●リプレイ本文
援軍に気付いたアッシェンプッツェルの兵士は、空を仰ぐ。最初に降下して来たのは、番場論子(
gb4628)の斉天大聖、女爵―Baroness―であった。
「友軍機へ。こちらは傭兵の番場論子。聞こえますか? 貴官の機体は無事に回収しますので、どうか落ち着いて下さい」
論子はそう声をかけると、擱座した機体の周辺に地殻変化計測器を投下する。
「砂漠地域における敵基地接近のための攻勢の最中に現れた、自在に地中から現れるワームなのですが、いやらしく立ちはだかるだけあって味方を進攻を押し留めざるえない状況なのですね」
番場が言う。
「だからこそ障害として撃破して、その先にある目標へ突き進みたいのですが、容易では有りませんので、ここは空陸立体的に包囲網を構築して追い詰めて撃破の一手を成し遂げますね」
そう言うと番場は機体を旋回させた。
「あなた、戦闘記録は持っていらっしゃるわね?」
続いて、兵士に通信を入れたのはミリハナク(
gc4008)である。彼女の要請に、兵士は慌ててデータを送信する。
「中身のわんわんには興味ありませんが‥‥あらあら‥‥竜型ワームだなんておいしそうなのがいますわねぇ。ふふふふふ」
ミリハナク妖艶に笑うと、加速して戦域を突っ切る。途中、砂中からフェザー砲の対空砲火に晒されるがミリハナクは、敢て反撃せず、回避に専念。
先刻、番場が設置したものと補完し合う位置に地殻変化計測器を投下、反転した。
(とあるロボットアニメで見た メ●ザウルスにそっくりだ)
データリンクを受けた九頭龍 剛蔵(
gb6650)はそんな感想を抱いた。
「――さて、と。どうするべきか、な?」
UNKNOWN(
ga4276)はそう呟きつつも、悠然と機体で砂丘の中に踏み込んでいく。情報を常に仲間から受けつつUNKNOWNは盾を構える。
UNKNOWNの機体の背後からキメラが襲い掛かる、だが、最初から自身を囮にするつもりであったUNKNOWNは、攻撃を回避すると、いきなり敵の頸部を掴むと、力任せに敵を砂の中から引きずり出した。
敵も抵抗したが、UNKNOWNの機体に振り回される。もう一匹の首長竜が地中から首を出し黒い機体に襲いかかるが、UNKNOWNが振り回した方を叩きつけられ二匹は砂の上に叩きつけられる。
そこに、番場の連絡を受けた剛蔵が機関砲を浴びせてキメラ攻撃。地球生物と同じ赤い体液が砂塵に混ざって、舞う。
「陸で水棲恐竜を見るとはな」
剛蔵が呟く。
「――よし、こっちだ」
UNKNOWNは、更に歩みを進めてより多くのキメラを引き付けようとする。適当に動いているように見えて、番場から情報を受け取り、HPCとAIで敵の位置を三次元化しながら次の動きを予想、把握せんとしていた。
今度は三匹がかりで襲って来たキメラに囲まれるも、剣翼を一回転させ、包囲を破る。
キメラの一体は首を刎ねられ、残りは慌てて砂の中に逃げ込んだ。
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「いま頭が吹っ飛んだのは、キメラかしら? まあどっちでもよいですわ♪」
いやまあ、この人、趣味で竜と戦いたいだけのようですね。
人型形態でブーストを起動し、低空から、砂丘のあちこちに顔をだすプレシオサウルスをマルコキアスで掃射するミリハナク。その彼女に番場が警告する。
「真下です!」
番場の注意のおかげで、直上に投射されたワームの榴弾を回避したミリハナクは、お返しとばかりに機銃で背部の武装を幾つか吹き飛ばす。
「危うく釣られる所でしたわ‥‥砂漠で釣りとは風情がなくていいですわねぇ」
なおも機銃を放つミリハナク。しかし、ワームが再び潜ったのを見て自身もブーストを切り、着地する。
現在、番場機は上空からの管制中であり、剛蔵は擱座した正規軍のKVを守るように陸戦形態で応戦。UNKNOWNは相変わらず戦場をぶらぶらしている。
とりあえず、陸戦形態で剛蔵と合流しつつも、ミリハナクは向こうにいる最新鋭機ヴァダーナフを見て呟いた。
