●リプレイ本文
●コンサート前日
「同行者等はいなかったでしょうか?」
前回事件のあった音楽祭の会場周辺で聞き込みを行う御法川 沙雪華(
gb5322)の姿が。
生存者という生存者がいなかった為、当日警備に当たっていた人に話を聞く。
「同行者ですか? そう言えば、事件後足早に立ち去る男が居たという話は聞きましたが‥‥」
「其の話、詳しくお聞かせください」
警備員は、少し待つように御法川に伝え何やらどこかに電話をかける。
「電話で少しだけなら大丈夫だそうです」
そう言って電話を手渡す警備員に、軽く礼をし電話を受け取る御法川。
分かった情報は二つ。
白衣姿の男性が不敵な笑みを溢しながら会場を覗いていた事。
程無くして、足早に少女を連れ会場を去ったという事だった。
「有難うございました」
御法川は警備員に丁寧にお辞儀をし電話を返しその場を後にした。
一方。
「依頼を受けた傭兵の高坂だ。シェル君の写真など借りたいのだが?」
玄関口にあるインターホンに呼びかける高坂 永斗(
gc7801)。
シェルの両親は慌てて玄関を開け、二人を家の中へと招き入れる。
「これが、シェルの写真です」
差し出されたアルバムを丁寧に受け取る美紅・ラング(
gb9880)。
「お借りするのである。後数点話を聞きたいのだが‥‥」
両親からカルナや駆け落ちの経緯を聞く二人。
知りえた情報は、三つ。
カルナとシェルは長馴染である事。
カルナが起こした事件により両親が交際を反対したという事。
それ故に駆け落ちしてしまったという事だった。
「駆け落ちだろうとなんだろうとバグアはバグア。つらいことになるかもしれないが最善を尽くすのである」
少女に同情した訳でも、両親の気持ちを察したわけではなかったが、
出来る限り悪いようにはしないと両親に約束する美紅。
二人は、一礼し写真を大事に受けとりその場を後にする。
コンサート会場へと一足先に赴く二人。
その後、ホールの管理人と何やら難しい顔で話をしていた。
どうやら人の出入りや当日までの予定について調査しているようだ。
調査の結果、大型楽器の搬入は本日中に行われるらしい。
管理人に調査内容を告げ、中へと入っていく美紅と高坂。
奈落や舞台上、控え室などを調査し、搬入された楽器が保管された部屋に行き着く。
「鍵盤楽器は、既に一つ運ばれているのである。この鍵は?」
美紅が鍵盤楽器の屋根や鍵盤蓋を開けようとするが、鍵がかかっていた。
「楽器の鍵等は、こちらでは預かっておりません」
管理人の答えを聞き、仕方がないと言わんばかりに溜息を吐く美紅であった。
●コンサート当日
「犯行予告があったそうですが、それはどういったものだったのでしょうか?」
地元警察にて犯行予告の手段について聞き込む御法川。
「機密事項になりますので、詳しくは言えませんが女性の声で電話があったそうです。
音楽祭の二の舞になりたくなければ、コンサートを中止するように‥‥と。
すみませんが、これ以上はお話しする事はで来ません」
警察関係者は、深々と頭を下げると持ち場へと戻っていった。
(電話をかけたのはシェルさん自身でしょうか‥‥?)
