タイトル:【奪還】半島:Anotherマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/23 14:08

●オープニング本文


 現在、地上における人類、バグア両陣営の焦点はフロリダ半島に集中している。だが、その正反対の西海岸に位置しておりロサンゼルスでの大規模作戦以降、両陣営の小競り合いが続いている中米のバハカリフォルニア半島でも小さな動きがあった。
 
 その日の朝、バハカリフォルニア半島に向けてアメリカ大陸西海岸を南下する太平洋軍所属の空母では、太平洋軍、北中央軍、そして南中央軍の士官が額を寄せ合っていた。
 事の起こりは数日前。極めて小規模ながらバグアの部隊が半島北部にあるエンセナーダの基地に終結しつつあるとの情報が得られたのである。

 フロリダ半島で一大決戦が行われている隙に、もう一つの半島で妙なことをされる訳にはいかないと管轄地が重なっている北中央軍と南中央軍、太平洋軍は急遽二隻のKV空母をエンセナーダに派遣した。

 だが、既に敵の戦力は半島の南部に移動しておりエンセナーダの広大な基地の滑走路には僅かなワームと、二隻のBFが駐機しているだけ。そして、この二隻の輸送艦は北と南の中央軍にとって見覚えのある艦であった。


「偵察用KVからの光学映像、解析完了」
「目標は『ダンクルオステウス』、『ローンセストン』と、呼称される改ビッグフィッシュ級です!」

 その名前を聞いた時、北中央軍の士官と南中央軍の士官は同時に腕を組んだ。
「奴の艦か!」
「4月頭に取り逃がした奴だ」
 
 その反応を訝しむ空母の艦長に新たな情報がもたらされた。
「偵察機より追加報告! 『ローンセストン』の方は、大気圏離脱用ブースターらしきものを装着しています!」


 空母から離陸するKV部隊は、エンセナーダの飛行場からも観測できた。
「困ったよぉ。この戦力で止められるかなあ♪」
 それまで打ち上げ作業を監督していたバグア、ドクトル・バージェス(gz0433)は相変わらず薄笑いを浮かべたまま呟いた。

「貴官の言う通り撤退を急ぐべきだったな」

 そうバージェスに詫びたのは、オーストラリアの大都市から名前を拝借した攻撃型BFローンセストンの艦長であるバグアだ。

「ま、仕方ないんじゃないのぉ?」
 そう言ってバージェスは肩を竦めた。

 ローンセストンは今年の春に、南米バグア軍に合流しようとしてガラパゴス諸島沖で南中央軍と傭兵によってそれを阻止されたオセアニア軍の旗艦であった。
 
 その後、彼らの部隊は大きく数を減らしつつも最終的にこの半島に辿り着いたのである。その気になれば、すぐ宇宙に逃げられたのだが――ローンセストンの艦長がそれを渋った。

 彼は、撤退の最中に脱落した人員や自分たちのように他の地域から落ち延びた部隊のの合流をギリギリまで待っていたのである。
 既に有力なバグアもいないこの半島の指揮官に収まっていたバージェスは、艦長の意向を尊重してギリギリまで出発を遅らせていたが、今回のUPCの動きを受けてようやく出発を指示したのである。

「それじゃあ‥‥フロリダで頑張っているエミタ閣下に習って‥‥『健闘を』♪」

「貴官も」
 艦長はそう言うと足早にタラップを上がって行った――


 エンセナーダ基地はKV部隊の総攻撃に晒されていた。地上と空中からの同時攻撃に、もともと劣勢なバグアは押し込まれる一方だ。
『え〜い、ここから先は!』
『通行止めだっつーのに!』
 重武装した二機の脳髄搭載型ワーム、G3とT3が奮戦するが航空部隊は確実にローンセストンを射程に捕えていた。
 その航空部隊の前にバージェスのBFが立ち塞がりミサイルを斉射する。
 しかし、航空部隊の目的はバージェスのBFの注意を引きつけることであった。山林に紛れて基地に迫っていたKVの地上部隊がローンセストンに迫る。

