●リプレイ本文
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「お待たせしたわねー」
塩やキノコを詰めた瓶を手に持ち駆け寄ってくるフローラ・シュトリエ(
gb6204)。
彼女は朝早く一人で現地調査を行っていた為、集合時間ギリギリになってしまった様だ。
「いいえ、今来た所ですよー」
元気良く笑顔で答えるセラ(
gc2672)。
「‥‥ん。獣型キメラだから。肉とかの。匂いに。誘われるかも?」
骨付き肉を手に持ち答える最上 憐(
gb0002)。
「畑を見てきた感じだと、まだ収穫前の畑に沢山いたわねー」
見てきた情報と即席で作った地図をを仲間に見せるフローラ。
「それじゃ、俺は倉庫の警備をするぜ」
両手を組み情報を分析しつつ警備を志願する煉条トヲイ(
ga0236)。
「ならあたしも行こう」
煉条に賛同するエイミー・H・メイヤー(
gb5994)。
「クリスマスにはケーキが無いとみんなガッカリしちゃいますね。トナカイ倒すよー!」
意気込むセラ。
「さて、ケーキのために頑張りますか」
この時期にトナカイを倒すという事に少し躊躇しながらも立ち上がる立花 零次(
gc6227)。
「‥‥そうですね。ケーキ作りには小麦粉は必須です」
久しぶりに同行になった立花を少し見上げるリズレット・B・九道(
gc4816)。
「この時期に小麦がないのは大問題だよね。子供達の為にも退治しないとだね」
手を握り意気込むシクル・ハーツ(
gc1986)。
「‥‥ん。ケーキの。為に。頑張るよ」
ケーキという言葉に反応する最上。
動機が多少不純にも感じつつ一同は、小麦畑へと足を向けるのであった。
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タッタンタタンタンタンター
小麦畑に着いた一行は、陽の光を浴び金色に輝く小麦畑で陽気に踊る四本角のトナカイを望む。
「赤鼻のトナカイだと? 随分とふざけたキメラだな‥‥サンタクロースのトナカイでも気取るつもりか?」
「真っ赤なお鼻のトナカイさん。夜に会いたかったのです!」
トナカイを見詰めながら言葉を吐き捨てる煉条の横で、残念そうに溜息を吐くセラ。
「数だけは多いな‥‥骨が折れそうだ」
呆気にとられながら呟くエイミー。
「‥‥踊ってますねぇ」
くるくる廻るトナカイ達を苦笑しながら望む立花。
「‥‥ん。なかなか。華麗なステップ」
少し感動しながら見る最上。
「これだけいると何時、塔や倉庫が襲われるかわからないな‥‥私たちは、あの赤煉瓦塔を守ろう。リゼ、行こう」
リズレットの手を引きがら、赤煉瓦塔を望むシクル。
「それじゃ、俺達は倉庫の方へ行ってくるぜ」
「誘導、気をつけて下さい」
そっと倉庫へと移動する煉条と、其の後を追うエイミー。
倉庫前に着いた二人は中へと入り、避難している男性を発見する。
「こんにちわ。貴方がこの畑の方ですか?」
片隅で震えている男性に優しく声を掛けるエイミー。
「うわぁ! あ‥‥」
「大丈夫ですよ。傭兵のものです。トナカイ達を片付ける為に来ました」
ビックリし尻餅をついた男性に手を差し伸べながら優しい笑顔で語るエイミー。
見事な騎士道精神に思わず煉条も見惚れてしまう。
「いい香りですね。ここにあるのは、全て小麦粉ですか?」
「あ‥‥はい。ケーキ屋の主人に届ける予定のものです」
男性の不安を取り除く為に他愛もない会話を交えつつ落ち着かせるエイミー。
張り詰めていた空気が少し和らぎだし本題へと入る二人。
「他にも仲間たちが外にいます。安心してここで待機していて貰えますか?」
