タイトル:【決戦】まもりたいひとマスター:稲田和夫

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 13 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/21 16:19

●オープニング本文


 本星攻略作戦発令に当たって宇宙要塞カンパネラから非戦闘員の退避が行われた。この中には、中央艦隊によって保護された第三の異星人バーデュミナス人も含まれている。
 
 宇宙ステーション061号――定点監視用に輸送艦数隻を繋ぎ合わせて、何とか居住性を補っただけの拠点――では、バーデュミナス人や未来研やメガコーポ関係者など様々な事情で地球へ退避させることが難しい者たちを収容していた。
 
 そこで、体長3m以上にもなる直立歩行したイルカ、というかシャチが黙々と触手で作業を手伝っている。
 
 彼の名はトゥシェク。
 同胞と共に救出されながら、戦闘中に遭難した輸送艦を守って再びバグアの虜囚となり、もう一度人類側に保護された個体だ。
 彼は歴戦の猛者ゆえに最前線に立たされ、人類側に犠牲者を出しており、その責任を取ってバグアと共に人類に討たれることを望んでいた。
 それは結果的に阻止された。
 宇宙軍も彼を重罪人とは扱わなかった。
 だが、他の同胞のように何もなかったように戦闘に出撃させる訳にも、地球へ退避させる訳にもいかなかったのだ。


 作業を終えたトゥシェクの元に一人の少女が宇宙食を持って現れた。セミショートの髪が無重力にたなびき、大きめの縁なし眼鏡が照明を反射する。
 彼女は、トゥシェクが守った輸送艦のクルーだった能力者だ。

「お疲れ様です!」

 独特の甲高い言語と、触手によるジェスチャーでの答礼は、翻訳機を通すと『感謝』となり、更に交信可能な範囲にいるクリューニス082によると

 ――ありがたい といっている

 さて、シャチは一冊の古びた絵本を取り出してそれを触手で器用に捲りながら、食事を取り始めた。
 一方、少女の方はというと、そのまま立ち去りもせず、横合いからその本を覗き込んだ。
「子供向けの本ですよね、それ。面白い‥‥ですか?」
 首を傾げる少女。
 
 ――絵物語はその文化を学ぶのに有効だ。現に俺には不明な単語も多いからな。

 それを、(翻訳された状態で)聞いた少女は言った。
「そ、それなら、私が‥‥」
 そう言った少女はちょっと照れ臭そうだった。

 そんな二人の様子を、物陰から少女と同じくらいの年齢の少年が見ていた――。


 ――僕は、ずっと彼女と一緒だった。子供の時も。二人が戦争に行っても。

 小学校の頃は、よく級友にからかわれるくらい仲が良いといった感じで、自分の気持ちに気付いたのは中学に上がってから。
 住んでいた街がキメラに襲われ、一晩避難所で震える彼女を慰め続けた時だった。
 僕は、絶対に彼女をも守るんだと思った。
 だから、検査を受けて彼女の方に能力者の適正があると解った時はショックだった。

 それでも、僕は諦めたくなかった。だから、彼女が新設される中央艦隊へ配属された時は、一般人には過酷過ぎる訓練に耐え、晴れてラインガーダー(以下LG)隊に抜擢され、ようやくまた彼女と一緒になれた。

 彼女の輸送艦が行方不明になったと聞いた時の衝撃は今でも覚えている。無事救助された彼女が戻って来た時の深い安堵も。

 だが、再会した彼女は気もそぞろで、僕ではない『誰か』のことをずっと気にしていて。
 それでも、中央艦隊の本部ステーション攻略後、ここへ二人同時に勤務することが決まって喜んでいたら『奴』が現れた。


 拠点が襲撃を受けた時、先刻、少女とトゥシェクを見ていた少年の所属するLG隊は即座に迎撃に出た。
 
 敵の数は多かったが、ほとんどが中型や小型のキメラだったが、防衛戦力もLG隊、そしてここでは唯一の能力者である眼鏡の少女、シエラが乗るリヴァティーのみ。
 ただ、幸いなことに付近に傭兵を乗せた輸送艦が航行中でありその到着までが勝負だった。
 
 トゥシェクは他の非戦闘員と共に一番安全な司令室に避難した。モニターに移される戦闘の状況を感情を見せない彼の眼球が注視する。

 人類側は、LG隊に周囲を堅持させ、たった一機のKVが攻勢に出て敵のキメラを遊撃する。

「シエラ! 危ない!」
 少年がそう叫んだ時、シェラが悲鳴を上げた。
 中型キメラが彼女の機体に組み付いたのだ。キメラはKVを捕獲して離脱しようとする。

 少年は迷わなかった。LGのケーブルを切断して救助に向かおうとする。しかし――

『隊列を乱すな!』
 
 トゥシェクの叫びは、まず082によって翻訳され、戦闘が専門では無く終始狼狽えていたステーションの指揮官も082に通訳されトゥシェクに賛同。
 同じように通信で命じた。

