タイトル:刀闇神ト魔剣ト少年マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/21 23:39

●オープニング本文


■刀闇神ト魔剣ト少年

 もみの木がシンシンと降る雪に薄化粧される頃。
 とある小さな小さな田舎町では、門戸という門戸に柊の葉で作ったリースが飾られていた。
「今年もこの季節かぁ‥‥」
 髪を綺麗な鈴付きの簪で結っている一人の少女が空を見上げる。
「聞いたぜ! 今年も選ばれたんだってな」
 後方から少女の肩をポンッと叩く少年。
 この街では、昔からの信仰行事としてこの時期になると、町から少女を一人選抜し鎮魂の儀式と言うものが行われる。
「私もお祭りとか廻りたいのに‥‥」
「ん? 何か言ったか?」
「ん〜ん。何でもなぃ」
 少年の方を気にしながらポツリと呟くが、少年には聞こえていなかったようだ。
「それじゃぁ、私。禊の時間だから行ってくるね」
 少女は有りっ丈の笑顔を少年に向けると社の方へ駈けていった。


 翌日、朝になり少年は町人のどよめきで目が覚める。
「五月蝿いな‥‥朝から何だってんだ」
 寒いのを我慢して布団から這い起き、騒動の現場へと向う。
「あ‥‥お兄ちゃんは‥‥見たらダメ!」
 小さな子供たちが必死に少年を繋ぎ止めようとするが、
 見ては駄目だと言われれば言われるほど見たくなるのが人間ってものだ。
 少年は子供たちをかわしながら前へと進む。
「な‥‥ん‥‥?」
 少年の瞳には全身の血の気が消え真っ青になった少女の姿だけが映っている」
「え‥‥冗談‥‥だろ‥‥?」
 少年は状況を理解するのに数分時間を要するが、全てを理解すると少女の元へと駆けつける。
「どうして? 一体何があったんだよっ!!」
 少女を抱き寄せ泣き叫ぶ少年。
 少女の背中には刃物で斬りつけられた跡が綺麗に残っているが、流血した様子は一片も無かった。
「おいッ! 何があったんだよ。禊に行くって笑ってたじゃないかっ」
 少年は少女に対して幾度無く質問するが、返事が返ってくるはずがなかった。
 其の光景を見ていた町人達は、無理やり少年と少女を引き離す。
 あまりにも痛々しく見ている事が出来なかったようだ。
「‥‥どうし‥‥て」
 硬く握り締めるその拳からは薄っすらと血が流れていた。

 一方、少女の遺体を安置した部屋では。
「昨夜なんだが、頭に角を生やしまるで蛇の様な瞳をした魔物を社近くで三体見たんだ」
 一人の男性が恐々と口を開き尚も続ける。
「暗くてよう見えなかったんで、今度の祭りの出し物かと思っていたんだが‥‥」
 手を合わせ目を瞑り少女に黙祷を捧げる。
「そんな出し物は聞いてないぞ?」
「今年も出し物としては鎮魂の儀だけだと聞いたが‥‥」
 町人たちの顔色が見る見るうちに青ざめていく。
「それじゃぁ、あれは‥‥」
「そこまでじゃ」
 長老は話を止めると魔物―いわゆるキメラだろう―を目撃したという男性のみを残し解散させる。
「詳しく其の話を聞かせてくれるかの?」
「は‥‥はい。あれは夜半過ぎだったのですが‥‥」
 男性は長老に目撃した事を覚えている限り話す。
「な‥‥なんじゃとっ!」
 キメラの出で立ちについて話し出した次の瞬間、突然大きな声を上げる長老。
「ほ‥‥本当に見たのか?! よく思い出すんじゃ」
 男性の服を握り締め普段閉じている瞳を見開く。