「緊急回避は――間に合わんか」
 艦長は僅かに舌打ちした。バージェスからの回線が開く。
「ご――」

 バージェスが何か言おうとした、その瞬間であった。

『ハァーハッハッハッ!』

 その場に居た敵味方全てに聞こえるオープン回線で、やたらと高圧的な笑いが響いたかと思うと、良く晴れた青い空に広がる白い雲を突き抜けて、一条の赤い光線が遥か高空から差し込み、BFを狙って砲撃体勢に入っていた地上部隊を、薙ぐように掃射した。

 閃光。爆音。
 
 それまで地上部隊がいた場所は、超高熱によって無残に抉られ融解した物質がマグマのように沸き立っていた。

『何が起きた!』
 指揮を取っていた空母で司令官が叫ぶ。

『高空より大質量の飛行体が急速落下中!』
 オペレーターが答える。
 
 一直線に降下。そして地表直前で慣性制御による華麗な制動を行ったその機体に両軍は絶句した。

 深い青色をした全長300mにも達する紡錘形の巨体。それは『ソル』と呼称される、バグアの中でもゼオン・ジハイドとよばれる精鋭部隊のみが搭乗を許された専用機であった。
 しかし、一体誰が操っているのか。
 既にゼオン・ジハイドは残り二名。ましてソルはジハイド専用機の中でも一部の者にのみに与えられているらしく、メインで運用されていたのはカンパネラ近傍で撃破された機体くらいだ。

「いや、もう一人いた‥‥」
 北中央軍の司令官が言った。

「‥‥これってエイプリル・フールの続きじゃないよねぇ‥‥?」
 バージェスも思わず目を見開いて、驚きを隠せない。

『ハァーハッハッハッハッハッ! 謎と復讐の仮面戦士! スーパー・マスクド・バグア参・上!』
 ソルの操縦席で腕組みする、チャイナドレスに腹巻、そしてコンバットブーツ。そして目元だけを隠す仮面舞踏会で用いるようなマスクをつけたバグア。

「閣下‥‥一体、何故?」
 呆然と通信で質問するバージェス。そう言いつつも彼には思い当たる節が無いでもない。『K』――シェイクカーンの事例である。

「人間共に勝利した後連中の悪あがきに巻き込まれて爆発したと思ったら何故か本星にいて目の前の気持ちの悪くなるくらい機嫌の良いクソジジイがエミタの手伝いでもしろと言ったのでソルに乗って降下してみれば――」
 仮面のバグアは戦場を睥睨して言葉を続けた。

「見覚えのある下っ端が何やらピンチのようだったのでな! 見過ごすのもバグアヒーロたる俺様には相応しくないと思い特別に降下して来てやったのだ! 感謝して褒め称えるが良い!」

「――感謝いたいします」
 
「殊勝な心がけだ! で、俺様はとりあえずそこのBFの打ち上げを援護すれば良いのだな! ――だが、別に人間共を倒してしまっても構わんのだろう?」(キリッ)

 そう自信満々に言い放った仮面のバグアはソルの子機、Tipsを展開。更にソルの主砲を沖合の艦艇の方に向ける。

「まずいぞ‥‥傭兵隊を前面に! 頼む! 撤退までの時間を稼いでくれ!」
 攻撃隊の司令官は状況が逆転したことを理解していた。手元にある戦力では何の策も無しに悪名高いゼオン・ジハイドとの正面衝突は分が悪すぎる。
 