「ふざけんな! ‥‥シエラはどうなるんだ!」
 少年は激昂のままに言い返す。

 ――『戦士階級の駆る機体ならあの程度のキメラは潰せる‥‥それに、『あの個体なら大丈夫』だ』

「ふざけるなっ! お前みたいな宇宙人にあいつの何が解るっていうんだ! シエラは俺が守る‥‥!」
 
 命令を無視して、なおも突出するLG。そこに、付近の残骸の影から飛び出した大型キメラが組み付いた。
 LG隊に動揺が走る。そして、その隙を狙ったかのようにキメラの群れが襲い掛かった。LGは確かに従来の非能力者用兵器に比すれば極めて強力な兵器だ。だが、それでもバグアのFFを抜けないことには変わりがない。この時は、そのLGが密集して防御に専念することで何とか持っていたのだ。
 
 そして、キメラの狙いは拠点だった。LGを完全に破壊せず無力化させたキメラは基地に取り付き始める。少年のLGを捕えた物と同型のキメラも壁面に着地。そいつが装甲に手をかける。

「ステーションが‥‥!」
 トゥシェクの言葉通り、一旦は動きを封じられたものの、あっさりキメラを剣で引き剥がしたシエラが基地の方を見て叫んだ。

 壁面を突き破って現れた地球製の物より一回り大きいフィーニクスの腕がキメラの頭部をむんずと掴む。続いて、FFを破れない機体がビーム砲が至近距離から何発も発射。
 とどめにプロト・ディメントレーザー使用され雑多なキメラが吹き飛ぶ。

「トゥシェクさん!? どうして‥‥」
 シエラが嬉しそうに叫んだ。

「こ、これで良かったのでしょうか‥‥司令」
 指令室では、司令と副官が眉を寄せ合っていた。
「上からの指示は『あの個体については慎重かつ臨機応変な処遇と対応を要する』の一文だけだ‥‥この緊急時では‥‥」
 副官は頷くしかなかった。


『あなた 基地 守る 彼 私 助ける』
 トゥシェクの翻訳機を通した指示に、シェラは素早く機体を翻すが。
「でも‥‥!」
 
 ――案ずるな。俺の機体なら追いつく。

 LGを捕獲したキメラの進路には暗礁宙域が広がっていた。キメラを操っている者はそこに居るらしい。

 ――あの個体は、お前の許嫁だろう? 
 
 ――おなたの おむこさん きっと たすけるって

 そして、フィーニクスはキメラを追う。
 
 バーデュミナス人は、その繁殖周期の関係で生まれた時に許嫁が決められる種族らしいのだが――
 
 シエラはぶんぶんと思いっ切り首を振った。

●参加者一覧

/ 里見・さやか(ga0153) / 鷹代 由稀(ga1601) / UNKNOWN(ga4276) / 砕牙 九郎(ga7366) / 飯島 修司(ga7951) / 百地・悠季(ga8270) / 時枝・悠(ga8810) / ソーニャ(gb5824) / ゼロ・ゴースト(gb8265) / ミリハナク(gc4008) / 村雨 紫狼(gc7632) / D‐58(gc7846) / マキナ・ベルヴェルク(gc8468

●リプレイ本文

「ふむ。あの様はさながら、砂糖菓子に群がる蟻のようですな」
 飯島 修司(ga7951)はステーション周辺の状況を視認。そう感想を漏らした。
「わらわらと群れる敵って、喰らいつくしたくなりますわよね」
 ミリハナク(gc4008)はそう飯島に相槌を打ってから、改めてキメラの群れを見て――
「私には、むしろあのキメラの方が金平糖にでも見えますわ〜!」
「ふむ‥‥ま、それなりに長い付き合いですからな。特に申し上げることもありません。蹴散らすとしますかね」
 髭の紳士はもはやダダ漏れる本音をオブラート‥‥いや糖衣にくるもうとしない戦闘淑女の言葉にくいっとサングラスを直し愛機を加速させた。
「幸い、里見さんが穴を開けてくれましたから、そこから食い込むとしましょう」

 ――恐らく飯島機の進路上のキメラは何が起こったのか解らなかっただろう。紅い悪魔が高速で駆け抜けた跡にバラ撒かれたマジックヒューズが近接信管で起爆。その様は爆発と閃光の軌跡となってキメラの群れを飲み込んでいく。
 更に、群れから突出してステーションを狙うキメラをきっちりとフォビドゥンガンナーで仕留める飯島。

 一方、ミリハナクのぎゃおちゃんが飛翔すると、その機械の牙には哀れな大型キメラが二匹ほど捕食されもがいている。

「戦争大好き〜♪」 

 何かが宇宙に木魂して、ブリューナクの閃光が走った。恐らく咥えられたキメラは近距離からの接射で吹っ飛んだのだろう。

「うむ。まあ、やってみよう」
 また、UNKNOWN(ga4276)は艶消の漆黒の塗装を施したK−111改『UNKNOWN』を優雅に、だが恐るべき速度で加速させ一直線に暗礁地帯を目指す。邪魔になる敵のみを剣翼で切り、ライフルで撃ち抜いて強行突破。
 瞬く間に目的地にたどり着いたUNKNOWNは様々な情報から算出した最適な位置にミサイルを撃ち込むと、悠然と暗礁の中に機体を侵入させた。


