タイトル:その星は輝きを得るかマスター:一本坂絆

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/24 18:53

●オープニング本文


 欧州南部戦線山岳地帯。
 対空機関砲。高射砲。対空ミサイル。対空戦車。木々の間に、或いは山の稜線に隠された対空兵器が、敵に砲火を浴びせる。曳光弾の光と、ミサイルの引く細い煙が、上空を舞うキメラの群れに吸い込まれていく。
 止めとばかりに大型ミサイルを十六発も搭載した攻撃ヘリが、爆音じみた羽音を上げて飛び立った。
 それら地球軍が誇る兵器の数々が、無数の光線に貫かれて撃破されていく。
 上空を舞うキメラは巨大な竜だった。体長だけでも10mはあろうかという巨体に三つの首、短い翼、太い四本の脚、長い尻尾を持っている。
 三つ首の竜は被害を出しながらも、硬い甲殻にものを言わせ、弾幕というよりも鉄火の壁と表するべき暴雨を掻い潜って、次々と着陸を果たすと、巨躯に似合わぬ素早さで走り、真ん中の頭部に生えた牛のような角で陣地を突破。左右の頭部から発射する光線と、尻尾の先端から連射する光弾で陣地を制圧しながら橋頭堡を築く。
「チッ! 硬ぇな、畜生!」
 歩兵携行用対地対空支援ミサイル発射装置を担いだ歩兵が悪態をついた。
 支援ミサイルは超大型キメラにも有効な兵器であるが、この竜は一発当てた程度では仕留めきれないようだ。
「オーグラ並みの重装甲とは‥‥恐れ入る」
 支援ミサイルを担いだ兵の隣で、予備のミサイルとバッテリーを担いだ兵が呻く。
「暢気に感心している場合かよ! このまま陣地が潰されりゃ、直ぐにでも小型キメラが浸透してくるぞ! 白兵戦になったら、まず勝ち目は無ぇ!」
 兵は急いで無線を取り出すと、本部に応援を要請した。


 クルメタル本社。幾つもある開発室の内の一つ。
 幾つかの照明だけが点された薄暗い部屋の中で、二つの人影が対峙している。
 一人はアットホームな父親に白衣を着せたような風貌の男―――グスタフ・ファーベルグ。
 もう一人はストリートダンサーに白衣を着せたような風貌の女―――ドーラ・フォン・グランハルト。
「CD‐016を実戦に出す―――だと?」
 ドーラが不機嫌さが滲み出した声で訊いた。
「いやはや、『試作機を実戦に出していいのは戦時だけ』―――とはよく言ったものだけれど、いざ自分が実践するとなると、何とも言い難いものがあるね」
 対するグスタフは、ドーラの様子を気にする風でもなく、軽口を叩いてみせる。
「ヘイ―――」
「残念な事に、僕達にはあまり時間が無い。前回のテストの結果が芳しくなかった。ウーフーの開発も進んでいるようだし、このまま実験が停滞すると、開発計画そのものが立ち消えてしまう可能性もある」
 グスタフは淡々と持論を展開する。
「ヘイ―――」
「時間が無い以上は、早急に結果を残す必要がある。何としても、ね。それも、上層部を納得させるに足りうる結果だ。功を焦っていると笑われようとも、起死回生のチャンスは、今しかないと僕は考えている」
「ヘイ―――」
「状況は厳しいけれど、敵に直接損害を与えたとなれば、上層部も認めずにはいられないだろう。何よりも実戦ならばテストよりも充実したデータ採取が―――」
「ヘイ―――グスタフ! このカミカゼ野郎!」
 遂に、我慢しきれなくなったドーラが怒声を上げた。怒りに任せてゴミ箱を蹴り上げる。
 グスタフは動揺するわけでもなく、冷静に眼鏡を押し上げた。
 その様子に、ドーラは更なる苛立ちを募らせながら人差し指を突きつけ、
「いいかい、良く聴けクソッタレめ! 私が反りの合わねぇテメェとアホ面つき合わせて、漫談宜しく『にこやかに』会議してたのは、テメェの突撃趣味に付き合うためじゃねぇ!」
「非常に残念なことだけれど、僕も君と同意見だよドーラ。僕も君のサディスティックかつ保身的な主義に付き合うつもりは無い」
 グスタフは普段から浮かべている柔和な笑みを消し、真剣な目でドーラを見据える。
「失敗を恐れて、それでどうなる。このまま座して待っていても、結果は付いて来やしない。多大な開発費を消費しておいて、失敗しました御免なさいでは済まないんだよ?」
 ドーラは忌々しげに煙草を咥え、火を点す。
「んなこたぁ言われなくても判ってんだよ! だが、もし失敗すれば、それまでだ。現状じゃ、新しく機体を組むだけの予算は下りてこねぇ。失敗は許されねぇんだぞ!」
 クルメタル社はヨーロッパに名立たる大企業だ。本社だけでも無数の開発チームが存在している。この機会を逃せば、もう一度浮き上がってこられる保証など無い。
「大丈夫だよ」
 グスタフは親そのものの顔で微笑んだ。
「僕達の作ったこの子なら、きっとやってくれるさ」
 何という楽観主義だ。
 ドーラは思う。希望的観測にすがるなど馬鹿馬鹿しいと。あらゆる不測の事態を想定してこその技術者であると。しかし、このままでは八方塞りの状態で終わりを迎えてしまうというのもまた事実。だから‥‥‥
「‥‥一機だ、グスタフ。実戦に出すのは、一機だけしか認めねぇ。もう一機は保険として、手元に残しておく‥‥‥いいな!」
 ドーラは奥歯を噛み締めながら、絞り出すような声で言った。



