タイトル:【PN】蠢く暴略マスター:一本坂絆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/05 22:41

●オープニング本文


 ピレネー山脈―――このスペインとフランスを隔てる巨大な山脈は、今や人類生存圏とバグア支配圏を隔てる巨大な要塞へと姿を変えていた。
 爆薬と重機が山肌を削り、鉄骨と速乾コンクリート、ライナープレートを用いて陣地が構築されていく。構築中の陣地より前方では、隣り合わせで鉄条網と地雷原を設置していた二つの工兵部隊が、図面を指差しながら激しい剣幕で言い争っている。そして既に完成した陣地からは、防空用の20mm機関砲やキメラの浸透を防ぐ為の四連装7.62mm機銃が突き出ている。
 スペイン戦線の最終防衛ラインに位置付けられたピレネー要塞では今も尚、増設と強化が進められていた。


●LH本島・作戦司令室
「諸君、穴掘りは好きかね?」
 司令室の椅子にゆったりと腰掛け、傍らに無表情のメイド少女を侍らせたUPC軍の大佐は、集まった傭兵に対して唐突に切り出した。
「ふむ‥‥‥ならば、重い荷物を運ぶのは好きかね?」
 大佐の要領を得ない質問に、皆一様に困惑した表情を浮かべる。
「何、難しい話ではないよ。今回諸君には土木作業を頼みたくてね」
 大佐が本題を話し始めると、傍らに立っていたメイド少女が資料を配って回る。
「現在ピレネー山脈では要塞化が急ピッチで進んでいる。この要塞は昨日今日で建造が始まったわけではないが、スペイン戦線の戦況から、上層部は更なる強化が必要と考えたわけだ」
 資料を配り終えたメイド少女が、再び大佐の傍らに立った。
「敵の新兵器を前に、今や戦線は有って無いも同然だ。いつ、水際まで攻め込まれるかわからない。流石にバグア軍本隊がいきなり襲撃してくるような事は無いだろうが、キメラや敵側の工作員による妨害を受ける可能性は高い。そこで、諸君の出番というわけだ。今この状況では、冷静な判断力と卓越した身体能力を保持する、優秀かつ有能な人材が必要だ。諸君には現地で工兵の作業を手伝いつつ、起こりうるあらゆる状況に対して、臨機応変な対応を求めたい」


 傭兵達がいなくなった司令室で、大佐は資料整理を再開した。書類をめくる大佐の目の前に、紅茶を入れたカップが置かれる。
「先程は心にも無いような綺麗ごとでお茶を濁しておられましたが、何故一番重要な情報を話さなかったのか、疑問を覚えます」
 無表情で紅茶を置いたメイド少女は銀のトレイを胸に抱き、
「アークライト‥‥諜報活動、情報操作、心理攻撃、薬物売買、要人暗殺、爆破攻撃―――その活動内容は枚挙に遑が無いとされる、親バグア派テロリストの大物」
「その大物テロリストが、ピレネー要塞に対し、何らかの破壊活動を行う可能性が高い」
 大佐がメイド少女の言葉を継ぐ。
「小耳に挟んだ程度の情報だよ、確証が無い。それに、アークライトは正体不明の活動家だ。普段から私兵を用いて破壊活動を行う。他の過激派グループに情報をリークして、けしかける事もある。本人が直接出てくる事は少ない。今回の件も、どの程度噛んでくるかはわからんよ。不確定の情報で、現場の兵の士気を下げるわけにはいかん」
 大佐は紅茶のカップを持ち上げ、
「だからこそ、彼らには臨機応変な対応を求める。と言ったのだよ。人材も―――それに足りるものを選んだつもりだ。何事も無ければ、それはそれで良し。何かあっても、彼らなら自力で何とかするだろう」
「じゃ。相変わらず、腹黒さが透けて見えるような発言だと判断致します」
 メイド少女の言葉に、大佐は紅茶のカップを傾けながら、薄い笑みを浮かべた。
「そんな事はない。私はいつだって、傭兵諸氏の働きに期待しているのだよ」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
ギィ・ダランベール(ga7600
28歳・♂・GP
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
霧雨 夜々(ga7866
13歳・♀・ST
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
ダイゴ・イザナミ(ga9016
59歳・♂・SF

