●リプレイ本文
「うん、まぁ気休めだけどね」
出撃前、エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)こと愛称ネルはそう言って、Good Luckを使用するとニェーバに乗り込んだ。
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トゥシェクがタロスを命がけで引き離した為、艦に入り込むキメラの数は増加していた。
能力者の少女は健在で、奮戦していたが別方向から侵入して来たキメラがブリッジの窓にビッシリと張り付く。
立てこもっていたクルーの誰かが悲鳴を漏らす。キメラが、窓を破ろうとべったりと張り付けた手をグネグネと動かした時――
「‥‥やはり、敵は輸送艦への侵入を試みているようですね。ですが、勇敢なバーデュミナス人が守ったこの艦(フネ)絶対に守ってみせます!」
歩兵槍を乱射しながら里見・さやか(
ga0153)のリヴァティーが艦の側面に集結していたキメラを航過しつつ掃射! 掃射!
率先して艦に取り付こうとした群れが、ひぎぃ、とか言いながら体液を撒き散らし肉片となる。
距離を放し、反転したさやかはリロードしつつ状況を確認。とっておきのG放電をどこにブチ込むべきか思案する。
そこに、戦域の管制を担当していた追儺(
gc5241)から通信が入った。
『みんな聞こえるか。相手は獲物を見つけて攻め気にはやっている。圧力が弱い所に殺到するだろう。そこに火力集中点を作れば、一網打尽に出来る筈だ』
追儺の指示に統制に従って、他の傭兵たちも小型をうまく誘導していく。小型が密集した所でG放電を使用するさやか。キメラは無残にバーベキューとなる。
「私の知っているのは、最初に亡命したミィブさんだけですが‥‥なかなかどうして、彼らは勇敢で義理堅い民族なのですね‥‥」
次の攻撃地点の指示を追儺から受けつつ、さやかはこの船を守っていたというバーデュミナス人についての感想を追儺に述べた。
『一人じゃない‥‥か‥‥中々良い言葉だ。なら、それを言って励ました奴にも返さないとな。お前も一人じゃない‥‥同じ戦場に立つ戦友だと』
追儺も、そうさやかに答えた。
一方、さやかや追儺よりは長くトゥシェク面識がある者は、また違う感想を抱いていた。
「ああ、もう!! 無茶しやがるんじゃねぇよ!?」
砕牙 九郎(
ga7366)が呟く。
自機のブースターを細かく動かして、相手に読まれにくい機動を取る九郎は、その機動でフェザー砲をかわしつつ味方と連携した弾幕で中型キメラを蹴散らしつつ叫んだ。
『ハツ! 無茶すんじゃねェってしっかり伝えといてくれよ!‥‥こっから先へは行かせねぇ!』
「気持ちはわかるけどさ‥‥ああもう!」
最初に出会った時、トゥシェクと言葉を交わしていた鷹代 由稀(
ga1601)はトゥシェクの独断専行に歯噛みしつつ、
「あの馬鹿‥‥拾った命捨てるような真似してんじゃないっての!」
それでも、彼の意思を継ぐべくまずは動き出した射殺型の懐に飛び込み、錬剣と光輪を振るう。二匹の大型が悲鳴を上げる間もなく切り裂かれた。
一方、由稀と同小隊のネルは冷静に敵の布陣を観察する。
「んーぅ。フィーニクスが守ってた間はともかく。離れ始めても中型以上のキメラが輸送艦に仕掛けてないってコトは。あの二機のワームのどっちかか、両方に居るってコトかしらね。バグアか強化人間が」
その分析を受けて追儺は、ロータスクイーンで二機の動きを注視する。
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――「こちらペガサス。聞こえるか081、応答可能なら通信回線をそのまま固定しておいてくれ!」
今正に、艦内に乱入しようとしていたキメラ軍団が食いたくねえミートソースにされ、救われた事にもすぐには気付かず、呆然とするクルーに救援の到着を実感させたのは、白鐘剣一郎(
ga0184)からの激励を伴った広域回線であった。
いや白鐘ばかりではない。
「――少しでもあなたたちの希望となれますように」
さやかも通信でクルーに呼びかける。
――くろう は もう だいじょうぶ だと いっている
九郎は、クリューニスを通して救援の到着を伝えた。これらの激励に歓声を上げ、白鐘の指示に従うクルーたち。
――「これから周囲の敵の掃討に入るが、もし艦内で持ち堪えられなくなったらすぐに連絡を。済まないがもうひと頑張りしてくれ。頼むぞ!」
そう言うと、白鐘は自機であるシュテルンGを加速させる。彼自身は輸送艦に迫る二機のワームを撃退する為にである。
KVの到着により、それまでは包囲に徹していた大型が始動。作業を邪魔させない為に半数が傭兵たちへと向かう。
「‥‥ってか、地味にグロいわね。特に大型。あんだけ眼球あって、ちゃんと見えてるのかしら?」
ネルは顔を顰めると、アサルトカービンを迫る大型に乱射。狙いはその無数の眼球だが、効果は――バッチリ!