 トゥシェクのフィーニクスは群がる中小のキメラを文字通り、薙ぎ払いながら捕獲されたLGの方へ向かう。FFを破れないとはいえ、その巨体を生かせば小型のものくらいは寄せ付けない。
「あれがオリジナルのフィーニクスですか‥‥」
 D‐58(gc7846)、最近はイツハという愛称で呼ばれることも多い傭兵はオリジナルのフィーニクスを見て感慨深げに呟いた。
 自身のカスタムしたフィーニクスに愛着を抱く彼女らしい反応といえる。

「やっぱフィーニクスはデカい方が好きだな」
 ステーション側に急ぐ時枝・悠(ga8810)も同様に原型に対し感想を呟く。
 その悠のアンジェリカ‥‥いや、もはや『デアボリカ』の周囲に見た目も大きさもてんでバラバラなキメラが飛来してプロトン砲の赤い灯を灯す。
「‥‥邪魔だ」
 サンフレーアを抜き打ちする悠。直撃を受けた中型が苦悶の表情で炎上する。更に追いすがる小型にマジックヒューズを発射。小型を次々と肉片へ加工する。
「さて、ステーションの方は大丈夫か? ‥‥おっと」
 悠が、そう言った時、彼女のそばを人型形態で飛んでいた里見・さやか(ga0153)から通信が入った。

『これよりプロト・ディメント・レーザーを掃射します!』

「さてと、『平凡』な‥‥というのは冗談として、一当千機に仕上げた純白『アルスター・アサルト・カスタム』が行くわよ」
 と呟いた百地・悠季(ga8270)は回線を開くと里見のサポートのために味方への通信を行う。
『コールサインAACより傭兵部隊へ。射線のデータを送信するわ。各機、回避行動をお願いするわね』
 戦域管制を担当する彼女はロータス・クイーンで取得した戦域一帯のデータと、視認できるキメラの配置をデータ入力。
 里見にもっとも多くの敵を掃討できる範囲を指示した上で、味方の退避を誘導していく。
「‥‥宇宙キメラに強襲された味方ステーションの救援と敵群撃破、ね。何か保護してたバーデュミナス人とか、ややっこしい事情がそこに居るみたいだけど‥‥結果的に味方なのならば救わないとね‥‥その辺は気にしてたら余りやってられないしね」
 状況に何か想うところもあるのか、僅かに表所を曇らせて呟きながらデータの送信を完了させる百地。

 同時に、里見の外舷色のフィーニクス『Huma』がレーザーを発射。SESを載せたレーザーは、周辺のキモいキメラ共を纏めてキッチリ蒸発させた。
「それでは、後はお任せします!」

 そう味方に告げブーストでトゥシェク機のいる方向へ向かう里見。その後ろにはカスタムしたフィーニクスを駆る鷹代 由稀(ga1601)も続く。
「トゥシェクのフォローに回る。ステーションは任せたわよ!」
 そう通信で叫んでから、由稀は小さく呟いた。
「やれやれ、突出グセは相変わらずか‥‥」
 呆れ口調の由稀。だが、その表情は落ち着いてもいた。


「離せ‥‥放せよ!」
 キメラに捕らえられたラインガーダーの中少年は暴れていた。暗闇の中ガンガンとコンソールを叩くが機体は反応しない。既にモニターも死んでいる。焦燥と恐怖が徐々に少年を支配していく。
「これじゃ、俺、シエラを――!」
 少年が叫んだ時、振動が彼の機体を襲った。キメラが一機のロビンの機拳に殴り飛ばされたのだ。

 機動性能などの関係から、真っ先に追いついたのはソーニャ(gb5824)のロビン『エルシアン』だった。
 トゥシェク機もキメラを射程に捕らえてはいたが、FFの関係で撃てずにいたのである。
 
 強力な機拳をもろに受けたキメラは慣性も制御出来ず吹っ飛んでいく。それを眺めながらソーニャが意地悪く呟く。
「障害空域でもすり抜けて飛ぶ。エルシアンはそういう機体なんだ。それを変形させるなんて、責任とりなさいよ」
 そのキメラに追い着いていく遠隔攻撃機『フォビドゥンガンナー』の群れ。大型は体勢を立て直す暇もなく高出力の粒子砲に打ち抜かれ息絶えた。

 しっかりとLGを確保するエルシアン。そこにまたもや大型を中心としたキメラが群がろうとするが、その頃には後続の由稀と里見も追いついていた。
「LGの確保を優先してください、ソーニャさん。LGを気遣わなくて良いのなら‥‥遠慮する必要はありません!」
 救出を確認した里見は、一文字で襲いかかってきた大型キメラを薙ぐと、その頭部に遠慮なくプレスリーを叩き込んで撃破した。



