●リプレイ本文
●集合2時間前・ブルームバレー通り
ペラペラと紙を捲る音がする。
「何々? セブン&ジーズ社‥‥1892年創業、本社は英国シェフィールド。業務内容は銀食器製造、販売。見本写真は‥‥へぇ、こんな感じなんですねぇ」
「ん? 何見てるんです?」
手元の資料を眺めていたGIN(
gb1904)の後ろから、ひょいと顔を出したのは大神 直人(
gb1865)だ。
「あぁ、大神さん。情報収集ですよ。少し疑問に思った事があったんで」
「疑問‥‥まぁ、俺も多少あるんですよね。態々英国の、しかもそれ程大きな規模でもない会社の工場建設予定地なんかに、どうしてキメラが出たのか‥‥とか」
「銀食器って、一家に一組あればいいものだし。手入れすれば長く使えるでしょうけどねぇ。このご時世にそこまで需要があるものだと思いますか?」
2人の会話に耳を傾けていた沙姫・リュドヴィック(
gb2003)が、笑いながら声を上げる。
「いーじゃない。オレアルティアさんにはお世話になったんだし。お礼だと思えば?」
「ん‥‥報酬‥‥くれるみたい、だし‥‥」
ゆっくりと言葉を紡ぐ霧島 和哉(
gb1893)と。
「世話になった礼くらいするさ」
「そうだな」
大きく伸びをしながら呟く嵐 一人(
gb1968)に同意する姫咲 翼(
gb2014)。
そんな面々を見ながらにっこりと笑うのは鬼道・麗那(
gb1939)だ。
「社長さんとは色々とお話したい事がありますけど‥‥一先ず、今回の依頼を終わらせてからになりますね」
その言葉に肩を竦めながら、羅条 零(
gb2670)はポツリと呟く。
「まるで引率の先生か、孫の面倒見てる婆さんの気分だね」
「あら。まだまだお若いじゃありませんか」
そう言って、鬼道は両手を二度打ち鳴らした。
「それじゃあ、皆さん集合しましたね。今回は以前の『お茶会』に対するお礼も含まれてます。しっかりと依頼を成功させましょうね!」
●集合時間・ブルームバレー通り
「あぁ、お待たせしてしまい申し訳御座いません。『闇生』の方々はお久しぶりですね。改めて自己紹介を。私はオレアルティア・グレイ。今回の依頼主であるセブン&ジーズ社の社長をしております。今日はよろしくお願い致しますね」
集合時間に姿を現したのは、フェミニンスーツを身に纏った1人の女性だった。
微笑みながら優雅に一礼した彼女こそ、今回の情報提供兼案内役であるオレアルティア・グレイ。
「お久しぶりです、社長さん。娘さんはお元気ですか?」
大神の問い掛けに、オレアルティアはにっこりと笑みを浮かべたまま頷く。
「しっかし、部下に任せないで社長さん自ら案内役するってのは、何か理由があるのかね?」
和気藹々と、まるでこれからキメラと戦闘を行なうとは思えない様な雰囲気を醸し出す社長に、羅条がポツリと呟いた。
その言葉に、オレアルティアは笑みを浮かべたまま羅条に視線を合わせる。
「いえ? ただ、しいて言うならば‥‥皆様にご助力を頂く為には、私自らが率先して向かう必要があると考えただけです」
微笑みは絶やさずに。けれど、それ以上は何も言わないオレアルティアを見て、羅条は再び肩を竦めた。
「まぁ、言いたくない事を無理に聞く気はないさ。悪かったね」
「いいえ。‥‥それでは、建設地へご案内致しますわね。少々歩きますが、宜しいでしょうか?」
「構いません。その間に作戦の確認をしましょう」
鬼道の言葉に、全員が頷いたのを確認して。
9人は移動を開始したのだった。
●道中・作戦確認
「班分けはどの様に?」
先頭に立ち案内を続けるオレアルティアに、その後ろを歩いていた鬼道が声を上げた。
