●リプレイ本文
●バイク編
「さて、グリム・クリーパーの初出撃! 悪クマ共の命、ここで刈り取るのです!」
小さな体ながら背に二本の刀を差したフェリア(
ga9011)が、バイクのカウルを撫で高らかに宣言する。そのバイクの後ろには石動 小夜子(
ga0121)が乗っていた。
麓にある小屋で登山地図を受け取っていた彼女たちは、ゆったりとした上り坂の道を走り始めた。頂上までは迂回する形だが、その分幅は広くバイクも快適に登っていく。
「二輪車で通れる道だから、数体は居て欲しいですな。ぶろろろろ」
楽しげに言いバイクを操るフェリア。その後ろで、小夜子は後ろに首を回し辺りを警戒する。
さて、順調に進み中腹へ来た時だ。
丁度クマに襲われた人が居た、というカーブの手前。
がさがさっ、と道沿いの藪が揺れたかと思えば、報告通りのクマがひょっこり現れた。
丁度通り過ぎた後だったため、小夜子がフェリアの肩を叩いて後ろを指差す。気づいたフェリアはすぐさまエンジンを止めた。
そんな二人に、クマはとことこっと愛らしい歩みで近寄ってくる。
それに、小夜子がさっと取り出したのはお菓子。それをクマの目前に差し出してみた。
すると、ふわふわの手が伸ばされる。手にお菓子を乗っければ、クマは警戒もせずにぱくりと食べていて。
その少し横では、フェリアが他二班にクマと接触した事を無線連絡している。襲ってこないからか緊張感は微塵もない。どうやら彼女たちが一番最初の遭遇者であったらしく、「いいなぁ〜」と双方の班から言われるのだった。
その間に小夜子が手を伸ばしクマの耳を触る。見た目通り柔らかい。触り心地が素敵。クマの方も満更ではないのか、愛くるしい表情でされるがまま。
連絡を終えたフェリアも、自身より大きいクマのおなかにダイブ。心ゆくまでその柔らかさに酔いしれる。
小夜子も、クマの肉球をぷにぷにと触ってみたり、尻尾をふにふにしたり、お腹をぐにぐにと触ってみたり。残念ながらチャックは見つからなかったものの、しばらく‥‥いや結構‥‥二人はクマを撫でくり回していた。
「ふふ‥‥やっぱり本物でなくても、この手触りは素敵、です‥‥」
うっとりと小夜子が呟く。フェリアもクマの背中に回り、まっふりとその毛並みを堪能していた。
しかし任務は任務。こうしていても埒が明かない。何より。
「さて、なでもふにも飽きましたので、そろそろ中の人を覗くとしますか」
そう、フェリアは完全に飽きていた。
「愛想の良い熊を倒すのは気が引けますけれど‥‥」
小夜子も名残惜しげに、毛並みに触れて‥‥刀を抜いた。そして間髪居れずにクマの足元を狙って斬りつける。
先ほどまで撫で回されていたクマは、咄嗟のことに受身も取れずその場に倒れてしまった。その隙をつき、二本の刀を構えたフェリアが、勢いよくクマを斬りつけていく。
可愛いけれど、それはそれ、これはこれ。
さすがにクマも愛想を振りまいてはいられないらしく、二人を引き離そうと腕を振り回す。だが既に距離が取られているため、当たらない。
クマの攻撃が止んだ所で、フェリアが二段撃を仕掛ける。真っ向から攻撃を受けてしまったクマはその場にぶっ倒れた。
「おぉ。これが噂の『中に誰も居ませんよ?』エンドですな、わかります」
うんうん、と一人納得しているフェリア。しかし、まだ力が残っているらしく、クマが俄かに起き上がりかけたところに、小夜子が持っていた銃を撃ち込んだ。
文字通りぼろぼろになったクマは、倒れたきり動かなくなった。まるで捨てられたぬいぐるみ。あんなにもふっていたのに。
