タイトル:討伐作戦支援のお願いマスター:岩魚彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/21 01:28

●オープニング本文


 UPC軍は廃墟の周囲を取り囲んでいた。知らないうちに数が増えているキメラを、定期的に討伐する為だ。
 競合地域では、輸送ワームがキメラをばら撒いていく事がよくある。あまり数が多くなりすぎると、軍でも対処しきれない。その為、定期的に数を減らす作戦が行われる。

 作戦が始まり、UPC軍はキメラ達を包囲し殲滅していく。
 作戦開始から二時間後‥‥
「現状を報告してくれ」
 廃墟の近くに設立された本営で作戦指揮を執る士官が、通信兵へと訊ねる。
「全エリア、予定通り作戦を継続しております。ですが、いつもより数が多いという報告が入っております」
 定期的に行っている討伐作戦だが、相手の増加量は一定ではない。このような事態も当然想定してある。
「控えの兵を前線に投入しろ。一匹残らず片付けろ」
 士官の指示もあり、討伐作戦は滞りなく終わるはずであった。

 作戦開始から五時間経過。戦闘は佳境を迎えていた。
「大変です! 一部のキメラがCエリアの包囲網を突破しました!」
「何だとっ!」
 突如、本営が騒がしくなる。基地の戦力全てを出動させての大掛かりな作戦であった為、このままではキメラを逃してしまう恐れがあった。
「くっ! 控えの兵を前線に出したのが、仇になったか! 通信を基地へと繋げ! キメラの種類と数、行き先を確認させろ。それと、救援請求を出せと伝えろ。Cエリアは比較的、市街地に近い。住民に被害が及ぶのは何としても、阻止せねばならん!」
 自分の作戦でこのような事態が起こった事に、士官は憤りを感じて奥歯を噛み締めた。

――その頃、廃墟の近隣都市の市街地にて

 殲滅作戦中であっても、作戦地点である廃墟からは随分と離れている為、住民はいつも通りの生活を送っていた。市街地では結構な数の人々が往来を行き来している。
 そんな平和な日常に、突如サイレンが鳴り響く。
 サイレンは緊急避難の合図。往来を行き来する人達は一斉に建物に逃げ込み、住民はシャッターを降ろし建物の中に引き篭もる。警察の指示の下、交通規制もされて、辺り一帯から自動車の姿も消える。
 サイレンから、一時間程度で市街地の外で動く物陰は無くなった筈であった。
「どう、なったんだろ‥‥」
 偶然、この町を訪れていた少女が、誰もいなくなった市街地を歩く。まだ幼い少女はサイレンの意味も、警告も理解するのは難しかった。母親がいれば状況は違っていたかもしれない。
 全ての建物はシャッターが降り、入る事はできない。おまけに、人気も無く状況を訊ねる事も出来ない。
「誰か、いないの?」
 一人でうろうろと市街地を彷徨う少女に、キメラの足音が忍び寄る‥‥。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
リリナ(gc2236
15歳・♀・HA
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

●目的地へ‥‥
 目的地へと向かう高速移動艇の一室で、六人の傭兵が集まりそれぞれ、依頼解決へ向けての入念な準備を行っていた。お互いの自己紹介を終えて、今は全員で地図を眺めながら今後の作戦を練っている。
「優先すべきは住民の保護。だね。そしてキメラも殲滅っと」
 先ず、鈴木悠司(gc1251)が明るく作戦の指針を示す。
「住民の避難が完全とは言えないのが心配ですね。誰も取り残されてなければいいけど、もし残された人がいるなら‥‥」
 ティナ・アブソリュート(gc4189)は真剣な面持ちで、地図を眺めながら住民の位置を予想する。
「んと、包囲網を抜け出すキメラだなんて放っておいたら危険なの! 急いで退治しに行かなきゃネ」
 ユウ・ターナー(gc2715)はキメラの出現予想地点を割り出すために、UPCの作戦が行われた地域の地図にも目を通す。
「この程度のキメラをも取逃がす前線には苦悩の跡が見えますけど、それでも住人には辛い事には違いないはずなので、頑張って退治しましょう」
 辰巳 空(ga4698)は苦笑いを浮かべながら、端末に映し出された地図を眺める。目標の市街地は結構入り組んでおり、全域を探すのはかなり面倒な事が予想された。
「市街地で戦闘‥‥ですか‥‥被害は最小限に抑えないといけませんね‥‥」
 リリナ(gc2236)は深刻な表情を浮かべて作戦を練る。
「前にも似たような依頼を請けたね、おチビさん。まぁ、前回の保護対象は犬だったけど」
 その苦悩が表情にありありと浮かぶリリナへ、レインウォーカー(gc2524)は語りかける。
「犬型の敵‥‥ですよね‥‥昔に犬さんを飼っていたのでちょっと辛いかな‥‥」
 辛さを堪えてリリナはレインウォーカーへ微笑む。
 相談の結果、六人を二人組みの三班へ分けて、手分けしてキメラ退治と住民の保護を行う事になった。
「では、A班は、私とティナ。B班は、レインウォーカーとリリナ。C班はユウと悠司で、いいですね」
(C班はダブル「ユウ」ですか‥‥偶然ですよね)
 空は班分けを確認しつつ、班分けの結果についての感想を心で呟いた。
「辰巳さん、街と街にいる人を絶対に守りましょう」
 同じA班となったティナが心構えを口にする。
「レインと行動ですね。一緒に頑張りましょう」
「ボクは邪魔する敵を全部殺す。守るのはおチビさんに任せるよぉ」
 B班は知り合い同士、慣れた口調で挨拶を交わす。
「悠司おにーちゃんとC班として行動なの。一緒に頑張ろうネ」
「こちらこそよろしく、ユウさん」
 C班はまるで兄弟のように笑顔で挨拶を交わす。
 そして、移動艇は目的地へと到着する。

