弱体を使用し防御力を下げた!
「これで終わりだ!」
 周防の放った弾丸が、キメラに止めを刺す!
 雪多い原野に、最期の1体が落ちて消えていった。

●終点 ウラジオストク駅
「無事ミサイルは守りきれたな」
 煙草を燻らせながら言ったUNKNOWNが、全員に珈琲を配る。若干一名、紅茶派がいたが。本人は自身で持っていた紅茶を飲んでいた。
「キメラも殲滅したし、これで依頼は完遂だな」
 暖かい珈琲と紅茶。寒く長いシベリア鉄道の旅は、やっと暖かく終わったのだった。

 END