●リプレイ本文
●ダミー&準備開始!
漸 王零(
ga2930)の発案により、サプライズ結婚式を隠す為のとある企画が実行された。
「っていうかさ。何で俺ら社員までやんの?」
「いいんじゃない? 楽しそうだし。俺もご一緒させてもらうからさ!」
他のメンバーが結婚式の準備を行っている間、サプライズを仕掛けられるレグズィスと一緒に行動するのが鈴木悠司(
gc1251)の担当だ。
(「頼みますよ〜皆さん‥‥!」)
別のフロアでこっそり準備をしているだろうメンバーに祈りながら、悠司は万が一の為にとレグズィスを先導する様に動くのだった。
一方、結婚式を行う予定のフロアでは、ダミー提案者の王零やユーリ・クルック(
gb0255)、獅月 きら(
gc1055)が、料理に装飾にと忙しそうに準備を進めていた。
同じくヤナギ・エリューナク(
gb5107)は持参した白薔薇をフロア中に飾りつけ、月城 紗夜(
gb6417)はバイト先のケーキ屋で店長と共に作成してきたクロカンブッシュをセッティングしている。
言い出しっぺのお祭り好き女王様、オレアルティアも今回ばかりは愛娘や部下を引き連れて準備を手伝う。
準備中のメンバーをフレームに収めていくのは王 憐華(
ga4039)と赤宮 リア(
ga9958)の2人組みだ。
「はい! 赤い帽子の写真屋さんと〜♪」
「黒髪の団子好きの写真屋ですよ〜。あ、皆さまはそのまま作業してて下さいね」
可愛い2人組の写真屋達は、作業中のメンバーの写真も撮っていく。
サプライズの裏側ではこんな事があったんだよ。というネタばらしも含み。である。
調理スペースは簡単な仕切り板でフロアと分けられていた。
「憐華、例の写真を頼む」
「分かりました零」
調理スペースから声をかけられて、憐華はフロアで準備中のメンバーからお目当てのちびっ子を探し出す。
「オレガノちゃん。お写真撮らせて下さいね〜」
カメラを向けられた社長の愛娘が、こてりと首を傾げながらも憐華の向けるカメラへと笑いかけた。
ぱしゃり、と1枚写真を撮らせてもらってから、憐華はカメラへと新しいネガを装填し、大急ぎで抜き取ったネガを現像するのだった。
控え室では鬼非鬼 ふー(
gb3760)は新郎新婦の衣装の最終チェックを行っていた。
通常のタキシードとウェディングドレスだけでなく、イギリスでは珍しい『お色直し』様の衣装調達もふーの仕事。
新婦にはシンデレラドレスを。そして弄られ役の新郎レグズィスには典型的白馬の王子様スタイルをチョイスする。
「あと必要なのは‥‥人数分の巨大クラッカーと、例のパイよね」
ふーの発案したトリともいえる最後の最後に全員で行う『とある遊び』には、そのパイがどうしても必要だったのだ。
「‥‥そろそろ時間かしら」
控え室の扉をノックする人物に気付いたふーは、どうぞ、と入室を許可する言葉を発した。
「ふむ。どうやら間に合った様だ」
フロアに到着したUNKNOWN(
ga4276)は最後の準備担当だった。
それは、教会以外で結婚式を挙げる際に必要な司教からの許可証。
準備も終わり、後は新郎と誘導係の悠司の到着を待つばかり、というフロアのメンバーを見回して、UNKNOWNは持参したヴァイオリンをそっと自身の側に置き、一度大きく紫煙を吐いた。
本日の彼は、奏者であり、そして牧師なのだ。
●ウェディングマーチ開幕
「え。何で俺こんなきっちりした服着せられてんの? 真っ白のタキシードとかありえねぇ」
「僕は知らない。社長の命令なんだから、黙って着てなよ」
「あ、ここがゴールみたいですね。さ、どうぞお先に」
「え。何で客に『どうぞ』って言われてんの俺」
「煩いよ。さっさと開けたら」
‥‥なんて言葉達が、扉の向こう側から聞こえて来る。
扉のこちら側では、その様子を想像した新婦とこの社の女王様、その愛娘が一生懸命笑いを堪えようとしていた。
「子猫、此処で笑ったら悪戯は失敗だぞ」
「オレガノちゃん、しーっですよ」
「はい、クラッカー構えて下さいね〜」
王零、憐華、リアが其々に小声で話しかける。
「皆さん、準備はいいかしら」
「さん、にー、いち‥‥」
ふーが確認をとり、ヤナギが口にするカウントがゼロになった、次の瞬間。
バタンと開かれる扉の音を掻き消すくらいに大きな破裂音が、フロアに響いた。
――パンパンパンッ!!
