タイトル:殺戮のパラダイスビーチマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/17 20:49

●オープニング本文


 南半球某所。夏の日差しも眩いとある砂浜に、は少女たちのはしゃぐ声が響いていた。照りつける日光の下で瑞々しい少女たちの肉体は色とりどりのおしゃれな水着に包まれ、健康的な汗を反射させている。
「えいっ!」
 少女の一人がはちきれそうに空気の詰まったビーチボールを元気よくスパイクした。
「きゃっ!」
 だが少々力み過ぎたのであろう。ボールは勢い余って、少し遠くに飛んでしまった。
「もーっ! ちゃんと投げてよねーっ!」
 ボールを受けそこなった少女はそう頬を膨らませながらもぱちゃぱちゃと海水を掻き分けてビーチボールの方へ走っていく。
 ぐっと上半身だけを曲げて屈みこみ、ボールを拾うとする少女。
 水着に包まれたバストが揺れるが、まだ十分すぎるほどの瑞々しさを誇るそれは、垂れて形を崩すことなど無い。
「え……?」
 異変が、いや悲劇が起きたのはその時であった。
 少女の、小麦色の細い腕がビーチボールを拾う前に、海中からぬっと突き出したキチン質の外殻に包まれた、巨大なエビを思わせる長大な触手が二本突き出た。
 それが軋むような音を立てて湾曲し、ビーチボールを抑え込んだ。
 触手の内側には無数の鋭い鉤爪が生えており、ビーチボールは乾いた音を立てて破裂した。
「ひっ! い、いやっ‥‥」
 少女は本能的な恐怖と嫌悪が全身を貫くのを感じ、後ずさる。
 触手は何かを探るように、丸まったり伸びたりを繰り返し、その度に嫌らしい耳障りな音が穏やかで平和なはずだった海水浴場の波音を打ち消してゆく。
 とても長く感じるが、実際には一瞬でしかない息苦しい時間。少女の胸が、激しく上下し、この夏休みの為に買ったばかりの水着を押し上げる。
 首筋をに浮かんだ汗が、鎖骨を経て、豊かな水着の谷間に流れ込む。
 それが合図ででもあったかのように、少女は素早く踵を返すと岸に向かって全力で駆け出した。
 だが、スポーツで鍛えたと一目でわかる、少女の引き締まった身体のしなやかなバネも無力であった。
 想像を絶する反応速度で、触手が背後から少女に襲いかかったのだ。
 少女は背中にキチン質の無機質な冷たい肌触りを感じた。次の瞬間には触手が、一本は少女の両胸の下を抑え、もう一本は肩口から斜めに絡みついて少女の谷間を貫通してもう一本と噛み合った
「イヤーッ! 痛いっ! 助けてぇーっ!」
 岸近くで待っていた友人の二人が気付いた時にはもう、すべてが手遅れであった。
 友人の悲痛な悲鳴に気付いた彼女らが見たのは、今や波打ち際から半分以上全身を突き出した『それ』が、捕えた獲物を高々と触手で掲げ、再び海に潜っていく光景であった。
「大変‥‥!」
 異常事態にも素早く反応した残りの少女二人が素早く海に潜った。怖いなどといっていられない。大切な友人なのだ。
 二人ともやはりスポーツは得意なのだろう。『それ』の異様な遊泳速度に翻弄されながらも何とか追いつく。
 だが、海中で自分たちの友人を捕えたものの姿を初めて間近で見たとき、勇気ある二人も絶句するしかなかった。
 その体長は4、5メートル。蛇腹のように蠢く多関節の扁平な体の頭部からはカタツムリの眼ように柄についた黒く何の感情も感じさせない巨大な眼が突き出ている。
 友人を締め上げ、残忍に拘束する一対の奇妙なエビのような触手の付け根には、おぞましい棘状の歯に囲まれた円孔形の口腔が美味なる獲物を味わうひと時を待ち焦がれるかのように開閉している。
 アノマロカリス・カナデンシス――『奇怪なエビ』を意味する学名を冠する、遥か太古に海洋において食物連鎖の頂点に君臨し、悠久の時の彼方へ退位したはずの王者である。
