●リプレイ本文
ティターンの背後に陣取ったタロスがミサイルを放つ。多数の弾頭が入り乱れヴァルトラウテに飛来する。同時にミサイルの隙間を埋める如くキメラの群れも突撃を開始した。
だが、傭兵たちもこの時の為に用意していた各々の兵装で、存分に弾幕を張って歓迎パーティーを開いた。
「わたし達は言わば機動砲台。つまりはラインガーダーの代理ですね」
番場論子(
gb4628)は、機関砲でキメラを薙ぎ払い片っ端から血煙に変えていく。小鳥遊神楽(
ga3319)は弾幕を僚機に任せ、スナイピングシュートでティターンを狙う。
「招かれざる客は早々に退散するのがスマートなやり方だと思うんだけど、それが分かっていないから招かれざる客になっているんでしょうね」
『嫌よ嫌よも好きの内と、お前らよく言うじゃねえか!』
ゲタゲタ笑いながら神楽に言い返すオズワルド。濃い青の成層圏を背に、ひたすら神楽の弾丸を躱してプロトン砲を撃つ。
「さって! こちとら今回は壁役だ! 思いっきりやらせてもらうぜ!!」
だが、神楽と組んでいた砕牙 九郎(
ga7366)の機体がすかさず巨大な盾で甲板を狙ったプロトン砲を防ぐと、お返しとばかりにスラスターライフルと機関砲を放つ。
『なら、思いっ切り食らわせてやるぜェ!』
しかし、ティターンも素早く弾丸をかわしながら拡散フェザー砲で応戦。射撃戦を繰り広げる二機。やがて、ワームが一旦距離を取った。
同じく弾幕を張る飯島 修司(
ga7951)は、この襲撃者に神楽とは違う感想を抱いたようである。
「‥‥聞き覚えのある声と思えば、あの男ですか。そう簡単に死んでくれる相手とは思っておりませんでしたが、何とも厄介な送り狼に絡まれましたな」
飯島は、かつて北米の地方都市で示威籠城を決め込もうとしたオズワルドの部隊と対峙した経験があった。
「知り合い? とりあえず、送り狼のような手合いには力ずくでお引き取り願うわ」
神楽はそう言うと、機関砲による弾幕にあえて粗密を作ることで敵を分断する。こうして分断されたキメラは傭兵の弾幕によって効率よく掃討されていった。
「SESエンハンサー‥‥起動! 迎撃‥‥開始します! いっけぇっ!!」
アリエイル(
ga8923)は、そう言ってレーザーガンを敵味方の弾幕に紛れさせて放つ。しかしティターンは慣性制御を駆使してこれを避ける。タロスも、レーザーを回避しつつミサイルを撃ちまくる。
だが、今度のミサイルはウラキ(
gb4922)の散弾によって命中する直前で防がれた。
「なるほど、勘の良い艦長だな。流石は‥‥という事か。宇宙行きの艦にゼカリアを乗せるのは、少し妙な気もしたが‥‥」
オズワルドは、ミサイルが迎撃されるとヒュー、と口笛を鳴らしウラキを挑発する。
『よォ、随分と重そうな機体じゃねえか! 風が吹くだけでポロッと落下しそうだぜえ!』
「心配するな。空も飛べない機体だからこそ、蝿を撃つのに良い装備が整っている」
ウラキは不敵に言い返すと、散弾銃を猛射してキメラの被膜を狙う。速度の低下したキメラは、ただでさえ厚い傭兵機の弾幕の前に、次々と落とされていった。
だが、オズワルドはキメラを退かせず、なおも突撃を命じる。タロスもこれに合わせてミサイルを再発射する。
「南米戦線で何度かお世話になったこの艦を傷つけさせはしません。確実に、撃ち落とします」
周防 誠(
ga7131)はタロスのミサイルの着弾地点に機体を先回りさせると、機関砲でミサイルを撃ち落とす。だが、それはオズワルドの作戦の内であった。
『狙うならここしかねぇだろう! ホワイトデーとやらの挨拶に太いの一本くれてやるァ!』