「ミルヒさん、無茶をなさらなければ良いのですが」
「直下に反応! 支援を乞います!」
番場が切迫した声を上げる。一斉に計器に注目する傭兵たち。見れば複数の反応が、剛蔵、とミリハナク、そしてアッシェンプッツェルの方に向かっている。そして、その一団と離れる形で反応が一つだけ番場機の真下に迫っている。
誰もが判断した、番場機に向かっている反応が本命のワームだと。
機刀を構えた剛蔵が高速装輪走行で、真っ先にワームの出現地点へ到着。砂が盛り上がり、長頚竜の首が姿を現して、剛蔵に襲い掛かる。
「首が長いのも考えものだな。 こっちの動きについて来れんみたいだな」
だが、剛蔵は噛み付きを回避して機刀で一刀のもとに首を切断した。しかし、砂の上に転がった首を見て、剛蔵は叫んだ。
「しまった! こっちがキメラか!」
番場を狙うと見せかけたキメラは囮。ワームは一直線に擱座した正規軍のKVの方に向かっていた。
何故そんな無意味なことをしたのか、狂狼は自身を訝しんでいた。
「――そうか、俺は」
――決着をつけさせてやりたいのかもしれんな。あの人間に
「こんにちは、オオカミさん。お互いに引けぬ戦場ですが」
浮上して、プロトン砲を放とうとした狼の注意を引いたのは、ミルヒ(
gc7084)の通信だった。聞き覚えのある声に応じる狼。
「去年出会った娘、か。貴様も動員されていたのだな」
「今度は仲介者の介入もなく、死に逝く覚悟での決戦なのですね。‥‥あまり納得は出来ませんが、お付き合いします」
ミルヒのトフィエルはシーガルスホルムでワームに切り掛かる。だが、ワームもブレードでこれを受ける。
「義理堅い事だな、娘。何がお前をこの戦場に導いた?」
問う狼、同時にお互いの武器が弾き合い、二機は距離を取る。
「狼さんが満足するような戦いを行うためです。私は、私が生きるため、死ぬ覚悟でそこにいる人を倒します」
「矛盾した言い草ではないか?」
「かもしれません。私には解らないのです。去年、オオカミさんを説得する依頼を受けた時もそうでした」
機関砲で撃ち合いながら言葉を交わす両者。その会話は、傍で訊いている者には不可解だったかもしれない。
――だが、狂狼には何故か、人間の少女の言う事に納得できた。何故なら、ミルヒの心境はさっき自分を殴った兵士に止めを刺そうとした時に狂狼自身が感じたものと、どこか共通するものがあったからだ。
「心得た!――ならば、付き合ってもらうとしよう!」
残っていた全てのキメラが砂の中から出現して、ワームを守るように陣形を組んだ。その威容は、ここが砂漠であることを除けば、正に中生代の海を回遊する長頚竜の群れのようであった。
「素敵な光景ですわ〜♪ ミルヒさん、キメラは引き受けますから、思う存分戦っていらっしゃい!」
ミリハナクにとっては狂狼との因縁はどうでも良かった。しかし、自分の大好物な光景にテンションが最高潮となったミリハナクはキメラの群れの中にぎゃおちゃんを突っ込ませてディノファングで食らい付いたり、ディノスライサーで引き裂いたり。
周囲に血風と砂塵を巻き起こし、大満足で趣味の戦闘を続ける。
「私も貴方とは多少縁があり、個人的に思う所が無い訳では無いのですが、私達は傭兵であり、与えられた任務を遂行するため、更に拠点攻略とメタ撃破のためにも、貴方をここで討たせていただきます」
番場も温存していた対地攻撃用のミサイルランチャーを、ワームに連射した。
「相変わらず、小難しい理屈の多い女だ! まあ、不愉快ではないぞ!」
狂狼は対空フェザー砲を連射しつつ豪快に笑った。対空砲火をブーストで回避した番場はなおも攻撃を続け、遂にフェザー砲を破壊した。
「皆、中々に情熱的だ、な」
UNKNOWNも、自機のエニセイで弾幕を張りながら狂狼に話しかける。
「飲みに来た、のかね? それとも人騒がせな臆病者、なのかね?」
狂狼は砂塵を巻き上げて攻撃を回避しつつUNKNOWNの方に榴弾を撃つ。