キメラと仲間の様子を伺いながら男性に話しかける煉条。
「え‥‥ここにいるんですか?」
「大丈夫です。私たちがこの倉庫とあなたを必ず守ってみせます」
「倉庫には指一本、否角一本? 触れさせるような事はないので安心してください」
エイミーに続き語り掛ける煉条。
男性が頷いたのを確認し外へと出て行った。
其の頃、誘導班
「久しぶりにエキスパートに戻ってきたが。うん、やはりこちらの方がよく見える」
先程とは全く違う口調でキメラを監視しながら話すセラ。
「今なら、丁度いい感じに割れるんじゃないか」
セラのもう一つの人格であるアイリスがどうやら目を覚ましたようだ。
「‥‥ん。作戦開始」
「それじゃ、私は左から攻めるわねー」
防衛チームが其々の場所に着いたことを確認すると、骨付き肉をぶら下げトナカイ達を睨む最上。
キノコなどの瓶を手に持ち準備運動をするフローラ。
「俺達は、左右後方の畑に待機していますので」
最上とフローラを気遣いつつ、待機場所へと移動する立花。
「誘導は頼んだ」
立花の後を追うセラ。
「‥‥ん。行く」
「了解」
二人はトナカイ達が踊る小麦畑へと左右に別れ滑走する。
トナカイ達は暫くの間陽気にタップを踏んでいたが、気配を感じると目を金色に輝かせ周囲を警戒する。
数匹のトナカイが鼻をヒクヒクさせたかと思うと右方をジッと眺める。
「‥‥ん。こっち」
小麦畑をピョンピョン跳ね飛びながらアピールする最上。
「こっちですよー」
最上と対角線上よりトナカイ達を呼ぶフローラ。
二人の思惑通り、トナカイ達は二手に別れ駆け出す。
「‥‥ん。成功。沢山釣れた。このまま。誘導する」
数匹が群れから離れ別の場所へ向うが、他のメンバーに任せ突き進む最上。
トナカイの角を華麗に避けながら収穫後の畑を目指す二人。
(五、四、三‥‥)
お互い心の中でカウントダウンし急旋回する。
「‥‥ん。ココからは。反撃の時間。まとめて。やらせて貰う」
突進してくるトナカイ達を目に見えない速さで華麗に交わすと同時にそこらじゅうに残像が出来上がる。
トナカイ達が残像に惑わされている隙に大鎌で薙ぎ倒していく。
一方、左方から誘導してきたフローラは、瞬間移動でもしたかのように最前線から最後尾まで一気に移動していた。
「何処見てるの?」
フローラの姿を見失い慌てて探すトナカイ達。
靴に取り付けた薄青色の爪が一匹また一匹と容赦なくトナカイ達の足を切り裂いていく。
トナカイ達は慌てふためき方々へと逃げることを策略しだす。
「レイディアントシェル起動。赤き光殻、砕けるものなら砕いてみたまえ」
赤黒く光る盾を手に潜んでいた場所から飛び出すセラ。
其の背中には鮮やかな水晶で出来た羽のようなものが浮かび上がっていた。
「やれやれ、やはりその鼻は見掛け倒しという事か」
立派な赤い鼻を少し見ながら苦笑し、トナカイを元の位置に押し戻す。
「っと、其方は通行止めですよ」
収穫前の畑の方へ飛び出そうとしたトナカイの前に立ちはだかる立花。
檜扇の様なものを手に持ちふわりと扇いでみせるとその場に突然竜巻が発生させトナカイを牽制する。
トナカイは、目前に突然発生した竜巻を見るや否や、仲間の元へと走り行く。
「数が多いから、討ち漏らしがないよう気を付けたいわねー」
払い斬りながら、周囲に注意を促すフローラ。
トナカイ達は怒涛の勢いで突進しながら、四本角を振り回し前足の蹄を天高く振り上げる。
「‥‥ん。トナカイは。美味しいのかな?」
脚部を狙いながら大鎌を振り回し好奇な眼差しでトナカイを見詰める最上。
トナカイも思わず何かを察知したのか、脱兎してしまう。
一方、赤煉瓦塔
「この辺りがいいね」