「く‥‥暗くてちゃんと見えませんでしたが、三体のうち一体は確かに蛇の鱗が見えました。それに、ほら」
 男性は銀色に輝く一枚の大きな蛇の鱗を見せる。
「昨夜の事を確かめようと、今朝社の周辺を散策しているときに見つけました」
 長老は慌てて鱗を手に取ると震えその場に座り込んでしまう。
 其の様子を見た男性は慌てて部屋を飛び出しどこかへと駈けていった。
「ま‥‥まさか、本当に刀闇神がおられるとしたら‥‥」
 長老は神話の一説を思い出す。
「刀闇の神、魔剣携え相群れ引率て到来たり‥‥この町は‥‥おしまいじゃ‥‥」
 尚も震えながら社の方を覗いていた其の時。
「刀闇の神‥‥それは神話じゃなかったのか!!」
 拳から血を流しながら門戸を叩きつける少年。
「神話‥‥のはずなんじゃ‥‥今まで其の姿を見たもんはおらん‥‥」
「神とやらがどうして! どうして人を殺すんだっ!!」
 少年は堪える事の出来ない怒りを柱へと叩きつける。
「‥‥刀闇神とは、そういう神なのじゃ‥‥そして、其の神が使う刀は生血を全て啜ると‥‥」
 長老はそう言いながら少女の顔を見る。
「もし刀闇神じゃとすれば‥‥この町も‥‥」
「お‥‥オレが! 俺が敵を討つ!」
「ま‥‥待たんか! お前が行った所で‥‥何も出来る筈があるまい!」
 少年は長老の言葉に耳を傾けることなく、社の方へと駈けていった。
「‥‥町のもんが力を合わせた所で‥‥しかし‥‥このままじゃと‥‥」
 ふと長老は傭兵の存在を思い出す。
「そ‥‥そうじゃ! 傭兵じゃ!! 彼らならなんとか出来るやもしれん」
 長老はそう言い残し慌てて家へと戻っていくのであった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
旭(ga6764
26歳・♂・AA
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
魔津度 狂津輝(gc0914
28歳・♂・HD
蒼唯 雛菊(gc4693
15歳・♀・AA
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文


 ふわふわと雪が舞い落ち薄っすらと差す陽の光にキラキラ輝く頃、村に到着した一行の姿があった。
「取り合えず、社の場所を確認したいわねー」
 拳を握り締め気合を入れるフローラ・シュトリエ(gb6204)。
「何かさ、バグアってさ。神様系。好きだよね。そうゆうとこが何か腹立つ」
 バグアに怒りつつも周囲の人に少年と少女の関係などを尋ねるクラフト・J・アルビス(gc7360)。
「二人は‥‥ねぇ?」
「可哀想にね‥‥想い人同士だったはずだよ‥‥」
 村人達は、目線を少し下げながら二人の仲について話してくれた。
 どうやら二人は幼馴染というヤツらしく、恋人と言う訳ではないが相思相愛だったらしい。
「何か心配だなー」
 自分だったら敵討ちとか無茶な事をしてしまうな、と思い少年を心配するクラフト。
「無茶してないといいけど‥‥」
 ふわりと手のひらに落ちてきた雪を握り締めながら呟く虎牙 こうき(ga8763)。
「少年が向った場所とか心当たりないっすか?」
 周辺の人々に少年について聞きまわる虎牙。
 と、そこに。
「‥‥多分、社に行ったんだよ。だって、お兄ちゃん‥‥ぅ、ふぇ〜ん‥‥」
 子供達がやって来て、社の方を指差し泣き出す。