――なんと、これがフィーニクスとは。壮観だな。
 
 LGの救助に飛来した計三機のフィーニクスを一目見たトゥシェクは愉快そうに、人間の仕草に例えれば『喉を鳴らした』
 無理もない。現在彼の眼前で危な気無くキメラを掃討していく3機は、何れも開発元であるバーデュミナス人の感覚で言えば中々ユニークな外観やカラーリングをしていたからである。

 その中の一機、舷窓色の機体から馴染み深い声が聞こえた。
「お久しぶりです、トゥシェクさん。再び戦っていただき‥‥あなたが仰るところの地球の戦士として、感謝致します」

 ――その声と機体はサトミか。久しぶりだ。息災なお前とまた戦場で会えるとは過ぎた幸運だ。

 082や翻訳機を通してその言葉を聞いた里美はにっこりと笑った。

「久し振りね。トゥシェク。早速だけど、あなたの機体でワームの相手は無理があるわ。ここはこっちで片付けるから、LGを運んで味方と合流して」
 由稀の言葉にトゥシェクは笑った。

 ――タカシロ、か。相変わらず歯に衣着せぬ物言いだな。だが、お前が正しい。敵の司令塔は任せた。この個体は俺が責任を持って拠点に届ける。

 そう言うとトゥシェクはLGの救出を確認して一足先に暗礁空域へ向かうイツハのフィーニクス・バイネインを横目に見る。

 ――塗装はそのままだが、翼がずいぶんと改造してある。いずれにせよ、我が民の造形美がここまで人気とは。捨てたものではないな。

 そして、トゥシェクはソーニャから受け取ったラインガーダーを飛行形態のアームで固定。機体を翻す。だが、その進路上に無数の小型キメラが立ちふさがった。
「トゥシェク。君は異種族を守る宿命にあるようだね」
 ソーニャはそう言うと高出力のレーザーでキメラを蹴散らす。そして、二人は会話を始めた。

 ――お前は‥‥そうか、奴が、グラッブグローラーが死んだ時に会った個体か。何、お前の言う宿命があるとすれば、それはバグアの走狗となっていた俺に対する応報であろう。

「意外と元気そうね。もっとみじめな思いをしてるかと思ったよ? 人間は知らないものを恐怖し、妬み、憎み、虐げて安心する。しかも、知ろうとはしない生き物だからね」

 ――それは知的生物なら、避けては通れん業だろう。‥‥救出された同胞の中には、我らのように半身を伴わずに生を受けるお前たちへの違和感がいまだに抜けぬと、吐露する者も少数だがいるくらいだ。

「まあ、そう言うものかもね。これからいろいろ大変だと思うよ。心配してないけどね? 例え一人でも思いを寄せる者がいれば、それで幾万の敵にも向かえる‥‥それでもね、君はここで英雄にならなければいけない。君を守ろうとする者を守りたいなら」

 ――ふむ。言いたいことは解るが俺にどう動けと言うのだ?

「ボクが囮でいぶりだす。君が決着をつける。君が指揮。解るね? 君の立場が危うくなれば、絶対無理をするよね。あのこ」

 ――心遣いはありがたいが、少なくともこの場では心配は無用だろう。これを上手く帰してやればな

 トゥシェクに言わせれば、この状況で彼がLGとその操縦者を無事送り届ければ、ソーニャの言う『英雄』にはなれるという事らしい。

 ――それに、ここの主役はお前たちだ。あまり華々しくしても、かえって目障りかも知れんぞ?

「ま、それも一理あるね。じゃあボクももう少し頑張ってくるよ」
 そうして、二機は分散した。


「この‥‥っ!」
 シエラのリヴァティーも群れ成すキメラ相手に奮戦していた。一体一体は脆弱でKVの敵ではない。だが、LG隊が壊滅してステーションが襲われている状況が焦りを生む。
「上っ!?」
 頭上の気配に気づいてライフルを向けるシエラ。しかし。
「しま‥‥っ!」
 EMPTY(弾切れ)の表示に呆然となるシエラ。だが、くわっと大口を開けたキメラに遥か彼方から飛来した実戦試験型RCMが連続で着弾した。
「そこの機体、援護します!」
 そう叫んだのはゼロ・ゴースト(gb8265)だった。
「凄い! あの距離から‥‥これがクリューニスの力‥‥」

 ――よく わからないけど えっへん
 082も大満足のようである。

 ふと、シエラがステーションの方角を見れば、明らかに人類側の兵器と思しき閃光が煌いていた。
「ステーションにも、あのラインガーダーにも仲間が向かっていますので貴女も落ち着いてくださいね。この場で皆が無事に生き残ることが最優先ですから」
 ゼロが通信でシエラを宥めた。
「すみません‥‥ご協力を感謝します!」

