タイトル:【MN】黒猫、捕獲作戦!マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/05 02:21

●オープニング本文


 夏の暑さは、時々人の精神をおかしな方向へと壊す‥‥かもしれない。


 □■■□


「出来た‥‥」

 とある日の事。
 英国のとある銀食器メーカーに勤めている一人の科学者が、ぽつりと小さく呟いた。
 ダボダボの白衣の袖を捲くり上げ、ぼんやりとした赤い瞳には可笑しな色の光が宿っている。

「これは僕が長年研究してきた薬だよ。大丈夫、後はデータを採るだけだけど、間違いなくいい成果が出せるって思ってる。自信作だよ」

 目の下に隈を作りながら、それでも嬉々とした表情でずいずいっと2つのカプセルを上司へと差し出す。

「‥‥あら、まぁ。それは楽しそうですわね‥‥」

 差し出された薬を見やる科学者の上司も、最近忙しかったのだろう、非常に疲れきった雰囲気プラス、酷く眠そうな表情だった。
 恐らく、押し寄せる眠気のせいで、正常な判断が出来なかったのだろう。
 科学者がどんなものを作ったのかも確認せずに、頷き返した。

「そんなわけだから。一人1錠。僕と社長で実験するよ」
「分かりましたわ‥‥飲みましょう‥‥」

 普段ならば、ここで最年長の役員が止めに入るのだが。
 生憎と、全員が出払ってしまっていた。

 ――そうして、悲劇(というよりも喜劇に近い)が始まった。


 □■■□


「オレアルティア様、失礼致します。こちらの書類にサインを‥‥」

 社長室の扉をノックしてから開いた初老の男性は、部屋の中を一瞥して。
 パタンと無言のままに扉を閉めた。

「目の錯覚でしょうか‥‥。社長室が屋荒らしされた様な惨状の上に、黒い猫が2匹いた様に見えてしまいました」

 ああ。老いとは恐ろしい。
 男性は小さく深呼吸を繰り返してから、もう一度扉を開いた。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

 見つめあう事、数十秒。
 先にじれたのは、元々部屋の中にいたもの達だった。

「にゃあお。やっと、とびりゃが、あいたにゃあ」
「にゃー。もう、このへやは、あきたにゃ」

 ちっちゃい黒猫が2匹。間違いなくしゃべった。変な語尾つきで。

「お、おおおおオレアルティア様、ヴォルフガンク様ーーー!?」

 初老の男性の絶叫をBGMに、2匹のちま黒猫は部屋の外へと逃げ出した。


 □■■□


 会社内は2匹のちま黒猫の悪戯(本人‥‥本猫? 達からしたら、ただ遊んでいるだけ)のせいで、ひっちゃかめっちゃかになってしまった。
 やれ重要書類はビリビリに破かれてしまうわ、朱肉やインクで肉球スタンプを押されてしまうわ。
 やれ工場フロアの重機のスイッチをでたらめに押されてしまうわ。
 もうこのままでは会社がぶっ壊れてしまう。非常に簡単に言ってしまえば。

「誰か、あの2匹を捕まえてくれ!!」

 意外とすばしっこく逃げ回る2匹のちま黒猫を捕獲すべく、会社は手配書を内外構わずばら撒くのだった。

『至急! 猫を手懐ける事が得意な方募集。とにかく2匹のちま黒猫を捕獲して下さい本当にお願いしますから!』


※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
鬼非鬼 ふー(gb3760
14歳・♀・JG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
相賀翡翠(gb6789
21歳・♂・JG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ネオ・グランデ(gc2626
24歳・♂・PN
テッサ・フォクスロット(gc4410
20歳・♀・ST