「ハァーハッハッ! 人間共! 今度こそ極僅かにだが俺様の本気を見せてやるぞ!」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
D‐58(gc7846
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 基地の滑走路にデン、と構えるソル。そこから響く高笑い。傭兵たちの反応は様々だ。
「‥‥すごい戦場ね。色々な意味で。やれることをやっておきましょうか。とにかく、これ以上の死者を出させませんわ。死ぬのならもっと素敵な戦場がいいですわよね」
 とミリハナク(gc4008)。
「よりにもよってこいつが来るとはね‥‥」
 ゲシュペンスト(ga5579)の呟きは呆れたよーな、疲れたよーな。
「さて太平洋側に残る敵基地へ突撃かけた訳なのだけれど‥‥何あれ? 機種からゼオン・ジハイド一党ぽいけど流れる口上が噂に聞く自己満野郎に似てない?」
 かくり、と首を傾げる百地・悠季(ga8270)。
「ソル‥‥だと‥‥、あの笑い声‥‥一体誰が乗っているんだ!」
 あえて突っ込まないラサ・ジェネシス(gc2273)さんマジ天使。
「スーパー(略)‥‥一体何者です‥‥」
 一方、D‐58(gc7846)はマジで気付いていないらしい。
「LHで仮面と言えば伯sy‥‥もといナイトゴールドなわけだが、流行なのかね? 正体バレバレの仮面キャラって‥‥」
 呆れ顔のゲシュペンスト。しかし、一方で手強い相手であるのも事実。警戒心を隠さない者もいる。
「エース機とやりあうのは、初めてになりますね‥‥時間を稼ぐ、ただそれだけを考えましょう」
 とイーリス・立花(gb6709)。
「大した変態だが面倒な変態だ‥‥実力は本物‥‥ならさっさと下がるか。相手が調子づいて実力を出さないうちにな」
 追儺(gc5241)も言う。
「斃す必要は無いが斃すつもりでかからにゃ‥‥か。難しい相手だな」
 ゲシュペンストも改めて相手を見た。
「‥‥思わぬ敵が出てきたものだな。何としても味方が撤退する時間を稼ぐしかあるまい。どこまでやれるか分からないが、全力を尽くす事にしよう」
 榊 兵衛(ga0388)のその言葉を合図に、傭兵たちは戦闘を開始した。


 さて、ゲシュペンストが真っ先にしたことは、KV部隊に、離脱に要する時間を確認する事である。
「了解。百地さん、聞こえたか?」
「撤退までの所要時間確認、各機にデータリンク完了‥‥と。さあ、あれの相手は拘ってる人に任せて損耗軽減が出来る様に務めるわよ!」
 百地の管制の下、まず正規軍のソルダードが動く。機銃による対空砲火でソルの子機を牽制し空中部隊の撤退を援護。
 Tipsも猛然と射撃を開始し滑走路は騒然となった。百地は敵の状況に注意しつつ、レーザーライフルで前に出て来たワーム二機を牽制する。
『悪いが邪魔はさせねえぞ!』
 G3が残っていたミサイルを撃ち尽くす。それを百地が盾で防いだ瞬間、横から追儺のシコンが飛び出した。
(撤退させるのが目的だからな‥‥味方の無事が第一か)
 そう考えた追儺は、まずスラスターライフルによる弾幕で牽制に集中する。勿論、百地から聴いた航空部隊の撤退完了までの時間を常に意識しつつ。
 
 一方、ワームの方も時間を稼ぎたいのは同じ。だがこちらはBFから敵を遠ざける目的もある。タロスの方が槍を構えて突っ込んで来た。
 すかさず種子島を構えるシコン。当てるなら、引き付けて撃つべきだが、彼の背後には正規軍や百地がいる。
「‥‥欲張りすぎは失敗の元、止めることに集中しよう‥‥!」
 牽制目的で放たれた種子島が、タロスの足元を吹き飛ばす。
『ひぇ〜!』
 その火力に思わずタロスは足を止める。


 追儺が二機を抑えているおかげで、ソルダード隊、そしてラサは子機に集中出来た。その数を減らす子機。損害を気にしたのか、ソルが子機を退かせ始める。
『ソルダード隊は撤退を! 兵衛サンたちは、前へ!』
 ラサが叫んだ。
『承知した!』
 まず先陣切って兵衛の忠勝がソルへ向かう。本隊を防御する子機を対空砲で払いつつ朱槍を構えソルに迫る。
「煙幕弾いきマスヨー!」
 ラサのタマモがスパートインクを投射。煙が視界を覆う。
「謎と復讐のって復讐って言った時点で、以前の負けを認めてるヨネ!」
『違う! あれは本気だったが、本気ではない! ‥‥そもそも俺は別バグアだッ!』
 ラサの挑発に動揺を見せるシェ‥‥マスクドバグア。
「ハイハイ行きますヨー‥‥まずはレーザー、そして実弾! 締めは任せマシタ」
 ラサはレーザーとチェーンガンをソルに連射して、味方の突撃の隙を作ろうとした。


