●リプレイ本文
「タロスとゴーレムが戦ってる‥‥?」
陸戦形態で襲撃された都市に急ぐ、8機のKVを操る傭兵の内、アッシェンプッツェルに乗る月居ヤエル(
gc7173)は、その奇妙な構図に、思わずそう呟いた。
『たかが――はしゃぐな――』
「‥‥仲間割れ? ‥‥いえ‥‥あの声は確か‥‥」
ガンスリンガー『Schwalbe・Schnell』に乗る奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は、オープン回線に響いたHm2ndの声を『知って』いた為、そう言った。
盲目故に、基本的に声で人を覚える奏歌にとって、それは確信である。
「え、あのゴーレムにHmが乗ってるの?!」
月居が、奏歌に聞き返す。
「‥‥時間が無いので詳しい説明は省きますが‥‥あの半壊ゴーレムの搭乗者は‥‥人類保護下のHmです‥‥」
「じゃぁ、助けなきゃ‥‥!」
月居が叫ぶ。
「‥‥奏歌個人としても、彼女を死なせたくありません‥‥皆さん‥‥あのゴーレムの援護をお願いできますか?」
傭兵たちは、奏歌に同意し、速度を上げる。
「とりあえず、ゴーレムとタロスを分断するよ!」
ヤエル機がバルカンを放つ。
●
三色のタロスは、Hmのゴーレムを囲み、一斉に襲い掛かる。
だが、斧槍をゴーレムに叩きつけようとした赤の進路を、ヤエルの機銃が塞ぐ。思わず怯む赤。
『また、邪魔が入りましたね?』
特に焦った様子も無く、白いタロスの少女が微笑んだ。
『反応。KVが、八機』
青いタロスの少女の警告に、三機は周囲を警戒する。次の瞬間、飯島 修司(
ga7951)のディアブロが放ったレーザーが、青の装甲をかすめた。
「損傷、中? かすっただけで?」
計器の表示に驚愕する青の少女。その時、戦場に現れた飯島機が、指で喉を掻き切る真似をし、続いてその指を下に向けた。
「‥‥」
青の少女は相変わらず無表情。しかし、その眉は微かに引きつっている。
『はぁっ!? 何ソレ? ダッサッ!!』
すかさず赤いタロスの少女が、フェザー砲を構えた。
『このアホの子を助けるつもり? 泣かせるぅ!』
そう言って、F砲をHmのゴーレムに浴びせ掛ける。しかし、その攻撃は奏歌機のシールドに防がれた。
続いて、前進して来た麻宮 光(
ga9696)の阿修羅がツイストドリルを繰り出し、赤を牽制。Hmの退路を作り出した。
「さて、手負いの1機を複数で攻撃する様なイジメは関心しねぇな」
麻宮が言う。
「好き勝手やってくれやがって! こっからはオレ達のワンサイドだ! 悔い改めて死んで逝け!」
荒々しく叫んだのは、ディアブロ『Baalzephon』を駆る山崎 健二(
ga8182)だ。
『あらあら‥‥自覚の無い傭兵さんたちには、困りましたわ‥‥』
すかさず白が斧槍で、山崎機に襲い掛かる。
「ハッ! その程度の動き、すれ違い様にバラバラにしてやるぜ!」
だが、飯島は言葉とは裏腹に、散々挑発だけしておきながら、白の槍斧を機盾で弾いただけで、素早くHmの護衛につく。
『所詮口だけ‥‥これだから殿方は‥‥おやりなさいっ』
白の少女は呆れながらも、配下の無人ゴーレム2機に指示を出し、自身もHmに向かう。
「損壊した機体で挑む覚悟は見事‥‥だが、後は我々に任せて退け」
だが、ノーヴィ・ロジーナbis『アヴァロン』に乗るシャーリィ・アッシュ(
gb1884)が、そう言ってブーストで白に体当たりを仕掛け、そのままヒートディフェンダーで切り結ぶ。
「タロス3機がかりでゴーレム1機を囲むとは‥‥見るに耐えん」
シャーリィが不快そうに吐き捨てる。
山崎は、牽制の必要も無い単純な動きの無人ゴーレムをセトナクトで迎え撃つ。
