●リプレイ本文
「しかし、バグアも何を考えてこんなキメラを作ったのですかしら。宇宙人の考える事はわかりませんわね」
「まあ、憎きバグアを叩けるのであれば何でもいいですわ」と大鳥居・麗華(
gb0839)、注意深く周囲に視線を向けながら言った。
「前回の依頼で観たのは火星人モドキの蛸だったが、今回は植物。どちらかと言えば緊縛か‥‥‥」
おもしろい、とメディウス・ボレアリス(
ga0564)は赤い紅を引いた唇の端を持ち上げた。
「というかこの女性の多さは何なのかしら。私もだけど。下手したら十八歳未満閲覧不可な報告書ができてしまうわ」
本気ともつかない発言をする皇 千糸(
ga0843)は、ヴィー(
ga7961)が皆をリラックスさせる為にと持ってきた菓子を頬張る。
「んむ‥‥ところで、亀甲縛りって何なんでしょう? 荷造りの時の縛り方とは違うみたいですけど‥‥」
菓子を配っていたヴィーが今更な質問をすると、伊万里 冬無(
ga8209)の目が輝いた。
「あら、ヴィーさんは亀甲縛りを知りませんの? 敵の攻撃手段を知っていないと、いざという時に対応できませんわよ? 仕方ありません。私が教えて差し上げますわ」
ヴィーに擦り寄った伊万里は、嬉々として自身のチャイナドレスに手をかける。
「どうして服を脱ごうとするのですか?!」
「あら、だって実際に見た方がわかりやすいでしょう?」
きょとんと首を傾げる伊万里。そのチャイナドレスの隙間からは、肌に食い込む荒縄が見える。
「亀甲縛り。ああ、亀甲縛り。なんて素敵な響きでしょう。やはり緊縛は、他者の手によって、こちらの意思を無視して、容赦無く縛り上げられるのが一番ですわ♪」
「ウフフフフ♪ アハハハハ♪」と頭の中と身体をクルクルと回転させながら、伊万里は一人でトリップに入る。
ミア・エルミナール(
ga0741)は怯えるヴィーの肩に手を置くと、首をゆっくりと左右に振った。
先頭に立つ蓮沼千影(
ga4090)と巽源十朗(
gb1508)。前衛という名目の盾役二人は、眼前に茂る青々とした草を踏み締めながら進む。
「それにしても、『女性しか狙わない☆』とかならまだ可愛げもあるが、男女年齢問わずとは‥‥なんたる凶悪キメラ!」
獲物に対して見境の無いキメラに、蓮沼は脅威を感じていた。
「な〜に、光合成ぐらいしか能の無いキメラなんぞ、この血に飢えたグラップリングアニモーになす術など無いのだからして〜‥‥‥」
「そう思うんなら、せめて横に並んでくださいよ」
蓮沼は、自分の背中に隠れるように身を屈めている巽に言った。
「チッ、チッ、チッ、チッ。若い者に敢えて苦労を味わわせ経験を養ってやろうという、ワシの全身から滲み出す優しさがわからんのか?」
「いりませんよ、そんな加齢臭みたいな優しさ」
実際、巽の行動は女性が縛られている姿を見ないままには終われないという、邪の心から来るものだ。
蓮沼は呆れた顔になりながら、
「報告通りなら、この辺りはもうキメラの生息圏の筈っス。巽さん、蔦、気を付けてください」
注意を促すために振り返ると―――
「アー!!!」
巽が蔦に掻っ攫われていた。
「早ッ! 最早この流れは鉄板なのか!?」
死角から巽を捕らえた蔦は、複雑な結び目を正確に再現しながら、巽の身体を締め上げる。蔦が蠢く度に、巽の胸が、背中が、脇腹が、股間が、締め上げられる。更に―――
「し、尻は―――ひぎぃ! 尻は止め―――はぎぃ!!」
「老いた身体に何という仕打ち‥‥ッ! いくら能力者でもこれは‥‥‥」