「オバケですわ。ひゅ〜どろろ〜、と蒼い亡霊がー! 皆逃げてー!」
 煙幕の中、ミリハナクが騒ぎながらぎゃおちゃんで突撃。大型榴弾砲をソルに発射した。
 ミリハナクの挑発と言うよりは、榴弾砲に反応してソルの気が逸れる。そのままブーストでダンクルオステウスの背後に回り込むミリハナク。
『む‥‥下っ端! 邪魔だぞッ!』
『あはぁ‥‥そうおっしゃられましても‥‥』
 巨体故に、ミリハナクの盾になってしまうBF。
 そしてD‐58も敵を牽制すべくローンセストンへ向かう。そして、一応会話で相手の気を逸らす。
「どちら様でしょうか?‥‥ヒントをお願いします」
『俺は、バグア一、ストマックベルトが似合う男だッ!』
「腹巻‥‥シェ‥‥シェダイ?」
『貴様! 俺の輝ける名前を‥‥いや。違う! 違うぞ!』
「‥‥正解ですね? では、その今までの素晴らしい活躍を20字以内で纏めてください」
 喜々として語り出すマスクドバグア。ただし、攻撃の手は緩めない。D‐58が攻撃を避けられたのは、味方の援護や煙幕の効果が大きい。
「‥‥大きな声を出さないでゆっくり話してください。あなた方のジャミングのせいもあって音が割れているので」
 ちなみに、マスクドバグアの語りはこの時点で既に2000字を突破していた。
「いえ、興味ありません。さようなら‥‥」
『であるからして‥‥な! 貴様ッ!』
 こうして、D‐58はローンセストンを補足した。
 そしてソルがそちらに気を取られた隙にゲシュペンストがブーストで飛び上がり、機杭をソルに叩きこむが、ソルの強固な装甲は杭に耐えた。ソルが、体当たりをしようとする。間一髪で回避するゲシュペンスト。滑走路の地面が抉れた。
「シンプル故に強いって奴だな‥‥あの巨体をぶつけられたら一溜りもないか」
 ソルが放つフェザー砲を躱しながらブーストで上空に退避したゲシュペンストはレッグドリルを起動する。
「刮目しろ、スーパーバグア!」
『ハァーハッ! 真っ向勝負とは感動的だな、人類! だが愚かだ!』

「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
 急降下キックを繰り出すゲシュペンスト・アイゼン。
 
『極限ンンンッ! スゥパァァッ!! バッグゥア! クロォォォウッッ!』
 ソルの外装の一部が変形。レーザーブレードに近い形状のクローが飛び出すと光跡を残して振るわれる。
 一閃。
 両者の機体が相抜けたと思いきや、アイゼンの脚部が爆発する。同時にソルのクローも小爆発を起こして破損した。片足と胴体を切り裂かれたゲシュペンストの機体が倒れ込むが、その時、兵衛と立花がソルの方へ突っ込んで来た!