 そのまま、ゼロのフィーニクスは人型形態で滞空すると、ステーションとシエラ機の直線状に立ち塞がるキメラの群れに向けてリモートコントロールミサイルを連続で発射した。
 その援護射撃を受けてステーションに向かうシエラにまたしてもキメラが向かってきた。
 咄嗟にリロードしたライフルを向けるシエラだったが、一足先にもう一機のフィーニクスの放ったショルダーキャノンがキメラを貫いた。
「‥‥大丈夫ですか?」
 
 シエラ機と併走するように寄り添ってきたフィーニクスのパイロットであるマキナ・ベルヴェルク(gc8468)が声をかけた。
「私は、何とか‥‥でも、早くしないとトゥシェクさんの方が!」
 焦りを見せるシエラのその態度に何か思うことがあったのか、マキナは声を潜めてこんな事を言った。
「‥‥好きなんですね、あの人の事」
 そのマキナのトンデモナイ発言にやや間があって。
「え‥‥ええーっ!?」
「まあ、人と言うには語弊はありますけど」
 やや沈黙。(その間にも二機はキメラを撃ち殺してはいたが)
「普通の意味とは違うんでしょうけど‥‥」
 結局、シエラはマキナの言葉を否定はしなかった。戦場において、初めて『死の恐怖』を感じたあの瞬間。
 誰よりも自分を励まし、勇気付けてくれたのはトゥシェクだった、とシエラは言う。
「だから、この感情はあるいは憧れにも近いものなのかもしれないけど‥‥やっぱり、変でしょうか?」
 やや、ばつが悪そうに聞き返すシエラにマキナはコックピットの中で首を振って微笑した。
「いいえ、大丈夫ですよ‥‥私も何となく解りますから‥‥そういうの」
 そう言うと、マキナは再び機体を加速させた。今や視認出来る距離にいるトゥシェクがLGをステーションに収容するのを手伝うためだ。
「それでは、また‥‥!」


 トゥシェクはLGを抱え、ステーションに急いでいた。しかし、乱戦の最中新手の大型キメラが彼のフィーニクスに目をつけた。
 単機ならともかく、LGを保持している状況では拙い。回避することは出来るがステーションに入る隙が見出せないのだ。
 そして、連戦の疲労ゆえか、僅かに判断の鈍ったトゥシェク機の背面から、人型が掴み掛かる。

 ――『AACより緊急要請! 救助対象が苦戦中よ、付近の機体は援護をお願いするわね』
 この時、戦域全体を見張っていた百地の要請で一機の紅いKVが戦列を高速で離れた。

 だが、トゥシェクが歯噛みした時――新たなる紅の不死鳥が颯爽と飛来した。
「ダイホルスチェエエエンジッ、ダイバアアーード!!」
 それは村雨 紫狼(gc7632)のタマモ‥‥だよな、これ? いや! とにかく『魔導鳥神ダイバード』だ!
 細かいことはともかく、変形したダイバードは機刀『陰』の二刀流で、キメラを膾切りにする。
「ま、喋ってる事は良く分からんがイルカマン! お前の言葉は分からなくても、身を挺して戦う行動を俺は心得た!」
 ビシッと決めながらそう宣言する村雨。
 
 ――歌舞伎者のようでいて、腕は確かなようだ。感謝するぞ。

 ――と とぅしぇく はいっております

「うお!? これが噂のクリューニスか!? なんかややこしいが、ここで助太刀しなきゃあ、宇宙中から笑いモンになっちまうぜ!!」
 村雨は面食らいながらも、気を取り直してガトリング砲をキメラの群れへと向ける。
「この場は、戦場に吹き荒ぶ紅蓮の疾風、この魔導鳥神ダイバードが引き受ける!」

 力強く叫ぶ村雨に感謝を残して、トゥシェクは更にステーションへと接近していく。
 しかし、高速が売りのフィーニクスとはいえ、ステーション周辺では速度を落とさざるを得ない。そこに付け込んで複数のキメラが迫るが。
「待たせたっ!! 助けに来たぜ!!」
 砕牙 九郎(ga7366)がステーションを背にトゥシェクを出迎えた。

 ――とぅしぇく! くろう も きてくれたよ 避けてって いってる!

 ――頼む!