叫ぶオズワルド。それは彼にとって、渾身の一発と言えた。タロスのミサイルとでキメラの迎撃で敵が手一杯になった僅かな隙を狙ってランチャーが火を噴き、最初の弾体が、ヴァルトラウテのエンジンに向かう。
「やっかいな物を‥‥」
ブリッジのリデルから警告を受け、最速で反応したのがウラキだった。ブースターで迎撃可能な位置まで移動すると、主砲から徹甲散弾を発射。無数の散弾がミサイルに襲い掛かり、ギリギリでそれを破壊する。
やはり、ミサイルの火力は圧倒的だった。
艦からかなり離れた位置で爆発したにもかかわらず、爆風と破片が感に損害を与えるに足る速度で降り注いだ。しかし、そこに滑り込んで来た九郎が盾でそれらをしっかりと受け流し、機関部への被害は防がれた。
これを見たオズワルドは、何故か機体を反転させ、ヴァルトラウテの遥か上方へと急上昇。その隙を抜け目なくタロスが補って、ライフルでKVを牽制する。
敵の狙いを測り損ねた傭兵たちはリデルの判断を仰いだ。ウラキが代表してリデルに問う。
「リデル艦長、敵の狙いを教えてくれ‥‥僕達を巧く使えそうか?」
『あの、敵は恐らくプロトン砲で、艦の重要な部位を狙って来る筈です』
リデルが回答した。
「その理由は?」
ウラキが質問する。
『えっと‥‥私たちがG5弾頭を迂闊に使えないのと同じ理由です。幾ら強力なミサイルでもここの距離からは迎撃の危険性があって使えません。そしてフェザー砲は近距離用の兵器です。この距離では使えません‥‥あの、つまり』
「わかりました。艦長! 親鳥に、傷一つ付ける訳にはまいりません!!」
アリエイルはレーザーシールドを構える。他のメンバーもそれに習う。敵は単独での大気圏突破能力を持たない。ここで時間を稼げれば、それだけ勝利が近くなるのだ。
「目論見通り敵襲が有ったからには、すべからず撃退し被害を最小限に抑える為、最善を尽くしましょう‥‥私たちは文字通りの『ガーダー』ですね」
番場が言った。
『攻撃、来ます!』
オペレーターが叫ぶ。
『第一射、座標――! 第二射、座標――!』
リデルの指示で、アリエイルと番場が盾を構えたまま、指定座標に移動。直後、二発のプロトン砲がティターンから照射される。
一発目は右のエンジン排熱口を、二発目は左の翼を狙っていた。廃熱口は勿論、主翼も大気圏内で折られれば、ただでは済まない。咄嗟にアリエイルは排熱口の前に立ち塞がる。
「何としてでも無傷かつ消耗なく宇宙へと導かなければ‥‥」
ティターンの出力を持って放たれるプロトン砲はシールドを破壊してアリエイルの機体にも直撃する。
「シールドが‥‥でも、これ以上、踏みこませない!!」
高熱に機体を炙られつつも、アリエイルは艦体を守りきったが、アリエイルの機体は大破した。アリエイル自身も重傷こそ免れたものの大怪我を負う。
左の翼を庇った番場の機体もプロトン砲に炙られる。盾は瞬く間に蒸発して、機体をプロトン砲が貫通した。番場もかなりの怪我を負わされた。
だが、プロトン砲の長距離射撃で二機が戦闘不能になったものの、その甲斐あってヴァルトラウテは無事であった。
そこに、ティターンが再び急降下して来た。やはりミサイルで打撃を与えるつもりなのだろう。オズワルドは射程ギリギリで、ランチャーを構える。
既に、キメラは大幅に数を減らし、タロスのミサイルも尽きていた。もうキメラやミサイルによる攪乱はできない。オズワルドはなるべく当たりそうな場所を狙おうとする。
そのティターンに、ウラキが榴弾を放つ。オズワルドは咄嗟に盾を装備した部分を向けて砲身を爆風から庇う。