●リプレイ本文

 能力者達が配属されたのは、広大なピレネー山脈の中でも未だ要塞化が進んでいない地区だった。
 重い振動と音が響く中、能力者達は居並ぶ工兵達に自己紹介をした。
「俺の名前は『マガミ・エイ』と読むんだ。『マジン・エイ』じゃないぞ」
 魔神・瑛(ga8407)が気さくに自己紹介をするが、元々漢字が読めない工兵達は意味がわからずぽかんとしている。
 場の空気を払拭するように、ギィ・ダランベール(ga7600)が微笑と共に一歩前に踏み出す。
「ギィ・ダランベールと申します。どうぞ、よろしくご指導くださいませ」
 続いて緑川安則(ga4773)が、見事な敬礼をして見せた。
「元陸上自衛隊所属、緑川安則だ。よろしくお願いする」
 しかし若い工兵達等は聞きなれない名称に、
「『陸上自衛隊』って何さ?」
「日本の特殊部隊かなんかじゃねぇの?」と首を傾げて囁き合った。
 鳴神 伊織(ga0421)は普段の着物姿と違い、作業着を着込んで髪も後ろで束ねているが、その身に纏う物静かで垢抜けた雰囲気に、工兵達の間からどよめきが起こった。
「これがヤマトナデシコか!」
「すげぇ! 本物だ!」
 興奮した面持ちで写真を撮り始める工兵達を、工兵大尉が工具を振り回して追い払う。
「あー‥‥すまんな。ここのところ作業詰めで、みんな娯楽に飢えているんだよ」
 大尉は気恥ずかしそう頬を掻く。
「ぶ〜、ボクだって『やまとなでしこ』じゃないですか!」
「ハハハ! お嬢ちゃんが大和撫子になるには、ちと淑やかさが足りんかの」
 頬を膨らませて拗ねる霧雨 夜々(ga7866)に、ダイゴ・イザナミ(ga9016)が笑みをこぼした。


●作業開始
 円筒形のライナープレートを運ぶティーダ(ga7172)は、反対側を持つ霧雨に声をかける。
「霧雨さん、重いですから気をつけてくださいね」
 幾度と無く繰り返されるプレートの運び込みは、能力者にとっても重労働だ。ティーダの額にも玉の汗が浮かんでいる。
 霧雨は、歯を食い縛りながら呻いた。
「これは‥‥中々キツイの‥‥ですよ‥‥‥」
 元々技術者肌であり、小柄で細身な霧雨は肉体労働には不向きである。それでも懸命に作業を続ける霧雨を、ティーダは微笑ましくも頼もしく感じていた。
 二人が運んできたプレートを受け取った工兵達が、手際よく地面に埋め込んでコンクリートを流し込み、周りを補強していく。
「疲れた〜‥‥ティーダ、水をくださいです」
「はいはい。ああ、霧雨さん! そんな所に座り込んだら他の方の迷惑になりますから、こっちへ‥‥」
 ティーダはへばる霧雨に水筒を手渡した。そうしながらも、周囲への警戒は怠らない。
 山の斜面に沿って配置された機銃陣地や塹壕には既に歩兵部隊が展開し、戦車壕からはレオパルド2A8が巨大な砲塔を突き出して周囲を睥睨している。
 ティーダは事前に過去のキメラによる被害報告に加え、バグア側の破壊工作に関する資料もチェックしていたが、その内容は爆破攻撃から薬物の売買まで実に様々だった。
(「この要塞は人類の防衛線‥‥。何としても守らなければ‥‥!」)
 目の前の風景を眺めながら、ティーダは決意を新たにする。