●リプレイ本文

●ちま黒猫ハンター、集まる
「そっか。社長室は使えないんだ」
 ちま黒猫を捕獲した後、薬が切れるまでどこか別の場所で遊ばせようと思っていた新条 拓那(ga1294)と石動 小夜子(ga0121)は顔を見合わせた。
「なら、どこか猫さん達と遊べる広い部屋はありませんか?」
 小夜子の問いに、会議室が一部屋空いていると社員は提案する。
 会議室の場所を教えてもらってから、二人は会社中に散らばった書類と社員の悲鳴に肩を竦めた。
「これはまた、随分とやんちゃの激しい猫みたいだねぇ」
「まずは猫達を探さないと、ですね」
「まぁ、ちび猫なら普通かな。元気があって何より♪」
 足元にひらりと舞い落ちてきたボロボロの書類を拾い上げて、小夜子は目を輝かせる。
「見て下さい拓那さん‥‥!」
 書類を差し出す小夜子の嬉しそうな笑顔を見て、拓那は小さく笑った。
 彼女の輝く笑顔の理由は、書類に押された、ぷにっとした、肉球スタンプである。
「猫様猫様、後生ですから私どもに可愛いお姿をお見せくださーい。今ならもれなく猫缶を献上いたしますよ〜」

 これでもか! という量の猫用グッズを持参したユーリ・クルック(gb0255)は、社長秘書のシュレティンガーから社内の見取り図を受け取っていた。
「あの、もうひとつお願いがあるんですけど」
 そう言って彼が取り出したのは、ちま猫ハンターには似合わない銀色の銃2挺。
「おれあるてぃあをモフ‥‥捕まえる間だけ、どうかこの銃を預かって頂けませんか?」
「え、えぇ。構いませんが」
 今このちま猫ハンター、モフるとか言いそうにならなかったか? しかも猫限定で。
 そんな事を考えながらも、秘書は表情に出す事無く、丁寧に出された銀の銃を預かるのだった。
「後は被害状況を教えて下さい。肉球スタンプ限定で」
 ユーリ・クルック。彼は本命『おれあるてぃあ』一筋である。

「つーか、あのマッドサイエンティスト。なんつー薬を作ったんだよ」
 意味が分からない。と言いながらもちま猫を捕獲しにやって来たのは相賀翡翠(gb6789)。
 薬を生み出した科学者であり、現在捕獲対象になっているヴォルフガンクの友人だ。
「とにかく、機械のスイッチ押しまくってるのがヴォルフ‥‥あ、今はぼるふ、なんだっけか」
 友人として、どうにかしてやらねばと意気込むが、社員の悲鳴が至るところで上がっているのを聞くと、思わず引き攣った笑みを浮かべそうになってしまう。
「‥‥大丈夫かな、俺」
 嘗て彼は、科学者だったヴォルフガンクの持つ恐るべき凶器、クリップボードの餌食になった事がある。
 だからこそ心配になるのだ。
 今度は一体、どんな目に合うのだろうか、と。

「それで、麻宮君。どうして銀食器の会社になんか来たのか教えてくれるかな?」
「あー、うん。特に意味はなかったんだけど、何だか面白そうだったから。ちま猫の捕獲とか、楽しそうじゃない?」
 猫用おもちゃを持参しているあたり、ちゃっかりしている麻宮 光(ga9696)は、苦笑しながら同行しているテッサ・フォクスロット(gc4410)に答えた。
「肉球スタンプを見つけて、あとをつければいいんだな、分かった」
「それにさ。楽しそうな獲物も、しっかり来てるし」
 指差したその先には、じたばたちまちまと動き回っているものが1匹。
 捕獲対象の猫に捕獲されるのではないだろうか、その小さな存在の名はジャック・ジェリア(gc0672)。
 姿は‥‥アヒルだ。
「違うよ! ガチョウだってば!」
 ご指摘、有難う御座います。ではガチョウで。
「麻宮君、そんなものを持って、それは何に使うんだ?」
「え? このダンボール? そうだなぁ‥‥段ボール箱にアレ入れてたら、猫も寄って来たりして」
 言いながら視線の先には、ガチョウのジャック。
「え、早速命の危機!?」

