タイトル:【RR】Scarlet Gliderマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/16 23:28

●オープニング本文


 事の起こりはカンパネラ宇宙要塞の食堂。未来科学研究所のスタッフや宇宙軍の面子に混ざって異様な外見の客人が集まっていた。3m程度の直立したイルカのような外見。鉄の光沢と頑健さを持つ表皮に人類に劣らず器用な作業を可能にする触手。
 彼らはバーデュミナス人と呼ばれる異星からの客人であった。かつてバグア本星の防衛任務に当たっていた本星艦隊がヨリシロの候補として確保していた種族である。
 今は保護されてUPC及び未来研の管轄となった彼らは地球への客人と言いつつも、実は未だに地球へ降りた者はいなかった。

 ――簡単な事よ。この俺が一族を代表してあの青い惑星の大気を最初に潜る、というだけの事だ。

 そう言ったバーデュミナス人の名前はトゥシェク。彼は本星艦隊の支配下にある際、人類側と激戦を繰り広げ、その結果KVを複数撃墜していた。
 更に、一旦人類側に投降した後も彼は問題を起こした。人類側の輸送艦が一隻、戦闘中行方不明になったのを救出に赴き再度バグアに利用されたのである。
 彼自身はその段階でバグア側での死を望んだが、それは傭兵たちの尽力で阻止され今こうして生きている。

 ――その俺だからこそ、相応しい任務だ

 トゥシェクは嗤う。その容貌はイルカを通り越してシャチじみていた。
 
 ――確かに地球の民は我々やクリューニスの民を故郷へ帰すと請け合った。無論彼ら自身にとっても星の海へ漕ぎ出す事は悲願だ。我々やバグアの技術との接触で、進歩の速度も早まるだろう。だが‥‥

 バーデュミナス人。そして知能は幼児並だが精神感応という特殊な能力を持つもう一つの異星人クリューニス‥‥食堂に置かれた保護ケージの中で跳ね回る青いまりもの群が一斉に深刻な表情、というか雰囲気を見せる。

 知能の低いクリューニスでも理解は出来る。バーデュミナス人はなおさらだ。
 少なくとも今の彼らの世代は、生きて彼らの故郷の恒星系に帰ることはないであろうと。

 ――分析では、我々は多少息苦しくても地球上での生存が可能だ。それに、地球には液体の海もある。

 彼らは水棲生物から進化した種族だ。フィーニクスの操縦席が液体で満たされているのはそのためだ。

 ――同胞よ。各々この恒星系で生を全うするかは逡巡もあるだろう。ただ、俺個人ついて言わせて貰うなら、この星の空に魂を返すのも悪くはないと思っている。俺は環境適応実験の第一号として地球へ降下する。すでにUPCから許可も出ている。


 数日後、カンパネラから地球へと向かうシャトルが大気圏突入直前に宇宙キメラの襲撃を受けた。KVの戦闘には危険な領域であり、逃げ切ることも不可能に思われた。
 だが、シャトルを補足したキメラの眼前で、コンテナのボルトが爆発した。続いて、コンテナから放たれた赤い光条がキメラに突き刺さる。FFを持ってしても強力な熱にキメラが怯む。
 
 その隙にシャトルは無事降下を開始した。


 数時間後。キメラを撃破したフィーニクスも無事地上への降下を完了していた。その強度は地球の大気と重力に十分耐えた。だが、その降下地点は大きくずれた。
 トゥシェクの眼下に広がる中央アジアの大地では、ロシア掃討戦【RR】において重要な攻略目標と位置づけらえた大型陸上戦艦への攻撃作戦が進行していたのであった。
 