突然の音に一気に後ずさったS&J社の弄られ役を照らすスポットライト。
彼の眼前に広がったのは、見事に装飾された社のフロアと、様々な人間のしてやったり、といった表情。
そして、美しく着飾った自分の妻になる女性の姿だった。
「え、え!? 何、何コレ!?」
目を丸くしたレグズィスの前で、沢山の人々が声を合わせ。
「結婚おめでとう!!」
祝福の言葉を口にした。
●サプライズウェディング
結婚式の進行は牧師役のUNKNOWNが取り仕切る。
低く響く声が、粛々と式を進めていく。
「永久に、2人に祝福を」
驚きながらも誓いの言葉を交わし、隣に立つ妻へと「何で黙ってたんだよー!」と半分涙目の新郎と、それをにっこり笑いながら「あなたがヘタレだからじゃないの?」なんて言い返す新婦。
既に息もぴったりな2人を主役の座る席へと落ち着けてから、このサプライズ結婚式の演出を練っていた能力者達から様々なお祝いが贈られた。
テーブルに並べられている料理は王零とユーリ、そしてきらが心を込めて作ったものばかり。
合間にヴァイオリンを響かせるのは牧師兼奏者のUNKNOWN。
その間にベースの最終調整を終わらせたヤナギが、悠司と数回チェックを行ってから声を挙げた。
「それじゃ、盛り上がっていくよっ! 二人の幸せの為に‥‥」
「俺らから祝福を歌に乗せて‥‥」
悠司が手にしたタンバリンを数回鳴らして拍を取り、それに合わせてヤナギがブルースハープとベースを弾き始めた。
―― Congratulations!
Today is a happy
Today is the day of departure
Lets go Sunflower blooms to that place
Sunflowers…
I’m just looking at you
Sunflowers…
I’m just believing you
Congratulations!
Today is a happy
Today is the day of departure
Lets go Sunflower blooms to that place
Greater Greater Happiness
Forever Forever Happiness ――
ヤナギが自身で作ったのだというその曲は、彼の雰囲気に良く似たロック調。
明るく、テンポ良く、ただ静かなだけでなく明るく程よく砕けた雰囲気は、このサプライズにピッタリだ。
ヤナギと悠司の曲は全員の拍手で終わり、そして次の曲の準備に入るタイミングに合わせて、新郎新婦はお色直しの為に一度退席する。
その間は出席者での歓談だ。
●歓談でからかわれるのは‥‥
「オレアルティア、お久しぶりです」
「お久しぶりですね、ユーリ。お元気そうで安心しましたわ」
微笑を浮かべながら話をしているユーリとオレアルティアを眺めて、ふむりと頷いたのは王零。
両手をそれぞれ憐華とリアに取られながらも、歓談を続ける2人へと歩み寄っていく。
「やぁ子猫。今年も面白い企画を思いついたものだな」
「いつぞやは本当にありがとう御座いました。お陰様で仲睦まじくやっております♪」
「こんにちは〜。今日はおめでとう御座います」
正しく両手に花、の状態の王零を見て、一瞬目を丸くしたオレアルティアだったが、成程とひとつ頷いて言葉を返した。
「相変わらずのご様子ですね、漸様。赤宮様も、王様も、幸せそうで何よりですわ」
笑みを苦笑に変えながら告げる女社長と、その横に立って同じ様に苦笑しているユーリとを見比べて、憐華は柔らかく笑う。
「ユーリさん、オレアルティア様も仲が進んでいらっしゃるようなので、次にこういった風に皆さんで祝うのは御二人ですか?」
「‥‥え‥‥?」
目を丸くしてきょとんとした2人を見やって、王零は抱きつかれたままの体勢で器用に何かを取り出した。
それは見事な飴細工。
真ん中がちょこんと小さく、塊としては3つが繋がっているそれは。
「‥‥え、ちょ、漸さん!?」
ユーリと社長の愛娘、そしてオレアルティアが手を繋いでいる姿に似せて作られていた。
ボンッと音を立てて赤面してしまったユーリを見て、リアは驚きの声を挙げる。
「えぇっ? それはおめでとう御座いますっ! 遂にオレガノちゃんに新しいパパが出来るのですねぇ♪」
「ぱ、ぱぱぱっぱ‥‥!?」
「あら。想像していなかった訳ではないでしょう、クルックの」
背後から顔を出したのはその経緯を知っているふーだ。
「グレイとクルックはまだ結婚はしないのか?」
「あらまぁ月城様。楽器の調整は終わりまして?」
微笑みながら会話を続けるオレアルティアと違って、ユーリは周囲のからかい混じりの言葉に真っ赤になって慌てふためく。
「真っ赤ですけれど、大丈夫ですか? よろしければ、ソーダをどうぞ」
給仕をしていたきらの手渡したソーダをぐいっと一気に飲み干してしまい、更に咳き込む羽目に。
「何なら一緒に式を挙げてしまえばよかったのに」
「ごほっ! しっ、しき‥‥!?」