 その王者が、バグアという侵略者の手によりキメラという傀儡と化しつつも、凱旋したのだ。
 再び凄惨な狩りに興じるために。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
獅堂 梓(gc2346
18歳・♀・PN
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

 南半球の夏空の下、青い海を高速艇が走る。アノマロカリスも、走る。
 接敵そのものは呆気なく完了していた。
「‥‥出ました!」
 そう叫び、装備していたアサルトライフルを構えたのは秋姫・フローズン(gc5849)。続いてUNKNOWN(ga4276)もライフルを構えた。
 乾いた速射音を合図にして、水面近くに浮上して来たアノマロカリス型キメラは一目散に逃げ出した。
 傭兵たちの合図で、クライアントの政府高官から提供された高速艇の操舵手が舵を切る。
「逃げ足だけは速いな。 しかし、あの速度なら腹や口に行方不明者を抱えている可能性はゼロ、か」
 そう呟く赤木・総一郎(gc0803)に、追儺(gc5241)が頷きつつも反論する。
「だがまだもう一つの可能性が残っている。そっちがゼロでないなら、信じるべきだろう」

 そのもうひとつの可能性であるB班は、付近の海蝕洞を捜索中である。
「やれやれ ひどい臭いだな」
 地堂球基(ga1094)がそう顔をしかめて呟いた。悪臭の元は、洞窟内部に無造作に捨て置かれた様々な生物たちの腐敗しかかった死骸である。
「うえぇ‥‥気持ち悪い。 でも、やっぱりここにいるのかな」
 死体を避けて歩く獅堂 梓(gc2346) は口元を抑えながらも、傍らで死体を調べる不破 霞(gb8820)に話しかけた。
「ええ、この噛み跡。 間違いありません。 UNKNOWNさんから教えてもらった通りの特徴‥‥私の知識にあるアノマロカリスの口の構造とも一致します」
 ランタンを掲げ、不破の調べる死体を照らす赤槻 空也(gc2336)。その瞳には沈痛さと、キメラへの憎悪が入り混じっている。
「早く、早く見つけねぇと‥‥!」
 その声は焦っているというよりも、必死に少女はもう死んでいるという感情を押し殺しているといった感が強い。
 そんな赤槻の肩を地堂が軽く叩く。
 地堂が全員に示したのは、散乱する死骸の中で、無残な噛み傷で致命傷を負いながらも、まだかろうじて生きているイルカであった。
 やがてイルカは息絶えた。
 だがこの出来事に僅かな希望を抱いた一行は速やかに奥へと進み、死骸が山のように積み上げられ、ある種の祭壇の如き様相を呈している場所にたどり着く。
 その上にはアノマロカリスの餌食となったと思われた、あの少女がうつ伏せに横たわっていた。
 水着の上部は無残に引き裂かれ、美しく引き締まった背中が露出している。その肩にはあの特徴的な噛み傷が無残に刻印されていた。
  それを見て、真っ先に駆け寄った赤槻は少女を抱き起し、脈を確かめる。
「‥‥そうッだぜ‥‥女子ィ!キバれぇえ!生きて帰るぞッ!」
 間髪入れずに救急セットから消毒薬を出し、傷口を洗う。
 続いて地堂が、錬成治療で傷口を活性化させる。
「これからはきみのことを熱血救急拳士とでも呼ぼうかな?」
「なんか‥‥照れくさいッスね‥‥」
 少女の傷口に包帯を巻く赤槻が、地堂の言葉に苦笑した時、少女がようやく目を開けた。
 少女は、見知らぬ人々を見て、助かったことを理解したのか弱々しく微笑む。しかし、自分の上半身の状態に気付くと頬を赤く染めて恥じらい、慌てて胸を隠した。
「うおッ!? わ、悪い‥‥!」