目の前で展開される恐るべき光景に、メディウスが唾を飲む。その脇を、蓮沼が駆け抜けた。
蓮沼は腕に装着する鉤爪を閃かせる。
「大丈夫かっ? 今おろすからっ!」
例え、今の巽の姿が如何に破廉恥であろうとも、今の蓮沼には心に決めた人がいる。だから、目を奪われることは無いのだ。
「あれ? その言い方だと、まるで俺が特殊な性癖を持っている人みたいに‥‥」
「蓮沼さん、危ない!!」
蔦は蓮沼の一瞬の隙を突き、その身を捕らえて這い上がる。
「クソ、なんて食い込みだ! しかし、お前は俺を甘く見た! こんな時の為にアーミーナイフを持ってきて―――あああああ! 手も縛られた!! 植物の癖になんと言う頭脳プレイ!」
蓮沼は懸命に抵抗するが、藻掻けば藻掻く程に蔦は蓮沼を亀甲縛りで締め付け、未曾有の感覚を送り込んでくる。思わず何かに目覚めそうな自分が恐い。
「蓮沼さんって、結構‥‥」
「『結構‥‥』何?! ヴィーさんは俺のどこを見て頬を染めてんの!?」
亀甲縛りにされた男二人を見上げながら、ミアは顎に手を添えて唸った。
「うぅむ‥‥初めから盾にするつもりだったとは言え、こうもあっさりと男性陣が全滅するとは」
「男の縛られた姿は、ある意味で目に毒ですわね。わたくしは縛られないように、気をつけないといけませんわね」
並んで男性陣を見上げる大鳥居は苦笑を浮かべた。同時にフラグも立てた。
「ちょっ、見てないで助けろー!」
「うお〜い! 早く助けろ〜い!! このワシを冷めた仕草で熱く見やがってぇ〜い! だんだん気持ちよくなってきただろうがぁ!!」
蓮沼と巽の悲痛な叫びで、ミアはようやく我に返える。
「しっかりしろー! すぐに助け‥‥と、その前に写真でも―――な〜んて、ジョーダンだよ、ジョーダ―――」
ミアが横を見ると、皇がカメラのファインダーを覗きながらシャッターを切っていた。
「ん?」
ミアと目の合った皇は、何故か親指をビシッと立てて見せた。
とりあえずミアも、親指をビシッと立てて見せる。
「遊んでいる場合じゃないですよ!」
蔦を避けながらヴィーが叫ぶ。
男性陣を縛り上げた蔦は、狙いを女性陣に移してきた。
「蔦に掴まらないよう、注意してくださいです!」
「そうは言っても―――あ!?」
斧を振り回して蔦を切断するミアであったが、攻撃を集中され、蔦の接触を許してしまった。縛られながらも強引に蔦を切り払おうとするが、身体を動かした拍子に蔦の締め付けを強めてしまう。
「ひぅ―――! っく‥‥ちょっとこれは、まずいって!」
細身に反してFオーバーのボリュームを誇るミアの胸が、縛られた事で縊り出されてより前方へと突き出し、身を捻る動作にあわせてたゆんたゆんと揺れる。
「男勝りな性格に反した見事なプロポーション。微かに染まった頬といい見事な構図だな」
縛られたミアの姿を冷静に解説するメディウス。小太刀を振るっていた皇の視線が、縛られたミアの―――特にそのたわわな胸に向けられた。
「‥‥‥」
「な、何?」
「いや、胸あるな〜‥‥と思ってね。アハハハハハ‥‥‥チッ!」
自身の胸にコンプレックスを持つ皇は、斜め下に視線を落として舌打ちした。―――と、そこで皇は、背後から漂う異様なオーラに気がついた。オーラは未だ縛られたままの、巽の全身から発せられたものだ。吊り上げられたまま尻を攻められている巽の目は、キメラへの怒りよりも、それを上回る情欲によってギラギラと輝いている。