 流石にこれは重労働だと、しつこく残る切り株をスコップで取り除くシェスチ(ga7729)は、首にかけたタオルで汗を拭う。
 目の前を土嚢を抱えた工兵や、高射機関砲を牽引する車輌が通り過ぎていった。
「なんかすごいな‥‥あの掘削車とか」
 口下手なシェスチだが、工兵達とコミュニケーションをとろうと、松毬のお化けのようなドリルを付けた掘削車を指差した。
「あれは地下通路を掘る為のものだよ。弾薬の保管庫や、非常用の地下通路が『この下』に張り巡らされているんだ」と工兵が作業をしながら説明してくれた。
「あんた―――シェスチだっけ? ちょっと来てくれ!」
「はい!」
 シェスチが駆けつけると、重機部隊の隊長が困り顔で腕を組んでいた。
「どうしたんですか?」
「こいつあんたの連れだろ? 現場で重機を止めると作業が進まないんだよ。他の現場からも要請がいくつもきているし。何とかしてくれ」
 重機の下を覗き込むと、工具を持った魔神が整備作業に精を出していた。
「傭兵になる前は整備工だったからな。こういう作業はお手の物だ」と整備を始めてしまったらしい。整備するのはいいが、何も現場でやる事はなかろう。悪意があっての事ではないので、工兵達も対応に困っていた。
「魔神さん、修理は重機の使用が終わってからにしよう」
「状況が切羽詰まっているからって手を抜いた仕事をするのは我慢できん! 俺が徹底的に直してやる」
 作業に没頭する魔神を、シェスチは身を屈めながら懸命に説得した。


 作業が一段落着いた鳴神とダイゴは、工兵達と談笑していた。工兵達とコミュニケーションをとる為だが、同時に情報を聞き出すことも忘れない。
「ソウルイーターの攻撃は非生命体をすり抜けるのですか。それなら陣地への被害は最小限ですみますね」
 楚々とした仕草でコーヒーを飲む鳴神の姿に、工兵は頬を染めて視線を逸らした。
「まぁな。その代わり兵の消耗が激しいんだ。折角造った陣地が、ものの役にもたたねぇってのは堪えるぜ。あれじゃ鴨撃ちだ。ただでさえ、世界レベルで人口が減ってるってぇのによ‥‥」
 難しい顔になる工兵達に、ダイゴが気さくに話しかけた。
「まぁまぁ、日頃の憂さは酒で晴らすもんじゃぞ、若いの。どれ、完成祝いにいっぱいやるか?」
「イザナミさん! 駄目ですよ、お酒なんて!」
 持ち込んだ日本酒を掲げるダイゴを、鳴神が叱咤する。
 祖父と孫のような二人の会話に、工兵隊長が声を上げて豪快に笑った。
「ハハハハ! 悪いな爺さん。ここが終われば次の現場に行かなくちゃならねぇ。工兵はどこの戦場でも引っ張りだこでな」


 昼時―――緑川とギィは工兵達と共に、食事の準備を始めた。
「こちとら陸自では山ほど資格取ったからな。つぶしは利くものだな」
 そう言う緑川の迷彩服は、コンクリートの流し込みや吹き付け作業のせいで白く汚れていた。
 一方、ギィは持ち込んだ豆からコーヒーを沸かし、工兵達に振舞っていた。
「豆のコーヒーを飲むのは久しぶりだ」
 工兵は嬉しそうに受け取ったカップに口を付ける。
「そういえば執事さんよ。あんた昨日の夜も遅くまで見回りしてたみたいだが、体力は持つのかい?」
「ええ、こう見えましても、前職はSPだったんです。夜通しの警護には慣れていますよ」
 ギィは典雅に微笑んで見せた。
「なに、飯を食えば疲れなんざ吹っ飛ぶさ! ここの良いところは、キュイアース社のレーションが手に入りやすいってところだな。カプロイア社の傘下ってだけで、味は保障されている」
 工兵は自慢げに言うと、湯煎した缶の蓋を開ける。
 中身はコック・オ・ヴァンだ。赤ワインでじっくり煮込んだ若鶏のもも肉から、ほのかなニンニクの香りが漂って食欲を誘う。
 緑川がレーションを頬張りながら唸った。
「うん! 美味い!」
 皆が食事をかきこむ中、若い工兵の一人が手を止めて、弾薬輸送車を目で追っていた。
「どうかされましたか?」
 ギィが訊くと、若い工兵は自信無さ気な顔で、
「いや、今の輸送車に乗っていた兵が、見ない顔だったもので‥‥‥担当が替わったのかな?」
「見ない顔‥‥ですか?」
 気になる。
 緑川も手を止めて、会話に耳を傾けている。
「ドライブのお供は野良キメラってな。兵站科も前線が近くなりゃ命がけよ。顔が変わっても不思議じゃねぇさ」
 年上の工兵が訳知り顔で言うと、若い工兵は「それもそうか」と納得して食事に戻る。
 ギィと緑川は顔を見合わせると立ち上がった。
「少し、席を外します」
 そう断って、輸送車を追おうとした二人の耳に、遠くからヘリのローター音に似た、耳障りな音が聞こえてきた。
 ギィは、はっと空を仰ぎ見た。
 視線の先―――雲の切れ目から蜂に似た巨大なキメラが四体、激しく羽を震わせながら降下してくる。