そんな疑問を心の中で呟きながら、空を見上げる御法川。
「お前も現地調査に来てたのか‥‥」
後方より御法川に話しかける月野 現(
gc7488)。
「皆さん考える事は同じですね」
黒羽 風香(
gc7712)が月野の後ろからひょっこり顔を覗かせる。
どうやら月野の捜索に同行していたようだ。
「今から会場に向おうと思っていたのですが、あなた達はどうなさるのですか?」
おっとり柔らかい雰囲気で訪ねる御法川。
「今から俺達も会場の警備員と話をするつもりだ」
こうして、三人は共に会場へと向う。
一方、会場周辺。
「この施設のスタッフ責任者はどこにいらっしゃるのでしょうか?」
スタッフ証を首から提げた男性に質問している立花 零次(
gc6227)の姿が。
「私になるが何か?」
背後より声と共に年配の男性が訪れる。
立花は、自分は傭兵である事や、依頼を受けこの場に来た事。
他に仲間が居る事などを責任者に説明をする。
「今回、とある依頼でこちらに来たのですが、観客や出演者を不安にさせたくありませんので、
出来ればスタッフ証を八名分お貸し頂けないでしょうか?」
「‥‥仕方あるまい」
怪訝そうな顔をしながら、着物姿の立花を見る責任者。
「有難うございます。後、何かあった場合の避難路などが記載された地図などをお借り出来ると有難いです」
「少しそこで待っていてくれ」
責任者は、ホールの管理人と何やら話をした後、一枚の地図を持って来る。
立花は地図を受け取り一礼しその場を離れると、次は近くにいた警備員に声を掛ける。
どうやら避難について打ち合わせをしておきたいようだ。
警備員は自分では判断できないと考えたのか、警備隊長をその場に呼ぶ。
「お待たせしました。私が警備隊長ですが、観客避難について話がしたいとか」
首から笛をぶら下げたこれまた中年の男性が慌てて駈けて来た。
「お忙しいところすみません」
謝罪をしつつ本題へと入る立花。
避難経路は三つ。
全てに警備員を二名ずつ配置している様だった。
「なるほど。もし敵が現れた場合、俺達がなんとかしますのでパニック等を抑える様にして下さい」
警備隊長と避難経路について話をしている所へ、丁度メンバー達が合流する。
コンサート開始直前まで、各々が調べた情報を交換しつつ作戦会議をするメンバー達の姿があった。
●コンサート開始
出入り口周辺にて観察班
「a席周辺は子供やお年寄りが多いようですね」
弓をコントラバスケースに入れて偽装して、不審な入場者がいないかどうか観察する御法川。
非常時に備え、子供やお年寄りの位置も調べているようだ。
観客席にて探索班
「こちら異常なし」
茶系統の淡い光に包まれ周囲を警戒する辰巳 空(
ga4698)。
(もしかすると、この警戒自体無駄かもしれませんが)
心の中で呟きつつ、壁などに伝わる音色や様々な振動に異常がないかどうか注意深く観察する辰巳。
「幸福を信じた先がこんな未来とはな‥‥」
武器等を鞄に入れ一般人に偽装し、シェルを捜す月野。
「そうですね‥‥」
溜息混じりに答えつつ、演奏開始時に鍵盤楽器が蒼白く発光しないか注意する黒羽。
「何物になってしまったのかは定かではないですが、厳戒態勢を突破してここに現れるなら
只者ではないでしょうね‥‥」
いずれは、討たなくてはならない対象だが今回は仲間が説得する為、今回は正体を見定めようと考える辰巳。
舞台袖にて警戒班
「ピアノを武器に‥‥か」
溜息混じりに呟くシクル・ハーツ(
gc1986)。
「音楽の一つも、静かに聴けない世の中か」
暇つぶしの為に購入した本を片手に残念そうに話す高坂。
「永斗‥‥本なんか読んでいる暇はないのである」
演奏者を注意深く観察しながら注意する美紅。
「大丈夫だ。何の問題もない。刑事のアンパンと牛乳と一緒さ」
「一緒じゃないのである」