 急角度で進路を変更するフィーニクス。その軌道がそれた後を、砕牙の桜花が放ったアサルトライフルの弾丸とラヴィーナのロケット砲が通過。彼らの背後でキメラが爆発した。
 しかし、ようやくステーションのハッチに辿り着いたトゥシェクが扉を開けようとすると、壁面に張り付いていたキメラがガサガサと這い寄ってきた。
「おっと! そうはさせねえぜ!」
 九郎はとっさにナックルコートでキメラを壁面から引き剥がして殴り飛ばす。さらに、トゥシェクとLGが収容されたのを確認すると、爆風でステーションに被害が出ぬよう、機剣でキメラの頭部を切り飛ばす。

 ――『AACより、桜花へ。群れで来るわ。注意してね!』

「すまねぇ! 百地さん!」
 九郎は曳航してきた機動砲Gバードカノンを引き寄せると、敵の群れに向けて発射した。
「コイツでとどめだ!! ぶっ飛びやがれ!!」
 巨大な砲身から迸ったG放電がキメラを焼き尽くした。


 この間、シエラはステーション付近で応戦していた。一旦周囲の敵を駆除し、一息ついた彼女のリヴァティーに、突然遠距離からのプロトン砲が襲い掛かる。
「あんな遠くから!」
 彼女を狙ってきたのは、長距離砲撃型と思しき中型のキメラだった。彼女の武装では届くものが無い。
「頼んだぜミーア! アイリス! いっけえええ! ファミリアーレ!!」
 その時、シエラ機の真横を村雨の機体が放ったカスタム型のフォビドゥンガンナーが通過していく。二機のフォビドゥンガンナーは瞬く間に砲撃型キメラの元に到達。近距離からの粒子砲で相手を撃破した。

「さて!! んじゃあ全力で助けに行きますか!! トゥシェクは前にも何度かあったことがあるし‥‥082(ハツ)も助けてやんねぇと!!」
 続いて先刻、トゥシェクを援護した九郎も駆けつけ、キメラをアサルトライフルで射殺していく。
「シエラちゃん、心配だろうが今はステーションの防衛に集中してくれ! 俺たちの仲間やイルカマンがいる、だから帰る場所を失わない様に、頼むぜ!」
 村雨の力強い言葉にシエラは安心したらしく、戦闘に集中する。
 
 一方別の場所では、補給を終え再び戦線に復帰したトゥシェクとマキナが合流していた。
「私も行きますよ、トゥシェクさん。そちらのフィーニクスではフォースフィールドを貫けないでしょう?」

 ――お前は、確かマキナと言ったか。助かる。この数では俺も手伝わぬと埒が明かぬようでな。

「共に戦わせてください。共に戦いたいんです。貴方と、共に」
 ――何、こちらからも頼みたいところだ! では頼んだぞ!

 こうしてトゥシェクとマキナも戦線を維持する。

「ったく、数が多いってのはやっぱり面倒だな」
 近寄ってきたキメラをビームコーティング・アクスの一振りで蒸発させた悠はぼやいた後、マキナとトゥシェクのフィーニクスを見る。
「バーデュミナス人っても十人十色だな。まあ、当たり前の話なんだが。ああ、でも頼りになるってのは割りと共通かな。特に心配の必要も無さそうだ」

『AACより、【デアボリカ】へ。大型が一機ステーションの死角に回ろうとしているわ。フォローお願いするわね』

「えーと‥‥ああ、そこならもう射程内だったか。オーケー、適当にボコってこい」
 悠の射出したロトゲシュペンストが、真紅の閃光となってキメラを襲う。
 この時、悠の機体の診断システムが、残弾を報告してきた。
「‥‥そう言えば、似てるからって『ドルフィン』ってネーミングはどうなんだ。触手付きだぞ」
 改めてバーデュミナス人の外見を思い出し、一人突っ込む悠だった。


 暗礁空域内部での接近戦を想定していた由稀とイツハがようやくそこまで近づくと、なにやら中で発光が見えた。
 訝しがりながらも更に近づくと、隕石群の中からここに直行していたUNKNOWNの機体が姿を現した。その手には何やらHWだったらしい残骸がぶら下げられている。
「うむ。以外にしぶといね。まだ一機しか捕まらなかった、よ」
「ふぅん‥‥じゃあ、いっそ炙り出してやる?」
 そう言うと、由稀はPDレーザーを暗礁空域に向けて照射した。『出てこなければ全部まとめて薙ぎ払う』という脅しである。
 暗礁空域の中で爆発が起きる。
「さて、私のメッセージは伝わったかな?」
 だが、HWは姿を現さない。まだキメラが統制された動きを失っていないので、何機か残っているのは間違いない。
「ふむ、やはりもう一回やってくるか」
 とUNKNOWN。
「ええ、直接叩いてしまいましょう」
 イツハもそう言った。由稀も面倒そうにしながらも、クローを構え二人に続く。
「‥‥わかっていますね、自分の役割が」
 さて、内部に侵入したイツハは岩龍型遠隔攻撃機を射出した。自動歩槍を撃ちまくる岩龍は、見た目はKVと区別がつかない。これに惑わされたのか、複数方向からHWのものと思しき光線が放たれた。
「かかりましたね‥‥!」
 狙い通り、岩龍を囮にして敵の位置を探ったイツハは岩龍を巻き込むようにPDレーザーを掃射した。だが、攻撃は止む所か激しくなる。一機は吹っ飛んだようだが、まだ数機いるらしい。
「まだいるようだね。二人とも冷却時間が必要だろう。レディ(AI)、対象設定を」
 UNKNOWNは、敵の位置の目星をつけたのか、スラスターを切ると隕石を蹴って飛び移りながらゆるやかに敵のほうへ接近していく。
 やがて、隕石に着地していたHWを発見すると、まずライフルの射撃で足を止めた上で問答無用で掴み掛かった。
「暗礁空域でなければ。速度差で捕まえる事は難しかったかもしれん、が‥‥場所が悪かった、な」
 HWは慌てて接近戦用のクローで抵抗しようとするがもう遅い。UNKNOWNはSESを通した徒手でHWの武装を潰し、更に機体を解体していく。
 イツハはその様子を呆然と眺めていたが、やがて気を取り直し再び岩龍を射出する。
「念の為。確認します。タカシロユキは迎撃をお願いします」
「‥‥了解」
 目の前で味方機が解体されているのに動転したのか、HWが岩龍に攻撃しながら飛び出して来る。
 流れ弾がUNKNOWNにも当たるが、UNKNOWNは涼しい顔で捕らえていたHWの残骸を盾にする。
「ふむ、意外に脆い盾だったな」
「今更HW程度で‥‥!」
 由稀がレーザーキャノンで、ダメージを与え、続いてクローで止めを刺した。
 だが、仲間を囮にしてこのチャンスを待っていたのか、暗礁空域の反対側から一機のHWが飛び出して、全速力でステーションに向かう。その様子はもはや破れかぶれの突撃を狙っているようにしか見えない。