「‥‥ごめんね? すぐ連れ戻して上げるからねー」
 慌てて子供達を抱き寄せ頭を撫でて上げるフローラ。
「そうですの。簀巻きにしてでも連れ帰ってくるですの」
 子供達に微笑み優しく語りかける蒼唯 雛菊(gc4693)。
「お姉ちゃんに、社の位置とか教えてくれるかなー?」
「‥‥っふ。グスッ‥‥うん。あのね‥‥お社は、森の木のね‥‥赤いリボンを‥‥グスッ‥‥辿ればいいんだよ」
「そっかそっかぁー。うん。ありがとねー」
 子供達が落ち着くまで待ち、教えてもらった道しるべをメンバーに伝えるフローラ。
「私は一足先に社に行ってくるよー」
 メンバーにそう告げ森の方へと駈けて行くフローラ。
「私も一緒に行くですの」
 フローラをすかさず追いかける蒼唯。
 蒼唯は昼間の内に少年を見つけ村へ連れ帰りたいと思っていたのだ。
「兎に角だ。もう少し情報を集めよう」
 目撃された不審者についての情報を集めていた白鐘剣一郎(ga0184)が口を開く。
 と、そこに一人の男性が駆け寄ってくる。
「お前達が傭兵?」
 不安そうな顔で覗き込む男性。
「ああ、そうだぜ」
 大柄で個性的な髪の毛を生やし鍛え上げられた逞しい肉体を持つ魔津度 狂津輝(gc0914)が答える。
「よかったぁ。これでこの村も救われる」
 男性はその場にしゃがみ込み安堵していた。
「それで、あなたは?」
 安堵した男性に手を差し出し質問するエルレーン(gc8086)。
「あ、はい。現場付近で魔物を見てしまった者で‥‥」
「おー、なんとあなたがそうでしたか」
 豪快に詰め寄り質問の嵐を浴びせる魔津度。
「あ‥‥えっと。背格好は俺と似かりよったりだと思います。頭には角が生えていて‥‥」
 男性は当夜の事を思い出し震えだしてしまう。
「蛇の様な瞳を‥‥していました‥‥後、其の周辺で蛇のうろこの様なものは拾いましたが、そ‥‥それぐらいしか‥‥」
「どうも こいつは荒ぶる蛇神というやつか 厄介だぜ、マジな話よ」
 男性に一礼をし、現場に行く事を告げバイク形態になり疾走する魔津度。
「あの、すいません」
 一人の老人を見つけ話しかけるエルレーン。 
「お主達が傭兵の方々かの?」
 白髭を生やし杖を突いているこの老人はどうやら依頼主の長老のようだ。
「はい。そうです」
「ここではちとまずいのでの。こちらに来てくれるかのぅ」
 長老に案内され一軒のお宅へとお邪魔する一行。
「さて。聞きたいのは刀闇神についてじゃの」
「はい。情報が必要です。現在あなた方が把握している内容についてお伺いしたい」
 丁寧に答える白鐘。
「刀闇神というのは、この村に昔から伝わる神話でのぅ。
 怒りを鎮める為に毎年この時期に祭事が行われてきたんじゃ」
 長老はゆっくりとした口調で語り始める。
「姿は頭に角を生やし、蛇のような金色の瞳を持ち、体には無数の蛇の鱗がついておると言われておる。
 最も恐ろしいのは、そやつが持つ魔剣だと語り継がれておる」
「‥‥魔剣ですか」
 村人達を怖がらせない為に兜を手に抱え持ちながら呟く旭(ga6764
 その腰には聖剣デュランダルが携えられていた。
「んむ。人の生血を全て啜るとそう伝えられておるのぅ。そうじゃ、これが現場付近に落ちていた鱗じゃ」
 長老は一枚の鱗を一同に差し出す。
「これは‥‥?」
 銀色に輝く鱗を覗き込みながら質問するエルレーン。