●キメラとの遭遇
 市街地へ到着すると其処はまさにゴーストタウンであった。先程まで人がいた気配が残っているというのに、静寂が辺りを支配していた。建物のシャッターは全て下りており、寂れた感じが漂う。道路には路上駐車された自動車がそのまま放置されている。廃墟とはまた違う不気味さが傭兵達を迎え入れる。
 キメラの侵攻ルートは、南西から北上すると予測した傭兵達は、前もって分けた班の単位で行動を開始した。
 A班は身軽さを生かして、複雑に絡み合う裏道へ向かう為、一旦東の大通りを通るルートを選択。
「集中集中‥‥よし!」
「ティナさんには住民の保護を頼みますね」
 身軽な空が先行して、大通りを駆けていく。
 B班はレインウォーカーの所有するバイクSE−445Rを駆って、大通りを東に向かうルートを先行する。
「飛ばすよ。しっかり掴まってなぁ、おチビさん」
(後ろからしがみついていいのでしょうか‥‥)
 リリナはドキドキしながら頬を赤く染めて、遠慮がちにレインウォーカーの背中にしがみ付く。それを確認したレインウォーカーは、エンジンを噴かし、猛スピードで出発する。
 C班はキメラの掃討を狙う為、南下して大きめな道を進む。
「それじゃあ、行こっか!」
「そうしよっ、悠司おにーちゃん☆」
 悠司とユウはマイペースな感じで南の通りを下っていく。

 大音響をたてながら、B班のレインウォーカーとリリナが大通りを先行する。すると、交差点の左方向に動く影を発見する。二人はバイクを停止させると、バイクから降り戦闘準備を整える。
「おチビさん、キメラだよぉ」
「わっ! 二体のドッグキメラですね。とりあえず無線で連絡します!」
 リリナが無線で仲間に連絡を入れている間に、レインウォーカーはキメラと対峙し、無言で覚醒する。外見は変わらないものの、その眼光は一層鋭くなる。
 スキル疾風を発動すると、両足が仄かに輝く。
「駄犬がキャンキャン喚くなぁ。さっさと掛かってこい、道化が教育してるよぉ」
 そして、迫り来るドッグキメラに向かって牛鬼蛇神を振るう。ドッグキメラはその攻撃に怯むものの、レインウォーカーに攻撃を仕掛ける。だが、強化された両足はその攻撃を難なく回避する。
「レイン! 今、援護します!」
 リリナはスキル練成強化を使用すると、少し離れたレインウォーカーの武器が淡く輝き始める。

 その頃、B班の無線を聞いたA班が行動を変更する。
「キメラは二体ですが、B班は前線で戦える人が一人しかいません。ここから距離も離れていませんし、援護に向かいます。付いて来て下さい」
「は、はいっ」
 空は瞳を赤くし、牙を生やす。覚醒してB班のいる地点を目指す。既に覚醒しているティナは、その後を追う。その後には星屑を思わせる金色の光が微かに残っていた。