●最後の砦
 編隊を組んだソウルイーターは地上の混乱を嘲笑うかのように、腹の先端についた針から機関砲じみた連射速度で貫通式光弾を掃射した。
 同時に、機関砲陣地に設置された高射機関砲が火を噴く。
 ソウルイーターの放つ光弾の淡い光と、機関砲の放つ曳光弾のピンクの光が空中で激しく交錯した。
 壮絶な撃ち合いの末に三体のソウルイーターを撃破したが、障害物をすり抜け、生命体にのみダメージを与える貫通式光弾の前に防壁は意味を成さず、機関砲陣地は次々と沈黙していった。


 陣地のそこかしこに貫通式光弾によって引き裂かれ、粉々になった死体が転がり、夥しい血と臓物を山肌に撒き散らしている。
 工兵部隊から借りた軽トラでダイゴと共に戦闘区域へ向かう鳴神は、騒乱の中心に近付くほど強くなる血臭にきりきりと奥歯を噛みしめた。
 伊織達が現場に到着すると、既に他の能力者達が戦闘を始めていた。
 空中をホバリングして執拗に地上を掃射するソウルイーターに、シェスチが自動小銃で射撃を浴びせて注意を引き、工兵達が非難しているのとは逆の方向へ、戦いやすく開けた場所へと誘導する。
 しかし、頭上を飛び回る敵への攻撃は非常に困難である。
 エネルギーガンを撃つ霧雨が攻撃を無力化できるかもしれないという可能性にかけて、虚実空間を使用したが効果は無かった。
「おい、若いの! そんなに前に出ては狙い撃ちにされるぞ!」
 ダイゴが制止するも、「これが俺の基本だ!」と積極的に前に出ていく魔神の腹を、貫通式光弾が薙ぎ払った。
 魔神の腹が、爆発したと錯覚しそうな勢いで血飛沫を撒き散らす。
「大丈夫、瑛!」
 普段は無駄に元気な霧雨の顔からも血の気が引いた。引き裂かれた魔神の身体は、未だに繋がっているのが奇跡と思えるような状態だった。胴が泣き別れせずにすんだのは、能力者の身体能力の賜物だろう。
 霧雨は急いで魔神に練成治療を施す。
「ティーダさん! 敵を誘導してください!」
 伊織は叫び、斜面を駆け上がった。
 敵は空を飛んでいるとは言え、山肌に沿って移動している。ならば山を登れば、同じ高さに立つ事ができる。
 鳴神の意図を汲み取ったティーダは、得物をSMGに持ち替ると宙に向けて発砲した。
 敵は旋回すると射撃の狙いをティーダに定めた。
「私にそんな攻撃が当たるかしら?」
 ティーダは光弾の掃射を際どい位置でかわしながら、ソウルイーターを引き連れて走り出した。
 斜面を走る鳴神は、兵が退避し終わった砲陣地に飛び込み、陣地から突き出す砲身を駆け上がった。鳴神の高い身体能力あっての芸当だ。
 踏み込むように砲身を蹴って跳躍し、距離を稼ぐと、空中で紅蓮衝撃とソニックブームを発動して刀を振るう。
 衝撃波となった斬撃が、ソウルイーターの羽の一枚を切り飛ばす。
 錐揉みして地面に墜落した敵に、能力者達が一斉に襲い掛かった。
「爆雷投下っ!」
 ダイゴが叫んで、ワイズマンロックを嗾けた。
「手早く済ませよう」
 シェスチが強弾撃を発動させて、頭部目掛けて銃弾を撃ち込む。
 ティーダと鳴神も攻撃に加わり、集中攻撃を受けたソウルイーターは完全に沈黙した。
 だが、戦闘が終了したのも束の間。工兵達の避難誘導を担当しているギィと緑川から、無線で連絡が入る。
「こちらギィ・ダランベールです。少々不審な車輌を発見しまして。念の為、霧雨様をお連れ願えますか?」