「この様な時にしか貴様らと会話できぬ我々という種族全体が本質的に臆病なのかもしれんな。‥‥あるいは、貴様らに追いつめられて初めて臆病風というものを味わったのか」
バグアの言葉は、どこか他人事のようでもあった。それは彼が自身の死というものについては格別の感慨を抱いていないことが原因なのかもしれない。
そんな狂狼の言い方に、微かに反応するミルヒ。彼女は、再び機鋸を構えるとフォース・アセンションを使用して、再びワームに挑もうと前進する。
空中で榴弾と弾丸が交差し、榴弾がほぼ撃墜される、そして、エニセイの弾丸が榴弾砲の発射口を破壊した。
それでも、ワームは残った機銃を乱射する。その流れ弾が正規軍のKVに向かう。しかし、剛蔵のラスヴィエートが危ない所で弾丸から正規軍兵士を庇う。
剛蔵のKVは膝をつくが、剛蔵はコンソールを引っ叩いて叫ぶ。
「今こそ、根性見せたら〜!」
何とか持ち直したラスヴィエートはそのまま接近して来るキメラを機刀で突き刺した。
「オオカミさん、あなたは自分が死ぬことは怖くないのですね。だから、誰かを満足させるために死ぬつもりなのですか?」
ワームに接近したミルヒが機鋸を振り上げる。ワームは頭部の噛みつきで、その刃を咥え込んだ。
「それが我々の在り方なのだ。倒された者は、それを倒したものと共に、やがてバグアという種族全体に還元される‥‥だが」
そこまで言って何故か彼は口を閉じた。金属が軋む音が響き、やがて機鋸がワームの頭部を砕いてそのまま振り下ろされ、ワームの胴体を深く切り裂いた。
「やるではないか! だがまだだ!」
だが、ワームは首でミルヒの機体に巻きつくと、ブレードを相手に打ち込んだ。ミルヒの機体が軋む。
「練力と残弾少ないんや。しっかり狙って撃たんさい!」
剛蔵は関西弁で檄を飛ばす。叱咤された正規軍の兵士は歯を食いしばってスラスターライフルをワームに連射した。
「やらせませんわよ! どらごんすれいやーに私はなる!」
ワームが怯んだところで、ぎゃおちゃんのディノファングがワームの首を付け根から破壊することによってミルヒは解放された。
同時に、ミルヒの機鋸で深く切り裂かれていたワームも全身から体液を噴き出すと機能を停止した。
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擱座したワームの損傷個所から、UNKNOWNがコックピットの中を覗き込む。狂狼は致命傷を受けていた。
「出来れば生身で語り合いたかったがね。機械など無粋なものを通さずに、ね」
「何、所詮これが我々の間で可能な『会話』なのだろう」
UNKNOWNは【OR】Buitton Cocktail Trunkで酒を用意すると、狂狼に差し出した。
「まあ、最後はこういうのもいいだろう?」
「酒、か。これもお前たちの興味深い因習であったな‥‥」
狂狼はゆっくりと時間をかけてそれを飲み干すと、機体の損傷個所から空を――澄んだ、雲一つない青空を見上げる。
そこからひょっこりとミルヒの顔が覗いた。
「満足できましたか? そして、さっきの言葉の続きを聞かせてください」
狂狼は静かに目を閉じた。
「だが、お前たちはそのバグアの還元の環から、何かを手に入れるのかもしれん‥‥我が生に相応しき闘争であり、美味い酒だった。行け。自爆装置を起動した――さらばだ、人間。礼を言う」
「――土の死は水の誕生。水の死は空気の誕生。空気の死は火の誕生。その逆もまた然り‥‥アッシュールバニパルの書庫の如く、私が覚えておこう。約束したのだから、ね」
UNKNOWNは静かに言うと、立ち上がって静かにミルヒの肩に手を置いた。
背を向けた二人に狂狼が言う。
「ようやく‥‥その言葉の意味が‥‥我らはあるいは連環、の‥‥」
そして、狂狼は息絶えた。
KVに乗り離脱する二人。その背後でワームが自爆する。
その光景を見て剛蔵はほっとしたように呟いた。
「こいつは自慢が出来そうやで」
剛蔵の指示でミルヒの援護をした後、疲労によって気絶していた兵士は、意識を取り戻した後、一同に礼を述べた。