『おいおい、何しやがる!』
オズワルドが叫んだ。
「‥‥ほんの気遣いだよ。その重い荷物を捨てた方が、上まで飛べる」
ウラキにそう言われたオズワルドは何故か一旦後退した。そして十分な距離を取ると一旦減速して手足のロックを解除すると、何やらランチャーを操作した。だが、その作業を終えると再び突撃する。
『軽くできるものなら軽くしてみろやァ!!』
オズワルドは下品に笑いながら、もはや当たれば儲けものとばかり、迎撃に対する対策すらせずミサイルを撃つ。
ウラキの隣にいた誠が、機関砲でミサイルを難なく迎撃。同時にウラキが再度ランチャーの銃身を狙って榴弾を発射した。
ティターンはこれに合わせて異様な行動を取った。榴弾の命中直前、まだ二発残っているはずのランチャーを本体から切り離したのだ。
榴弾の範囲に放り投げられたランチャーは大爆発した。
「これは‥‥?」
ランチャーを破壊されたティターンが大勢を崩した際の隙をついて狙撃するつもりだった誠は困惑したが、それでも咄嗟にライフルを放つ。
ティターンは体勢を崩すどころか、パージした武器の爆炎を目くらましにして、ライフルを躱す。が流石に命中精度に重点を置いた誠の狙撃を完全に回避することは難しかったのか、翼のようなパーツの一部が削ぎ落とされた。
それでもティターンはフェザー砲でKVを牽制しながら無理やり接近する。
『ちわー! ミサイルのお届けに上がりましたァ!』
遂に着艦したティターンがシールドの陰から掴み出したもの――それはミサイルの最後の一本だった。先程、一旦飛び下がった際にランチャーから引き抜いておいたものらしい。
傭兵のKV部隊は咄嗟に動きが止まってしまう。ミサイルの威力は先程目の当たりにしたばかりだ。迂闊に接近戦を仕掛ければ、至近距離であの爆風が艦を襲うのだ。
だが、まず誠が、続いて九郎が飛び出した。
誠も勿論最初は躊躇した。ソードウィングによる接近戦を仕掛ければ、間違いなくミサイルを飛行甲板で爆発させてしまうことになる。
「ヴァルトラウテの宇宙への門出、邪魔はさせませんよ」
誠が言う。誠は、もうミサイルは『着弾』したも同然と判断した。なら自分に出来る事は当初の心積もりに従って機体を盾にすることだ。周防はそう判断したのである。
確かにミサイルは強力だが、誠の機体もまた相当に強化した機体だ。ミサイルの上に機体を覆い被らせて、爆風を受け切っても何とか耐え切れるかもしれない。それは誠にしてみれば無謀な決断ではなく、己の機体への信頼なのだろう。
そして、誠には自分の後を追う九郎も心強かった。
自分を援護してくれる九郎の持つ巨大な盾、破軍のフォローも加われば被害を最小限に抑えられる筈だと誠は判断したのだ。
『いい度胸だ! 一緒にブッ飛ぼうぜぇ!』』
誠の機体がティターンに飛び掛かって、覆いかぶさると同時にミサイルが爆発した。
ティターンのFFは、強力ではあってもSES兵器でないミサイルの爆発から本体を守ってダメージを軽減する。
一方覆い被さって爆風を受け止めた誠の機体は無論の事、破軍で誠が受け切れなかった衝撃を受け止めた九郎の機体も大破し、二名とも重傷ではないが大怪我を負った。
だが、ヴァルトラウテも致命打を受けるのは避けていた。さすがに甲板の一部が吹き飛んでいたが、戦闘や航行に支障が出そうな部位への損害は避けられたのだ。そして、他の二機も損傷を受けずに済んでいた。
「‥‥根性はあるみたいだけど、スマートさに欠けるわ。やはり艦長ほど可愛くて、スマートな女性の相手を務めるには役者不足ね」
