●リプレイ本文
●準備
「ガッツとは普段の付き合いがなかったからキッチリとした行動予測はできないんだ‥‥」
ブラットは肩を落としながら皆を見渡して言った。
「まあ、だけど遭難したときの手順は一応マニュアル化されているけどな」
「マニュアルとはどういったモノなのです? 見せてもらうことはできるのでしょうか?」
玖堂 鷹秀(
ga5346)は白衣の裾を翻しながら質問する。
「ああ、これだ。大した物じゃないから期待するなよ?」
「‥‥‥‥」
一枚の紙を渡され見て、皆驚いて言葉が出なかった。『期待するなよ?』とは言われたがあまりにも内容が希薄すぎるのだ。
「おい! これだけの事しか書いていないのにマニュアルとか言ってていいのか!?」
シズマ・オルフール(
ga0305)は語尾を荒げてブラットに問う。
「そう言われてもてなあ。これ自体は俺が決めたのでも何でもないから、とりあえずあるというだけなんだ」
「だからってこんなのじゃあ、助かる見込みも少ないだろう?」
「雪山は本当に怖い場所なんだ‥‥実際ガッツの救出も依頼しているが、あんなの立前上なんだ。残念だが調査員の間では、もうほぼ死んだものだと思われているな‥‥」
再び沈黙が流れた後、場が少し落ち着いてから不二宮 トヲル(
ga8050)が質問を投げかけた。
「そういえば、ブラッドさんはどうやって助かったのでしょうか?」
「ああ、それは簡単な事なんだ。どこまで知っているか分からないから全体を掻い摘んで説明するな。小屋で就寝前にガッツと話をしていたら、雪男が小屋の窓から見えたんだ。ガッツはそのまま小屋を飛び出していき、俺は情けないことにも腰を抜かしてその場から動けなかった。そこからどうにもできないまま朝を迎え、下山しただけなんだ。雪男はガッツの方に注意を向けられたらしく、もう窓からは見えなかったな」
「そうですか。あと走り去った方向や服装なども分かる範囲で教えていただけますか?」
「えっとな‥‥服装の方は上下共に黒色でニット帽が藍色だ。走り去っていった方向は扉が閉まってしまって分からないんだ。すまない」
「あのぅ、ビーコンなどの荷物の所持はどうなのでしょうか?」
続いてアルタ・クラウザー(
ga6423)が眠そうに目をこすりながら質問した。
「さっきも言ったと思うが就寝前だったこともあって、荷物は小屋に置きっぱなしで下山時に俺が持ち帰ってきた。その時に鞄の中身を拝見したが、たぶん何も持って行ってないと思う」
「そうですかぁ。わかりましたぁ」
「あとこれが調査時に渡された地図になる」
ブラットは鞄から二枚の紙を取り出して渡した。
「ありがとうございます。あと何か役立ちそうな情報とかありますか?」
地図を受け取りながら草壁 賢之(
ga7033)が尋ねた。
「んー、これといって特には思いつかないんだがなあ。何かあるかな?」
「雪山での知識とか気をつけなきゃいけないこととか?」
疑問を疑問で返しながら答える桜塚杜 菊花(
ga8970)。B型ならではのテキトウさであろう。
「ほう、雪崩の注意場所とかそんなところか。さっき渡した地図をちょっと貸してみな」
言いながら、草壁から地図をもぎ取り丁寧に二枚とも同じ場所に赤い丸をつけていった。
「ほらよ。こんなところだろう」
そして一同は礼を言い、この場を去ろうとしたところで後ろから声がかかる。
「ちょっと待ってくれ。ひとつ覚えて欲しいことがあるんだ」
皆不振げに振り返ると。
「俺の名前は『ブラット』だからな!」
●捜索
雪山の麓に着くと相談によって、A班は比良坂 和泉(
ga6549)・アルタ・不二宮・霧雨 夜々(
ga7866)、B班はシズマ・玖堂・草壁・桜塚杜の二手に分かれて捜索することとなった。
「あのう。皆さんにコレを渡しておきますです!」
そう言って霧雨は鞄の中から懐炉を取りだし一人一人に手渡していく。
「あと無線機も二つ持ってきたのですが、B班が無線機ないってことはないですか?」
「大丈夫。俺が持ってきてるよ」
「あたしも持ってきてるわ」
霧雨がB班を見渡しながら尋ねると、草壁と桜塚杜が答えた。
「それなら良かったです」
「とりあえず皆で小屋に行き、そこを拠点に動きませんか? もしかすると小屋の周りに何か手がかりがあるかもしれませんし」
「そうだな。小屋が一番目印にもなるだろう」
不二宮が提案し、それに皆が同意したことによって小屋へと向かう。
そして小屋に着き、辺りを少し調べてみたが特にコレといったものはなく、先ほど決めた二班に分かれて捜索を開始した。
「それじゃあ、何かあったら無線でお願いしますです」