 これに慌てた赤槻も真っ赤になると、素早く自分の上着を脱ぎ、少女の肩にかけてやるのだった。

「やはり‥‥銃は不慣れです‥‥」
 キメラとのボートチェイスは未だ続行中。秋姫の射撃はキメラに損傷を与えることが出来ない。キメラは一向に反撃する様子を見せず、ひたすら逃走と回避。弾丸はほとんど回避されるか外殻に弾かれるだけだ。
「こう逃げの一手では、ね」
 UNKNOWNもやはり、決定打を与えられないでいた。
 とはいえ、A班は既にB班が無事少女を保護したことを知らされていた。後はキメラを討伐するだけ、任務は成功したも同然、の筈であった。
「巣に逃げ込むつもりか」
 赤木の言葉通り、キメラの前方にはかなり大きな海蝕洞がぽっかりと口を開けている。この高速艇なら十分侵入可能な大きさである。
 無論、操舵手は速度を上げ、海蝕洞に突入した。
 A班は衝撃にも素早く体勢を立て直し、周囲の状況を確認する。
その彼らの眼前で、洞窟内の浅い水路で反転し、傭兵たちに相対したキメラが、ゆっくりと触手を持ち上げた。
 威嚇ではない。完全な戦闘態勢である。
「追いかけっこは‥‥終わりだ」
 追儺はそう言いつつアリエルを構えた。秋姫とUNKNOWNも改めてライフルを構える
 キメラはしかし、逃げようともせず、例の感情の無い突き出た目に4人を映すだけだ。
「撃ちます‥‥!」
 まず、秋姫が引き金にかけた指に力を込めた時――
「撃つな!」
 叫ぶ赤木。その声で四人も気付いた。
 何故キメラが無様な逃走劇を演じて見せたのか。同じような景色の続く海上で彼らを連れ回して、最終的に、ここに誘導することがキメラの目的だったのだ。
 何故ここなのか? その答えはキメラの背後に現れたB班である。
 この海蝕洞の入り口は、砂時計を思わせる構造であった。入り口は広いものの、奥に行くに従って細くなり、その細い通路の先にまた広い空間が広がっている。
 キメラはその細くなった水路の出口を塞いでいる。
 そして少女を救出したB班は今まさに、その細い通路を抜けだすところであった。
この時、A班は高速艇の上、すなわちBに班の上に布陣している為、ライフルや弓を使えば、逃狭い通路にひしめくB班までが射線上に捕えられることになってしまう。
 現に、キメラはじっと待ちの一手。明らかに射撃と同時に回避。傭兵隊の同士討ちを狙っている。
「‥‥ッザってぇ‥‥絶滅種のクセにッ‥‥虫野郎ッ!」
 赤槻の表情は険しく、汗が頬を伝う。彼は救出した少女を背負っており咄嗟には敵に対応できない状態だ。
「言った筈だ‥‥終わりだ、と!」
 追儺が状況を打破すべく、まず動く。
「合わせます!」
 そう言った不破も、ほぼ同時に跳躍する。
「早々に仕留める‥‥! バックアップは――」
「おっけー! 任されたっ!」
 不破の呼びかけに笑顔で答える獅堂。彼女の位置からなら、A班を射線に置くことなく射撃が可能だ。ルナによる正確な援護射撃に気を取られたキメラの隙をついて、追儺が瞬天速を、同時に不破が迅雷を発動させた。
 洞窟の両端から二つの淡い光跡が走り、キメラのいる通路で交錯した。追儺の瞬即撃がキメラの外殻をひしゃげさせ、不破の風鳥を用いた刹那が関節に食い込む。
 手応えはあった――二人は攻撃を叩きこんだキメラの体から力が抜けてゆくのを確かに感じた。
 しかし、二人が跳躍しようとした時、驚異的な反応速度で触手が二人の足首に絡みつく。キメラはそのまま二人の体を振り回すと、不破と追儺の頭部を激突させた。
「くっ!?」
「がっ‥‥!」
 洞窟内に衝撃音が反響した。能力者である以上、肉体的なダメージはさほどではない。だが、頭部への衝撃はやはり深刻。二人は一時的に失神してしまう。