目を貫かれた大型二匹は両手で顔面を抱え、呻くような仕草を見せた。
「ありゃあ、多分、偽眼だと思ったんだけど」
射殺型は怒り狂って反撃に腕のフェザー砲を放とうとした。だが、このキメラには知る由も無かったが、ニェーバには恐るべき能力がある。
リーヴィエニ
ネル自身の意思とは無関係に、オーブラカが操縦者には優しく負担を与えぬように、敵には無慈悲な全自動で、キメラに鋼鉄の豪雨を降らせる。この攻撃でキメラは弾丸をたっぷりくらい、息絶えるのだった。
ネルが大型を相手にしている頃、同じくニェーバに乗るジャック・ジェリア(
gc0672)は艦との直接の接触を図るべく、キメラの群れに向かう。
「見た目、数は多いがどこまでマズイのかがわからんな。接近して確認からか」
その様は、河に投げ入れられた牛に群がるピラニアの如く中型キメラがニェーバに殺到する。
――だが
「この位置なら、船も味方も安全だな? 追儺」
『ああ、ロータスクイーンで確認している。思いっ切りやってくれ』
ニェーバの機体能力、『ミチェーリ』を発動ッ!
機体に内蔵された砲塔群が唸りを上げる。それは錬力すら必要としない、意思を持たぬ殺意。鋼鉄吹雪! 3000発の機銃が大型、中型、小型の区別無くキメラの肉体を片っ端から削っていく。
――やがて鋼鉄砲塔が掃射を止めれば、もはや周囲に浮かぶのは分解しつつある肉塊ばかり。
悠々と艦に接触したジャックは、遠距離からでは解らない艦内の状況を確かめようと、近距離からの通信を実行。
――『あ‥‥よ、傭兵の方ですか? 大丈夫です。中は‥‥きゃあっ!?』
通信からは能力者少女の悲鳴。
詳細は不明だが、万が一を考えたジャックは即座に艦内への突入を決断した。
「ここは任せてくれ! ジャックさんは艦内へ!」
九郎は、艦を背にして再び群がるキメラ軍団と対峙。マシンガンで小型を掃射し、アサルトライフルで中型を粉々にしていく。
「悪いな!」
九郎の援護に感謝し、ニェーバから降りるジャック。その時、大型キメラが彼らの方に突進して来た。
「やらせやしねえ!」
九郎は、艦と今は搭乗者のいないジャックの乗機を守るべく、その機体でフェザー砲を受け止めると、錬機槍で真正面からキメラを貫く。悲鳴を上げる大型を更に至近距離からアサルトライフルでミンチにした。
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「招かれざる客のお出ましか。早々にお引取り願おう。行くぞ!」
白鐘は最低限のキメラを素早く掃討すると、迫り来る二機の有人ワームに機首を向けた。
まずは牽制。その目的は敵の連携の有無を判断する事だ。
『ジュル〜ル! アサュレナ! 奴を足止めしろロロロ!』
『はぁ? ナマ言ってんじゃないわよォ! レデェファーストだろうがァ! あんたが抑えなよォ!』
白鐘にこの会話が聞こえた訳では無いが、その反応から判断は容易だった。あろうことか、二機はお互いに軽く押し合うようにして、こちらへ向かう。
恐らくお互いに足止めの役を押しつけ、自分が先にヨリシロをゲッチュウしようとしているのだろう。
「なるほど、この連中仲間意識はないらしいな」
「なら、2機がかりでさっさと片付けて。それまでこっちはもう一機と遊んでるから」
由稀はそう言って、本星型へと挑んでいく。
『ヨリシロを頂く邪魔すんじゃないィィィ! 』
タロスがシュテルンGにプロトン砲を浴びせ掛ける。
白鐘はそのままバルカンとアサルトライフルでタロスを牽制しつつ距離を詰める。
「隊長じゃなくて申し訳ないですが、援護します」
ゼロ・ゴースト(
gb8265)のライフルで援護を受けつつ、機体を人型に変形させた白鐘は機拳で殴打。
『キュルルル! レデェに手を上げてェ!』
アサュレナは斧槍を振り回すが、シュテルンを捕え切れない。と、そこに一匹の中型が主人を援護すべく宇宙をすっ飛んで来た。
「任せて下さい! 白鐘さん!」
ゼロはドリルライフルを構えると、牙を剥く中型の眼球に狙いを定めドリルを射出。
真正面からドリルを撃ち込まれキメラは怯んだが、ゼロの機体に掴みかかるも、そこで息絶えた。
その後は散発的に向かって来る中型を狙撃するゼロ。
一方白鐘は、ひたすら機拳でタロスの装甲をへこませていた。重過ぎる一撃に、未改造の通常タロスでは再生も追いつかない。
おまけに、追儺の発動させたヴィジョンアイによって、タロスの挙動は逐一、白鐘に伝えられていた。
これでは瞬く間にアサュレナが追い詰められていったのも無理は無かった。
『どきなよぉ!』
アサュレナ機は渾身の突きを繰り出すが――シュテルンはそれをあっさりと躱す。タロスに隙が生まれる。
「勝負所だな」
水素カートリッジで錬剣を起動した白鐘。同時に、シュテルンの証である12枚の可変翼が斬撃に最適な形状を取った。