「うぃ、了解ですっ! 気をつけて!」
A班では小屋から山麓の方向を捜索することとなった。
「うぅ‥‥分ってはいましたけど、やっぱり寒いですねぇ。コートを二重に着たいくらいです‥‥ほんとに懐炉がありがたい〜」
「喜んでいただけて光栄です♪」
「本当に天気は晴れていても寒いですよねっ」
比良坂を先頭とし、後方に三人が続く感じで歩いていく。
「どうにも、落ち着きませんね‥‥」
比良坂は溜息を吐き出しながら、後ろをちらっと横目で見てつぶやいた。
「なにか言いましたぁ?」
「いや、どういった方法をとって探そうかなと思いましてね」
アルタの問いに少しビクつきながらも返答し、後ろに向き直る。
「ガッツさんを助けなきゃです!」
そこに割り込むようにして霧雨が叫んだ。
「ですね。俺もガッツさんの救助を優先して行動したいと思います」
「大声を張り上げながらでいいですよね? ビーコンも持っていないようですし‥‥」
他に方法も特に思いつかないこともあり、皆それに同意する。
「俺はこの雪目防止ゴーグルで手がかりを見逃さないようにするよ」
「うん。それじゃあ、再開しましょうっ」
最後に不二宮が締めくくって捜索を再開した。
B班は小屋から山頂の方への捜索をすることとなった。
「雪男! ちょっと季節はずれだけど‥‥待ってましたぁ!!」
前に会おうと思って会えなかった事もあり、気合いを入れるのと同時にシズマが叫んだ。
「あー、雪男とは言うけど、実は女だったりしないかなぁ‥‥なんてね」
草壁は左手に右拳を叩きつけて気合いを入れた。
「まさか兄上だけでなく、クラスメイトとまで戦場で肩を並べる事になるとは‥‥世の中何が起きるか分からないものですね」
「ほんと何が起こるか分らないよね〜」
玖堂はふっと苦笑いを浮かべながら眼鏡をクイッっと持ち上げ、桜塚杜がうんうんと同意している。
それぞれが個々に準備をしている段階も終わり、玖堂が三人に尋ねる。
「どのように探していきましょうか? ガッツさんはロクな装備もないでしょうから急いで探したほうがいいと思いますけど」
「ガッツはA班にまかせて、雪男を捜そうぜ!」
間髪入れずシズマが返答した。
「確かにこちらは雪男の捜索に専念するというのもありですが‥‥」
「俺は覚醒して生物全体の動きをお伝えすることができますよ」
そこで草壁が自分の覚醒能力について説明する。
「それは心強いね。同時に捜索していくことも可能なんじゃない?」
桜塚杜が問うとすぐに草壁が返答する。
「ですね。でもどちらかというと雪男の方が大きいこともあり見つけやすいですが‥‥」
「よし、決まりだね。草壁の能力に頼って捜索しよう」
そうして熱源反応のある場所を渡り歩いていると。
「これは‥‥このでかい熱源反応は雪男に違いありません」
ゆっくりとその場所に近づき、そして遠目から見ても視認できる距離を保ち、雪男には気づかれないように身を隠した。
「菊姐、無線機の電源入れて」
「うん、おっけぃ」
「こちらB班だ、キメラ発見! ソッコーで来てくれ!」
「ザザッ‥‥了解しましたー! 急いでいきますよー!」
「このままA班が到着するまで身を潜めていよう」
間もなくすると、下の方から霧雨の声が聞こえてくる。
「雪男さーんどこですか〜?」
「しっ! 静かに」
玖堂に制されて、場が静まりかえった。
だが、雪男は気づき隊員達の方へと向かって走り出す。
「うし! 後衛は下がれ。戦闘態勢だ! 覚醒しろ! 行くぞ!」
シズマのかけ声と共に隊員達も雪男に向かって疾走した。
前衛が走って雪男に向かって行く。それを後ろから追うようにして後衛が追尾する。また雪男も白い体毛をなびかせながら突進してくる。
ザシュッ!
シズマがはじめから持っていた雷の属性を持つ爪で先制攻撃を仕掛ける。
『ぐぅぉおおおおおおおおおお!!』
雪男は雄叫びを上げた。水属性を持つ雪男に雷の爪を使ったことにより怒らせてしまったようだ。
続いて比良坂が攻撃を仕掛け、霧雨が練成弱体により雪男の防御力を低下させた。
「みなさん今です!」
「さーて姐御の晴れ舞台だ、ハデに散れや!!」
桜塚杜に強化をかけ叫ぶ玖堂。そして後方から二本の矢が放たれた。アルタと草壁である。
「これが噂の雪男ですかぁ。的が大きくて助かりますね〜。」
「勘弁してくれ‥‥慣れない弓使ってイライラしてんだからさ‥‥ッ! 強弾撃!」
隊員達は総攻撃によって畳み掛けてしまおうという算段だ。
ここで雪男からの反撃がくる!
「当てれるもんなら、当ててみな!」
雪男のシズマへの攻撃はことごとく空を切った。雪男は標的を変え比良坂に腕を振り下ろした。
ガキーンッ!!