そんなクマを放置し、二人は山道を更にバイクで登っていった。
登り始めて五十分ほどが過ぎ、もうそろそろ山頂か、という時だ。
期待通りクマが現れた。今度はバイクの行く手を遮る形だったため直にバイクを止め、二人が降りる。
だが、二人とも一頭目で既に十分堪能していたため‥‥さっさと倒すという選択肢を選んだ。クマはクマで、先ほどのものより小ぶりだが、友好的な空気ではない。走ってくると、二人に向って爪で攻撃をしかけてきた。
「パリィ!」
その攻撃をフェリアは刀で受け流し、即座に容赦なく反撃する。フェリアが離れると今度は小夜子が銃で牽制し、更に近寄ってから刀で斬りつける。最後にとどめ、と言わんばかりにフェリアが一瞬に二度の太刀を浴びせかけ‥‥。
あっという間に、二匹目の討伐は終了。少し登ればそこは頂上だ。小夜子が他二班に連絡をいれ、しばし二人は休憩タイムに入ったのだった。
●三人娘編
さて、こちらは比較的緩めな登山道を行く、三人の女性達。
「鈴の音に惹かれて出てきてくれますかね」
猫屋敷 猫(
gb4526)は髪飾りの鈴で。
「人が居ることをアピールしてみます‥‥」
セシリア・D・篠畑(
ga0475)は、呼笛の音で。
「やっぱりクマちゃんには、コレでしょ☆」
リズィー・ヴェクサー(
gc6599)はサーモン丸々一匹を手に。
三者三様賑やかに山を登っていた。
リズィーが歌いながらサーモンを振り回す。その後ろから残る二人が歩いていた矢先、フェリアから連絡が入った。
どうやらクマと遭遇したが問題ないとのことで、あえて急ぎはせずゆったりと道を登っていく。早くクマが出てこないか期待しつつ。
登り始めて三十分が経過した頃。
三人の前に、聞いた通りのクマが現れた。
とりあえず、とリズィーがサーモンを地面に置いて距離を置く。するとやはりクマはクマなのか、近づき両手でサーモンを持って、がぶり‥‥というよりは、ぱくり、と食べ始めた。
「クマちゃん、可愛いのよー☆」
笑顔でリズィーが近づくと、気にせずもしゃもしゃとサーモンを食べているクマ。
セシリアも興味に駆られ近づくと、サーモンを食べ終わったクマが、手を差し出してきた。
「‥‥ご丁寧にどうも‥‥です」
と、つい丁寧に返しながら、握手を仕返しお辞儀。
その隙に猫はクマの後ろに回っている。それは警戒とかではなく、純粋に興味からだ。
そう、背中にチャックがないか、という。
リズィーが思う存分、クマをもふもふしている間に、セシリアも猫の隣に立った。
「やっぱり気になりますよね?」
「‥‥無い、ですね」
二人の視線はクマの背中に向けられている。
毛は長いが、チャックの類があれば見えるはずなのに。そこにチャックは無かった。あったらあったで問題だが、このフォルムならあってもおかしくないのに‥‥ちょっとがっかりだ‥‥二人の気持ちは今、一致していた。
一方、リズィーはおもむろに武器であるハニービー、見た目は筒でしかないそれを取り出す。
「本当は、したくないけど‥‥ごめんね」
眉間に当てられた筒からレーザーが放たれ、クマの頭を焼いた。だが、毛も長いためか致命傷とはいかず、更にクマは攻撃態勢に移っていた。
リズィーがクマの攻撃範囲から逃れつつ、持って来ていたビスクドールへと武器を持ち直して居る間に、猫が素早くクマの懐に飛び込む。そこから刀による二度の連続攻撃、更に刹那を使用しての重い一撃を叩き込んだ。その素早さは名に違わず、まさに猫。