 陸上戦艦。最大の大陸であるユーラシアでは、これまで複数確認されている。ギガワームと比して速度が遅く、展開力に難があるものの艦載戦力は同等、打撃力に関してはあるいは上回るやもしれない戦略兵器だ。
 ロシア方面で確認された陸上戦艦は、広範囲の通信妨害、アグリッパによる対空能力と多数の無人ヘルメットワームによる極めて強固な防空能力を特徴としていた。
 UPCは数度の降伏勧告を送ったが、返答はない。RR作戦決行に当たり、ロシア軍は正面から攻撃を行うことを決定した。
 空戦部隊が無人ヘルメットワームを陸上戦艦に近づきすぎないように引き付け、別働隊による爆撃を行い敵艦の能力を奪う第一段階。
 その後に強襲部隊を送り込み、KVによる白兵戦でとどめを刺すという作戦だ。多数のKVおよび支援部隊、爆撃部隊がその為に移動を開始しつつあった。


 その一つカルサヴィナ小隊の任務は、別働隊が地上から陸上戦艦周辺のアグリッパに接近、破壊するまでの間地上に釘付けにしておくこと。
 アグリッパは自立行動可能な兵器だが制空圏を展開中は地上に固定され動けない。航空部隊が囮になっている隙に、地上から別働隊が接近。破壊する作戦である。
 
 だが、別働隊の一つが敵の強固な抵抗を受けて目標全てを破壊する前に敗退。
 長時間防空圏に留まった小隊は脱出すら困難な状況まで追い詰められていた。
 
 頼みの綱は先遣隊の劣勢が伝えられた時点で急遽要請された傭兵部隊が急行中だと言う事。しかし、このままではその前に全滅しそうだった。

「少尉! 振り切れません!」
 グロームにアグリッパによる終端誘導を受けた無数のミサイルが迫る。数が多すぎて迎撃も間に合わない。

「ここまで来てッ!」
 猛スピードで飛来したニェーバがリーヴィエニでミサイルを掃射する。しかし、そこに戦艦からと思しき対空砲火が着弾した。

「少尉!」
 加えて、必死の思いで回避した筈の、ミサイルの群が無情にも軌道を変えて獲物へ殺到した。
「あの赤い月を粉砕して、祖国の大地から奴らを一掃しようという時に‥‥無念だ‥‥!」
 長く豊かな銀髪と何よりパイロットスーツに浮き出たボディーラインから若い女性とわかるその少尉は歯噛みした。容赦なく砲火が迫り爆発が起こる。
 
 だが、その瞬間KVよりも一回り大きな赤い機体が高速で飛来。KVをクローで掴んだ後ミサイルを振り切って飛び去った。


「バーデュミナス人‥‥にフィーニクス?」
 一旦、制空圏外に脱出した小隊はトゥシェクから事情を聞かされた。
「ブーストの効率化に貢献したという話は聞いていたが、これが‥‥」
「主力艦隊に異動になった昔馴染みからの手紙には書いてあったが」
 トゥシェクが提示したデーターが宇宙軍や未来研による信憑性の高いものであったので小隊は一応信用することに決めたらしい。

 続いて状況を聞いたトゥシェクが申し出る。

 ――後少しだけ時間を稼げば、アグリッパとやらの管制を潰せるらしいな。その囮俺が引き受けよう。フィーニクスも地上では小回りが利きにくくなるが速さならまだ分がある。

「そうだ‥‥! ここまでの戦闘で散っていった同志に合わせる顔がない! 新たなる同志よ! 頼むぞ!」

 軍曹が専用回線で少尉に話しかけた。
「幾ら少尉殿を助けたとはいえ、相手は異星人です。そんな簡単に‥‥」
「問題ない! あの機体の色を見ろ!」
「は‥‥」
「赤い機体に乗っている兵士が信用できない訳が無い!」
 そうドヤ顔をしたラリーサ・カルサヴィナ少尉のニェーバは赤く塗られていた。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ゼロ・ゴースト(gb8265
18歳・♂・SN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