「この血に飢えたグラップリングアニモーにもぉお‥‥怖いものはあるぅ〜!! それは、女の子の亀甲縛りを見ずに終わることぉ‥‥!!!」
巽の発する奇声に、ミアは赤く染まった頬を引きつらせ、全身に力を漲らせる。
「亀甲が恐くて、ファイターが務まるかー!」
叫びながら豪力発現を発動。蔦を無理矢理に引き千切り、亀甲縛りから脱出を果たした。
「嫁入り前の女のコに恥辱を味わわせるなど、許し難いとしか言いようが無い!」
ミアは未だ身体に纏わり付く蔦を、乱暴に振り払った。渦巻く羞恥心は沸点に達して怒りに変わり、ミアの心に炎を点した。
●その蔦、危険につき
蓮沼と巽を救出した傭兵一行は、敵の本体を目指す。しかし、中心部に近づくにつれて、蔦の攻撃は苛烈さを増した。四方八方上下から迫る蔦の前に、もはや前衛も後衛も無い状態だ。たったの50mが、異様に長く感じる。
「ちょ‥‥変なところ縛らないでくださいな! あ、く‥‥食い込んでますわ!?」
蔦に捕らわれた大鳥居が悲鳴を上げた。股間に食い込む蔦を掴もうとするも叶わず、そのまま宙に吊り上げられてしまう。
「痛っ! ‥‥あ―――ひぃぃん!」
蔦の締め付けに息がつまり、空気を求めて喘ぐ様に口を開く。息苦しさで顔が赤らみ、目尻に自然と涙が浮かんだ。と、急に体を吊り上げる力が無くなり、大鳥居は尻から地面に落下した。
「どうでした、麗華さん。新世界は垣間見えたですか?」
大鳥居を救出した伊万里が、アーミーナイフを手の中で弄びつつにんまりと笑う。
「いえ、まぁ‥‥助けてくれてありがと‥‥って、なんで全部斬らないんですの!?」
キメラ本体からは切り離されたものの、大鳥居の体には未だ亀甲縛りの状態で蔦が巻き付いている。伊万里は視線で大鳥居の全身を嘗め回すと、
「結構似合っているですよ? っと、急がないと次が来ますです♪」
大鳥居の体を這う蔦を切らぬまま行ってしまった。
一方―――直衛の伊万里が離れた事で、ヴィーとメディウスは蔦の猛攻に晒された。二人は超機械とエネルギーガンで反撃するも、蔦の浸透を許してしまう。
巻きつく蔦が、メディウスの白衣の下に隠された豊満な肉体を浮き彫りにする。
「あくっ! これは、想像以上に‥‥ふぅっ! んんんんん!」
自堕落な私生活を送るメディウスであるが、その身体はモデルのような見事なプロポーションを誇っている。また、今まで亀甲縛りという言葉すら知らなかったヴィーは、ただ縛られるだけではないその感覚に戸惑いの表情を浮かべた。
「やぁ‥‥こんなっ‥‥きつく縛っちゃダメ‥‥ですぅ!」
縛られて身悶えする二人の姿を見上げながら、巽は感涙し、咽び泣く。止め処無く涙を流し、拳を硬く握り締める姿はまさに男泣きである。
「ワシは〜、ワシは〜‥‥この時のために生まれてきたぁあ!」
それはそれで虚しい人生だ。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
蓮沼は慌てて蔦を切り裂き、ヴィーとメディウスを開放した。二人が地面に落ちるのと同時に、巽の肩も落ちる。
「むぅ‥‥もったいない。じゃが、キメラの攻撃圏に入って随分経つ。そろそろ本体のお出ましかの?」
「ああ、どうやらそのようだ。見ろ」
体に残る蔦を払ったメディウスが、前方を指差した。その先に、木々の間に隠れるように、太い蔦を絡めあわせたような茎と、百合に似た巨大な蕾をもつ花が生えていた。
「姿が見えれば此方のものよ!」
巽は不敵に笑うと瞬天速を発動させ、一気にキメラとの距離を詰めた。