「貴様らには永劫の眠りを。遠慮なく受け取るといい」
振り下ろされるレーザーブレードの奔流は何の抵抗も無くタロスを二つに割った。
『ヒギイィイイイ――』
バグアは瞬く間に蒸発した。
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「こっちは時間が無いんだから、ちょこまか動くんじゃないわよ!」
シャムシエルを振り、光輪を射出する由稀のコロナ。敵の強化FFを誘発し錬力の消耗を誘うべく、波状攻撃をかける。
『ギシュルルル! くっ‥‥ヨリシロさえあれば! ヨリシロさえ‥‥!』
だが、ドブナドレクは最初から逃げに徹していた。彼の目的はあくまでもヨリシロの入手。人類の援軍が到着した時点で、戦闘意欲は著しく減退していた。
そして、この時アサュレナが白鐘に撃破された。
『ジュル‥‥ルルル!』
青ざめるドブナドレク。只でさえ厳しい状況が一層悪化したことによるものだ。
「もらった‥‥ぼけっとしてんじゃないっての!」
動揺して動きの鈍ったHWに光輪が命中。だが、本星型は強化FFで辛うじて防御。
『ジュ‥‥ル。潮時だなナナナ‥‥』
撤退しようとするドブナドレクだが、彼はまだ後ろ髪を引かれる思いだった。ヨリシロが諦めきれないのである。
ドブナドレクは決断した。彼は一か八か、最大加速で由稀を振り切り、輸送艦へ突進する。
だが、敵の挙動に注意していたネルはこれを見逃さなかった。
追儺の管制によって敵の進路を見極め、最適な場所に愛機を割り込ませる。
「根性見せなさいっ! ガチムチ号っ!!」
魂の名前のおかげか、元来頑丈なニェーバはワームと激突しても無事だった。そのままくるくると回りながら弾き飛ばされるHW。
ネルも強化FFを張ったHWとの衝突で、激しくコックピットに叩きつけられ、ダメージを受けたが、輸送艦は守り切った。
『グジュウウ‥‥! お、覚えていろ! 地球人共モモモモモモ!』
ドブナドレクは流石に命が惜しいのか、それ以上は交戦しようとせず撤退していった。
同時刻、081番艦の艦内では、前面に立つジャックと彼の背後の能力者の少女が内部に侵入して来た小型の最後の一団を掃討し終えていた。
圧倒的な耐久力を誇るジャックがあっての役割を買って出たおかげで、一時は消耗のせいで苦戦していた少女も持ち直し、二人は無事クルーを守り切る事が出来たのだ。
かくして正規軍の救助班も到着し、081号輸送艦の乗員は無事救助された。
艦の外では、最後の大型にさやかがレーザーを撃ち込んで、撃破した。無数の小型も、他の傭兵と、小型を最優先目標としたさやかの活躍により全滅している。
白鐘がクリューニスに言う。
「クリューニスと言ったか。協力を感謝する」
――あなたも ありがとう
ハツが言う。
『君も良く頑張ってくれた。ありがとう』
宇宙服姿で、大破した艦から救助に来た艦に乗り移る少女に、kVの通信で声をかける白鐘。
「い、いいえ! こちらこそ、本当にありがとうございました!」
少女も敬礼を返す。
「‥‥」
白鐘も、トゥシェクの件を気にしていなかった訳では無い。だが錬力残量、そして今だ敵地に近いことを考慮した彼は、補給を受けると、輸送艇エスコートについた。
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「‥‥ゴメン、こればかりは譲れない。」
艦の防衛完了後、由稀はそう言ってトゥシェクの捜索に行こうとした。
――ゆ き のきもち うれしい ありがとう
――でも もう とぅしぇくは――
既に、フィーニクスとタロスはビッグフィッシュに回収され、本星艦隊に収容されていたのだ。トゥシェク自身は、傷を負いつつもまだ無事ではあるとのことだったが――
無言で押し黙る由稀。彼女たち傭兵の落ち度では無かった。あの状況では輸送艦の安全確保が優先であり、またそれがトゥシェクの願いでもあったのだ。
「あの時の赤い奴が‥‥そんな」
由稀同様、フィーニクスの救助を考えていたゼロも落胆の色を隠せない。
「ハツ‥‥アイツらは、やっぱりトゥシェクを‥‥」
――まって ゆき いまとぅしぇくと――!
082によると、どうもバグアはすぐにこのバーデュミナス人を殺したり、ヨリシロにするつもりが無いようであった。
無論、トゥシェクの状況が最悪なのは変わらない。
――だが
「厳しいが、‥‥生き残ってもらう事を、祈るしかない。お前も一人じゃないって言葉をまだ伝えていないからな‥‥」
追儺の言う通りであった。
それは、結末がどうなるのであれ、まだ全てが終わっていないことを示してはいた。
「‥‥ハツ? トゥシェクと交信は出来てるのよね?」
――うん
「‥‥なら『由稀がすごく怒ってた』って伝えといて!」