●クルメタル社製・戦闘爆撃機CD‐016『 シュテルン(仮)』
・詳細性能
社外秘
・簡易性能表記
防御=受防>抵抗>命中>攻撃=知覚>回避の順でバランスの取れた数値。
生命力・錬力・装備力・スロット数はF-104相当
●特殊能力
・垂直離陸能力
この機体は離着陸の際にセル移動を必要としない。
・ポーラルリヒトマニューバ
機体へのエネルギー付与を一時的に高めると同時に、最適化兵装と呼ばれる十二枚の翼と四つの推力変向ノズルを使用して、状況に最も適した形態を取る。
一ターンの間、攻撃・命中・回避・防御・受防・知覚・抵抗のいずれか一つを、能力使用時に消費した錬力の1.5倍分上昇させる。


●ジランダ
体長約10m。三つの首を持つ短翼竜型キメラ。
硬い甲殻を持ち、地上では四足歩行で素早く移動する。
真ん中の頭は牛のような角を持ち、左右の頭からは射程の長い光線を発射する。また、尻尾の先端から光弾を連射する。
最近になって戦線に登場したキメラで、重装甲と機動力を生かして敵地の中に降り立ち、超射程の攻撃で他のキメラの進行を支援する。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 榊兵衛(ga0388)はKVを飛行させながら、キャノピー越しに十二の翼で飾られた異様な機体を見みた。クルメタルの新型試作機『シュテルン』だ。
「しかし、試作機を実戦に出そうとは豪気な事だ」
「戦時中であればままあることとはいえ、なんともはや‥‥まぁ精々頼りにさせてもらいますよ」
 リディス(ga0022)からの通信に、榊は力強い笑みを浮かべた。
「何、白鐘の操縦技術ならば、試作機と言えど現行機以上の働きは期待出来る。大丈夫さ」
「ああ、任された以上は結果を出させてもらう」
 白鐘剣一郎(ga0184)にとって、シュテルンは初期から開発に関わってきた機体だ。思い入れがある。世に出してやりたいと、そう思う。
「シュテルンの開発は何としても成功させる。その為には何でもしよう!」
 エリク=ユスト=エンク(ga1072)は、今回の依頼に並々ならぬ気迫と覚悟で挑んでいた。
「エリク君、力みすぎてミスをしないでくれよー」
 エリクの発言を茶化す獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)だが、思いは他の仲間と同じだった。開発者の感慨や懸念も理解しているつもりだ。
 飯島 修司(ga7951)はシュテルンの性能を考察しながら、
「この新型機は以前から気になっておりまして。同じ戦場に立てるのは楽しみですね」
「しかし、試作機のデータ収集にキメラの殲滅。忙しい任務になりそうですね」
 鹿嶋 悠(gb1333)の言う通り、今回はただ戦うだけの単純な依頼ではない。作戦行動にも細心の注意が必要となる。
「それでも‥‥‥シュテルン、お前は必ず俺達が世に出してやるからな」
 カルマ・シュタット(ga6302)が全員の思いを代弁するように呟いた。