「木偶人形が、とっとと消え失せろッ!」
超音波振動の咆哮と共に、ただの一刀でゴーレムの片方が両断された。
『そ‥‥そんなっ!?』
眼前の、山崎機の強さに、動揺を見せる三色旗(機)。
その時、奏歌機に突進するもう一体のゴーレムに、背後からHmが投擲した、ゴーレムの背部に装備されているトマホークが突き刺さった。
Hmが強化人間としての力を振るったことに、はっとなった表情で背後を振り返る奏歌。しかし、まずはドラゴン・スタッフを振るい、もがくゴーレムに止めを刺す。
Hmは止まらず、倒れたゴーレムから斧を引き抜くと、再度タロスへの突進を試みた。それを制止したのは、麻宮である。
一方、S−01HSC『Rote Empress』に搭乗するルノア・アラバスター(
gb5133)は、スラライで赤を牽制しつつ、仲間たちに声をかけた。
「エース揃い、ですし、心配は、少なそう、です、ね‥‥説得は‥‥お任せ、します」
●
「どうして、私を助けてくれるのですか‥‥?」
制止され、初めてHmは、自分が傭兵たちに味方と認識されたことについて疑問を感じた。
「話は聞いた‥‥君はHmだろう? 俺達とHmは、もう敵同士な訳じゃない。戦う事もあったが今じゃ助け合える仲間であると、俺は、信じて動いている。ここで、無茶な事をして、命に関わる様な事は、してほしくはないからな」
麻宮の説得。Hmは、彼の『仲間』という言葉に反応して考え込むような表情を浮かべた。
『仲間‥‥かつて私も、仲間の為に戦うのだと教えられて、訓練を受けてきました‥‥『仲間』の為に‥‥』
『でも‥‥私は彼女を守ったのに、彼女を泣かせてしまった‥‥駄目なんでしょうか? 親しいものを守る為『だけ』に戦っていては、いけなかったのでしょうか!?』
Hmの言葉は、質問と言うより独白に近かった。
それでも、シャーリィが答えた。
「いけないものか。そういう理由で能力者になった者はたくさんいる」
シャーリィの説得に、山崎が続く。
「守る為に戦うってのが、どーゆー事か、か。失いたくない人が居て、敵意に抗う力があるから立ち向かうって事かな? ん? 近しい者を守る為だけに戦ってはいけないのか、って? んー、良いんじゃね? 別に‥‥始まりは、な」
続いて、奏歌も言葉を返す。
「‥‥奏歌が言えた義理ではありませんが‥‥大切な人を悲しませたくないのであれば‥‥その人のみならず‥‥その人の居場所を‥‥世界を‥‥守るのです」
山崎が再び口を開いた。
「そ、彼女の言う通り、だんだん守りたい範囲が広がってくからさ」
『ならば、私はやはり戦わなければ、いけないんです! 気遣いは嬉しいです‥‥でも、この身体はもう‥‥』
Hmはそう言って、口の端から垂れる血を拭った。
「まだ可能性はあるかもしれないんだろ? 誰かを守るなら、自分が先に倒れちゃいけねぇって事だけは覚えといてくれ」
山崎が、釘を刺すように言う。
『それでも、私が教官から教わったのは戦い方だけ‥‥私が彼女の為に出来ることも‥‥!』
「いや、戦う以外でも守る事は出来る‥‥方法は人それぞれ。見つけるのは自分だ」
シャーリィが言った。
畳み掛けるように、今度は月居が言う。
「友達を守る為に戦うのは悪い事じゃないと思う。きっと、私だって友達が危険だったら体張って護ると思う‥‥でも無理しちゃダメだよ! 死んじゃったら、その友達が、また悲しむ事になるもの」
月居の言葉に、はっとなるHm。彼女の脳裏に、出会った少女の笑顔が甦る。彼女の言葉は、かつての教官の後を追おうと決めていたHmの心に、動揺をもたす。しかし、別の光景を思い浮かべたことで、その表情に激しい憎悪が浮かんだ。