高坂の答えに対して少し頬を膨らませつつ本を没収する美紅。
「静かに‥‥」
シクルが注意を促そうとしたまさに其の時、前奏者の演奏が終了し小休憩が挟まれる。
トイレや売店などに行く人々で溢れかえる観客席。
幕が下ろされている間に楽器の入れ替え等が行われていた。
やがて、小休憩が終了しコンサートが再開される。
と、次の瞬間だった。
舞台へと舞い降りる一人の少女が出現する。
シェル=O=ファンスだ。
シェルは厳戒態勢を突破し一同が作戦会議を行っている間に会場に侵入、
舞台の丁度真上にある骨組み部分にて身動き一つせずに潜んでいた。
其の為バイブレーションセンサーに引っ掛からなかった。
楽器はというと、美紅と高坂が帰るのを見届けた後、深夜にコッソリ運び入れたようだ。
「わあぁぁぁ」
「ねぇお母さん。あの人、天使みたいだね」
演出だと思った観客達から歓声が沸きあがる。
「来たか‥‥」
写真と瓜二つの人物が横切った事を受け、急いで仲間へと無線連絡を入れるシクル。
シクルの連絡を受け、観客席にて観察していた辰巳が舞台近くまで瞬間移動したかのような速さで駆け抜けてくる。
「あれがシェル‥‥ですか」
既にヒトではないと考えつつシェルを望む辰巳。
「目の下の黒子‥‥蒼の髪と銀の瞳‥‥後は雪の結晶ですね」
写真と目の前にいる少女の容姿に相違点がないかどうか確認する立花。
鍵盤蓋などの鍵を開け椅子に着席したのとほぼ同時に舞台袖から飛び降り観客席の前に立つシクル。
シェルの姿を残し依頼主に見せる為、予め購入しておいた使い捨てカメラで写真を撮る高坂。
●演奏開始
シェルが鍵盤を叩き始められると、とても綺麗だがどこかとても悲しい旋律が奏でられる。
すると鍵盤楽器が蒼く発光しだす。
発光した事を確認するや否や、S−01を構え一発の銃弾を放つ黒羽。
銃声がホールに響き渡ったかと思うと、銃声に驚いた観客達の叫びがホール中を駆け巡る。
「きゃあぁぁ」
「ママ‥‥い‥‥今、銃の音がしなかった?」
「だ‥‥大丈夫よ」
鍵盤楽器に向けて放たれた銃弾は、側板に当たったが分厚い装甲を貫く事は出来なかったようだ。
ざわめきが続く中、逃げる事もせず演奏し続けるシェル。
その音色はどこか悲しくとても切ないものだった。
「これは‥‥ピアノの音? ‥‥こんなにも綺麗な音色なのに、どこか悲しい‥‥」
音色に含まれたとても切なく悲しい感情に思わず言葉を発してしまう立花。
楽器もろとも少女の袖口を吹き飛ばすつもりでスカーレットを構えトリガーを引く美紅。
「だ‥‥駄目えぇぇっ!!!」
トリガーを引いた際に生じた小さな音により楽器が狙われている事を知るや否や突然叫ぶシェル。
次の瞬間、シェルが激しい音を奏でると同時に無数のキメラ達がフレーム部分より飛び出したかと思うと、
半分は観客席へ、もう半分は鍵盤楽器を守るかのようにシェルと美紅を隔てていった。
美紅の放った銃弾はキメラを撃ち落した際、僅かに弾道がズレてしまい鍵盤楽器に掠る程度になってしまう。
「おっと、あなた方の相手は我々ですよ」
舞台袖から慌てて飛び出し黒耀で襲い来るキメラを流し斬る立花。
「時間だ。対処する」
真デヴァステイターを構え美紅の前で集合していくキメラを撃ち落とす高坂。
「きゃあぁぁ」
「ま‥‥まさか、音楽祭での大惨事再来なのか‥‥」
キメラの出現を受け、口々に発しパニック状態になる観客者達。
「させない‥‥」
観客達に向って飛び行くキメラ達を緑雨で撃ち貫くシクル。
「敵は我々がなんとかしますので、スタッフの方々は落ち着いた対応を。
観客のパニックをなるべく抑えて下さい」
観客達を守りつつ、警備員達に指示をする立花。
「こっちだ」
地図を確認し、避難誘導しつつ朱色のハートの模様が刻まれた銃で襲い来るキメラを射撃する月野。