 まぁ、可愛らしい姿といえば可愛らしい姿なのだが、社内は阿鼻叫喚だ。
 その様子を見物に来たのは月城 紗夜(gb6417)である。
「とりあえず、罠は仕掛けておいてやる。断る訳ないよな、依頼出したのそっちだろ? つべこべ言わずさっさとやれ」
 若干社員を脅し気味な彼女だが、一通り仕事はしている。
 つまり、ちま猫ハンターとしてのお仕事その一、罠作りである。
「何処にいるか、監視カメラとかないのか?」
「なー、早いとこ社長とヴォルフ‥‥じゃなくて、猫2匹を捕まえてくれよー。仕事になんねーんだって!」
 そこに現れたのは営業課のお偉いさんで、今年の6月に結婚したばかりの男だ。
 どうやら書類をギッタンギッタンにされているのは彼の部署らしい。
「ああ、貴公はあの時の新郎か。もう諦めた方が無難だろう。本日、会社は開店休業にしたらどうだ? 一緒に遊ぶといい」
 確かに、この調子では仕事にならないだろう。

 持参した猫用ベッドと猫用トイレを設置しながら、鬼非鬼 ふー(gb3760)はひとつ頷いた。
「猫だって生き物、催すこともあれば眠くもなるわ」
 今は猫になっているらしいこの社の女社長を思い出して、それから肩を竦める。
「グレイのも、疲れてたのかしらね。‥‥いいえ。どちらかというと、この騒ぎを楽しみそうだけど」
 常の社長を思い出して、ポツリと呟かれたその一言は、恐らく当たりだろう。
 何故なら彼女は、楽しい事、面白い事、お祭り騒ぎが大好きな人間なのだから。
 設置した罠が程よく見える場所に、社員が持って来た椅子を置いて、座る。
 しばらくは他のメンバーが忙しく動き回るのに合わせて、猫達も逃げ回るだろう。
 ならば、ここで張っていた方が間違いない。

「何というか、悪い冗談ではないという事で間違いないな?」
 小さく苦笑して尋ねる白鐘剣一郎(ga0184)に、引っかき傷を絆創膏で処置した社員は大きく頷いた。
 どうやら2匹は酷く活発で、挙句、捕まえようとした社員に怪我を負わせているらしい。
 とはいえ、特に深い傷ではない。
 浅く、少しだけ引っかかれているのだろうが、こういうタイプの傷は地味に痛い。
 とにかく捕まえてくれ、と頼み込んでくる社員の勢いに押されつつも、剣一郎は頷き返すのだった。
「了解だ。それでは悪戯な子猫の捜索を始めるとしよう」
 数歩歩いてから、ちょっとしたアドバイスを社員に与える事も忘れずに。
「それから。無邪気な子猫は追い回せば逃げ回る可能性が高い。無理に捕まえない方がいいだろう」

 社内の至るところで上がる悲鳴を聞きながら、ネオ・グランデ(gc2626)は乾いた笑みを浮かべる。
「何というか‥‥戦場だな」
 まさしくその通りになりつつある。
 だからこそ、内外問わずにあのビラが撒かれたのだろうが。
「まぁ、早いとこ捕まえて、構ってやるしかないか」
 捕獲しても、捕まえたままでは2匹のちま黒猫がいつ逃げ出すか分からない。
 それなら構いたおせばいいわけで。
 対猫用の餌やおもちゃを手に、ネオはひとまず悲鳴の上がっている箇所へと向かう事にした。
「これだけ派手に暴れてたらすぐに見つかりそうだが」
 よほどすばしっこいのだろうか。
 手強い相手になりそうである。

 その頃会社に、一人の男がやって来た。
 仕立ての良い服に身を包んだ彼は、鞄をもう一度持ち直すと、何の躊躇いもなくある部屋へと向かう。
 以前、この社には何度か来た事もあるし、その部屋にも行った事がある。
 社内は混乱していて、彼がやって来た事にも気がつかなかったのかもしれない。
 あちこちで上がる悲鳴と、ばら撒かれた書類を目にして、彼は小さく肩を竦めた。
 止まる事無く向かった先にあったのは、この社の長である女性の仕事部屋。
 ノックの後に返事はない。
 ノブを回して開けてみれば、そこも先ほど目にした惨劇と大して変わらない状況が広がっていた。
「‥‥ふむ」
 とりあえず、部屋を簡単に片付けて、持って来たワインをクーラーに入れてから。
 UNKNOWN(ga4276)は、今はいない社長が日頃座っている椅子へと腰掛けるのだった。