『けれど‥‥あいつらは、許せない‥‥! 貴方たち傭兵を恨んではいません! でも、私たちの仲間は、Hmは守る為に戦って‥‥でも守れなくて‥‥! どれだけ多くのHmが無念のまま死んだか‥‥!』
Hmのゴーレムが、手にしたトマホークで、三機を指す。
『それを奴らはッ! どれだけ多くの『守ろうとした人』を! 踏み躙ったかッ!』
激昂するHm。一方のタロス三機は、そんなHmの様子を嘲笑っているようであった。
『ぷっ! やっぱり受ける〜!』
赤の少女がゲラゲラと笑った。
『所詮、Hm‥‥それも2ndなど欠陥品』
青の少女も、見下げ果てた‥‥と言った風に呟く。
野獣のように吠えて、加速の動きを見せたゴーレムを飯島機が冷静に押さえつけた。
「貴女が、延命治療時のリスクを負ってまで戦う「理由」は確かに伺いました。今は、その内容までは問いますまい。「仲間」として戦って頂いても、構いません」
『じゃあ‥‥』
ぱあっと笑う、Hm。
「ですが」
飯島は続ける。
「憎悪だけを理由とするのはお薦めしません。醜悪で無様ですからな。自分でも唾棄したくなる程度には」
飯島の言葉は、Hmに、自分を見つめさせる呼び水となったようだ。
「そして、戦った結果、自分が何を得るのか、もう一度考えてみてください」
Hmは、飯島に言われ、自問し始めた
この機を逃さず、奏歌が続ける。
「‥‥奏歌は‥‥貴女の『教官』と‥‥一度だけ砲火を交えました‥‥少なくとも、あの人は‥‥憎悪で‥‥私たちの前に‥‥立ち塞がった訳では‥‥無かったと思います‥‥」
この奏歌の言葉で、Hmはようやく奏歌の機体に、見覚えがあることに気付いた。
「あなたには、無理して欲しくない‥‥だって、無理したら治療を受けられなくなるんでしょ? タロスは、私たちがすぐに追い返すから、お願い、無理しないで‥‥!」
月居が言う。
「守るために力を振るうことは肯定するが‥‥まだ戻れる道の上にいるのなら、無理はするな」
シャーリィも説得を諦めない。
「‥‥彼が、貴女に最後の教練を行ったのは‥‥貴女を‥‥生かす為だった‥‥はずです‥‥」
最期に喋った奏歌の言葉に、今度こそHmは動きを止めた。
『あなた方に、従います‥‥』
静かに呟くHm。麻宮が言う。
「決まりだな。無事に、ここを終わらせて、みんなで飯でも食おうじゃないか」
●
当然の事ながら、説得の間も両軍は動き、戦い続けていた。そしてHmの説得が終わった段階で、白に対峙していたのは、シャーリィ機と、若山 望(
gc4533)のリンクスだった。
「さて、何の戦略もなく、ただ都市を攻撃するだけなどという非道、身をもって償っていただきます」
望はそう言うと、シャーリィと干戈を交える白を、ガトリングで牽制する。だが、白は素早く飛び下がり、F砲を乱射する。
『戦略ならあります。リリア様に逆らう貴方たちに、罰を加えるという崇高な任務がっ!』
気迫の籠もった白の突きが、シャーリィ機に直撃した。
「損傷軽微‥‥これで全力か?」
だが、機体の防御力で耐え切れると判断したシャーリィは『当たっているのに倒れない状態』を見せて、相手にプレッシャーを与えようとする。
『な‥‥』
先程ゴーレムが瞬殺されたこともあり、あからさまに動揺する白。その機体の側を望のスナイパーライフルの弾丸がかすめた。
「空戦とは距離感が違いますね」
再びガトリングでの攻撃に切り換えつつ、望が冷静に言う。
『くっ!?』
動揺している為に、外れた弾丸にも怯える白の少女。そこにシャーリィが全開でHDを撃ち込んだ。
「次はこちらの番だ、しっかり受けてみせろ」
更に、もう一発望のライフル弾が白を外す。だが、今度の弾は白の足元に着弾し、土煙をあげた。
『ひ‥‥!』