「‥‥皆様、純情な少年で遊ぶのはおやめ下さいね。ユーリも、ソーダを一気に飲めば咽てしまうのは分かっておいででしょうに」
トントンと背を軽く叩かれて、ユーリの執事服の脇からちらりと銀色の銃が見えたりしたものだから、からかいは最高潮に達してしまう。
「『純情な少年』相手に恋愛してるのは誰だ子猫」
「否定は致しませんわ」
これ以上からかうと、人が色んな意味で爆発してしまうかもしれないので、割愛。
●形の残らない贈り物
イギリスでは珍しいお色直しを経験した新郎新婦。もちろん服装はふーの提案したシンデレラと元祖王子様スタイルだ。
「良く似合ってるわよ、二人とも」
‥‥新郎は、半泣きだったが、新婦がノリ気だったので拒否出来なかったらしい。
「‥‥次は、我からの贈り物だ。共に歩んでいく者達へ、弟の歌を‥‥」
予めヤナギと悠司にスコアを渡して確認していたので、大丈夫だろう。
紗夜は弦を強めに絞ったアコースティックギターを軽く鳴らし、アイコンタクトを取り合い。
式場に透明感のあるソプラノヴォイスが響いた。
―― 一人で涙は流したけれど、その水はきっと希望に
その弾けた音は空へ 僕を越えてずっと遠く
君となら怖くないよ 輝く太陽に近づくことさえ 出来る気がするんだ ――
即席の3人組とは思えない、見事な演奏と歌声だった。
「‥‥♪ みなさん、素敵です」
給仕を続けながら、きらは演奏に耳を傾けていた。
そんな姿もフレームに収めていくのは憐華とリア。
新郎新婦だけではなくその他のメンバーも写真に写すのは、その時祝い祝われた関係も大切にして欲しいという願いを込めて。
歌声は心の中に。姿は写真の中に。思い出は記憶の中に。
この場がなければ出会わなかったかもしれない数多の人々との出会いに感謝を。
そんな想いを込めて。
●ある意味大本命?
式もいよいよクライマックス、という直前。
遂に今回の式である意味『メインディッシュ』ともいえるお祭り騒ぎが始まろうとしていた。
新郎であるレグズィスから参加者全員への感謝の言葉が述べられている最中。
こっそりひっそりと新婦へと近寄っていったのは発案者のふーだった。
「そろそろいいかしらね。‥‥それじゃあ、はい。これ」
新婦へ手渡されたものは、白一色の円柱状の『武器』だ。
にっこり笑って受け取った新婦を確認して、ふーはこの『メインディッシュ』に参加するメンバーへと目配せをする。
ごそり、とテーブル下から各々それを取り出し、臨戦態勢に入った。
そして次の瞬間。
「ぃよっしゃっ! 貰った!」
ヤナギの投擲したクリームパイと、新婦の投げつけたクリームパイが前後から新郎の頭部へとぶつかった。
参加しないメンバーと撮影陣は隅に避難し、観戦を決め込む。
勢い良く式場内を飛び交うクリームパイ。
「やるからには徹底的に、だ」
「あははっ。レグズィスさんごめんねー! でもおめでとー!」
紗夜と悠司も笑顔でクリームパイを主に新郎へと投げつけていた。
「って、待った社長! 何でアンタまで一緒にな‥‥ぶふっ!」
「お祝いですもの。楽しまなくては」
「オレアルティア、はい次のパイです」
意外とノリにノッたのは社長、だったかもしれない。
●フレームに収まったMarriageParade
後日。写真担当だったリアと憐華から、会社宛にアルバムが届いた。
表紙には正装した新郎新婦。表紙裏にはサプライズに驚いた新郎の姿。
中には結婚式の準備中と真っ最中の沢山の写真達。
調理中のきらや、ベースの調整中だったヤナギ。
クロカンブッシュをセッティングしつつちゃっかりアルバイト先の紙ナプキンもセットする紗夜。
王零へと「あーん」している憐華と、その次に同じく王零に「あーん」しているリア。
ちゃっかりクロカンブッシュをオレアルティアへと「あーん」しているユーリと、それの謂れを思い出したのか真っ赤になったユーリ。
歓談中の曲に合わせてダンスを踊るUNKNOWNとオレアルティアに、続けてユーリにリードされて踊る同じ女性。
小さなネコの着ぐるみに身を包んだ社長をイメージした飴を作っている王零に、曲に合わせてタンバリンを叩く悠司。
巨大クラッカーと沢山のパイを仕込み続けるふーを手伝う黒髪の科学者と茶金の髪を揺らすちびっ子。
全てのパイの直撃を祝福を込めて受けた新郎の横で、幸せそうに笑う新婦。
中華にイギリス料理等、アップされた様々な料理に、大きめに伸ばされたハートを模した繊細なデザインの施されたウェディングケーキ。
背表紙裏には、飴細工を手渡されて顔を見合わせたユーリと社長とその愛娘の照れくさそうな写真。
最後の背表紙には、後方中央にお祭り好きの社長と彼女の年下の彼氏を。
そして最前列の中央に、新郎新婦を配した集合写真が収められていた。
そこには色々な筆跡で、其々参列したメンバーの名前が、寄せ書きの様に添えられてあった。
『Love is a flower which turns into fruit at marriage.』
誰かの流れるような一筆が、サプライズ結婚式の締めくくり。
どうぞこの幸せの種が、いつの日にか世界中に広がる時が、やって来ますように。
END