 戦闘中のB班は、援護を受けたレインウォーカーがキメラへ連続攻撃を叩き込んでいた。血を流し、吼えるドッグキメラに対してレインウォーカーは静かに無慈悲に告げる。
「嗤え。無様に、悲鳴をあげて」
 遠心力を最大限に利用した一撃をドッグキメラに叩き込むと、ついに地に倒れ動かなくなる。レインウォーカーはその様子を無表情で見下ろしていた。
 だが、その後方にいるリリナは顔を青くして口元を押さえていた。過去に飼っていた犬と姿が重なったのだろうか。戦闘継続には問題ない程度のショックだったようで、気丈にドッグキメラを睨みつける。
 キメラが残り一匹となった時点で、A班の二人が到着する。空とティナの間には結構な距離が開いていた。
「ボク一人で十分なんだけどなぁ」
 レインウォーカーはそう呟くが、やる事は目の前のキメラを殺すだけなので目的は変わらない。
「え、援護しますね」
 顔色が悪いままのリリナは、練成強化を使用してティナのシグナスを強化する。
 もう一匹のドッグキメラが迫ってくる。その動きに対して最初に動いたのはティナだった。キメラに向かって駆け出し、途中でスキル迅雷を使用する。
「‥‥よしっ!」
 一瞬のうちにキメラの後方へ移動すると、遠心力を利用した強力な一撃を叩き込む。その一撃に怯んだドッグキメラに空が炎のような光を纏ったラジエルで斬りかかる。
「ギャワァァァァン!」
 空の苛烈な一撃は、ドッグキメラに激しい悲鳴を上げさせる。
「抵抗は低そうですね。これなら、布斬逆刃は必要ありません」
 スキルを使う事無く、次の一撃でドッグキメラに止めを刺す。
 二体のドッグキメラを撃破した直後、通信機からユウの声が聞こえてくる。
「みんな! 女の子を保護したよっ! それから、キメラがこっちに向かって来るみたい、しかも二体はいるよ‥‥」
 通信機から聞こえてくる声にその場にいる全員が息を飲む。今、二体倒したという事は、残りの殆どがC班のいる地点にいる事になる。
「私とティナさんは、C班の援護に向かいます」
「住民の保護が最優先ですね」
 A班の二人は頷き合う。
「バイクがあるなら、あなた達の方が先に行けそうですが?」
 空の提案にレインウォーカーは難色を示す。
「C班の場所は、どうも入り組んだ場所みたいなんだよねぇ。バイクだと小回りが利かないんじゃないかなぁ」
 レインウォーカーの言葉に、リリナが驚いた様子を見せる。
「そうですか。なら、他の住民の保護をお願いします」
 空はそう言うと、ティナと共にC班の援護に向かう。そして、その場にはリリナとレインウォーカーが残される。
「レイン‥‥さっきの‥‥もしかして‥‥」
「さぁねぇ。それより、早く乗りなよぉ」
 既にバイクへ跨ったレインウォーカーは後部シートへ乗るように促す。リリナは後部シートに座ると、先程より強くレインウォーカーの背中にしがみ付く。
「さぁて、住民の保護と行きますかねぇ」
 レインウォーカーはアクセルを回し、エンジンを噴かすとそのまま大通りから、キメラの来た道へと曲がり南下していく。