「敵影、確認」
 エリクからの通信。
 眼下では、ジランダの群れが空中で渦を作るように旋回している。まるで獲物に群る禿鷹だ。
「千客万来‥‥と言った所ですか‥‥」
 二十体もの超大型キメラの群れを前に、鹿嶋が唸った。
 ジランダの群れはKVの接近を察知すると、旋回をやめて翼を羽ばたかせ、左右の首を巡らして一斉に光線を放った。
「この距離でも届くのか!」
 距離としては、KVが搭載する長距離武器のギリギリ射程外。アウトレンジからの攻撃だ。火力も高い。改良が施された機体ならば耐え得るが、楽観できるものでもない。纏めて食らえば危険だ。
「躊躇っていても被害を増やすだけだ。当初の予定通りに仕掛ける」
「賛成だ。我々がライトスタッフである所を、ヤツらに見せ付けてやるんだよー!」
「ならば、星にかかる雲は全て拭い去ろう‥‥」
 エリクはミサイルのスイッチに手をかけた。ブレス・ノウの発動と同時に、螺旋弾頭ミサイルが発射される。同時に他の機体も、AAMを、ホーミングミサイルを、ロケット弾を、ジランダの群れに撃ち込んだ。被弾しながらも実行されたKV八機によるパワーダイブからの一斉砲火が、ジランダの群れに牙を向いた。
 空中のジランダが甲殻を砕かれ、錐揉みしながら地面に激突した。地上のジランダは絶叫しながら、破壊の雨を身に受けた。
「空中のジランダ六。地上のジランダ二を撃破だね。幸先はいいよー」
 通り過ぎるKVを追う無数の光線をかわしながら、獄門が戦果を確認する。
 パワーダイブを成功させた八機のKVは、二つの空戦班、降下班に分かれる。
 空戦班は機体を旋回させると、再度キメラの群れに襲い掛かった。
「敵の密集しているところへ集中砲火を仕掛けるよー」
 獄門からの通信を受けて、同班のエリクは「了解」と短く応えた。
 獄門はAAMを敵の密集地帯へ撃ち込み、リディス機も残っているAAMとスナイパーライフルによる追撃を加える。
「‥‥そこだ!」
 追随するエリクは二人の攻撃をサポートするように、照準を定めながらAAMを発射する。


「大丈夫ですか?」
 光線を受けてバランスを崩し、膝を突いたカルマ機に、飯島機から通信が入った。
 飯島機が地上へ降下する間はカルマ機が空中から援護し、カルマ機が降下する間は飯島機が地上から援護する。そうしてお互いをフォローし合う二機だったが、それでも敵の攻撃を全て防ぐ事は叶わない。飯島機も着陸時の隙を突かれ、数発の光線を食らっていた。
 山の稜線に身を伏せながら密集隊形を組んで光線を放つ八体のジランダを、二機のKVが見据える。
「さて、ぼちぼち整地作業を始めるとしますかね」
「とは言え、圧倒的に不利な戦力比ですね‥‥負ける気はしませんけど!」
 新島の不敵な言葉に、カルマも戦意を高揚させる。
 二機はディフェンダーを盾のように構えると、ブーストを使用して突撃を図った。
 近付く程に密度が高くなる光線砲撃に、中距離からは機関砲じみた速度で連射される光弾が加わる。圧力に屈して機体を転倒させる事だけは、なんとしても避けねばならない。
 光線の直撃を受けて、肩の装甲が弾け飛んだ。光弾の掃射が目の前の地面を抉り、土が舞い上がる。
 カルマ機と飯島機もただ撃たれるばかりではなく、ディフェンダーの影からそれぞれガトリング砲と試作型リニア砲を撃って応戦する。
「‥‥射撃は不得手ではありますが、ね」
 リニア砲を撃つ飯島から本音が漏れた。
 移動射撃いう難易度の高い攻撃方法と、ダメージによる機体性能の低下のせいで、砲弾はフォースフィールドと甲殻を削るばかりだった。それでも二機のKVが何とか近接距離まで辿り着くと、一体のジランダが巨体に似合わない素早さで飯島機へと突進した。飯島機はディフェンダーを構えて突進の威力をいなし、片手で角を掴んでジランダの頭部を固定すると、ディフェンダーをロンゴミニアトに換装。突き出された鋼の杭がジランダの脳天を打ち抜き、重厚な爆音と共に頭部を吹き飛ばした。脳漿を撒き散らしたジランダは、酔った様に数歩進んでから崩れ落ちた。打ち抜かれたのは真ん中の頭部だけだというのに、ピクリとも動かない。
「カルマさん、真ん中の頭部を狙ってください。左右の頭部は偽頭です」
 飯島は機体カメラにズームアップされたジランダの姿を見ながら、カルマ機に報告した。カメラに映し出された左右の頭部、その口内には、巨大な眼球があるだけだ。
「了解。それならば話は早い」
 カルマは通信を返すと、手近なジランダに向かって機槍を構えた。