その間に、離れていたリズィーが反撃を許さず、ビスクドールから電磁波を飛ばす。猫が疾風を使い風のごとく退避しているのと入れ替わるように、今度はセシリアがクマに近づくと蹴りを一発入れた。赤いフィールドが衝撃を吸収、ダメージは無い。
が、ひるむに留まらず、体勢を崩して転げたクマ。更に電波増強を使ったセシリアが、両手に握った銃で連続攻撃をしかけた。攻撃される中、むくりと起き上がったクマも、苦し紛れで腕を振り下ろす。だが、セシリアは受身をとった後、回し蹴りをクマに綺麗にヒットさせた。
リズィーが牽制をしてくれている間に、再び電波増強を使用したセシリアの銃弾が、クマへと命中。
どしんっ、というよりぽふんっ、とクマが倒れた。
「愛らしいですがネコに勝るもの無しです」
猫がクマを眺めながらそう言い切る。
その横では、セシリアが他二班に連絡を入れていた。どうやら現在は苦戦していないらしい。
「じゃあ、セッシー、猫々、いこっかー☆」
リズィーの号令のもと、三人はそのままゆったりと登山を楽しんだ。
頂上へ着くと、既にフェリア、小夜子が待っていて。一度リズィーが残る一班に連絡を入れると、到着間近とのことだった。
というわけで、五人は猫の入れたお茶を飲みつつ、クマの手触りやチャックの有無で盛り上がるのだった。
これぞガールズトーク。
●修行編
最後の一班が歩いていたのは、他のルートと比べ頂上までの時間は短めだが、斜面が続くコース。
そしてここには、クマに賭ける青年と、クマとの修行に闘志を燃やす男女が居たのだった。
(俺は男のプライドをこのキメラに賭けるぞ! さぁ、ガチできやがれ!)
手にしたレーションの封を切り、クマに誘いをかけながら内心で闘志を燃やすのが、宵藍(
gb4961)。なるほど、確かに女性寄りな顔立ち。
「っかし、シャオは男って判断されるのかね?」
冗談めかしつつ、隣の宵藍へ声をかけるのは、空言 凛(
gc4106)。からかわれた宵藍はむぅっとした顔で凛を見るが、凛はいたずらが成功したような表情だ。
そして、数歩後ろからは湊 獅子鷹(
gc0233)が続く。
「修行といえば山にこもって熊退治が定番だよな、着ぐるみもどきじゃなければな」
そう言う獅子鷹は現在、右腕の義手は外し左腕だけ。右目に付けた義眼も外し目を閉じていた。そして左腰と肩にそれぞれ刀を下げていて。完全に修行する気満々である。
ちなみに彼は腰に腐りかけの肉が入った袋を下げていた。何でも、知り合いに肉じゃがを作る気で買ってあったらしく、しかし冷蔵庫で腐りかけていたものだとか。
若干の悪臭を漂わせながらも、三人とも体力があるため、息切れもせずにどんどん山を登っていく。
「熊公ー! いるんならさっさと出てこーい!!」
凛の声が山の中に響き渡る。歩き始めて三十分。既に他二班がそれぞれクマに遭遇したと宵藍が無線で確認していた。
早く出てこい! と三人三様に思っていたその時だ。
がさがさっと茂みが掻き分けられる音の後、三人の前に待ちかねたクマが現れた。
「お、きたきた! さぁ、戦ろう‥‥」
丁度先頭に立っていた凛へと、愛嬌たっぷりのクマが向かってくる。構える凛だったが、クマは数歩手前で停止。そのふわもこの手を差し出しながら、可愛く首をかしげた。
「ぜ‥‥? ってまさか、男しか襲わないってこういうことなのか‥‥?」
聞いていたとはいえ、その姿には脱力感すら覚える。
しかし、その後ろ側に立つ宵藍はそれどころではなかった。
果たしてクマは宵藍をどう判断するのか!?