白の少女が情けない悲鳴を上げる。それが決定打だった。体勢を崩した白をシャーリィ機が切り伏せる。白は仰向けに倒され、それでも何とかハルバードでHDを受け止める。
だが、刃により再生しかけていた、先程Hmがつけた白の肩の傷を再び開いた。
望が、その傷にしっかりと照準を合わせた。
「‥‥2発で慣れましたが」
言葉通り、今度の弾丸は正確に、白の肩の傷口に撃ち込まれた。陸戦の経験に乏しかった望は、的を外しつつも、最終的に陸戦の距離感を掴んだのである。
弾丸は深く食い込み、タロスの重要な駆動系の一つにまで達した。斧槍を落し、一瞬棒立ちになった後で、がっくりと膝をつくタロス。
『動かないっ!? 何故‥‥あ? ああーっ! リ、リリアさ――』
それが、白のパイロットの最後の言葉だった。外から見えたのは、さして大きくも無い爆発だったが、内部ではコクピットを含む主要な部位が、吹き飛んだのである。
●
『憎悪で、戦うな? 確かに。害虫を駆除するのに、憎悪は必要無い』
月居の援護を受け、自らは月居機の盾となっている飯島機と打ち合いつつ、青の少女はそう言った。だがその時、白の少女の断末魔が、青の耳に届いた。
『あ‥‥?』
何が起きたのかを把握し切れず、呆然となる青の少女。それに対し、飯島は再び先程の挑発――首切りと地獄へ落ちろ――を繰り返して見せる。
先程の挑発は、苛立ちを誘発したが、今度の挑発は、仲間を失った青の少女にとって、恐怖を引き起こした。もはや、無表情では無い。必死の形相で離脱を試みる少女。既に、戦闘中の赤の事は眼中になかった。
だが、飯島はこの時を狙っていた。飯島機は、逃げ出そうとした青にスパークワイヤーを絡めてバランスを崩させ、機槍で地面に倒す。
青の胴体を踏み付ける飯島機の機槍が、コクピットを貫いた時、人間のものとは思えない悲鳴が響き、何かに押し潰されたように途絶えた。
●
『あんたたちっ‥‥許さないんだからぁっ!』
相次いで仲間を殺された赤は怒りに任せ砲を乱射した。だが、その攻撃はルノア機の重装甲に傷一つ、つけられない。
「無駄、です。この、真紅の、女帝の、装甲は、幾多の、砲火を、越え、尚、曇る事の無い様に、磨き上げ、られて、いるのだから」
逆に、ルノアの放った弾丸は、直撃は免れたにもかかわらず、容易く赤の手を吹き飛ばした。
『化け物‥‥! 同じ赤のくせに‥‥!』
たまらず空中に退避しようとする赤を麻宮機が狙撃する。今度は足を失う赤。
このままでは逃げ切れない――そう判断した赤が次にとった行動は、最後の意趣返しか。それとも思い掛けない行動で、傭兵たちの虚を突いて撤退の突破口を開くつもりだったのか。
いずれにしろ、赤は離陸すると、砲撃を繰り出しながら一直線にHmへと向かった。
『死ね!』
だが、砲撃は最後の意趣返しを警戒していた山崎機の機盾で防がれた。それでも体当たりするように、ゴーレムに肉薄する赤。
『舐めるなぁ!』
だが、吠えたHmは、ライフルの銃床のブレードで、怒りを込めて赤を打ち据えた。
『ひっ、ぎっ!?』
赤の少女が衝撃に呻く。
「赤い、タロス‥‥逃がしは、しません」
そこに、一瞬で追いついて来たルノア機のルーネ・グングニルが突き込まれる。
『畜生―っ!』
赤の少女が叫びながら最後に見たのは、自らを見下ろすゴーレムであった。
敵の全滅を確認した山崎は、Hmに話しかけた。
「ひとつ聞き忘れていたんだが、キミの名前は? Hmじゃなくて、人らしい名前。今度会ったら教えてくれな?」
●
戦闘後、Hmの体を案じた望らに搬送されたテントで、寝ているHmのベッドには、少女の名前が記されていた。
『E・ブラッドヒル』、と。
そして、Hmは飯島の言葉を反芻する。
「私は、何を望めば‥‥教官‥‥教えて下さい‥‥」