「トゥシェクさんたちが頑張っているのですから、私たちも頑張らないと‥‥くしゅん! それにしても‥‥寒いー‥‥」
 里見・さやか(ga0153)は他の傭兵たちと共に雪原に屹立するアグリッパへの道をかけている。
 祖国、日本とは異質な寒さは身に染みる。だが、周囲を揺るがす火砲の響きは、何故かさやかの胸中に懐かしい感情を思い起こさせた。
「目標A(アルファ)を補足‥‥」
 白い息を吐きながら狙撃用の超機械を取り出すさやか。狙うのは既に接近する人間を察知して咆哮を上げるレックスキャノンだ。
「撃ちぃぃ方、はじめ!(思わず言ってしまいました‥‥何というか思い出すんですよね)」
 軍隊の伝統的な発声に反応した超機械の電磁波がスパーク。REXの頭部を焼く。

 怒り狂ったREXは早速背面のフェザー砲を起動。ビームのシャワーをさやかに向けて降らさせた。
 咄嗟にその場からジグザグに走るさやか。その背後にビームが降り注ぐ。
「そう、幹部候補生学校での陸戦訓練を‥‥」
 基本に忠実な動きが功を奏したのか、さやかは被弾を避けつつ、REXの注意を惹きつける事に成功した。

 同時に、走り出す他の四人がREXの目に映る。最も突出していたのはPN故の速度に優れる藤村 瑠亥(ga3862)。だが、藤村を襲おうと竜脚が凍土を蹴った瞬間――。
「何所へ行く気じゃ?」
 その圧倒的存在感に誘引され美具・ザム・ツバイ(gc0857)の方を振り向くREX。
「こっちじゃ!」
 REXは地響きを立ててそちらに駆ける。
「今よっ!」
 それを見たクレミア・ストレイカー(gb7450)が叫び、拳銃をREX背後の岩に撃ち込んだ。
 反射した弾丸を受けたREXは弾の飛んで来た方向に人間の反応が無い為に、明らかな混乱を見せた。
「何処を見ておる!」
 美具の斬撃を足に受けたREXは榴弾を投擲。炸裂した鉄球が美具を襲うが、シールドが何とか致命傷を避けさせる。
「思ったよりきついの‥‥」
 そうぼやく美具。しかし、その時彼女の傷が少しずつ塞がり始めた。
 さやかの錬成治療である。
「陣形は大丈夫ね。こっちも行きますか!」
 ここまでは打ち合わせ通りに事が運んでいるのを確認した狐月 銀子(gb2552)は、重厚な外観を誇るAUKVバハムートの中でそう微笑むと長大なエネルギーキャノンを構え、美具を攻撃するREXに一発。
 
「こちらは十分かなと」
 背後の状況を一瞥した藤村は白い大地に低く身を伏せる。
「もう一機の対応に回った方が効率が良さそうだな、と‥‥!」
 白い大地を黒い雷光のように駆ける藤村。その高機動を生かしてもう一匹のREXへと向かう。


 夢守 ルキア(gb9436)は双眼鏡で戦況をじっと確認していた。
「そろそろカナ? REXは完全に囮に釣られているみたい」

「アグリッパなんで見飽きたガラクタはとっととぶっ壊すです」
 シーヴ・王(ga5638)が長大な両手剣を振り、僅かに身体に積もった雪を振り払った。
「さて‥‥一刻も早くアレを破壊しましょう」
 ゼロ・ゴースト(gb8265)は呟きつつ小銃を取り出す。

「真っ直ぐ走った方が良いみたい」
 彼我の位置関係を把握したルキアの提案通り、三人は一直線に目標を目指す。

 遮る物の居なくなった雪原を三人はひた走る。
 REX二機は其々の獲物に集中しており彼らを一顧だにしない。三人は難なく雪原に屹立するユニットを補足。
 まず、ゼロが取って置きの貫通弾を小銃に装填。銃を構えた。
「出来るダケ装甲を弱くしてみる。シーヴ君も、ゼロ君も物理主体だよね」
 自身の超機械でユニットの装甲に悪影響を与えたルキアが言う。
「ゼロ、なるべく上の方を狙いやがれるですか? シーブは下の方をぶっ壊すです」
「了解です」
 小銃のトリガーを引くゼロ。放たれた弾丸は連続でユニットの上部、パラボラアンテナのように見えなくもない部分を穿つ。
「継ぎ目トカあったら、狙ってみよう」
 ルキアも超機械の火炎弾で攻撃。