「させません‥‥!」
 だが、遮蔽物が無くなれば遠隔攻撃機は強い。イツハの射出した岩龍が歩槍で背後からHWを撃ち続ける。HWは後部から火を噴きながらも突進を止めない。だが、ステーションが見え始めた所で、その眼前に舷窓色のKVが立ち塞がった。
「やはり来ましたね。ですが、させません!」
 里見はプレスリーを構える。

『AACより各機へ。手の空いている人は、里見機のフォローをお願いするわ』

 百地の管制で手の空いた者が里見機に集まろうとするキメラを問題無く掃討する。
「頼んだぜ、里見さん!」
 キメラをラヴィーナで吹っ飛ばした九郎が叫んだ。

 落ち着いて照準を合わせた里見がレーザーライフルを発射。宇宙を真っ直ぐに切り裂く細く鋭い閃光がHWの中央を射抜き、ワームは瞬く間に吹き飛んだ。

『AACより、各機へ。暗礁内部の重力波消滅――おっと』
 
 状況を報告していた百地は、直感的に敵の存在に気付いたので、フォビドゥンガンナーを射出。それまで死角に隠れていたらしい大型キメラを牽制した。
「まだ小さいのはいるみたいだし、折角だから」
 百地は知能の低いキメラが遠隔攻撃機相手にじゃれている間に距離を取ると、Gバードカノンを操作。敵の群れを纏めて放電で吹き飛ばした


「司令塔が討たれたようです。後は勝手に逃げ散るでしょうが‥‥後の為に一匹でも多く駆除しておくとしますか」
 飯島機の放ったアウルゲルミルが雑多なキメラを纏めて焼き尽くす。

「まだまだ食らいますわよ〜!」
 ぎゃおちゃんも、深入りしない程度にキメラを轢いて回るのだった。

「危ない!」
 戦闘終了直前、消耗の激しいシエラ機が中型キメラの爪に狙われたので、近くに居たゼロは慌てて機体を盾にした。
「す、すみません!」
「大丈夫です、これくらいなら‥‥」
 そう言うとゼロのフィーニクスは装備していた熊手でキメラを強打。切り刻まれたキメラが悲鳴を上げて散っていったのである。


 戦闘終了後、修繕作業などで慌ただしくなったステーション内部にものっそ痛そうな音が響き渡った。
「男は殴られて育つもんだ‥‥今は認めとけ、若さゆえの過ちって奴をな!」
 覚醒をといた状態の村雨がLGパイロットの少年を鉄拳制裁したのである。
「な‥‥」
 後ろを向いて片手を挙げて去っていく村雨を、殴られた頬を抑え怒りを込めた視線で見送る少年。
「何だよアイツ!」
 吐き捨てる少年。この段階ではまだ彼は村雨の拳の意味には気付かなかった。
「それより、シエラ! あの宇宙人‥‥」
 駆けだす少年だが、通路の角を曲がった所で背の高い女性に出会い、足を止める。
「うわっ‥‥」
「‥‥あなたが、あのLGのパイロット?」
「は? そうだけど‥‥」
 それを聞いた女性、由稀は諭すような口調で言った。
「状況は把握していた‥‥あなたよりもトゥシェクの方が彼女を信頼してるわ。どういう意味かは自分でよく考えなさい」
「‥‥っ!
 顔を真っ赤にする少年。由稀はそれ以上何も言わずに去る。