 強引に地上へ降下しようとしたジランダに、ロケット弾の雨が降り注いだ。ジランダの全身の至る所で爆発が生じ、脚が砕けて翼がもげ、首が拉げて胴体が爆ぜた。
 敵の降下を未然に防いだ白鐘は、機首を引き上げて機体を上昇させる。
「こちら白鐘機。今のでロケット弾は品切れだ」
「みんな似たようなものだよー。パワーダイブの時に、長距離兵器の大半を消費したからねー」
 僚機の残弾数を逐一確認していた獄門が通信に応えた。獄門もファーストアタックで空戦スタビライザーを使用し、ミサイルを全弾消費していた。
 攻撃を受けるジランダの群れは、密集隊形を維持して光線と光弾の弾幕でKVの接近を阻もうとしたが、KVとキメラでは空中での機動力が圧倒的に違う。二班に分かれて周囲を飛ぶKVにミサイルをしこたま撃ち込まれ、その数は既に十体にまで減っていた。だが長距離兵器が切れた以上、ここから先は敵の懐に飛び込んでの乱戦となる。残り十体とは言え、接近すればそれだけ敵の砲撃を食らう確率は上がる。
「ここからが本当の勝負だな」
 白鐘は呟いた。白鐘はシュテルンにブースターを搭載し、回避能力を特に強化していた。それでも、シュテルンの機体表面は何条もの光線によって焼かれていた。
「必ずこの翼で帰ってくる」そう約束した以上、何としてもこの機体を無事に帰さなければならない。そのプレッシャーが、白鐘に重く圧し掛かる。
 そんな白鐘の考えを読んだかのように、無線から榊の声が響いた。
「シュテルンのエスコートは俺と鹿嶋に任せろ。なに、この程度の砲火では、この『忠将』は落とせんさ」
「いざとなれば、この機体を盾にする覚悟はあります。さぁ、いきましょう!」
 鹿嶋も榊に同調して言った。
 仲間からの頼もしい通信を受けたシュテルンは、二機の雷電に先導されながら、敵の砲火の中へと突撃を開始する。


「チッ‥‥‥! 流石に硬いですね!」
 覚醒中のリディスは思わず悪態を吐いた。滞空するジランダの群れの中へアクセルコーティングを纏ったまま突入し、ソードウィングによる斬撃を繰り出したリディア機であったが、剣翼が敵の硬い甲殻に触れると、つんのめる様に機体のバランスを崩してしまった。
 緊急用ブースターを噴かして強引に姿勢制御を図るリディア機に、ジランダの尾が向けられる。とても回避できるタイミングではない。リディアの頭には、一瞬の間に二つの考えが浮かんだ。「しまった!」という悔恨の念と、「耐え切れるか?」という希望の念だ。しかし、そのどちらもが杞憂であった。エリク機のスナイパーライフルが吐き出す砲弾が、ジランダの尾を弾き飛ばしたのだ。更に、獄門機が交差際にヘビーガトリング砲を一連射して、リディスの付けた斬撃痕を広げ、ジランダの血肉を空中へ撒き散らす。三機の集中攻撃を受けたジランダは、錐揉みしながら地上へと落下していった。
「助かりました」
「いやいや、ナイスコンビネーション! といったところだねー」
 リディスが礼を言うと、獄門が陽気に返答した。
「随分と数が減ったな。シュテルンも、大きなダメージは受けていないようだ」
 エリクは機体を翻しながら、戦場の様子を観察する。
「地上へ降下したものもいますから、一概に戦果として足す事はできませんけどね‥‥」
「う〜ん‥‥こうも硬いと、ミサイルじゃないと一発では落とせないねー。敵さんも厄介なものを作ってくれるよー」
 獄門はやれやれと肩を竦めた。