赤煉瓦塔の前にある原っぱを踏みしめるシクル。
「‥‥お姉様に恥ずかしい所は見せられません‥‥」
塔の屋根部分にある小窓周辺に身を隠しながらシクルを見詰めるリズレット。
「リゼ、キメラが近づいてきたら教えてくれ」
無線機で連絡を取り合いながら確認しあう二人。
高所からトナカイと仲間の動きを注意深く覗くリズレット。
サイロの屋根ともなると中々の絶景だ。
「‥‥お姉様、十九時の方向から三頭来ます‥‥距離アト十‥‥」
「了解」
背丈の大きい和弓を構え、弦を引くシクル。
全神経をリズレットに教えてもらった方角に傾けながら射程範囲に入るのを待つ。
リズレットのカウントが五になった瞬間、弾頭矢を十九時の方向へと撃ちつける。
「‥‥一匹命中‥‥後二匹来ます」
弓をその場に置き、 鞘に美しい尾羽の飾りがついた大太刀を両手で構え待つシクル。
「ここは通しません」
キッと強い眼差しでトナカイを睨みつけたかと思うと、一気に左から右へと刀を流し更にそのまま上から下へと流し斬っていた。
一方倉庫周辺
心配そうに赤煉瓦塔を見詰めていたが先程の手際の良さを見て少し安堵する煉条の姿があった。
と、そこに数匹のトナカイが陽気に踊りながら近づいてきていた。
「無闇に陽気なトナカイだな‥‥暢気に踊ってる場合なのか?」
少しばかり呆れ口調で呟くエイミー。
「他の仲間が討ち洩らした分は、片っ端から始末するぞ!」
金色の右目で鋭く睨みつけながら一気に仕掛ける煉条。
倉庫を守る為に、その場に止まるエイミー。
「そこは通しませんよ?」
赤煉瓦塔の方へ駈けて行こうとしたトナカイを足止めの為に援護射撃を行いつつ一纏めにしていく。
「一体ずつ相手にしていたらキリが無い。一気に仕留める‥‥!!」
エイミーに範囲攻撃を仕掛ける事を伝えると、淡く光る真紅の模様が浮かび上がった右腕を空へと突き上げる煉条。
硬く鋭い爪を先頭に居るトナカイに対して叩き付けた次の瞬間、十字に砂埃と共に衝撃波が走り次々と薙ぎ倒されるトナカイ。
「エイミー! 一体取り逃がした」
「ここは通しませんよ? トナカイさん」
上手く攻撃を避け倉庫の方へと突進するトナカイの目前に立ちはだかるエイミー。
淡く光る刀をスラッと鞘からトナカイへと突きつける。
トナカイは頭を振り回し四本の角をカチカチ言わせながらエイミーに向けて爆走する。
まるで空気を斬るかのように刀を流し、左前に一歩出るエイミー。
次の瞬間、トナカイは頭と体を地に着け横たわってしまった。
「お終いだ」
こうして、全てのトナカイ狩りが終止符を迎える事となった。
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踊り狂っていたトナカイ達を全て始末した後、小麦粉を受け取る一行。
「‥‥ん。でも。微妙に。後ろ髪を引かれる。鹿キメラとかと。同じ味かな。次。会ったら。食べよう」
横たわるトナカイを見詰め人差し指を口元に持っていく最上。
「駄目ですよ? 最上さん。それにケーキが食べれなくなりますよ?」
少し苦笑しながら最上を止める立花。
「それじゃあ、小麦粉を持って行きますね。体に気をつけてくださいね」
「あぁ‥‥有難う。トラックを前に持って来るよ」
優しく農夫に話しかけるシクル。
農夫は少しの間呆然としていたが、慌ててトラックを倉庫前に持って来る。
「重たいモノは任せろ!」
倉庫から一つ一つ大切そうに持ち出す煉条。
「お手伝いしますよ」
トラックに小麦粉の入った袋を丁寧に積み上げていく立花。
「何から何まで有難うございます。お礼にしては安いですが、積荷と一緒に乗っていきませんか?」
小麦粉を積み終えると農夫は深々と頭を下げ、せめてものお礼にと町までの送り届ける事を告げる。