●捕獲作戦中の出来事
「ぺったぺった、にゃあ」
 手足をインクまみれにしながら、書類だけではなくとにかくあらゆるものにスタンプを押し続けている1匹目。
 ちま黒猫おれあるてぃあを最初に見つけたのはテッサと光だった。
「お、1匹目発見!」
「か、かわ‥‥ごほん‥‥おいで、一緒に遊ぼう」
 頬を赤くしつつ、屈んで猫と視線を合わせようとするテッサの横で、光は持参したウサギの毛のもこもこボールを取り出した。
 ぽとり、とボール部分を落として、少しずつ動かしていく。
「にゃぁお?」
 スタンプを押す手足を止めて、おれあるてぃあはじーっと動くボールを眺め始めた。
 興味がある様だ。
 手ごたえありか。と思った次の瞬間。
「見つけました、おれあるてぃあ!」
 満面の笑みで地図を放り出しながら、通路の角からユーリが現れた。
「にゃぁお」
 呼ばれたと思ったのか、ちま黒猫は一鳴きして振り返る。
「紙袋に入ってなかったのは誤算でしたけど、見つけられて良かった」
「ん‥‥? ねぇ、さっき彼が放り投げたのは何だろう」
 テッサが拾い上げたそれは、この会社の社内マップだった。
 ところどころ、色を変えたペンで印がついている。
「赤ペンとこっちは‥‥鉛筆?」
「あぁ、それですか? 赤ペンはおれあるてぃあの肉球スタンプが残されていた所です。鉛筆は機械の異常があった所」
「鉛筆の方はかなり乱雑に印がついてるな」
「ああ、機械関係の所は‥‥いいや、と思って」
 どうやらユーリは、本気でおれあるてぃあ1匹だけを捕獲しようと思っているらしい。
「この地図、借りてもいいか?」
「はいどうぞ。取り敢えずマッピングは全て覚えましたし、おれあるてぃあは見つけられましたし」
 地図に目も向けず、ひたすらおれあるてぃあを眺めているユーリに苦笑して。
 光とテッサは、鉛筆で印のつけられた機械関係の方へと向かう事にした。

 一方機械フロア。
 スイッチを押されまくって悲鳴を上げている社員の証言を聞きながら、翡翠はフロアを駆けていた。
「っし。見つけた‥‥!」
 小さな体をジャンプさせながら器用にボタンを押しているぼるふがんくを確認して、思わず苦笑してしまう。
「あーあ、なんつぅ可愛い姿になって‥‥。おーい、ぼるふー」
「にゃー?」
 じとーんとした瞳で振り返るちま黒猫が、翡翠を見る。
 友達のはずの翡翠を見たというのに、ぼるふがんくはじとーっとした瞳のままだ。
 仕方ないか、と持参したエノコロを手に、ちっちっち、と舌を鳴らしながらそれを振る。
「遊んでやっから、大人しく来いな」
「‥‥にゃー」
 じとーっとした視線のままに、とりあえずは機械からエノコロに興味を向ける事には成功したらしい。
 ただし、何故だろう。
 しゃきん、とちま黒猫の手から、爪が出ているのは。
「‥‥ああ、先に見つけた人がいたか」
 次に機械フロアに現れたのはネオだった。
 エノコロに対してなのか、それとも別のものなのか、とにかく攻撃態勢に入っているちま黒猫を見て思わず笑ってしまう。
「じゃれついたところを、捕獲した方がいいのか。それとも、餌を出して攻撃をやめさせるべきか」
 このままではまたも怪我人が出る可能性も、無きにしも非ずだ。

