タイトル:届カヌ願イマスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/16 20:03

●オープニング本文


◆少年ノ想イ
 どこまでも続く蒼い空。
「俺も飛べれば君の所にいけるのかな?」
 どこまでも流れ漂う雲を見上げ、少年は溜息を一つ溢す。
「おい! 新人っ何やってるんだ」
 後方から少年を呼ぶ声が聞こえる。
 茶色の軍服を身に纏った中年男性が少年の元に駆けつけ一発頭を殴る。
「痛たた‥‥少佐は暴力的ですね」
「作戦中にフラッといなくなるお前が悪い」
 少佐は苦笑いをし少年の様子を伺う。
「まだ‥‥アイツから連絡はないのか?」
「はい‥‥」
 二人は空を仰ぎ遠い所を眺め、一人の少女を思い浮かべる。
「戦場手前のテントに寄っていけ。もしかしたら救護されているかもしれんしな」
 少年の頭をワシワシ撫でると隊列の方へ戻っていった。
「もう一度、君に会いたいんだ」
 少年はそう呟き少佐の元へと駆けつける。
 この時少年はこの後、起こる惨劇など知る良しもなかった。

◆再開ト決意
 現場に着いた第九部隊は思わず唖然としてしまう。
 戦場なのだから当たり前の光景だが、余りにも悲惨な現状に目を覆いたくなってしまう。
「気を引き締めていくぞ! 敵はどこにいるか分からん!」
 少佐が全員の気を引き締める為に喝を入れる。
 辺りにはまだ煙が立ち昇っており、夥しい数の血痕と残骸に満ちていた。
「ぅ‥あ‥ぁぁ」
 何処からともなく人の声が聞こえてきた為、隊員達は声の主を必死に探す。
「要救護者発見っ!」
 程無くして右前方から声の主が発見され、少年は急いでその場へ駆けつける。
 少年の探し人である事を願いながら。
「違う‥‥か‥‥。大丈夫ですか? 今手当てを」
 少年は要救護者の顔を見て少し肩を落としながら急いで救急箱を広げようとしたその時。
「う‥‥うわあぁぁ」
「な‥‥なんでお前が‥‥」
「た‥‥助けてくれぇ」
 突然、後方から絹を裂くような悲鳴が聞こえてくる。
 咄嗟に少年は身を隠す場所を探し、要救護者を背負い茂みへと移動する。
 次の瞬間、目に映ったのは捜し求めていた少女の姿をしたモノだった。
「な‥‥なんで‥‥」
 少年は思わず声を漏らしてしまう。
 少女は少年を見つけると不気味な笑みを浮べ斬りつけてくる。
「お前一体何してんだ! 俺だよ? 分からないのかっ」
 少年は脇に挿していた剣を抜き、攻撃を受け止めるが鍔迫り合いの末、崖へと落ちてしまう。
 その時、薄ら見えた少女の瞳には何も映っていなかった。

 ―――
 どれ程の時間が経っただろうか。
「俺は‥‥一体‥‥」
 空を見上げる少年の姿が木の上にあった。
 どうやら崖の下に木々が生えておりそこに落ちた為、少年は無事だったようだ。
「わからない。確かに姿はアイツそのモノだった」
 少年は暫くの間、何時の間にか降っていた雨に打たれる。
 少年の瞳には涙なのかそれとも雨のせいか分からない滴がただ流れ落ちていた。
「アイツを救ってやらなくちゃ」
 そう呟き真直ぐに空を見上げる少年の瞳にはもう滴は流れていなかった。

●参加者一覧

番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG
真下 輝樹(gc8156
22歳・♂・CA
無明 陽乃璃(gc8228
18歳・♀・ST

