●リプレイ本文
●ドゥオーモにて
「戦場のマリアたるディーヴァ‥‥か。私の知り合いのシスターとデュエットしたら、絵になるかもしれないわね‥‥」
「彼女の想いを無駄にしてはいけないですね」
欧州軍の依頼を受けた能力者は8人。
イタリア・オルヴィエートの郊外に建つモーロの塔下で、リン=アスターナ(
ga4615)とティーダ(
ga7172)が其々の想いを口にする。
「軍の方から頂いた地図と、住民の皆様からの情報を纏めてきました」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)が、地図を片手に駆け寄る。
それを見ていた優(
ga8480)は、リゼットの足元に転がっていた石に気がつき、ストップをかけた。
「危ないから走らなくていいですよ」
「こけたら大変アルよ〜」
両手でメガホンを作って小麟(
gb1863)も声を上げる。
それを横目に、ワタワタと自身の装備を確認しているのはヨグ=ニグラス(
gb1949)だ。
「そ‥‥双眼鏡持ったです‥‥笛もあるです‥‥えと、無線機も‥‥」
初の本格戦闘に、どうやら緊張しているらしい。
それを微かに離れた場所で見ていたアグレアーブル(
ga0095)が、視線を残りの1人。
更に離れた場所で風景を懐かしむ様に見やっているゴルディノス・カローネ(
ga5018)へと向けた。
「ここに来るのも何年ぶりか‥‥無事終われば、友人に会いに行くか」
片手に燻らせた煙草を持ったまま、自分以外の全員が揃った事を確認したゴルディノスが歩み寄る。
「どうやら全員揃ったみたいだな」
8人が其々顔を合わせ、小さく頷いた。
「リゼット。追加情報は何かあったか?」
「住民の皆さんの退避がまだ済んでいない様ですが‥‥」
「そうか‥‥なら少し彼等にも手伝ってもらうとしよう」
言いながらゴルディノスが携帯していた無線機を取り出し、チャンネルをオープンにした。
その無線の行き先は――オルヴィエートの地元警察署だ。
「やぁ、親愛なる警察諸氏。ULTの傭兵として、諸君等に助力願いたい」
彼の言葉を受けた相手が、BGMに騒音を引き連れて言葉を返してくる。それを受けて更に言葉を数度交わして、チャンネルを別のものに変えた。
「‥‥ゴルディノスさんって、イタリアンマフィアの出身でしたね」
ティーダの問い掛けに、チャンネルを今回のメンバーと同じに揃えたゴルディノスが軽く頷く。
彼等の会話の後、リンが火の点いていない煙草を銜えたまま器用に口を開いた。
「地図があるなら、後は当初の作戦通りに3班に分かれて行動しましょう。無線のチャンネルも作戦通りに」
その言葉に無言で頷いたのはアグレアーブル。
「え‥‥えと、ならボクと優さん、リンさんは街中でキメラ襲撃に備えて待機‥‥しますね」
「私とティーダさん、小麟さんは出現予測地点を探索しますね」
ヨグとリゼットの言葉を受けて、ゴルディノスが一つ頷く。
「我等はモーロの塔屋上から看視をするとしよう」
「‥‥分かりました」
アグレアーブルは言葉少なに頷いた。
「じゃ、行動開始アル!」
元気良く小麟が拳を振り上げて。
いざ、ミッションスタート!
●モーロの塔・敵発見
「ふむ‥‥警察諸君は何とか働いてくれた様だ。住人の退避も無事終わりそうだな」
双眼鏡で塔下の街を警戒しながら、紫煙を燻らせたゴルディノスが満足そうに言う。
「綺麗な街、ですね」
同じ様に双眼鏡で警戒を行なっていたアグレアーブルが小さく呟いた。
「岸壁の街か‥‥この丘状都市、これ以上我が物顔で闊歩なぞさせん」
同意する様に言葉を返し、彼女とは別の方角へと双眼鏡を向ける。
街はまだ、静かだ。
住民達の避難に伴う音はあれども、今回のターゲットであるキメラの姿はまだ見つからない。
塔上の2人に、無線機から他のメンバーから報告が入る。
「こちら予想地点。まだ敵の姿は見えません」
ティーダのクールな声の後、続いて響いたのは優の声だ。
「探索班、優です。こちらもまだキメラの姿は見えません」
其々の班から連絡を受けて、塔上の2人が細心の注意を払いながら街並みを探索し続ける。
まだ、まだ、まだ‥‥
やおら、ゴルディノスが声を張り上げた。
「居たぞ! 場所は待機班の現在地から南方向の空き地だ!!」
全員の空気が張り詰める。
「一番近いのはボク達アルねっ! 竜着!!」
小麟が両手と同時に声をあげた。ちゃっかり自身の掛け声も混ぜてあるところが彼女らしい。
「ティーダも直ぐ現場に行きます!」
瞬時に覚醒したティーダが、無線越しに好戦的な声で告げる。