 肉球スタンプの犯人(犯猫?)であるおれあるてぃあの元に、またも新しいものがやって来た。
「‥‥アヒル?」
「ガチョウだってば!」
 それは、器用にエノコロを振りながら踊っている様なジタバタしている様な、自称ガチョウ、他称アヒルなジャックである。
「ほぉーぅら猫さーん。ガチョウがエノコロ背負って来たよー!」
「にゃぁお!」
 きらり、とおれあるてぃあの目が光った様な気がする。
 次の瞬間。
「つかまるもんかー! じゃーん‥‥ぷぎゃあっ!?」
 おれあるてぃあは飛んで逃げようとしたジャックを見事に体当たりで落とした。
「にゃぁお、とりさん、げっとだにゃあ」
「い、いだだだっ!? 痛い痛いっ! 猫さん器用に関節入ってるー!!」
「ダメですよ、おれあるてぃあっ! めっ!」
 そこに現れたのは、小夜子と拓那だ。
「大変なのは分かりますけど、でも、可愛らしいですね」
「あれ? 捕まえるのは確かちま黒猫2匹、だったんじゃなかったっけ? ガチョウまでいるけど」
 ちま猫に関節技をかけられているガチョウジャックが、羽で必死に床を叩く。
「だれか! だれかロープでもタオルでもいいから! たぁすーけーてー!!」
 ガチョウの悲鳴が響いた。

●捕獲完了後の出来事
 2匹のちま黒猫は、全員のおもちゃやおやつのおかげで、なんとか捕獲された。
 若干、爪の餌食になった者もいたが、それは社にあった救急セットを使用して治療されている。
「おれあるてぃあ、柔らかいな〜」
「クルックの、次は私に抱かせて頂戴。私の指で、グレイのを虜にしてあげるわ」
「‥‥にゃぁお。ふわぁ‥‥」
「少し眠くなってしまったのでしょうか。よかったらここで眠りませんか?」
「鍋猫、ならぬフライパン猫かぁ。うん、可愛いと思うよ。寝てるとこを愛でるのもいいんじゃない?」
 愛でられるおれあるてぃあに対して。
「おいヴォルフ。俺の事解るか?」
「‥‥にゃー。しらにゃいにゃ」
「ダチも解らなくなってるか‥‥薄情者め。‥‥って、痛っ! こら、引っかくな!」
「そりゃあ、頬をつまめば猫だって反撃するだろう‥‥。とはいえ、ある意味捕獲よりも大変だな」
「麻宮君、この子達本当に人間だったの?」
「にゃー。ぷにぷに、しにゃいで。ぼくは、のらだから。ぷらいどたかいんだよ」
 プニプニぷににと突かれ頬を引っ張られるぼるふがんく。
 遊び疲れたちま猫達は、用意されたクッション(一部フライパンに敷かれている)の上で丸まって眠り始める。
 マザーグースを歌って聞かせるふーの声と、只管に可愛いを連呼しながらカメラのシャッターを切り続けるユーリ。
 その横で、何を血迷ったのか机の上から。
「あい、きゃん、ふらーい! ‥‥あうっ!」
「今晩の夕食が決まりそうだな」
 と飛び立とうとして、べしょりと床に落ちてしまったガチョウジャックに向かって目を光らせる光。
「やはり、会社を開店休業にしておいて良かったか。この調子では仕事等出来んな」
 茶を飲みながらその様子を眺めている紗夜は、今頃後片付けに大忙しだろう社員達を思い出して溜息をつく。
 会議室の中でちま猫達を愛でるメンバーを眺めながら、剣一郎はポツリと呟いた。
「‥‥それにしても、薬の効果というのは何時まで続くんだ?」
 尤もである。

 結局、ちま猫達が猫から人間に戻ったのは、騒動の翌日の事。
 しかも二人してその最中の記憶がなかったのだから、実験結果が取れるわけもなく。
 二人の顔を見ては真っ青になって逃げていく社員達を見て、二人は首を傾げる事になるのだった。

 これも全ては、真夏の夜の夢‥‥?


 END