「A班が大神さん、嵐さん、GINさん、羅条さん。そして社長さん。B班が霧島さん、沙姫さん、姫咲さん。そして私‥‥と予定しておりますが」
「戦力的に‥‥それが、一番‥‥だと思う、よ‥‥」
後に続く霧島が、ゆったりとした口調で同意する。
「オレアルティアさん。敵って2体固まって出るんですよね?」
沙姫の問いに、女社長は首を縦に振った。
「えぇ。悪戯坊や達は仲良く団体行動している様ですね」
「だったら、着かず離れずの距離まで引き剥がしてから各個撃破がいいだろうね」
羅条の言葉に全員が頷く。
「連携されたら面倒ですしね」
「かといって、離れすぎれば合流が難しいだろう」
大神と姫咲が其々口を開き。
「連携の防止と挟み撃ちの防止。2つを頭に皆さん、連絡は速やかにお願いしますね」
鬼道が振り返り社長以外の全員を見回して。
そして全員で作戦の詳細を再度練り込み終わった頃。
「‥‥到着致しました。こちらが、現場になります」
社長の声と同時に、9人の目の前に広がったのは、広大な空き地だった。
●鬼さんこちら
「‥‥キメラの姿が見えないようですがね‥‥」
GINは周囲を見回すが、確かに2体のキメラは姿を現していない。
「とはいえど、いつ敵襲があるか分かりません」
そこまで言うと、鬼道はくるりと体を反転させ、彼女が率いる『闇の生徒会』に所属するドラグーンメンバーと正対する。
息を吸い込み、凛とした瞳で声を張り。
「今こそ闇の衣を纏い、終わらせて差し上げましょう!」
「Tes!」
鬼道の掛け声と、GINの一声。
それと同時に、生徒会メンバーが其々自身のAU‐KVを装着する。
「それじゃ、皆がんばろー♪」
「ふむ‥‥なかなか団結力のある子達みたいさね」
そう言いながら、羅条自身も覚醒を行なっていた。
「えぇ。皆さん、互いの絆が強い様ですから‥‥私は援護に回らせて頂きましょう」
微笑みながらも、依頼主であるオレアルティアも覚醒する。
そして、やおら手にした小銃シエルクラインを上空へと向け。
「確か、ニホンではこういう場合、こう言うのでしたわね‥‥」
笑みを柔らかなものから不敵な其れに変えると、声を上げながら。
「鬼さん、こちら」
引鉄を弾いた。
●ファーストフェーズ『分断』
「ねぇお姉さま。社長さんって絶対裏があると思いません?」
誘き出す為とはいえ突然発砲したオレアルティアに多少驚きながら、沙姫が鬼道へと問い掛ける。
「私の見込みは間違いなかった様ですね」
「鬼道と似てないか‥‥?」
「‥‥嵐さん、何か言いました?」
笑顔で嵐を見やった鬼道と、冷や汗を流しながら勢い良く首を横に振る嵐の横を、竜の翼を使用して素早く通り過ぎたのは霧島だ。
「‥‥来た、よ‥‥」
ツーハンドソードを手にした霧島の視線の先。
そこには確かに2体の猛獣が姿を現していた。
「先ずは引き離す事から始めましょうかね‥‥!」
「さっさと離れろ‥‥!」
GINがアサルトライフルを、姫咲がフォルトゥナ・マヨールーを構え、照準を2体のキメラの間へと向け、引鉄を弾く。
誘導としてのその行動に続いたのは嵐だ。
「社長さんと同じ台詞になるが‥‥鬼さんこちら!」
その場から離れながら、クルメタルP‐38の銃口を2体の間へと向けて発砲する。
1体のキメラが、移動する嵐へと視線を向けた瞬間。
「さて、人の島荒らしたツケを払ってもらうわよ」
2体を引き剥がすように、竜の翼を使用して自身の体を割り込ませた沙姫が、構えたツヴァイハンダーを閃かせる。
牽制程度の威力だった為、それ程体力を削る事は出来なかった。
「そろそろ、ですかね」
「往生際が悪い殿方は嫌われますよ!」
だが、怯んだキメラを完全に引き剥がすべく、竜の瞳を使用して間に割り込んだ大神と、スパークマシンΩで鬼道が攻撃を加えれば。