「とっとと壊れやがるがいいです!」
 シーヴは大剣を振り被ると力任せにその基底部へ叩きつける! 周囲の粉雪が舞いあがりユニットが不気味に揺れた。


「弾幕とはいえ、これならばな‥‥」
 藤村は、REXの周囲を高速で跳躍。一度、対人兵器が放たれれば、そのコーン状の攻撃半径から迅雷で脱出する。
 しかし、REXも伊達に対人掃討用に調整されている訳では無い。藤村をその鋭い爪の生えた脚やその噛み付きで藤村を牽制。容易には近付けさせない。
「これでは埒が明かん、と‥‥仕方が無い。正面から、抜けられないとも、限らんと」
 今度は敢えて、ベアリングの範囲に踏み込む藤村。ワームがバラ撒く鉄球の嵐、その隙間を回転しながら縫うように避け、跳躍。相手の頭上を取る。
 REXの体色は物理に強い緑。藤村の脚爪が煌めき、REXの体表が切り裂かれる。REXは瞬時に体色を赤く変化させるが。
「色で見えるなら簡単だと‥‥」
 今度より強力な二刀小太刀が走った。

 この二連撃によろめいたREXは体色を緑に戻し――それ以降はそれを維持し続けた。これは藤村の攻撃では物理の威力が近くの二倍であったためである。藤村が緑なら威力の低い知覚で攻撃して来ると判断したのだ。


 さて、もう一体のREXキャノンは体色を赤に維持したままひたすら美具に榴弾とフェザー砲の雨を降らせていた。
 美具はほぼ防御に徹し、すこしずつREXをユニットから遠い方に誘導していく。
「全く、せこいワームね」
 大口径のエネルギーキャノンを構えたまま、銀子が苦笑い。
 そう、先刻からREXが対知覚防御に徹しているのは、銀子の強烈なキャノンを警戒しての事である。

「まだ、藤村さんの方とは大分距離がありますね‥‥」
 と、伏せた状態でワームの脛を撃って牽制していたさやかが言う。

「美具ならまだ持つ。さやか殿、回復は頼む」
 先刻から美具はREXの攻撃を前衛で引き受け続けていた。GDたる強靭な防御力はベアリング弾の雨にも耐える。フェザー砲で受けた傷は。
「お任せ下さい! 私の錬成治療は69回まであります!」
 こう言われると、妙に頼もしく感じるのはなぜだろう。
 折角ワームが負わせた傷も、さやかによって瞬く間に治療される。三名は、堅実に陣形を維持しながら順調に陽動を成功させつつあった。


「凍傷を受ける前にやっておかなきゃね‥‥」
 この頃にはクレミアも藤村に追いついていた。クレミアは白い息を吐きつつ無駄の無い動作で愛用の銃を構える。

「砲塔を破壊できれば‥‥」
 そう呟きながら、クレミアは慎重に小銃を構えREXのフェザー砲を狙う。弾丸に貫かれた複数ある砲塔の一つが爆発を起こす。
 REXキャノンの攻撃が止んだ隙に素早く飛び退いた藤村はクレミアの側に着地。
「さあ、こっちよ!」
 クレミアは射撃で敵の気を引き、美具たちがもう一匹を誘い込んでいる方向へとこちらのREXを誘導する。


(射線にユニットを挟むのはムリ、か)
 敵の位置関係を把握したルキアはそう判断した。
「大分ぶっ壊してやったです。アグリッパの影響が弱まっているようなら支援を頼むが良し」
 一旦剣を下したシーヴが言う。
 通信機を使うルキア。繋がったらしく何事か話していたが――


 ――とぅしぇく と らりーさ はなしてる あぐりっぱ まだ いきてる つながってる から ちゃんとこわさないと きのう いきてる 

「な、何でやがるですか!? この声は!」
「誰かな? まるでちっちゃな子供みたいだケド」
「これは‥‥まさか、クリューニス‥‥?」

 ――ぜろ は ひさしぶり とぅしぇく も あえて うれしいって

 面識のあるゼロの説明によると声の正体は、バーデュミナス人と共に確保されたもう一匹の異星人クリューニスだ。
 トゥシェクと関係の深いこの082という個体も地上へ一緒に降下して来たらしい。クリューニスは小型の生き物だ、恐らく専用のケースでフィーニクスのコックピットに同乗しているのだろう。