 騒乱から離れるように走る弾薬輸送車の前に、ギィが立ち塞がった。
 顔に浮かべた微笑の中に、不動の意志が感じられる。
 停車した輸送車に、緑川が近づいた。
「何か?」
 運転席の窓が開いて、軍服を着た中年の男が顔を出した。
「‥‥所属と階級を教えてくれないか」
「フランスUPC陸軍第23師団補給部隊所属。階級は軍曹です」
 制服に縫い付けられた隊章や階級章とは一致する。しかし‥‥‥
「すまんが非常時でな。積荷を改めさせてもらうぞ」
 緑川が言うと、男は突然ドアを蹴り開けて車から飛び出した。
「逃がさん!」
 覚醒して受身を取った緑川が、瞬速縮地を使用して男に組み付き地面に押し倒す。
 そのまま両腕を折ろうとした緑川を、霧雨を抱えて瞬天速で駆けつけたティーダが押し止めた。(因みに魔神は傷を塞いだ後、衛生兵に預けてきた)
 遅れて駆けつけたダイゴが諭すような口調で言った。
「若いの、捕虜への対処は現場の指揮官に任せるべきじゃぞ」
「だが、腹に爆薬を仕込むという方法もある」
 憮然とする緑川。
 能力者達の会話を遮る様に、それまで黙っていた工作員が暴れだす。
「おのれ‥‥軍の犬共め! 生態兵器め! 何故理解できん! 最早人類の技術は独自に管理できる領域を超えているのだ! 例えバグアを放逐できたとしても、その後の世界情勢混乱は火を見るより明らか! 人類は技術的暴走を未然に防ぐ為にも、より高次の存在に管理される必要があるのだ!」
 緑川が口角から泡を飛ばして喚く工作員の口にタオルを突っ込んで黙らせると、更に手足を縛り、数人掛りで押さえつけながら身体検査を行う。
 男の服をめくり上げると、心臓の位置に電極が貼り付けられていた。電極はウエストバックに入った大きなケースとコードで繋がっている。
「これは‥‥」
 心音に連動して爆発するタイプの爆弾だ。
 ダイゴが渋面をつくる。
「これでは危害は加えられんな」
「私にはさっぱりです。霧雨さん、よろしくお願いしますね」
 ティーダが作業の邪魔にならないように横へ退いた。
「まっかせてください! いつも、トラップについては研究してるので、トラップ解除くらい楽勝ですよぉ♪ ‥‥‥たぶん」
 霧雨は軽い調子で、爆弾の解除に取り掛かった。
 ケースのカバーには複数の言語で、『使うな危険』『この兵器を使用した場合、あなたとあなたの周囲の環境に重大な損害が発生する可能性は非常に高いものとなります』というふざけた注意書が入っている。カバーを開けると、細かな幾何学模様を描く無数の配線が露になった。不謹慎とわかっていても、美しいと感じてしまう程精緻な作りだ。
「解除できそうですか?」
 ギィが後ろから覗き込んで訊くと、霧雨は慌てて首を諤々と振った。
「もももモチロンですよ! ボクにとってはこのくらい、アフタヌーンティー前ですよ!」
 駄目そうだ。


 結局、専門的な道具も無かったので、解除作業は電極と爆弾の接続を切るだけに留まった。
 その後、駆けつけた警兵隊に工作員を引き渡した。
 警兵が言うには、警兵は新バグア派の射殺も許可されており、あの爆弾はそれを逆手に取ったものだという。とは言え、大変高価な代物で、そう出回っているものでもないらしい。
 警兵と工兵が輸送車から残りの爆弾を慎重に運び出す様子を見ていたギィの表情が、不意に陰りを帯びた。
「ここも、間違いなく戦場の一角ですか‥‥‥」
 その呟きは誰に聞かれる事も無く、風に溶けた。