作戦通りに、2体のキメラは其々、着かず離れずの距離へと分断される。
「それじゃ、2班に分かれて各個撃破に移ろうかね」
羅条の言葉とほぼ同時に、全員が其々の敵へと向かっていった。
●セカンドフェーズ『A班・対象撃破』
「社長さん。何をやってるかは聞きませんけど、娘さんの為にも気をつけて下さいよ」
自身の武器であるアサルトクローで、キメラの前足を薙いだ大神が、後方のオレアルティアへと一言声をかける。
「ご丁寧に有難う御座います。けれど、大丈夫ですわ。皆様お強い方々ばかりですし、何よりも私、負ける戦いは大嫌いですから」
微笑みながらシエルクラインを構える彼女に若干毒気を抜かれながらも、気を取り直してキメラの動きを確認する。
次いでキメラの前へと姿を現したのは、竜の翼を使用した嵐だ。
「くらえっ!」
武器を試作型機械剣へと持ち替え、キメラの腹部から背に向けてレーザーブレードを一閃させる。
吼えるキメラの意識を逸らす為に、GINが竜の爪を使用してアサルトライフルの引鉄を弾く。
露出した弱点――目へと放たれた弾丸は、吸い込まれる様にそれを撃ち抜いた。
「会長! こっちは何とかなりそうですよ!」
僅かに離れた場所でもう1体と向き合っている鬼道へと報告しながらも、視線は敵から逸らさない。
腹に響く様な鳴き声を響かせるキメラへと、疾風脚で接近したのは羅条だ。
「そらっ! 余所見してる暇はないよ!」
言うやいなや急所突きを使用し、両手に構えたゼロをクロスさせる様にして横腹を引き裂く。
絶叫を上げ、キメラが鋭い爪で羅条へと攻撃を加えようとした瞬間。
キメラと羅条の間へと体を割り込ませた嵐が、クルメタルを持った左腕を爪の行く先に掲げた。
鈍い音が響く。
が、キメラの爪は嵐のリンドヴルムを貫く事は出来なかった。
「AU‐KVの『アーマー』は伊達じゃないんだよ!」
不敵な笑みを浮かべる嵐に、唸り声を上げたキメラへと。
「悪戯も大概にしないと、痛い目を見ますよ」
後方で愛銃を構えていたオレアルティアが、彼等からキメラを引き剥がすべく狙いを定めて20発の弾丸を叩き込む。
「今だよ!」
羅条の声に答える様、嵐から距離を取ったキメラへと再び攻撃を加えたのは大神だ。
竜の瞳を使用し、確実にキメラへと攻撃が当たる様にした後。
続けて竜の爪を使用し、キメラの腹部を一気に薙ぐ。
「そろそろ倒れてくれませんかね!」
そこへ畳み掛ける様にGINが銃弾を撃ち込み。
耳障りな絶叫を残して、キメラは力尽き地へ倒れ伏したのだった。
「会長! A班目標撃破!」
声を張り上げたGINのその言葉の先で、B班が最後の追い込みを行なっていた。
●セカンドフェーズ『B班・対象撃破』
A班戦闘と同刻。B班もまた同じく、キメラと対峙していた。
「ふふ、お馬鹿さんにはキチンとお仕置きして差し上げましょ」
「お姉さまが後ろをしっかり守ってくれるから、私は前に集中するねっ!」
笑みを浮かべる鬼道の言葉の後、最初に攻撃を加えたのは沙姫だ。
ツヴァイハンダーを閃かせ、キメラの腹部へと斬り込む。
柔らかい腹部へと攻撃を喰らったキメラが低く吼える。
次いでツーハンドソードを構えた霧島が、大きく振りかぶって斬りかかる。
僅かに体を逸らしたキメラに致命傷は与えられなかった。
だが、霧島は表情を変えない。
「避けれた=見切れた。なんて‥‥思わないで‥‥ね」
キメラの意識が霧島へと向けられているその瞬間。
隙を突いてキメラへと斬り込んだのは、竜の鱗を使用し、蛍火へと装備を変更した姫咲だ。
「一対一じゃ‥‥無いん、だから‥‥ちゃんと、周りを見て‥‥戦わなきゃ‥‥だよ?」
「まずはその足から奪う!」