 まずは立花が、ソルの注意を引きゲシュペンストが離脱する隙を作るべく、マルコキアスを猛射する。
 ソルのフェザー砲が閃くが――
「右砲塔に熱源反応! 左へ!」
 ソルを監視していた百地の的確な指示、そしてラサの煙幕にも助けられ立花はこれを回避する。
「どうしました‥‥? スーパーマスクドバグア(笑)。そのでくの坊に装備されているのはこの身一つも貫けぬ豆鉄砲ですか?」
『女‥‥慣れない事はしない方が身の為だぞ』
 憐れむようなシェアトの口調に固まる立花。
『挑発とは、俺のような輝ける戦士にお前のような凡俗が嫉妬する事によってこそ意味をなす行為‥‥つまりお前には俺を挑発するだけの輝きが足りないという事だな‥‥ハハッ』
 無言で弾丸の雨をシェアトに降らせるイーリス。その顔はちょっと怖い。
『ムッ!? 殺意が増したぞッ!?』
「大したご高説だな。ならば、俺と手合せ願おう!」
 ブーストで肉薄した忠勝が自慢の機槍を振るう。
 忠勝の鉄腕が狙うは、先程アイゼンが損傷させたソルのクローがある部分。破損個所に刃が突き立ち、更に忠勝は駄目押しにと機関砲を至近から当てる。
「‥‥大型火器が使えなければ、被害を最小限度に食い止められるからな。悪いが封じさせて貰おう」
「さっきの言葉、お返ししますね、スーパーマスクドバグア(怒)さん‥‥! 一寸の虫にも五分の魂‥‥蠍の一刺し、少しは届くかしら?」
 ブラストシザースでソルに組み付き、尾部スラスターに仕込んだ錬剣を振るう立花。
 更に、体勢を立て直したゲシュペントも機杭をソルに打ち込む。
 さしものソルも、装甲から僅かに『出血』する。
『ハァーハッハッ! やはり、貴様らは面白い! だが! 詰めが甘いぞ!』
『!?』
 絶句する兵衛。ソルが三機を纏わりつかせたままフワリと浮き――。
『スゥゥパァアアッ! バグアッ! スピィィィンンンッ!』
 圧巻。巨体が高速で回転して三機を強打。一気に弾き飛ばした!
 三機は、それでもブーストで体勢を維持、反撃しようとするが、ゆっくりとソルが砲門を開く。

 咄嗟にラサが沖合の空母への射線を遮るように自機を滑り込ませる。
「前にもこんな事があった様ナ‥‥まぁ皆ヲ守るために無茶もしないとネ!」
 機盾ウルを構えてソルの主砲前に立ち塞がるラサ。
『ククク‥‥そのちっぽけな機体で俺のスーパー(略)を遮れると本気で思っているのか!?』
 ラサの褐色の額を汗が伝った。
 ソルのプロトン砲の口径は、明らかに他のバグア機を圧している。出力や収束率ならシェイドなどが上回るのかもしれないが、その攻撃範囲は相当だろう。ましてディメント・レーザーは『貫通』するのだ――!
『理解したようだな‥‥では、いくぞ!』
 レーザー発振器が紅い粒子を纏い始める。
「なら、こうするヨ!」
 ブーストを吹かし、今度は砲身に体当たりしようとするラサ。しかし、立花ら三人の稼いだ時間が生きたのは、その時であった。


「ソルダード隊、全機着艦完了!」
 百地が叫ぶ。
 この時、バージェスのBFは執拗にローンセストンを牽制するD‐58を警戒してローンセストンから離れる事が出来ずにいた。
「一発ずつじゃあダメかぁ‥‥」
 ミサイルをD‐58周辺の広範囲にバラ撒くバージェス。
「しまった‥‥」
 残像回避で移動した先でもミサイルが炸裂し、機体がダメージを受けた。だが、元々範囲攻撃では無いミサイルを狙わずに撃っただけなので、それほどの損傷では無い。まだやれると判断したD‐58はすかさずPDレーザーを構えた。ブースターに損害を受ければ、元も子もない。バージェスは自分のBFの巨体を射線に割り込ませた。
 PDレーザーの効果範囲は600m。そこに突撃してきたBFに体当たりされ、咄嗟に後退したD‐58の機体が、わずかにバランスを崩す。
 斜め上を向いたレーザーはBFを貫通し、ローンセストンの装甲を掠めて消えた。
『やったぁ! 今度はこっちの番だよぉ!』
 D‐58が冷却に入った隙にミサイルを放つBF。
 だが、D‐58は引かず、反撃覚悟でレーザーを放つ、今度はバージェスも庇いきれず、ローンセストンが揺れる。同時にD‐58もフェザー砲を受けて小破するが、危ない所でミリハナクの攻撃がBFに命中。D‐58の退避する隙を生み出した。
 