●リプレイ本文


「あっあのっ! お願い、します!」
 集合場所では無明 陽乃璃(gc8228)が初陣という事もあり緊張した趣で挨拶をしていた。
「よろしく頼みます!」
 那月 ケイ(gc4469)が意気揚々と答える。
「頭こんがらがったら『123‥‥123‥‥ご飯が美味しい123』これをゆっくり繰り返し言うと良いぜ」
「‥‥ごはん、が‥‥ぷ、ぷふ‥‥っ
 ごごごめんなさい‥‥で、でも真顔で可愛い事言われると‥‥可笑しくって‥‥ぷくくっ」
「ぷっ‥‥あはは」
 気遣い真面目に話す赤槻 空也(gc2336)に思わず無明も笑い、那月 ケイ(gc4469)に至ってはお腹を抱えていた。
「わ、笑うなァッ! 俺も昔ぁコレで気ィ落ち着けてなぁ‥‥!」
「ふふ。赤槻さんは優しい方たいね。」
 守原有希(ga8582)も思わず頬がゆるむ。
「お待たせだ。キメラの痕跡を追ってたんだが遅刻してしまったかな?」
 そこへ一足先に現地入りをしていた番 朝(ga7743)が皆に挨拶し、其の後方から真下 輝樹(gc8156)が駆けつけて来る。
 どうやら番はキメラの痕跡を辿り、真下は奇襲に備えて周囲を警戒していたようだ。
「大丈夫ですよ。皆さん揃った事ですし‥‥ひとつ質問してもよろしいですか?」
 音桐 奏(gc6293)が顎に手を沿えながら皆を見渡し言葉を続ける。
「みなさんにとって、今回のケースにおける救いとは一体なんですか?」
 一同は各々に顔を見合わせながら考える。
「リゼの私見ですが‥‥キメラ化した少女を元に戻す事は‥‥不可能でしょう
 救う‥‥が、何かは分かりませんが‥‥リゼは少年の為に‥‥キメラを撃破します‥‥」
 静かに答えるリズレット・B・九道(gc4816
「わたっ‥‥私たちの世界って! こんな事ばかりなんですか!?」
 考え込んでいた無明が突然声を張り上げる。
「そう、これが俺等が‥‥毎日見る景色だぜ。慣れた方が‥‥良いかもな」
(つって俺ぁ慣れねークソがッ!)
 心の中で呟きながら無明に肩を貸してやろうと決意する赤槻。
「倒してその軛から解き放つのも救う事かと俺は思います」
 少し考え込んでいたが口を開く真下。
 空気が静まり返り暫しの静寂が辺りを包む。
「みなさん、其々でしたね。やはり奥が深い。色々有難う御座いました」
 行動について優先順位を分けた一行は、少年捜索とキメラ捜索の二班に別れ行動する事となった。