●少女の保護
 A班とB班がキメラと交戦中、C班の悠司とユウはキメラを探して南下を続ける。キメラと交戦中のA班とB班が気になったが、自分達は自分達の任務を果たさなくてはならなかった。
「悠司おにーちゃん! あそこに女の子がいるのっ☆」
 ユウが指差す方向には、ビルの合間でキョロキョロと辺りを見回しながら、うろついている少女がいた。その顔は何かに怯えているような感じであった。
「お手柄だね。それじゃあ、行こっか!」
 悠司とユウは少女に向かって駆け出す。少女もこちらに気が付いたのか、顔は綻び瞳には涙を蓄えていた。
「もう大丈夫なの」
 先に保護したユウが少女を宥める。
「助けに来たから、もう大丈夫だよ」
 追いついた悠司も笑顔で少女を元気付ける。
「もう大丈夫なんだよね‥‥」
 グスグスと半泣き状態の少女の頭を撫でていると、背後で何かが動く気配を察知する。
「! キメラだっ!」
 ドッグキメラが迫っている事に気付いた悠司は、二人から少し距離を取ってキメラと対峙する。その際に覚醒し、犬耳と尻尾が顔を見せる。
 その間にユウは少女を庇いながら、通信機で仲間に連絡を入れる。
 キメラもこちらに気付いたのか、物凄いスピードで距離を詰めてくる。
「甘いっ!」
 引っ掻いてきたキメラに対して、ロエティシアで爪を受け流す。少し爪が袖を引っ掻いたが、特に大きな傷ではない。
 ユウは覚醒し、猫のような瞳でキメラ達に狙いを付ける。その数、3。そして、口元をつり上げてニヤリと微笑む。
 ユウは少女を背にした状態で、SMGヴァルハラの全弾をキメラの足元目掛けて発射する。弾丸の雨にドッグキメラは弾丸を避けるのに精一杯で、こちらに近づいて来られない。
「悠司おにーちゃんっ、今だよッ☆」
 その様子を眺めながら、ユウは次の攻撃に備えて、弾丸をリロードする。
 その間、徐々に距離を詰めるキメラに、悠司が攻撃を仕掛ける。
「円閃、円閃、獣突の連続攻撃だ!」
 遠心力を利用して、凄まじいスピードの爪でドッグキメラを切り裂く。連続で切り出された攻撃は、ドッグキメラの異常ともいえる反応で回避されてしまう。だが、最後の獣突を当てて、後方へと吹き飛ばす。
 その隙を見計らって、ユウは制圧射撃でキメラの行動力を殺いでいく。その為、キメラは一斉に襲い掛かる事が出来ず、一匹ずつ悠司へと近づいていく。
「悠司おにーちゃん! 援護、いくよっ!」
 ユウは急いでリロードすると、悠司に対して援護射撃を行う。
 ようやく、通信を受けた空とティナが現場に駆けつける。建物のベランダやひさしを利用して、通常より早く到着する事に成功する。
「先ずは一匹!」
 空は天剣「ラジエル」でドッグキメラを二回斬り付ける。先程、悠司の攻撃によって吹き飛ばされたドッグキメラは、断末魔の悲鳴を上げて息絶える。
「援護、感謝します!」
 こちらに向かってきたドッグキメラに悠司は再びコンボを決める。今度は全て綺麗に決まり、キメラを後方へと吹き飛ばす。「キャン」という鳴き声を上げて、地面に叩きつけられたキメラはすぐに攻撃姿勢へと戻る。
「逃げられませんよっ!」
 悠司の攻撃を受け、吹き飛んだドッグキメラに対して、ティナが追撃を仕掛ける。遠心力を最大限に利用した一撃を、キメラに叩き込む。まだ、息があるようなのでもう一撃加える。
 しかし、逃げに徹したドッグキメラに避けられてしまう。そこに、ユウの強弾撃が命中し、ドッグキメラは息絶える。
「ふふっ、ワンちゃんの踊り、とっても素敵だよ? (くす」
 残り一匹となっても、キメラは攻撃の手を休めない。少女目掛けて大きな口を開いて、噛み付きを仕掛けてきた。
 悠司はその間に割って入り、爪で受け止める。だが、ドッグキメラの牙が腕に突き刺さってしまう。
「うっ! 痛ったー!」
 悠司はキメラを振り払うと、その隙を突いて空が攻撃を仕掛ける。素早い剣捌きで、ドッグキメラを切り裂く。二回切り裂いてドッグキメラは既に虫の息であった。
「これで、終わりにしようっ!」
 悠司のロエティシアがドッグキメラを捕らえると、そのまま引き裂く。そして、大量の体液を撒き散らしながら、ドッグキメラは動かなくなる。

●平和の訪れた町
 ドッグキメラ五体を片付けた傭兵達は、通信機で付近の警察へと連絡を入れる。すると、瞬く間に警報は解除され、シャッターが次々と開き、市街地に人が溢れていく。
 B班のレインウォーカー、リリナと合流する。どうやら、他に逃げ遅れた住民はいなかったようだ。
「これで、今回の依頼は終了ですね」
 空が依頼の終了を皆に告げる。
「お疲れ様でした」
 ティナは礼儀正しく頭を下げる。
「女の子も無事でよかったね!」
「もう、安心だねっ☆」
 悠司とユウは少女の頭を撫でる。すると、少女は気持ち良さそうに目を細める。
「何とか役に立てたかなぁ。お疲れ様ぁ、リリナ」
「お疲れ様、レイン。この女の子の家族を探してあげなくちゃ」
 そう意気込むリリナだったが、少女はこの町に一人で来ていた事を告げる。親とはぐれた訳ではない事を知ると、リリナにも笑顔が戻った。
「お兄ちゃんにお姉ちゃん、ありがとう!」
 少女は元気よく礼を言って頭を下げる。そして、人込みの中に消えていった。最後に見せた笑顔は、とても晴れやかで気持ちのよいものであった。

 予想より早くキメラの殲滅が終わった事もあって、傭兵達はこの町をのんびりと歩いて回った。自分達が救った町は笑顔に溢れ、先程までキメラの襲撃を受けていたのが嘘のようであった。
 それは全て、傭兵達の活躍があってこそ。住民は町の平和を救った者達への感謝を忘れる事は無いだろう。