 説明によれば、やはりアグリッパは完全に破壊しないと相互のリンクを断ち切れないらしい。

「仕方ねえです。出来れば温存するつもりでしたが」
 溜息をつくと、シーヴは呼吸を整え愛刀を正眼に構える。エミタから発生した剣を模した紋章が輝きを強めていく。


 美具の目論見通り、REX二体はおびき寄せられ鉢合わせとなった。そして、その直後は確かに混乱した。
 だだ、それほど優秀ではないとはいえあくまでも対人掃討を目的に調整されている彼らは、程無くして混乱から立ち直り猛然と二倍になった火力で傭兵たちを襲い始めたのだ。
 とはいえ、それで傭兵たちが劣勢に立たされたかというとそうでもない。

「ま、こっちの火力も二倍になってる訳だしね?」
 中衛の銀子のバハムートが、青と緑の紋章を輝かせる。
「私の錬力も十分持ちます。持久戦ならこちらに分がありそうですね」
 とさやか。
 REX二匹も体色をまるで信号の様に目まぐるしく切り替えるが、じわじわ追い込まれていく。
「ヒット‥‥! この調子なら砲台を全部吹っ飛ばせるかしらね?」
 また一つフェザー砲を拭き飛ばして弾をリロードしたクレミアが言う。

 だが、この時REXが咆哮。堅固な美具と俊敏な藤村に業を煮やし格闘にかけ雪煙を蹴立てて突っ込んで来た。
「行かせないわっ!」
 赤い方にクレミアが制圧射撃。その動きを一瞬止める。
「仕切り直そうって訳? でももう遅いわ‥‥吠えろ、バハムートッ!」
 続いて、緑色の方に銀子が攻撃。着弾したエネルギーがスパークし、そのまま後方に弾き飛ばされる。

「さて、終わりにするかの」
 美具がゼフォンを抜刀。軸足に体重を移す。

「心得た‥‥と」
 同様に藤村も前に出る。狙いはクレミアが足止めした方のREXだ。
 まず、美具が雪を散らして迅雷を発動。REXの脚部を四肢砕きで痛打。バランスを失ったREXが雪原にどうと倒れる。
「丁度良い位置だと‥‥」
 高く飛び上がった藤村が小太刀をREXの首筋に叩きこむ。
「美具達もこんなでかぶつを生身で倒すようになったんじゃなぁ‥‥昔はキメラ一匹でひいひい言ってたのに」
 動かなくなったワームを見て美具は感慨深げにつぶやいた。


「お疲れ様」
 シーヴのヴァルキリアで叩き折られたユニットの残骸を前にルキアはそう言って笑い、覚醒を解いた。同時に、それまでユニットに干渉していた錬成弱体も解除される。
「さて、後はKV隊にやらせやがるです」
 ヴァルキリアを肩に担いだシーヴが言った。
 
「トゥシェクさんたちが来てくれました!」
 空を見上げたさやかが叫んだ。

 ――サトミか。全くお前には助けられてばかりだ。今回も苦労を掛けた。後は任せてくれ。

 クリューニスを通したトゥシェクの言葉にさやかは微笑んで敬礼した。

「ユニットの破壊も終わったみたいね。さあ、もう一度いくわよ‥‥吠えろっ!」
 再度REXを砲撃する銀子。REXは更に遠くへ弾き飛ばされる。そこはKVが空中から、攻撃を行っても地上の銀子たちが安全な距離だ。