 間髪を入れず、キメラは二人を投げ捨てると、B班の残り三人に向かって浅瀬を突進した。
「つかまるのは、勘弁して‥‥欲しいケドッ!」
 獅堂は、回避を行わなかった。彼女の背後にいるのは少女を背負って身動きできない赤木と、回復担当の地堂である。彼女が二人を守るしかない。
 獅堂のリクエストに応えたのか、キメラは捕獲ではなく体当たりを獅堂に喰らわせた。弾き飛ばされ、岩肌に叩きつけられた獅堂はそのまま崩れ落ちる。
「やれやれ結構大きい相手に、浅瀬もしくは水中での撃退依頼ときたもんだと」
 地堂はそう呟きながらも、超機械「PB」のスイッチを入れ、キメラを牽制する。「オマケに行方不明対象の生存確認並びに奪還ときたらややっこしくて、『易しい』というより『普通』依頼じゃないかなと、心配はしていたけど、ね!」
 しかし、キメラは電磁波を振り払うように巨体を震わせ攻撃態勢に入る。その時、赤いオーラを揺らめかせた黒い巨体が、キメラに組み付いて行った。
 キメラを岩肌に抑えつける赤木の肉体は、黒鉄の如き光沢。額には二本の角。――覚醒だ。
「赤槻! お前は被害者を連れてそのまま離脱しろ!」
「彼の言う通りだ」
 赤槻が逡巡したのは一瞬である。今は、彼が少女を安全な場所に連れて行くことこそが少女も、仲間も助ける最善の方法であると理解したのだ。
「鞭打ち位は、我慢してくれッス‥‥!」
 少女をしっかりと抱きかかえ瞬天足の衝撃に備える赤槻。次の瞬間淡い光が走り、赤木がキメラを押さえつけて道を作った通路を赤槻が高速移動ですり抜ける。
「赤槻さま‥‥!」 
 一気に高速艇にまで詰め寄った赤槻を秋姫が手を貸して、甲板にまで引き上げた。
 赤木が呻く。キメラの触手が彼の肩を貫いたのだ。
「肉壁の、家系の、面目躍如、か‥‥」
 そう自嘲気味に呟く赤木、流血しつつも更にキメラを抑え込む。
 だが、キメラは赤木を組みつかせたまま高速艇に向かって海面から大きく跳躍した。
 触手を広げ、特徴的な口を蠢かせる。
「人を生かすも、命を獲るも。この一撃に魂を込め」
しかし、キメラの真下ではそう呟いたUNKNOWNが高速艇の甲板に足を付き、水陸両用槍「蛟」を構えて待ち構えていた。
「ただ、撃つ」
 その言葉と共に、UNKNOWNはキメラの口に狙いを定め、瞬天速で突撃する。
 攻撃そのものは口によって受け止められたが、キメラを落下させ、赤槻と少女を守るには十分であった。
 赤槻と少女が無事乗り込み、UNKNOWNが浅瀬に着地したのを見届けた秋姫は、甲板から飛び降りつつ高速艇の操舵手に合図した。猛スピードで離脱する船。この時点で少女の 救出は成功したのだ。
 いや、キメラの討伐も今や完遂されようとしていた。
 地の利を失い広い空間に全身をさらしたキメラに対し、細い通路の奥から一対の金に染まった苛烈な瞳。赤と銀のオッドアイ。そして蒼く輝く残忍な双眸が強烈な殺気を放っているからである。
「後は‥‥任せた、よ」
 追儺、不破、獅堂の三名に対して錬成治療をフルに叩きこみ、錬力の枯渇した地堂が座り込んでいた。
「あははははは! よくもやってくれたよねぇ! エビ野郎!」
――覚醒。銀に染まった髪に、狐耳と九尾の幻影を纏った獅堂は完全に黒梓状態。
「ボクがさァ! エビフライにしてあげるよォ!」
 過激な言葉とは裏腹に使用したのは援護射撃。誤射の危険がない高効率の援護射撃が赤木の肩に食い込んだ触手の関節に一点集中し、根元からそれを吹き飛ばした。
 この援護を受けて、赤木も残った触手に掴みかかると、力任せに引き千切った。
 最大の武器を失ったキメラに追儺が襲いかかる。白い炎の幻影を纏った拳がキメラの口腔部に突き刺さる。だが、先程UNKNOWNの突撃をも受け止めた口腔は、想定外に強化されており、覚醒した追儺の攻撃をも受け切った。