 シュテルンへ向けて発射された光線の射線上に割り込んだ鹿嶋機は、その身で光線を受け止めた。
「この程度の攻撃で、『帝虎』の装甲を抜けると思わないで頂きたい!」
 鹿嶋は先の言葉通り、我が身を盾としてシュテルンを護ったのだ。
 レーダー出力38%低下。運動機能14%低下。外部カメラに異常有り。
 AIを通して、次々と機体の損害情報が送られてくる。
 榊機に搭載された二門のガトリング砲が回転機構を唸らせて機関砲弾を吐き出し、光線を放ったジランダの甲殻を砕いた。次いで、白鐘機が放ったレザー砲の閃光が、ジランダの身体を貫いた。
 墜落していく敵影を確認しながら、白鐘は鹿嶋機へ通信を送った。
「すまない、助かった。機体は無事か?」
「ええ、幾分か性能が低下しましたが、まだやれます」
 上空の敵は全て排除した。残るは地上の敵―――四体のジランダだけだ。地上で奮闘しているカルマと飯島を早く援護してやらねばなるまい。
「さて、ここから空挺用KVの本領と言った所か」
 榊の豪気な言葉に、鹿嶋が「空挺‥‥ですか」と何かを考え込むように呟いた。
「どうかしたのか?」
「重装甲と砲撃能力を生かして上空から敵地へと降り立ち、橋頭堡を築く‥‥‥このジランダというキメラの特性は、雷電の運用方法と似ているとは思いませんか?」
 白鐘ははっとして、
「敵は早くも、此方の戦術を取り入れているのか?」
「わかりません。しかし我々の技術と同様、バグア側の技術も日々進歩しているのは間違いありません」


 全機が地上へ降下すると、戦闘は一方的な展開となった。元々、数によって優勢を得ていたジランダの命運は、倍の数のKVが相手となった時点で尽きていた。
 榊機が振るう機槍がジランダの頭部を貫き、爆散させる。鹿嶋機が腰を落としてガトリング砲を撃つと、吐き出された砲弾が突進してくる敵へと吸い込まれていく。攻撃を受けながらも距離を詰めてくるジランダであったが、一点へと集弾させた射撃の前に、遂に膝を屈し、絶命した。
 敗北を悟った二体のジランダが翼を羽ばたかせて、空中へ退却を図った。
 その内の一体を、カルマ機が追った。カルマはアグレッシブ・フォースを作動させると、レーザーブレードをさながら居合いの如く振り抜き、ジランダの身体を真っ二つに両断する。
 そしてもう一体―――
 白鐘はシュテルンの垂直離着陸機能を作動させると、リディス機の狙撃を振り切って空へ逃れたジランダを追って舞い上がった。
「行かせはせんさ!」
 ジランダが傷付きながらも光線で応戦するが、ポーラルリヒトマニューバを作動させた白鐘機は翼とスラスターをフル稼働して攻撃をかわし、上昇しながらジランダの腹にレーザーライフルの一連射を与えた。更に白鐘は、ジランダを追い越すと機体をピッチングさせて上方からも一連射を叩き込んだ。ジランダは爆散したかのように血肉を弾けさせて、地上を赤く染めた。


 三十体のキメラ撃破した傭兵達は帰路につく。
 後に提出された戦闘レポートには、傭兵達の活躍と共に、シュテルンの活躍と有用性がきっちりと書き込まれていた。