爆風が収まった後、神楽はバレットファストで弾幕を張るが、ティターンはそれをことごとくシールドで弾く。ウラキもティターンを狙うが、オズワルドは再び甲板から離陸した。
『ほほお‥‥つまりお前らの基準で『可愛い』というヤツなら、中佐殿にアプローチしても許されるって訳だァ!』
バグアはニヤリと、口の端を吊り上げた。その時、通信でブリッジから緊迫した声が上がった。
『こちらヴァルトラウテ艦橋! 大至急応援を頼む! ヤツが‥‥タロスの方が一機、艦橋に!』
●
甲板にオズワルドが着艦してから、ほとんどの傭兵たちは、ティターンに集中していた。その隙にタロスはヴァルトラウテ先端の艦橋の方に回り込んでいたのだ。
『もう高度に余裕が無いの‥‥ごめんね』
既にミサイルを撃ち尽くしていたタロスは、肩に装着したライフルを動かして艦橋に照準を合わせる。
だが、危うい所でミルヒ(
gc7084)が射程ギリギリからマルコキアスをバラ撒いた。当初から、目的をオズワルドの部下が乗るタロスに絞っていたミルヒは、タロスの動きに気付いたのだ。
「白い船は素敵です。白さを守る為にがんばります」
割と関係の無さそうで、実はあるかもしれないようなことを言いながらタロスに向かって射撃を行うミルヒ。まあヴァルトラウテにこれ以上傷がつけば、確かに白さが損なわれるのは間違いない。
『この真っ白な機体‥‥いつかのおねえさん? でも、そう何度も邪魔はさせないよ‥‥』
回避行動に徹するタロス。ミルヒの予測通りその機動は危な気なく、弾丸と薬莢が空しく成層圏にバラ撒かれる。
改めてライフルを構えるタロス。しかし、ミルヒはその隙を待っていた。ミルヒの機体のスナイパーライフルが構えられる。命中。
しかし致命傷には至らない。逆にメイドのライフル弾も盾を貫通してミルヒ機に命中する。
『仕留めなきゃ‥‥』
メイドは強引にタロスを艦に接近させてハンドガンを艦橋に撃とうとした。が、タロスの腕へ、飯島機の短距離リニアが命中して損壊させた。
「奥の手、という奴ですな」
タロスは咄嗟に、全速力で離脱した。
「性格はさておき、貴方の上官は紛う事なき『エース』ですからな。潜り抜けてきた死線と駆け抜けてきた戦場の数に裏打ちされた確固たる戦闘技術‥‥このくらいの腹芸は用いると思いましたよ」
飯島はミルヒ機を助け起こす。
『それ、オズ様を誉めているの‥‥?』
「未だに地球で燻っているところを見ると、お世辞にも要領が良いとは言えませんがね‥‥まぁ、そんなものは戦場には不要と割り切っているのでしょうな」
タロスの方は体勢を立て直して、なおも抗戦の構えを見せる。ついでにメイドが何か言い返そうとした時、ミサイルを爆発させて離脱して来たティターンが、タロスに体当たりして一気に高度を下降させた。既に限界だったのだ。
『もう計器が限界だ! とっととズラかるぞ!』
タロスも指示に従う。
ヴァルトラウテの方も、敵が退却を始めた以上、これ以上追う理由は無かった。リデルは負傷した傭兵の救助を指示して、一気に艦を上昇させた。
●
ヴァルトラウテが無事成層圏を越え、中間圏に突入したころだいぶ高度を下げたオズワルドとメイドを上昇して来たワームの一団が出迎えた。
率いているのは、かつてオズワルドが北米からの撤退を援護したバグアであった。
『すまない! 出撃の許可を取り付けるのに時間がかかってしまった! さっき、あの艦の上で爆発を観測した‥‥やったようだな!』
オズワルドは苦笑した。
『これっぽっちの戦力であの中佐殿と、傭兵が相手じゃあ、厳し過ぎるわ! 昼寝が終わるころにゃあ、素晴らしいニュースが聴けるだろうよ‥‥衛星が陥落したというニュースがな!』