 那月がふと立ち止まり周囲を見渡す。
 周りには夥しい数の死体と瓦礫で埋もれており、起こった惨劇を物々しく伝えてくる。
「少年が一番記憶に焼きついた場所としては、キメラに出会ったココか?」
 少年捜索班は、襲撃を受けた現場付近に来ていた。
「そうっスね‥‥あっちァ殺る気満々だかんな‥‥釣れてくれよ!」
 赤槻は照明銃を天に突き上げる。
「気づいて‥‥くれればいいのですが」
 無明は手を併せ祈るように打ち上げられた照明弾を眺めていた。
(酷いな、相変わらず‥‥)
 守原は心の中で呟き、瓦礫を丁寧に取りのけ生存者がいないか確認する。
 だが、生存者の気配は無く辺りには冷たい木枯しが吹きすさぶ。
「落下した崖等も気になっとけん。そっちにも足を運んでみるけん」
 生存者の捜索を断念し、少年の痕跡を辿る事にする守原。
「ん? 俺も行くよ」
 崖の方へ行く守原を慌てて追う那月。
 二人分の足跡を追い崖に着いた二人は真下にある森を望む。
「フックとロープば借りれんやったのが残念。でもアレだけ木が鬱蒼と生い茂っているのなら‥‥」
 出発前ULTよりラペリング用具の申請を行ったが、在庫がなく借りれなかったようだ。
「まぁ、でも。俺達からしたら大した高さじゃないぜ?」
 準備運動をする那月。
「んじゃ、俺から行きますか」
 ニッと笑い勢いよく崖を飛び降りる。
「痛っちぃ」
 どうやら木々で多少肌を擦り剥いた様だ。ついでに、落下時の障害になるであろう枝を切り払ってから。
『よし、いいぞ』
 那月の無線を聞くや否や、思いっきり助走を付け崖へと走る守原。
 着地点付近に邪魔な木が無かった為、見事な着地をする。
「もしかして、枝ば剪定してくれたとか?」
「ん? まぁ深い事は気にすんなや」
 周囲を警戒しながら足跡を探す。
 鬱蒼としているが故に、人が通った形跡という物は反対に見つけやすい。
「これは? 那月さんこっちにこんな物が」
 一枚の写真と木々に付いた血痕を見つける守原。
「写真? 何にせよ少年はこっちに居るってことだな」
「落ちた地点からこん地点までば察すっと、少年は崖の上に登った。もしくは登ろうてしとる?」
 二人は顔を見合わせ、木々に付いた血痕を頼りに森を駈ける。
 一方赤槻と無明。
「‥‥二人とも‥‥遅いですね」
 不安そうな顔をする無明。
「大丈夫っス‥‥那月サンはすごい人っスから」
 一生懸命無明を宥める赤槻。
 ピピピ‥‥ピピピッ
『那月です。少年を救助したから今からそっちに向う』
「了解っス‥‥無明サンが不安がってたとこっス」
 どうやら那月と守原が少年を見つけたようだ。
「‥‥よかった」
 安心したせいかその場にしゃがみ込む。
 程無くして、二人が少年を引き連れ戻ってきた。
「‥‥衛生兵です、怪我はありませんか‥‥!?」
 慌てて少年の傷を癒す無明。
「話ぁ聞いてるぜ。あんたは‥‥どうしてェんだ? 戦いてぇのか?」
「そ、それは。出来る事ならば元に戻って欲しい」
 赤槻の質問に少年は目線を少し下に向けながら答える。
「キメラは戻せん、介錯以外救えんとは覚悟しとるね?」
 少年覚悟を問う守原。しかし少年は口を硬く噤んだままだった。
「わたっ私も‥‥戻せないか、何度も何人にも訊いたんです‥‥で、でも無理なん‥‥です!う、うぅ」
 無明は少年の変わりに泣き始める。
「彼女をここで見逃せばまた人を殺す。今ここで倒す事が彼女の為でもあると、俺は思うよ」
 説得を試みつつ、無明の頭を撫でる那月。
「解っています。彼女は‥‥何も答えませんでしたから。それに僕では‥‥」
 言葉を飲み込んだ少年の瞳には空と同じ淡い水色の水滴が浮んでいた。
「今の状態じゃ直接戦闘介入はさせられん、それでよければ」
 守原は少年の様子を伺い妥協点を模索する。
「そーだな‥‥じゃ、アッチと合流するか」
「‥‥はい」
「そうすっネ‥‥」
 四人は少年に念押しをしキメラ捜索班と合流する事となった。