「オラオラぁ! ワシの光速の拳がお前を襲う!!」
急所突きによる一撃が、キメラの本体を抉った。キメラは絶叫するように全身を震わせると、野太い茎を撓らせて巽を弾き飛ばし、茎を素早く差し向けた。
「させません!」
ヴィーの放った電撃が、巽に向かって伸びる蔦を焼き払う。
「君が死ぬまで撃つのをやめない!」
メディウスが叫びながらエネルギーガンを撃つ。蓮沼が蔦をかわしながら繰り出した流し斬りと、伊万里の両断剣と流し斬りを同時に使用した一撃が、キメラの茎を切り裂いた。
「まだ動くですか、ほらっ! ア〜〜ハハハハっ♪」
狂ったように斬撃を続ける伊万里。その伊万里を取り囲むように、無数の蔦が伸びる。
「伊万里さん、危ない!」
伊万里を掩護しようと小銃を構えた皇の腕を、横合いから伸びた蔦が捕らえた。皇は「しまった!」と巻き付く蔦を切り払おうとするも、両手を縛られて持ち上げられてしまう。
「ふふん、甘いわね。こちとら食い込むような無駄な肉は持ち合わせていないわ、はっはっはー!」
伊万里と共に吊り上げられた皇は、それでも強気に言い放つ。しかし何故だろう、笑い声から哀愁が漂っている。蔦はそんな皇を嘲笑うかのように、着物の中に入り込み、地肌に直接巻き付いてきた。
「きゃぁ!?」
皇は思わず可愛らしい悲鳴を漏らしてしまう。
「いやいやいや、流石にこれはアウトなんじゃないかしらー!? ってむぐ?!」
更に蔦で口を塞がれた。暴れさせていた両脚も、畳んだ状態で縛られ、左右に引っ張られて固定される。完全に身動きできなくなった皇の目の前で、巨大な蕾が開いた。ズラリと牙を並べた花弁から漂う生臭い体液の臭いが、皇と伊万里の鼻をつく。
「まずい! 皇さん! 伊万里さん!」
「アハハ、アハハハハハハ〜♪ もっと、もっと来て下さいです♪」
「あぁ‥‥‥伊万里さんは大丈夫そうだけど、兎に角―――ッ!」
蓮沼は手近な石を掴むと、キメラの口蓋に向かって力いっぱい投擲した。石はキメラにダメージを与える事はできなかったが、気を逸らす事には成功した。ゆっくりと周囲に向けて花弁を巡らせるキメラへ、大鳥居が銃弾を撃ち込んだ。
「変態キメラはさっさと消えるべきですわ!」
次々と撃ち込まれる銃弾に、キメラは花弁を振り回して悶え、体液を撒き散らす。更に、ヴィーの練成強化とメディウスの練成弱体による支援を受けたミアが、豪破斬撃と紅蓮衝撃を合わせた一撃をキメラへと叩き込む。
「このド変態めー! 必殺の薪割り切りを受けてみよ!」
斧による必殺の一撃を受けた花弁は爆砕し、周囲で蠢いていた蔦から一気に力が抜けていく。そして、花弁の真正面に居た皇は縛られたままの格好で、頭から体液を被る羽目になった。
「‥‥‥という夢でした」
「夢じゃないですよ?」
全身に縛られた痕を付け、キメラの体液を滴らせながら悪臭を放つ皇の肩を、ヴィーがぽんと叩く。
「治療しますので此方へ」
「‥‥‥‥‥‥うん」
なんとも直接的描写に困る姿の皇は、ヴィーに促されるままに後を付いていく。
「しかし、ある意味では恐ろしいキメラでしたわ」
そう言って大鳥居は、自分を捕らえていた蔦を振り回しながら「麗華さ〜ん、私の世界を教えてあげますです♪」とはしゃぐ伊万里を横目で見やり、
「仲間の中にも違う意味で恐ろしい人がいますけれど」と溜息を吐いた。
「新しい世界‥‥い、いや、なんでもねぇ」
蓮沼は何かを思い出しそうになった頭をぶるりと振るうと、一秒でも早く今日という日を記憶から消したいと切に願うのだった。