宵藍が、クマの視界に入るよう凛の前へと出たとき、その答えが出た。
クマはためらいがなかった。
ためらいもなく、視界に入った瞬間‥‥。
目をつりあげ、鋭い爪で宵藍に襲いかかってきたのだ。それもかなりのスピードで。
「よっしゃぁぁぁ!!」
思わずガッツポーズしながら宵藍のテンションは一気に跳ね上がる。手にしたSMGで狙いを頭につけながら、
「そうだよな、よしよし♪」
生き生きと、迫るクマに銃弾を叩き込んだ。
よろけるクマから一旦宵藍が距離を置くと、待ってました、とばかりにクマへと近づいたのは獅子鷹。だが、まだ手には武器を持っていない。態勢をどうにか立て直したクマが、距離の近い獅子鷹へと走り寄り、腕を振り下ろした瞬間だ。
それまで自然体で構えていた獅子鷹の手には、攻撃に合わせ逆手抜刀の居合抜きでクマへカウンターを叩き込んだ、腰の忍刀が握られている。クマが振り向く前にその死角へ回り込むと、後脚へと斬りつけ、すぐさま距離を置く。その速さに、クマは結局何もできずじまいだ。
そんな二人と一匹を見て、
「おっ? なんだ、結局、熊は熊じゃねぇか。熊なのに猫でも被ってたか?」
先ほどまでの脱力などどこへやら。戦闘意欲を刺激された凛。
「じゃ、気を取り直して、さぁ、戦ろうぜ!」
獅子鷹の攻撃後に、クマに近づきジャブを見舞う。すぐさま離れて様子を見れば、さすがに女子にも容赦のなくなったクマが凛目がけて腕を振り上げながら突っ込んできた。
「んな大ぶりの攻撃、そうそう当たんねぇよ!」
後ろに下がり態勢が立て直される瞬間を狙い、彼女の拳がクマを捕らえるが、毛の分厚さから威力が軽減されているようで。同じくにじり寄っていた宵藍へと攻撃目標が変わるが、その攻撃を刀で受け止め、返す刃で斬り払いクマから離れる。
ここで刀を、肩から抜いた獅子牡丹へと持ちかえた獅子鷹が近づく。
「言っておくが、俺は片腕の方が怖いぜ」
言って攻撃力を引き上げ、大上段から兜割りを食らわす。ざっくりと斬られ、本物のぬいぐるみのようにクマは動かなくなった。
しかし、この間に横の茂みからもう一匹のクマが出現。目の前で同族を殺されていたためか、最初から臨戦態勢である。
「お! おかわり来たか。んじゃ、こいつは私が相手するぜ!」
攻撃最中だった獅子鷹達から遠ざけるように、凛が攻撃をしかけつつ移動する。
そのクマの後ろから、迅雷を使ってあっという間に近づいた宵藍が不意打ちをかけた。全く予想していなかったクマがすっ転ぶ。その隙をついて凛も拳を振るった。
むくり、とそれでも起き上ったクマに対し、凛は一度距離を置く。誘われていると気づかずに、クマは凛へ突進すると。
「バレバレだぜ!」
すっと体を反らせると、横合いからストレートが飛ぶ。
その間に、獅子鷹も合流し、よろけたクマの脚を狙い刃が振るわれる。しかし、まだ動くクマの一撃が獅子鷹へと飛んだ。自身障壁でなんとかそれを防御し、退避する。
それと同時に距離を置いた宵藍の銃弾が放たれるが、それでもよろよろとクマは向かってくる。そこに、
「後ろガラ空きだぜ?」
凛の放ったコークスクリューが、クマの致命傷となった。
三者三様に満足しながら、辺りを探りつつ登山している間に、頂上へと辿り着いたのだった。
●後
全員が頂上に集まったところで、リズィーからクマ達のお墓を作らないかとの提案があった。
ガールズトーク中に発案されたらしい。
というわけで、麓にあった管理小屋へと連絡を入れると、最初は渋られたものの、後片付けになるとの言葉に『なるべく目立たない所になら』という了承が得られた。
リズィーが持ち込んでいたシャベルは麓の小屋にあるため、それを取りに行く者、クマ達を集める者と別れることになる。
墓の場所は各々がクマを倒した場所から一番近い、山道から少し外れた森の中となった。
全員がそれを手伝い、墓石として森の奥にあった大きめの石が整形され置かれる。
今度は普通の熊に生まれてくるように‥‥と願いを込めて。