「こちらリゼットです。今、小麟さんとティーダさんと一緒に現場に向かってます」
待機班の3人の声を受けて、ゴルディノスがモーロの塔に取り付けられている鐘を勢い良く鳴らした。
街に響き渡る、古くも重厚な鐘の音。
「さぁ、開幕のベルは鳴った! この街の癌に終焉を!」
響いた鐘の音に、待機班から僅かに離れていた探索班が塔を振り返る。
「んと、ここからだと急いでも5分かかるです」
ヨグが慌てながら無線で待機班と塔に残ったメンバーへと伝える。
「分かりました。こちらも同じ位の時間がかかります」
受け取って返したのはアグレアーブルだ。
「急ぎましょう。3人だけに任せるのは不安だわ」
覚醒状態に入ったリンが、言いながら目的地へと足を向ける。
「可能な限り早く合流します。それまでお願いしますね」
優も同じ様に方向転換しながら覚醒する。
「えっと、ボクも早く行くです‥‥!」
先を行くリンと優の後を追いながら、同じくヨグも覚醒状態へと入ったのだった。
●戦闘・合流・戦闘
「5分は相手をこの場に引き付けなきゃ駄目ですね」
「逃がしたら大変アル! 一気に近づいて逃げられない様にするアルよ!」
「分かりましたっ!」
ティーダ・小麟・リゼットの3人は、覚醒状態でそれぞれ武器を手にして現場へと1番に乗り込んだ。
「‥‥見つけたっ!」
ティーダの声と共に、低い声を上げるキメラが姿を見せる。
「まずは私が行きます」
声を上げて先制攻撃を仕掛けたのはリゼットだ。
愛刀ベルセルクを構え、素早く敵の側へと入り込むとまずは牽制とばかりに浅く剣を翻した!
そして、次の自身の攻撃の為に豪破斬撃を使用する。
僅かであっても怯んだキメラが獰猛な牙をリゼットへと向けるが、彼女は上手く回避する。
「次はボク!」
ポリッシュシールドで防御を強化しながら、小麟は副兵装の小銃バロックで同じ様にキメラの足を攻撃した!
キメラの矛先が小麟へと向けられそうになる前に、別方向から姿を現したのはティーダだ。
「そちらを向いている余裕はありませんよ?」
両手に装備されているルベウスをクロスさせるように構え、脚部を切り裂く!
素早く間合いを取って、3人が次の攻撃へと体勢を整えた、次の瞬間。
空に響く発砲音。
「援軍到着、だ」
姿を現したのは、既に覚醒し、狙撃眼と影撃ちを使って自身のライフルの引鉄を引いたゴルディノスだ。
その横を駆け抜ける様に、こちらも覚醒の済んでいるアグレアーブルが通り越し、無表情のままにキメラへと瞬天速を使って一気に間合いを詰める。
懐に飛び込んだアグレアーブルが、続いて瞬即撃を使用し足に装着していた刹那の爪でキメラの腹部へと蹴りを叩き込む!
そこへ、反対側から飛び込んできたのは、瞬天速を使用して現場にやって来たリンだ。
「悪いけれど、手加減は一切無しよ‥‥!」
自身を弾丸の様に素早くキメラの側部へと移動させ、急所突きを使用しながら足に取り付けられた刹那の爪でアグレアーブルと同じ様に腹部へと蹴りを叩き込んだ!
そして再度瞬天速を使って、キメラから僅かに距離を取った。
「遅くなりました」
「えと、間に合ったですか?」
姿を現したのは、残りの2人――優とヨグだ。
「では、参ります」
抜き放った月詠を構え、流し斬りを使用してキメラの側面へと回り込み、後ろ足を切り付けた!
キメラが攻撃態勢に入りそうになったのを見て、ヨグがサブマシンガンを構える。
「援護するです‥‥!」
放たれた15発の弾丸が、キメラから近距離で戦っていたメンバーを守る様に着弾する!
これで、役者は全員舞台に上がった。
紫煙と硝煙を纏いながら、ゴルディノスが大きな声で高らかに宣言する。
「Ad una Condanna di antagonista!」
「今ですっ!」
声を上げて、ベルセルクを構えたリゼットがキメラとの間合いを再度詰める。
急所突きを使用しての強烈な一撃は、見事キメラの脚部へと大打撃を与えた!
機動の要とも言える脚部を攻撃され、キメラは甲高い絶叫を上げる。そのままの勢いでリゼットへと体当たりを仕掛けるが、既に脚部は傷つき速度は落ちている。
「ボク等を忘れてもらったら困るアルよ!」
リゼットが回避したのを確認すると、小麟がバロックで先ほどリゼットが攻撃したのとは別の足へと弾丸を叩き込んだ!
その隙にリゼットがキメラから距離を取る。
次に攻撃を仕掛けたのはティーダだ。
「皆さん、今です!」
瞬天速で一気に間合いを詰め、ルベウスで小麟が打撃を与えた脚部へと今度は深く勢い良く切り付けた!