 一方キメラ捜索班。
 一足先に現地調査を行い目星を付けていたポイントに案内する番。
「リゼが考えるに‥‥少年は例の少女に対しての気持ちは恋ではないかと‥‥」
 道中、難しい顔で考え込んでいたが徐に呟くリズレット。
「恋ですか。興味深いですね」
 腕を組み左の人差し指を顎に当てながら何やら考える音桐。
「‥‥若しくはそれに順ずるものかと‥‥
 何にせよ‥‥少年が介入する前にキメラを排除してしまう事がベストかと」
 恋しい人を自分の手に掛けたという罪悪感は持たせたくないと考え先を急ぐリズレット。
「人の思考というモノは、かくも面白い物ですね」
 帽子を少し深く被り直し微笑する音桐。
「人の恋路を邪魔する奴は――という慣用句がある位ですからね。急ぎましょう」
 見た目がどうあれ軍隊を壊滅させた少女+庇う少年になると手に負えないと考えた真下。
(俺もキメラ君、先に見つけたら排除する気だ)
 上方に数km程離れた場所でキメラを探索していた番が呟く。
(少し離れた場所だけど、動物達の鳴き声が聞こえる‥‥ここにはまだ来てないんだね)
 番が野生並みの視覚と聴覚で辺りを見渡し、動物の声を聞いて思わず親友達の事を思い出してしまう番。
(駄目。あの子たちを救うにはああするしかなかったんだ。それに今はそんな時じゃない)
 番は必死に心の中で葛藤する。
(助けれるモノなら俺も救ってやりたかった。けど‥‥)
「どうしたんですか?」
 遠くを見詰めていた番に声を掛ける真下。番は覚醒を解いて返答する。
「あ、何でもない。痕跡から察するとキメラはこの辺りに居そうなんだけど」
 前方を森で囲まれているが少し開けた場所に一行は辿り着く。
「ここなら、開けてますし大丈夫そうですね」
 森での戦闘は殺りずらいと考えていた真下がうんうんと頷く。
「それではこの周辺にコレを撒きましょうか」
 事前に守原から預かった囮用の血が入った小瓶をキュッと開け辺りに撒き散らす音桐。
 人の嗅覚では大した事のない量だが、相手がキメラとなると話は変わる。
「お腹を空かせていればいいのですけど‥‥」
 不安そうに周囲を見詰めるリズレット。
「この周囲だけまだ荒らされていないから、キメラ君はきっと臭いに釣られると思うよ」
 言ってから再び覚醒。音と言う音に全神経を研ぎ澄ませ耳を傾ける番。
 奇襲等に備え辺りを警戒する真下。
 数十分後、木に登り周囲を警戒していた番が無言で滑り降り、身振りで周囲に注意を促した。
 ガサガサッ
 草を掻き分け歩む音が次第に近づいてくる。
 後方には息を殺して前方を見詰めるリズレット。
 リズレットよりやや右方に黒い銃身に銀の装飾が催された銃を両手で構える音桐。
 そして、前方には盾と刀を構えている三浦式盾操術の使い手真下。
 真下よりやや前方に鋭い爪が手に備えられている番。
 一同は息を呑む。
『ニク‥‥ニクゥー』
 鈍い声にも似た叫びと共に少女の姿をしたキメラが飛び出して血の匂いを嗅いでいた。
(あの子たちと同じだ。もうあれは‥‥)
 昔見た光景を思わず思い出し深緑色の髪が伸び、瞳が黄金色に輝く番。
(今、楽にしてあげる)
 一気に少女へと淡い赤色に輝いた爪を突き立て、少女が剣を構える隙を与えず一心不乱に切り裂く番。
 其の姿は、まるで狩猟をする肉食獣にも見えた。
 同時に後方より少女へ盾を投げつけ下から上へと刀を滑らせる真下。
『キ‥‥キャアァ‥‥助ケテ』
 斬り付けられた少女からは青い血が流れ其の瞳には涙にも似た物が浮ぶ。
「‥‥助けるにはこれしかないのです‥‥甘えは‥‥仲間を殺してしまう」
 アンチマテリアルライフルを設置し照準を定めるリズレット。
 口元をキュッと噛み締め過去の失敗を思い出し引き金を引こうとした其の時
「ま‥‥待ってください」
 茂みの中から少年が飛び出す。
「あれはもうキメラだ! よく見ろ、君の知ってる彼女はこんな風に人を傷つけるか!? 違うだろ!!」
 赤槻と那月の腕を振り払い少女の前に立ちはだかる少年。
 そんな彼に那月が必死に叫ぶ。
「このままじゃもっと多くの‥‥いのっ命を奪うからっ! お願いです‥‥ッ」
 必死に少年を説得する無明。
「命を救って欲しい? 仲間を殺されているのに? 正気ですか」
 冷たい面差しで少年を一喝する真下。
 照準を少年にギリギリ掠らない位置に合わせ一発の銃弾を放つリズレット。
 少年は慌てて振り返るが、そこには剣を構えた少女が。
「危ない!!」
 少年を払い除け、少女の剣を爪で受け止め払い流す番の腕にはうっすら血が流れている。
 真下の盾が少女の目前に立ちはだかり彼女の剣戟を阻む。
 少女の剣が盾に弾かれ手から離れた次の瞬間盾の右方より流れるような斬撃が繰りなされる。
 三浦式盾操術だ。
『キャアァァ‥‥助ケテ』 
「や、やめてくれ」
 キメラと解っていて尚も懇願する少年の関節を外し拘束すると後ろへと連れて行く守原と那月。
 頭では解っていても、よく見知った声の悲痛な叫びを聞けば誰でも耳を塞ぎたくなる。
 それでも、彼らは傭兵でキメラ達を排除するのが仕事、
 そして討伐が少女への唯一の救いである事を理解していた。
「貴方の答えを見ることは出来そうにありませんね。代わりに私の答えを見せてあげましょう」
 静かにトリガーを引き、胸元に標準を合わせると一発の弾丸を放つ音桐。
 少女の胸元を弾丸が貫通するや否や
(楽にしてあげる)
 瞬間移動かのように少女の右方へ回り込み爪を突き立てる番。
「終わらせてやらァ‥‥! 明王拳・紅蓮ッ!」
 同時に焔のように赤い光を身に纏い拳を少女を突き上げる赤槻。
 彼女がよろめいた次の瞬間
「リゼを恨むがいい‥‥」
 業と少年の目の前にアンチマテリアルライフルを設置し頭部に狙いを定めるリズレット。
 衝撃音と共に弾丸が一発飛び出す。
 弾丸は頭部を貫通し、やがて少女は倒れていく。
 無明は思わず目を伏せる。
 少年は激痛の走る関節を無視し少女を受け止める為に這いずる。
「ぁあ、ウワアァァ」
 少年の絶叫と涙が少女の頬を濡らすが、少女の顔は晴れやかに見えた。
(これで‥‥いいのです)
 リズレットは心の中で呟き少年を少しチラっと見る。
「ソレはキメラです‥‥そこに情を挟む必要は‥‥ありません。恨むなら‥‥リゼを恨みなさい!」
 少年に対して業と自分を憎むように話をするリズレット。
 少年はリズレットを静かに睨む。
「貴方を否定するつもりはありませんので安心してください。私も自分の答えを示しただけですので」
 リズレットに対し助け舟を出すかの様に言葉を吐く音桐。
 二人は少年の為に恨まれ役を買って出たのだ。
「これで彼女は安らぎを得たと思いますよ」
 少女の顔を見て手を合わせ少年に声を掛ける真下。
(俺は彼に掛ける言葉は)
「俺はもう少し森を探索してくるよ」
「それなら俺も一緒に行きます」
 少女に黙祷を捧げると森の方へと駈ける番、そして其の後ろを追う真下。