「ならば!」
 素早く拳を引き抜いた追儺は、キメラの頭部に手をついて宙返りすると、その背中、先程自身がひしゃげさせた殻を掴むと、引き剥がしにかかった。
 白い炎の幻影が一際大きく燃え上がり、キメラの外殻が軋むような音を上げる。が、キメラが追儺を振り落とそうと激しくもがく。
 まずUNKNOWNに体当たりし、続いて追儺を秋姫に叩きつけて振り落とす。
「ダメか‥‥!」
 素早く体勢を立て直し悔しそうに歯ぎしりする追儺。
「いや! お前の行動が、ヒントだ!」
 着水したキメラの背中に、今度はそう叫んだ不破が飛び乗った。先程追儺が広げた殻の隙間に風鳥を差し込み、てこの原理で引き剥がしにかかる。
「剣が持たんか‥‥! いや!」
 剣が折れるよりも先に、キメラの外殻が引き剥がされた。内臓や筋線維が剥き出しになる。露出した部分は、十分な大きさである。
「今度‥‥こそ‥‥!」
洞窟の入り口から差し込む夕日を背に、秋姫の白い髪が淡く発光する。キメラの露出した部分を、真紅に変色した双眸が映す。
 その手に構えるは、UNKNOWNが用意したエアタンクに弾頭矢をくくりつけたボンベ爆弾。
 秋姫は、仲間が奮戦している間に、ひたすらこの時に備えていたのだ。
 キメラの露出した傷口に押し込む。反射的に収縮した傷口の甲羅の残骸に挟まれ、タンクが歪んだ。
「爆発します‥‥離れて‥‥下さい!」
 閃光と衝撃、加えて爆音が洞窟を震わせる。恐るべきことに、キメラはまだ外観を保っていた。
 しかし、キメラの全身の隙間という隙間から噴水の如く体液が吹き出し、動かなくなったキメラは水底に沈んだ。
 歓声を上げる一行。勝利の一服を楽しむUNKNOWNが力の抜けてへたりこみそうな秋姫を支えて呟く。
「見事に太古の暴君を仕留めた、ね。 さしずめ古の釣り人(エンシャント・アングラー)といった所かな?」

 任務を成し遂げた傭兵たちに依頼者は涙を流して感謝感激し、お礼としてビーチと豪華な別荘を貸切で提供した。
「やっぱりこれくらいの役得はないとね」
 地堂はビーチにおかれた寝椅子で、優雅に日光浴を楽しんでいる。
「私には冷たいカクテルを」
 というUNKNOWNのリクエストで出されたのは、いかにもトロピカルな飾り付けのブルーハワイ(もちろんかき氷ではなくラムベースのカクテルの方)であった。
「お前の好みに‥‥合っているのか?」
 赤木のコメントにもUNKNOWNは余裕の微笑み。
「やほー見て見て二人ともー 誰の水着が似合ってる〜?」
獅堂はというと、恥ずかしがる不破と秋姫を両手で抱いて赤槻と追儺にちょっかいをかけていた。
「あ、あまり見ないでください‥‥!」
 背の高さを微妙に気にしている不破はかなり恥ずかしそう。
「は、恥ずかしい‥‥です‥‥」
 秋姫も真っ赤になって俯いている。
 早速の女難に赤槻は赤面、追儺も微妙に困った様子を見せるのであった。
 
 かくして十分な休養で、消耗した体力も癒えた傭兵たちが、明日は再び別々の任務に旅立つという夜のことである。秋姫は一人星空輝く浜辺の散歩を楽しんでいた。
 ふと、何かの気配を感じ、静かに波の打ち寄せる海面を見る。だが、星明りに照らされた明るい海面には何も見当たらない。
 気にせず再び歩き出した秋姫の背後の海面に、ぬっと突き出し物がある。
 先端が鋏状になった、象の鼻を思わせるような、甲殻に覆われた長い器官。その根元にはアノマロカリスと同様に突き出た眼球。ただしこちらはそれが五つもあった。
――オパビニア。アノマロカリスと同時代に生き、滅んだはずのそれは、今は戦意が無いらしく、遥か沖合に泳ぎ去って行く。
――太古からの悪夢は、まだ終わらない。