 ミリハナクがバージェスに話しかけた。
「ごきげんようバージェス君」
 ラバグルートの光条はダンクルオステウスの横腹を貫いていた。巨体故、ダメージはまだ余りないが、バージェスの気が逸れる。
『わぁん♪ 恐竜お姉さんだぁ。怖い人が来ちゃったよぉ!』
「この辺で、痛み分けということで停戦いたしません? これ以上お互いの命が消えるのはもったいないですわ」
「そちらもソルという援軍が来て心強いでしょうが‥‥傭兵の力もご存じよね? まだ続けるというのなら、ロ−ンセストンを壊すことぐらいは可能でしてよ?」
 ミリハナクのおかげで体勢を立て直したD‐58も、油断なく照準をローンセストンに合わせている。
 考え込むバージェス。二機のワームも動きが止まる。
 追儺は油断無く武器を構える。
(撤退の指揮はバージェスだがスーパーバグアとい上位者がいる‥‥バージェスは撤退を優先するのだからミリハナクの提案を受け入れる可能性が高い‥‥)
(だが、スーパーバグアの方はどう動くか‥‥二人の間で意見の衝突があれば、付け入る隙も生まれるが)


 この時、ソルはラサ機と相対しG3とT3は百地、追儺と膠着状態にあった。

 ――被害は?
 秘匿回線でBFに繋ぐバージェス。

 ――打ち上げに支障はないが、さっきのレーザーで装甲や冷却系が一部破損した。このまま長引けば、危ない。

 もしバージェス自身がBFでUPCの空母に圧力をかけるか、でなければソルの子機が空母に被害を与えていれば、敵に大損害を与えつつローンセストンを脱出させることも出来ただろう。
 しかし、逆に敵がローンセストンに圧力をかけている状況では、このまま戦闘を続行するとローンセストンが破壊される。
 ソルが足止めされ、敵に迅速な撤退を許したのも大きい。今、ソルが主砲による砲撃を敢行すれば、傭兵は意地でローンセストンを狙うだろう。それはバージェスというバグアにとっては避けたい事だった。
『‥‥』
 ただ、問題はソルの操縦者が自分の判断を受け入れてくれるかどうかであった。今度はソルに専用回線を繋ぐバージェス。

『閣下、僭越ながらこの場は――』
 返事は無い。もしかして怒らせていしまったのか? いやそれにしては様子がおかしい。
 何故か嫌な予感がして、バージェスはソルとの映像回線を繋ぐ。
『閣下――!?』
 そこには、例の『美形にのみ許されるポーズ』で身体を震わせるマスクドバグアの姿が――
 通信に気付いたマスクドバグアは、無理矢理操縦桿を握り直した。
『何だ‥‥下っ端‥‥! 今のはそう、ハンデだ! 直ぐにこのスーパーバグアカノンで‥‥』
『その必要は無いかと愚考します。閣下。ここは‥‥』
 マスクドバグアは手でバージェスを遮った。
 ソルの主砲が、閉じた。


 かくして、傭兵たちは順次空母へと着艦する。ソルが引いた事に疑問を感じながら。
 
 傭兵たちが撤退した後、ソルのコックピットでは、噴射炎を引いて上昇して行くローンセストンを見送りながらバージェスが、マスクドバグアの体を調べていた。

「主砲の発射を強行していれば、閣下の体は――」
「クハハッ‥‥バグアにとって本気が必要な時に、本気が出せないとは‥‥」
 珍しく、殊勝な雰囲気を見せるシェ‥‥マスクドバグアの背中にバージェスはそっと寄りかかって顔を押し付ける。
「ブライトン閣下‥‥貴方は何故‥‥」
 バージェスは小さな声でそう言った。
 
 ――傭兵たちがその疑問の回答を手に入れるのはLH帰艦後、小野塚愛子からもたらされた再生バグアの情報からであった。