「うちは化物にされたら害為す前に討てってのが家族皆との約束。止戈の求道者の武人、そして人の意地やね」
 冷たくなった少女を抱きしめる少年に声を掛ける守原。
「‥‥」
「うう‥‥私こんっ! こんな事の為に、傭兵になったんじゃ‥‥」
 少女の手を胸元で合わせながら無明は彼女が人ではないのか確認する。
「言いたい事ありゃ今の内に言えよ。俺等もう二度と‥‥顔合わせねーぜ‥‥?」
「これでよかった‥‥んです」
 少年が口を開く。
「すみませんが彼女を‥‥還してやりたいです」
「そうたいね」
 四人は少年と共に穴を掘ってやる。
(すまない。こんな方法でしか)
 心の中で何度も叫びながら少女を埋葬する那月。
 少女を救うにはこれ以外の方法はなかったのだ。
「ありがとうございます。後、他の方にもお礼と‥‥お詫びをお伝え願いますか?」
「解りたばい。伝ゆっとね」
 守原は両手を併せ少女の冥福を祈る。
(本当にすまない)
 何度も心の中で呟きながら手を合わせる那月。
「どうか‥‥安らかに‥‥」
 瞳に淡い水色の滴を浮かべる無明。
「‥‥なぁ無明サン‥‥俺等が頑張れば、一つでもコレを減らせるんだぜ‥‥戦いはこれからだぜ!」
 無明のの肩を軽く叩き少女に祈りを捧げる赤槻。
「戦いはこれから‥‥あの、赤槻さんは辛く無い‥‥んですか? 助けれ‥‥なくて」
「俺ぁー‥‥慣れたさ」
 遠くを見詰めながら左腕に爪を立てる赤槻の腕からは血が流れていた。
 四人は遠い空を眺める。
 バグア殲滅の決意が秘められているかの様なその瞳は、ただ真直ぐに蒼い空を見詰めていた。