「うむ。それは現場付近で発見された鱗じゃ。どうかお願いじゃ、村を‥‥村を救ってくれ」
 老人は困り果てた顔で一同に懇願する。
「それが神様であろうがなかろうが、誰かに害を悲しませるのであればそれは‥‥僕にとってただの敵です」
 優しい笑顔で微笑む旭。
「人を殺すなら、それは魔だよ‥‥砕いてやる、そんなものッ!」
 意気込むエルレーン。
「本当に夜行性だとしたら、飛び出して行った少年が危ないな。既に捜索に出ている皆と合流して一刻も早く身柄を確保しなければ」
 陽が傾いている事に気付き、合流する事を促す白鐘。


 長老の話を聞いていた其の頃。
「さて 神様の痕跡とか探すか」
 パイドロスを纏い社の周辺を捜索する魔津度。
 周囲を森に囲まれた閑静な社で、木々で羽休めする鳥の囀りが辺りに響く。
「ん? こんな所に崖があるのか」
 立ち止まり念入りに周囲の地形を調べる魔津度。
 一方、フローラと蒼唯は社をぐるっと一回りしていた。
「ここにいると思ったんだけどねー」
「必ずこの周囲にいるはずですの」
 周囲を警戒しながら散策するフローラと蒼唯。
「社の中も探してみようか」
 外周に少年がいなかった為、提案するフローラ。
「そうですね。早く少年を確保したいですの」
 手袋をキュッと付け直しながら答える蒼唯。
 年代物と言っても過言ではない社は、二人が歩む度にギシギシという音を立てていた。
「ここが本堂かしらねー」
 と、周囲を見渡していた其の時。
「アイツの仇だっ! 覚悟しろっ!!」
 右側から突然一人の少年が刃物を手に持ち飛び出してきた。
「うん。彼だねー」
「何か勘違いしているですの」
 右手を額に当てながら少年を見詰めるフローラ。
 其の横で溜息混じりに答える蒼唯。
「ブツブツ五月蝿いっ! うわあぁぁ」
 叫びながらフローラに向けて突進する少年。
「もう‥‥頭に完全に血が上ってるわねー」
 ふわりと少年の突きを交わし、刃物を払い落とすフローラ。
「確保ですの」
 少年を押さえ込む蒼唯。
 ジタバタと抵抗をする少年に駆け寄り傭兵である事を告げる。
「ぇ‥‥じゃぁ‥‥お前達が犯人じゃない‥‥?」
 呆ける少年に詳しく説明をする蒼唯。
「なら、話は早い! 俺も! 俺も連れて行ってくれ!!」
「あなたに何かあれば、あなたのことを大切に思っている人達が今のあなたと同じ想いをすることになるのよ。
 だから、任せてもらえないかしら?」
 同行を求める少年に対し、必死に宥めるフローラ。
「あなたの気持ちはよくわかるですの。でも、あなたが一緒に来てもどうする事も出来ないですの」
 口元をキュッと締め目前で殺された家族の事を思い出す蒼唯。
「兎に角、ここは薄暗くて視界もよくないから、外に出るわよー」
 もしここで奇襲されたら一溜りもないと考え外に出る事を提案するフローラ。
 こうして、三人は外に出る事となった。
「頼む! 俺は仇が討ちたいんだ!」
「あなたは同じ想いを待っている人達にさせる気なの?」
 鋭い口調で詰め寄るフローラ。
「だ‥‥だけど! 俺はアイツをあんな風にしたヤツを許せない! それが例え神だったとしても!!」
「神なんて存在しない‥‥いるのはキメラだけだ」
 少し感情的になる蒼唯。
「敵が何であれ、あなたではどうする事も出来ないのよ」
 溜息混じりに話すフローラ。
 と、そこに長老の話を聞き終えたメンバーがやって来る。
「君の知る彼女が、君が刀闇神に闇雲に突っ込んで怪我、