「後は赤い機体にお任せ、かな?」
 銀子の背後で、もがくREXに空中からのKVとフィーニクスの集中砲火が止めを刺す。

「でもあたしは赤より銀色ね」
 大爆発を背に、キャノンを置きつつ銀子はちょっと笑った。


「これで、大型戦艦の対空能力は失われた‥‥祖国の完全開放を前に散って行った同胞たちも感謝しているだろう」
 作戦終了後、傭兵たちは北方軍の野営陣地にて、冷えた体をラリーサが振る舞った紅茶で暖めていた。ちなみにロシアの紅茶は茶葉を煮込んで濃く出したものを、後からお湯で薄めて使うので、こういう戦場などでも比較的手間をかけずに飲めたりする。

「ま、ロシア紅茶も悪くは無し。シーヴの故郷はどちらかと言うとコーヒーのお国柄でやがるのですが‥‥紅茶好きも居やがるですよ」
 と簡素なマグカップから紅茶を啜りつつシーヴ。
「貴官は北欧の出身か」
 ラリーサが言う。
「だから、陸上戦艦だか何だか知らねェですが、ロシアで足掻く連中は見過ごせねぇんですよ、家族のためにも」
「そうか。貴官も故郷のために戦い続けているのだな」
「お茶は温まるね。だけどさ、ラリーサ君」
「む?」
 ルキアがカップから立ち昇る湯気越しにラリーサに問う。
「FRも赤だったんだケドなぁ‥‥や、マルクス礼賛のヒトなの?」
「何と言うか、美具も同じ事を考えておったぞ。そこはいいのか?」
 美具も続ける。
「いや、トウシェク殿の事は信用しておるがな。何度も助けに行ったからの」
 
「別に異星人でもいいじゃない? 昔なら人種が違ったら信用できないなんて言う感じかしら。でも今は違う。それならバーデュミナス人だって同じでしょ?」
 銀子もそう言って笑う。

「あれは半分冗談だ。彼の行動は信用できると思っただけだ。だが‥‥祖国では『赤い』という言葉には単に色を表すだけでなく『美しい』という意味もある。赤は我々にとってやはり特別だ。マルクス主義が提唱される以前からな」

「‥‥フィーニクス自体が美しい、ということならそれには僕も賛成します」
 お茶を飲みながら本をめくっていたゼロが真顔で言う。
 彼は、軍からの戦後補償としてフィーニクスを選んでいたのだ。

 そのゼロを極めて真剣な表情でじっと眺めるクレミア。
(‥‥彼は『守備範囲』に入れるべきかしら?)
 自分の悪癖について深く悩む。幸い誰も彼女の悩みには気付かなかった。
 


「トゥシェク君だっけ? 故郷、ってどんなトコ? きみには、此処はどんなセカイに見える?」
 駐機されたフィーニクスの点検を行うトゥシェクにルキアが問う。トゥシェクは翻訳機のスイッチを入れた。

 ――俺にとっての故郷は――あのバグアの巡洋艦の居住区角でしかない。

「キミはソレを不幸だと思ってる?」

 ――どうだろうな。そんな事を考える余裕も無かったからな

「幸せか、そうじゃないかは、どう世界を見るかによって変わる。私は、誰かを通してみる世界をセカイって呼んでる」

 ――独特な意見だ。

「セカイが見れるなら、何処だっていい私と違って。きみは、故郷のタイセツさを知ってるんだろーから、と思って」

「故郷か。それで思ったが、トゥシェク殿は少し落ち着いたらどうなんじゃ?」
 美具もやって来た。
 これを聞いたトゥシェクは『笑い』に当たる動作を示す。

 ――だから、落ち着きに来たのだ。ツバイにユメモリよ。この惑星が我が民にとっても大切なもう一つの故郷となるか? それを確かめるために地球に来た。

「意味が無い会話だったカナ? でも、意味を見つけるのも、それぞれなんだよ?」
 ルキアは笑い、去って行く。

「故郷とは違うかもしれませんが、私も時々海が懐かしくなります‥‥」
 さやかが言う。

 ――我が民は元々海に棲んでいた。今回の降下は地球の海をこの目で見る目的もあったのだが‥‥今はこの大地で平和のために戦うことが先決のようだ

 トゥシェクはそう言って、陣地の外に広がる大地を眺めた。