だが、斧によって攻撃が阻まれてこちらにもダメージが通った様子はない。
「動かれるの面倒だからココにいてね」
そこに桜塚杜からの攻撃が舞振ってきた。距離を取っていた不二宮もここでスキルを使い襲いかかり、それにまたシズマ、草壁、アルタ、比良坂が猛攻撃を加える。
『ぬおおおおおおおおおおおお!!』
雪男はまたも雄叫びを上げた。そして明後日の方向へと逃げていく。
「雪男さーんどこいくんですかー?」
「ちっ! 霧雨、姉御を強化して足止めを」
「はーい」
すぐに動ける状態であった桜塚杜に二人が強化をかけ足止めにかかった。
その桜塚杜の後ろから攻撃力のある三人‥‥シズマ、不二宮、比良坂がドドメを差しにかかる。
『ぐぎゃあああああああああぁぁぁ‥‥』
「はっ! 意外とあっけなかったな!」
少し期待はずれであったかのようなシズマが言葉を吐き捨てた。
戦闘が終わり、また二手に分かれて捜索していたがまだ見つかってはおらず、日が暮れ始めようとしている。
「やばいな‥‥そろそろタイムリミットだ‥‥」
比良坂が溜息をつきながらつぶやいた。
「日が傾きはじめちゃいましたぁ」
「とりあえず小屋に戻って一度体勢を立て直した方が良さそうだねっ」
「ガッツさんどーこー‥‥」
「じゃあ、B班に連絡を入れますね」
アルタ、不二宮、霧雨と順に会話した後、比良坂は無線機の電源を入れる。
「こちらA班。B班の状況はどうですか?」
「ザザッ‥‥こちらB班。依然目標は見あたらず、捜索しています」
「そろそろ日が暮れてきます。一度小屋に戻り対策の立て直しなどどうでしょうか?」
無線機の後方で相談している気配が伺え。
「了解‥‥ザザッ‥‥小屋へ帰還します」
小屋へと戻ってくるとB班はすでに到着していた。
「待ちましたぁ?」
「いや、俺様達も今着いたところだ」
会話が続かない‥‥。雪山はシンと静まりかえっていた。
皆にブラットが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。
(「調査員の間ではもうほぼ死んだものだと思われている」)
日がそろそろ落ちようとしていた‥‥。
ガサガサッ
(「またどこかで音がする‥‥」)
とにかく周りの音が気になってしょうがない。
何か出てくるのではないかと、心配でしょうがない。
ここに留まっていることが果たして正解なのか。
そんな思いが縄となって心を締め付ける。
(「ああ‥‥どうしよう‥‥どうすれば‥‥」)
ガキーンッ!!
そんなときにどこかで金属音が木霊した。
立て直したばかりの精神は簡単に崩れてしまう。
「あああああああああああああああああああ!!!」
そしてどこへともなく走り去っていった。
一同は意気消沈して帰り支度をはじめていた。
「ん? 熱源反応が向こうの方から‥‥走ってくる?」
草壁が覚醒状態を解除し忘れたのが功を奏して動いているモノをとらえることができ。
「どっちだ!? 行こう!」
「ん‥‥いや、こっちに向かってきている」
もう一匹雪男がいたのかと皆身構える。
木々の間から徐々に人影らしきモノが見えてきた。
「あああああああぁぁ‥‥あ? 小屋? 人間?」
ガッツだ。調査員の予想とは反してガッツは生きていた。
「え? お? い?」
ガッツは周囲をを見渡してあたふたしている。
「UPCからの傭兵です。安心してください、ちゃんと下まで送りますよッ」
「ガッツさん? 我々は能力者です、貴方を迎えに来ました」
「ボク達がいれば、もう安心ですよっ」
草壁、玖堂、不二宮と口々になだめる言葉をかけ。
「はあ‥‥まったく、こんな雪山に飛び出して走り去るって‥‥何考えてるんだか‥‥手間かけさせるんじゃないわよ? この野郎‥‥」
最後ににこやかに笑いながら桜塚杜が言った。
●命あってこそ
「最後は拍子抜けしたけど見つかって良かった」
「うんうん、本当にもうダメだと思ったもんね」
「ガッツさんが生きていて本当に良かったです」
「俺様は雪男が倒せたことに満足だな!」
「はあ‥‥でも他のUMAもバグア絡んでないだろうな‥‥勘弁してくれ‥‥」
そんな他愛もない話も終わり、皆帰路につく中、玖堂は桜塚杜に声をかけた。
「どうです? 能力者としてやっていけそうですか?」
「うん、そうだね。とりあえずはってところ」
「そうですか。まあ、あの雪男との戦闘を見ていても大丈夫そうですしね」
「でも、今回のことで死というモノが身近に有るんだって思わされたよ」
「特に自分たち能力者は常に危険と隣り合わせですしね」
「鷹秀も死なないように気をつけてね」
「姉御もね」
最後に握手を交わし、そして二人は帰路へと着いた。
「うまくいった仕事の後のココアは格別だ〜」
帰った後、今回は雪山に行っていた事もあり、アルタは暖かいココアで自分を労う。
「生きてるって幸せだな〜」
そんな言葉をつぶやきながら。