一閃の輝きが、キメラの前足を斬り裂く。
「所詮はケダモノ。皆さん、怖れる必要はありません!」
畳み掛ける様にスパークマシンで攻撃を与える鬼道。
行動に必要な足を傷つけられ、動きが鈍ったキメラが近くにいた霧島へと噛み付こうとするが。
竜の鱗を使用した霧島は、自身の持つツーハンドソードに隠れる様に防御する。
その勢いを利用して、竜の翼を発動し構えた武器でキメラへと突っ込む。
「『此の身を香車と成し其を穿つ』‥‥って奴‥‥かな」
痛みに呻くキメラへ、沙姫が竜の瞳を使用して懐に飛び込み。
「ほらほらっ! とっとと倒れてよっ!」
続いて竜の爪を使用して、ツヴァイハンダーを一気に上段から振り下ろす。
絶叫を響かせたキメラが、最期の足掻きとばかりに向かったその先には。
『会長! A班目標撃破!』
丁度敵を倒し終わったA班の、一番後方にいた案内人。
依頼主のオレアルティアがいた。
「しまっ‥‥!!」
銃口をキメラへと定めきれないオレアルティアが、珍しく表情をなくして。
ふと、その前へと滑り込む様に竜の翼を使用した姫咲が立ちはだかった。
攻撃を蛍火で受け流し、目を丸く見開いたオレアルティアに。
「アンタは無傷で帰れ! 怪我して娘に余計な心配をかけるなよ‥‥っ!!」
半ば乱雑に言い放ちながらも、その言葉は今回の依頼を受けたメンバー全員に共通している内容だった。
最後のキメラへと攻撃を加えられる場所にいた鬼道が、声を張り上げる。
「必殺!! 闇黒ぅ衝竜波ぁ!」
竜の角を使用したスパークマシンの一撃で。
2体目のキメラが完全に地に伏したのだった。
●ミッションコンプリート
「翼ー。何か美味しい所きっちり持って行った気がするんだけど?」
「知るか‥‥」
作戦終了後、オレアルティアの『おすすめカフェ』へと立ち寄った9人。
其々珈琲や紅茶を飲みながら、ゆったりと体を休めていた。
姫咲の正面に座っていた沙姫が、悪戯っぽく笑う。
「まぁ、何にせよ怪我人が出なくてよかったんじゃないですか?」
「‥‥姫咲さん‥‥照れてる‥‥?」
フォローする大神の横に座って紅茶を啜るのは霧島。
「そうかもな‥‥ってコラ和哉! それは俺の菓子だ!」
「全く‥‥あんた達は戦いもいいけど、勉強も頑張るんだよ」
ぼんやりと手にした菓子が自分のものだった事につっこむ嵐と、そんなメンバーを眺めながら保護者気分になっている羅条。
「あ‥‥姫咲さん‥‥それ、山葵入り‥‥」
「!?」
どんなご時世でも、学生が仲間内で集まれば楽しい放課後クラブが出来るのだ。
和気藹々とした雰囲気が、カフェの中を満たしていった。
●最後に笑うのは?
その座席とは離れた場所に、3つの影があった。
「今回は本当に有難う御座いました」
「いえ‥‥表と裏、光と闇‥‥貴女とは、何やら他人の気がしませんから」
深々と頭を下げる女社長に、にっこりわらったまま礼を返す会長。
「いや、流石と言うか何と言うか。こんな時でも、だからこそなんでしょうが、工場でガッツリ作る需要があるとは、凄いですね」
「いいえ。弊社は大きな企業では御座いません。ただ‥‥先程鬼道様が仰られた様に、コインには必ず表と裏がある‥‥それだけですね」
3人は顔を見合わせながら笑みを浮かべる。
但し、それが純粋な『それ』とは限らないが。
「実は我々『闇の生徒会』を支援して下さる方を探しているのですが‥‥勿論、此方も相応の協力はさせて頂くつもりです」
「心強いお言葉ですわね」
「銀といえば、ハロウィンの『銀の弾丸』が有名ですねぇ」
‥‥こちらも、部分的には和気藹々、だろうか。
結局、最後に笑ったのは誰なのか。
それは、神様にも分からないのかもしれない。
END