足2本に致命的な攻撃を受けたキメラが、耳障りな絶叫を上げる。
勝てないと確信したのか、キメラが逃走態勢へと移ったのを確認するや。
「行かせる訳ないだろうが」
ゴルディノスが強弾撃で残った2本の内の1本を打ち抜く!
もんどりうって倒れこんだキメラへ、アグレアーブルが立て続けに蹴りを叩き込み、間合いを取る為に副兵装のフォルトゥナ・マヨールーで威嚇射撃を行なった!
「歌姫のステージに、貴方みたいな無粋な奴は必要ないわ‥‥さっさと退場することね!」
アグレアーブルの攻撃が終わった事を確認して、リンが再度間合いを詰めて急所突きを使用し、再び蹴りを腹部へと叩き込む!
「脚部は駄目になっているのに、なかなかしぶといですね!」
優が再度、流し斬りでキメラの胴を切り付けた!
断末魔の絶叫を響かせるキメラへと、ヨグがしっかりと狙いを定めて。
「終わらせますですよっ‥‥」
見事に着弾した15発の弾丸が、キメラの息の根を止める事に成功したのだった。
●戦闘終了・ディーヴァの歌声
「やあ、遅くなってすまないね警察諸氏。無事に厄介事は治まった。住民に被害は‥‥ほう、ないのか。それは結構だ」
戦闘が終わり、どうにかディーヴァが到着する前に無事キメラを倒した8人の能力者達。
ゴルディノスが再び警察へと無線を繋げ、住民の安否を確認する。
その後方で、ほっと一息吐いているのは初戦闘のヨグだ。
「んと‥‥な、なんとかなったです?」
「なったアルね。後はオペラ歌手が無事ここを通過したら終了アル」
言いながら、うきうきと自身の懐から紙とペンを取り出した小麟へ、リゼットが不思議そうに声をかけた。
「それ、どうするんですか?」
「これ? 一般人に成りすまして、ディーヴァさんからサイン貰うアルよ!」
笑顔で言いながら、ディーヴァが通るであろう道へと駆けて行く小麟に、小さく苦笑するリン。
街の被害は最小限に食い止めてはいるが、それでも戦闘の後は消せない。
「なら、なるべくディーヴァさんをここに近付けない様にしませんか?」
優の提案に、駆けて行った小麟以外は頷きあい。
ならばと小麟の向かった方角へと歩みを進めたのだった。
ディーヴァは予想時刻通りに街へと入ってきた。
キメラの被害があった事をなるべくは伏せたかったのだが、人の口に戸は立てられない。
急遽ディーヴァの意向で街の広場にて簡易コンサートが執り行われる事になった。
但し、時間の関係上、彼女が歌えるのはたった2曲だったが。
「私達も、住民の皆さんに混じって聴かせてもらいましょうか」
優の提案に、頷く6人。先ほどから小麟は、ディーヴァの元で一般人のふりをしてサインを貰っている。
「少し距離を取った方がいいかもしれないわ。住民が私達の事を彼女にばらしてしまうといけないから」
リンはそう言いながら周囲を見回して。
「そうね‥‥あそこならいいんじゃないかしら」
簡易ステージから近過ぎる遠過ぎない、大きな樹木の下に備えられたベンチを指差した。
オペラ歌手は、ディーヴァの呼び名に相応しい美しい声で、普段は自身の分野ではないだろう賛美歌を歌っている。
『Amazing Grace』
響き渡る澄んだ歌声は、キメラに脅かされていた住民や、先刻まで戦闘を行なっていた能力者達の心を、静かに癒していく。
2曲歌い終えたディーヴァが、深々と一礼し、広場に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
「素敵な歌声でしたね‥‥」
ティーダの言葉に、全員で頷く。
「それに、安らぎだけでなく力強さも感じました。胸の奥から、力が湧いてくるような‥‥」
リゼットがほぅ、と一息吐きながら、手を振りラツィオへと向かい始めたディーヴァを見つめる。
「彼女の歌声には力がある。あれなら、最前線の兵士達への慰問コンサートも成功するだろう」
紫煙を燻らせながら、ゴルディノスはそう言って踵を返した。
「えと、あの‥‥ゴルディノスさん、どこに行くですか?」
呼び止めたヨグに、彼は掌だけをヒラヒラと振る。
「あぁ‥‥我は後で適当に帰るから気にしないでくれ」
「ゴルディノスさんはここにお知り合いがいる様ですから」
やんわりと笑って、優がヨグの肩に手を置いた。
街の中に姿を消していくゴルディノスと入れ替わる様に、駆けて来るのは小麟だ。
「やったアル! サインもらったよ!」
確かに、小麟の手に握られている紙には、先程まで歌を歌っていたディーヴァのサイン。
楽しそうな小麟を見やって、思わず噴出す数名。
「?」
笑われた小麟自身は、何事かと首を傾げる。
キメラに襲われた街は、今確かに穏やかな平穏を取り戻したのだ。
勇気ある、心優しいディーヴァと、8人の能力者達のおかげで。
END