「皆様、慌てず避難指示に従ってください」
将棋倒しにならない為にも注意を呼びかけつつ、
コントラバスケースに入れていた弓を引きキメラを打ち落とす御法川。
「鍵盤楽器を弾いて出てくるのが、本物の妖精ならともかく、キメラじゃ風情も何もないですね」
飛来するキメラ達を確実に一体ずつ撃ち落しつつ溜息を吐く黒羽。
「早く避難をして下さい」
腰を抜かした青年に声を掛けつつ、ラジエルと朱鳳を構えキメラを斬り刻む辰巳。
程無くして。
キメラを斬り刻んでいた辰巳と、最前線でキメラを射落としていたシクルそして
舞台にてキメラを撃ち落していた美紅がシェルを取り囲むように包囲していた。
説得のお膳立てをする為に駆けつけた辰巳は、正体を見極める為に
タクティカルゴーグルを装着し、眼を光らせていた。
「確認させてもらうのである」
スカーレットをシェルの右袖部分に照準を合わせ、一発の銃弾を撃ち放つ美紅。
銃弾が服の袖部分を掠り破き、蒼い雪の結晶の様な痣が露わになる。
シェルは演奏していた手を止め、慌てて痣を隠そうとする。
「シェル=O=ファンス本人だな?」
一瞬だったが、痣を確認することが出来た為シェルに問いかけるシクル。
「‥‥はぃ‥‥」
「私達は、あなたの両親から依頼を受けてここに来た」
「‥‥ぇ‥‥ぁ‥‥」
シクルの言葉に思わず何かを言いかけるが慌てて口を塞ぐシェル。
会話する事により洗脳等の有無を調べようと試みるシクル。
「何があった?」
「‥‥」
「一緒に駆け落ちした男はどうした?」
問いに対して、シェルはただただ首を左右に振り更に音を奏でようとする。
「失礼しますよ」
観客席から舞台のシェルの元まで一気に駆け抜けシェルの腕を取り拘束する立花。
シェルの演奏が止まってしまったせいか、キメラ達は慌てふためき四方へと飛び回る。
「これは貴女の意志ですか? それとも誰かの命令ですか?」
一般人の避難を終え駆けつけた黒羽が、シェルに大声で問いかける。
「あの人の想いは、わたしの想い‥‥」
悲しい瞳で黒羽を一瞬だけ見るシェル。
「好きな人の為に、何でもしてあげたい気持ちは分かりますけど‥‥
本当に愛しているなら、間違いを正すことも必要ですよ」
「愛しい人の為でも誰かを犠牲にして良いワケがない」
黒羽に続き、シェルに語りかける月野。
シェルはとても辛い苦痛の表情を見せる。
それはカルナを止める事が出来ない自分に対してなのか、
はたまた自分の犯した失敗に対してなのかは分からないが‥‥。
「君の心はまだ人間のままだ。まだ引き返せる」
苦痛の表情を垣間見た月野が更に言葉を綴る。
「なぜ、このようなことを? お父様が心配しておられます‥‥帰りましょう」
全てのキメラを殲滅し終え、前衛メンバーと共にシェルを説得する為舞台へと上がる御法川。
「わたしは‥‥カルナと共に歩む事を決めたのです‥‥
ですから、お父様達にはわたしは死んだと伝えてください‥‥」
悲しい笑顔を向けるシェル。
「今回は一旦、退いてくれないか?
あなたの両親の依頼は、あなたがシェル本人なのかの確認と事件の阻止だけだ。
ここで退いてくれたら、私達にあなたを倒す理由はなくなる。私たちもあなたを倒したくはない」
シェルを拘束していた立花の手にソッと触れ、拘束を解くように促すシクル。
仕方ないと言わんばかりにシェルを離す立花。
シェルは思わず唖然としてしまう。
「ど‥‥どう‥‥して?」
「‥‥楽器を人殺しに使われるのを見たくはないんだ」
訳が分からず戸惑っているシェルに悲しい顔で語るシクル。
「分かりました‥‥今回はこのまま退かせて頂きます」
少し俯きながら、唇を少し噛み締め鍵盤楽器を名残惜しそうに見詰めその場を後にするシェル。
その後鍵盤楽器を奪取しに来るかもしれないと考え一同は警戒を続けたが、
シェルとカルナが姿を現すことはなかった。