 或いは死ぬような事になったらどういう態度を取ったか少し頭を冷やして考えてみると良い」
 冷静に状況を判断し、少年に語りかける白鐘。
「あなたの悔しさ、わかるよ‥‥だから、ここに来た。そうでしょう?」
 優しい口調で少年に声を掛けるエルレーン。
「俺は‥‥お願いです! 連れていて下さい」
 少年は土下座し地面に頭をつけお願いする。
「男が簡単に頭を下げるもんじゃないぜ」
 連絡を受けた魔津度が駆けつけてくる。
「大丈夫‥‥私たちは、あなたの剣、あなたの盾。あなたのトモダチの仇を、切り裂いてみせる!」
 強い決意を瞳に宿しながら話すエルレーン。
 一行は必死に説得するが、少年は決して自分の意見を翻さなかった。
「いっその事、簀巻きにしてでも連れ帰るですの」
 蒼唯が肩を落としながら少年に近寄ろうとした其の時。
「すー‥‥はー‥‥」
(落ち着け、取り乱すな‥‥)
 心の中で呟きながら一点を見詰める蒼唯。
 日頃からバグアやキメラに強い憎しみを抱いており、犠牲者が出ている今回の様な場合、
 感情の制御が上手く出来ず暴走してしまいそうになるため、必死に抑えているようだ。
『パンッ!!』
 頬っぺたを思いっきり両手で叩き、自分を抑える蒼唯。
「え? あ‥‥痛そぅ」
 蒼唯の行動を見て少し動揺する少年。
「俺の傍から離れないでくださいね‥‥絶対、怪我させませんから‥‥命にかけても」
 少年を自分の影に匿う虎牙。
「仕方ない。手分けして守りつつアイツを撃破するっ」
 鋭い目つきで睨みつつ警戒する白鐘。
「荒ぶる神を鎮めたもう‥‥なんて言うか さぁ 神殺しと行くか」
 両拳を前で叩き合わせ開戦の狼煙を上げる魔津度。


「珍しく怒ってるかんね。エグく逝ってもらうよー」
 鋭い爪を銀光りさせながら敵を切り裂くクラフト。
「俺が! 俺がコイツらを倒すんだ!!」
 少年が突然敵に向って突進しようとするが、虎牙が少年を抑止する。
「俺の父さんが血まみれで言った言葉は、誰も恨むなだったよ?
 女の子は君が傷つくようなこと望まないんじゃない?」
 爪で敵を引っ掻き回しながら少年に声を掛けるクラフト。
「だけどッ! 仇が目の前にいるんだっ!」
「仇討ちなら俺らがやっとくよ、ダメ?」
 少し悲しげな瞳で少年を見るクラフト。
 思わず少年もその瞳を見て躊躇ってしまう。
「俺達が必ずあなたの代わりに仇を討ちます‥‥だから、下がってて」
 弦を引きながら少年を諫める虎牙。
 二人に説得され渋々少年は虎牙の後ろで戦況を見守る事となった。
「砕けろッ!」
 ガードを左手に持ちつつ右手に禍々しい漆黒の剣を構え敵に斬り込むエルレーン。
 角を生やした敵の姿は、村に伝わる神話に出現する刀闇神そのモノだった。
 エルレーンの攻撃を魔剣で受け鍔迫り合いへと持ち込まれる。
「ごめんね‥‥」
 少年を守りつつ妖怪変化を射落とす為に用いられたと言う雷上動を構え敵を射抜く虎牙。
 先程まで紅かった瞳と髪色が蒼色に変わり、其の瞳からは涙が零れていた。
「ぶっ潰す! 瞬蒼襲牙【貫】!!」
 膝下が淡く無色透明に輝いたかと思うと一気に敵の後方へと回りこむ蒼唯。
 次の瞬間、敵の胸部を淡い氷の様な刀が一閃した。
 一方。
「神の名を騙る殺戮者、俺は貴様らを許さん‥‥成敗!」
 紅く光り燃えるような刀身を敵へと振りかざす白鐘。
 敵も、携えた剣で受け止めるが後方へとよろめく。