一行は快くその気持ちを受け取り、積荷と共に町まで送ってもらう事となった。
「はい、小麦粉です。子供達に美味しいケーキを作ってあげてくださいね」
ケーキ屋に着き店主に挨拶を交わすシクル。
「最高の小麦粉をお届けだよ、美味しいケーキを宜しくだ」
ニッコリと微笑みながら厨房へと小麦粉を運ぶエイミー。
「気づいてたら終わってたのです、なんか変な感じ」
少し首を傾げながら手伝うセラ。
「皆さん、本当に有難うございました。もし宜しければティータイムは如何ですか?」
小麦粉をせっせか運ぶ一行に礼をする店主。
「はい! セラは紅茶がいいです!」
一同は店主に案内され、日当たりが良いテラスへと足を運ぶ。
オレンジ・ペコのふんわりと優しい香りと、深いコクの香り立つコーヒー、
生クリーム仕立てのカフェオレやミルクティーが運ばれる。
「今からケーキは焼きますので、暫くお待ち下さい」
「‥‥ん。お腹。空いたので。沢山。いっぱい。大盛りで。よろしくお願いする」
「心遣いに感謝する。‥‥正に至福のひと時だな」
カフェオレを飲む際に出来た生クリームの白髭を拭いながら頼む最上。
優雅に紅茶を飲みながら礼を伝える煉条。
「すみません。少しケーキを作る所を見せてもらっていいですか?」
「‥‥リゼも‥‥」
店主にお願いするシクルとリズレット。
「あ‥‥いいですよ? ただ‥‥これを着て下さいね?」
店主は店の奥からセンターにネクタイが施された可愛い黒い制服を二人に渡した。
「‥‥ん。味見。必要なら。呼んでね?。いつでも。全力で。厨房に。突撃するよ? するよ?」
キラキラと目を輝かせながら味見を懇願する最上。
「それでは、皆様。ゆっくりして下さい」
店主は再度挨拶しその場を離れる。
紅茶に舌鼓をしている其の頃。
「あ、そうやるといいのですね」
「‥‥メモメモ‥‥」
「はい。メレンゲは作るケーキによって固さを変えるので。宜しかったら作ってみますか?」
必死にケーキ作りを見る二人に店主は思わず微笑んでしまう。
「え? いいのですか?」
店主の思いがけない言葉にビックリする二人だったが、折角なので作らせて貰う事になった。
「そうそう、生クリームは中心まで沸騰させて、火から降ろし砕いたチョコをそーっと入れてあげて下さい」
「‥‥そーっとそーっと‥‥」
店主に言われたとおりに作業するリズレット。
普段から作っているのか二人とも中々良い手際だ。
「クリームをナッペできたら、優しくガナッシュをかけてあげて下さい」
パレットナイフを優しく持ち、クリームを丁寧にスポンジに合わせるシクル。
「‥‥出来た」
「ふふ、リゼ、帰ったらまた一緒にケーキを作ろうね」
こうして、シクルとリズレットが作り上げたナッツクリームがサンドされたショコラと
店主が焼き上げた様々なタルトやフィンガービスケットで飾られたブッシュド・ノエルなど様々なケーキがテーブルへと運ばれる。
「美味しい♪この瞬間の為に頑張ったんだ」
タルトを手に取り頬張るエイミー。
「無事に仕事を終えた後はより一層美味しく感じられるわねー」
ドーム情の飴細工が施されたビスキュイショコラを口に運ぶフローラ。
「今度ビュッシュ・ド・ノエルを作ってみたいですねぇ」
爽やかな笑顔でビスケット部分を食べる立花。
「どれも美味しいな」
涼しい顔でケーキを食べまくる煉条。
「‥‥ん。どれも美味しい」
煉条に負けず劣らず、次から次へと頬張る最上。
「最上さん、食べ過ぎに注意ですよ? っと、煉条さんもです」
あれよあれよと無くなっていくケーキを見詰めながら注意する立花。
一行は談笑しながら至福の一時を過ごすのであった。