「ま、命令違反云々を追及するのは軍人の仕事だろうし、その辺は良いんだが」
 呆然とする少年の後ろを悠が歩いて行く。
「何を‥‥」
 少年が言い返す前に悠はポツリと言った。
「若いなあ」
 ――‥‥いや他人の事言えるほど歳食っちゃいないだろうよ、私。
 悠はそう自分に突っ込みながら、その場から去って行った。


 矢継ぎ早の出来事に、シエラやトゥシェクを探しに行く気力も失せた少年はステーションの倉庫で落ち込んでいた。
「畜生‥‥皆、なんなんだよ」

「ああ、そこにいたんだね」
「! シ、シエラ!?」
 少女の声に思わず反応してしまう少年。だが、それはソーニャであった。
「シエラなら、トゥシェク達と一緒に作業を手伝ってるよ? あ〜あ、トゥシェクの方が人気者であぶれものはボクか。それも悪くないけどね。彼らが夢を見せてくれるなら」
「何言って‥‥わ!」
 次にソーニャがとった行動には流石の少年も、吃驚した。
「ほら君、もっとだきつかせなさいよ。ボクだって寂しいんだよ?」
 少年は真っ赤になっていたが、やがて言った。
「‥‥あ、ありがと」
「大丈夫よ。彼女は彼の恋愛対象にはならないわ。今の所はね‥‥あとは君の頑張り次第」
「‥‥」
 暫しの沈黙の後、少年の嗚咽が響いた。
 少年は、今頃になって村雨に殴られた頬に熱を感じていた。


 撃破された友軍LGを回収を終えた里見は救護室で負傷者への錬成治療を行っていた。やはりヨリシロにする意図でもあったのか、他のLGのパイロットも怪我の程度の差はあれ全員生きてはいた。

 ――すごい ちから だと とぅしぇく かんしんしてるよ

「私も五年間サイエンティストをやっている者です。こういうときに役立てなければ‥‥」
 その里見を包帯を巻いたりなどして手伝うトゥシェクの感想を082に伝えられ、里見が照れたように言う。
「これも、トゥシェクさんの仰る戦士の力の一つです‥‥ふう、一段落つきましたね」

「お疲れ、さやかちゃん、トゥシェクも」
 そこに由稀もやって来た。
「‥‥そう言えばトゥシェク。この戦争が終わったらどうるつもりなの? 他のバーデュミナス人も含めて、さ」
 由稀の問いにやや沈黙した後、トゥシェクは言った。

 ――まだ解らぬ。我々の保護を担当しているミライケンという組織と、戦士階級の上層部が協議するのだろう。俺達の裁量権はそれほど多くあるまい。だが、単に希望として述べるなら‥‥

『私 個人的は 地球 見てみたい  地球の 海 行きたい 私たち 本当は海の生まれ だから』
 翻訳機を通したトゥシェクの言葉に里見は笑顔になった。
「地球の海は、素晴らしい所です。トゥシェクさんたちもきっと気に入ると思いますよ‥‥私もかつては『海を守る戦士』でしたから」
 その後、三人は和やかに談笑した――。
 

「シエラさんとトゥシェクさんを見ていて、何となく思うことがあります」
 由稀や里見と別れたトゥシェクは別の区画でマキナとも話している。
「敵ではあったけれど、芋虫だなんて外見に関係なく。彼の事が、好きだったのかも知れない――と。妙に感情を見せてくれて、真摯だった。何処か人間味のあった、彼の事が‥‥今更、ですけど」

 ――グラッブグローラーの事だな?

「トゥシェクさん。彼はどんな人でしたか? それなりに長い間、共にいて‥‥別に良い所を聞きたい訳ではないんです。悪い所でも構わない、もっと彼の事を知りたいんです」

 ――そうだな、まあお前の印象通りの戦士だった。いつも同胞を気遣っていたわ。本星艦隊の連中が、ヨリシロへの欲望に溺れたり、お前達人間を侮りがちなのを気にかけていた‥‥その懸念は、正に正鵠を射ていた訳だがな。

――後は、ヨリシロを得る事を恥じたりはしていなかったが、糧となる生命に、ある種の敬意‥‥と評すべきか。とにかくある程度の感情は抱いているようだったな

「もっと、教えてください。覚えていたい。せめて記憶として。私の刹那を、永遠に留めていたいんです」
 トゥシェクは『溜息』と『苦笑』に当たる仕草をすると。無言でマキナに椅子を薦めた。


 戦闘が終了し、静寂を取り戻したステーションの周囲をたった一機のKVの噴射炎が揺らめいていた。
 補給を終えたイツハのフィーニクス『バイネイン』が曳航しているのは、フォビドゥンガンナー、ロトゲシュペンスト、それに岩龍型遠隔攻撃機といった傭兵によって使用され破壊された遠隔攻撃機の残骸である。
 あるいは、再利用するつもりなのか。それを回収するイツハの表情はどことなく物悲しいものだった。

 白い月の反対側に、赤い月が輝く。戦いの終わりは近づいていた。