「神話を模したキメラとか、悪趣味よねー。絶対に仕留めさせてもらうわよ」
 足に装着した氷のような冷たい鋭さを持った爪で強烈な回し蹴りを叩き込むフローラ。
 敵は地べたへと這い蹲り、紫色の唾液を吐き出していた。
「天都神影流『秘奥義』紅叉薙っ!」
 薄く発光し甲高い排気音を立て、剣の紋章が吸収されさらに紅く輝く剣で敵を幾度と無く切り刻む白鐘。
 白鐘が止めを刺そうとしていた其の頃。
「さあ、でっかいの一発行ってみようか。逃がさないけど、避けるなよ?」
 紅く光り輝く大剣を握り締め、敵に向って衝撃波を打つ旭。
 だが、敵の動きを見て咄嗟に距離を取る旭。
 敵は、旭の衝撃波を腕の一本と引き換えに受け流していたのだ。
「神様よ 黄泉路に送ってやるぜ ありがたくおもいな ヒャッハァァァァ」
 全力疾走で距離を詰め飛び膝蹴りで敵を怯ませ、
 練力を流し込み攻撃・防御・命中の精度を上げ、敵の鳩尾付近に掛矢を叩き込んだかと思うと、
 毒に注意し即座に後方へ華麗にバックスッテプをする魔津度。
「ライト、ブリンガーッ!!」
 敵が膝をついた際に出来た一瞬の隙を狙い大剣を振りかざしそのまま両断する旭。
「闇夜を晴らすには、やっぱり僕が頑張らないと‥‥なんてね」
 少し舌を出しつつ微笑み、大剣を天へと突きつける旭。
「この一件、裏で仕掛けた者がいるかと思ったのだが‥‥」
 敵を仕留めつつ天を仰ぐ白鐘。
「ところで少年は無事なのか」
 戦闘を終え、不意に思い出したかの様に後方を垣間見る魔津度。
「友達が死んだのは辛いと思う‥‥
 でも、こんな無茶して君が死んだらそれこそ今度はまた他の君を大切にしてる誰かが同じ思いをするよ‥‥?
 だから、もうこんな無茶しないでね‥‥」
 優しいだけどどこか悲しい瞳で少年に語り掛ける虎牙。
 目の前に居た人を急に亡くすことの辛さを理解しているが故に自分が出来る全ての事をして上げたいと思う反面、
 出来る事は何もないと理解していた。
「‥‥うわあぁぁーん」
 今まで堪えていた涙が一気に溢れ出す少年。
「うん、今は泣くといいわよ」
 優しく少年の頭を撫でるフローラ。
「そうですの。今だけは‥‥」
 少年を軽く抱きしめる蒼唯。
「大丈夫‥‥これで終わりだよ」
 漆黒の剣に衝いた異形の血を大きく振り、穢れを祓うエルレーン。
(闇が祓えたとしても、少年の心の傷は決して癒されはしないだろうけど‥‥)
 心の中で呟き少年を見詰めるエルレーンの瞳にはどこか影が落ちていた。


「‥‥グスッ‥‥すみません。あの‥‥アイツを‥‥埋めてやるのを手伝ってもらえませんか?」
 泣き尽くしパンパンに腫れた目で願い出る少年。
「うん‥‥そうだね‥‥ちゃんと弔ってあげなきゃだね」
 物柔らかな話し方で少年に答えるフローラ。
「そ‥‥そうね。彼女が好きだった場所とか‥‥どこかあるかしら?」
 少し考えながら答えるエルレーン。
「アイツが好きだった場所‥‥やっぱりここじゃないかな‥‥」
 複雑そうな顔をしながら社を見詰める少年。
 こうして一行は、少年と共に村人の許可を得て少女を社の傍らに埋めてやる事になった。
「‥‥好き‥‥だったんだ‥‥いつか‥‥きっと」
 少年は手を合わせながら、遠い遠い空を望んでいた。
「安らかに‥‥」
 一同も手を合わせ少年を見詰める。
 この先、この少年が沢山の試練を乗り越えれる事を願いながら澄み切った夜空を眺める一行であった‥‥。